2016 年 8 月 16 日 みずほ銀行(中国)有限公司 中国業務部 ―マクロ経済関連― みずほ中国 ビジネス・エクスプレス ( 経済編 第 59 号 ) 要 旨 7 月経済指標は 6 月比で総じて悪化。当局公表文書からは、金融政策は当面現状維持する一方、財政 政策は拡大の選択肢を示しつつ、供給側(サプライサイド)構造改革を推進していく方針が鮮明に。 1.7 月経済指標は総じて悪化 ・ 投資は減速 ・ 消費品小売額は減速 ・ 輸出入共に悪化 ・ CPI上昇率は鈍化。PPIはマイナス幅が縮小 ・ 貸出純増額、社会融資規模は縮小 2.政策対応~供給側(サプライサイド)構造改革を推進 ・ 「優勝劣敗と産業再編を実現、過剰生産能力業種の集中度を高める」 (中央政治局会議) ・ 「地域的な金融リスク(を発生させない) 」への言及が消えた人民銀行通貨政策執行報告 -1- 1.7 月経済指標は総じて悪化 ・投資は減速 7 月の経済指標は 6 月に比べ総じて悪化した。7 月の工業付加価値生産額は前年同月比(特記しない限 り以下同)+6.0%と、6 月(+6.2%)から減速した(前月比+0.5%)(図表 1)。1~7 月累計では+ 6.0%で 15 年通年(+6.9%)から減速している。国家統計局は「①過剰生産能力業種である採掘業、エ ネルギー消耗型産業が引続き鈍化、②ハイテク産業と装備製造業が引続き加速、③消費高度化(消費昇 級)の方向に符合した新興製品の高い伸びといった、構造改善の特徴が引続きみられる。7 月生産の小 幅鈍化は正常な変動であり、高温の天候と洪水災害の影響も、伝統産業調整の作用もあり、段階的な底 固めの方向にあることに変わりはない」と説明している1。 図表 1 22 工業付加価値生産額 図表 2 (前年比%) 40% 18 (前年比、%) 固定資産投資 不動産開発投資 合計 化学 輸送機器 紡織 金属素材 20 固定資産投資 35% 30% 16 14 25% 12 20% 10 15% 8 8.1% 6 10% 4 7 9 11 3 5 7 9 11 13 3 5 7 9 11 14 3 5 7 9 11 15 3 5 7 16 15/9 15/3 14/9 14/3 13/9 13/3 12/9 12/3 11/9 11/3 10/9 10/3 09/9 09/3 08/9 08/3 07/9 07/3 -2 1.0% 0% 0 5.3% 16/3 5% 2 (注)各年初から当月までの累計値の前年同期比。12年末まで3,6,9,12月末、13年以降月ベース。 (資料)国家統計局、CEIC (注)工業付加価値生産額。1月は1~2月累計の前年比。輸送機器は12年3月以降、自 動車。(資料)CEIC 名目固定資産投資は 1~7 月累計で+8.1%と、1~6 月の+9.0%、15 年通年の+10.0%から減速した (7 月単月前月比+0.3%)。7 月単月でも+3.9%2と 6 月(+7.3%)から大きく減速している。1~7 月累計のうち不動産開発投資は+5.3%と、1~6 月(+6.1%)から減速した(図表 2)。 16 年に入ってから一桁の伸びに鈍化し、1~7 月累計で+2.1%の伸びにとどまった民間投資の減速(図 表 3)について、盛来運・国家統計局報道官は「①市場の周期的な調整。世界経済が調整中で輸出圧力 は強く、伝統産業の収益率が低下、企業家の投資意欲が高くない、②市場参入。電気通信、石油ガスな どでは民間資本の参入が困難、③資金源。民営企業の借入難や借入コスト高、④洪水災害の影響。平均 気温が平年より 0.9 度高く、61 年来で 3 番目の高さ。洪水も加わりプロジェクトの施工進度に影響」と いった要因を挙げた3。 一方、水利、環境、公共設備管理業向け投資の伸びは 1~7 月に+24.9%と、15 年通年の+20.4%か ら小幅加速したものの、1~6 月の+26.7%からは小幅減速している(図表 4)。 1 国家統計局「国家统计局工业司高级统计师江源解读 7 月份工业生产数据(江源国家統計局工業司高級統計師が 7 月工業生産データを解 読)」。①石炭採掘と洗鉱▲4.8%、石油天然ガス採掘▲4.8%、黒色金属採掘▲1.7%。③新エネルギー自動車+61.8%、SUV(スポーツ用多目的 車)+36.3%、工業ロボット+40.1%など(いずれも 7 月単月前年同月比)。http://www.stats.gov.cn/tjsj/sjjd/201608/t20160812_1387884.html 2 月次値とその前年比変動率は 1~7 月累計値から筆者算出。 