少子化の中で健闘する地場老舗玩具店 「おもちゃの

レポート
少子化の中で健闘する地場老舗玩具店
「おもちゃのあおき」
少子化と玩具業界
少子高齢化が進行する時代にあって、増加する高齢者向けの産業が注目される一方、若年層向
けの小売業やサービス業、なかでも特に子どもを対象にした小売・サービス等は市場の縮小が見
込まれる。なかでも玩具業界はこうした影響を特に大きく受ける分野と考えられる。
図表1 全国の14歳以下人口の推移と予測
(千人)
30,000
25,000
27,221 27,507
25,153
26,033
22,486
20,014
20,000
18,472
17,521 16,803
16,233
14,568
15,000
13,240
12,039
11,287
10,000
10,116
8,614
5,000
0
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
2014
2020
2025
2030
2035
2045
2055
(年)
資料:
「人口の推移と将来人口」(総務省統計局)より(2010年までは国勢調査による人口、2014年は推計人口、
2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所による推計)
まず、子ども(14歳以下)の人口の推移を確認すると、わが国では1980年頃をピークとして14
歳以下人口は減少の一途をたどっている。この傾向は今後も変わらず減少が続く見通しで、今後
10年以内にはピーク時の半数以下、さらに2055年には1/3以下にまで減少すると推計(国立社
会保障・人口問題研究所)されている。
市場の縮小に直結する少子化の推移、さらに将来の減少見通しに対し、玩具業界はメーカーを
中心に比較的早い時期から危機感を持って対応策に取り組んできた。玩具業界に詳しいトイ
ジャーナル誌編集部によると、以下のような取組みがなされてきたという。
(1)商品の対象年齢を広げる
いわゆる「子ども向け」の商品以外に、大人が楽しむことができるような商品、あるいは高齢
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者向けの商品を企画開発し、商品化。
(2)業種の壁を越える
従来の「おもちゃ」の枠にとどまることなく、アパレルや雑貨、自転車、家電の分野(カメラ、
電子手帳やタブレット、スマホなど)に至るまで、幅広にキャラクター商品を展開する。
(3)海外展開
輸出など、販路を海外に求める。
これらの取組みはいずれも新しい分野への挑戦ともいえるものを含んでおり、従来のビジネス
の延長、拡大だけでは対応しきれないという危機感を業界が抱いている様子がうかがわれる。
小売店の動向
では、商品を実際に売る現場である小売店の状況はどうであろうか。玩具小売業の動向を商業
統計からみてみよう(なお、直近調査である2014年の商業統計は「調査設計の大幅変更を行った
ことから2007年調査の数値と
図表2 年間販売額
は接続しない」とされており、
(百万円)
本稿では参照しない)。
1,000,000
1,200,000
まず年間販売額の推移をみ
800,000
ると、90年代後半までは増加
600,000
傾向を示していたが、その後
400,000
は頭打ちとなり、2000年以降
200,000
0
はいったん減少もみている。
14歳以下の人口が1980年頃を
ピークに右肩下がりで減少し
ているのに対して、玩具小売
店の販売額は必ずしも連動し
ていないことがわかる。さき
ほど述べた玩具業界の少子化
対応の取組みのほか、子ども
の数が減ることによる“6ポ
ケット化”の進行も理由とし
て考えられよう。
1970 1972 1974 1976 1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 1999 2002 2004 2007
(年)
資料:商業統計(経済産業省)より
図表3 店舗数
(店)
20,000
18,000
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
1970 1972 1974 1976 1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 1999 2002 2004 2007
(年)
資料:商業統計(経済産業省)より
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全体の販売額がある程度の
図表4 平均売り場面積
(㎡)
水準に踏みとどまっているも
250.0
のの、玩具小売店の経営が安
200.0
定しているわけではない。店
150.0
舗数をみると、少子化の進行
100.0
