2016・2017年度 日本経済の見通し(改訂)

平成28年8月18日
2016・2017年度
日本経済の見通し(改訂)
~ 7~9月期以降、景気のけん引役を欠き、年率ゼロ%台前半の成長が続く ~
富国生命保険相互会社(社長 米山 好映)は、2016・2017年度の経済見通しを改訂しました。
【実質GDP成長率予測】
2016年度
+0.4%(前回+0.3%)、2017年度
+0.6%(前回+0.6%)
○ 4~6月期は、うるう年の反動の影響を受けながらも、プラス成長を維持
2016年4~6月期の実質GDP成長率は、 前期比+0.0%、 年率+0.2%と なっ た。 う る う 年の
影響で1~3月期に個人消費が押し 上げら れた反動の影響を 受けながら も 、 プ ラ ス成長を 維
持し た。 個人消費は、 実質賃金が引き 続き 上昇し たこ と を 受けて2四半期連続の増加と な
っ たほか、 公的固定資本形成は、 2015年度補正予算の効果など から 伸びが高ま り 、 住宅投
資は、 相続税対策と し ての貸家建設需要を 背景に大幅増と なっ た。 一方、 設備投資は、 円
高進行によ る 企業収益の悪化など から 企業の投資に対する 慎重な姿勢が続いたこ と で2四
半期続けて減少し 、 輸出は、 海外経済の減速を 映し て減少し た。
○ 7~9月期以降、景気のけん引役を欠き、年率ゼロ%台前半の成長が続く
7~9月期以降、 景気のけん引役を 欠き 、 年率ゼロ %台前半の成長が続く と 見込んでいる 。
企業部門においては、 設備投資は、 世界経済の先行き 不透明感が強ま る なか、 企業の期待
成長率が高ま り にく いこ と に加え、 円高によ る 企業収益の悪化も あっ て弱い動き になる だ
ろ う 。 ま た、 海外需要については、 先進国では緩やかな回復が続く も のの、 中国を はじ め
と し た新興国は勢いを 欠く こ と に加え、 円高の重石も あっ て、 輸出は一進一退の動き が続
く と みら れる 。 家計部門においては、 雇用の改善が続く なか、 実質賃金の上昇が当面の下
支えと なる も のの、家計の節約志向は払拭さ れず、個人消費は低い伸びにと ど ま る だろ う 。
な お、 今回の予測で は、 企業部門に対する 見方を 下方修正し たも のの、 8月に閣議決定さ
れた大規模な経済対策によ る 公共投資の進捗が成長率を 押し 上げる ため、 2016年度の実質
GDP成長率は前年比+0.4%と 前回予測から 0.1ポイ ン ト 上方修正し て いる 。 2017年度につ
いては、 引き 続き 経済対策の押し 上げ効果が下支えと なる も のの、 輸出、 設備投資は力強
さ を 欠き 、 個人消費についても 回復感が乏し い状況が続く こ と で、 緩慢な成長にと ど ま る
だろ う 。
図表1.2016・2017年度 経済見通し
(前年比、%)
2015
2016年度予測
年度
実績
上期
前回
下期
(前期比)
(前期比)
504.9
505.8
507.6
509.1
507.8
510.2
2.2
0.9
0.6
0.2
1.5
0.7
0.4
0.5
529.2
531.2
531.1
532.0
530.5
534.1
533.7
535.7
0.8
0.4
0.3
0.2
0.3
0.6
0.3
0.4
需
0.8
0.6
0.4
0.1
0.3
0.6
0.5
0.1
要
0.6
0.1
0.1
▲ 0.1
0.1
0.3
0.2
0.2
内
需
時点
下期
505.3
実質国内総生産(兆円)
間
上期
2016年5月
500.5
名目国内総生産(兆円)
民
2017年度予測
民
間
最
終
消
費
▲ 0.2
0.4
0.6
▲ 0.1
0.2
0.4
0.3
0.3
民
間
住
宅
投
資
2.4
5.8
5.3
0.9
0.3
0.7
0.7
▲ 0.9
民
間
設
備
投
資
2.1
▲ 0.8
▲ 1.2
▲ 0.2
0.8
1.1
0.7
0.8
要
0.2
0.5
0.3
0.2
0.3
0.3
0.1
0.1
費
1.6
1.6
0.8
0.3
1.4
0.8
0.4
0.4
公 的 固 定 資 本 形 成
▲ 2.7
3.4
3.4
2.8
▲ 0.4
3.2
1.6
0.7
財貨・サー ビス の純 輸出
0.1
▲ 0.2
▲ 0.2
▲ 0.1
▲ 0.1
▲ 0.0
▲ 0.0
0.0
財貨・サービ スの 輸出
0.4
▲ 0.8
▲ 1.1
0.5
0.8
2.0
0.8
1.8
財貨・サービ スの 輸入
▲ 0.0
0.2
0.1
0.9
1.3
2.4
1.0
2.0
公
政
的
府
需
最
終
消
注1.実質値は2005暦年連鎖価格
注2.内需、民間需要、公的需要、財貨・サービスの純輸出はGDPに対する寄与度
(主な経済指標と前提条件)
鉱 工 業 生 産 指 数
▲ 1.0
▲ 0.2
▲ 0.1
0.8
1.4
1.1
0.5
0.3
国 内 企 業 物 価 指 数
※
▲ 3.2
▲ 3.5
▲ 4.1
▲ 3.0
▲ 2.6
▲ 0.9
▲ 1.5
▲ 0.3
消 費 者 物 価 指 数
※
0.2
▲ 0.1
▲ 0.4
0.1
0.1
0.5
0.4
0.6
消費者物価(除く 生鮮 ) ※
0.0
▲ 0.1
▲ 0.3
0.1
0.0
0.5
0.4
0.5
貿 易 収 支(兆円)
0.5
2.7
2.2
0.5
4.1
2.3
1.8
0.5
経 常 収 支(兆円)
18.0
18.2
10.0
8.2
20.6
18.7
9.9
8.9
※
0.2
0.4
0.4
0.3
0.3
0.4
0.4
0.3
完 全 失 業 率 ( % )
3.3
3.1
3.1
3.0
3.1
2.9
3.0
2.9
住 宅 着 工 戸 数 ( 万 戸)
92.1
97.3
98.8
95.8