3 国家統計局 8 月 12 日「国家统计局新闻发言人就 2016 年 7 月份国民经济运行情况答记者问(国家統計局報道官が 16 年 7 月国民経済運行 状況について記者の問いに回答)」http://www.stats.gov.cn/tjsj/sjjd/201608/t20160812_1387885.html -2- 図表 3 40 固定資産投資(国有・民間投資) 図表 4 鉄道・道路・水利・環境産業固定資産投資 (前年比、%) (億元) 60,000 固定資産投資 国有及び国有ホールディングス 35 民間投資 50,000 (前年比%) 60 鉄道運輸投資額(左軸) 道路投資額 水利、環境、公共施設投資 額 水利、環境、公共設備管理 業 道路運輸 鉄道運輸前年比(右軸) 40 30 25 40,000 20 30,000 0 20,000 -20 10,000 -40 0 -60 21.8 20 15 10 8.1 5 16/5 16/1 15/9 15/5 15/1 14/9 14/5 14/1 13/9 13/5 13/1 12/9 12/5 12/1 11/9 11/5 11/1 0 (注)各年初から当月までの累計値の前年同期比。(資料)国家統計局、CEIC 12/2 12/4 12/6 12/8 12/10 12/12 13/3 13/5 13/7 13/9 13/11 14/2 14/4 14/6 14/8 14/10 14/12 15/3 15/5 15/7 15/9 15/11 16/2 16/4 16/6 2.1 (注)各年初から当月までの累計値及びその前年同期比。(資料)国家統計局、CEIC ・消費品小売額は減速 個人消費は名目消費品小売額が 7 月に+10.2%と、6 月(+10.6%)から減速した。物価上昇要因を 除いた実質でも+9.8%と、6 月(+10.3%)から減速した(前月比+0.8%)(図表 5)。1~7 月累計 では+10.3%と 15 年通年の+10.7%を下回っている。このうち、ネット・ショッピングによる小売額は 2 兆 6,268 億元(うち商品 2 兆 1,239 億元、+26.1%)と消費品小売額合計の 14.4%を占め、伸び率は +27.5%であった。7 月の小売統計減速について、国家統計局は「例年を上回る(ネット小売大手「京 東」の開業記念日である 6 月 18 日に合わせた)618 セールの反動により、社会消費品小売額が▲0.5% PT 減速した」としている4。 図表 5 25% 20% 15% 消費品小売額、品目別小売売上、住宅販売面積 (前年同月比%) 指定企業商品小売額(左軸) 新車販売台数(右軸) 家電(右軸) 住宅販売面積(右軸) 消費品小売 総額(左軸) 50% 図表 6 30% (前年比%) (万台) 自動車販売台数(右軸) 商用車前年比 25% 40% 自動車販売台数(乗用車・商用車別) 乗用車前年比(左軸) 自動車計前年比 23.2% 250 20% 30% 10% 20% 5% 10% 0% 0% 15% 200 10% 150 5% 0% 100 -5% -10% (注)指定企業:年商500万元以上。家電販売も同企業のもの。2月=1-2月累計。(資料)CEIC 16/7 16/4 16/1 15/7 15/10 15/4 15/1 14/7 14/10 14/4 14/1 13/7 13/10 13/4 0 13/1 -20% 12/7 -20% 12/10 8 10 122 4 6 8 10 122 4 6 8 10 122 4 6 8 10 122 4 6 12 13 14 15 16 50 -15% 12/4 -10% -10% 12/1 -5% 300 (注)1、2月は1-2月累計の前年比。(資料)中国汽車工業協会、CEIC 住宅販売面積は 7 月に+18.7%(1 億 1,458 万㎡)と、13 年 12 月以来の単月プラスとなった 15 年 4 月以来、15 か月連続で拡大、1~7 月累計で 7 億 5,760 万㎡、+26.4%となった。7 月単月の伸び率(+ 18.7%)は 6 月の+14.6%から拡大した。人民銀行による預貸金利引き下げ(14 年 11 月以降計 6 回実 4 国家統計局 8 月 12 日「国家统计局贸易外经司高级统计师蔺涛解读社会消费品零售总额数据(藺涛国家統計局貿易外経司高級統計師が社 会消費品小売総額データを解読)」http://www.stats.gov.cn/tjsj/sjjd/201608/t20160812_1387882.html -3- 施)、2 軒目の住宅購入時の頭金比率(下限)引き下げ(60%から 40%に。15 年 3 月 30 日)、1 軒目の 住宅購入時の頭金比率引き下げ(25%に。