公共工事における実践的契約管理技術について

一般社団法人 日 本埋立浚渫協会
港湾技術報告会
公共工事における
実践的契約管理技術について
2016.07.14.(東京)
草柳俊二
高知工科大学 名誉教授. 東京都市大学 客員教授
NPO高知社会基盤システムセンター 理事長
1.建設産業の構造的変化
「協調の原理」から「競争の原理」へ



2006年4月、日本土木工業協会(土工協)が「透明性の
ある入札・契約制度に向けて‐改革姿勢と提言‐」を発表。
提言内容は談合離脱宣言であった。
この時より日本の建設産業は、産業理念を「協調の原理」
から「競争の原理」へと移行させたといってよい。
注:2011年に日本土木工業協会、日本建設業団体連合会、建築業協会の
3団体が合体し日本建設業連合会となった。
2016/7/26
KUSAYANAGI SHUNJI
2
「競争の原理」の捉え方
 競争の原理とは、単に入札・契約等の調達プロセスにのみ
適用される論理ではない。
 企業にとって「競争の原理」とは“適正な利益を確保して生
き抜く”こと。
 建設企業の純利益率は契約額の2~3%程度。利益確保
は入札価格で決まるわけではない。(純利益率:証券会社
40%前後、大手金融業20%以上、製造業10%前後)
 追加費用精算や工期延伸が適正に成されなければ容易
に赤字に陥る。この技術がなければ生き抜けない。
 競争の原理とはプロジェクトの入手から完成に至る全過程
に及ぶもの。国際建設プロジェクトの「競争の原理」の実態
は、追加費用精算や工期延伸への対応が主体。
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KUSAYANAGI SHUNJI
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追加費用積算の単価の構成
(100)
予定価格
Profit(利益)
Home office OH
(本社経費)
(85)
低入札価
格調査基
準価格
Site office OH
(現場経費)
Labor Cost
(労務費)
物価版価格積算
Equip. Cost
(機械費)
物価版価格積算
Material Cost
(材料費)
物価版価格積算
従来の契約額
Profit(利益)
現状の契約額
追加費用受領がな
ければ赤字となる
Home office OH
(本社経費)
Site office OH
(現場経費)
Labor Cost
Profit (利益)
Home office OH
(労務費)
(本社経費)
Site office OH
追加工事対応額
追加費用請求額
(現場経費)
Equip. Cost
Labor Cost
(機械費)
(労務費)
追加工事対応額
追加費用請求額
Material Cost
Equip. Cost
(材料費)
追加費用請学費
追加工事対応費
(機械費)
Material Cost
(材料費)
4
品確法改定 2014年6月 第7条(発注者の責務)
1.発注者は、基本理念にのっとり、現在及び将来の公共工事の
品質が確保されるよう、公共工事の品質確保の担い手の中
長期的な育成及び確保に配慮しつつ、仕様書及び設計書の
作成、予定価格の作成、入札及び契約の方法の選択、契約
の相手方の決定、工事の監督及び検査並びに工事中及び完
成時の施工状況の確認及び評価その他の事務(以下「発注
関係事務」という。)を、次に定めるところによる等適切に実施
しなければならない。
1)公共工事を施工する者が、公共工事の品質確保の担い手
が中長期的に育成され及び確保されるための適正な利潤を
確保することができるよう、適切に作成された仕様書及び設
計書に基づき、経済社会情勢の変化を勘案し、市場におけ
る労務及び資材等の取引価格、施工の実態等を的確に反映
した積算を行うことにより、予定価格を適正に定めること。
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S.Kusayanagi
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品確法改定 2014年6月
4)計画的に発注を行うとともに、適切な工期を設定するよう
努めること。
5)設計図書(仕様書、設計書及び図面をいう。以下この号
において同じ。)に適切に施工条件を明示するとともに、
設計図書に示された施工条件と実際の工事現場の状態
が一致しない場合、設計図書に示されていない施工条件
について予期することができない特別な状態が生じた場
合その他の場合において必要があると認められるときは
、適切に設計図書の変更及びこれに伴い必要となる請負
代金の額又は工期の変更を行うこと。
6)必要に応じて完成後の一定期間を経過した後において
施工状況の確認及び評価を実施するよう努めること。
2016/7/26
S.Kusayanagi
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改正品確法をどの様に解釈するか
 改定品確法の「発注者責任」を、受注者を助けるための条
項と解釈するのは拙速。
 改定品確法の「発注者責任」は契約に則り、是是非で追加
費用や工期延伸を取り扱うと述べているに過ぎない。
 支払いは請求に基づき行うもの。“受注者の請求” なしに、
“発注者が支払い” を行うことはない。受注者が適正な請
