特集 今、ものを言う経営理念 特集 今、ものを言う経営理念

8
2016
特集
今、ものを言う経営理念
撮影:鎌形 久
8
北海道美瑛町
2004年夏撮影
2016
特 集
今、ものを言う経営理念
3
ゼロからのワイナリー立ち上げを成し遂げる
髙作 正樹
地方の活性化に貢献しようと法曹の世界から一転、ワイン事業に飛び込ん
だ若者。持ち前の行動力に加え、経営理念とビジョンで人に共感を与える
7
ぶれない革新を続ける長寿企業の秘訣
松井 清充
日本に多い長寿企業には、明確な経営理念がある。中小企業や農業法人
の経営理念を事例に、その必要性を語る
11
攻めの経営展開につなぐ事業構想
上原 学
従来の農業事業を変革し、新たな仕組みを構築する経営者が増えている。攻めの経
営展開を進めるために重要なことは、経営理念や将来ビジョンを正確に開示することだ
情報戦略レポート
15 食の志向「健康」が引き続き最多
ネット通販消費に新たな潮流
―2015年度下半期 消費者動向調査 ―
経営紹介
経営紹介
23 株式会社マルハ物産・
有限会社マルハファーム/徳島県
林 香与子・荒木 末春
レンコンの加工業者が農業分野に参入し、生産から販売までグループで手掛け
る。レンコンの機能性に着目した商品を開発し、注目が高まる
変革は人にあり
27 株式会社秋田ニューバイオファーム/秋田県
齋藤 作圓
経営理念を念頭に置き、秋田県の特産物を製造。観光農園や地元食材で新メニュ
ーを開発し外食事業も手掛ける。災害で複合経営の重要性を学んだ経営者に聞く
青空と牧草ロール
■ 青空の下、広大な採草地に牧草ロールが並ぶ。初夏から秋に牧草を収
穫し作る牧草ロールやそれを発酵させたサイレージは、
1年を通して牛のエ
サになる。牧草ロールは畜産が盛んな地の象徴だ■
シリーズ・その他
観天望気
正当な対価の支払い
新山 陽子
農と食の邂逅
やまに農産株式会社/岩手県
髙橋 医久子
青山 浩子
(文)
河野 千年
(撮影)
フォーラムエッセイ
雨後にはイワナを釣りに行く 村上 龍男
19
22
主張・多論百出
ほんものの食べものくらぶ 主宰 手島 奈緒 25
耳よりな話 173
天敵の活用で減農薬体系を実現
後藤 千枝
30
まちづくりむらづくり
島は危機感よりも「楽しい」が原動力
五人が定住し、元気にする活動は続く
長崎県対馬市
小島 繁樹
書 評
水本 邦彦 著『村
宇根 豊
百姓たちの近世 』
インフォメーション
農業ビジネスの動向について大学生に講義 近畿地区総括課
31
34
35
コーポレートファイナンスで農業ビジネスを学ぶ 津支店・情報企画部
35
事業化へのヒントが示された六次産業化セミナー
を開催 宮崎支店
35
創造力あふれる高校生のビジネスプランを大募集
グランプリ運営事務局
35
『事業性評価融資』のご案内
みんなの広場・編集後記
ご案内
*本誌掲載文のうち、意見にわたる部分は、筆者個人の見解です。
2
第11回アグリフードEXPO東京2016
36
37
38
観天
望気
正当な対価の支払い
望ましい持続可能なフードシステムを次世代に引き渡すことは、
われわれの重要な役割である。食料の量や安全、品質の確保など、
消費者対応は注目されるが、取引における対価の支払いに注意が
払われているだろうか。正当な対価が支払われないと、農業者、食
にいやま ようこ
1980年京都大学大学院農学研究科博士課程修了、京都
大学農学部助手、助教授などを経て、2002年より現職。
著書に『牛肉のフードシステム-欧米と日本の比較分析
-』
(日本経済評論社)、
『食品安全システムの実践理論』
(昭和堂)などがある。
品製造業者、流通業者、いずれであれ存続できず、フードシステム
新山 陽子
も持続しない。正当な対価の支払いとは、事業者同士が共存でき
る関係をつくることであり、市場のパワーバランスの確保が前提
になる。酪農を例に見てみたい。
一九九〇年代後半から小売りで牛乳の安売りが続き、
日本では、
畜産物生産費統計によると二〇〇五年に酪農家の生乳価格が全参
入生産費を下回った。その後の飼料代高騰は乳価に反映されず、逆
きっこう
転幅が拡大し、
酪農経営の存続を危惧した政府が配慮を求め、
〇八、
九年と乳価は上がったが、生産費と拮抗した状態が続いた。原料価
格の上昇が製品価格に反映されることを価格伝達というが、マー
ケットメカニズムの下では伝達されなかったことになる。それは買
い手、この状況では小売りの価格交渉力が極度に強いことを意味
する。一四年の指定生産者団体と乳業メーカーの交渉による生乳
価格の引き上げによって、ようやく拮抗状態から抜け出した。
一方、
欧州連合では日本と異なり、
原料代の上昇分は、
順次、
農産
物価格、食品製造業者価格、消費者価格に転嫁され、各段階でシェ
アされている。しかし、酪農では一五年の生産割当制の廃止を含む
自由化の中で、市場が極度に混乱し、経営の存続が危惧される状
態に陥っている。ミルクパッケージ規則により、生産者の価格交渉
力を強化するために、農協を通さず個別に乳業メーカーに販売し
2 AFCフォーラム 2016・8
ている農業者は組織をつくってメーカーと交渉すること、生産者
団体や乳業メーカー団体からなる業種間組織が未組織の国では、
それを設置して価格監視などを行うことを求めている。日本では、
こうした市場のパワーバランスの確保や、そこにおける生産者団体、
職業団体の役割に関する社会の認識はきわめて低い。
一方、欧州生
乳市場は現在混乱に陥っているものの、パワーバランスや職業団体
の役割に関する認識は高い。日本でも認識の改善が求められる。
京都大学大学院農学研究科 教授
特集 今、ものを言う経営理念 ゼロからのワイナリー立ち上げを成し遂げる
Masaki Takasaku
の一八年には自社のブドウ一〇〇%で醸造できる
おり、年とともに収量が増えてくるため、二年後
用しています。しかし、毎年植栽面積を増やして
なく、県外の契約農場から買い付けたブドウも使
稼働しましたが、まだ自社生産のブドウ収穫が少
しています。ワイナリーの醸造所は一三年に建設、
ン、メルロー、セミヨンなどの欧州系品種を植栽
ニヨンブラン、シャルドネ、カベルネソーヴィニヨ
生産を始めました。現在、三㌶の借地にソーヴィ
ます。二〇一一年に創業、
一二年に輪島市でブドウ
株式会社ハイディワイナリーは石川県輪島市
でワイン用ブドウの生産、醸造、販売を行ってい
ものづくりで地域貢献が夢
日本でそれが実現できれば、衰退している地方も
農村や都市の形成に大きな役割を果たしている。
光産業も活性化するなど、無数の小さな醸造所が
農村の産業の中核になっており、価値を生み、観
を受けました。「欧州では古代からワイン醸造が
時、当時代表の落希一郎氏から強烈なインパクト
新潟県新潟市の株式会社欧州ぶどう栽培研究
所が運営するカーブドッチワイナリーを訪ねた
貢献したいと思っていたのです。
回りました。漠然と、ものづくりを通して、日本に
の元気な製造業を訪ね歩き、経営者の話を聞いて
一生をささげられるような仕事を探そうと地方
了を目前に控え、ものづくりに興味のあった私は、
は無縁の生活を送ってきました。法務博士課程修
学に進学、その後法学を学び、二六歳まで農業と
前提にして修業させてほしいと申し出たのです。
くれました。そして、私は落さんに将来の独立を
リーでの研修を終えた折には協力すると言って
母や妹も私の考えに賛同し、カーブドッチワイナ
かられるようになりました。実業家の父をはじめ、
通じて豊かなまちづくりをしたい、という思いに
りの現場に触れ、ワインや料理を愉しみ、豊かな
経営を行っていました。訪れた人々はワインづく
ンや宿泊事業などワインを事業の核にした多角
それを実現しようと、カーブドッチワイナリー
ではブドウの生産やワイン醸造に加え、レストラ
考えに私は強く惹かれました。
して、地域に新たな産業をつくっていく」という
時間を過ごしています。いつしか私も、ワインを
見込みです。
農業の経験も醸造の知識もなく、社会でまとも
に働いたこともない若者の申し出はすぐには受
たかさく まさき
1982年神奈川県生まれ。
法務博士号取得。
新潟のカーブドッ
チワイナリーとフランスで研修を受ける。2011年株式会社
ハイディワイナリーを設立。今年グループ企業の株式会社
ハイディホフにより、レストランふらんじゅを開店。
生まれ変われる」と言うのです。「ワインを中核に
髙作 正樹
私は神奈川県横浜市で生まれ育ち、工業系の大
農業とは無縁の新規就農者が石川県能登に移住して、ワイン用ブドウの生
産、醸造、販売を開始する。欧州では古代からワイン醸造が農村の産業の中
核になっているが、それを日本で実現できれば衰退する地方が生まれ変わ
るという信念を持ち、見事に事業化した体験談を語る。
株式会社ハイディワイナリー 代表取締役社長
2016・8 AFCフォーラム 3
特集 今、ものを言う経営理念
ありワインを通じて地域を豊かに発展させるこ
とは限らないこと、ワインをつくることは手段で
多くのワイナリーが一定の地域にあるからと
いってそこが欧州系品種全般の栽培適地である
私の考えは違いました。
点在する地域で創業することが多いです。しかし、
規ワイナリーを目指す方は、先行のワイナリーが
インの産地として名を上げている地域もあり、新
回りました。日本には山梨県や長野県など既にワ
える事業地選定のため、一一年一一月から全国を
向けてスタートを切りました。まずはブドウを植
そして、研修期間中の二〇一一年三月、株式会
社ハイディワイナリーを設立し、いよいよ独立に
インの消費を徹底的に学びました。
理屋、イタリア料理屋で各三~五カ月間、働き、ワ
また、研修後の夜間や研修が休みの日はワイン
を扱っている新潟市内の日本料理屋、フランス料
に把握していきました。
イン等を瓶詰して一連の流れをブドウ品種ごと
醸造を中心に行い、畑作業の合間に樽熟成後のワ
けて学びました。九~一一月は収穫したブドウの
一〇年九月から始まった研修では、ブドウ栽
培・ワイン醸造・ワイン販売それぞれを一年半か
らえることになりました。
語るうちに私の真剣さが伝わり修業を認めても
用方法など課題は盛りだくさんです。
達方法や経営方法、
畑整備方法、
誘客方法、
人材雇
中でたやすいことではないですし、他にも資金調
チワイナリーの研修の一年半という短い期間の
ちろん技術面をしっかり学ぶことはカーブドッ
ワイナリー事業をスタートする気でいました。も
術者として匠の域に達していなくても関係なく
ら二年以内に起業することを決めていたので、技
いろいろな方からあまりに早い起業だと言わ
れることがありますが、私は研修を開始する前か
放棄地ですがなんとか集めることが出来ました。
まとめるのは非常に大変でした。ほとんどは耕作
親戚を介して農地所有者を探しましたが、各畑
は小さく所有者も別れており、ある程度の区画を
長く、台風の被害がほとんどありません。
しれませんが、春から秋の間の日照時間も比較的
済む点も利点です。厳しい気候を想像されるかも
病気の発生を防いでくれ、農薬にあまり頼らずに
していることも分かりました。日本海からの風も
ミネラルが豊かであり、欧州系ブドウの栽培に適
質ではあるものの砂れきが多く地中の成分など
に依頼して土壌検査をしてもらったところ、粘土
うな農地がたくさん見込めたからです。研究機関
この地を選んだのは父の出身地で土地勘があ
る上に、過疎地で離農者も多く、貸してもらえそ
半島の輪島市で本格的に開始させました。
一二年三月、カーブドッチワイナリーでの研修
を終えた私はハイディワイナリーの事業を能登
新しい町をつくるという思いを記しました。事業
経営理念には、カーブドッチワイナリーで修業
を始めてから温めてきた、能登という過疎地にワ
ビジョンは、現在に続いています(図)。
て回りました。その時作成した経営理念と将来の
社債は一口一〇〇万円に決め、親族や父の知人
を中心に私の経営理念や将来ビジョンを説明し
ました。
ただければ株式に転換するというやり方を選び
債を購入し、三年後の事業経過を見て納得してい
ルが高いため、ハイディワイナリーが発行する社
を考えました。なお、いきなりの出資ではハード
人の方に事業に賛同してもらい、出資を募ること
る人に資金の協力をいただこうと思い、まずは個
金融機関に相談しても相手にしてもらえないの
わずかな、信用力のない二八歳の若者でしたから、
予算となりました。志は高いけれど醸造の経験も
造施設の建設を計画したので、二億円もの莫大な
事業地探しにめどが付いた時から資金調達に
動きました。ブドウの生産だけでなく最初から醸
わってしまうと思っていました。
業に必要なことを学ぶために一生を費やして終
業後に助けてくれる可能性が高い多くの方々と
独立後に実践できるはずはなく、それよりも、起
インを核にした産業を興し、若者達の雇用の場や
は予想できました。そこで、夢を共有してくださ
理解得て社債で資金調達
会うことが重要で、そうでなければワイナリー起
行う」ということ。例えば、
研修中に全てを学んで
とこそが目的であるという考えから、むしろワイ
ただ、研修を終えるときに全てを解決する方法
がうっすらと浮かびました。それは、「人に頼る」
実績のない若者に、少なくない額の投資を行うこ
け入れていただけませんでしたが、何度か思いを
ン用ブドウの栽培文化があまり根付いていない
ということ。そして頼れないところだけ「自分で
能登の耕作放棄地を活用
適地を探した方が良いと思ったのです。
4 AFCフォーラム 2016・8
ゼロからのワイナリー立ち上げを成し遂げる
いただくことができました。このことは、私の大
一八人の方に四八〇〇万円分の社債を購入して
の話にきちんと向き合っていただき、最終的には
とには戸惑いがあったと思います。それでも、私
でいます。
ンの開業と、ビジョンの実現に向け一歩ずつ進ん
月にはグループ企業ハイディホフによるレストラ
を植え、一三年に醸造施設の建設、そして今年四
べても資金回収にかなりの長期間を要するビジ
上の期間を要します。このように一般の作物に比
ンとして出荷されるまでに少なくとも一年半以
上かかり、さらに、果汁が発酵と熟成を経てワイ
分ながらも地元金融機関や日本公庫が創業から
ネスで、長期資金を計画的に利用することが必要
となります。当社の場合、経営実績や担保が不十
きな自信につながりました。
経営理念が事業性評価融資に
次に、国や自治体の補助金を受けるため輪島市
に相談したところ、耕作放棄地拡大防止や地域で
規模拡大に至るまで支援していただいています。
らないなどがあり、かなり苦労しました。販売先
果実酒製造免許の取得に当たっては、あらかじ
め醸造施設や販売先を国税局に示さなければな
ただいたほどです。
この事業は絶対上手く行く」と力強く応援してい
だったようです。地方銀行の支店長には「大丈夫、
人の協力者を集めていたことも評価のポイント
私の事業構想をサポートしていただきました。個
輪島市の経済を何とかしたいという思いがあり、
としています。
みの大部分はこのシモンビーズの造り方を目標
ディワイナリーの醸造における科学的な取り組
や 業 者の紹 介 をしても らいました。現 在、ハイ
ムの方から醸造機械や設備について多くの助言
さらに、シモンビーズでは当主のご好意により
ワイン醸造を一つ任せていただき、
また、
醸造チー
ら聞くことができました。
方針で育てているのかなども栽培責任者の方か
ここでは的を絞って「醸造」を習いました。また、
収穫予定の畑について各ドメーヌがどのような
造所)シモンビーズで半年間修業しました。
アクションプランを作成し資金調達ができまし
術面の向上や、人材育成の留意点などのアドバイ
による客観的な視点から、販売目標の明確化や技
から提示される「事業性評価書」により、
金融機関
なりました。経営ビジョンシートの提出後に公庫
目標に向かって実施すべきことが改めて明確に
私の場合、既に描いていたことでしたが、整理
し直すことで自社の現状を確認できるとともに、
ります。
ら成る「経営ビジョンシート」の作成が必要とな
念、自社の経営環境分析、将来のビジョンなどか
いただけるもので、申し込みに当たっては経営理
来性や成長性などを積極的に評価して融資して
私自身は生産や醸造に関する技術のレベルアッ
プを図るべく、二〇一二年に世界に冠たる銘醸地、
については知り合いを通じて個人を中心にワイ
ブルゴーニュ地方には一万ものブドウ農家がい
て、多くは小規模ながらもそれぞれが自前の醸造
た。
の雇用拡大、交流人口の増加による地域活性化に
ンを買っていただけるサポーターが多く集まっ
所を持ち、個性的なワインを産み出しています。
フランスのブルゴーニュ地方の伝統あるドメーヌ
たことで、免許取得のめどが立ちました。