同年 9 月 30 日)など当局の不動産市場テコ入れ方針に伴い、 住宅販売は回復傾向をたどってきた。その後、蘇州、南京、合肥、厦門など住宅価格上昇が顕著な都市 において、上海や深圳5と同様の購入制限導入6の方針が伝えられ、実施前に駆け込み的な購入が起きた 可能性がある。 自動車販売は 7 月に 185.2 万台、+23.2%と、6 月(207.07 万台、+14.8%)から台数は減少したも のの、伸びは加速した(図表 6)。15 年 10 月から実施した小型乗用車向けの減税措置7の効果による回 復傾向が続いている。1~7 月累計では 1,465.8 万台、+9.7%(15 年+4.6%。14 年+6.8%)となった。 図表 7 25% 輸出入、貿易収支 図表 8 (億ドル) 1,400 (前年比) 1,200 20% 1,000 15% 800 10% 600 400 5% 200 0 0% -200 -5% -400 -10% -600 -15% -20% -25% -800 収支(右軸) 6 8 輸出(左軸) -1,000 輸入 -1,200 10 13 2* 4 6 8 14 10 122* 4 6 8 15 10 122* 4 16 6 -1,400 (注)*1-2月の前年同期比及び合計。 (資料)中国通関統計 12% 11% 10% 9% 8% 7% 6% 5% 4% 3% 2% 1% 0% -1% -2% -3% -4% -5% -6% -7% -8% -9% -10% -11% -12% CPI、PPI (前年比%) CPI PPI PPI:原材料 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 11 12 13 14 15 16 (資料)中国国家統計局、CEIC 輸出入共に悪化 7 月の輸出は ▲4.4%(1,847.3 億ドル)、 輸入▲12.5%(1,324.3 億ドル)、 貿易黒字は 523.1 億ドルと、 輸出入共に 6 月(輸出▲4.9%、輸入 8.4▲%)から悪化した。1~7 月累計では輸出▲7.4%(1 兆 1,676.5 億ドル)、輸入▲10.5%(8,601.1 億ドル)、貿易収支は+3,075.4 億ドルの黒字であった。貿易総額は ▲8.7%と、1~6 月の▲8.8%からマイナス幅が縮小した(図表 7、9、10)。 長引く中国貿易の不振について李健・商務部研究院研究員は「米ドル建てでみると前月比増(、前年 比減)となっているものの、安定しつつあるだけで、改善しているとはまだ言えない。(中略)国際市 場需要は依然として低迷しており、輸出は短期的には拡大しにくい。国内経済の下押し圧力はまだ存在 し、在庫解消、デレバレッジなどの政策は不変で、商品価格も短期的には低位を維持することから、輸 入が短期的に大幅増となる可能性は大きくない」との認識を示している8。 5 3 月 25 日、上海市は 2 軒め住宅購入時の頭金比率をこれまでの 40%から 50~70%に引き上げ。深圳市は 2 軒め住宅購入時の頭金比率をこ れまでの 30%から 40%に引き上げ。いずれも、非居住者の取得条件を厳格化。 6 蘇州と南京、合肥、厦門の各市は 8 月 11 日、住宅の購入規制を再度実施と発表。これら都市では、購入規制を解除していたが、足元、物件価 格が急上昇。蘇州は非戸籍居住者が 2 軒目を購入時、同市における個人所得税の納税証明や社会保険の支払い証明の提出が必要に。市外居 住者の投機目的の購入阻止が目的。戸籍保有者に対しても 2 軒目ローンの頭金比率を全体価格の 40%~50%に引き上げた。 東方早報 8 月 12 日「二线城市“四小龙”调控楼市:苏州重启限购,南京摇号卖地(四つの二線都市で不動産価格抑制:蘇州で再度購入制限、 南京で土地販売制限)」http://epaper.dfdaily.com/dfzb/html/2016-08/12/content_1039264.htm 7 「财政部 国家税务总局关于减征 1.6 升及以下排量乘用车车辆购置税的通知(排気量 1,600 ㏄以下の乗用車購入税引き下げに関する財政 部、国家税務総局通達)」财税〔2015〕104 号(9 月 29 日付)は、10 月 1 日から 16 年末まで、排気量 1,600cc 以下の乗用車を対象に、自動車取得 税の税率を従来の 10%から 5%に引き下げる措置を公表。