【円債投資ガイド】Fedの長期的な金融政策実行の枠組み

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2016/03/31 08:02
◎ 〔円債投資ガイ ド〕 Fedの 長期的な金融政策実行の枠組み =日 本総研 日河村氏
河 村 小 百 合 口日本 総 合 研 究 所 上 席 主 任 研 究 員 =8月 26、
27日
に 開催 され た 米 カ ン
ザ ス シテ ィー 連 銀 主催 の ジ ャ ク ソ ンホ ー ル 経 済 政 策 シ ンポ ジ ウ ム の テー マ は 「 将 来 に 向
けて 、弾 力性 の あ る金 融 政 策 運 営 の 枠 組 み を設 計 す る」 (“
Designing Re
silient Monetary Policy Frameworks for
the Future")で
あった。
報道を見る限 り、とりわ け日本国内では、 Fedが 市場金利の次の引き上 げ誘導を年
内に行 うのか、行 うとすればそのタイ ミングはいつか、とい う点 に関心が集中 し、イエ
レン FRB議 長が この点をどう述べ たか とい う点ばか りがク ローズアップされて いた感
が ある。 しか しなが ら、議事 の進行 と並行 して逐 ―公表 されて いった資料か ら見る限 り
では、実際の議論は上述のテー マに沿 つた金融調節やマネー Bマ ー ケッ ト (短 期金融市
場)の 運営に関する、極めて実務的な側面を多 く含むものであつたようだ。
今年のジャクソンホールのシンポジウムで、 この ようなテーマが選択された背景に
は、 FOMCの 強 い問題意識があるようだ。
FOMCの Minutes(議
事 要 旨)で は、会 合 の 冒頭 、
通 常扱 う議 題 とは 別 に 時間 を割 いて 「長期 的 な金融 政策実行 の 枠組 み 」 が 議論 され た こ
先 ご ろ公 開 され た 7月 の
とが 明 らか に され て い る。 これ は今 か ら 1年 前 、 2015年 7月 の FOMCに お いて 、
イ エ レン議長 が 、 FRBの ス タ ッフが近 々検 討 に着手 す る 旨を明 らか に した もの だ 。
政策金 利 を用 い る伝 統 的 な枠組 み に代 わ る新 た なア プ ロー チ は 、実 は 08年 4月 の F
OMCに お いて も、 ス タ ッフが提 出 した 「五 つ の 枠組み 」 を たた き台 に 一 度検 討 され て
い る。彼 らは この 時点 で す で に世 界 的 な金融危機 が 間近 に迫 りつつ あ り、政策金 利 の 引
き下 げが 「 0%近 傍 」 とい う当時考 え られ て いた 限界 に 到達 す る可能性 を察知 して いた
の で あ ろ う。 この 08年 4月 に お ける検 討 内容 は 、 Fedの 現在 の政策運 営 の重 要 な 土
台 とな って い るよ うだ。
しか しなが ら、その後 さ らな る経験 が 積 み 重ね られ て きて い るほか 、 正常化 の過 程 に
入 り、 マ ネー ロマー ケ ッ トに 関す る多 くの知見 が 得 られ つつ ある ことに鑑 み 、 15年 7
月の FOMCに おいては、① 「長期的な金融政策実行の枠組み」を 16年 末にかけて検
討する②それ に当た り、連邦準備制度全体のス タッフの知見を集約 した り、他の中央銀
行や学界、専門家と幅広 く協議 した りする一 とい う方針が 明 らかにされていた。それを
踏まえて開催 されたのが、今回のジャクソンホールでのシンポジウムであったというこ
となのだろ う。
これ に先立 つ
16年 7月 の FOMCで
は、 冒頭 の 時間 を割 いて 「長期 的 な金 融 政策実
行 の 枠組み 」 が議 論 され て い る。 まず 、 FRBの ス タ ッフか ら他 の 中央銀行 の金 融 政策
運 営 の 分析結 果 が 報 告 され て い る。具体 的 には① 金 融政 策 を コ ミュ ニ ケー トす る上 で、
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どの金利が選択され ているか② リザーブ (準 備預金)を 供給する際のアプローチ③伝統
的な金融政策の実行手段を補完する上で、大規模な資産買い入れ (LSAP)、 さまざ
まな資金調達プログラムやマイナス金利をどのように用いているか一 といつた観点で、
各中央銀行のアプローチはさまざまであることが示された模様だ。
さらにス タッフか らは、金融危機以降の Fedの 金融政策運営の経験に関 しても報告
が行われ、①短期金融市場は、そもそも短期市場金利を決定 し、金融政策運営を波及 さ
せる上で重要なものであるが、米国では危機以降、さまざまな側面 で大きく変化 した こ
とや②流動性 プ ログラムが相当に拡大 された状況下ではもはや、危機前に Fedが 用 い
ていた金融調節 の枠組みでは FFレ ー トを緊密 にコン トロールする ことはできず、米国