中心都市ディジョンはワインと料理を楽しむた
今回利用した事業性評価融資の仕組みは、まだ
実績の少ないハイディワイナリーのような経営
結び付く事業構想を評価し賛同していただき、石
本当に何もない中からのスタートでしたが、多
くの方の力添えで補助事業採択や融資が決まり、
めの街といった風情ですが、観光客はディジョン
にとって、大きなチャンスとなるものです。今後、
苗の購入と栽培費用のため今年三月に日本公
庫の事業性評価融資を利用しました。これは、将
ブドウ生産と醸造施設建設に必要な資金が集ま
にとどまらずブルゴーニュ地方のワイナリーを
能 登 でワ イ ナ リ ー を 起 業 す る 方 々が ど ん ど ん
(ブドウ生産からワイン造りまで一貫して行う醸
り、免許も取得できました。ブドウの生産や醸造
訪れています。まさに私の理想郷で、ビジョンの
チャレンジできるよう、活用が進んでくれればあ
川県や総務省に働きかけてくれました。
に関しては、他のワイナリーで経験を積んできた
実現に意を強くしました。
りがたいと思います。
また、同時並行で地元金融機関に借入の相談に
行きました。金融機関の方も、人口減少が著しい
人が社員として加わり、人的体制も整いました。
ブドウ苗を植えてから収穫までは二~三年以
スもいただけたので、参考になりました。その後、
一二年の春から、造成された畑にブドウの苗木
2016・8 AFCフォーラム 5
特集 今、ものを言う経営理念
を果たしていくのか社員は考えるようになり、そ
向かっているのか、そのために自分はどんな役割
することで、ハイディワイナリーの事業がどこに
も、交渉過程を含め社員に開示しています。開示
の実現に向けて会社が行う投資や借り入れなど
にも大きな役割を果たしています。私は、
ビジョン
ところで、経営理念は外部への説明はもちろん
のこと、社員との意思統一や毎年の事業計画作成
す。
今後、輪島の気候と地質、そして私たちの技術
がどのようにワインに現れていくのか楽しみで
しませてくれるでしょう。
インに複雑味を付加し、さまざまな表情を見せ楽
が確立されていないものもあります。これらはワ
ブドウの中には日本ではまだ珍しい品種で技術
いると自負しています。現在栽培している七種の
で醸造したワインも、おおむね良い出来になって
となく常に協力し合っています。理念に共鳴し投
ハイディワイナリーは若い会社です。部門別の
責任者に権限を与えていますが、縦割りになるこ
いと思います。
ナリー事業を通じて能登の活性化を成し遂げた
ような高品質で個性的なワインを造り続け、ワイ
さる皆さまの存在であり、その期待を裏切らない
最大の強みは、協力者や会員となって支えてくだ
加していただいています。ハイディワイナリーの
6 AFCフォーラム 2016・8
資していただいた多くの皆さまのご期待に応え、
ブドウ畑から日本海を臨む。
の結果として一二〇%の力を発揮してくれます。
⃝TPPによる関税下げなどが脅威だが、国内ワイン市場の拡大、2018年からの純国産ブ
ドウ由来の
「日本ワイン」
表示開始など国産ワインには追い風環境。ブドウ栽培から醸造
まで能登の風土を活かした一貫生産で差別化を行っている。価格面だけを重視しない
ファンの確保と、多様な販売チャネルに強み。
⃝自社ブドウ生産量が不足、また国内では珍しい品種の生産取組であり技術情報が不足。
段階的な規模拡大と収量向上が重要。地元生産者の知見活用や経験者の雇用による
栽培情報の蓄積および共有で技術をレベルアップし、品質、収量の目標実現を。
⃝ブドウ畑拡大への追加資金調達を円滑に進めるため、ブドウ生産、ワイン販売、決算状
況など情報開示による金融機関とのコミュニケーションが重要。
新しい産業を輪島に築こうと日々奮闘してまい
事業性評価書(公庫からのフィードバック)抄
ワインの販路は個人のお客さま、地元の縁から
御用達をいただいている曹洞宗寺院の皆さま、そ
段階的な事業として高品質なワインの生産を増やすため自社の栽培面積を拡大。
ブドウは能登の風を受け、毎年逞しく幹を太く
しています。おかげさまで、私たちが醸したワイ
3 今回の事業概要
ります。今後も見守っていただき、ご指導をお願
ビジョン2
ブドウ栽培、
ワイン醸造、
ワイン販売というワイナリー業務を核に、
既存の文化や産業と結び
ついて、
多くの移住者による新しい
「町」
を形成していく。
輪島市を拠点とする20の子会社や新会社を作ることで、
それぞれの従業員に家族を含め総
勢3000名の町が構成される。
して飲食店など、拡がりを見せています。さらに、
ビジョン1
フランスのブルゴーニュやアメリカのナパバレーのように、
多数のワイナリーが存在し、
助言と競
争ができる姿。輪島市で多くのワイナリーが誕生できるように多様な支援を行う。
その実現に向け
「北陸ワイナリー協会」
の立ち上げ、
近隣や海外のワイナリーと相互研修の交流、
自社の事業展開履歴データ化を実施し、
また自治体の支援メニューを把握し効果的に活用する。
ンは協力者やお客さまから良い評価をいただい
2 将来ビジョン
いします。 ⃝ワイン用ブドウを栽培し、高品質の純国産ワインを生産・販売する。
⃝生み出された利益は多くの若者・社会的弱者の雇用に供し、株主配当はゼロとする。
⃝ワイナリー起業を目指す方々を能登に誘致してそれぞれが選んだ土地のブランド化を
図り、もって能登半島そのものの資産価値を引き上げる。
会員制度も立ち上げ、多くの方にイベントなど参
1 経営理念
ています。そして、まだわずかですが自社ブドウ
図 株式会社ハイディワイナリー 経営ビジョンシート
(2016年2月作成、抜粋)
特集 今、ものを言う経営理念 ぶれない革新を続ける長寿企業の秘訣
戦後日本が経済成長を実現していく他方で、相反して農山漁村が衰退する。
今、農業分野に求められるのが、地域の中小企業との協同である。全国四万
五〇〇〇余の中小企業経営者が参加する組織をまとめる同友会の専務が優
良事例を紹介し、農業分野における経営理念の重要性を語る。
Kiyomitsu Matsui
場、
業種、
企業規模にとらわれず、
自主的に学ぼう
という特色があります。また、考え方や社会的立
「経営環境の改善」を目指すという「三つの目的」
団体です。「経営体質の強化」「経営者の能力向上」
える中小企業経営者が参加する異業種の経営者
中小企業家同友会全国協議会(以下、同友会)
は、現在、全四七都道府県で四万五〇〇〇人を超
中小企業家の学習組織
るのは働きがいのある仕事や自然との調和、加え
山漁村地域がピンチになりました。今、求められ
戦後の日本は、「経済がうまくいけば」幸福にな
る、というような発想で経済が成長した一方、農
ギであることを提起します。
同友会の会員企業の事例から、経営理念の力を
解説し、農業分野においても経営理念づくりがカ
基づいた「ぶれない革新」を続けてきたことです。
念やミッションを明確にし、人材を育て、理念に
ら注目されています。長寿企業に共通するのは理
随を許さないほど多数の長寿企業があり、世界か
じるものがあります。一方で、日本には他国の追
「良い」と答える企業の割合は四%程度しかなく、
も可能ではないでしょうか。個人企業の業況感は
ない個人企業が大幅に減少しているという解釈
に衰退しましたが、言うなれば、経営理念を持た
万店から、二〇一四年には四五%減少の七八万店
工場数は一九九九年の三四万から、二〇一四年
には二〇万に、また小売店は一九八二年の一七二
で中小企業分野が参考になります。
年前のピーク時から三割減の状況を打開する上
年の農業総産出額が約八兆四〇〇〇億円と、三〇
と同時に「限界集落」も増加しています。二〇一四
現在、農業従事者の平均年齢は六六・四歳と高
齢で、食料生産の危機を迎えつつあります。それ
け、中小企業家のあらゆる要望に応えて活動する
(経営者)が自主的に参加し、
手作りの運営を心掛
に基づいて活動しています。同友会は中小企業家
とする中小企業家であれば誰でも入会できます。
「悪い」が六五%以上で、しかも後継者がいない企
ことが予想されており、多くの地域で働く場がな
て文化もあるというような地域社会です。そのた
昨今、工場数や小売店の激減に代表される中小
共に元気になることが求められています。
業が八割を超えています。今後二〇年で半減する
まつい きよみつ
1951年大阪府生まれ。大阪府立大学経済学部卒業。大阪府
中小企業家同友会事務局長、中小企業家同友会全国協議会
事務局長を経て、2011年より現職。人を大切にする経営学
会主催「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員。
め、農業などの第一次産業と地域の中小企業とが、
松井 清充
近年では、農業経営者が多数入会し、経営指針
づくりに取り組んでいただいています。
企業分野の危機的状況は、今日の農業の姿にも通
中小企業家同友会全国協議会 専務幹事
2016・8 AFCフォーラム 7
特集 今、ものを言う経営理念
九・七%が中小企業で三八〇万社。労働者の七割
中小企業です。そして現在、日本では企業数の九
四六社が日本に集中しており、その八九・四%が
社(合計四一カ国)あり、このうち半分以上の三一
二〇〇八年五月に韓国銀行が公表したところ
では、世界で創業二〇〇年以上の企業は五五八六
日本の社寺建設企業で五七八年創業です。
古い企業は、聖徳太子の命を受けた金剛組という
た農民から、職人が誕生したことにあり、世界一
企業の起源は、平安時代に百姓(ひゃくのかば
ね)と呼ばれたように一〇〇の仕事をつくりだし
くなれば、地域はさらに衰退していくでしょう。
のです。
地域社会や環境に対する基本姿勢を打ち出すも
かを明確にして、社員に対する基本姿勢を示し、
係者である取引先や顧客にどういう姿勢で臨む
者の価値観、人生観を明らかにし、企業の利害関
しているのが経営理念です。それを踏まえて経営
しているか、誰の役に立つ企業なのかを明らかに
うな事業で、どのようにして社会に貢献しようと
社の社会における存在意義を明らかにし、どのよ
「何のために、誰のために経営していますか」の
問いかけからはじめ、それを明確にした上で、自
表明したものです。
理です。
て食べるという、宮崎のひや汁に似ている郷土料
くや野菜を入れて煮だし汁でのばし、麦飯にかけ
みそと合わせ、
それを火であぶった後に、
こんにゃ
ました。「伊予さつま汁」は、魚をすりつぶして麦
愛媛の郷土料理「伊予さつま汁」の新製品を作り
に最近では家庭でも作る家は少なくなってきた
即席みそ汁や「おでんみそ」を開発しました。さら
させる」ことを企業の使命とし、麦みそ仕立ての
「地産地消」にこだわりを持つ義農味噌株式会
社(愛媛県)は「えひめの麦みそ文化を伝承・発展
郷土料理を後世に伝承する
営指針の取り組みです。
(東京都を除けば八割以上)に当たる約三三〇〇
経営理念のキーワードは三つです。
万人が中小企業で働いています。
お客さんのニーズに応える経営方針で、弱みを
強みに変えた企業もあります。株式会社小林ゴー
でなく、未来の子孫のために引き継ぐものなり」
つ一番の理由は「受け継ぎし財産はわが身のもの
ないと、人材育成に重点を置いています。人が育
す。そして、これを支えるのは人の存在に他なら
経営理念は三つのキーワード
長寿企業が生き残ったのでしょうか。
に発揮できる経営を目指すことです。
頼もしいパートナーと見て、その潜在能力をフル
追求の手段と見るのではなく、最も信頼し合える
三つ目は「人間性」です。私たち同友会は「人間
尊重の経営」を目指しています。社員を単に利益
在となる企業を目指していきます。
して地域社会から信頼され、なくてはならない存
うしていくことが大前提です。加えて、主体者と
二つ目は「社会性」です。誰の、どんな役に立っ
ている企業なのかを明らかにし、社会的責任を全
す」。「笑顔づくりのお手伝い」をキーワードに、
地
と『 健康 』をお届けする事を目的とする企業で
という食材を通して、お客様の食卓へ『おいしさ』
めました。経営理念は「生命の源である『たまご』
結論に至りました。そして、たまごかけご飯に合
高の美味しさを引き出せるたまごは違う」という
したが、三年半の研究の結果、「料理によって、最
が不ぞろいで一〇個一〇〇円の商品を扱っていま
自に提供できる価値は何かを明確にします。
一つ目は「科学性」です。社会・経済・時代・経営
環境の変化をできる限り客観的に把握し、自社独
一般に企業は社会環境に左右され、日本の倒産
企業の平均寿命は二四・一年(二〇一五年時点、東
などの
「家訓」
に表された
「理念やミッション」
が明
この理念を中心に「経営指針」(経営理念、経営
方針[ビジョン]、経営計画の三つを総称して、同
加工食品の企画・販売を手掛ける株式会社パイ
オニアジャパン(北海道)は、地元企業と共に特産
ルドエッグ(徳島県)は鶏卵卸業で、かつては品質
確なことです。ぶれずに、革新し続けられる理由
友会は経営指針と呼んでいます)を実践すること
品を開発しました。養殖魚の餌として出荷されて
京商工リサーチ調査)ですが、そうした中でなぜ
が、現代で言う「経営理念」にあるのです。その場
が企業の継 続・発展を生み出しています。本来
いたオオナゴを、捕ったその日のうちに凍結加工、
域ナンバーワンの提案型企業を目指しています。
う最高のたまごを作り出し、そのご飯専門店を広
合の経営理念とは、事業経営を行うに当たっての
持っている地域の強みを見つけて活かすのが経
室町時代に創業した老舗製菓業の株式会社虎
屋は「伝統とは革新の連続である」と言っていま
経営の価値判断の基準となる根本的な考え方を
8 AFCフォーラム 2016・8
ぶれない革新を続ける長寿企業の秘訣
おおなご三昧」といった弁当も開発しました。農
ご棒寿司」を稚内名物に育てました。また、「北海
イなどに商品化。かば焼きも生産し「稚内おおな
ワンフローズンで輸送が可能になったことでフラ
くらぶ)」を立ち上げ、有機野菜を大規模生産・加
業者グループ「昭和野菜くらぶ
(現、
株式会社野菜
注目される企業です。一九九二年に三人で有機農
農業生産法人グリンリーフ株式会社(群馬県)も
の観点からも経営指針が重要な役割を果たすこ
た割合を引いた値)が最も高く、企業活動の復興
DI
(
「増加」
と答えた企業割合から
「減少」
と答え
ころ、「経営指針の存在」と答えた企業での売上高
現しました。「市場に左右されず、
有機農業をやり、
しい事業を生み出す場合は一致した経営理念が
とが明らかになりました(図2)。
用したパンや麺類、デザート、ジュースなど、さま
自分で価格を決めるためには、既存の流通システ
不可欠で、この経営理念がなくて連携がうまくい
工し、安定した流通体制づくりを急速に整え、最
ざまな用途の開発にも取り組んでいます。経営理
ムをうまく活用し、その中で付加価値を高め、価
かなかった事例はたくさんあります。地域で魅力
家が金を支払い、廃棄していた道産の規格外のニ
念は「従業員とその家族、
協力先・関連会社の従業
格決定権を持てる仕組みを考えていった方がよ
的な仕事と働く場をつくり、地域の少子・高齢化
近はトマトだけでなく、葉物野菜の通年栽培も実
員、お客様など、会社に関わるすべての人々に、喜
い」との考え方が支持され、現在、グリンリーフと
に歯止めをかけるためには経営理念が重要です。
ンジンやタマネギなどをピューレにし、それを利
びも悲しみも分かち合うことができる経営。適正
取引関係にある流通業者は二一六社にも及び、
さらに、経営理念には地域に新しい仕事を生み
出す力もあります。いくつかの企業が連携して新
利益を上げ、働きやすい職場環境を作り、従業員
とらず、酒場の主役は酒好きのお客さまだという
ランド展開し、さらに国内でも大量販売の方針は
広がっていきました。自社製の日本酒を海外でブ
うと社員が思うようになり、自主的な創意工夫が
六〇〇万人に届けています。経営理念を実践しよ
す」と、全ての商品のラベルに経営理念を入れて
販売を通じて社会に貢献できる企業を目指しま
株式会社宮崎本店(三重県)で、「酒類・食品の製造
変え、業績アップにつながった事例が酒類製造の
経営理念がファンを増やす
する経営」です。
につながることが分かりました(図1)。
いた値)や売上高DI、採算DIが良く、業績改善
と答えた企業割合から「悪い」と答えた割合を引
にとどまっている企業より業況判断DI(
「良い」
画をすべて作成した企業の方が一部のみの作成
会員企業を対象に行った調査では、理念・方針・計
つ「経営指針」の確立と実践を呼びかけています。
(ビジョン)、経営計画の三つの構成部分で成り立
同友会では企業の進むべき方向を明確にし、全
社一丸の体制で臨むために、経営理念、経営方針
していることはデータでも確認されています。