93.2
93.7
94.5
92.8
為替レート(¥/$)
120.1
104.2
105.4
102.9
108.6
104.7
104.1
105.3
($/b)
49.4
43.4
43.3
43.5
39.4
45.5
44.8
46.2
米国実質成長率(年率)
2.6
1.6
0.9
2.8
1.9
2.4
2.4
2.2
中 国 実 質 成 長 率
6.9
6.6
6.7
6.5
6.6
6.3
6.4
6.1
名 目 賃 金 指 数
原油価格
※
注1.原油価格は円ベースの入着価格を為替レート(月中平均、インターバンク中心相場)でドル換算
注2.米国・中国GDPは暦年ベースの成長率
注3.※印がついた指標の半期は原系列(前年比伸び率)、それ以外は季節調整値(前期比伸び率)
-1-
◇日 本 経 済 の現 状 と見 通 し
図表2.実質GDP成長率の寄与度分解
○4~6月 期 の実 質 GDP
8 月 15 日 に 発 表 さ れ た 2016 年 4~
~ 6 月 期 の 一 次 QE に よ る と 、 実 質
(前期比、%)
4.0
3.0
GDP 成 長 率 は 前 期 比 + 0.0% ( 年 率 換
2.0
算 + 0.2% )と 2 四 半 期 連 続 の プ ラ ス 成
1.0
長 と な っ た( 図 表 2)。個 人 消 費 の 増 加
0.0
な ど で 内 需 の 寄 与 度 が 同 + 0.3 ポ イ ン
外 需 が 同 ▲ 0.3 ポ イ ン ト と な っ た 。 う
-4.0
る う 年 の 影 響 で 1~ 3 月 期 の 成 長 率 が
-5.0
1.2
0.5 0.5
0.0
-0.4
-0.6 -0.4
-2.0
-3.0
も 4~ 6 月 期 は プ ラ ス 成 長 を 維 持 し た 。
0.5
-1.0
ト と な る 一 方 、輸 出 の 減 少 な ど に よ り 、
押上げられた反動の影響を受けながら
1.3
民間最終消費
民間在庫投資
公的需要
実質成長率
民間設備投資
純輸出
民間住宅投資
-2.1
-6.0
08
09
10
11
12
13
(暦年四半期)
14
15
16
(資料)内閣府「四半期別GDP速報」
名 目 GDP 成 長 率 は 同 + 0.2%( 年 率 換 算 + 0.9% )と 、名 目 ベ ー ス で も 2 四 半 期 連 続 の
プ ラ ス 成 長 と な っ た 。 4~ 6 月 期 の 実 質 GDP を 需 要 項 目 別 に み る と 、 民 間 最 終 消 費 は
同 0.2% 増 と う る う 年 要 因 の 反 動 の 影 響 を 受 け な が ら も 2 四 半 期 続 け て 増 加 し 、 住 宅
投 資 は 同 5.0% 増 と 3 四 半 期 ぶ り の 増 加 と な っ た 。 設 備 投 資 は 、 円 高 進 行 に よ る 企 業
収 益 の 悪 化 な ど か ら 企 業 の 投 資 に 対 す る 慎 重 な 姿 勢 が 継 続 し 、 同 0.4% 減 と 2 四 半 期
続 け て 減 少 し た 。 公 的 需 要 に つ い て は 、 公 的 固 定 資 本 形 成 が 2015 年 度 補 正 予 算 の 効
果 な ど か ら 同 2.3% 増 と 伸 び を 高 め た ほ か 、政 府 消 費 は 同 0.2% の 増 加 と な っ た 。外 需
に つ い て は 、輸 出 が 海 外 経 済 の 減 速 を 映 し て 同 1.5% 減 と な る 一 方 、輸 入 が 同 0.1% 減
となったことで、外需はマイナス寄与となった。
今 後 の 日 本 経 済 に つ い て は 、7~ 9 月 期 以 降 も 、景 気 の け ん 引 役 を 欠 き 、年 率 ゼ ロ %
台前半の成長が続くと見込んでいる。企業部門においては、設備投資は、世界経済の
先行き不透明感が強まるなか、企業の期待成長率が高まりにくいことに加え、円高に
よる企業収益の悪化もあって、弱い動きになるだろう。また、海外需要については、
先進国では緩やかな回復が続くものの、中国をはじめとした新興国は勢いを欠くこと
に加え、円高の重石もあって、輸出は一進一退の動きが続くとみられる。家計部門に
おいては、雇用の改善が続くなか、実質賃金の上昇が当面の下支えとなるものの、家
計 の 節 約 志 向 は 払 拭 さ れ ず 、個 人 消 費 は 低 い 伸 び に と ど ま る だ ろ う 。今 回 の 予 測 で は 、
企業部門に対する見方を下方修正したものの、8 月に閣議決定された大規模な経済対
策 に よ る 公 共 投 資 の 進 捗 が 成 長 率 を 押 し 上 げ る た め 、2016 年 度 の 実 質 GDP 成 長 率 は
前 年 比 + 0.4% と 前 回 予 測 か ら 0.1 ポ イ ン ト 上 方 修 正 し て い る 。2017 年 度 に つ い て は 、
経済対策の押上げ効果が続くことが下支えとなるものの、輸出、設備投資は力強さを
欠き、個人消費についても回復感が乏しい状況が続くことで、緩慢な成長にとどまる
だろう。なお、日銀のマイナス金利政策については、住宅ローンなどの借入金利の低
下が一部世帯の家計負担軽減や新規住宅購入意欲の向上につながっている面はあろう。
しかし、生活の一部を貯蓄に頼る世帯を中心に利息収入の減少や資産運用難がもたら
す先行き不安感が消費マインドを弱める影響の方が大きいとみられる。また、企業に
おいては、期待成長率が高まらないなかでは、金利低下が投資需要を喚起する効果は
限定的だろう。
なお、主要な需要項目については以下の通り。
-2-
○個 人 消 費 は、弱 い動 きが続 く
雇 用 環 境 は 改 善 傾 向 と な っ て い る 。4~ 6 月 期 平 均 の 就 業 者 数( 季 節 調 整 値 )は 6,424
