情勢はハイイールド債を下支え(PDF/228KB)

情勢はハイイールド債を下支え
2016年 8月29日
ゼーン・ E ・ブラウン
パートナー、債券ストラテジスト
米国経済の大幅な低迷が起こらなければ、米国ハイイールド市場は、世界的に利回りに飢
えた投資家からの投資需要増大といった明るい支援材料の恩恵を受ける独自の位置にある
ようです。
3 つの要因が相まって米国ハイイールド債の前向きな環境を生み出しています。緩やかながら続
く米国経済成長、世界的な低金利、そして石油価格の安定化です。加えて、こうした環境によって
ハイイールド市場情勢は、日々の流動性の改善、相対的に低い借り換えリスク、そしてエネルギ
ー及び金属・鉱業セクターでの苦境を別とすれば歴史的に低い債務不履行水準を促進する形と
なっています。こうした足元の経済、市場情勢によって、緩慢な経済成長と世界金利の「一段の
低下と長期化」を予測する投資家にとって、ハイイールド市場の魅力は増していくと予想されます。
良好な経済情勢
景気減速が低金利を生む局面で最良のパフォーマンスを生む傾向にある信用力の高い債券と
異なり、ハイイールド債は景気拡大局面で良好なパフォーマンスを生むことが多いと言えます。
景気拡大は一般的に、ハイイールドセクターのパフォーマンスにとって最大のリスクである債務
不履行リスクを軽減させます。したがって、経済成長率 2%が続く状況はこの資産クラスにとって
重要なファンダメンタルサポート材料になると考えられます。また雇用増と賃金上昇の継続は
2016 年、2017 年の米国経済成長を下支えしていくでしょう。さらに、選挙後にはインフラ支出等
の財政刺激策が講じられる可能性があり、2017 年初頭の景気拡大を一段と下支えし得るでしょ
う。
世界的低金利による下支え
米国の経済ファンダメンタルズによる下支えに加え、米国ハイイールド市場は世界的な低金利か
らも恩恵を受けるものと見られます。貸出しと景気拡大促進に向けた欧州と日本の中央銀行によ
る積極的な金融政策は、非常に多くの国債金利をマイナスの領域に、そして社債金利をゼロ近く
に押し下げています。「ブレグジット」による経済的影響やイタリアの銀行危機の波及等の地政学
的リスクは、そうした緩和的政策が縮小されるよりも前に拡大されるだろうことを示唆しています。
ますます利回りに飢える世界の投資家たちにとって、利回りを明らかに得られるのが米国ハイイ
ールド債を含む米国債券市場なのです。こうした投資家の需要は、代替投資先がほとんど存在
せず、米国経済が景気減速の兆候をほとんど見せない限りにおいて、米国ハイイールド市場を
下支えしていくと見られます。
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石油価格の安定による下支え
最後に、石油価格の安定化によって、米国ハイイールドセクターの中で問題を抱える分野が明ら
かになっています。米国ハイイールド市場の債務不履行率は今年 8 月半ばまでに 3.7%に上昇し
ました。JP モルガンによれば、こうした債務不履行の 83%はハイイールド市場のエネルギー及び
金属・鉱業セクターで発生しています。石油価格が 1 バレル当たり 45-50 ドルに落ち着けば、エ
ネルギー及び鉱業企業の一部では見通しが改善に向かうでしょう。債務不履行はなくならないと
しても、同セクターの方向性は反転に向かう可能性が高く、エネルギー需要の伸びとある程度の
価格改善が起これば、生き残った企業の財務はいずれ改善に向かうでしょう。このような移行が
起こっていくなかで、徹底した分析が健全な企業を明らかにするはずです。こうした企業の債券
価格は、これまで投資家の懸念による下押し圧力を受けてきていました。
ファンダメンタルズとテクニカル面は良好
米国ハイイールド市場の経済的背景は全般的に良好ですが、これを補完するのが、ハイイール
ド市場のファンダメンタルズとテクニカルな特性です。ファンダメンタルズの面から言えば、エネル
ギー及び金属・鉱業セクターを除いたハイイールド市場の債務不履行率は比較的健全であるこ
とがわかります。これらのセクターを除けば、債務不履行率はわずか 0.56%に過ぎず、これは長
期平均の 3.5%を大きく下回っています。
加えて、ハイイールド市場の償還構成においても比較的良好な状況が続いています。向こう 2 年
間に償還を迎える債券は新規供給の観点からほとんどリスクがなく、多くの企業で今後数年間の
資金調達は十分な状態であると言えます。向こう 2 年間に償還を迎える債券は、8 月半ば時点
でハイイールド債券残高の 8.6%を占めます。この水準は過去数年間と比べればさほど低くはな