これらの例のように経営理念を作成し、外部に
発信している企業ほど業績が良く、安定して発展
経営理念は「感動農業、人づくり、土づくり」です。
は、『生活満足』の基本である、生きる・暮らす・働
ぶった農産のコンセプトは「農業」で、「このコト
バの響きを大切にしたいと考えています」「私達
売しヒットしています。
ていた米を、「まかない米」というネーミングで販
一合からの小分けパックや規格外で自家消費し
トの「米米ワールド」で少人数世帯の需要を狙い、
WEB上で新たなビジネスを模索していた両
社の思いが合致して新会社を設立、大手通販サイ
株式会社エース(石川県)の連携が評価されます。
んや古着を扱う実店舗とWEB店舗を運営する
自家栽培の野菜を使った漬物などの加工品の販
経営理念を共有して新しい仕事を生み出した
事例として、減農薬・有機質肥料で育成した米と
農と食連携で生活品質向上
「野菜くらぶ」は八〇社と取引しています。同社の
気持ちから「下町の酒場を支える名脇役」という
また、
二〇一三年一月に実施した
「被災地企業の
実態と要望特別調査」(岩手県・宮城県・福島県の
くがバランスよくミックスされてこそ本当の豊か
が自信と誇りをもって仕事をし、地域社会に貢献
役割に徹しており、口コミで「キンミヤ焼酎」の
各同友会会員企業六七三社が回答)において、震
な生活ができるということを信念に、『食と農業』
売を行う株式会社ぶった農産と、若者向けのかば
ファンが広がっています。
災後の経営活動の中で役立ったものを尋ねたと
経営理念は作るだけでなく発信することが経
営にとって重要です。理念の発信が社員の意識を
経営理念を発信してファンが増加した点では、
2016・8 AFCフォーラム 9
特集 今、ものを言う経営理念
の資源調査を行い製材所から出る端材に着目し
けないものつくりをします」をコンセプトに地域
林業の素材にこだわります。四万十川に負担をか
地域資源の可能性を切り開いた株式会社四万
十ドラマ
(高知県)
も興味深いものです。「地元の農
に役立ちたいと考えています」と表明しています。
を通して
『生活品質』
の向上と社会の豊かさの創造
十川を共有財産にあしもとの豊かさや生き方を
は古新聞を使った環境保全型の手提げ袋で、四万
ヒット商品です。そして、「しまんと新聞ばっく」
料 と して 県 内 外 で 年 間 三五 万 本 を 売 り 上 げ る
と緑茶」「しまんとほうじ茶」は、ペットボトル飲
さらに、四万十流域の茶葉だけを使った「しまん
円」という日本一高い米の販売に成功しています。
ぜるだけ」
というキャッチコピーで
「八〇㌘二〇〇
すし、景観も良くなり、土砂災害も減ります。
一%に戻すと農山村でかなりの雇用が発生しま
これらを一九六五年の自給率である七三%と七
食料自給率は三九%、木材の自給率は二八%です。
このように地域資源を活かすことは、地域での
豊かさを作り出すことにもつながります。日本の
取引先金融機関の対応
復旧に必要な機器の
他企業からの提供
取引先企業の対応
しています。
分たちが取り組んでいることをありのままに表
いう「百姓、
百商、
百笑」
が合言葉です。どちらも自
顔を生むために、モノを売るのでなく夢を売ると
年間四八万人が来場する長崎県の「おおむら夢
一〇〇の商売で一〇〇の笑
ファーム シュシュ」は、
す」をテーゼとしています。
者とともに学び、感動を共感する事業を行いま
ク手づくりファーム」は「知る、考えることを消費
難しく考える必要はありません。年間来場者五
〇万人の三重県の農事組合法人「伊賀の里モクモ
念に磨き上げてください。
供たちが「関わりたい」「継ぎたい」と思う経営理
し、経営理念をつくりましょう。そして、自分の子
を支援する業、「健康」を作る業など)を明らかに
(地域の人たちの「生きる」を支援する業、「生活」
れない経営になります。自分は「何屋さん」なのか
営方針と計画を作成して一〇年間続ければ、つぶ
感動を与える企業活動
ました。これにヒノキの油を染み込ませ、
湯船に浮
考えるネットワークを構築することで、同社が現
−10.0
その他
かべるだけでヒノキの香りが漂う「四万十ひのき
−8.8
同友会の会員企業の経験から言えば、まず経営
理念をつくり、
一〇年後のビジョンを描き、
金融機
図2 売上高増減D Iからみた震災後の経営活動で役立ったもの
在までに地元住民と協力して開発したオリジナ
業況水準DI
採算
ボランティア支援
経営指針の存在
同友会の支援・ネッ
トワーク
雇用助成金
市町村の企業復旧支
援施策
県の企業復旧支援施策
国の企業復旧支援施策
皆さんの大切にしている基本的な考えを経営
理念として成文化してください。
10 AFCフォーラム 2016・8
(前年同期比)DI
経営理念:企業の社会的存在価値や目指すべき企業像を示すもの。
経営方針:経営理念の実現を目指して3~5年の中期の目標と到達への道筋を示したもの。
経営計画:理念・方針を具体化するために単年度で何をやるか、1年間の売上高、利益などの目標、達成の手段、方策
を全体および部門ごとに定めた実行計画。
風呂」を開発し、年間二億円を売り上げています。
−4.8
−5.0
−1.6
0
売上高
(前年同期比)DI
−17.2
−20.0
業況判断
3.7
10.0
−21.1
−30.0
26.7
%
30.0
7.3
11.7
20.0
−0.9
−0.6
−5.2
−10.0
(前年同期比)DI
−20.0
10.5
10.0
−13.1
関にも手伝ってもらい、ビジョン実現のための経
20.0
−4.5
ル商品は実に三〇品目を超えます。
0
16.6
13.9
15.0
2.7
1.0
5.0
理念・方針・計画すべて作成した
すべてを作成してはいない
また、「かおり米十和錦」は「いつものお米に混
図1 経営指針の作成の有無と各種D I 指標(2012)
特集 今、ものを言う経営理念 攻めの経営展開につなぐ事業構想
農業分野において攻めの経営展開が現実的な課題になっている。農業経営
の現場に今、有用なのは経営理念や将来ビジョンなどを網羅した経営指針
書づくりである。農業経営者のニーズに応えて実施した経営指針書の策定
講座から、いくつかの大切なポイントをあげる。
Manabu Uehara
た。
仕組みを構築する農業経営者も登場してきまし
方、近年ではこうした考え方を「変革」し、新たな
農業の世界では従来から、「一人で多様な仕事を
こなす」
という労働に対する考え方があります。
一
現場で動き出した変革ニーズ
たは税金を納める行政庁との関わり、さらに地域
する金融機関や株主、
必要な許認可などを得る、
ま
業員、必要な資金を得て付加価値をもとに再分配
けでなく、必要な労働力を雇用し賃金を支払う従
したものです。原材料の仕入先、
農産物の販売先だ
す。図1は、財務諸表を基にステークホルダーを示
害関係者(以下、ステークホルダー)に示すことで
持ち、「将来ビジョン」や「目指す姿」を数多くの利
革に立ち向かう後ろ盾となります。
準備しておくことは、事業の難局を乗り越え、変
このように、ステークホルダーと自らの事業に
ついて適切なコミュニケーションを取れるように
け、規模拡大につながっています。
ればキチンと耕作してくれる企業」との評価を受
畔の管理を継続することで地域から「農地を任せ
例えば、ある農業経営者は「地域から耕作放棄けい
地は出さない」という経営理念を掲げ、地道な畦
はん
変革を目指すこれら経営者からは「新たな事業
を開始するため、行政や金融機関に支援を求めた
社会と密接につながっていることが分かります。
合していくことが内外から期待されています。
しかし現状はそれにとどまりません。外部環境
が変化する中、農業経営者にはこれに意欲的に適
事業の変革を乗り越える重要な要素です。
開示し、緊密にコミュニケーションを取ることは、
ンをこれら社内外のステークホルダーに正確に
「経営指針書」により自社の経営理念や将来ビジョ
なります。とはいえ、いきなり「経営理念」を示す
の価値判断の基準を示し、「経営指針書」の骨格と
めの重要なツールです。中でも「経営理念」は企業
「経営指針書」は、事業構想を「見える化」し、ス
テークホルダーとのコミュニケーションを取るた
カギ握る経営理念づくり
こうした中、農業経営者にとって大きなカギを
の使命を伝えたい」などの声をよく聞きます。
い」「事業を拡大するため、
周辺農家から協力を得
うえはら まなぶ
1972年新潟県生まれ。95年入庫。2014年より出資・証券化
支援室出資グループリーダー。農業分野の出融資、事業再
生、販路開拓支援などに携わる。中央大学専門職大学院修
了(MBA in Finance)。
たい」「事業を継承するため、後継者候補にわが社
上原 学
経営理念や将来ビジョンなどを網羅したフレー
ムワーク(戦略形成に役立つ思考の枠組み)である
握るのは、
しっかりとした
「経営理念
(モットー)
」
を
日本政策金融公庫農林水産事業本部
農業経営上級アドバイザー
2016・8 AFCフォーラム 11
特集 今、ものを言う経営理念
る理想工場の建設」(ソニー)、「痛みと病気を軽く
手法があります。例えば、「自由闊達にして愉快な
設立当初から「高い目的意識」に基づいて
まず、
えんえき
経営理念を導き出す演繹 的アプローチを用いる
紹介します。
の社是
「農場からシンカする」
、
経営理念
「現状に甘
県の大規模稲作経営者である有限会社穂海農耕
経営理念をまとめた農業経営者もあります。新潟
るに当たり、自社に求められる機能を洗い出し、
ができます。事業拡大、従業員の新規採用を進め
的に導き出された経営理念であると捉えること
商人による個別の観察事項の積み重ねから帰納
し、世間よし」という「三方よし」の考え方は、近江
ます。例えば、近江商人の「売り手よし、買い手よ
これに対して個別の観察事項から経営理念を
導き出す、帰納的アプローチを用いる手法もあり
な販路が拡大し売上伸長」という観察事項は、一
こ れ に 関 連 し て、特 に 注 意 す べ き 事 項 は
「キャッシュフローへの影響」です。例えば、「新た
費増、資本効率・資金繰りの悪化を指します。
(収益/資産)
・資金繰り
(売り掛け 在
+庫-買い掛
け)の改善、また「マイナスの影響」は、売上減、経
「プラスの影響」は、売上増、経費減、資本効率
与える影響に着目して区分します。
に現れます。そこで、
個別の観察事項を、
決算書に
観察事項を数字に置き換えると客観的に捉え
られますが、経営では決算書(キャッシュフロー)
SWOT生かす三ポイント
次に、「経営指針書」を策定するためのフレーム
ワークとして便利な
「SWOT」
をご紹介しましょ
)と
う。これは、
企業の内的能力の強み( Strengths
)、企業を取り巻く外的可能性
弱み( Weaknesses
売代金の決済サイトが長期化して多額の運転資
していなければ、「新たな販路拡大」は「弱み」です。
「勘定合って銭足らず」ということにならないよ
う、キャッシュフローに着目して「プラス要因」か
「マイナス要因」かを判断する必要があります。
第二点は、決算書と生産データ(生産量・資材使
用量など)を結び付けることです。これにより、収
支計画と連動させる、計画の進捗をモニタリング
する際の「検診項目」を設定し、
計画を絵に描いた
OTの利点は、経営を「プラス要因」「マイナス要
そこで、二つの分析手法を紹介します。
餅にしないことを目指します。
因」「内部環境」「外部環境」の四つの視点で切り分
「売り上げの構成要因分解」
です。「一〇
一つ目は
㌃当たり収穫量×単価」「経産牛一頭当たり生乳
)と脅威( Threats
)を適合
の機会( Opportunities
させることにより戦略を形成する手法です。SW
か「マイナス要因」かを区分することです。
する」(ジョンソン・アンド・ジョンソン)は、その好
んじることなく先進的な取り組みを行い、地域、
見「強み」のようです。しかし、新たな販路のため
給与
のは難しいものです。そこで、
二つのアプローチを
例です。
社会へ貢献すると同時に、従業員の幸福も追求す
に特殊な梱包資材を使って費用がかさんだり、販
従業員
る」は、
帰納的アプローチからたどり着いた例です。
出資
勧めします。
金を要するなどし、結局キャッシュフローに貢献
行政庁
税金
取締役(会)
純資産の部
ヒト
カネ
モノ
株主(総会)
出資者
もうけを分配
経営外の
存在
(資材業者など)
⃝金融債権者
負債の部
売掛
在庫
販売先
(銀行など)
地域社会
返済
債権者
借り入れ・社債
代表
取締役
⃝一般債権者
資産の部
けられ、簡単で使いやすいことです。
分解し、日本公庫が毎年公表している「農業経営
動向分析結果」などを使って同業他社と比較する、
生産量×単価」など、売り上げを「数量×単価」に
より良くSWOTを使うために、次の三点に着
目します。
まず、第一点は、決算書に着目し「プラス要因」
12 AFCフォーラム 2016・8
実務上、経営理念をまとめる際には「演繹的」、
「帰納的」の両方を試して、なじむ方を選ぶようお
図1 「事業」を巡るステークホルダー(ヒト・モノ・カネの相互関係)
攻めの経営展開につなぐ事業構想
らの意思で、必要な量を、必要な時期に、優位な価
「投下する財」とは、
自らの経営の「川上」にあっ
て、原材料その他外部から調達するものです。自
で、SWOTを合理的に整理できます。
ものを「内部」、それ以外を「外部」と区分すること
の経営資源(ノウハウを含む)を用いて取り組める
めの仕組み」と捉え、個別の観察事項のうち、自ら
)のフレームワークを踏まえ、事業
鎖( value chain
構造を、「投下する財を変換し、新たな財を生むた
らの力で実現できていることを確認できなければ
げが増加している」という観察事項であっても、
自
ます。これらを混在させたままにすると、「売り上
導して得たもの」が混在していることが多々あり
生産したもの」「他社から仕入れたもの」「他社を指
第三点は、事業構造を単純化して内部と外部を
整理することです。農業の場合、売り上げに「自社
「強み」が何かを見極める手法
ます。
ることで、前掲と同様の良否の把握などにつなげ
たり経費」「経産牛一頭当たり経費」などを算出す
もう一つは、「単位量当たり経費の算出」です。
特に、「従業員一人・一時間当たり経費」「一〇㌃当
ます。
の良否が数値のズレとなって定量的に把握でき
自らの過去の推移と経年比較することにより、そ
的であれば「機会」に分類します。
は「強み」、相場の変動など、もうけの源泉が他律
ができ、もうけにつながっているような観察事項
シーンを変革し、新たな販売チャネルを開くこと
海外輸出や新たな食べ方の提案など、販路・消費
違いが生じます。例えば野菜作経営の場合、自ら、
状況、代替財の有無、新規参入の可能性・難易度に
組みにより、市場規模(市場占有率)、競合他社の
「新たな財」とは、
変換を経て生み出された製商
品(サービスも含む)です。マーケティングの取り
します。
造を変革できる観察事項があれば「強み」に分類
している先もあります。自らのノウハウで事業構
技術指導によるコンサルティングを収益の柱に
に特化して野菜作の価値連鎖を変革する先、生産
機能を持つ
「流通業」的な変革を行う先や、
苗生産
分類します。例えば、
野菜作経営の場合、
在庫調整
ハウで行えれば「強み」、
そうでなければ「機会」に
源泉を特定します。また、その源泉を自らのノウ
ンサルティングタイプ」に分類し、もうけを生む
は一切動かさずノウハウを提供し対価を得る「コ
量・時間を調整して販売する「流通業タイプ」、財
たな財に変換する「製造業タイプ」、
投下した財の
も言える部分であり、投下した財に手を加えて新
「変換」とは、
新たな価値を生む活動およびこれ
を支える活動です。「もうけのカラクリ」の核心と
実現できないようなら「機会」に分類します。
ノウハウで行えれば「強み」、経営外に頼らないと
「プラス要因」があった場合、それを経営者自らの
アクションプランの完成です。「経営指針書」の仕
位に基づき、「いつ」「誰が」取り組むのか定めると、
されます。後は、BSCで明らかになった優先順
の克服に向けた取り組みの優先順位が矢印で示
ことが読み取れます。「戦略マップ」上には、弱み
図3の場合、素牛価格が上昇する中、増頭・外食
進出の前に、内部体制の見直しなどが必要という
す。
の枠ごとに、「原因」と「結果」を矢印(→)
で結びま
クションプランの骨格)を「戦略マップ」に記載し、
イナス要因」を解決するための具体的な行動(ア
区分し「弱みの因果関係」に転記します。更に、「マ
「顧客」「業務プロセス」「組織と人材」の四項目に