万 人 と 増 加 傾 向 が 続 き 、 失 業 率 に つ い て も 6 月 は 3.1% と 低 水 準 で 推 移 し て い る 。 ま
た 、有 効 求 人 倍 率 は 1.37 倍 と 求 人 数 が
求 職 者 数 を 大 き く 上 回 り 、 約 25 年 ぶ
りの高水準まで上昇し、すべての都道
図表3. 求人倍率(新規・有効)の推移
2.50
(倍)
府県で 1 倍を超えるなど労働需給は引
き 締 ま っ た 状 況 が 続 い て い る( 図 表 3)。
今後も雇用環境は緩やかに改善するだ
ろ う 。 日 銀 短 観 の 雇 用 人 員 判 断 DI を
みると、製造業、非製造業ともに不足
2.00
2.01
新規求人倍率
1.50
1.37
1.00
となっており、特に宿泊・飲食サービ
スや対個人サービス、運輸・郵便など
の非製造業の人手不足感が強い。その
0.50
有効求人倍率
0.00
05
11
(月次)
(資料)厚生労働省「一般職業紹介状況」
ため、これらの業種を中心に企業の積
極的な人材確保の動きが続くとみられ
06
07
08
09
10
12
13
14
15
16
る。また、高齢者や女性の労働参入が継続することで雇用者数は緩やかに増加し、労
働需給は一層引き締まっていくだろう。このような労働需給の引き締まりを映して、
所 得 は 増 加 基 調 と な っ て い る 。 4~ 6 月 期 の 名 目 の 一 人 当 た り 現 金 給 与 総 額 は 前 年 比
0.5% 増 と 4 四 半 期 連 続 で 前 年 を 上 回 っ て い る ( 図 表 4)。 基 本 給 に あ た る 所 定 内 給 与
の 伸 び は 2016 年 春 闘 賃 上 げ 率 が 前 年 を 下 回 っ た こ と や パ ー ト タ イ ム 労 働 者 比 率 の 上
昇などを映して前年比横ばいとなったものの、特別給与の伸びが高まった。今後につ
いても、現金給与総額は前年比プラスでの推移が続くものの、その伸びは緩やかにと
どまると想定している。今年度もベー
図表4.名目・実質賃金指数の推移
スアップの流れが途絶えてはいないと
はいえ、前年の伸びを下回っており、
2.0
(前年比、%)
名目賃金指数
所定内給与が伸びを高めることは期待
しづらい。また円高進行などによる企
業収益の悪化で特別給与の伸びも抑え
られよう。加えて、労働時間の短い女
1.0
1.0
0.5
0.0
‐1.0
性や高齢者の労働参入が継続すること
によるパートタイム労働者比率の上昇
‐2.0
傾向が一人当たりでみた賃金の伸びを
‐3.0
抑制する状況が続くだろう。なお、実
特別給与
所定外給与
‐4.0
12
質賃金については、消費者物価がマイ
ナ ス と な る な か で 4~ 6 月 期 は 同 1.0%
実質賃金指数
所定内給与
13
14
(暦年四半期)
15
16
(資料)厚生労働省「毎月勤労統計調査」
増と伸びを高めており、冴えない個人消費にとっては明るい材料といえる。消費者物
価は弱い動きが見込まれることから、当面、実質賃金についても前年を上回る推移が
続 く だ ろ う 。こ れ に 雇 用 者 数 の 増 加 傾 向 も 加 わ り 、実 質 総 賃 金( 実 質 賃 金 ×雇 用 者 数 )
は緩やかに増加していくとみられる。
個 人 消 費 は 、う る う 年 の 影 響 を 受 け な が ら も 増 加 し た 。4~ 6 月 期 の 民 間 最 終 消 費 支
出 は 前 期 比 0.2% 増 と な っ た 。 1~ 3 月 期 が う る う 年 の 日 数 増 の 影 響 で 押 し 上 げ ら れ た
-3-
反 動 の 影 響 を 受 け な が ら も 4~ 6 月 期 は 増 加 が 続 き 、 底 堅 い 結 果 と な っ た 。 し か し 、
水 準 と し て は 2015 年 10~ 12 月 期 の 減 少 分 を よ う や く 取 り 戻 し た に 過 ぎ ず 、均 し て み
れば横ばい圏の動きと判断できる。家計最終消費支出の内訳をみると、自動車やテレ
ビ な ど が 増 加 し た こ と で 耐 久 財 が 同 1.3% 増 と な っ た ほ か 、サ ー ビ ス 消 費 が 同 0.2% 増
となった。今後の個人消費については、基調としては弱い動きが続くだろう。原油価
格の低位安定により家計の光熱費負担は軽減された状況が続き、雇用が改善傾向とな
るなかで実質賃金が当面は前年比プラスで推移することも個人消費の下支えとなるだ
ろう。一方で、日銀のマイナス金利政策の効果については、住宅などのローンの借換
えなどが一部世帯の負担軽減につながっている面はあるものの、生活の一部を貯蓄に
頼る世帯を中心に利息収入の減少や資産運用難がもたらす先行き不安感が消費マイン
ドを弱める影響の方が大きいと考えている。また、不安定な金融資本市場の動向も消
費マインドの重石となることで家計の節約志向は払拭されず、個人消費は伸び悩むだ
ろ う 。な お 、2017 年 度 に つ い て は 、年 金 生 活 者 等 支 援 臨 時 福 祉 給 付 金 の 一 括 支 給 や 雇
用保険料の一段の引き下げといった経済対策の効果もあり、幾分安定していくと見込
んでいる。ただし、原油安の影響が一巡することなどで物価はプラスに転じ、実質賃
金が抑えられることで、回復感の乏しい状況が続くだろう。
○新 設 住 宅 着 工 戸 数 は、やや水 準 を落 とすものの、底 堅 く推 移
住 宅 投 資 は 、新 設 住 宅 着 工 戸 数 の 増 加 を 映 し て 増 加 に 転 じ た 。4~ 6 月 期 の 住 宅 投 資
は 前 期 比 5.0% 増 と 3 四 半 期 ぶ り の 増 加 と な っ た 。 住 宅 投 資 に 先 行 し て 動 く 新 設 住 宅
