MEMSデバイスの電気機械変換効率を 飛躍的に高めるサブミクロン狭ギャップ の形成技術 立命館大学 理工学部 機械工学科 教授 鈴木 健一郎 1 研究の背景(1): ワイヤレス情報通信 情報通信機器に対する社会の要望 処理性能の向上 通信能力の向上 携 帯 性 の向上 搭載電子デバイスの 高周波、小型化へ! 発振器、フィルタ: 水晶振動子 MEMS共振器 http://www.murata.co.jp/products/catalog/pdf/p36.pdf http://blog.nitty-gritty.org/archives/000854.html 高周波・小型化に限界 小型化・集積化が可能 2 研究の背景(2): 動き/化学成分のセンシング ジャイロスコープ : 角度・角速度を検出 ガスクロマトグラフィー: 化学成分の分析 振動型MEMSセンサの応用 1)ジャイロスコープ:デジタルカメラの手振れ補正 ナビゲーションシステム(GPSと併用) 2)振動型化学センサ:環境ガス成分、ヘルスケア等 メリット : 安価・小型 (デメリット : 低感度) 3 現状の問題点(1): 高感度化の理論 MEMS共振器の課題: 出力信号が小さい 静電型デバイスの共振理論 C0 寄生容量 R1が信号減衰の原因 C0 C1 L1 R1 共振器等価回路 R1低減のためには 狭ギャップ化が効果的 R1 = k : 共振器の km バネ定数 Qηe2 m : 共振器の質量 Q : 共振器Q値 電気機械変換効率 ηe = ε 0 SV d 2 ε0:真空の誘電率 S :共振器と電極 の対向面積 V :電極への印加 電圧 d :共振器と電極の ギャップ 4 現状の問題点(2): 狭ギャップの作製 マイクロマシニング加工技術: 1.サーフェイスマイクロマシニング法 ○ 狭ギャップ実現が容易 (数nm) × 製作プロセスが煩雑かつ困難 2.バルクマイクロマシニング法 ○製作プロセスが容易 ×狭ギャップ構造の作製が困難 Deep-RIE 狭ギャップを作製するには高価な装置が必要 5 新規技術: 移動電極のアイデア g1 移動電極 Sliding DE ストッパー g0 2ステップ 狭ギャップ作製方法: 1) バルクマイクロマシング法でデバイスを容易に作製 2) ポストプロセス(電極移動)により、狭ギャップを実現 6 新技術の特徴と効果 従来、サブミクロンギャップを作製するには高価な装置を 必要とした。しかし、新技術を使うと、特別な装置を必要と しない。このため、プロセスコストが大幅に低減する。さら に、この技術は汎用的に適用でき、以下のように、種々の デバイス性能を飛躍的に向上するのに役立つ。 機械電気変換効率が100倍以上に増大するため、 MEMSジャイロスコープの高感度化、 高感度な振動型化学分析センサデバイスの実現 7 新技術の実証 • 狭ギャップを有し低損失なMEMS共振器を評価 移動電極構造 ラメモード共振器 狭ギャップの効果を評価 レーザードップラ振動計を用いた機械振幅 インピーダンスアナライザを用いた インピーダンスと位相変化 発振器に適用可能か検討 8 傾斜ギャップ構造 初期ギャップの大きさが同じ プロセス誤差に影響されにくい! 共振 ストッパー プレート g =g0 ー g0 × sinθ g0 µm g0/sinθ µm θ プルイン 移動電極 ストッパー 傾斜ギャップの傾きが大きいほど狭いギャップを作製でき 9 デバイスの構造 傾斜ギャップと移動電極を組み合わせた共振器 = 八角形型ラメモード MEMS 共振器 共振プレート 傾斜ギャップ 移動電極 ストッパー 10 ラメモード 特徴 明確な節が存在 → 固定した際のロスを低減 節 11 作製プロセス • バルクマイクロマシニング技術 A ボックス層 デバイス層 ① Cr 膜蒸着 1 µm 300 µm 基板層 A’ A’ 20 µm ② Cr 膜パターニング A ③ ICP-RIE (デバイス層) ④ ICP-RIE (基板層) 移動電極 移動電極 ストッパー 共振 プレート ⑤ リリース Si SiO2 Cr 12 SEM写真 共振プレート ストッパー 移動電極 ストッパー 500 µm 13 電気測定結果 インピーダンスアナライザ ( Agilent 9294A ) 測定 GND 測定条件 AC + DC プルイン前 プルイン後 180 177 Before Pull-in 70 55 40 Z:約1/100 0.8 0.7 0.6 0.5 After Pull-in Before Pull-in 174 171 168 20 10 0 After Pull-in -10 -20 0.4 12.47 Phase (degree) インピーダンス (MΩ) 100 85 DC: 58 V AC: 0.5 Vrms 圧力: 40 Pa 12.48 12.49 周波数 (MHz) 12.5 12.47 12.48 12.49 12.5 周波数 (MHz) 14 振幅測定結果 測定条件 Laser Doppler Vibrometer (Polytech UHF-120) 振幅:91倍 45 4000 3600 振幅 [pm] 40 振幅 [pm] DC: 65 V AC: 1 V0p 圧力: 5 Pa 35 30 3200 2800 2400 2000 25 -800 -400 f0r 400 800 周波数 [Hz] -800 -400 0fr 400 800 周波数 [Hz] 15 ギャップと増幅率の考察 • 静電気力 Fe は以下の式で表現 1 S 2 Fe = ε 0 2 V 2 d ギャップ変化(測定値): 3.35 µm → 0.34 µm 3.80 µm → 0.85 µm d :電極間のギャップ ε0:真空の誘電率 A :電極間の対向面積 • 機械測定による振幅増幅率は91倍 • 計算上の増幅率は64倍 想定される原因 移動電極 プルイン時に移動電極が平行に 移動しなかった ずれる 広 狭 共振器 16 まとめ: 新技術の特徴・従来技術との比較 • 従来技術の問題点であった、小さな電気機械変換効 率を大幅に増大することに成功した。 • 従来は変換効率が小さいため低感度の使用に限ら れていたが、感度を約100倍高くすることができたた め、適用範囲を大幅に拡大することが可能となった。 • また、本技術の適用により、高価なプロセス装置が必 要でないため、製造コストが1/2~1/3程度まで削減 されることが期待される。 17 移動電極をもつMEMS共振器 移動電極がストッパに当たることにより狭ギャップを形成 Anchor Suspension Sliding Electrode Suspension Anchor : 復元力 : 静電気力 Stopper Resonant Plate Stopper 狭ギャップ形成が可能になったが駆動電圧が高い(約100 V)!! 18 共振利用ダイナミック駆動方法 振動体と移動電極間にAC電圧が重畳されたDC電圧を 印加し、プルイン電圧を低減させる方法 Anchor Suspension 振動 Sliding Electrode 振動 Suspension Anchor 振動 : 復元力 : 静電気力 Stopper Resonant Plate Stopper 19 共振現象を利用した駆動原理 青線にDC電圧のみで駆動する場合(スタティック駆動) 赤線にダイナミック駆動の原理を示す Gap(μm) g0 V(DC)pull-in (2/3)g0 V(DC+AC)pull-in (1/2)g0 gh 0 Release Vrelease < Vhold Vpull-in 電圧(V) 20 駆動電圧の比較(実測値) DC電圧のみの供給(AC電圧=0 V)するスタティック駆動法 では75 VDCもの高い電圧が必要 4 VppのAC電圧を重畳させたダイナミック駆動法 では50 VDCの電圧でプルインが可能 駆動電圧の比較表(実測値) Static Drive (DC Voltage) Dynamic Drive (DC+AC Voltage) Pull-in Voltage 75 VDC 50 VDC + 4 Vpp Release Voltage 47 V 47 V ダイナミック駆動法によって、駆動電圧が大幅に低下!! 21 まとめ: 実用化に向けた課題 • 現在、共振器について感度を約100倍増大させること が可能なところまで開発済み。しかし、感度再現性の 点が未解決である。 • 今後、感度再現性について実験データを取得し、振 動センサや発振器に適用していく場合の条件設定を 行っていく。 • 実用化に向けて、感度再現性の精度を1%以内まで 向上できるよう技術を確立する必要もあり。 22 企業への期待 • 未解決の感度再現性については、ドライエッチング技 術の条件だしにより克服できると考えている。 • センシングおよび高周波回路の技術を持つ、企業と の共同研究を希望。 • また、共振デバイス(センサを含む)を開発中の企業、 高周波分野への展開を考えている企業には、本技術 の導入が有効と思われる。 23 本技術に関する知的財産権 1)発明の名称:電極構造要素と振動構造要素を近接して配置 する方法およびこれを用いたMEMSデバイス •出願番号 :特願2010-166015 •公開番号 :特開2012-029052 •出願人 :学校法人立命館 •発明者 :鈴木健一郎、谷川紘 2)発明の名称:MEMSスイッチ •出願番号 :特願2011-260751 •出願人 :学校法人立命館 •発明者 :鈴木健一郎 24 産学連携の経歴 • 2004-2007年 三洋電機㈱と共同研究実施 • 2005-2008年、2010-(継続)年 ㈱半導体理工学研究センターと 共同研究実施 • 2006-2007年 施 三菱プレシジョン㈱と共同研究実 • 2006年 ニコン㈱と共同研究実施 • 2008-2010年 JST育成研究事業に採択 • 2012年(継続) JST;A-STEP探索研究事業に採択 25 お問い合わせ先 立命館大学 研究部 リサーチオフィス(BKC) 近藤 光行 TEL:077-561-2802 FAX:077-561-2811 e-mail:mka22017@se.ritsumei.ac.jp 26
© Copyright 2024 ExpyDoc