図3はBSCの作成例です。作成手順は、まず
SWOTを作成し、
次に「マイナス要因」を「財務」
という経営管理手法の一つです。
取り入れて、業績を多面的にマネジメントしよう
ます。BSCとは、
財務指標に加え、
非財務指標も
ンススコアカード)というフレームワークを用い
ん。そこでSWOTを補完するため、BSC(バラ
概念がなく、物事の取り組み順位が判然としませ
しかしこのままでは手順が分からないという
ことがあります。確かに、SWOTには時間軸の
取り組み内容の優先順位付け
いう四つの戦略を提示しています。
て、「積極攻勢」「差別化」「段階着手」「専守防衛」
と
上がります。図2では、「クロスSWOT」を使っ
)や価値連
そこで、五つの競争要因( five forces
「強み(内部)」とは言えません。
格などで調達できることは「強み」です。例えば、
上げとして以下のことを確認しましょう。
⃝戦略マップに現れた姿は、経営理念に沿って
最後に、「弱みの因果関係」「戦略マップ」それぞれ
野菜作経営の場合、優位な販売につながる品種の
SWOTをまとめると、「プラス要因を伸ばし、
マイナス要因をなくす」という基本戦略が浮かび
苗を、必要なだけ、当地の作期に、安く購入できる
2016・8 AFCフォーラム 13
特集 今、ものを言う経営理念
う。また、帰納的アプローチで経営理念を導いた
いた場合、当初の方向性と整合的か確認しましょ
いるかどうか。演繹的アプローチで経営理念を導
することで、経営理念が見えてくるでしょう。
から期待されている機能が何かという点に着目
図3 BSC
(バランススコアカード)作成例(肉用牛の外食進出)
⃝観察事項をできるだけ数値で捉えておくと、
将来、計画を見直す時の足掛かりになります。
外食進出
牛舎増築
強み(S)
素牛の安定確保
素牛価格見通し不安
【専守防衛】
【積極攻勢】
【差別化】
増 頭
素牛の安定確保
弱み(W)
内部環境
⃝素牛価格の上昇
⃝出荷頭数が減少する中、交雑
牛は引き合いが根強い
脅威(T)
外部環境
機会(O)
事業部門制導入
⃝内部体制未整備(家族経営の域を出ていない)。
⃝販売チャネルが少なく、販売先の取引振り変化に注意す
る必要があります。
⃝外食部門のノウハウがありません。
【段階着手】
日本公庫ではお客さまの「経営指針書」を
なお、
活用した「事業性評価融資」の取り組みを本格化
しています。これは次代の農業の担い手が取り組
む攻めの経営展開を支援するため、農業経営者の
「経営戦略」などを、
より積極的に評価する審査ス
キームです。
客観的な評価が困難な経営能力と
具体的には、
事業性について、経営者能力(経営実績や今後の
経営展開の実現可能性の根幹)、
経営戦略
(今後の
経営展開の根幹)を切り出し、定型化した項目な
どにより手法・結果を「見える化」して積極的に評
価しようとするもので、現行の審査スキームを活
かしつつ、経営戦略の明確性・具体性・必要性・実
行体制などの重点評価項目を設定しています。
この事業性評価融資に用いる経営指針書に準
ずる「経営発展プラン」は、経営理念(モットー)、
SWOTを用いた経営戦略、将来ビジョン(目指
す経営の姿)、アクションプランの四項目で成り
立っています。
*
)、「経営理念」は羅
「経営指針書」は海図( chart
針盤、「経営ビジョン」は目的地です。会社経営の
目的、使命などを明確にし、将来のあるべき姿に
向かって計画的に経営を推進することで安定し
て成長していくことができると考えます。
「構想実現」は、
出航しないと始まりません。「経
営指針書」は、
環境変化により、
絶えず新しくする
→
必 要 が あ り ま す。不 断 の P D C A( Plan
→ Check
→ Action
)に努め、将来のあるべき姿
Do
に向かって、着実な一歩を踏み出されることを願
います。 14 AFCフォーラム 2016・8
事業部門制導入
内部体制未整備
営業方法の改善
計画推進体制の整備
採算管理の強化
生産管理
在庫管理
後継者育成
外食のノウハウなし
社内アンケート
提案表彰制度
採用活動
目標管理制度
組織と人材
外食進出
少ない販売チャネル
業 務
プロセス
後継者育成
⃝交雑種・乳用種肥育。食肉卸に直接販売するルートが出荷の大宗
を占めており、これが販売管理費の節減につながっています。
⃝事故率が低く、出荷時体重、枝肉歩留まりは県平均をやや上回る水準。
⃝長男が就農し後継者確保。
⃝資本効率の良さは販売管理費の抑制によるものです。設
備投資により、この優位性が失われることもあります。
⃝施設更新を先送りし老朽化。メンテナンスは行き届いて
いるものの、増頭余力がありません。
増 頭
設備投資に伴う資本効率低下
顧客浸透率向上
クレームの減少
不良品低下
価格競争力確保
牛舎増築
顧 客
施設更新先送りによる老朽化・増頭余力低下
売上増加
利益増加
経費節減
在庫削減
戦略マップ
財 務
弱みの因果関係
戦略項目
視 点
場合、SWOTや戦略マップを通じ、経営の内外
図2 クロスSWOT作成例(肉用牛の外食進出)
日本政策金融公庫 農林水産事業
◦
今後の食の志向について聞いた
ところ、「健康志向」
と回答した割合
査結果以降、六割を超える高い割
合が維持されています。
国産支持の傾向が
このことから、
継続されていることがうかがえま
は最多の四四・六%で現在の食の志
向よりも二・九ポイント上昇してい
す。
購入経験若い世代の方が少ない
ネット通販による農林水産物購入状況
ます。また、「安全志向」と回答した
割合は二一・〇%で現在の志向より
〇・九ポイント上昇しています(図
2)。
ネット通販を利用して農林水産
物などを購入したことがあるかど
と
このことから今後、「健康志向」
「安全志向」が高まることがうかが
えます。
がある」とした回答の割合は三一・
に対する価格許容度」
の三分野のほ
にかけるか」「国産食品の輸入食品
二〇一五年度下半期調査では、こ
れまで継続して調査している「食に
を実施しています。
庫では、毎年二回、消費者動向調査
消費者の食や農林水産に関する
意識・意向を把握するため、日本公
も
「健康志向」
は、
二〇~四〇歳代ま
る傾向が見られました
(図1)
。
中で
化志向」は若年世代に集中してい
年代別にみると、「健康志向」は
高齢世代に、「経済性志向」と「簡便
二%と続いています。
なりました。
次いで
「経済性志向」
が
ト上昇し、引き続き最高の割合と
(二〇一五年七月)から〇・七ポイン
康志向」が四一・七%と、前回調査
か、
いわゆる
「価格許容度」を聞いた
輸入食品と比べ、どのくらいの価
格レベルまでなら国産食品を選ぶ
割合が増加してきています。
上昇するなど、
徐々に「気にかける」
査(三九・一%)より二・八ポイント
は四一・九%となりました。前回調
一方、外食するときに国産品かど
うか「気にかける」と回答した割合
は、七七・九%でした(図3)。
ころ、「気にかける」と回答した割合
食料品を購入するときに国産品
かどうかを気にかけるか聞いたと
たい」と回答しています。
者の二八・一%は今後「購入してみ
となりました。
が購入経験者は少ないという結果
者は三割以上となり、
若い世代の方
うか聞いたところ、「購入したこと
外食時に国産を「気にかける」が増加
か、「インターネットの通信販売(以
でがほぼ同率となり、
五〇歳代から
ところ、「割高でも国産品を選ぶ」と
ネット通販による購入意向があ
る者
(以下、
購入意向者)
は、
今後、
増
を持っており、さらに、購入未経験
また、購入経験者の九八・〇%が
「今後とも利用したい」という意向
のに対し、
四〇歳代以上の購入経験
年代別にみると、二〇歳代、三〇
歳代の購入経験者が約二割である
あることが分かりました(図5)。
八%で、
およそ三割が購入経験者で
下、ネット通販)による農林水産物
大きく上昇しているのが特徴的な
した回答の割合は、
前回調査(六四・
加に向かう可能性があることがう
減少しています。
三六・四%、「簡便化志向」が三一・
の購入状況」などについて調査しま
動きです。その一方で、二〇歳代の
一%)からわず かに 低 下し、六二・
関する志向」「国産品かどうかを気
したので、概要をご紹介します。
「経済性志向」と回答した割合が四
食に関する志 向
「健康」
「経済性」
「簡便化」上位
現在の食に関する志向では、「健
答した割合は二〇一三年七月の調
かがえます。
消費者の食の志向はどう変化しているのか、
食料・農業
をめぐる情勢の変化の中で、
消費者の意識・意向はどう
いったものか。
日本公庫が今年1月に実施した消費者動
向調査の結果について、
そのポイントをご紹介します。
八%となりました
(図4)。しかしな
●
二・〇 % と な り、前 回 調 査( 五 〇・
― 2015年度下半期 消費者動向調査 ―
がら、「割高でも国産品を選ぶ」
と回
食の志向
「健康」
が
引き続き最多
ネッ
ト通販消費に
新たな潮流
六%)から八・六ポイントと大きく
Report on research
次に、購入経験者に主な購入元
を聞いたところ、「インターネット
情報戦略レポート
2016・8 AFCフォーラム 15
Report on research
図3 食料品を購入するとき/外食するときに国産品かどうか
「気にかける」割合の推移
図1 現在の食の志向(2つまで回答)
%
90
0
80
70
70.6
77.5
73.2
77.5
80.0
79.6
77.4
77.9
10
20
30
40
60
40
35.3
34.1
25.1
39.1
35.6
39.1
経済性志向
41.9
21.5
31.2
食料品を購入するとき
簡便化志向
外食するとき
10
16.8
2012/7
52.6
60.4
13/1
13/7
14/1
14/7
15/1
15/7
16/1
(今回)
3割高を超える価格でも国産品を選ぶ
3割高までなら国産品を選ぶ
2割高までなら国産品を選ぶ
1割高までなら国産品を選ぶ
同等の価格なら国産品を選ぶ
国産品へのこだわりはない
2012/1
10
20
30
40
50
60
17.2
8.1
17.6
15.7
割高でも国産を選ぶ 58.6
2012/7
15.5
14.5
14.3
6.9
割高でも国産を選ぶ 51.2
2013/1
16.5
14.6
16.4
6.9
割高でも国産を選ぶ 54.4
70
80
25.5
90
16.7
32.1
安全志向
2013/7
25.0
13.9
2014/1
20.0
17.1
15.5
9.1
割高でも国産を選ぶ 61.7
25.7
12.5
2015/1
2015/7
2016/1
(今回)
18.8
18.0
15.8
9.0
割高でも国産を選ぶ 61.6
24.2
14.4
20.7
16.7
17.1
9.5
割高でも国産を選ぶ 64.0
24.4
11.8
20.0
17.3
18.2
8.5
割高でも国産を選ぶ 64.1
24.4
11.7
18.6
18.0
17.0
9.2
割高でも国産を選ぶ 62.8
16 AFCフォーラム 2016・8
24.7
12.6
全体
20歳代
30歳代
21.8
23.0
19.5
16.6
18.3
23.3
手作り志向
40歳代
50歳代
60歳代
70歳代
31.5
18.0
10.8
15.1
19.4
17.1
22.0
21.5
国産志向
15.2
30.5
42.8
38.5
37.6
12.3
16.0
19.9
22.3
25.1
22.8
15.9
20.9
17.2
15.1
8.1
割高でも国産を選ぶ 61.3
2014/7
%
100
28.7
23.6
42.0
46.7
41.2
39.1
20.1
図4 国産食品の輸入食品に対する価格許容度
0
27.7
27.1
20
0
43.4
36.4
50
30
%
70
60
41.7
32.0
30.2
31.9
健康志向
50
10.9
16.4
10.9
11.1
11.6
9.4
6.7
美食志向
図2 今後の食の志向(2つまで回答)
0
10
20
30
40
健康志向
44.6
34.6
経済性志向
簡便化志向
27.8
安全志向
21.0
手作り志向
21.2
国産志向
美食志向
%
50
16.6
10.9
63.1
71.0
70.6
71.4
インターネットの
ショッピングモール
%
80
図6 インターネット通販による農林水産物などの主な購入先と情報入手先
70
のショッピングモール」と回答した
36.9
割合が七一・〇%で最も多く、次い
60歳代
で「生産者や食品メーカーなどのイ
62.4
ンターネット通販」が四六・九%と
37.6
いう結果となりました(図6)。
50歳代
さらに、
ネット通販に関する情報
を主にどこから入手しているかに
77.5
つ い て 聞 い た と こ ろ、「 イ ン タ ー
22.5
ネットの検索サイト」が五五・〇%
30歳代
で最多となりました(図7)。
年代別にみると、二〇歳代は「友
人などからの情報」が二五・〇%、
「SNSなどの情報」が二三・三%と、
他の年代と比べて高いのが特徴で、
他者からの情報を頼りにしている
46.9
44.8
48.9
生産者や食品メーカーなどの
インターネット直販
傾向がうかがえます。
一方、七 〇 歳 代 で は「 イ ン タ ー
ネットの検索サイト」が六三・四%
で他の年代に比べて突出して高く
なっています。次いで、「会社、個人
26.0
26.5
25.5
ネットスーパーなど量販店の
インターネット通販
のホームページ」が四五・五%、「生
産者のホームページ」が四一・六%
と続きます。高齢世代は自らホー
77.7
全体
11.3
13.2
9.5
食品販売会社の
インターネット通販
ムページを検索したり、閲覧してい
るなどの傾向が見られました。
今後は肉類が増加する可能性
22.3
男性
女性
0.8
1.3
0.3
海外のインターネット通販
購入経験者にネット通販で購入
したことがある品目について聞い
20歳代
60
50
40
30
20
10
0
[主な購入先]
66.1
33.9
70歳代
65.3
34.7
40歳代
68.3
31.8
%
100
購入したことがない
購入したことがある
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
今後は購入してみたい 28.1%
今後も購入したい 98.0%
全体
たところ、「米」が四四・六%と最多
でした。次に「魚介類」が三八・六%、
「果物」三六・五%となりました(図
図5 インターネット通販で農林水産物などを購入したことがあるかどうか
購入意向者
0.8
その他 0.0
1.5
2016・8 AFCフォーラム 17
Report on research
魚介類
28.0
10
20
30
40
50
60
15.6
SNSなどの
情報
20歳代
10.6
14.9
9.9
4.1
2.8
3.0
32.5
30歳代
40歳代
60歳代
70歳代
55.0
50.0
48.7
53.7
52.8
57.4
63.4
インターネットの
検索サイト
26.1
22.0
13.2
生産者の
ホームページ
20.3
牛肉
26.2
11.2
豚肉
18.6
購入したもの
購入したいもの
8.2
23.3
25.4
25.2
24.8
11.7
7.9
12.7
10.6
11.3
13.9
33.9
20.0
会社、
個人の
ホームページ
15.6
12.4
6.8
9.0
18 AFCフォーラム 2016・8
41.6
11.5
TV番組
鶏卵
50歳代
23.3
23.8
野菜
鶏肉
14.5
10.4
70
全体
25.0
19.7
18.7
友人などからの
情報
36.5
果物
8)。
0
8.0
38.6
さらに、購入意向者に「今後ネッ
ト通販で購入したい品目」について
調査したところ、「米」「魚介類」
など
が高い割合となったほか、購入経験
者の「購入したことがある品目」と
比較して「牛肉」「豚肉」「鶏肉」「鶏
卵」など畜産物の割合が高くなって
います。
43.9
このため、今後に向けては、ネッ
ト通販においてこれら畜産物の購
44.6
米
図7 情報を主にどこから入手しているか
%
50
40
入が高まってくる可能性がうかが
30
えます。
20
今回ご紹介した内容を含む本調
査結果に関する公表資料は、当公庫
10
ホームページに掲載しております。
0
調査結果の詳細や関連図表などが
ご確認いただけますので、ぜひ一度
ご覧ください。( http://www.jfc.go.
jp/n/findings/investigate.