着 工 戸 数 は 、 4~ 6 月 期 は 同 6.2% 増 の
図表5.新設住宅着工戸数の推移
年 率 100.5 万 戸 と 2 四 半 期 連 続 で 増 加
し て い る( 図 表 5)。利 用 関 係 別 に み る
(年率、万戸)
(年率、万戸)
110
と、貸家、持家、分譲住宅ともに増加
50
が続いており、日銀のマイナス金利政
45
策による住宅ローン金利の低下が追い
40
80
風になっているとみられる。貸家につ
35
70
いては、相続税対策としての貸家建設
30
需要が続いていることも着工を押し上
げる要因となっている。今後の新設住
宅着工戸数は、やや水準を落とすもの
の、底堅く推移すると見込んでいる。
足元の住宅着工戸数の堅調さの背景に
100
90
60
50
25
40
30
20
15
持家
貸家
分譲住宅
住宅着工(右目盛)
20
10
10
0
10
11
12
13
14
15
16
(暦年四半期)
(資料)国土交通省「住宅着工統計」
は 、2017 年 4 月 に 予 定 さ れ て い た 消 費 増 税 に 向 け て の 駆 け 込 み 需 要 と い う 要 因 が 一 定
程度加わっていたと考えている。実際、景気ウォッチャー調査では増税延期以降、顧
客との商談が長期化しているとのコメントもみられる。そのため、今後の住宅着工は
その要因が剥落することでやや水準を落とす動きを想定している。もっとも、雇用・
所得環境の改善が続くとみられることに加え、日銀のマイナス金利政策によって住宅
ローン金利は低水準での推移が見込まれ、住宅取得環境は良好な状況が続くだろう。
こうしたなかで、相続税対策としての貸家建設需要が継続することもあり、住宅着工
は底堅さを維持するだろう。
-4-
○設 備 投 資 は弱 い動 きが続 き、前 年 度 の水 準 を下 回 る
設 備 投 資 は 、弱 い 動 き と な っ て い る 。4~ 6 月 期 の 実 質 設 備 投 資 は 前 期 比 0.4% 減 と 、
2 四半期連続の減少となった。円高進行による企業収益の悪化や国内外経済の先行き
不透明感から投資に対する慎重な姿勢を崩していないとみられる。今後についても、
設備投資は弱い動きが続くと見込んでいる。日本政策投資銀行が公表した設備投資計
画 調 査 に よ る と 、 2016 年 度 の 大 企 業 ・ 全 産 業 の 国 内 設 備 投 資 計 画 は 前 年 度 実 績 対 比
10.9% 増 と な っ た 。業 種 別 に み る と 、製 造 業 で は 、
「輸送用機械のモデルチェンジに向
けた投資のほか、化学の新素材向け投資や鉄鋼の設備更新・集約投資など、事業基盤
強 化 の た め の 投 資 が 増 加 」し 、非 製 造 業 で は 、
「 運 輸 、不 動 産 な ど で 安 全 防 災 対 策 や 東
京オリンピック・パラリンピックを見据えた都市機能強化のほか、鉄道などのインフ
ラ関連投資が続く」見込みとなってい
図表6.機械受注の推移
る 。も っ と も 、2016 年 度 計 画 は 前 年 度
計 画( 同 13.9% 増 )か ら 伸 び が 鈍 化 し
ているほか、製造業では想定為替レー
トを足元より大幅な円安水準である 1
ド ル = 110~ 115 円 未 満 と し て い る 企
業が最も多く、円高進行の影響で計画
を見直す企業も出てくる可能性があろ
(億円)
10,000
8,000
7,000
非製造業(船舶・電力を除く)
6,000
5,000
4,000
3,000
う。先行指標である機械受注(船舶・
2,000
電 力 を 除 く 民 需 )は 、4~ 6 月 期 が 前 期
1,000
比 9.2% 減 と 大 幅 に 減 少 し て い る ( 図
0
表 6)。日 銀 の マ イ ナ ス 金 利 政 策 の 継 続
民需(船舶・電力を除く)
9,000
製造業
07
08
09
10
(資料)内閣府「機械受注統計」
11
12
(月次)
13
14
15
16
(備考)データは3ヵ月後方移動平均
によって貸出金利は極めて低水準とな
っ て お り 、 資 金 調 達 環 境 は 良 好 な 状 況 が 続 い て い る も の の 、 英 国 の EU 離 脱 決 定 な ど
世界経済を取り巻く環境は先行き不透明感が強まっており、期待成長率が高まらない
なかで、企業の投資に対する慎重な姿勢が続くだろう。このような状況のもと、積極
的 な 能 力 増 強 投 資 は 限 ら れ 、2016 年 度 の 設 備 投 資 は 前 年 度 水 準 を 下 回 る と 想 定 し て い
る。
○公 的 固 定 資 本 形 成 は、大 規 模 な経 済 対 策 により増 加
公的固定資本形成は補正予算の効果
な ど に よ り 増 加 し て い る 。4~ 6 月 期 の
図 表 7 .公 共 工 事 請 負 金 額 ・ 出 来 高 の 推 移
公 的 固 定 資 本 形 成 は 前 期 比 2.3% 増 と
2.0
2 四半期連続の増加となった。公共工
1.8
事の進捗を映す公共工事出来高の推移
1.4
1.2
ークアウトしたことなどから水準を落
1.0
年度予算の前倒し執行の効果が顕在化
したことで足元では持ち直しの動きと
公共工事出来高
1.6
をみると、東日本大震災復興需要がピ
と し た 後 、 2015 年 度 補 正 予 算 や 2016
(兆円)
0.8
0.6
0.4
公共工事請負金額
0.2
0.0
な っ て い る 。( 図 表 7)。 今 後 に つ い て
は、公的固定資本形成は、経済対策の
11
12
13
14
(月次)
(資料)国土交通省、各保証会社資料により富国生命作成
(備考)公共工事出来高、公共工事請負金額は富国生命による季節調整値