求技術を身に着けない限り、是非で追加費用や工期延伸
を取り扱うシステムは確立されない。
 改定品確法に記された方針の実現には、発注者と受注者
の双方の契約管理に関する知識と技術向上が必須条件。
改正品確法は「契約を基盤とした工事遂行理念の確立」
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Shunji Kusayanagi
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国土交通省 地方整備局
設計変更、工事一時中止ガイドライン
国土交通省の全整備局は
ガイドラインを制定済み
各地方自治体もガイドライン
を制定を進めている
国土交通省港湾局
契約変更事務ガイドライン
2010年2月に、港湾局契約変更事
務ガイドライン(案)が発表された。
目次
Ⅰ 契約変更事務ガイドライン(本編)
Ⅱ 設計変更の事例集
Ⅲ 設計変更に関する想定問答
Ⅳ 受発注者間のコミュニケーション
Ⅴ 参考資料
設計変更と契約変更の定義
設計変更とは,工事の施工に当たり,設計図書の変更にかかる
ものをいう.
契約変更とは,設計変更により,工事請負契約書に規定する各
条項に従って,工期や請負代金額の変更にかかるものをいう.
Shunji Kusayanagi
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国交省 港湾局 契約変更ガイドラインの記述
設計変更が不可能なケース
【基本事項】
◆下記のような場合においては、原則として設計変更できない。
(ただし、契約書第26条(臨機の措置)で対応するような災害時等の緊急
性を要する場合は、この限りではない)
① 契約図書に条件明示のない事項において、発注者からの「協議」
又は「指示」等の通知がなく、受注者が独自に判断して施工を実
施した場合。
② 受注者の都合により、「承諾」事項として処理された案件について
施工した場合。
③ 工事請負契約書及び港湾工事共通仕様書等に定められている所
定の手続きを経ていない場合。
④ 正式な書面によらない場合(口頭のみの指示・協議等)。
⑤ 施工条件等の変更がない場合において、当初の設計図書のとお
り施工しても支障がない場合。
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Shunji Kusayanagi
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2.どのようにして契約を基盤とした
工事遂行理念を固めるか
 必要最低条件
 発注者と受注者の双方が公共工事標準請負
契約約款を熟知する。
 特に、追加費用と工期延伸請求に関わる条項
の熟知
Shunji Kusayanagi
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追加費用と工期延伸請求の関連条項
第16条(工事用地の確保等)
第17条(設計図書不適合の場合の改造義務及び破壊検査等
第18条(条件変更等)
第19条(設計図書の変更)
第20条(工事の中止)
第21条(乙の請求による工期の延長)
第23条(工期の変更方法)
第25条(賃金/物価の変動に基づく請負代金額変更)
第26条(臨機の措置)
災害防止
他
第19条以外は全て請負者が請求行動を起こ
さなければならない“請求:Claim”
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)
第16条(工事用地の確保等)
1.発注者は、工事用地その他設計図書において定められた工事
の施工上必要な用地(以下「工事用地等」という。)を受注者が
工事の施工上必要とする日(設計図書に特別の定めがあると
きは、その定められた日)までに確保しなければならない。
 受注者が工事の施工上必要とする日までに工事用地が確保さ
れない場合は、「契約条件変更」として、第18条(条件変更等)
に従い工期延伸と追加費用請求の対象となる。
 受注者が“工事の施工上必要とする日”を示すには、詳細な工
程表を作成して発注者に提出することが必要。
 日建連調査結果 (2012年実施)
工事用地確保等の原因で工事中止が発生 47%
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
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契約約款の解説書の工事用地に関する記述
 工事用地を「確保する」とは、必ずしも土地の所有権を取得こ
とだけに限らず、請負い者の工事の施工を妨げる所有権以外
の権利、たとえば、地上権、地役権等の用地物権のほか、抵
当権等の担保物権、用役賃借権、協業権、鉱業権を消滅させ
ることも含むものである。
 また、このような権利取得し、又はこれを消滅させることのは
か、物理的に障害物を除去することも含まれると解される。
 さらに、発注者が工事目的物の設置に関し河川、道路等の工
作物の占用許可を得ることも含むものと解すべきであろう。
発注者から受注者に引き渡される工事用地は、受注者が障害
なく工事を行える状態でなければならない。
Shunji Kusayanagi
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第18条(条件変更等)