)
html#sec04
(情報企画部 大竹 匡巳)
[調査概要]
調
⃝査対象
全国の二〇〜七〇歳 代の男 女二〇〇
〇人(男女各一〇〇〇人)
実
⃝施時期
二〇一六年一月一日〜一七日
計が一致しない場合があります。
調
⃝査方法
インターネットによるアンケート
〔注〕
図については、
四捨五入の関係上、
合
図8 インターネット通販で購入したことがある品目と今後購
入したい品目
生産者などの
店舗
5.0
11.8
8.2
8.1
18.4
19.8
27.6
26.9
31.7
43.3
45.5
%
80
さん
畑に植えたワラビを
摘み取り観光農園に。
発想次第で
いろいろなことができる。
農業は、
やっぱり面白い
髙橋 医久子
岩手県西和賀町
やまに農産株式会社 代表取締役
山に行けば生えている雑草でしかなかったワ
ラビを摘み取り観光農園に変え、
経営資源に成
長する。むらに人を呼び、
お客を楽しませ、
ワラ
ビの根は粉にして、
地元名物わらび餅の原材料
に利用する。大地の富を生み出す知恵の農業。
2016・8 AFCフォーラム 19
P19:岩手県北上市出身。
「土地の気候風土にあった農業をやるこ
と が 一 番 面 白 い し、収 益 を 上 げ る こ と に も つ な が る 」と 話 す P20:
「ワラビのトロ」といわれるほど味がよい西和賀町産のワラ
ビ(右上) お客さまは主に岩手県内から(右下右) ワラビの水煮
など加工品も製造販売する(右下左) 年間10万本生産する花の
苗や水稲(24㌶)を合わせ、売り上げは約5千万円(左)
ワラビに可能性を見いだす
しれない」と感じた。最初は後ろ向きだった
明さんを説得し、五〇㌃にワラビを試しに植
稲作をメインに小果樹や野菜・花の苗生産、
ジャムやジュースなどの加工、そして観光ワ
ことができる。
で、摘んだワラビ二㌔グラムまでを持ち帰る
人でにぎわう。大人は一人当たり一三〇〇円
に面積を増やしながら、園地を整備した。つ
に生えてくる状態)まで三年はかかる。徐々
合い、
観光ワラビ園の構想が固まった。
ワラビ
んでもらえるのではないかと明さんと話し
収入をより増やそうと栽培面積を増やし
た。
さらに、
お客さまに摘んでもらったら楽し
えた。
ラビ園の四部門を持つやまに農産。社長の髙
いに〇七年、
二・四㌶の「つきざわワラビ園」を
やまに農産株式会社
五月中旬~六月下旬、
が営む観光ワラビ園はワラビを摘みに来る
橋医久子さん(六一歳)が夫、
明さん(六三歳)
オープンした。
かった。だが、この地域のワラビは苦みが少
ビは「山に行けば生えている雑草」でしかな
さんの背中を押した。地元の人にとってワラ
が町民に広く呼び掛けた。その言葉が医久子
観光客のひと言から一〇年余りたった二
〇〇二年、「ワラビを植えてみませんか」と町
すぐに行動を移すところまでいかなかった。
頃、夫婦は規模拡大に主眼を置いている最中。
える何かがあればと感じていたという。その
ているが、来た人が温泉以外にも楽しいと思
さんは声を掛けられた。確かに自然に恵まれ
「槻沢温泉砂ゆっこ」
に来た観光客から医久子
「ここは温泉以外何もないね」――。リンド
ウのハウスで作業をしていると、すぐそばの
二つのきっかけがあった。
望を受け、
その場であくを抜く体験教室も開
もらう。「あく抜きの方法を教えて」
という要
ワラビ園の横にあるハウスでは、訪れた人
全員に試食を振る舞い、収穫後には休憩して
とにした。
ゆったりとワラビ摘みを楽しんでもらうこ
うすれば来た人に喜んでもらえるか」を考
さんは農家単独の運営で規模が小さい。「ど
ルが大きい山形県のワラビ園に比べ、医久子
内し「自由に摘んでください」というスケー
位や地域でつくった組織が、来た人を山に案
に通いました」と医久子さんは言う。集落単
それにしても観光ワラビ園とは珍しい。
「山形県にもいくつかありますよ。私も勉強
次世代に渡せる農業を目指し
は根を植えて成園(根がしっかり張って次々
と結婚した一九八二年ごろは、稲作と切り花
なく柔らかいのに程よい食感がある。非農家
く。
の生産のみだった。ワラビにたどり着くには
で町外から嫁いだ医久子さんは「もしかして、
これらは、単に集客を増やすことだけが目
え、
一日三〇人限定の予約制で、せかされず、
お客さまに喜んでもらえるのはワラビかも
20 AFCフォーラム 2016・8
需要低迷でコメの価格も下がる一方だ。しか
秋田県との県境にある西和賀町の冬は長
く、一一月から五カ月間も雪に閉ざされる。
ずつ形にしていったものだ。
業をつくっていけるか」と夫婦で模索し、
一つ
ここにある資源を活かし、次世代に渡せる農
的ではなく「どうしたら農地を守りながら、
〇〇〇人ものお客さまでにぎわう。
久子さんたちの思いは届き、開園期間中は二
れ、交流人口を増やすことができるはず。医
おいしさを伝えられれば、多くの人が町を訪
然がもたらす恩恵がある。ワラビもその一つ。
は不利な条件だが、
冷涼な気候と恵まれた自
たことに確信を持てたという。農業を営むに
葉で医久子さんは今まで模索し、挑戦してき
ナスも裏返せばプラスになる」――。この言
深く刻まれている先生の言葉がある。「マイ
フロンティアスクール」
に通った。今でも心に
象に月二、三回開かれる講義「いわてアグリ
つきざわワラビ園開園の年から三年間、医
久子さんは岩手大学主催の農業経営者を対
模索しながら踏み出した一歩だ。
最初に明さんと出会った時「心底夢中に
なって向き合っている農業がどんなものか、
ワラビです」とほほ笑む。
り合いが出てきます。たかがワラビ、されど
ワラビ栽培は一石二鳥と分かれば、農家も張
言う。「春はワラビ摘み、冬はワラビ粉作りと
わらび餅が評判となり、地元にワラビを栽
培する農家が増えてきたこともうれしいと
は全て医久子さんが提供するワラビ粉だ。
餅を商品化した。わらび餅の原料のでんぷん
技術と情報交換をし合い、それぞれのわらび
農商工連携による事業だ。ついに三軒の店が
づくり協議会」
を発足した。
三軒の和菓子屋と
える。
そう考えた医久子さんは
「わらび餅の里
菓子を作れば、お客さまを呼ぶきっかけが増
を失いつつある。地元産原料のワラビ粉で和
医久子さんもワラビ栽培に先立って、地元で
早く出荷できる「超促成栽培」に取り組んだ。
在である明さんは、リンドウをシーズンより
渡すことはできない。地域のリーダー的な存
し、経営として成り立たない農業を次世代に
の技術を掘り起こし、復活させた。
だ。一九五〇年代後半以降途絶えていた地元
できないか――。これがワラビ粉製造の原点
して間引きする。間引きした根を何かに利用
根は一年で一〇倍にも増える。増えすぎる
と土中で根詰まりを起こすため、根を掘り出
かけて取り出し、精製したものだ。
た。ワラビの根に含まれるでんぷんを手間を
らび餅の原料になるワラビ粉の製造も始め
ともあり、代表には医久子さんが就いた。わ
二〇一〇年には法人化も果たした。この年、
明さんが地元JAの常勤理事に就任したこ
大地から富を生み出す
共に農業ができる日を楽しみにしている。
業関係の仕事に就く長男、
秀さん(二七歳)と
ような農園。後継者になる予定で、現在は農
さに大地から富を生み出し育んでいるかの
が訪れてくれる施設づくりも進めている。ま
ワラビ摘みができる春だけでなく、秋まで人
会社の経営理念がすてきだ。「大地から富
を生み出す」――。富はお金や利益のみなら
びをかみしめる。
とができる農業はやっぱりおもしろい」と喜
や気候風土を活かし、発想次第でいろんなこ
やってみたい」と結婚を決意した。それから
(青山 浩子/文 河野 千年/撮影)
ず、やりがい、充実感、幸福感をいうそうだ。
三〇年余り。仕事に追われる毎日だが「自然
誰も作っていない野菜や花の苗作りを始め
た。いずれも
「次世代がやりたくなる農業」
を
根の重量の五%しか採れないという貴重な
ワラビ粉。温泉客の減少とともに商店も元気
食べると元気になる有用植物(薬草やハーブなど)の展示ほ場を目玉にレストランと直
売所の建設を計画中。
「秋まで人が来てくれるような施設になれば」と戦略を練っている
2016・8 AFCフォーラム 21
フォーラムエッセイ
思い出してみると、七〇歳を過ぎた頃から五月の末を待って、雨の翌
日にイワナを釣りに行くのが楽しみになっている。私の渓流釣り歴は
もう五〇年を超える。とにかく多く釣りたかった若い頃は、
寝る間も惜
しんで近くの沢に通いつめたものだが、年を取って体力が落ち、思うよ
うに体が動かなくなると、
昔の手柄話を昨日のように語る、
口ばかりの
雨後にはイワナを釣りに行く
老人になってしまった。
しかし、まだイワナやヤマメの釣りをやめたわけではなく、楽をしな
がら結構大きなサイズのものをそこそこ釣るというやり方に変わった
だけのことだ。この庄内は広い田んぼを取り囲むように山が連なり、
イ
ワナやヤマメのいる川が無数にある。この年になったんだから何も無
理して山奥に行く必要はない。毎日通った水族館までの道をちょっと
横に逸れるだけで、いい沢に入ることができる。沢に入りやすい分、多
くの人が釣りに行くが、
それも五月の連休までで、
その後は皆さん海に
目がいって、
クロダイやアイナメ、
メバルやアジを釣るようになる。
海釣
り以外は釣りと認めない庄内人の気風は、イワナやヤマメを狙う私み
たいな者にはまるで天国のようなところだ。多くの人が入る近くの渓
流も雨で増水すれば、人ずれしていた川が一変してポイントごとに釣
れるようになる。
村上 龍男
今年も五月二八日と六月一日の二度、そんなチャンスがあり、思った
通りの釣りになった。三〇㌢メートルを超えるイワナが数匹混じって、
いいヤマメもいっぱい釣れた。欲は捨てているし、そんなに釣るつもり
ではなかったが、宝の山を前にして去るのは勇気が必要で、ついついた
くさん釣ってしまった。普通、イワナを釣る竿は張りが強く、引き抜く
のを前提にしたものだが、私にはどうもなじめない。せっかく釣れてく
22 AFCフォーラム 2016・8
れたイワナの引きを最大限に楽しむには、細くよく曲がる竿が性に
合っている。私がいつも使うのはオイカワを釣るいわゆるハエ竿で、竿
全体がふわふわして、二五㌢メートルのイワナでもよく曲がってすぐ
には寄せられない。引き回すイワナにわざとゆっくり時間をかけて手
応えを楽しみ、最後はカヤノキで自作したタモですくう。
この楽しみがあるから日々六~七㌔メートルの散歩もするし、食生
活にも気を使う。まだ当分健康でいられそうだ。 元鶴岡市立加茂水族館 館長
現シニアアドバイザー
むらかみ たつお
1939年東京都生まれ。2歳より父の実家の山形県鶴岡市に住
み、現在に至る。63年山形大学農学部卒業後、民間企業勤務。
66年加茂水族館(現・鶴岡市立加茂水族館)に勤務し、67年館
長に就任。閉館寸前にまで業績が落ち込んだ加茂水族館の奇
跡のV字回復を成し遂げ、世界一のクラゲ水族館へと導く。
2015年館長を退任し、現職。主な著書に『クラゲ世にも美しい
浮遊生活』下村脩、村上龍男共著(PHP新書、2014年)、
『無法、
掟破りと言われた男の一代記』
(JA印刷山形、2014年)など。
マーケティングも巧み
国内レンコン加工業者のトップ
リーダーが川上の農業生産分野に
参入して産地に貢献している。
今では川上の生産から川中の加
工、川下の販売までの一貫したビジ
ネス展開によってレンコンの加工
品を売り出し、市場拡大を図る徳
島県の元気企業、株式会社マルハ物
産がそれだ。
徳島県板野郡松茂町
株式会社マルハ物産
有限会社マルハファーム
設立●1971年
代表取締役会長●林 香与子
資本金●5,550万円
事業内容●農水産物加工食品の輸入、
製造、
販売。缶
詰類の製造、販売
従業員●52人
URL●http://www.maruha.org/
設立●2003年
代表取締役●荒木 末春
資本金●300万円
事業内容●レンコン、大根、タマネギ、鳴門金時芋などの
生産、販売。農作物加工の請負
従業員●11人
徳島県板野郡松茂町
広大なレンコン畑の前で生産者の方々と
[林さん
(左から4
人目)
、荒木さん
(右から3人目)]
レンコン取扱量、日本一
生産加工・販売の一貫ビジネス
マーケティングも巧みだ。徳島阿
波おどり空港のエントランスで女
性がほほ笑むひときわ大きな看板
が迎えてくれる。この女性がマルハ
物産代表取締役会長の林香与子さ
ん(六九歳)だ。
林さんの横には「れんこん取 扱
量、
日本一」の文字が並ぶ。この看板
は新ターミナルビルが運用開始さ
れた二〇一〇年からずっと掲げら
れており、地元のレンコン関係者か
らも「徳島レンコンの良い宣伝にな
る」と評判が良い。存在感を示すの
が林さんのうまさだ。
マルハ物産は、加工・業務用のレ
ンコンを手掛けてきた会社だ。「レ
ンコン加工業界のパイオニア」とし
て高い業界シェアを誇り、レンコン
がメインであるものの、キノコや野
菜の加工品も取り扱っている。
経営紹介
材料となるレンコンは、国内の産
地である徳島県、茨城県に生産拠
点を持ち、全国の産地のレンコンを
幅広く取り扱っている他、中国にも
一九七〇年代後半から進出してお
り、
年間を通じて商品を供給してい
る。
レンコン加工は創業者である林
さんの父、高夫さんが始めた。一族
は岡山県の出身で、五八年、倉敷で
日本初の酢レンコンの加工販売を
行ったのが事業の始まりだ。
林さんによると、「規格外で市場
に出荷できないレンコンを加工し
たため、生産者からも喜ばれた」と
いう。事業は好調であったものの、
事業拡大により加工材料が不足し
たため、六四年、当時日本一のレン
コンの産地であった徳島県に家族
で移転した。
加工向け
マルハ物産は創業以来、
のレンコンの集荷に注力してきた。
一方、年々生産 者の高 齢 化が進
み、生産面積の減少や耕作放棄地
が増 加する中で、地元の農産 物や
食材の生産を維持できるのか危機
感を抱いていた。
それならば、と自社での生産を考
え、二〇〇三年に立ち上げたのが農
業生産法人の有限会社マルハファー
ムだ。
2016・8 AFCフォーラム 23
経営紹介
から、他県から移り住み、生活して
栄えたところだ。「歴史のある町だ
道が普及する以前、宿場町として
マルハファームを立ち上げた当
初は困難もあったという。徳島は鉄
もったいないで商品開発
代表取締役には林さんの親族で
ある荒木末春さん
(六五歳)
が就いた。
している。
ルハ物産グループの強みを生み出
での一貫ビジネスを行うことで、マ
スクを下げ、生産から加工・販売ま
が、これはマルハファームの経営リ
林さんは「規格外品を取り扱う
ことがマルハ物産の根幹だ」と言う
産に出荷している。
外のものを加工用としてマルハ物
は花 粉 症 などにも 効 果があると、
く含まれるポリフェノールの成分
ウダー」だった。このパウダーに多
乾燥して粉末状にした「れんこんパ
そこで、マルハグループが開発し
た商品がレンコンの皮や節を温風
もに与えている」と、林さんは話す。
クリではなく、レンコンの粉を子ど
湯を飲まされていた。中国ではカタ
県産のレンコンは粘りともっちり
徳島県の土壌は砂地の強粘土で、
レンコンの栽培に向いている。徳島
食育にも力を入れている。
加工商品の開発によって地域特
産品の需要をつくる一方、地元への
のは地域みんなの思いでもある。
に、強い産品をつくりたい」という
地域の雇用維持につながる。「地元
レンコンは台風などの天候のリ
スクがあり、強風で茎が折れると地
とだ。
マルハファームの強みは、マルハ
物産という確実な出荷先があるこ
けを行うほどになった。
現在では二〇㌶程度のほ場で作付
信頼を得て、徐々に農地が集まり、
管理に取り組む姿から地元の方の
真面目に耕作放棄地の再生や営農
半面、人情味のある土地柄で、日々
轢
当時、農地の確保などでの軋
もあった。それでも、よそ者を嫌う
そもそも、皮に栄養が多く含まれ
ることは昔から知られており、古来
きるようにした、という。
全て余すことなく消費者に提供で
それまで廃棄していたレンコンを
たいない精神」を全面に押し出し、
点が明らかになった。そこで、「もっ
ところが、レンコンは栄養素だけ
でなく、近年、機能性成分が豊富な
分せざるを得なかった。
の皮や節の利用は難しく、廃棄処
心掛けてきた。それでも、レンコン
いたものは全て使う加工品生産を
に由来して、マルハ物産ではいただ
会社の発端が規
林さんによると、
格外品のレンコン加工にあること
培に取り組んでいる。
興のため、近年、主に過疎地域で栽
可能な作物だ。徳島県では地域振
豊富に含み、中山間地域でも栽培
われる機能性成分の「イヌリン」を
イモは「天然のインシュリン」とい
にした
「きくいもパウダー」
だ。キク
んでいる。例えば、キクイモを粉末
マルハグループは、地域の農産物
を使った新商品の開発にも取り組
徳島の地域振興への思い
いう。
もらうようなPRを重ねていくと
を展開し、
消費者に直接手に取って
今後は消費者と生産者をつなぐ
加工業者として訴求力の強い商品
ている。
大学などの研究機関から報告され
くことがマルハ物産、マルハファー
ワードにこうした活動を続けてい
「半世紀にわたり徳島に根付いた
企業として、徳島の地域振興をキー
えてもらう機会をつくっている。
ンへの理解を深め、若い人たちへ伝
の勉強会を開催して、特産のレンコ
の高校教諭を対象としたレンコン
ハファームは農業振興のため、県内
るためには地域の理解と教育が必