-5-
15
16
効 果 も あ り 、緩 や か に 増 加 す る だ ろ う 。2016 年 度 1 次 補 正 で 組 ま れ た 熊 本 地 震 へ の 復
旧 対 応 の 効 果 が 顕 在 化 す る こ と に 加 え て 、8 月 2 日 に は 事 業 規 模 28.1 兆 円 、国・地 方
の 財 政 措 置 7.5 兆 円 の 経 済 対 策 が 閣 議 決 定 さ れ て お り 、 こ の う ち 2016 年 度 2 次 補 正
で 組 ま れ る 復 旧 対 応 、防 災 、イ ン フ ラ 関 連 の 公 共 投 資 が 2017 年 1~ 3 月 期 以 降 に 進 捗
し 始 め 、公 共 投 資 を 押 し 上 げ る 要 因 と な ろ う 。そ の た め 、2016 年 度 の 公 的 固 定 資 本 形
成 は 増 加 に 転 じ る と 見 込 ん で い る 。ま た 、2017 年 度 に つ い て も 、引 き 続 き 経 済 対 策 に
よる効果が顕在化することに加えて、東京五輪・パラリンピックに向けた投資の本格
化などが押上げ要因となり、緩やかに増加すると見込んでいる。
○輸 出 は一 進 一 退 の動 きに
輸 出 は 海 外 経 済 の 減 速 を 映 し て 、一 進 一 退 の 動 き と な っ て い る 。4~ 6 月 期 の 実 質 輸
出 は 前 期 比 1.5% 減 と 2 四 半 期 ぶ り に 減 少 し た 。 2015 年 4~ 6 月 期 以 降 、 実 質 輸 出 は
マイナスとプラスを繰り返し、概ね横ばい圏の動きにとどまっている。仕向地別の輸
出 数 量 指 数 の 動 向 を み る と 、 1~ 3 月 期 に 緩 や か な 持 ち 直 し の 動 き が み ら れ た も の の 、
4~ 6 月 期 は 熊 本 地 震 に よ る 工 場 稼 働 停 止 の 影 響 が 一 時 的 な 下 押 し 要 因 と な っ た こ と
も あ り 、欧 米 向 け を 中 心 に 低 下 し て い る( 図 表 8)。今 後 に つ い て も 、当 面 、輸 出 は 一
進一退の推移にとどまるだろう。海外需要については、欧米経済の回復ペースは緩や
かにとどまりけん引力を欠くほか、中国など新興国経済の減速傾向が続くことで鈍い
動 き に な る と 見 込 ん で い る 。 新 興 国 の 成 長 鈍 化 や 、 英 国 の EU 離 脱 問 題 を 巡 る 不 透 明
感などを背景に、世界的に積極的な設
図表8.輸出数量指数の推移
備投資は手控えられるとみられること
から、資本財輸出の持ち直しも期待し
づらい。また、円高水準での推移も輸
出 の 重 石 と な ろ う 。2017 年 度 は 海 外 需
要が緩慢ながらも回復に向かい、輸出
120
(2010年=100)
115
110
105
米国
100
95
は前年比で増加を見込むものの、力強
90
EU
輸出計
さを欠くだろう。なお、サービス輸出
85
アジア
に分類される訪日客消費については、
東京五輪・パラリンピックを見据えた
観光客誘致政策などもあって訪日外国
人の増加傾向が続くものの、円高や中
80
中国
75
70
10
11
12
13
(月次)
14
15
16
(資料)財務省資料より富国生命作成
(備考)データは後方3ヵ月移動平均、各地域の季節調整は富国生命
国の関税強化などによる一人当たり消費額の鈍化などにより、輸出の伸びを高めるほ
どの力はないだろう。
【米 国 経 済 】
米 国 経 済 は 、 一 部 に 弱 さ が み ら れ る も の の 、 回 復 が 続 い て い る 。 4~ 6 月 期 の 実 質
GDP 成 長 率 ( 速 報 ) は 、 前 期 比 年 率 + 1.2% と な っ た ( 図 表 9)。 個 人 消 費 が 大 幅 に 増
加 し た も の の 、 在 庫 投 資 の 減 少 が 同 ▲ 1.2 ポ イ ン ト 成 長 率 を 押 し 下 げ た こ と に 加 え 、
設 備 投 資 、 住 宅 投 資 な ど が マ イ ナ ス 寄 与 と な っ た こ と で 、 1~ 3 月 期 の 同 + 0.8% に 続
き 低 い 伸 び に と ど ま っ た 。家 計 部 門 に つ い て は 、個 人 消 費 が 同 4.2% 増 と 1~ 3 月 期 の
同 1.6% 増 か ら 伸 び が 高 ま っ た 。 財 消 費 で は 娯 楽 関 連 や 飲 食 料 品 な ど の 増 加 が 続 い た
ほか、自動車・同部品も 3 四半期ぶりに増加した。また、サービスでは住居、医療な
-6-
ど の 増 加 が 続 い た 。 一 方 、 住 宅 投 資 は 同 6.1% 減 と 9 四 半 期 ぶ り の 減 少 と な っ た 。 企
業 部 門 に つ い て は 、 設 備 投 資 が 同 2.2% 減 と 、 エ ネ ル ギ ー 関 連 投 資 の 低 迷 に よ り 3 四
半期連続で減少したほか、在庫投資は製造業、卸売業を中心に減少し、5 四半期連続
でマイナス寄与となった。このように内需は個人消費が大幅に増加した以外は政府支
出も含め減少し弱い結果となった。外需
に つ い て は 、 輸 入 が 同 0.4% 減 と な る 一
方 、 輸 出 は 同 1.4% 増 と 小 幅 な 伸 び な が
ら 4 四 半 期 ぶ り に 増 加 し 、 外 需 は 0.2 ポ
イントのプラス寄与となった。
図表9.米国実質GDP成長率の推移
(年率換算前期比、%)
8.0
6.0
2.0 2.0
2.6 0.9
0.8
4.0
2.0
1.2
今 後 に つ い て は 、緩 や か に 回 復 す る と
0.0
想定している。雇用環境については、7
