Report.2 ⾜もとの住宅事業者の課題と⼀般消費者の意識の動向 ~平成 28 年度住宅市場動向調査結果テキストマイニング~ 住宅金融支援機構 業務推進部 調査役 峰村 英二(みねむら えいじ) 早稲田大学政治経済学部を卒業後、筑波大学大学院、多摩大学大学院で ベイズ統計学、計量経済学、ファイナンス理論等を学ぶ。博士(経営情報 学)、修士(経済学)、日本証券アナリスト協会検定会員補。日本ファイナ ンス学会、日本金融・証券計量・工学学会、日本統計学会各会員。調査 研究レポート・学会誌掲載論文等多数。住宅総合調査室、調査部等を経 て、2015 年4月より現職。 要 旨 1.住宅⾦融⽀援機構が、平成 28 年 3 ⽉に公表した「平成 28 年度住宅市場動向調査」 では、併せて、住宅事業者の課題 やエンドユーザーの意識等について⾃由回答形式により調査を⾏っている。本稿では、当該⾃由回答に関して「テキス トマイニング」 (⾃由回答(テキスト)の計量的分析)を⾏い、今後の住宅市場や住宅需要の動向を把握するうえで重要 な⽰唆を与えると想定されるいくつかのインプリケーションを明らかにする。 2.分析の結果、住宅事業者の間で、中古住宅を中⼼としたリフォーム、 リノベーションを積極的に展開するとともに顧客へ の提案⼒を強化し受注拡⼤を⽬論む⽅向性が認識されていることが⽰された。他⽅、⾜もとの課題は⼟地の仕⼊や販 売価格の調整等である。 3.また、⼀般消費者では、住宅に関して⼿頃な値段で質がよい物件を求める意識がみられ、中古住宅の取得についても ⼀定に考慮されている。しかしながら、 その⼀⽅で、住宅ローンの返済等と⾦利に関する不安感が強く認識されている。 4.なお、⼀般消費者では中古住宅の取得について前向きな意識が現れている。 2. 住宅事業者の意識 1. はじめに 住宅⾦融⽀援機構では、平成 28 年 3 ⽉に「平成 28 年 度住宅市場動向調査結果(平成 28 年度における住宅市 場動向について) 」 を公表した。その調査結果については 既に『季報住宅⾦融(2016 年度春号) 』 で紹介している 1 が、当該調査では、別途、住宅事業者の課題や⾜もとのエ (1) 「キーワード」の出現頻度、相関 分析 住宅事業者に対し、平成 28 年度の業務展開に向けた 意識、取組み⽅針等について尋ねると、いくつかの主要な 「キーワード」 が繰り返し現れる傾向がある。 ンドユーザーの意識等について⾃由回答形式によるアン 詳しくみると、最も出現頻度が⾼いキーワードは「住宅」 ケートを⾏っている。 であり、次いで、 「強化」 、 「リフォーム」 、 「⼟地」 、 「リノベー 本稿では、住宅事業者および⼀般消費者から寄せられ ション」、 「受注」、 「事業」、 「商品」、 「販売」、 「物件」 の順と た⾃由回答(テキスト)について計量的分析を⾏う「テキス なった【図表1】。 トマイニング」の⼿法を⽤いて、今後の住宅市場や住宅需 なお、上位8位までのキーワード相互の相関関係をみる 要の動向を把握するうえで重要な⽰唆を与えるインプリ と以下の結果が得られる【図表2】 2 ケーション等を浮き彫りにする。 1 峰村 英⼆、 「平成 28 年度の住宅市場はどうなるか?―平成 28 年度住宅市場動向調査結果の概要―」、『季報住宅⾦融 2016 年度春号(No.37)』、 http://jhf.go.jp/files/300313146.pdf 2 調査の詳細は、http://www.jhf.go.jp/about/research/other_house_trend.html を参照願いたい。なお、本調査では、別途、住宅事業者に対して「平成 28 年度の業務展開に向けた意識、取組⽅針等」について、また、⼀般消費者に対して「今後の住宅取得に向けた想い(夢、期待、不安、その他)」について ⾃由回答形式によるアンケートを実施した。 38 [レポート2]足もとの住宅事業者の課題と一般消費者の意識の動向 図表 1 主要な「キーワード」の出現頻度 図表 2 上位 8 位までのキーワードと関連性の 高い項目(相関分析) (表頭の各キーワードと相関の強い項目順に表記。 