http://www.chinatax.gov.cn/n810341/n810755/c1827947/content.html 8 国際商報 8 月 9 日「外贸:回稳尚待时日 向好仍需奋力(対外貿易: 安定に向かうにはなお時間 好転するにはまだ奮闘が必要)」 http://journalist.comnews.cn/shangbao/wangx/webinfo/2016/08/1472078148652854.htm -4- 図表 9 主要地域別輸出 図表 10 30% (前年同月比、%) 30% 20% 20% 10% 10% 0% 0% -10% (前年同月比、%) -10% 輸出計 アジア 米国 日本 欧州 -20% -30% 主要地域別輸入 -20% 7 9 11 3 5 7 9 11 3 5 7 9 11 2013 2014 2015 (注)2月は1-2月合計の前年同期比。(資料)中国通関統計、CEIC 3 5 2016 -30% 7 輸入計 アジア 欧州 日本 米国 7 9 11 3 5 7 9 11 3 5 7 9 11 2013 2014 2015 (注)2月は1-2月合計の前年同期比。(資料)中国通関統計、CEIC 3 5 2016 7 ・CPI上昇率は鈍化。PPI はマイナス幅が縮小 7 月のCPI(消費者物価指数)上昇率は+1.8%と、6 月(+1.9%)から鈍化した。前月比では+0.2% と 6 月の▲0.1%からプラス転化した(図表 8)。1~7 月平均では+2.1%と、+3.0%の政府目標を下回 っている。CPIの内訳を見ると、食品価格は 7 月に+3.3%と 6 月(+4.6%)から鈍化した(図表 11)。 豚肉は生産量が 15 年に 5,487 万トンと前年比▲3.3%減少と 07、11 年に続き減少、豚周期(ピッグ・サ イクル)9の上昇傾向が続いてきたが、7 月の豚肉価格は前年同月が+16.7%と高かったこともあり+ 16.1%と、6 月の+30.1%からは鈍化した(図表 12)。食品以外の価格は 7 月に+1.4%と、6 月(+1.2%) から高まった。外出する人の多い夏季を迎え、旅行価格の上昇(+2.9%)などが非食品価格の上昇に寄 与した。 図表 11 148 146 144 142 140 138 136 134 132 130 128 126 124 122 120 118 116 114 112 110 108 106 104 102 100 98 96 94 92 90 CPI、同品目別伸び率寄与度 (前年比%) 図表 12 7% (2000年12月=100) 擬似CPI(左目盛 ) 50% (前年比%) (前年比%) 食品(左軸) 食糧(左軸) 80.9% 6% 食品価格 野菜(左軸) 豚肉(右軸) 40% CPI上昇率 (前年比、右目盛) 住居 娯楽教育文化 食品 医療保健 衣類 日用品 交通通信 除く食品 100% 80% 5% 57.1% 30% 60% 4% 33.6% 20% 40% 10% 20% 16.1% 0% 0% 3% 2% 1% -10% 0% -20% -18.7% -32.0% -1% 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 8 10 12 2 4 6 11 12 13 14 15 16 (注)項目別寄与度は各項目の前年比上昇率と消費支出統計から当行算出。擬似CPIは2000年12月を基準に 毎月の前月比上昇率を基に当行算出。(資料)中国国家統計局、CEIC -20% -40% 2 4 6 810122 4 6 810122 4 6 810122 4 6 810122 4 6 810122 4 6 810122 4 6 810122 4 6 810122 4 6 810122 4 6 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 (注)グラフ内数字は豚肉価格上昇下落時最高・最低値と直近値。(資料)中国国家統計局、CEIC 7 月のPPI(工業製品出荷価格)は▲1.7%と 53 カ月連続マイナスであったが、6 月の▲2.6%からは マイナス幅が縮小した(図表 12)。前月比では+0.2%と 6 月の▲0.2%からプラス転化した。「石油・ 天然ガス採掘(▲15.9%)、石油加工(▲9.2%)、化学原料と同製品製造(▲4.7%)の三項目のPP 9 豚肉価格が下がってくると畜産家が飼育を少なくする→供給が減少、価格上昇→畜産家が生産増→供給増、価格が安定→畜産家が飼育を少 なくする→供給減、豚肉価格上昇といった循環を繰り返す。 -5- I計への寄与度は計▲0.9%PT、寄与率は 53%前後」(国家統計局10)であった。 ・貸出純増額、社会融資規模は縮小 人民銀行が公表した 7 月のマネーサプライ M2 は+10.2%と、6 月(+11.8%)から引続き鈍化、政府目 標(+13%)を下回った(図表 13)。