荒木さんは、後継者を育て、この
伝統的な産地を維持していきたい
している。
ではブランドとしての地位を確立
現在、徳島県のレンコン生産量は茨
した食感、うま味の強さが特徴だ。
いくには難しいこともあった」と荒
下茎の生長が止まる。これらは大き
中国では、レンコンの皮や節は漢方
ムのこれからの役割、使命」と林さ
「ひどいときには通常の収量の半分
マルハ物産にはちょっと面白い
「もったいない精神」がある、という。
さが不 十 分 な 規 格 外 品 となって、
薬として用いられてきた。「私が子ど
このような商品で利益を確保す
ることは難しいが、地域の知られざ
木さんは話す。
程度にまで下がってしまう」という。
もの頃は、風邪を引くとカタクリの
る特産品を取り扱うことは、過疎
んの思いは広がる。 (情報企画部 淺野 真宏)
要だ。取り組みの一つとして、マル
と考えている。
力強い産地を維持す
城県に次いで全国二位だが、
京阪神
マルハファームは十分な大きさ
があって市場評価を得られそうな
粉に砂糖を入れ、熱湯で溶かすくず
あつ れき
レンコンを市場に、それ以外の規格
24 AFCフォーラム 2016・8
ほんものの食べものくらぶ 主宰
手島 奈緒
S法だ。有機JASを取得しないと有機JASマー
(五三歳)
機野菜は農薬を使うから安全じゃないって
クを貼ることはできないし、有機農産物と表示する
●てしま なお ●
鳥取県生まれ。ほんものの食べものくらぶ
主宰。一般社団法人全日本ジビエ協会、N
PO法人有機 農 業参入促進協議 会理事、
新規就農 者支援ポータルサイト「新鮮野
菜・ net
」監修。主な著書に﹃いでんしくみか
えさくもつのないせいかつ﹄(雷鳥社)﹃ま
だまだあった! 知らずに食べている体を
壊す食品﹄(アスコム)﹃儲かる「西出式」農
法﹄(さくら舎)など。
本当ですか?」と、時折聞かれることがある。
こともできないが、なぜかこの他に「有機農業」とい
有
「有機野菜は牛ふん堆肥が使われているから危険だ」
かりにくいこと、そして有機農産物のメリットが「安
うだ。その理由は「有機農産物」がどういうものか分
で一〇年になるが、理解度は一向に高まっていないよ
五%しかいない。有機農業推進法が施行されて今年
有機農産物のことを完全に理解している消費者は
ていない有機農業の畑は〇・四%)しかない。さらに、
では、有機以外の野菜は危険なのだろうか? お店
で売られている野菜や果物は、農薬取締法や食品衛
危険」的な記事が話題性を持つのだろう。
のが現状である。だからこそ、冒頭のような「堆肥が
=安全」
という分かりやすい価値が一人歩きしている
だろう。しかし、そのあたりは全部置いといて「有機
これは有機農業の成り立ちを知っている者には当
たり前のことだが、一般的には理解できなくて当然
う言葉があり、有機JASを取得していないのに「私
全」に特化されていることにあるように思う。
ものは売られない仕組みになっているから危険では
等々、「有機野菜危険説」は定期的に話題になる。
有機農産物が法律で縛られることになった理由は、
一九九〇年代に「農薬を一回まいたけれど、ほとんど
ない。例えば、残留農薬基準値などは安全を数値化し
は有機農業を営んでいます」と言われたりする。
有機」
などの
「なんちゃって有機」
が世の中にあふれた
たものだが、かなり厳しい数値になっているから基
しかし、その有機農産物を栽培しているほ場は日
本の耕作面積の〇・二二%(有機JAS認証を取得し
ことにある。これらは優良誤認につながるため、「有
準値以内なら安全である。しかし、それでは安心でき
生法などの法律を遵 守して作られたもので、危険な
じゅんしゅ
機」と表示するルールが定められた。それが有機JA
2016・8 AFCフォーラム 25
主張・多論百出
ならないが、これも意外と難しい。有機は安全だと
めることもできる。土と雨とお日さまで作物ができ
また、畑に行けば虫がたくさんいて、食ったり食わ
れたりしているのを見たり、ふかふかの土を踏みし
も食べる人(消費者)の顔が見える双方向の関係のこ
思っていたら、有機JAS認証野菜にも農薬を使っ
るのだと実感し、農業は自然の一部だと理解する。こ
ないという人がいる。これを説得するのは難しい。安
たものがあると知った。農薬は悪である。では有機J
れらの経験を通じて、安全だけではない有機農業の
とを言った。お互いを知り、話をするうちに信頼関係
ASも悪なのではないか、となる。有機JASは誰が
価値を知ることもできるだろう。
心とは人の心の持ちよう。主観で理屈ではないから
どのように栽培したか、第三者が審査して与えられ
ができる。
自分の知っている人が作ったものなら安心
るから、履歴が追えること、客観性があることに優位
有機農業はそもそも安心して食べられる物が食べ
たいという都市生活者と、そういう野菜を作りたい
だ。さらに昨今、安全と安心が一緒くたに語られるこ
性がある。しかし、
それを知らず単に「有機=安全」と
という生産者がつながり生まれた市民運動である。
して食べられるし、
農薬を一回まいたと言われても気
思い込んでいると「農薬が使える」という一言で不安
しかし、食の安全が話題になって有機農産物の需要
とが多く、これも混乱のもとになっている。
になってしまう。安心するためには知識を得なくて
量が増えたことから表示のルールが定められ、お店
にならない。信頼関係とはそういうものだ。
はならないのだが、ほとんどの消費者は面倒くさい
で手軽に買えるようになり、この間になぜか付加価
安全だと言われても安心できない人は、自分が安
心できる基準、つまり自身の物差しを作らなくては
ことを調べたがらない。ではどうすればいいのだろ
値が「安全」になってしまった。
の見える関係」とは、
最近では野菜のパックに
顔写真が貼ってあることを指すらしいが、そ
る関係」
にあるように思う。 もう一度、有機農業の持つ価値を新たに認識する
ことが必要なのではないか。
そのヒントが
「顔の見え
う。そのヒントが「顔の見える関係」である。
顔
もそもは生産者の顔が見えることに加え、生産者に
有機農業の価値は安全だけではない。「顔の
見える関 係 」で有 機 農 業の価 値 再 認 識を
26 AFCフォーラム 2016・8
シリーズ 変革は人にあり
齋藤 作圓
さん
秋田県 株式会社秋田ニューバイオファーム
―― 現時点で年商が一〇億円に上る
年商一〇億円事業に育てる
ていくのかという深い思いがある。
基本には地域をどのように活性化し
別化が成功の秘訣だという。経営の
する」との考え方を前面に出した差
極的に展開してきた。
らにはレストランなど外食事業を積
九〇年代には観光農園を開園し、さ
〇年代に農産物の加工事業を始め、
人口減少と積雪寒冷地という条件
不利地帯の経営環境を打破し、
一九八
や鳥海山麓で育てた「秋田由利牛」な
の通年で食べられる「こまちだんご」
造、併せてレストランなど外食事業で
県産のコメを活用したきりたんぽ製
た「元祖秋田屋」のブランド名で秋田
同時に、冬場の屋内作業創出で始め
気を得ているのが大きいと思います。
果で、
主力の観光農園事業が根強い人
齋藤 鳥海山の自然の美しさや、
ハー
ブなど植物の香りがもたらす癒し効
ところだと思いますか。
―― 年商が伸びている理由は、
どんな
とで、地域が元気になりました。
もつながったことは一番うれしいこ
地柄にあって、一二〇人の雇用創出に
口の減少という重い課題を背負う土
組んだ結果、この額に達しました。人
―― 積雪寒冷地でのハンディキャッ
六次産業化の取り組みを進めています。
レストラン展開を始めており、さらに
て、
新宿でも秋田県の食材を提供する
プ「あきた美彩館」の運営受託に加え
付近にある秋田県のアンテナショッ
とを意識しました。
東京のJR品川駅
トに攻めの戦略で「県外貨」を稼ぐこ
付けて、首都圏の消費市場をターゲッ
地元だけの商売には限界が
しかし、
あるため、農産加工品に付加価値を
ますので、地元は一番大切です。
地域資源を使って農業生産をしてい
齋藤 六次産業化は付加価値産業化
と同義語だと思っています。私たちは
が成功の要因と言えそうですね。
―― 今でいう六次産業化を進めた点
げ増につながったと分析しています。
―― 差別化戦略を考えたきっかけは?
出稼ぎの体験から学ぶ
流通の対策を講じたことです。
を行い、大型量販店へのリサーチなど
入する限りは徹底して異業種の研究
ことです。それと、異業種の分野に参
齋藤 他にはない強みや差別化でき
る部分が何かを戦略的に探し出した
力を注いだのですか?
―― 経営の取り組みではどんな点に
組んだのが今の経営手法です。
にあるはずだといろいろ考えて、取り
みでした。
それを克服する方策は絶対
秋田県で農業を営む上での大きな悩
齋藤 稲作だけの農作業は一年のう
ち一五〇日で終わってしまい、農閑期
の原点ですか。
事業成功の秘訣は他にない差別化にあり
成功裏の向こうには地域活性の願いあり
そうですね。
どのメニュー開発で、今までにない地
プの中を模索し、克服したことが全て
を含め二〇〇日以上をどうするかが
齋藤 その通りです。ここに来るまで
は決して平たんな道のりではありま
元食材の特色を出したことも売り上
「他の地域にないものを時間差で、
あるいは付加価値を付けて生産販売
せんでしたが、
さまざまな事業に取り
2016・8 AFCフォーラム 27
変革は人にあり
と思い込んでいた秋田県産をはるか
の多様さに驚きました。ベストな品質
齋藤 日本全国から築地の卸売市場
に集荷される農産物を見て、
その品目
―― どんな体験だったのですか。
際の体験がきっかけです。
卸売市場に運ぶ貨物仕事に携わった
京汐留の旧国鉄の駅から築地などの
ろ、出稼ぎで秋田県産の農産物を、東
齋藤 出稼ぎ時代に培った卸売市場
の人脈が活きて、当時、東京昭島の社
―― 結果はどうでしたか?
出したのです。
ブランド名にして、東京で初めて売り
私たちがあえて秋田をイメージする
え、首都圏に出荷していなかったため、
齋藤 その通りです。
ところが秋田県
内の事業者は県内留まりの商品と考
工品として古くからあったのでは?
―― きりたんぽは秋田県内でコメ加
ンドのきりたんぽもその一つです。
チャレンジしました。元祖秋田屋ブラ
にしようと、さまざまな商品作りに
価値を付け、
高く買ってもらえるよう
工事業部が原点です。加工して付加
齋藤 付加価値のある差別化商品と
いう点では九一年につくった農産加
ることをつかんだのですね。
―― 物事を戦略的に見ることや考え
です。
品を作るかの、いずれかだと思ったの
するか、
強みのある独自の付加価値商
らして品薄時に高値を狙う差別化を
たり、遅くしたりするなど、時期をず
そこで、他産地の優れたものとの競
争に勝つためには、出荷時期を早くし
と知り、反省しきりでした。
私たちが五〇〇〇俵のコメをきりた
齋藤 地元の西目町のコメが、台風の
被害で二万俵しか取れない不作時に、
ね。
販売量が伸びたことは興味深いです
付加価値が付いた上に、コメ換算での
りたんぽに加工して販売することで、
―― コメ消費の低迷下でもコメをき
き、物が売れることが分かったのです。
した。組み合わせ次第で付加価値が付
パッケージした鍋物セットも好評で
もう一つは、秋田県産の比内地鶏の
ス ー プ な ど を き り た ん ぽ と一緒 に
度が高まって一段と売れました。
アピールして売り出したところ、信頼
たんぽの安全・安心ブランドを強力に
定取得工場の提携をきっかけに、きり
グループと、私どものオーガニック認
齋藤 有機質の肥料を使い、合鴨農
法でのコメ作りに取り組む有機JA
―― と言いますと?
きりたんぽを県外販売
を行ったら、これが当たったのです。
えを感じてさらに質の高い取り組み
引にも弾みがつきました。これに手応
れをきっかけに他のスーパーでの取
俵分に相当するきりたんぽが売れ、
そ
齋藤 実は、ちょっと古い話ですが、
一九六四年の東京オリンピックのこ
に上回る他産地のすごいものを目の
長さんが「スーパーで試験販売をして
んぽ加工用に使ったことや、付加価値
S(日本農林規格)認定を受けた法人
当たりにして、私は井の中の蛙だった
みよう」と卸してくださったのです。
を 付 けて 高 値で 売 り 出 せたことを
28 AFCフォーラム 2016・8
Profile
さいとう さくえん
一九四四年秋田県生まれ。七二歳。秋田県立西目
農業高校履修。その後、通信教育で東京農業大
学園芸科修了。七三年県青年農業者会議初代会
長。七六年西目町きのこ生産組合を設立し、
初代
組合長就任。七九年県農協青年部第一一代委員
長。
八七年農事組合法人秋田ニューバイオファー
ム設立。九一年西目町議会議員。九四年県農業法
人協会初代会長。九五年観光農園ハーブワール
ドAKITAを設立。二〇〇七年会長就任。
Data
株式会社秋田ニューバイオファーム
秋田県由利本荘市に本社。
一九八七年農事組合法
人秋田ニューバイオファームとして創業。資本金
八〇六〇万円。代表取締役社長は鈴木幸夫氏。創
業者は齋藤作圓会長。ハーブなどの観光農園事業、
農産事業、きりたんぽ製造の元祖秋田屋など農畜
産加工事業、外食事業までの六次産業化で幅広く
事業を展開している。従業員はパート職員含め一
二〇人。年商一〇億円。
珍しさもあって、初日だけでコメ一〇
観光ハーブ園で経営を力強く語る齋藤作圓さん
に一億円もダウンしてしまいました。
齋藤 年商が四億円まで伸びた頃に、
突然のバブル崩壊で売り上げが一挙
営危機に見舞われたとの話も?
―― バブル崩壊で年商がダウンし、経
危機時に厚い地域支援
るべきだと学びました。
目経営を基軸に据え、
リスク回避を図
びました。それをきっかけに少量多品
かったことで、複合経営の重要さを学
どの 加 工 事 業 部 門 は 影 響 を 受 け な
態でしたが、たまたま、きりたんぽな
けて収穫予定のミニトマトが全滅状
万円近い被害額となり、
秋から冬にか
てしまいました。その当時、六〇〇〇
年秋の台風一九号で鉄骨ごと倒壊し
を得て作ったビニールハウスが、九一
齋藤 一九七二年にオランダで見学
した大型の水耕栽培ハウスにヒント
で学んだことはありますか。
―― 予期しない危機に遭遇したこと
なり得るとの証明にもなりました。
略を持てば農業は十分に成長産業に
うです。要は、
発想の転換が重要で、
戦
コメの用途開発の重要性を知ったよ
発想が重要だという主張です。
ました。
いずれも農業には企業経営の
全国農業法人協会の設立にも関わり
あって、私は一九九四年に全国初の県
きだと訴 えました。そのこだわり も
齋 藤 農 協の青 年 部や役 員 時 代は、
農協も農業経営の法人化を進めるべ
に就いていた時代もあったのですね。
員、合併後の由利本荘市議会議員など
農協青年部委員長や、西目町議会議
―― 齋藤さんは企業経営の他、秋田県
ていなかったと思いました。
た結果で、私たちの取り組みは間違っ
域を活性化する事業活動が評価され
支援があったのは、農産物加工など地
んも大変だったにもかかわらず資金
を得ました。バブル崩壊で地域の皆さ
齋藤 そうです。とてもありがたかっ
たですね。当時、四〇〇〇万円の出資
くの人たちの支援の結果?
―― 現在の資本金八〇六〇万円は多
社にしました。
外部資金を導入するこ
齋藤 いろいろ考えた結果、
事業拡大
を目指し、農事組合法人から株式会
ワークと考え活動を絞りました。
法人化ネットワークづくりをライフ
化が進み農業現場に担い手が不足す
条例を法制化しました。しかし、高齢
の技術革新に財政支援を行う市農業
いろいろ活動しました。例えば、農業
農業現場の課題をアピールするため
わりました。こういう性格ですから、
年間は企業経営の傍ら地方政治に関
齋藤 市町村合併で統合した由利本
荘市の市議会議員を含めて六期一九
課題を地域政治に反映された?
―― 議員の時代は、農業経営の改革
農業法人ネットワーク化
人材の確保も重要なことです。
技術)
などを駆使して技術開発できる
要なことと、そしてICT(情報通信
発想し行動する経営人材がもっと必
じるのは、企業経営の手法で戦略的に
す。いろいろな農業の現場を歩いて感
万円で出資を仰ごうと、
考えたのです。 でも差別化戦略で頑張っているので
と、端的には地域の人たちから一口五
―― 波 瀾 万 丈 の 人 生 で す が、秋 田
くり、初代会長に就きました。さらに、 る現実を目の当たりにしてから、農業
組織である秋田県農業法人協会をつ
ニューバイオファームの今後は?
は人口減少や積雪寒冷地の逆境の下
慢するわけではありませんが、私たち
齋藤 農協や農業法人協会の活動で
常にアピールしたのはその点です。自
人々の関わりで生かされている」という
県でハーブでの癒しや健康づくりの
農業振興や観光振興事業です。茨城
その一つが茨城県から委嘱を受けた
なプロジェクトに取り組んでいます。
テーマになると考え、全国のいろいろ
私は安全や安心に裏打ちされた健
康社会づくり、
心の醸成などが重要な
きていると自負しています。
します」で、それらを着実に実践して
農業を通じ、健康産業として食文化
立てるかを目指します。一、私たちは、
を通じ、どれだけ多くの人々のお役に
に努め、
豊かで高度な郷土づくりを目
及び観光産業を通じ、地域の活性化
齋藤 私たちの経営理念は、「一、私た
ちは、農業生産並びに、農畜産物加工
掛けようと?
