15 いわ き 明 星 大 学・学 長 山崎洋次 〜医 療 系 を 中 心 に 、地 域の人 材ニー ズに 応 え る 大 学へ で近年は、大学を機能や目的に応 じて類型化するような施策が打ち 学は、自らが置かれた諸条件の中 選ばれる魅力が必要であり、各大 残るには、受験生やその保護者に は、避けようがありません。生き いる大学が混在しています。そこ 長線上で一般職業人教育を行って 究を行っている大学と、高校の延 すが、実際には、高度な教育・研 1つのものとしてくくられていま わが国の高等教育は、法的には で徹底した知識の定着を図る 年次に設け、演習問題の反復学習 力を補う「クラムスクール」を1 薬学教育に不可欠な化学の基礎学 で積み上げているのです。また、 るグローバル人材育成では、世界 例えば、現在声高に叫ばれてい 乱した状況が続いています。 結果的に画一化に向かうなど、混 どの大学に対しても一律なため、 し、補助金や助成金の審査基準は 出されるようになりました。しか で、すみ分けや差別化を行い、独 「ファーマドリル」を2年次から開 大 学の機 能 に 応 じ た 高等教育施策が必要 自ブランドの確立に向けて努力し 始します。さらに全学年で 「チュー それを支えているのが薬学部の 面に打ち出すことにしました。 本的に見直し、 「資格取得」を前 した。そこで、大学のあり方を根 響で、存続が危うい状況になりま 東日本大震災による原発事故の影 ざしています。資格系の学部と異 る、汎用的な職業能力の養成をめ 地域社会を支える人材に求められ 盤型職業人」の育成を目標に掲げ、 しました。教養学部は、 「地域基 科を教養学部地域教養学科に改組 部の募集を停止し、人文学部3学 2015年度には、科学技術学 中で切磋琢磨することが、今後は 必要だと考えています。 生き残るためには 独自ブランドの確立を 少子化への対応も重要です。日 本の大学進学率は先進 か国の中 では低いため、社会人入学や多様 な入試制度によって、進学率を上 昇させる余地は十分あるとの見方 もあります。しかし、この考え方 は根本的に間違っていると思いま す。 なぜなら、これは日本の社会制 度と社会通念を無視した考え方だ からです。大学教育への期待や尊 敬はあるにせよ、一旦社会に出て から大学に入学して勉強するメ リットを、日本社会全体が共有し ているようには見えませんし、そ うした学びを支援する制度も整備 されていません。 「大学は高校を出 てすぐに入るもの」という固定観 念も根強く残っています。 また、現状でもかなり多様な入 ランキングの上位にいる大学と、 本学のような地域に根ざした職業 試が行われています。それでも進 考えています。 役割を確実に果たしていきたいと 地域の期待に応える大学としての 学科の開設も視野に入れながら、 させるため、新たな医療系の学部・ す。本学の新たなブランドを確立 の強化なども進めていくつもりで くと同時に、全学的な初年次教育 ンパス環境の整備に力を入れてい 今後は、女子寮の建設などキャ 向に合致します。 務であり、本学の改革は、その方 ば、医療保健分野の人材育成は急 来する超高齢化社会を見据えれ と大きくシフトします。確実に到 体制になり、本学は医療系大学へ 度から薬学、看護、教養の3学部 看護学部が認可されれば、次年 の1つとして位置付けています。 本学では、これを改革の大きな柱 入学者確保をめぐる大学間の競争 進学率上昇が見込めないなら、 く影響しているのだと思います。 たらす、大学に対する意識が大き 題のほかに、日本の社会構造がも 学率が伸びないのは、経済的な問 人の育成を目的にする大学では、 その方向性が異なります。 国立大学では、機能分化や類型 化が推進され、一定の政策誘導が 行われています。しかし、さらに 日本の大学全体を機能や目的に よって区分し、それぞれの土俵の に採用されている一部上場企業へ の就職者数をそれぞれ5人以上に する、 「トリプルファイブ」戦略 を展開する予定です。 看護学部を設置し 医療系大学へ転身 さらに次年度は、看護学部も開 設する予定です(設置認可申請 中) 。実は、本学が立地する福島 県には、4年制の看護学部が1校 しかありません。そのため、本県 より人口の少ない県に比べて、 歳人口千人当たりの看護学部受験 者数がきわめて少なく、看護師に 対する潜在的な需要がかなり高い ことが予想されます。看護学部の 新設は、震災前からあった地域の 要望で、地域への貢献を標榜する 理工学部を科学技術学部に改組 ていく以外、方法はありません。 躍進です。原発事故以来、志願者 5 3合目 ター制」を導入し、6年間を通し が落ち込む中、資格につながる薬 なり、教育成果が見えにくい分野 5 科学技術学部募集停止 201 人文学部を教養学部に改組 てきめ細かな指導を続けてきた成 学部だけはあまり影響を受けませ なので、 「メジャー制」を導入し、 現在地 果が、合格率に表れました。 んでした。もともと、最初の卒業 3つの主専攻と6つの副専攻から 17 薬学部設置を起点に 資 格 に 強 い 大 学へ 生が受験した2013年以来、薬 1 つずつ組み合わせて学ぶこと 看護学部開設 (予定) 20 地域で活躍する人材を 教養学部で育成 剤師国家試験の合格率は常に全国 で、想定する進路に合わせられる 取材・文/仲谷宏 撮影/柳田隆司 18 本学は、福島県いわき市に創立 No. 7合目 医療系学部 の充実 以来、地域貢献を柱とした教育・ 平均を上回っていましたが、20 カリキュラムにしています。 い形に可視化し、受験生や保護者 地域の人材ニーズに応える大学 研究を進めてきました。ところが、 16年3月には全国 大学中、第 好成績には理由があります。初 にアピールしています。当面は、 併せて、就職状況をわかりやす 年次教育に力を入れ、勉学意欲の 市役所・県庁以上の公務員への採 1位の ・7%を達成しました。 向上や学習習慣の確立を目的とし 用数、教員採用数、 「日経225」 * 改革目標への到達度 34 2016 8-9 2016 8-9 35 た「 イグナイト教育」を低学年 7 開学 (理工学部・人文学部) 198 5合目 6 201 73 200 薬学部開設 7 200 98 30 プ 挑むトッ 荒波に 地 域の潜 在 的 需 要 に 対 応 す る 新 た な 大 学 ブ ラ ン ドの創 出 やまざき・ようじ● 1 9 4 7 年 生まれ。1 9 7 2 年 東 京 慈 恵 会 医 科 大 学 卒 。1 9 7 8 年 筑 波 大 学 臨 床 医 学 系 講 師 、1 9 9 3 年 東 京 慈 恵 会 医 科 大 学 助 教 授 、1 9 9 6 年 同 教 授 、2 0 0 7 年いわき明 星 大 学 教 授、同薬学部長を経て、2013年より現職。専門は小 児 外 科 学 。 *イグナイト教育:PBL や TBL を中心に、自分の力で能力を高めようというやる気に火をつける(ignite:点火する)ことを目的にした教育。
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