リサーチ TODAY 2016 年 8 月 16 日 日銀は9月に向け新スキーム模索、政府も助け船を 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 前回7月28~29日の日銀金融政策決定会合には大きな関心が集まった。TODAYではそれに先立ち1、 日銀が示してきた三次元、①金利、②量的緩和、③質の緩和の内、最後の③だけを用いるとした。すなわ ち、ETFとREIT購入拡大と、外貨での資金繰り支援を予想していたが、実際の対応は概ね予想に沿ったも のとなった。同時に、目標の修正を含めた新たな対応を行う段階とした。年初来、円高の嵐のなか、これま での追い風が逆風に転じ、防御的な長期戦に備える局面になってきたため、政府サイドが日銀に助け船を 出してでも環境変化に対処した長期戦となるべく目標の弾力化をはかるべきとした。7月の決定で日銀は9 月に向け総括的検証を行うとしたが、一定の時間的余裕を確保しつつ、長期戦に備えた政府との連携を 模索すると展望される。9月会合では、前回、積み残したREIT拡大等の緩和策も含めつつ、基本的に新た なスキームに向けた検討状況を示すと予想する。 ■図表:日銀の追加緩和策(2016年7月29日) 緩和策 現状 今次決定 ▲0.1% 据え置き ETF:約3兆円 REIT:約900億円 ETF:6兆円 80兆円 据え置き CP・社債等 買入れ 残高維持 社債:3.2兆円 CP:2.2兆円 据え置き 成長基盤融資 (米ドル特則枠) 120億米ドル 240億米ドル マイナス金利 ETF・REITの年間 保有残高増加額 国債買入れの年間 保有残高増加額 (資料)みずほ総合研究所作成 5月のTODAYで、国債管理政策の課題として、①超長期50年債の発行検討、②外貨建国債発行の可 能性を指摘した2。この議論は、今日の日銀の金融政策とも関連をもつと考えている。7月以降、「ヘリコプタ ーマネー」の議論が急速に生じた。今日の日本のように、資金不足セクターが国と海外しかないなか、金融 政策は資金需要がある海外か(為替誘導)、財政に働きかける(財政ファイナンス)しかない。米国主導の 「達磨さんが転んだ」で為替を通じたルートが現実に困難となった以上、「ヘリコプターマネー」と表現する 1 リサーチTODAY 2016 年 8 月 16 日 かは別に、事実上、金融政策は財政を通じたルートに依存せざるをえない。「ヘリコプターマネー」の趣旨 から、財政当局が返済期間の長い国債の発行を行い、日銀が長期債の購入ウェイト引き上げを行う、一体 的対応が今後の課題になるだろう。下記の図表はG7諸国の年限別国債発行状況を示す。日本において 最も長期の国債は40年債である。2007年度以降、40年債が発行されたその背景に生保・年金を中心にし た長期負債を有する投資家層のALMマッチング運用の進展があったが、今日、一層の金利低下のなか運 用ニーズとして超長期債券への高まりがある。また、発行サイドにおいては、国債以外に企業にも超長期の 発行ニーズがあるなか、そのプライシングを考える上でベンチマークとなる年限を50年まで伸長させ、新た な超長期国債市場の創出を図ることは資本市場の育成上価値がある。 ■図表:G7諸国の年限別国債発行構成比 100% 90% 80% 70% インフレ債 60% 40.5年以上 50% 20.5-40.5年 40% 10.5-20.5年 30% 5.5-10.5年 5年以下 20% 10% フランス ドイツ カナダ イタリア 英国 米国 日本 0% (資料)OECD、財務省等よりみずほ総合研究所作成 もう一つの国債の発行の可能性は、外貨建てなかでもドル債発行である。筆者は日本の国債発行のメニ ューとして長年、外債発行を議論してきたが3、実際には発行が実現しなかった。その要因は、日本が国内 で円貨で調達できない程、財政状況が悪化したのではないかとの思惑を惹起させるとの不安と同時に、日 本が外貨を調達しても外貨を使うニーズに乏しいとの判断があった。7月の決定会合で既に日銀は米ドル 特則枠の拡大を行った。ただし、日銀が保有する外貨は5兆ドル程度と限られており、政府が外貨建てで 発行して、その資金を企業や金融機関に供給することも成長戦略の一つになる。今日、日本企業にとって 大きな制約は外貨調達であるために価値がある政策になる。日本が円高による逆風を受けるのなか、政府 と日銀が一体となって長期戦の構えで現実的な対応を行う新たな環境を構築する段階になってきた。政府 も9月のタイミングに合わせて日銀に助け船を出す段階ではないか。 1 2 3 「日銀はこれまでよくやった、バトンタッチで目標修正も」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2016 年 7 月 21 日) 「国債管理政策、今後の課題は超長期 50 年債、外貨建国債発行も」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2016 年 5 月 16 日) 『国債暴落』 (高田創著 中央公論新社 2013 年) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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