7 月の新規銀行貸出純増額は 4,636 億元と、6 月の 1 兆 3,800 億元 から大幅に縮小した。同月の社会融資規模純増額も 4,879 億元と、6 月の 1 兆 6,293 億元から縮小した。 内訳をみると、委託貸付、企業債券は拡大、人民元貸出、信託貸付、非金融企業株式は縮小、外貨貸出 (人民元換算)、銀行引受手形(未割引残高)は減少幅が拡大している(図表 14)。 人民銀行は 7 月の金融データを解説11、「マネーサプライ統計について、昨年第二、三四半期は株式 市場の変動が大きく、基数が大幅に引き上げられたことにより、M2 の前年比は実態とかけ離れた面もあ る」とした。 貸出に関しては、「金融機関が『早く貸し、早く収益をあげる』考えにより、上期の貸出は 7.53 兆元 増えた。これは前年同期より 1 兆元多く、貸出進度が速い。7 月は季節要因で鈍化したものの、(1~7 月)累計でみればまだ多い」としている。また、「特殊要因もあった」として、①昨年の市場変動に対 応した貸出分を除けば、今年 7 月の貸出前年比は少なくはない、②地方政府債務置き換え(今年になっ て債券に置き換えられた大中型銀行貸出は 8,000 億元以上)の貸出データへの影響、③金融機関による 不良債権処理加速、の三点を挙げている。 社会融資規模については、「最近数か月の伸び鈍化は、銀行引受手形(未割引残高)の減少が多い(7 月は 5,122 億元減少)ことが主因で、これには手形市場における事件発生と監督管理強化が関係してい る」と説明している。 図表 13 金融機関貸出、マネーサプライ 35% (前年比、%) 30% (億元) 図表 14 26,000 金融機関貸出残高対前月増減(右軸) 24,000 金融機関貸出残高前年比(左軸) 22,000 M2(左軸) 20,000 18,000 25% 4,000 社会融資規模 (10億元) 外貨貸出(人民元換算) 信託貸付 企業債券 人民元貸出 3,500 委託貸付 銀行引受手形 (未割引残高) 非金融企業株式 社会融資総額(左軸) 3,000 2,500 16,000 14,000 2,000 12,000 1,500 20% 10,000 15% 8,000 12.9% 6,000 10% 4,000 1,000 500 0 2,000 -500 0 09/3 09/9 10/3 10/9 11/3 11/9 12/3 12/9 13/1 13/3 13/5 13/7 13/9 13/11 14/1 14/3 14/5 14/7 14/9 14/11 15/1 15/3 15/5 15/7 15/9 15/11 16/1 16/3 16/5 16/7 16/7 16/4 16/1 15/7 15/10 15/4 15/1 14/7 14/10 14/4 14/1 13/7 13/10 13/4 13/1 12/7 12/10 12/1 -1,000 (注)12年までは四半期末値。グラフ内数字は最新月貸出残高前年比。(資料)人民銀行、CEIC 12/4 5% (資料)人民銀行、CEIC 7 月の新規銀行貸出増加額 4,636 億元のほとんど全てが個人住宅ローンで、企業向け貸出が 26 億元減 少したことについて人民銀行は、「①7、10 月は貸出が少ないという季節要因。②地方政府債務置き換 えにより企業の貸出は減少、不良債権処理も基本的に企業の貸出であり、今年は地方債務置き換えと不 良債権の償却・処理が強まっている。これらを除けば企業の貸出は増えている。③企業債券と株式資金 10 国家統計局 8 月 9 日「国家统计局城市司高级统计师余秋梅解读 2016 年 7 月份 CPI、PPI 数据(余秋梅国家統計局都市司高級統計師が 7 月のCPI、PPIデータを解読)。http://www.stats.gov.cn/tjsj/sjjd/201608/t20160809_1386349.html 11 人民銀行 8 月 15 日「央行有关负责人就 7 月份货币信贷数据答记者问 (人民銀行関係責任者が 7 月通貨貸出データについて記者の問いに 答える)」http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/3120429/index.html -6- 調達は合計 2.65 兆元と前年比 1 兆元余り増えており、直接金融の比重が高まった」との見解を述べた。 中国内では他に、「需要面から見ると、企業の資金調達需要が依然として旺盛でなく、供給面から見 ると、銀行貸出を増やした期末・半年末の反落がみられる。今年は例年より貸出ペースが速く、上半期 ですでに年間貸出目標の 70%前後に到達。