と同じように80年頃をピーク
50.0
に減少傾向が続いている。振
り返ると、玩具の販売は専業
0.0
1970 1972 1974 1976 1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 1999 2002 2004 2007
(年)
資料:商業統計(経済産業省)より
の中小小売店や百貨店などに
加えて、スーパーなど新しい
業態の小売業の台頭、同じ玩
具専業でも外国資本の国内参
図表5 平均従業者数
(人)
7.0
6.0
5.0
入などが相次いだ。この結果、
4.0
小規模な専業小売店は厳しい
3.0
競争にさらされ、総店舗数が
2.0
減少に転じることになった。
これは店舗の大型化が進むこ
1.0
0.0
1970 1972 1974 1976 1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 1999 2002 2004 2007
(年)
資料:商業統計(経済産業省)より
とを意味し、一店舗当たりの
面積、従業員数はいずれも増加基調となっている。
またこの間、上記のほかにロードサイド店や家電量販店やネット通販の台頭もあった。90年代
以降に急速に出店が増えたロードサイド型の玩具チェーン店は現在ではほぼ消滅したが、その後
に台頭した家電量販店やネット通販の存在感は現在でも大きく、中でもamazonを筆頭とするネッ
ト通販は、品揃えの豊富さや価格競争力で既存の店舗にとって脅威ともいえる存在である。
玩具専業小売店の競合先の変遷(概要)
1990年代
2000年代
現在
百貨店
総合スーパー
トイザらス
ロードサイド店(BANBAN、ハローマックなど)
家電量販店
ネット通販
このように、玩具小売業は少子化の進行による従来市場の縮小と同時に、新業態の参入やそれ
に伴う店舗の大型化、価格競争の激化などによっても厳しい状況に置かれ、今もそれが続いている。
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少子化の中で健闘する地場老舗玩具店「おもちゃのあおき」
健闘をみせる「おもちゃのあおき」
玩具小売店を取り巻く環境が厳しさを増す一方
おもちゃのあおき出店リスト(同地移転含む)
であるなか、佐世保市に本社を置く地場玩具小売
2000年
夢彩都店(長崎市)
店である「おもちゃのあおき」
(以下、あおき)
2003年
光の森店(熊本県)
は着実に業績を伸ばしている。出店状況をみると、
2008年
広島店
2000年の夢彩都店出店以来、15年間で8店舗の新
2009年
大牟田店、八代店
2010年
下関ゆめシティ店(同地移転)
2014年
葉山店(長崎市)、佐賀店
2015年
廿日市店(広島県)
規出店、1店舗の同地移転を実施している。この
結果、店舗数は2000年以前の5店舗から現在は13
店舗にまで増加、売上げも伸ばしている。
地場の玩具専業小売店にとって逆境ともいえるような環境下でこのようにあおきが健闘できて
いる点について、先のトイジャーナル誌によると、あおきは「店舗づくり、問屋機能、人材育成」
といったところに強みを持っており、これらを十分に生かしていることが業績に結び付いている
のではないかとのことである。
<店舗づくり>
あおきは社長自身がこだわりを持って店舗づくりを行っている。トイジャーナル誌によると、
老舗玩具店の中には店舗づくりに必ずしも力を入れないようなところもあるとのことであり、あ
おきの店舗づくりへのこだわりは特徴的といえる。
<問屋機能>
今年創業136年目を迎えるあおきは、もともとは主に節句人形などを扱う問屋であった。現在
でも卸売部門の売り上げは全体の3割ほどを占め、一定の基盤となっている。これは経営の安定
に寄与していると同時に、自らが問屋機能を持つことが小売りにおける価格競争力や、仕入れ先
の自由度の高さによる品揃えの充実などにもつながっている。
<人材の育成>
短期間で出店を増やしたこともあって人材の育成は大きな課題であり、注力している分野であ
る。毎月時間をかけて勉強会を開催するなど、特に各店の店長の店舗経営能力を高めるような育
成を行っている。
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どのように強みを生かしてきたか
あおきの現経営者である青木資行社長は創業から数えると5代目とな
る。資行氏が税理士から転身して入社し、経営を担うようになった1997
年は、店舗数が80年代半ばの14店から5店にまで減少し、過大な負債も
抱えるなど経営的に非常に苦しい時期であった。青木社長はこれを立て
直すために、専門である経理面で思い切ったコスト削減などに取り組む
一方、自社の強みに磨きをかけていくことに注力した。これらにどのよ
