見通し改訂、「3L:低成長・低インフレ・低金利」長期

リサーチ TODAY
2016 年 8 月 17 日
見通し改訂、「3L:低成長・低インフレ・低金利」長期化の「新常態」
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は四半期毎に発表している『内外経済見通し』の改訂を行った1。また、先月に異例
のタイミングではあったが『内外経済見通し』の緊急改訂を行った2。これは、今年6月の英国のEU離脱に伴
う世界経済の変動を受けたものだった。英国のEU離脱に伴う緊急改訂におけるメッセージは、「最大の被
害者は日本」であった。その趣旨は、英国のEU離脱は英国発の通貨戦争に等しく、その最大の敗者は日
本であった。下記の図表は今回の見通し総括表だが、日本はこうした激震に対処した経済対策によって、
7月に下方修正した分を取り戻すとした。今次改訂の特徴は、米国の経済見通しの下振れにある。全体の
見通しのメッセージは、①世界的な不確実性の高まり、②「3L(Low)」それは、「低成長、・低インフレ・低金
利」が長期化する新たな状況、「新常態」の可能性、③この対処として、政策対応が不在のなか、一層この
状況から脱出困難とする点にある。2016年後半になって危機は免れているが、不安と不確実性に囲まれた、
もやもやした状況にある。
■図表:みずほ総合研究所の世界経済予測総括表(2016年8月)
(前年比、%)
暦年
2014年
2015年
2016年
2017年
(実績)
(実績)
(予測)
(予測)
(%ポイント)
2016年
2017年
(%ポイント)
2016年
(6月予測からの修正幅)
2017年
(7月予測からの修正幅)
3.5
3.3
3.2
3.6
▲ 0.1
▲ 0.1
▲ 0.1
-
日米ユーロ圏
1.5
2.0
1.3
1.6
▲ 0.2
▲ 0.2
▲ 0.2
-
米国
2.4
2.6
1.4
2.2
▲ 0.4
▲ 0.1
▲ 0.4
▲ 0.1
予測対象地域計
0.9
1.7
1.5
1.1
-
▲ 0.3
0.1
-
▲ 0.0
0.5
0.5
0.7
-
▲ 0.2
0.2
0.2
6.4
6.1
6.0
6.0
-
-
-
-
中国
7.3
6.9
6.6
6.5
-
-
-
-
NIEs
3.4
1.9
1.8
2.2
-
-
-
-
ASEAN5
4.6
4.8
4.7
4.6
0.1
0.1
0.1
0.1
インド
7.0
7.2
7.7
7.6
-
▲ 0.1
-
▲ 0.1
ユーロ圏
日本
アジア
オーストラリア
2.7
2.5
2.7
2.5
-
-
-
-
ブラジル
0.1
▲ 3.8
▲ 3.4
0.8
-
-
-
-
ロシア
0.7
▲ 3.7
▲ 1.2
1.0
-
-
-
-
日本(年度)
▲ 0.9
0.8
0.6
0.9
-
▲ 0.1
0.2
0.2
93
49
42
45
▲2
▲1
▲2
▲1
原油価格(WTI,$/bbl)
(注)予測対象地域計は IMF による 2014 年 GDP シェア(PPP)により計算。
(資料)IMF、みずほ総合研究所
次ページの図表は各地域の経済政策の不確実性指数である。Brexitの行方、欧州各国の政治問題、米
大統領選挙、中国の構造調整など、世界経済にとって不確実性を高める問題が山積されている。経済政
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2016 年 8 月 17 日
策の不確実性指数はBrexitを受け英国や欧州が歴史的な水準にまで急上昇し、大統領選を迎える米国も
大幅に上昇している。
■図表:経済政策不確実性指数
800
(Pt)
(Pt)
500
英国
欧州
米国
(Pt)
450
450
400
400
350
350
300
300
400
250
250
300
200
200
150
150
100
100
50
50
700
600
500
200
100
0
07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
0
07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
中国
500
ブラジル
0
07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
(年)
(注) 不確実性に関する新聞記事の数、将来失効予定の税制条項の数、エコノミスト予測のばらつき度合いから算出。
(資料) Economic Policy Uncertainty より、みずほ総合研究所作成
下記の図表は先進国と新興国の合成PMIの推移である。年初、新興国は停滞の不安を抱えていたが、
米国を先頭に先進国の回復が期待された。しかし、現実には先進国は停滞し、先述のキーワードで「3L」と
した長期停滞の罠に陥った状況にある。こうした中、政策対応も不在で停滞の長期化を覚悟する必要が生
じている。今年、危機は回避されているが先進国中心に「3L」の状況を「新常態」として受け止めざるを得な
いというのが今回の見通しのキーコンセプトである。
■図表:先進国と新興国の合成PMI
(Pt)
58
世界
先進国
新興国
56
減速
54
拡張
52
← 景気
停滞
50
→縮小
48
2013
14
15
16
(年)
(資料)Markit よりみずほ総合研究所作成
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「2016・17 年度内外経済見通し」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 8 月 16 日)
「2016・17 年度内外経済見通し(2016 年 7 月緊急改訂)」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 7 月 8 日)
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