-2.0
月 の 失 業 率 が 4.9% と 完 全 雇 用 に 近 い と
-4.0
される水準にあるなかで、非農業部門雇
-6.0
個人消費
設備投資
住宅投資
-8.0
在庫投資
政府支出
純輸出
用者数(前月差)は大幅な増加が続くこ
と は 見 込 み づ ら い も の の 、10 万 人 台 後 半
-10.0
08
09
(資料)米商務省
10
11
12
13
14
15
16
(暦年四半期)
の増加ペースを維持するだろう。また労
働需給が引き締まるなかで賃金も次第に伸びが高まっていくとみられる。こうした雇
用・所得環境の改善が続き、株価が持ち直すなかで消費マインドも良好さを維持する
とみられ、個人消費は堅調に推移するだろう。自動車販売については頭打ち感がみら
れ る も の の 、高 水 準 で の 推 移 が 続 く と 見 込 ん で い る 。ま た 、住 宅 投 資 に つ い て は 、FRB
(米連邦準備制度理事会)の追加利上げが遅れ、低金利環境が継続するもとで、底堅
く推移すると見込んでいる。一方、企業部門においては、弱さが残るだろう。やや修
正されたものの依然としてドル高の重石は残り、新興国経済の減速もあって輸出は弱
い動きが続くだろう。設備投資については、機械設備の先行指標である非国防資本財
受注(除く航空機)の動向をみても回復の兆しは未だみられず、企業収益の鈍化やエ
ネ ル ギ ー 関 連 投 資 の 低 迷 に よ り 、当 面 伸 び 悩 む と み て い る 。4~ 6 月 期 の 在 庫 の 急 減 に
ついては個人消費の大幅な増加と輸出の下げ止まりによる一時的なものとみており、
短期的には生産を押し上げる要因になると考えている。なお、世界経済の先行き不透
明 感 が 強 ま る な か 、FRB は 追 加 利 上 げ に 対 し て 慎 重 な 姿 勢 を 維 持 し て い る 。当 社 で は 、
年末に追加利上げに踏み切り、その後も慎重なペースで利上げを継続すると見込んで
いる。もっとも、日欧などグローバルに緩和的な金融環境が続くなかで、米国長期金
利 は 低 位 で 推 移 す る と 想 定 し て お り 、実 体 経 済 へ の 影 響 は 限 ら れ る と み て い る 。な お 、
実 績 の 下 振 れ を 踏 ま え 、2016 年 の 米 国 の 実 質 GDP 成 長 率 は 、前 年 比 + 1.6% と 前 回 予
測から下方修正している。
【欧 州 経 済 】
欧 州 経 済 は 、 緩 や か な 持 ち 直 し が 続 い て い る 。 4~ 6 月 期 の ユ ー ロ 圏 の 実 質 GDP 成
長 率 は 前 期 比 + 0.3% と 、 1~ 3 月 期 ( 前 期 ) か ら は 伸 び が 鈍 化 し た も の の 、 13 四 半 期
連 続 の プ ラ ス 成 長 と な っ た ( 図 表 10)。 け ん 引 役 が 期 待 さ れ る ド イ ツ に つ い て は 、 同
+ 0.4% と 前 期 の 同 + 0.7% か ら 伸 び が 鈍 化 し た 。 個 人 消 費 の 増 加 が 続 い た ほ か 、 輸 入
の減少で外需がプラスに寄与した一方、暖冬の影響もあって前期に堅調な伸びとなっ
た投資が減少に転じたことが成長率鈍化の要因となった。その他主要国については、
-7-
フ ラ ン ス は 個 人 消 費 と 投 資 が 冴 え ず 、前 期 の 同 + 0.7% か ら ゼ ロ 成 長 へ と 落 ち 込 み 、イ
タ リ ア も ゼ ロ 成 長 と な っ た 一 方 、 ス ペ イ ン は 同 + 0.7% と 前 期 の 同 + 0.8% に 続 き 、 堅
調な伸びが続いた。このように各国ま
図 表 10.ユ ー ロ 圏 実 質 G D P 成 長 率 の 推 移
ちまちの結果となったが、総じてみれ
2
(前期比、%)
ばユーロ圏は緩やかな持ち直しの動き
が続いている。
1
0.6 0.4 0.3 0.4 0.6 0.3 今後についても、内需を中心に緩や
0
かな持ち直しの動きが続くと見込んで
い る 。雇 用 環 境 に つ い て は 6 月 の 失 業
‐1
率 が 10.1 % と 依 然 高 い 水 準 に あ る も
のの、緩やかながら改善傾向となって
いる。そのなか、低インフレによる家
‐2
‐3
計の実質的な購買力の高まりを背景に、
個人消費は増加基調を維持すると見込
08
09
10
11
12
13
14
15
16
(暦年四半期)
(資料)Eurostat
んでいる。固定資本形成については、世界経済の先行き不透明感などから企業の投資
に対する慎重な姿勢が継続するとみられ、力強さを欠く推移となろう。特に、英国と
の繋がりが深い企業では、将来の対英関係が見通せないなかで投資を手控える動きも
みられるだろう。輸出については、ユーロ安が下支えとなるものの、中国など新興国
の需要鈍化が引き続き重石となり伸び悩むだろう。また輸出先としてウエイトが大き
い英国については、8 月に実施された追加金融緩和が下支えとなるものの、企業・家
計のマインドは先行き不透明感から委縮しており、成長ペースは鈍化することが見込
まれ、これも輸出を下押しする要因となろう。インフレ動向については、原油安の影
響が剥落することで徐々に伸びが高まるとみられるが、景気の持ち直しが緩やかにと
ど ま る こ と で イ ン フ レ 圧 力 は 限 定 的 と な り 、 ECB( 欧 州 中 央 銀 行 ) の 目 標 を 下 回 る 伸
びが続き、金融政策は緩和的なスタンスが維持されるだろう。
【中 国 経 済 】
中 国 経 済 は 、減 速 傾 向 と な っ て い る 。4~ 6 月 期 の 実 質 GDP 成 長 率 は 前 年 比 + 6.7%