下期はリスク防止と利益の確保に注力している」 (経済日報) との指摘もある12。 図表 15 45,000 外貨準備高 図表 16 (億ドル) (億ドル) 外貨準備高(左軸) 1500 2,000 大型商業銀行の不良債権 (10億元) (%) 14 不良債権残高(左軸) 39,932 1,800 40,000 1000 35,000 32,011 30,000 不良債権比率(右軸) 1,600 1,400 12 1,437.3 1,274.4 05年4月:工商銀行資本注入、 不良債権切り離し 10 500 1,200 25,000 134.3 0 -41.0 -279.3 20,000 800 -285.7 15,000 -500 600 4 400 1.67 1.75 0 16/3 14/3 13/9 13/3 12/9 12/3 11/9 11/3 10/9 10/3 09/9 16 09/3 15 08/9 14 08/3 13 07/9 12 07/3 11 06/9 10 06/3 09 05/9 08 05/3 -1500 15/9 1.25 0 0 2 1.0 200 15/3 -1000 -1,079 14/9 -928 5,000 07 6 -994.7 外貨準備対前月 比増減(右軸) 10,000 8 842.6 08年11月:農業銀行資本注入、 不良債権切り離し 592.1 1,000 (注)グラフ内数字は13,14,15年末、16年6月末値。(資料)中国銀行業監督管理委員会(銀監会)、CEIC (注)外貨準備高數値は14年6月ピーク時、最新月値。(資料)中國人民銀行,CEIC 7 月の外貨準備高は 3 兆 2,011 億ドルと 6 月比で▲41.3 億ドル減少した(図表 15)。 なお、銀行業監督管理委員会(銀監会)は 7 月 15 日、大型商業銀行の不良債権比率が 6 月末時点で 1.81%と、3 月末時点の 1.75%から上昇したと発表していたが、その後、1.75%との統計が公表され、3 月末と同水準となった。いずれも 09 年 6 月末(1.77%)以来の高水準である13。 2.政策対応~供給側(サプライサイド)構造改革を推進 公表された 7 月経済指標をみる限り、景気減速感は強まっているが、政策対応としては、安易な金融 緩和などに頼ることなく、構造改革を推進していく方針であることが、当局公表文書からは確認できる。 ・「優勝劣敗と産業再編を実現、過剰生産能力業種の集中度を高める」(中央政治局会議) 中国共産党中央政治局は 7 月 26 日、習近平総書記が会議を主宰、経済情勢を分析、研究、下期の経済 工作を手配した14。中国経済の現状の見解について会議は、「依然として経済の『下振れ圧力』が比較 的大きく、高度に重視しなければならない『隠れたリスク』も存在する」とした。「下振れ圧力」とい う言葉は、同会議が 4 月 29 日に開かれた時にも言及しているが、今回は「隠れたリスク」という言葉が 盛り込まれた。これは、4 月会議時の「生産経営が依然として困難な企業があり、市場のリスクが増し ている」から、より抽象的な表現に変わっている(図表 17)。 15 年 12 月の中央経済工作会議15で正式に提起された「供給側(サプライサイド)構造改革」について、 12 経済日報 8 月 15 日「贷款少增万亿元 存款转向活期化(貸出純増が 1 兆元鈍化 預金は当座預金化 )」 http://finance.people.com.cn/n1/2016/0813/c1004-28634108.html 13 中国銀行業監督管理委員会ウェブ・サイト 7 月 15 日「中国银监会召开 2016 年上半年全国银行业监督管理工作暨经济金融形势分析会议(銀 監会が 2016 年上半期全国銀行業監督管理工作兼経済金融形勢分析会議を招集開催)」 http://www.cbrc.gov.cn/chinese/home/docView/E0A63BCC04564FB088A197A579FB5632.html 14 新華社 7 月 26 日「中共中央政治局召开会议 决定召开十八届六中全会 分析研究当前经济形势 部署下半年经济工作(中共中央政治局会 議を招集、18 期 6 中全会招集を決定 当面の経済情勢を分析研究 下期の経済工作を手配)」 http://news.xinhuanet.com/politics/2016-07/26/c_1119285168.htm 15 「みずほ中国 ビジネス・エクスプレス(経済編)第 52 号」参照。 