一定水準以上の相関の ある項目を強調) 具体的には、 回答を寄せた住宅事業者において、 ①「住宅」 ⇒「中古」 ②「強化」 ⇒「提案⼒」 ③「リフォーム」 ⇒「事業」 、 「リノベーション」 、 「中古」 ④「⼟地」 ⇒「仕⼊れ」 ⑤「リノベーション」 ⇒ 「物件」 、 「事業」 、 「中古」 、 「リフォーム」 ⑥「受注」 ⇒「拡⼤」 ⑦「事業」 ⇒ 「リフォーム」 、 「リノベーション」 、 「分譲」 、 「中古」 ⑧「商品」 ⇒「値段」 (2) 「住宅」 と関連の強い項⽬の分析 また、 「住宅」 と関連性の⾼いキーワードは、 「中古」 「⼾建」 、 、 「受注」 「 、販売」 「 、物件」等であり、 これらのキーワード相互 の相関の流れについては以下のとおりである 【図表3】 。 この結果、 「住宅」 に関する項⽬相互の関連性を整理す ると、 図表3「住宅」に関連性の高い項目とその方向性 等の関連性が強く認識されている。 このことから、現在、住宅事業者の間で、 「中古住宅を 中⼼にリフォーム、リノベーションを積極的に展開する とともに顧客への提案⼒を強化し受注拡⼤を⽬論む⽅ 向性(① , ② , ③ , ⑤ , ⑥ , ⑦) 」 に関する意識が広がってい ることが分かる。 ⼀⽅、⾜もとの課題としてとくに認識されている事柄は、 「⼟地の仕⼊(④) 、 商品の値段(⑧) 」 である。 39 Report.2 ⑨「住宅」 ⇒ 「中古」 ⇒ 「リノベーション」 、 「リフォーム」 、 「事業」 ⑭「強化」 は「提案⼒」、 「販売」、 「リノベーション」 ⑩「住宅」 ⇒「⼾建」 ⇒「分譲」、 「新築」 ⑮「リフォーム」 は「事業」、 「中古」、 「リノベーション」 ⑪「住宅」 ⇒「受注」 ⇒「拡⼤」、 「新築」 ⑯「事業」 は「分譲」、 「中古」、 「⼾建」 ⑫「住宅」 ⇒「販売」 ⇒「仕⼊れ」、 「強化」、 「商品」 ⑰「商品」 は「値段」、 「顧客」、 「提案力」、 「販売」、 「Z E H」 ⑬「住宅」 ⇒ 「物件」 ⇒ 「リノベーション」 、 「マンション」 、 「値段」 等との関連性を持って回答されていることが分かる。 等とのつながりが⽰される。 したがって、 住宅事業者の今後の業務展開上の課題は、 したがって、 「 すでに、中古住宅のリノベーション、リ ●分譲、 中古、 ⼾建住宅を中⼼とした事業展開 フォ-ム事業が今後の営業戦略上の重要課題となって ●とくに中古住宅を念頭に置いたリフォーム、リノベー いること(⑨) 」 , 「マンションのリノベーションについて も重視する姿勢(⑬) 」 などの意識がうかがわれる。 (3) 今 後の事業展開に向けた意識 に関する考察 さらに、主要なキーワードのうち、 「強化」 、 「リフォーム」 、 「事業」 、 「商品」 を住宅事業者の『今後の事業展開に係る ポイント項⽬』 ととらえ、これらの項⽬とその他の項⽬との関 連性の強さをみると以下の図表のとおり⽰される【図表4】 。 この結果、住宅事業者の事業展開に係るポイント項⽬に ついては、 ション事業等であること が⽰される。 3. 一般消費者の意識 (1) 「キーワード」の出現頻度、相関 分析 ⼀般消費者に対し、 「今後の住宅取得に向けた想い (夢、期待、不安、その他)」 について尋ねると、 「家」が最も 出現頻度が⾼いキーワードとなり、次いで、 「住宅」、 「住 む」、 「不安だ」、 「 よい」、 「ローン」、 「不安」、 「住宅ローン」、 「家族」、 「買う」 などの順となった【図表5】。 さらに、上位8位までのキーワードのうち相関の強い項 ⽬をみると、 図表4 事業展開に関する考察 40 [レポート2]足もとの住宅事業者の課題と一般消費者の意識の動向 図表5 主要な「キーワード」の出現頻度 図表6 上位8 位までのキーワードと関連性の高い項目(相関分析) (表頭の各キーワードと相関の強い項目順に表記。 一定水準以上の相関の ある項目を強調) ①「家」 ⇒「住みやすい」 ②「住宅」 ⇒「中古」、 「値段」 図表7 一般消費者の不安感と関連の高い項目とその方向性 ③「住む」 ⇒「家」、 「住宅」 ④「不安だ」 ⇒「⽀払い」、 「住宅ローン」、 「⾦利」 ⑤「 よい」 ⇒「家」、 「安い」、 「物件」 ⑥「ローン」 ⇒「払う」、 「⽀払い」、 「不安だ」 ⑦「不安」 ⇒「払う」、 「住宅ローン」 ⑧「住宅ローン」 ⇒「払う」、 「不安だ」、 「⾦利」 等とのつながりが現れており【図表6】、 「住宅に関しては、⼿頃な値段で質のよい物件が求めら れ、 中古住宅の取得についても⼀定に考慮(① , ② , ⑤) 」 されている。