―― これからは、どのようなことを手
る役割を果たしたいと考えています。
ドAKITA」を世の中にアピールす
ブが楽しめる観光農園「ハーブワール
ました。私は世界の二五〇種類のハー
(経済ジャーナリスト 牧野 義司)
また、茶道の裏千家の稽古で知った
「人は一人では生きられない。全ての
里の具体化を目指しています。
を育み、社会に存在する意義を目指
指します。
一、
私たちは、
農業法人経営
込んだ鈴木幸夫現社長に経営を託し
私も大慌てで、資金繰りに窮する状
―― 担い手減少など課題を抱える日
知った地域の農業者は、驚くと同時に
況でした。
ことを大切にしたいと思っています。
―― どういった対応策を取られたの
材次第で十分にチャンスがあると?
本農業も差別化戦略づくりや経営人
ですか?
齋藤 農協の青年部時代から頼もし
い男だと思い、組織づくりの手腕を見
変革は人にあり
2016・8 AFCフォーラム 29
耳
よりな話
連載 第173回
天敵の活用で減農薬体系を実現
国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
中央農業研究センター 虫・鳥獣害研究領域 研究領域長
関心の高まりに対応できる、農薬に頼らない害
りますが、環境保護や消費者の安全・安心への
多くの場合、
農薬の散布が主な手段とな
物生産には害虫の防除が欠かせません。
ナスやシシトウの栽培体系が確立されていま
する方法により、殺虫剤をほとんど使用しない
コカスミカメを維持し、これを施設に随時導入
の植物上で野外から採集した土着天敵のタバ
す。具体的には、遊休ハウスに植えたゴマなど
作
虫防除技術の開発に期待が寄せられています。
す。土着のタバコカスミカメを活用した野菜の
害虫防除の取り組みは、
鹿児島県や徳島県でも
害虫を捕食する、あるいは害虫に寄生する
「天敵」を利用して害虫の被害を減らす生物的
行われています。
る農薬の使用を控えること
防除の試みは古くから行われてきました。
安定した技術として普及し
はもちろんですが、天 敵が
土着天敵の活用は、露地作物にも広がりつつ
あります。天敵に影 響のあ
た例は多くはありません。
天敵が好む植物をほ場の内
しかし、それぞれの天敵が防除できる害虫の
種 類 が 限 られることか ら、
これまでに、施設栽培を
対象に海外から導入された
外に植 えて、定 着や増殖の
自由に移動できる露地では、
「外来天敵」を含む複数の天
進められています。使用場所と同一の都道府県
などを捕食する天敵であるヒメハナカメムシ
露地ナスでは、農薬使用の工夫に加え、オク
ラやマリーゴールドを植栽して、アザミウマ類
ごとう ちえ
1959年北海道札幌市生まれ。子供時代を岩手県盛
岡市で過ごす。北海道大学農学部農業生物学科卒
業後、農林水産省北海道農業試験場入省。2016年4
月から現職。主な研究テーマは、害虫の天敵生物、
天敵微生物の利用。
手助けをすることも重要な
ポイントになります。
リンゴやかんきつ類では、
薬剤の種類を選び、下草を
維持する管理を続けて土着
天敵であるカブリダニ類を
保護し、害虫のハダニの発生
内で採取されたものであることなど、一定の条
類を保護し、薬剤防除の回数を大幅に減らした
を抑える体系が実用化されています。
件はありますが、昆虫、ダニ、クモ類などの天敵
体系が実証されています。
Profile
敵が生物農薬として登録さ
れており、イチゴやピーマン
ではこれらを中 核 とし、薬
剤使用を抑えた防除体系が
実用化されている産地もあ
に加え、その地域にもともと生息する土
年は市販の生物農薬
ります。
近
を採集・増殖させ、農薬登録が不要な特定防除
ページに近く掲載される予定です。
資材として害虫防除に利用することができます。
着天敵を活用した防除技術の開発も精力的に
タバコカスミカメ成虫 体長約4㎜
農林水産省委託「土着天敵」
これらの技術は、
プロジェクトの成果として農研機構のホーム
高知県では、
生物農薬のみならず特定防除資
材としての天敵の利用が盛んに行われていま
30 AFCフォーラム 2016・8
後藤 千枝
長崎県対馬市
総合政策部 市民協働・自然共生課 係長
過ぎていくケースがどこの地域でもあります。
かって何も状況が変わらず時間だけがどんどん
ティア頼みでは長く続かない、というカベにぶつ
人材を雇い上げる財力もない、かといってボラン
れを担えるような人材が周囲にいない、外部から
地域の活性化のために何かワクワクするプロ
ジェクトをやりたい、といった発想があっても、
そ
負のスパイラルを打ち切る
常に素材の多い場所であるといわれています。
化的遺物や風習などが残っており、学術的にも非
考えられています。それを象徴するさまざまな文
全てが対馬を経由して日本本土に渡っていたと
その地理的特徴から、海路しか交通手段がな
かった古代においては、大陸より伝来するものは、
境の島です。
からなる総面積七〇八・八九平方㌔メートルの国
沖ノ島、島山島の六つの有人島と一〇二の無人島
しています。対馬島を中心に海栗島、泊島、赤島、
減となっています。また、高齢化率は、
一〇年調査
万四四〇七人と、
〇五年の調査に対し一〇・六%の
を得ません。
人口は、
二〇一〇年の国勢調査では三
題となるなど産業も衰退気味であると言わざる
しかしながら、他の離島の例に漏れず、人口減
少、高齢化が進み、それに合わせ後継者不足が問
の採取、沿岸での定置網漁業も盛んです。
はえ縄漁、サザエ、アワビの採取、ヒジキ、海藻類
イカ釣漁業が主ですが、鯛やブリなどの一本釣り、
周囲を海に囲まれており、さらに対馬暖流が流
れることから、漁業が主要産業となっています。
ま
その結果、
住民は「何もやれないんだ」という挫
折感だけが強まり地域そのものが衰退するとい
う負のスパイラルを生み出すこともあります。実
パイラルに歯止めをかけるチャレンジです。
さまざまな取り組みを行いました。まさに負のス
そこで、私たちは国の地域おこし協力隊制度を
活用して、「対馬市島おこし協働隊」を立ち上げ、
りました。
生物保護センターがあります。
れらの野生生物の保護・研究を行うため対馬野生
世界でも有数の野鳥の観察地になっています。こ
生息しています。さらに渡り鳥の中継地として、
い生物や、朝鮮半島などの大陸系の動植物が多く
ヤマネコをはじめ、ここでしか見ることのできな
数で対応しながら、さらに新たなプロジェクトを
ていました。多様化する市民のニーズに少ない人
合併より職員数適正化の下、職員数が年々減少し
した。しかし、行政内部では、
〇四年三月の市町村
この状況を打破するために何かを行わなけれ
ばならない、と私たち行政も強い危機感を感じま
は、長崎県対馬市にもそういった根深い問題があ
対馬市は九州最北端、博多港から一三八㌔メー
急速に高齢化が進行しています。
時が二九・四%となっており、
一九九五年ごろより
トル、韓国の釜山まで四九・五㌔メートルに位置
小島 繁 樹
島は危機感よりも「楽しい」が原動力
五人が定住し、
元気にする活動は続く
り
く
むらづ
くり
づ
また、面積の約八九%は森林であり豊かな自然
に恵まれている島には、国の天然記念物のツシマ
まちづくり
ットコム
連載 地域再生への助走
ド.com
ち
らづくり
む
り
くり まちづ
らづ
く
む
2016・8 AFCフォーラム 31
まちづくり むらづくり
対馬市では一一年、「対馬市島おこし協働隊制
度」を立ち上げました。取り組んでもらう事業を
四〇〇万円を上限に国が負担します。
む国の制度です。隊員の人件費や活動経費は一人
市町村の委嘱を受けて地域活性化などに取り組
こし協力隊は、都市から過疎地域に住⺠票を移し
そこで議論の末、冒頭に申し上げた地域おこし
協力隊制度を活用しようと決めたのです。地域お
ていたのです。
いるマンパワーを補充していく必要性を痛感し
立ち上げるのは難しいことでした。島に不足して
関しての取り組みに応募者が多く集まります。
してきました。島の特性から特に固有の動植物に
ルする「島の食材プロフェッショナル」などで募集
承の保全」、
島の食材の魅力を島外に向けてアピー
が持つ技術の伝承と見える化に取り組む「民間伝
と共生を課題とする
「生物多様性の保全」、
高齢者
地域の課題を収集し、今までに希少動植物の保護
が来てくれると考えたのです。役場の各部署から
することで、ミスマッチがなく、また熱意ある人
ました。そこで募集時に事業内容を具体的に明示
なっているところが少なからずあることを知り
が、地域で求める人材とのミスマッチが問題と
な状況でした。市では狩猟者へ補助金を出して捕
え、さらに土がぽろぽろと崩れ落ちはじめるよう
の一〇年前まで草で覆われていた山は、地肌が見
島ではイノシシ・シカによる農作物や木材・山
林の植生への著しい被害に悩んでいました。ほん
を紹介しましょう。
ター」として取り組んでくれた隊員と住民の活動
二〇一三年から「有害鳥獣ビジネスコーディネー
念ながらその全てをご紹介できませんが、今回は、
解決と活性化に大きく寄与してくれています。残
員がそれぞれのミッションに取り組み、島の課題
二期生三人を含め総勢一六人の島おこし協働隊
獲を進め、狩猟したイノシシ・シカの大多数を埋
あらかじめ決め、それについて専門的知識を持つ
人を募集していることが私たちの特徴です。「対
没処理してました。この有害鳥獣を資源として有
総務省の地域おこし協力隊制
度を活用して、対馬が抱える多
様な課題解決を目的に2011年
に結成。11年の1期生5名を皮
切りに13年の2期 生3名、14年
の3期生3名、15年の4期生5名
を島外から採用する。1期生、2
期生は任期を終えて卒業してお
り、現在3期生と4期生が活躍中。
隊員は専門のスキルを活かして、
住民と共に地域課題の解決に
取り組んでいる。
1978年長崎県下県郡美津島町
(現対馬市)生まれ。2002年美
津島町役場入庁。04年市町村
合併により対馬市職員。
地域振
興課、水道局、観光商工関係部
14年より総合政策部
署を経て、
勤務。対馬市島おこし協働隊の
マネジメントをはじめ、島への
移住、定住施策を推進してい
る。対馬の振興のために日々邁
進中。
効活用するという課題を解決できる人材を募集
32 AFCフォーラム 2016・8
島おこし協働隊の新しい視点
現在までに既に任期を終えた第一期生五人、第
上:イノシシ・シカは食肉以外に皮の活用も進む。レザークラフトによる
手仕事が生まれ産業になるよう促進中
下:イノシシを捕獲する有害鳥獣ビジネスコーディネーター
馬市島おこし協働隊」の導入に当たり、先行導入
小島 繁樹 こじましげき
対馬市島おこし協働隊
していた市町村の情報を収集・調査を行いました
profile
まちづくり むらづくり
よびビジネス性に関する調査研究をすることな
こと、イノシシ、シカの全ての部位の経済価値お
肉および皮資源の安定的調達方法を検討をする
製造、試験販売などのコーディネートをすること、
肉および皮資源の製品化に係る生産体制の構築、
することにより、農林業被害の軽減を図ること、
民や狩猟者が積極的に自助努力(有害鳥獣対策)
を創出し、その経済的インセンティブによって市
ミッションは有害鳥獣(イノシシ、シカ)の資源
化をコーディネートすることにより、島の新産業
性が採用されました。
しました。その結果、獣医師の資格を持つ若い女
に思います。
う隊員への感謝の気持ちも広がっていったよう
して掘り起こしてくれたことにありがたいとい
ものでしかなかった鳥獣を新しい見方で資源と
したという声が上がりました。今まで、やっかい
秋の産業祭などで、住民にもソーセージなどを
食べてもらいましたが、そのおいしさにびっくり
つ開かれていきました。
あった有害鳥獣資源の有効活用の道筋が少しず
一部売られているだけで、ほとんどが未利用で
の新たな物産として販売されました。精肉として
さまざまな商品を作り上げていき、それらは対馬
シシソーセージやベーコン、アイスヴァインなど
て喜びを共感して、次へのエネルギーにつなげる
隊員は、関わり方の選択肢を挙げること、「あな
たたちだってきっとできる!」
と励ますこと、
そし
発的に取り組むようになったのです。
囲気がありました。でも、隊員と接するうちに自
たちのことであるのにどこか他人事のような雰
かっているはず」というような意識があり、自分
をすることで市から補助金がもらえるからもう
分の土地にわなを設置させてやっている」「捕獲
また、捕獲者と被害者の間にはコミュニケー
ション不足があったために、被害者側からは「自
動をするようになったのです。
ちでできると分かると、自信が湧き、積極的に活
ことがとても大切だと強く感じる、と話します。
ための第一歩であると考えたのです。
確な捕獲・防護の状況を知ることが対策を進める
報として整理をしていませんでした。隊員は、正
ついても、報告は受けていたものの分析可能な情
いて把握できていませんでした。また捕獲箇所に
所は把握していましたが、個人が設置した柵につ
それまで対馬市では地域の要望を受けて防護
柵を支給し地域が設置を行っており、その設置箇
の方もおられました。実際にわなの設置を一緒に
ら自分たちにだってできる」と言ってくれる地域
策になるということなどを伝えました。「それな
隊員は、学習会で捕獲をするだけが被害対策で
はなく、身の回りの雑草の手入れなども重要な対
獲隊の結成などを行いました。
開催しました。そして地域の人が構成員となる捕
あり方について考える場づくりとして学習会を
現状を客観的に見てもらうために、今後の地区の
対して積極的にフィードバックしました。地域の
そこで、調査実施してきた現場状況を地域住民に
また、状況調査の中で被害対策に対する地域住
民の理解・知識・技術不足が明らかになりました。
課題解決にまい進し、新しい提案や気が付かな
かった価値を掘り起こしてくれる島おこし協働
ありがたいことです。
に島を盛り上げようとしてくれています。本当に
人、友人なども都市部から移住して、住民と一緒
な取り組みに挑戦しています。さらに、隊員の知
材を使った商品作りなど、新しい視点でさまざま
今までに任期を終えた隊員のうち五人もの人
が定住してくれ、彼らは地域づくり活動や島の食
私たちは学びました。
て、危機感から行動が起きるわけではないことを
こも「楽しい」を原動力に動いているのです。決し
れがちですが、問題対策が成功している地域はど
地域でコミュニケーションの輪
どです。
まず隊員は、GIS( Geographic Information
次に活用されていなかった肉処理施設の改修
を行い、そこで有害鳥獣の食肉加工を地域の女性
してみると「こんな仕組みだったんだ! これなら
隊。今後もこの制度に磨きをかけ、彼らと共に対
課題を抱えた地域の問題を解決する時、その問
題をいかに抑えるかといったことに重きが置か
四人と共に始めました。
私たちにだって手伝えることがある!」と生き生
馬を元気にする活動に取り組んでいきます。 、地理情報システム)を使って有害鳥獣防
System
護柵の設置状況と捕獲状況の調査を手掛けまし
とはいえ、食肉加工についての知識や経験を
持っているわけではなかった隊員らは、他の食肉
きと話す地域の女性たちも多数いました。自分た
た。
加工場などを視察し、手探りで手法を学び、イノ
2016・8 AFCフォーラム 33
書評
百姓たちの近世』
くさやま
1,700円
2 亡国の密約 TPPはなぜ歪められたのか
山田 優、石井 勇人/著 新潮社
1,500円
3 バターが買えない不都合な真実
山下 一仁/著
3,200円
荒幡 克己/著
日本経済新聞出版社 2,600円
9 GDP4%の日本農業は自動車産業を超える
窪田 新之助/著
講談社
西田 栄喜/著
農山漁村文化協会 1,700円
では「里山」と言えば、雑木林を連想するが、近世
では「草山」が多かった。なぜなら、草や柴が田畑
みずあらそ
840円
昭和堂
書評
『村
水本 邦彦 著
むらあらそ
くさごえ
農林水産法令研究会/編 学陽書房
の肥料や馬や牛の餌として、最も貴重だったから
きん ぴ
ていた。面白いのは「休み日」で、
多い村では、
年間
6 農林水産六法 平成28年版 13,000円
明田 作/著
である。村争いも水争いと並んで、草刈りのトラ
あぶらかす
とになる。ちなみに労働の二割が日雇いであるこ
このことは現代の百姓や農業関係者にとって
も、重要な価値観の転換をもたらしている。旧・歴
に三九日、少ない村では、二九日であった。ちなみ
経済法令研究会 4,500円
5 農業協同組合法〔第二版〕
ブルが多い。
一七世紀初頭から一世紀の間に、
新田開
しかし、
発によって石高は一・三倍、人口は二・五倍に増え
る。当然草山が不足する。過剰な刈り取りは
「はげ
ほし
山」を招き、水害が多発するようになる。「土砂止
か
め」工事として「植林」が命じられる。そこで「干
おきて
鰯」や「油粕」などの金肥の需要が増える。草肥は
著者は「歴史」を正直に語っている。若い頃は
「マルクス主義に主導された戦後歴史学」の影響
とには驚いた。
「歴史」の読み方の転換
村の掟で平等に刈り取ることができたが、金肥は
下層百姓は買えないので、日雇い稼ぎで貨幣獲得
で、
村の歴史を「否定し解体すべき封建的な」もの
宇根豊 (百姓・思想家)