http://www.mizuhobank.co.jp/corporate/world/info/cndb/economics/express_economy/pdf/R422-0052-XF-0105.pdf -7- 「断固として推進しなければならない」と指摘した。供給側(サプライサイド)構造改革」についての 言及は、4 月の会議における「各地区・部門の改革に対する認識が不断に高まっている」から、今回は 「容易でない成績を挙げた」として、改革の進展に自信を示している。具体的な事例として、企業業績 の回復、金融市場の安定、新規雇用の持続的な増加、人々の生活が引き続き改善、社会の大局は安定を 維持したことを成果として挙げている。 図表 17 現 状 認 識 政 策 方 針 中央政治局会議後公表文書の比較 4月29日 ・1-3月期は経済成長、新規雇用、住民収入など主要経済指標は予測目 標と符合、農業生産は良好、工業企業収益は改善、サービス業比率が引 続き上昇、構造調整は深まり、社会事業も新たな発展をみている ・市場化程度が高く、イノベーション重視の地域では質と効率が向上 ・供給サイド構造改革に対する認識が不断に高まっている ・経済の下振れ圧力は依然として大きく、生産経営が依然として困難な企 業があり、市場のリスクが増している ・総需要の適度な拡大を堅持、積極的な財政政策と穏健(中立的)な通 貨政策を実行。供給サイド構造改革を断固として推進することを主線に、 新たな発展の動力育成を加速、伝統的な比較優位を高め、五大任務*を 全面的に実行に移す ○マクロ経済政策は的を絞る -株式市場の健全な発展。市場監督管理を強め、投資者権益を保護 -人民元レートの基本的安定を維持、市場需給を基礎に、双方向に変動 し、柔軟性ある為替レートメカニズムを次第に形成 -戸籍人口都市化率引き上げと不動産在庫消化。不動産在庫の秩序 だった消化。地域的、構造的な問題の解決を重視、地域毎の抑制政策を 実行 -雇用安定維持。経済構造調整において妥当に処理。再就職支援 -価格改革。物価変動に注意し、有効供給を保障、積極かつ穏当に推進 -国有企業改革深化、非公有制経済の健全な発展促進、対外開放拡 大、外国資本の対中投資誘致 7月26日 ・各地区は経済発展の新常態に積極的に適応、供給サイド構造改革に力を入れ、 容易でない成績を挙げた。 -企業業績の回復、金融市場の安定、新規雇用の持続的な増加、人々の生活が 引き続き改善、社会の大局は安定を維持 ・経済の下振れ圧力は依然として大きく、高度に重視しなければならない隠れたリ スクも存在 ・総需要の適度な拡大を通じて、供給サイド構造改革を断固として推進、良好な発 展への期待の誘導という政策の組み合わせを通じて、経済の平穏な発展傾向の 維持に努力、第13次五か年計画の良好なスタートを実現 ・総需要の適度な拡大を堅持し、積極的な財政政策と穏健(中立的)な通貨政策を 引続き実施。タイミングを見て、柔軟にコントロールすることを重視し、重点・テンポ・ 程度をしっかり把握して、供給サイド構造改革のために良好なマクロ環境を作り上 げる -各種減税と費用引き下げ措置を実行、公共支出の能力と力を保証、財政資金の 効果を発揮させる ○五大任務*を全面的に実施、有効な市場競争を通じて、資源配分の効率を高め、 優勝劣敗と産業再編を実現、過剰生産能力業種の集中度を高め、科学技術イノ ベーションを積極的に推進、核心的競争力を強め、新旧動力の転換を加速 ・過剰生産能力解消と、デレバレッジ(資産圧縮)のカギは、「国有企業と金融部門 の基礎的改革」 ・不動産の在庫解消と、不動産供給をさらに効率的にするために、「都市化の秩序 だった誘導と、出稼ぎ農民の市民化との有機的な結合」を指向 ・企業コスト引き下げの重点は、労働市場の柔軟性向上、資産バブル抑制、マクロ の税負担引き下げ (注)*五大任務=去産能(過剰生産能力解消)、去庫存(不動産在庫解消)、去杠杆(デレバレッジ・資産圧縮)、降成本(コスト引き下げ)、補短板(有効供給拡大)。 (資料)人民網4月29日「中共中央政治局召开会议 分析研究当前经济形势和经济工作 中共中央总书记习近平主持会议」 http://cpc.people.com.cn/n1/2016/0429/c64094-28316006.html 新華社7月26日「中共中央政治局召开会议 决定召开十八届六中全会 分析研究当前经济形势 半年经济工作」http://news.xinhuanet.com/politics/2016-07/26/c_1119285168.htm 部署下 今回の会議では、供給サイド構造改革の重点項目の具体的な方向性も明示した。例えば、過剰生産能 力解消と、デレバレッジ(資産圧縮)のカギは、「国有企業と金融部門の基礎的改革」であるとした。 