リサーチ TODAY 2016 年 8 月 18 日 原油相場下振れリスク再燃、カギを握る米国のコスト低下 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 産油国の増産凍結観測を受け、原油相場が再び反発している。産油国による増産凍結の試みは、今年 に入ってすでに2度失敗しており、今回が3度目だ。背景には8月初めの40ドル割れがあり、再び危機感を 強めた産油国が増産凍結を模索し始めたというわけだ。しかし、原油相場がそのまま上昇し続ける可能性 は低いと見ている。6月のTODAYでも、原油価格は持ち直したものの、他の資源価格が下落するなか、原 油価格の戻りは持続的でないとしてきた1。6月上旬までの反発局面では需給バランスの改善を見込む「均 衡予想」が原油相場を下支えしてきたが、8月初めの40ドル割れは、こうした「均衡予想」の信憑性がすでに 揺らぎ始めていることを物語っている。みずほ総合研究所は、原油相場の下振れの可能性に関するリポー トを発表している2。2016年初、原油市場は30ドルを割る水準にまで大幅に下落した。「均衡予想」の前提に は米国の生産調整があったが米国の原油生産が持ち直せば、需給バランスの超過供給が再び拡大する 可能性がある。下記の図表は原油相場の推移と今後の見通しだ。 ■図表:原油相場の見通し (需要比、%) 8 (ドル/バレル) 120 100 在庫変動(右目盛) 7 WTI(左目盛) 6 80 5 4 60 3 2 40 1 20 0 ▲1 0 2012 13 14 15 16 17 18 (年) (注)在庫変動は、4 四半期移動平均。点線は予測 (資料)米国エネルギー情報局(EIA)、Thomson Reuters よりみずほ総合研究所作成 原油価格は年初の下落をもって市場は底入れしたとするものの、40ドル台での低位安定が予想以上に 長引くと展望した。この背景には米国のシェールオイルの動向があり、生産性向上に伴いシェールオイル の採算コストが低下し、超過供給の縮小や原油相場の持ち直がし進みにくくなっている。その結果、採算コ 1 リサーチTODAY 2016 年 8 月 18 日 スト低下で原油相場のトレンドが下方シフトした可能性があるとの問題提起を行った。当社が発表した『内 外経済見通し』で3、「3L(Low)」それは低成長、・低インフレ・低金利の長期化の「新常態」としたが、この背 景にも原油相場の下振れがある。 40ドル台という現在の原油相場は、以前であれば生産コストの高いシェールオイルが採算割れする水準 として考えられてきた。従って、こうした水準では生産が自然減少することで、価格上昇が生じるので40ドル 台の価格は持続的な水準でないとする見方がコンセンサスであった。しかし、現実には、シェールオイル生 産の生産性が飛躍的に上昇したことで、開発コストの負担感は従来よりも大幅に軽減されている。下記の 図表はシェールオイルの採算コストの推移である。新規開発の決定を行う際に生産業者が想定する生産コ ストは、2014年上期には60ドルを上回っていたが、現在は40ドル程度まで低下している。一部の生産業者 は、40ドル台でも事業の収益性を確保できるようになったと考えられ、生産調整を促す価格水準も切り下が っている。シェールオイルの生産調整はこれまでよりも進みにくくなっており、原油安はさらに長期化する可 能性がある。 ■図表:シェールオイルの採算コストの推移 (ドル/バレル) 120 WTI(期近) WTI(24カ月先物) 110 平均 Bakken Eagle Ford Niobrara 100 90 Permian 80 70 60 50 40 30 20 14 2014 15 16 (年) (注)採算コストは、シェールオイルの新規開発の動向から、みずほ総合研究所が試算。事業計画時に想定する原油の 予想価格には、代理変数として WTI の 24 カ月先物価格を使用。 (資料)米国エネルギー情報局(EIA)、Thomson Reuters よりみずほ総合研究所作成 当社では昨年来、中国を中心とした新興国のバランスシート調整と原油安経済とは、表裏一体であると いうストーリーラインを描いてきた。これは2000年代以降の世界的なバランスシート調整の「第3局面」である。 加えて、先進国の側からも以上のように米国の供給要因から、低価格状況の長期化の懸念が生じている。 2014年半ばに原油価格の下落が始まって以来2年が経過し、市場は小康状態になっている。ただし、新興 国のなかでも中国の回復力が緩慢ななか、低価格状況は今後も続くのではないか。 1 2 3 「原油価格上昇は本物?資源価格低下に注目」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2016 年 6 月 24 日) 井上淳 「下振れ懸念が高まる原油相場」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 8 月 3 日) 「2016・17 年度内外経済見通し」(みずほ総合研究所 『内外経済見通し』 2016 年 8 月 16 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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