と 1~ 3 月 期 と 同 率 に な っ た( 図 表 11)。内 訳 を み る と 、第 3 次 産 業 が 金 融 業 の 鈍 化 を
主 因 に 減 速 し た 一 方 で 、第 2 次 産 業 は
図 表 11. 中 国 実 質 G D P 成 長 率 の 推 移
製造業にけん引されて伸び率が高まっ
た 。4~ 6 月 期 の 成 長 率 は 伸 び を 維 持 し
たものの、7 月の主要経済指標が 6 月
14
13
の伸びを軒並み下回るなど減速の兆し
12
が み ら れ る 。固 定 資 産 投 資 は 、1~ 7 月
11
累 計 で 同 8.1% 増 と 1~ 6 月 累 計 の 同
10
9.0% 増 か ら 大 き く 伸 び 率 が 鈍 化 し た 。
高い伸びを維持するもののインフラ投
9
8
7.0 6.8
6.7
7.0 6.9
6.7
7
資が緩やかに減速したことに加え、製
6
造業を中心に民間部門の投資が引き続
5
き減速したことが要因である。政府の
4
財政支出拡大が下支えしているが、伸
(前年比、%)
08
09
(資料)中国国家統計局
-8-
10
11
12
(暦年四半期)
13
14
15
16
び鈍化に歯止めが掛からない状況が続いている。輸出については、海外経済の減速な
どを映して、7 月まで 4 ヵ月連続で前年を下回っている。一方、個人消費は前年比二
桁増を維持するなど、自動車販売を中心に底堅く推移している。そうしたなか、生産
活動は一進一退の動きが続き、製造業の景況感の改善は足踏みしている。
今 後 に つ い て は 、 6% 台 半 ば の 成 長 が 続 く と 想 定 し て い る 。 中 国 は 固 定 資 産 投 資 主
導から個人消費主導へと構造改革を進めている過程にあり、成長率を高めることは困
難とみられる。もっとも、製造業の投資が一段と減速するなど民間部門に弱い動きが
みられるのに対し、政府が財政支出を拡大するなどして下支えする構図は続くと想定
している。その影響を受ける固定資産投資は、緩やかに伸び率が縮小していくと見込
んでいる。インフラ投資は堅調に推移する一方で、過剰生産業種を抱える製造業など
の投資は引き続き減速し、全体の伸びを押し下げる要因になろう。また、年初より拡
大に転じた不動産関連投資も、一部大都市における規制強化などを受けて徐々に減速
すると想定している。ただし、堅調な不動産販売を受けて、極めて高水準にある不動
産在庫がわずかながらも減少しつつあり、不動産在庫の調整は進捗に向かっている。
個人消費は、宝飾品など一部の高額消費は低迷が続くものの、日用品や家具・家電に
加 え 、減 税 の 恩 恵 を 受 け る 小 型 車 を 中 心 に 概 ね 底 堅 く 推 移 す る と 見 込 ん で い る 。ま た 、
販売経路としては、引き続きインターネットを通じた取引が活況を呈すだろう。前年
割れが続く輸出金額は、先進国、新興国の需要鈍化を背景に、水準回復には時間がか
かると見込んでいる。こうした内外需の動きを映して、過剰生産業種の調整に取り組
むことで下押し圧力がかかる生産活動は、一進一退の推移が続くと見込んでいる。今
年 の 成 長 率 目 標 ( 6.5~ 7.0% ) の 範 囲 内 で の 着 地 を 目 指 し て 引 き 続 き 政 府 は 政 策 を 舵
取 り す る と 見 込 ん で い る 。2016 年 の 実 質 GDP 成 長 率 は 、前 年 の 伸 び を 下 回 る + 6.6%
と前回予測を据え置いている。
○今 後 の伸 び率 などについて
2016 年 度 の 実 質 GDP 成 長 率 は + 0.4% と 前 回 予 測 か ら 上 方 修 正 し た 。世 界 経 済 の 先
行 き 不 透 明 感 の 強 ま り と 円 高 進 行 を 受 け て 輸 出 、設 備 投 資 の 先 行 き の 見 方 を 弱 め た が 、
大規模な経済対策による公共投資の押し上げ効果がそれを上回るためである。四半期
ご と の 成 長 率 に つ い て は 、当 面 、年 率 ゼ ロ % 台 前 半 の 低 い 成 長 に な る と 見 込 ん で い る 。
2017 年 度 の 実 質 GDP 成 長 率 は + 0.6% と 前 回 予 測 を 据 え 置 い た 。経 済 対 策 の 押 し 上
げ効果が続くことが下支えとなるものの、輸出、設備投資は力強さを欠き、個人消費
に つ い て も 回 復 感 が 乏 し い 状 況 が 続 く こ と で 、 均 し て み る と 年 率 1% を 下 回 る 緩 慢 な
成長が続くとみている。
○消 費 者 物 価 と金 融 政 策 の見 通 し
2016 年 6 月 の コ ア CPI( 生 鮮 食 品 を 除 く 消 費 者 物 価 総 合 ) は 前 年 比 ▲ 0.4% と 、 4
ヵ 月 続 け て マ イ ナ ス と な っ た( 図 表 12)。な お 、基 準 年 が 2010 年 か ら 2015 年 へ と 改
定されたが、改定前後で大きな変化はなかった。足元マイナスの物価上昇率となって
い る の は 、 エ ネ ル ギ ー が 1% 前 後 の マ イ ナ ス 寄 与 が 続 く 一 方 で 、 エ ネ ル ギ ー 以 外 の 物
価上昇率が鈍化していることによる。日銀が公表する生鮮食品及びエネルギーを除く
総 合 指 数 は 、6 月 が 同 + 0.7% と 既 往 の 円 安 効 果 の 減 退 を 反 映 し て 3 月 以 降 は 上 昇 幅 が
縮小傾向となっている。また、消費者物価指数を対象品目別にみると、6 割超の品目
-9-
が上昇するなど、現時点で幅広い品目で物価上昇がみられるが、その割合は足元低下