うに取り組んできたかについて、青木社長に話を訊くことができた。
株式会社あおき
代表取締役社長 青木資行氏
先に述べた店舗づくりで目指したのは、子どもを遊ばせることができ、また客を飽きさせない
「鮮度が高い」売り場づくり。入社当初に若手社員とともに深夜までこの売り場づくりに取り組
んだという。そうしたなかで「ワクワクドキドキ」、「賑々しさ」が同社の店舗づくりのコンセプ
トとして確立していった。実際に店内に入ってみると、商品の数や種類が多く、ほとんど床から
天井に至るまで商品が陳列されているような印象である。子どもが実際に触れるように置いてあ
るものも多い。青木社長によると、きれいで見た目の良いだけの店舗ではなく、活気にあふれる
店舗にしたいとのことであった。活気のある店舗で子どもを遊ばせることが、玩具店の店舗のあ
りかたであるとの考えである。
問屋機能の活用という面では、小売専業店に比べると仕入れ価格等の面で有利であることは間
違いないにしてもそれに甘んじることなく、早期仕入れ、大量仕入れなどによりメーカーからさ
らに良い条件を引き出すことを心がけているという。もちろんそれでロスを出すようでは本末転
倒であり、そのためには裏付けとなる売上データを常に把握し、商品の動きを正確に予測できる
ようにしておくのが前提となっている。
また同社の特徴として、人気キャラクターについてアイテムの種類を非常に多く並べることで
品揃えの良さをアピールする手法がある。たとえば、あるキャラクター商品について他店が関連
商品を200種類並べるのであれば同社は400種類置く、といった具合である。人気キャラクターの
場合には関連商品の裾野が広がって、玩具だけではなく雑貨や寝具など様々な分野のメーカーか
らも関連商品が数多く出るため、あおきではこうした商品を玩具流通以外から仕入れ、玩具と並
べて販売するのである。単独でメーカーから調達できる問屋機能を持つ強みはここでも発揮され
る。そのために青木社長は玩具以外の分野の展示会や見本市にも積極的に足を運んで情報収集を
行っているという。
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少子化の中で健闘する地場老舗玩具店「おもちゃのあおき」
他の玩具店同様に、あおきもamazonなどのネット通販と競合することになるが、逆に、例え
ば売れ筋商品を確認するのに、amazonのセールスランキングを参照するなど、ビジネスにおい
て利用することすらあるという。同社では社長自身が売れ筋を見極めて仕入れを行っているが、
マニア向けの商品などあまり把握できていない分野についてはネットのランキングが特に役立つ
そうだ。また商品による流行り廃りが大きな業界であることから人気商品の欠品リスクは常にあ
るが、回避するために他の卸問屋をあたるなど手を尽くしても入荷できないような場合、
amazonで仕入れることすらあるという。
また、ネット関連ではツイッターなどSNSについても自店の評判を確認するために日頃から
チェックを欠かさないとのことである。
従業員100人に満たない規模の企業が短期間に出店を重ねたこともあり、人材の育成は重要な
課題となっている。ことに店長クラスに関しては、毎月行われる本社での会議に合わせて、自店
の帳簿を各々が見ながら決算書の見方や損益計算の実務など実践的な経営知識の学習を行ってい
る。これは毎回かなりの時間を割いて行われているが、社長自身が税理士の経歴を生かして自身
で指導に当たっているという。店長には単に売上げを伸ばす、数を売る、というのではなく、あ
る商品を売ることで実際に得られる収益がいくらなのか、といったことまでをきちんと意識して
店舗経営にあたってもらいたいという狙いがある。もちろん肝心の商品知識についても、多くの
社員が幅広く持てるように商談会や見本市などに参加する機会を設けるなどしているとのことで
ある。
おわりに
あおきは、自らの強みを生かし、さらに磨きをかけることで少子化という厳しい時代を乗り切
ろうとしている。またネットの利用にも前向きで、強力なライバルであるネット通販についても
利用できる部分があれば利用しようというしたたかさが感じられる。青木社長によると、リアル
店舗にはネット通販にはない「手に取れる」という大きな利点があり、この点を生かせばネット
とも対抗できるという。同社の店舗づくりが子どもを遊ばせることに重きを置いていることは、
この点でも大きな意味を持っているといえるだろう。
厳しい環境のなかで強みをうまく生かしていくことで業績を上げているあおきの健闘は注目に
値する。様々な面で社会・経済の大きな構造変化が続く今日、生き残りをはかり成長を目指して
いくうえで、業種によらず参考になる部分があるのではないだろうか。
(野邉 幸昌)
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