2020年の国内宿泊需要予測

 2020年の国内宿泊需要予測
日本人の国内宿泊者数は、少子高齢化によって今後減少が見込まれている。仮に
2020年の訪日外国人客数が政府目標(4,000万人)に達した場合、外国人宿泊者の
増加で日本人の減少分を補うことは可能だ。ただ外国人訪問率の低い地域では負の
影響が大きい。これらの地域では、宿泊者の9割を占める日本人の需要掘り起こしが
重要な課題となる。
2016 年上期の訪日外国人旅行者数は、一時の勢い
る回数は減少する傾向にあるため、少子高齢化に伴
こそないものの、依然前年比+ 28%と高い伸び率を
う人口動態の変化は国内旅行者数に大きな影響を及
維持している。このペースが続けば、通年の訪日外国
ぼす。図表 1 は、年齢階層別の平均旅行回数(国内旅
人旅行者数は2,500万人を上回り、過去最高記録を更
行者数を人口で除した値)をみたものである。これを
新することになりそうだ。
みると、60 歳代に入った時点から平均旅行回数が明
こうした中、日本政府が 2020 年の訪日外国人旅行
確に減少することがわかる。つまり人口減少もさる
者数の目標を4,000万人に引き上げたこともあり、訪
ことながら、高齢化によってさらに国内旅行者数が
日外国人客の宿泊需要増加によって宿泊施設の不足
下押しされることを示している。
感が強まることが懸念されている。しかし、現状にお
次に、年齢階層別の①人口予測(国立社会保障・人
いても日本国内の実宿泊者数(同一施設での連泊を
口問題研究所の中位予測を使用)と②平均旅行回数
除いた値)に占める日本人の割合は約 90%と大部分
(2015 年の値から横ばいと仮定)から 2020 年の国内
を占めており、将来の国内宿泊需要を予測するにあ
旅行者数を求めると、2020 年の国内旅行者数は 3 億
たっては、外国人のみならず日本人の動向について
200 万人と、2015 年(3 億 1,300 万人)に比べて、1,100
も考慮する必要がある。
万人程度減少することになる。2015 年の国内旅行者
日本人の国内旅行は、熊本地震の影響などから
低迷している。2016 年上期の実宿泊者数は、前年比
▲3.1%と前年を下回った。このままでは、通年で2年
ぶりのマイナスになりかねない状況だ。
●図表1 日本人の国内宿泊旅行・平均回数
(回)
3.5
そこで、本稿では、宿泊施設の不足感を検討する前
3.0
段階として、2020 年における日本人の国内宿泊需要
2.5
について考えてみたい。なお、簡略化のために、旅行
2.0
目的(ビジネス、観光、親族訪問など)は区分せずに考
1.5
察している。
1.0
0.5
80
歳代以上
70
歳代
60
歳代
50
歳代
40
歳代
30
歳代
齢になるほど、体力的な要因などから国内旅行をす
20
歳代
国内旅行者数(日帰りを除く)を算出してみよう。高
10
歳代
ここでは人口の中期予測を用いて、日本人による
9歳以下
0.0
(注)国内宿泊旅行・平均回数=国内宿泊旅行延べ人数÷人口
(資料)総務省「推計人口」、観光庁「旅行・観光消費動向調査」より、
みずほ総合研究所作成
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数が2010年比で450万人程度減少したことと比べる
と、少子高齢化に伴う下押し圧力が徐々に増しつつ
ある様子がうかがえる。
この結果を用いて、2020 年の日本人の国内実宿泊
ただし、都道府県別で影響が異なる点には注意が
者数を試算してみよう。実宿泊者数は旅行者数に平
必要だ。外国人旅行者の訪問が少ない地域では、日本
均宿泊地点数を乗じることで算出される
。平均宿
人の影響がより大きく出ると考えられるからだ。例
泊地点数は2011年以降、1近傍で推移しており、2015
えば、東京都や千葉県の場合、外国人旅行者の訪問率
年の値(1.1)で一定と仮定した。そのうえで、上述し
が40〜50%程度と高く、訪日外国人客増の恩恵は非
た2020年の国内旅行者数にかけ合わせると、2020年
常に大きい。一方、東北地方の場合、外国人旅行者の
の実宿泊者数はおよそ3億2,450万人となり、2015年
訪問率は 1%を下回っており、日本人の宿泊者数減
比で1,200万人程度減少するとの結果が得られた。
少の影響がより大きくなると推察される。
(注)
そこで、2020 年の都道府県別の実宿泊者数を試算
した。日本人と外国人それぞれの実宿泊者数の予測
値に都道府県別のシェア(2015 年から一定とした)
を乗じて計算したものが図表 2 である。実宿泊者数
このように、
訪日外国人旅行者が増加する一方で、
人
が増加する都道府県としては、東京都や大阪府、北海
口動態要因による日本人の国内旅行者数の減少は避け
道が上位にランクインする。一方、東北地方や北関東
れらない。
そこで両者の影響について考えてみよう。
では差し引きでマイナスとなることがわかった。近
先述の通り、2020 年における国内旅行者数の減少
頃、地方での外国人旅行者の取り込みが喫緊の課題
はおよそ 1,100 万人と見込まれる。これに対して、仮
といわれるが、こうした地域では旅行者の大部分を
に訪日外国人旅行者数が政府目標の 4,000 万人に到
占める日本人の旅行需要の掘り起こしが、より効果
達すれば、その増加幅は 2,000 万人を超え、日本人の
的かもしれない。
減少分は十分に相殺される計算となる。しかも、訪
日外国人旅行者の平均宿泊地点数は約 2.1 と日本人
みずほ総合研究所 経済調査部
のおよそ 2 倍となっており、実宿泊者数ベースでは
主任エコノミスト 宮嶋貴之
4,400万人増と日本人の減少分(1,200万人)を補って
[email protected]
余りある規模となる。
●図表2 2020年の実宿泊者数増減
(2015年比)
【実宿泊者数増加・上位5都道府県】
(実宿泊者数の増減、千人)
【実宿泊者数減少・下位5都道府県】
(実宿泊者数の増減、千人)
10,000
300
外国人
日本人
総計
8,000
外国人
200
日本人
総計
100
6,000
0
4,000
▲100
2,000
▲200
0
▲2,000
▲300
東京都
大阪府
北海道
千葉県
京都府
▲400
福島県
宮城県
群馬県
新潟県
栃木県
(資料)総務省、観光庁、国立社会保障・人口問題研究所より、
みずほ総合研究所作成
(注)平均宿泊地点数とは、旅行者が宿泊した施設数の平均値である。例えば、同一人物が1回の旅行で東京都の2カ所、千葉県の1カ所に宿泊した場合、宿泊地点数
は3となる。この時、実宿泊者数は、東京都2人、千葉県1人、計3人とカウントされる。
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