2014年以来のゴルディロックス、いつまで続くか

リサーチ TODAY
2016 年 8 月 25 日
2014年以来のゴルディロックス、いつまで続くか
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
昨日のTODAY1で、みずほ総合研究所が今月に発表した改訂『内外経済見通し』2の中心論点は、「3L
(Low)」で、これらが「低成長・低インフレ・低金利」が長期化する新たな状況、「新常態」である可能性を示
していると述べた。一方、こうした冴えない状況下にあるにもかかわらず、米国では株式市場が史上最高値
圏にあり、世界各国の株式市場も堅調である。教科書的には、債券と株式とは逆相関であり、「3L」に代表
される低金利、低成長の状態で株式が上昇することは説明しにくい。その為に、株式にも債券にも心地よ
い両者のいいとこどりの状態は一般的に「ゴルディロックス」と言われる。その由来は、英国の童話『ゴルディ
ロックスと3匹のクマ』にあり、ゴルディロックスは主人公の女の子の名前である。このなかで、クマ達の留守
中にこの少女が3つあったスープの内、熱すぎず、冷たすぎない、丁度よい温度のスープを飲み尽くしてし
まうなどしたことから、ゴルディロックスが適温経済を示すようになった。金融市場は、米国FRBが利上げを
先送りし、低金利の長期化観測が強まる中、株式相場、債券相場ともに底堅く推移しているゴルディロック
ス状態である。ただし本来、ゴルディロックス状態は過渡期なもので不安定な側面をもつ。そもそも、株と債
券は「逆相関」の関係にあり、両方がいい状況は持続的でない。この維持のためには、中央銀行が利上げ
を先送りし金融緩和を続ける必要があり、ゴルディロックスは金融引締までの微妙な居心地のいい状態で
生じる現象だ。つまり、この均衡が崩れるのは、①再び金融引締に向かう、②株価上昇が行き過ぎて自律
調整が生じるかのいずれかだ。
■図表:グローバルな株式・債券パフォーマンス
(6カ月前比)
50%
(6カ月前比)
8%
株式、債券とも底堅い
ゴルディロックス
40%
6%
30%
↑
株
高
4%
20%
10%
2%
0%
0%
株 -10%
安
-20%
↑
債
券
高
債
-2% 券
安
-4%
-30%
世界株価指数(MSCI World Free、左目盛)
世界国債価格指数(Citigroup WBGI、右目盛)
-40%
-6%
-50%
-8%
07
08
09
10
11
12
(注)データは月中平均の 6 カ月前比。
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
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15
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(年)
リサーチTODAY
2016 年 8 月 25 日
前ページの図表から過去を振り返ると、2014年の頃にも、ゴルディロックスが金融市場で一般化した。
2013年に米国ではFRBの金利引き上げ不安が生じたが、2014年になると金融政策の緩和維持観測が蔓
延し、株価上昇が生じた。この2014年のゴルディロックスは、2015年に再び利上げ観測が高まることで終焉
に向かった。一方、今年は引き締めが封印されているなか、ゴルディロックスが継続している。こうした心地
よい状況が転換するのは、再び米国が利上げするときだ。ゴルディロックスは基本的に中央銀行にとって、
居心地の悪い状況だ。なぜなら、本来利上げすべき状況でも中央銀行は利上げできないことを市場が見
透かしているからだ。利上げが可能な環境が整えば出来る限り早く利上げしたいというのが、中央銀行の
本音であろう。従って、今日の大きなリスクは、米国の景気改善により利上げ観測が再び高まることだ。逆説
的に言えば、景気のいいことが株価不安を生じさせる可能性があるということだ。
下記の図表は米大統領選前後1年間の株価の平均推移である。図表にあるように、政権交代がない場
合の株価パフォーマンスは比較的良い。足元、民主党クリントン候補が共和党トランプ候補を支持率で大
きく引き離す状況にあるため、政権交代がないとの思惑が高まり、株価がサポートされやすい。
■図表:米大統領選前後の1年間の株価の平均推移
30
(%)
投票日
20
10
0
戦後の全選挙(17回)
政権交代(8回)
-10
政権交代なし(9回)
今回
-20
(注)大統領選挙投票日を基準とした S&P500 指数の変化。
(資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成
今日の「3L」環境は、生産性の伸びが限られた典型的な長期停滞への不安を抱えた状況である。その
ために、低金利、金融緩和でも設備投資等の実物投資が生じにくく、資金がコモディティ化した株式市場
に向かった結果が、本日主題としたゴルディロックスである。過去の歴史から、米国大統領選では、クリント
ン候補が優勢のため政権交代が無いことへの期待が高まり、米国の株価は堅調な動きを示しやすい。一
方、先行き不透明感が根強い中で米国が利上げを封印すると、ゴルディロックスは続くだろう。ゴルディロッ
クスは本来持続的なものではないが、意外に長期化する可能性がある。ただし、その場合はドル安が保た
れる状況になりやすいため、日本にとっては予想以上の向かい風が続きそうだ。
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「3L:低成長・低インフレ・低金利」の背景にある世界的分断 (みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2016 年 8 月 24 日)
「2016・17 年度内外経済見通し」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 8 月 16 日)
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