いものの、2007 年末から 2010 年末の 8.7-9.6%のレンジに比べれば良好な値です。規模が大きく
流動性の高い債券の借り換えリスクはさらに低くなると見られます。発行額が 5 億ドル超の債券
の 30.5%は償還が 2023 年以降であり、同 5 億ドル以下の債券の 12.1%より高くなっています。
さらにテクニカルな観点から言えば、米国ハイイールド市場の流動性にも改善が見られています。
クレディ・スイスによれば、8 月半ばまでのハイイールド市場の日量の既発市場取引量を見ると、
2016 年は 2015 年よりも 26%増加しました。JP モルガンは今年これまでの取引量は平均で 126
億ドルであるとしており、過去最高であった昨年の 107 億ドルから増加しています。
相対的に魅力的なバリュエーション
そして最後の要因となるのが債券価格です。エネルギー及び金属・鉱業を除くセクターの低い債
務不履行率を含めた経済、テクニカル面での良好な情勢にも関わらず、ハイイールド債の 8 月
半ば時点における 572bps という指数利回りスプレッドは、長期的な中央値である 576bps に依然
として近い水準にあります。世界的に多くの国債がマイナス利回りで取引され、しかも株式のバリ
ュエーション水準が投資家に懸念をもたらしているような局面においては、ハイイールド債の最低
でも約 6.8%という利回りと 572bps というスプレッドは、相対的に魅力的であると言っていいでしょ
う。大幅な景気減速が起こらなければ、米国ハイイールド市場は、ある程度の米国景気拡大と、
世界的に利回りに飢えた投資家からの投資需要、そして破綻情勢を回避しながら投資機会を狙
うよう設計されたアクティブ運用による恩恵を受ける、独自の位置にあると見られます。
リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動によってまた市場動向に応じて変化します。一般
に、金利上昇時には債券価格は下落し、逆に金利低下時には債券価格は上昇します。ジャンク債と
時に称される高利回り債ではより高い価格変動リスク、流動性の低さ、適時の元利払い不履行リスク
を伴います。債券はまた期限前償還リスク、信用リスク、流動性リスク、金利リスク、そして全般的な市
場リスクといった他のリスクも伴う可能性があります。通常では、より期間の長い債券は金利変動に対
してより敏感に反応します。つまり償還日までの期間が長いほど、金利変動が債券価格にもたらす影
響度は高くなります。低格付け債は高格付け債に比べて高いリスクにさらされる可能性があります。
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いかなる投資戦略もすべての市場変動を克服することはできず、また将来の投資成果を保証すること
はできません。さらにはローン保証に利用される特定の担保価値が下落する可能性や流動性が低く
なる恐れがあり、ローン価値にマイナスの影響を及ぼす恐れがあります。株式証券の投資価値は全
般的な経済情勢や特定の企業・セクター見通しの変化に応じて変動します。低格付け債券は高格付
け社債より高いリスクを伴います。全ての市場変動を乗り越え、将来の成果を保証する投資戦略は存
在しません。
見通しや予想は現在の市場情勢を基にしたものであり予告なく変更されることがあります。市場が将
来同様の状況下で同じようなパフォーマンスを示す保証は一切ありません。
出典:全ての参照データは他に指摘のない限り JP モルガンによります。
米国債は米国政府が発行する債券であり、政府の十分な信頼と信用によって担保されています。米
国債からの所得は州、地方税が免除されています。米国債の元利金は保証されていますが、市場価
格については保証されておらず市場動向に応じて変動します。
1 ベーシスポイントは 1 パーセントの 100 分の 1 です。
利回りとは債券から得られる年利であり、通常は市場債券価格に対するパーセントで表されます。
最低利回りとは、発行体が債務不履行状態にない前提で債券に対し支払われる最低の利回りを意味
し、当該債券が期限前償還される最悪のケースシナリオを考慮して算出されます。現在の金利水準
が現在のクーポンより低い場合には債券は期限前償還されることを前提としています。
指数は非運用型であり手数料や費用控除を反映しておらず、また直接投資することはできません。
前述の経済レポートで示された見解は発表日現在のものであり、今後その内容が変更となる可
能性があります。また弊社の見解を表明するものではありません。本資料は特定の投資または
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