として見ていたと認めているからだ。それが大き
こうした日常の細部の描写が近年の歴史記述
の特徴だ。自治が貫かれていたからこそ、村には
に走らざるを得ない。貧富の格差が増幅されるこ
く転換するのは八〇年代後半だ。否定すべき近世
な ぬし
個性があった。それは村の「掟」によく現れている。
しょう や
の村は、「新鮮な異文化の社会」として映るように
年貢を納める責任者である庄屋(名主)の選出は
史では、虐げられていたと習った先祖の百姓は、
に私の村でも十年ほど前までは、「農休日」が一二
なったと告白している。
じつは領主に依存しながらも対立・自立し、自分
日あった。これも近世からの習慣だったと初めて
「入れ札」(選挙)が多く、任期も村によって異なっ
たちで仕切る「村」をつくりあげていたのだ。現代
知ったのである。
私たちの読み方も転換しているのである。
ここで私は重要なことに気づいた。現代に活か
そうとするからこそ、新しい「発見」があるのだ。
に引き継がれている「村」の自治は、
織田、
豊臣、
徳
川の時代、つまり「近世」に成立したのだった。
本書は「シリーズ日本近世史」の第二巻目であ
る。著者は当時の村の景観から語り始める。現代
34 AFCフォーラム 2016・8
光文社
定価
1 農業と経済 2016.6臨時増刊号 TPP合意 日本の農と食を再考する 890円
8 減反廃止 農政大転換の誤解と真実
10 小さい農業で稼ぐコツ
820円
出版社
著者
タイトル
農林統計協会
7
谷口 信和/編集代表、
日本農業年報62 基本計画は農政改革とTPPにどう立ち向かうのか 日本農業・農政の大転換安藤 光義/編集担当
幻冬舎
飯田 泰之、木下 斉、川崎 一泰、
地域再生の失敗学入山 章栄、林 直樹、熊谷 俊人/著
4
三省堂書店農林水産省売店(2016年6月1日~6月30日・税抜)
読まれてます
(岩波新書・780円 税抜)
を迎えました。
チャー講座」の一つで、
今年で四年目
し よ う と す る「 京 都 府 農 業 ベ ン
や農業分野で起業する人材を確保
経営学などを学ぶ大学生に農業
の現状や魅力を伝えることで、就農
て講義を行いました。
化など、農業ビジネスの動向につい
企業の農業参入や農業の六次産業
四月二五日、京都産業大学の学生
二五〇人を対象に、日本農業の現状、
農業ビジネスの動向について
大学生に講義
の六次産業化と輸出促進について
目的に、農業をめぐる情勢や農業
品ビジネスへの理解・興味の醸成を
ます。今回は農業の現状や農業食
レートファイナンス」を開講してい
識習得を目的に、専門科目「コーポ
日本公庫では二〇一一年から中
小企業の実態や経営分析の基礎知
ついて講義を行いました。
業の概要と農業ビジネスの動向に
六月二九日、三重大学人文学部
の学生約四〇人を対 象に、日本農
コーポレートファイナンスで
農業ビジネスを学ぶ
ントがつかめました」「地域との共
た。参加者からは「六次産業化のヒ
想まで幅広くご講演いただきまし
の六次産業化の歴史から将来の構
ファームの松岡義清社長より、自社
まご庵」を運営する株式会社コッコ
熊本県菊池市で養鶏業の傍ら年
間一一〇万人が訪れる直売施設「た
など九七人にご参加いただきました。
産業化セミナーを開催。農業経営者
六月二九日、宮崎県農業法人経営
者協会などとの共催で農業の六次
事業化へのヒントが示された
六次産業化セミナーを開催
りエントリーの受付を開始していま
応募をいただきました。七月一日よ
前回の第三回グランプリは、全国
二六四の高校から二三三三件のご
と考えています。
ウを起業教育の現場に還元したい
切であり、日本公庫の経験・ノウハ
次世代を担う若者を育てる「起
業教育」が、これからの日本には大
プラン・グランプリ」を開催します。
全国の高校生を対象とした「第四
回創造力、無限大∞高校生ビジネス
創造性あふれる高校生の
ビジネスプランを大募集
当 グランプリ をご紹 介 く ださい。
す。お知り合いの高校生の方に、
ぜひ
感想が寄せられ、講演後の交流会
電話〇三-三二七〇-一三八五
生の重要性を認識しました」
などの
では講師を囲み、活発な意見交換
説明しました。
講義を通じて、少しでも農業に興
味を持っていただけたのなら幸い
学生からは「農業の置かれた状況
が理解できました」「農業に参入す
る場合の留意すべき点が分かりま
した」など農業への関心を示す声が
前回グランプリを受賞した青稜高等学校(東京都品川区)
(グランプリ運営事務局)
(宮崎支店)
が行われました。
参加者は興味深い講演に耳を傾けていました
です。 (津支店・情報企画部)
学生は農業の現状について真剣に受講していました
(近畿地区総括課)
寄せられました。
熱心に聞き入る学生たち
2016・8 AFCフォーラム 35
『事業性評価融資』
のご案内
日本公庫では、次代を担う農業の担い手が取り組む攻めの経営展開を支援するため、農業者の皆さまの「経営者能力」や「経
営戦略」を、より積極的に評価する新たな審査スキームとして『事業性評価融資』の取り扱いを開始しました。
* * * * *
新たに開始した『事業性評価融資』により、
これまで以上に積極的な融資対応を図るとともに、
目標達成に向けたきめ細やか
なフォローと支援を行うなど、コンサルティング機能をさらに発揮し、担い手の育成や経営のサポートを行ってまいります。
⃝
『事業性評価』って何ですか?
金融機関が現時点での財務データや保証・担保にとらわれず、企業訪問や経営相談などを通じて情報を収集し、事業の内容
や成長可能性などを適切に評価することです[
「円滑な資金供給の促進に向けて」
(2015年7月金融庁)]。
⃝日本公庫は具体的に何を評価するのですか?
客観的な評価が困難な経営能力と事業性について、①経営者能力(経営実績や今後の経営展開の実現可能性の根幹)、
②経営戦略(今後の経営展開の根幹)を切り出し、定型化した項目などにより手法・結果を見える化して積極的に評価しようと
するもので、現行の審査手法を活かしつつ、以下の重点評価項目を設定したものです。
【 重点評価項目 】
経営者能力
評価項目
着眼点
経営戦略
①人間力
意思の強さ、行動力、リーダーシップ、柔軟性を持っているかなど
②技術力
地域の標準単収以上の生産技術を有し、技術向上に努めているかなど
③マネジメント力
財務状況を把握し、経営課題に対して機動的に対応できるかなど
④地域親和力
地域の中で円滑に経営展開できているかなど
①明確性
経営理念、将来ビジョンは明確にされているかなど
②具体性
経営の強み・弱みを踏まえた具体的な経営戦略が立てられているかなど
③必要性
事業は経営戦略上必要であり、実施のタイミングは適切かなど
④実行体制
事業を実行する役職員の役割分担と責任が明確化されているかなど
⃝
『事業性評価融資』
を利用するにはどうすればよいですか?
事業性を評価させていただくため、資金の借り入れご相談時に、経営理念、経営の強み・弱み、目指す経営の姿および経営
戦略を記入した「経営ビジョンシート※」を提出していただく必要があります。
また、日本公庫が行った事業性の評価結果を基に、経営課題に対する解決策や今後の経営戦略、具体的な行動計画などを
「経営発展プラン」にまとめていただきます。
※「経営ビジョンシート」などの様式や記載例は公庫HPにも掲載しております。
URL:https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_nourin.html
『 事業性評価融資 』の 流れ
①経営の悩み・ご相談
[お客さま]
●ご相談時に既存資料(農業経営改善計画、決算書など)
を持参してください。また、
経営ビジョンシートの作成
について打ち合わせを行います。
②経営ビジョンシート作成・提出
[お客さま]
●自己の経営を改めて振り返り、
“強み”と“課題”を把握した上で、経営ビジョンシートを作成してください。な
お、提出時に面談を行い、経営ビジョンシートの内容について説明していただきます。
③事業性評価書のフィードバック
(事業性の評価)
[公庫]
●経営ビジョンシートなどを基に、公庫本店(営業推進部)で事業性の評価を行います。事業性の評価結果を
「事業性評価書」に取りまとめ、お客さまにフィードバックします。
●なお、通常の審査も並行して実施します。
④経営発展プランの作成・提出
(融資決定・契約の締結)
[お客さま・
公庫]
●事業性評価書を踏まえ、今後の経営戦略と戦略を実施する上での課題、具体的な行動計画を公庫と一緒に
検討し、
「経営発展プラン」に取りまとめていただきます。
●融資決定後に金銭消費貸借契約を締結します。
⑤融資後の経営支援
[公庫]
●公庫は経営発展プランの実現に向けて、販路開拓、マッチング、経営診断など、融資以外の経営支援を行います。
ご留意いただきたい事項
■事業性の評価は通常の審査に加えて実施するもので、
事業性の評価結果のみで融資の可否を判断するものではありません。
■資金ごとに対象者・使途などの要件がございます。詳しくは、
最寄りの日本公庫支店農林水産事業までお問い合わせください。
36 AFCフォーラム 2016・8
♥私の海外旅行での経験を思い起
こすと食の思い出が多く、
また海外
で堪能した食を日本でも目にする
と親しみを感じます。
窪田新之助さんの特集を読んで、
五輪をきっかけに、すしなどの有名
な日本食だけではなく、地方の伝統
食が広がるといいなと思いました。
(秋田支店 北川 万規衣)
♥「農と食の邂逅」の記事を読み終
えて、グウッとおなかが鳴りました。
妙子さんのトマトに対する愛情
と、そのトマトをパイにしておいし
くなる魔法をかけるひかるさん。
この母娘が紡ぐ六次産業化とい
うトマト物語はキラキラして、とて
もすてきだなと思いました。
みんなの広場へのご意見募集
本 誌への感 想や農 林 漁 業の発 展に
向けたご意 見 などを 同 封の読 者アン
ケートにてお寄せください。
「みんなの
広場 」に掲載します。二〇〇字程度で
すが、誌面の都合上、編集させていただ
くことがあります。住所、氏名、年齢、
職 業、電 話 番 号を明 記してください。
掲載者には薄謝を進呈いたします。
[郵送およびFAX先]
〒一〇〇︲〇〇〇四
東京都千代田区大手町一︲九︲四
大手町フィナンシャルシティ ノースタワー
日本政策金融公庫
農林水産事業本部
AFCフォーラム編集部
FAX 〇三︲三二七〇︲二三五〇
メール配信サービスのご案内
日本公庫農林水産事業では、メー
ル配信による農業、食品産業に関す
る情報の提供をしています。メール
私も人を動かす言葉を身に付けた
るのではないでしょうか。そろそろ
など関係者を説得する力にあふれ
たものほど心を打ち、
社員や取引先
ど考え抜き、
実践の中で磨き抜かれ
てました。
経営者が頭がちぎれるほ
す。今号は経営理念にスポットを当
もらうことは、とても難しいことで
言葉で表現して他人に理解して
しょうか。寂しい限りです。(小形)
び、無言のうちに精算。時代なので
いました。今はスーパーのレジに並
お金を農家のおばさんに手渡して
り、「これ下さい」と握り締めていた
母に頼まれた野菜を自由にもぎ取
のものです。小さい頃、近所の畑で
島さん。「顔の見える関係」
は信頼そ
観で理屈ではない」
と多論百出の手
「安心とは人の心の持ちよう。主
人生経験やその時々に感じたこと
してみたくなりました。これまでの
に、
自分なりの
「人生指針書」
を作成
んが、
私も近づく「不惑の四〇」を前
されています。経営者ではありませ
針 書 」の実 践 的な策 定 手 順 が紹 介
ルダーとの関係強化を図る
「経営指
目 を 見 張 り まし た。な んて 楽 し そ
邂逅のつきざわワラビ園には驚き、
と し と 思って き たので、農 と 食 の
と。ずっとワラ ビ 摘 みは 修 行 の ご
ビは新芽で摘むのを禁じられたこ
た こ と、たっ た一つ 見 つ け た ワ ラ
記憶は険しい山を登るのが怖かっ
ことがあります。でも、残っている
子どもの頃に山菜摘みに行った
いものです。 (嶋貫)
上原さんの特集ではステークホ
を思い返して、帰納法的アプローチ
ご意見、ご提案をお待ちしております。
巻末の児童画は全国土地改良事業団体連合会
主催の「ふるさとの田んぼと水」子ども絵画展
の入賞作品です。
(長野支店 岩本 悠里)
♠特集を読み、
農家の皆さまをアス
■定価 514円(税込)
う! (城間)
■販売
株式会社日本食糧新聞社
〒105-0003 東京都港区西新橋2-21-2
第一南桜ビル
T e l.03(3432)2927
Fax.03(3578)9432
ホームページ http://info.nissyoku.co.jp/koudoku/
お問い合わせフォーム http://info.nissyoku.co.jp/modules/form_mail/
で考えてみます。 (清村)
■印刷 凸版印刷株式会社
配信サービスの主な内容は次の通
■発行
(株)日本政策金融公庫 農林水産事業本部
T e l. 03
(3270)
2268
Fax. 03
(3270)
2350
E-mail [email protected]
ホームページ https://www.jfc.go.jp/
リートに例えるならば、私はその
■編集協力
青木 宏高 牧野 義司
りです。
日本公庫の独自調査(農業景況調
⃝
査、食品産業動向調査、消費者動
向調査など)結果
公庫資金の金利情報や新たな資
⃝
金制度のご案内、プレス発表して
■編集
大本 浩一郎 嶋貫 伸二 清村 真仁
飯田 晋平 小形 正枝 城間 綾子
方々をサポートするコーチであり
たいと思いました。
東京五輪へ、またその先の未来へ
と選手たちが走り続けられるよう
に、
私も常に全力でサポートし続け
たいと強く思いました。
いる日本公庫の最新動向 など
メール配信のサービスを希望さ
れる方は、日本公庫ホームページ
(佐賀支店 黒川 知洋)
前号に続き、本年度新入職員に
よる本誌六月号への感想を掲載し
( https://www.jfc.go.jp/n/service/
)にアクセスして
mail_nourin.html
ご登録ください。 (情報企画部)
ました。新入職員は研修も無事終
了し、今月から各支店で職務に励
んでいます。
編集後記
日時
会場
国産にこだわり
農 と食 をつなぎます。
第11回
アグリフードEXPO 東京 2016
プロ農業者たちの国産農産物・展示商談会
8月18日/19日
木
金
10:00~17:00
10:00~16:00
主催
東京ビッグサイト 東4ホール
38 AFCフォーラム 2016・8
●次代に継ぐ
2016
今、
ものを言う経営理念
特集
8
https://www.jfc.go.jp/
03
(3432)
2927 ■定価514円 本体価格 476円
■販売/株式会社 日本食糧新聞社 〒105-0003 東京都港区西新橋2-21-2 第一南桜ビル Tel.
■発行/
(株)
日本政策金融公庫 農林水産事業本部 〒100-0004 東京都千代田区大手町1-9-4 Tel.03
(3270)
2268
■AFCフォーラム 平成28年8月1日発行
(毎月1回1日発行)
第64巻5号
(792号)
『魚といっしょに川あそび』織本 鼓太郎 愛媛県東温市立南吉井小学校
AFCフォーラム編集部宛
扌 FAX 03-3270-2350 扌
AFCフォーラム
(2016年8月号) 読者アンケート
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アンケートにご協力をお願いいたします。このままFAXか郵送でお送りください。
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〒
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職 業
歳
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tel.
1
1 観天望気
ゼロからのワイナリー立ち上げを成し遂げる
3 特集 ぶれない革新を続ける長寿企業の秘訣
4
―
掲載記事について、内容はいかがでしたでしょうか?(○をご記入ください)
記事区分
2
―
攻めの経営展開につなぐ事業構想
良かった
どちらとも
良くなかった
いえない
記事区分
良かった
どちらとも
良くなかった
いえない
8 経営紹介
9 主張・多論百出
10 変革は人にあり
11 耳よりな話
5 情報戦略レポート
12 まちづくりむらづくり
6 農と食の邂逅
13 書 評
7 フォーラムエッセイ
14 みんなの広場
2
AFCフォーラムで取り上げてほしい特集テーマがありましたら、ご記入ください。
3
本誌への感想や農林漁業の発展に向けたご意見などを200字程度でお寄せください。選定のうえ本誌「みんなの広場」に
掲載させていただきます。
(紙面の都合上、編集させていただく場合がありますので、あらかじめご了承ください)
掲載の場合には薄謝を進呈いたします。
(匿名での投稿はご遠慮ください)
ご協力ありがとうございました。
【お問い合わせ先】日本政策金融公庫農林水産事業本部 情報企画部情報サービスグループ 電話 03-3270-2268