ただし、 その⼀⽅で、 「住宅ローンの返済等と⾦利に関する不安感(④, ⑥, ⑦, ⑧) 」 が強く認識されている。 (2)⼀般消費者の不安感について なお、⼀般消費者の不安感と関連性の⾼い事柄は、既 ⑨「不安だ」 ⇒ 「⽀払い」⇒ 「ローン」 、 「住宅ローン」 、 「⾦利」 にみたとおり、 「⽀払い」、 「住宅ローン」、 「ローン」、 「⾦利」、 ⑩「不安だ」 ⇒「住宅ローン」 ⇒「払う」、 「⾦利」 「分からない」等であるが、 さらにキーワード相互の関係性 ⑪「不安だ」 ⇒「ローン」⇒「払う」、 「⽀払い」 を深掘りすると、図表 7 のとおり⽰される【図表 7】。 ⑫「不安だ」 ⇒ 「⾦利」⇒ 「住宅ローン」 、 「ローン」 、 「⼼配だ」 この結果、⼀般消費者の不安感に関しては、住宅ロー ⑬「不安だ」 ⇒「分からない」 ⇒「買う」、 「建てる」 ンの返済等と住宅の取得⽅法等との関連性があることが したがって、改めて、⼀般消費者の不安感が「住宅ロー 分かる。 ンの返済等および⾦利(⑨ , ⑩ , ⑪ , ⑫) 」に関する事柄 に集約されていることが⽰された。 41 Report.2 図表8 中古住宅と関連性のある意識 なお、住宅の取得に関して、 「買うか建てるか迷う(⑬) 」 意識があることも明らかとなった。 4. 調査結果から得られる インプリケーション 今までみてきた事から、住宅事業者の意識において中 (3)⼀般消費者の中古住宅に関す る意識 ⼀⽅、視点を「住宅」に転じると、前述のとおり「住宅」 と最も相関が⾼い項⽬は「中古」であり、さらに「中古」 と つながりの強い語句を並べると【図表8】のとおり⽰すこと ができる。 この結果、 「中古」 に関しては、 「物件」、 「買う」、 「マンショ ン」、 「安い」、 「考える」 などの取得に前向きな項⽬との関 連性が強く、中古住宅が検討すべき重要な取得対象とし て認知、検討されていることが⽰される。 したがって、⾜もとの⼀般消費者の意識において、 ● 「住宅」 については「住みやすい」 、 「 よい」 、 「値段」 、 「安 古住宅のリノベーション、リフォーム事業が今後の営業戦 略上の重要課題となりつつあることが⽰される。また、⼀ 般消費者の視点においても、住宅に関しては「住みやす い」、 「 よい」、 「値段」、 「安い」等の意識との関連性が強く、 とりわけ中古住宅に関⼼が集まっている。 このため、中古住宅に注⽬が集まっている点において 住宅事業者と⼀般消費者の認識に⼤きな差異はなく、求 める⽅向性も⼀致していることから、今後とも「中古住宅」 に対する認知が⾼まる可能性がある。また、その際、リノ ベーションやリフォーム施⼯済みの住宅性能向上が図ら れた物件への需要が⾼まることも想定される。 ただし、その⼀⽅で、住宅取得に付随する住宅ローンの い」等の意識と⾼い関連性を持ち、 「中古」 に関⼼が集 借⼊れに関しては、返済および⾦利動向に関する不安が まっている。 強まっており、 「中古住宅」 を中⼼とした住宅需要の円滑 ●「中古」 に関しては「物件」 、 「買う」 、 「マンション」 、 「安 な発揮のためにも、今後、⼀般消費者が住宅ローンを借り い」 、 「考える」等、取得に前向きな意識が現れているこ ⼊れる際の不安感をある程度払拭するための取組みが とが明らかとなった。 重要となることが考えられる 3。 ※ 本稿において、意⾒に係わる部分は執筆者個⼈のも のであり、 住宅⾦融⽀援機構の⾒解ではありません。 42 3 そのためにも、住宅ローン商品の多様性に触れ、返済期間を通じて⾦利が固定される「全期間固定⾦利住宅ローン」のメリット等についてさらなる認知を広 げることも必要となることが想定される。
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