また、不動産の在庫解消と、不動産供給をさらに効率的にするために、「都市化の秩序だった誘導と、 出稼ぎ農民の市民化との有機的な結合を指向する」としている。 金融・財政政策については、「総需要を適度に拡大し、積極的な財政政策と、穏健(中立的)な通貨 政策を実施する」との表現は、4 月と 7 月とで同様である。しかし、7 月会議においては、「各種減税と 費用引き下げ措置を実行、公共支出の能力と力を保証し、財政資金の効果を発揮させる」とし、減税や 積極財政を示唆する言及が目を引く。 ・「地域的な金融リスク(を発生させない)」への言及が消えた人民銀行通貨政策執行報告 人民銀行は 8 月 5 日、第 2 四半期の通貨政策執行報告を公表した16。この中で、過去 18 四半期17に亘 り「システミック・リスク、地域的な金融リスクを発生させない(守住不発生系統性、区域性金融風険)」 としてきた表現を、「システミック・リスクを発生させない(守住不発生系統性金融風険)」に変更、 16 人民銀行 8 月 5 日「2016 年第二季度中国货币政策执行报告(2016 年第二四半期中国通貨政策執行報告)」 http://www.pbc.gov.cn/goutongjiaoliu/113456/113469/3115274/2016080519102676917.pdf 17 ” PBOC omission hints at change in local debt policy “ South China Morning Post, August 10 , 2016. http://www.scmp.com/news/china/economy/article/2001034/missing-phrase-chinas-central-bank-report-may-signal-shift -8- 「地域的な金融リスク(区域性金融風険)を発生させない」への言及がなくなった。これについて香港 紙などでは、地方債務政策変更の可能性や、企業の債務不履行や閉鎖を黙認するサインではないかとの 見方がなされている。上述した 7 月 26 日中央政治局会議後公表文書は、「優勝劣敗と産業再編を実現、 過剰生産能力業種の集中度を高める」ことにあらためて言及18した。1~6 月期の実質GDP成長率が▲ 1.0%と、31 省市の中で唯一、マイナス成長を記録した遼寧省をはじめ、構造調整に苦しむ地域や企業 における金融リスク発生の可能性には注意を払っていく必要があるだろう。 以 上 【 みずほ銀行(中国)有限公司 中国業務部主任研究員 細川美穂子 】 【ご注意】 1. 法律上、会計上の助言:本資料記載の情報は、法律上、会計上、税務上の助言を含むものではありません。法律上、会計上、税務上の助言を 必要とされる場合は、それぞれの専門家にご相談ください。 2. 秘密保持:本資料記載の情報の貴社への開示は貴社の守秘義務を前提とするものです。当該情報については貴社内部の利用に限定され、そ の内容の第三者への開示は禁止されています。 3. 著作権:本資料記載の情報の著作権は原則として弊行に帰属します。いかなる目的であれ本資料の一部または全部について無断で、いかなる 方法においても複写、複製、引用、転載、翻訳、貸与等を行うことを禁止します。 4. 免責: (1) 本資料記載の情報は、弊行が信頼できると考える各方面から取得しておりますが、その内容の正確性、信頼性、完全性を保証する ものではありません。弊行は当該情報に起因して発生した損害については、その内容如何にかかわらずいっさい責任を負いません。 また、本資料における分析は仮定に基づくものであり、その結果の確実性或いは完結性を表明するものではありません。 (2) 今後開示いただく情報、鑑定評価、格付機関の見解、制度・金融環境の変化等によっては、その過程やスキームを大幅に変更する 必要がある可能性があり、その場合には本資料で分析した効果が得られない可能性がありますので、予めご了承下さい。また、本 資料は貴社のリスクを網羅的に示唆するものではありません。 5. 本資料は金融資産の売買に関する助言、勧誘、推奨を行うものではありません。 18 「企業の優勝劣敗」については、15 年 12 月の中央政治局会議でも、「積極的かつ適切に企業の優勝劣敗を進め、合併買収・破産清算を通じて 市場の「在庫処分」を実現」と言及。中国政府網 15 年 12 月 14 日「中共中央政治局召开会议分析研究 2016 年经济工作 研究部署城市工作等」 http://www.gov.cn/xinwen/2015-12/14/content_5023865.htm -9-
© Copyright 2024 ExpyDoc