し て い る 。今 後 に つ い て は 、コ ア CPI 上 昇 率 は 、当 面 マ イ ナ ス 圏 で の 推 移 が 続 き 、原
油 安 の 影 響 が 弱 ま る 2017 年 入 り 後 に プ ラ ス に 転 じ る と 想 定 し て い る 。 エ ネ ル ギ ー 以
外の物価については、上昇幅の縮小
図 表 12. 消 費 者 物 価 上 昇 率 の 推 移
傾向が続くと見込んでいる。これま
で物価の押上げ要因となった既往の
円安進行の効果が引き続き減退し、
反対に円高進行が次第に物価の下押
し圧力として効いてくる。また、サ
(前年比、%)
2.0
消費者物価(除く生鮮食品)
その他
1.5
生鮮食品を除く食料
エネルギー
1.0
0.5
ービス価格については、人手不足に
ともなう賃金上昇を背景とした値上
0.0
げの動きも一部でみられるが、物価
‐0.5
全体を押し上げるほどの力はないだ
‐1.0
ろう。一方、エネルギー価格の動向
‐1.5
については、原油価格は緩やかなが
ら上昇すると想定していることから、
12
13
14
15
16
(月次)
(資料)総務省「消費者物価指数」より富国生命作成
(備考)消費者物価指数は消費税率引上げの影響を除いている
年 度 後 半 頃 か ら マ イ ナ ス 幅 が 縮 小 し 、2017 年 度 入 り 後 に プ ラ ス 寄 与 に 転 じ る と み て い
る 。 こ う し た 動 向 を 映 し て コ ア CPI は 、 年 末 に か け て マ イ ナ ス 幅 が 縮 小 し 、 2017 年
入 り 後 に プ ラ ス に 転 じ る と 見 込 ん で い る 。2017 年 度 は 前 年 比 プ ラ ス で の 推 移 が 見 込 ま
れるものの、景気は緩慢な成長にとどまることから需給面からの物価上昇圧力は限ら
れ る だ ろ う 。そ の た め 、2016 年 度 の コ ア CPI は 前 年 比 ▲ 0.1% 、2017 年 度 は 同 + 0.5%
にとどまると想定している。
な お 、日 銀 が 7 月 に 発 表 し た 展 望 レ ポ ー ト で は 、政 策 委 員 の コ ア CPI の 見 通 し の 中
央 値 は 、 2016 年 度 が + 0.1% 、 2017 年 度 は + 1.7% と な っ た 。 2017 年 度 は 前 回 見 通 し
を 維 持 し た も の の 、物 価 目 標 の 達 成 時 期 を「 2017 年 度 中 に な る と み ら れ る が 、先 行 き
の海外経済に関する不透明感などから不確実性が大きい」としている。日銀は 9 月 の
金融政策決定会合でこれまでの金融緩和策の効果の総括的な検証を行うとしており、
市場では先行きの金融政策に警戒感がみられるが、当社では日銀の緩和スタンスに変
更はないと想定している。
○リスク要 因
日本経済は、足踏み状態が続くとの見方が当社のメインシナリオであるが、下振れ
リスクも高まっている。中国では、政府内で政策運営を巡る対立が起きているとの見
方も出ており、政府が舵取りを誤れば想定以上に景気が落ち込む可能性がある。米国
では、さらなるドル高の進行などで輸出や企業収益への下押しが強まれば、その悪影
響が家計部門へと広がり景気後退につながるリスクがある。欧州では、イタリアの国
民 投 票 や オ ラ ン ダ の 総 選 挙 な ど 重 要 な 政 治 日 程 が 控 え る な か 、 反 EU 機 運 が 高 ま り 、
離脱国が相次ぐドミノ現象が生じる可能性もある。また、イタリア等の銀行の不良債
権問題などで金融資本市場が混乱すると、わが国においても企業や消費者のマインド
が悪化する可能性がある。このような海外要因の不安材料が顕在化すると、外需など
が先導する形で日本経済はリセッションに陥る可能性もあろう。
以
- 10 -
上
図表13.デフレーターの伸び率(2005暦年連鎖価格)
(前年比、%)
2012年度
国内総支出
▲
0.9
民間最終消費
▲
民間住宅投資
2013年度
▲
2014年度
2015年度
0.3
2.4
1.0
0.2
2.1
▲
0.2
▲
0.6
2.9
3.6
▲
民間設備投資
▲
0.2
1.0
1.5
政府最終消費
▲
0.7
0.2
2.0
公的固定資本形成
▲
0.2
1.9
3.1
財貨・サービスの輸出
0.6
8.5
2.4
財貨・サービスの輸入
0.9
11.3
0.6
▲
2016年度
1.4
2017年度
0.5
0.2
▲
0.4
0.4
0.2
▲
0.7
0.0
0.4
▲
0.4
0.2
0.3
▲
0.5
0.0
▲
0.9
0.1
▲
1.5
▲
7.7
0.5
▲
9.2
▲ 11.5
0.1
▲
▲
0.1
予測
図表14.需要項目別の寄与度
(%)
2012年度
2013年度
2014年度
2015年度
2016年度
2017年度
実質国内総支出
0.9
2.0
▲
0.9
0.8
0.4
0.6
民間需要
1.4
1.7
▲
1.5
0.6
0.1
0.3
民間最終消費
1.0
1.4
▲
1.7
0.1
0.2
0.2
民間住宅投資
0.2
0.3
▲
0.4
0.1
0.1
0.0
民間設備投資
0.1
0.4
0.0
0.3
0.1
0.1
0.3
0.8
0.1
0.2
0.5
0.3
政府最終消費
0.3
0.3
0.0
0.3
0.3
0.2
公的固定資本形成
0.0
0.5
0.1
0.1
0.1
公的需要
財貨・サービスの純輸出
▲
0.8
財貨・サービスの輸出
▲
0.2
財貨・サービスの輸入
▲
0.6
▲
▲
▲
▲
0.1
▲
▲
▲
0.5
0.6
0.1
▲
0.2
0.7
1.3
0.1
▲
0.1
0.7
0.0
▲
0.0
1.2
▲
注1.四捨五入の関係上、内数の合計は必ずしも合計項目に一致しない
- 11 -
▲
0.0
0.3
▲
予測
0.4