経済 が減速 しても、新たな政策手段 を用 いなければ、緩和的な状況を作 り出す ことはで
きな くなつた一 といった点が報告 された模様である。
こうした報告を受け、 FOMCメ ンバーは「長期的な金融政策実行の枠組み」につい
て当面 、何 らかの決定を行 う必要 はないとい う点で合意 した上で、今後予想 されるさま
ざまな経済 日金融環境 の下で、政策実行 の枠組み のフレキシビリティー (柔 軟性 )を い
かに十分に確保するか といつた点に関 して議論 を行 つている。
そ してそのちょうど 1カ 月後 に開催 された今回のジャクソンホールでのシンポジウム
では、イエ レン議長が Fedの 金融政策手段に関 してス ピーチ を行 つている。そ こでは
まず、 「現在、正常化の過程 にある Fedに おいては当面、超過準備へ の付利が、金融
政策を運営する上で重要な役割を果たす こと」を明 らかに し、 「付利水準の引き上 げを
通 じての FFレ ー トの引き上げ誘導が十分に進んだ一定の時点で、保有する証券 の再投
資停止 、すなわち満期落ちを開始する」 とい う既定路線 の正常化戦略 に言及 している。
そ の上 で 「 そ の満期 落 ちが相 当に進展 し、超過準備残高 が 相 当に減 少 した後 に お いて
も、超過準 備 へ の付 利が な お、危機 時 の金融政 策手段 と して は重要 な役 割 を果 た す で あ
ろ う」 と述 べ て い る。要 す るに、現在 の正常化 は粛 々 と進 め るが 、それ が い ったん 完 了
した後 で あ つて も、不測 の事 態 へ の対応 と して 改 めて必要 になれ ば 資産 買 い入れ や超過
準備 へ の付利 を再 び金 融 政策 の 手段 と して用 い る ことが あ り得 る、 と述 べ て い るの で あ
る。
イ エ レン議 長 は、 1965年 か ら 2000年 の 間 には平均 で 7%を 超 えて いた FF
レー トが 、今後 は、米 国 内外 にお ける長期 的 な 自然利子率 の低 下 を映 じ、今後 は 長期 的
に も 30/0程 度 までに しか 引 き上 げ られ な い と市 場 で は予測 され て い る、 と述 べ て い る。
これ は景 気後退 時 に も、政策金 利 の ピー ク時か らの 引 き下 げ幅 は今後 3%程 度 しか な
く、過 去 の景 気後 退局面 に Fedが 平均 で 5.50/cの 金 利 引 き下 げを行 つて いた こと を
踏 まえ る と、金 融緩和 の 度 合 いが 不 足す る可能性 が ある こ とを意 味 して いる 。
そうした場合 には、 フォワー ド ロガイダンスや資産 買 い入れ を再度、金融政策の重要
な手段の一つ として用いる ことが あ り得る と指摘する一方で、 Fedや 他 の金融当局
は、金融システムの安定を確保するために注力する必要があるほか、 このような手段は
万能薬 (panacea)で はないゆえ、経済成長を促進するために、他のオプシ ョン
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がないかが、より幅広く検討される必要があるとも述べている。
ジヤクソンホールでは、 こうしたイエ レン議長 の認識が披露 されたのみな らず、危機
を経 て大き く変質 した各国の短期金融市場 の状況や、それ に応 じて今後、いかに実際の
金融政策運営、金融調節を進めて い くのか といった点に関 して、他の参加者も含 めて幅
広 い議論が展開され ていたよ うだ。
これ に対 して 、 シ ンポ ジ ウムの 最 後 に登壇 した 日銀 の黒 田総 裁 の発 言 の テキ ス トを見
る限 りで は 「『 物価 安定 の 目標 』 の 実現 のため に必 要 と判 断 した 場 合 には 、 ち ゅ うち ょ
な く『量』 B『 質』 日『 金 利』 の二 つの 次 元 で 、追加 的 な緩 和措置 を講 じて い く方針 」
とい う従 来 の 「 お題 目」 が 繰 り返 され るの に とどま つて いた 。 マ イナ ス金 利導 入後 、主
要 市場 の 中では最 も強 い ダ メー ジ を受 けて い る とみ られ るわ が 国 の 短期金 融市場 を今
後 、 どの よ うに立 て 直 して い くのか 、 これ ほ どまで に拡 大 した 日銀 自身の バ ラ ンス シー
トと今後 、 ど う折 り合 い を つ けて金融 政策運 営 を行 つて い くのか 、 とい つた 点 に 関す る
言及 は 一 切 なか った よ うだ。
金融危機後、非伝統的な手段による金融政策運営を展開 しつつ も、すでに収束に向け
てか じを切 り、正常化に向けて着々と歩み を進めなが ら、視線 は早 くも、その次のス
テージでの政策運営 に向 けられて いる Fedと の差はあま りにも大きいと言えるだろ
う。 (了 )
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