1.受注者は、工事の施工に当たり、次の各号のいずれかに該当
する事実を発見したときは、その旨を直ちに監督員に通知し、
その確認を請求しなければならない。
① 図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答
書が一致しないこと(これらの優先順位が定められている場
合を除く。
② 設計図書に誤謬又は脱漏があること。
③ 設計図書の表示が明確でないこと。
④ 工事現場の形状、地質、湧水等の状態、施工上の制約等設
計図書に示された自然的又は人為的な施工条件と実際の工
事現場が一致しないこと。
⑤ 設計図書で明示されていない施工条件について予期するこ
とのできない特別な状態が生じたこと。
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
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第18条(条件変更等)
4.前項の調査の結果において第一項の事実が確認された場合にお
いて、必要があると認められるときは、次の各号に掲げるところに
より、設計図書の訂正又は変更を行わなければならない。
① 第1項第1号から第3号までのいずれかに該当し設計
図書を訂正する必要があるもの 発注者が行う。
② 第1項第4号又は第5号に該当し設計図書を変更する
場合で工事目的物の変更を伴うもの 発注者が行う。
③ 第1項第4号又は第5号に該当し設計図書を変更する
場合で工事目的物の変更を伴わないもの発注者と受
注者とが協議して 発注者が行う。
発注者
が行う
のは設
計図書
の訂正
のみ。
5. 前項の規定により設計図書の訂正又は変更が行われた場合に
おいて、発注者は、必要があると認められるときは工期若しくは
請負代金額を変更し、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要
な費用を負担しなければならない。 追加費用や工期延伸請求
2016/7/26
図書作成は受注者の仕事。
Shunji Kusayanagi
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第19条(設計図書の変更)
 発注者は、必要があると認めるときは、設計図書の変更内
容を受注者に通知して、設計図書を変更することができる。
 この場合において、発注者は、必要があると認められるとき
は工期若しくは請負代金額を変更し、又は受注者に損害を
及ぼしたときは必要な費用を負担しなければならない。
 発注者は設計図書の変更に関し、変更理由を受注者に説明
する義務もなく、合意を得る義務もない。
 逆に、受注者は、設計図書の変更に伴う工事内容変更による
工期延伸と追加費用請求の権利を有することになる。
何故、工期と請負代金変更を“設計変更”と言う様になったのか
発祥は19条
2016/7/26
発注者が自身で契約内容を変更したのであるから、
必要に応じ工期若しくは請負代金額を変更する。
Shunji Kusayanagi
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条項内容解釈の注意点
例;第19条(設計図書の変更)
 発注者は、必要があると認めるときは、・・・・設計図書を変更す
ることができる。
 発注者は、必要があると認められるときは工期若しくは請負代
金額を変更し、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用
を負担しなければならない。
 発注者は、必要があると認めるときは、・・・。
 発注者は、必要があると認められるときは・・。
決定権は全
て発注者側
にあるのか
 前者は発注者が認めたときであり、後者は、客観的事実として
認められるときという解釈すべきもの。
対応と公正の原理
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
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第20条(工事の中止)
1.工事用地等の確保ができない等のため又は暴風、豪雨、洪水
、高潮、地震、地すべり、落盤、火災、騒乱、暴動その他の自
然的又は人為的な事象(以下「天災等」という。)であって受注
者の責めに帰すことができないものにより工事目的物等に損
害を生じ若しくは工事現場の状態が変動したため、受注者が
工事を施工できないと認められるときは、発注者は、工事の中
止内容を直ちに受注者に通知して、工事の全部又は一部の施
工を一時中止させなければならない。
2.発注者は、前項の規定によるほか、必要があると認めるときは
、工事の中止内容を受注者に通知して、工事の全部又は一部
の施工を一時中止させることができる。
 工事中止指示の本意は不要な費用を発生させないこと。
 騒乱、暴動その他自然的又は人為的な事象には、工事反
対運動等の妨害活動、埋蔵文化財発掘調査等も含まれる。
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
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第20条(工事の中止)
3.発注者は、前2項の規定により工事の施工を一時中止させた
場合において、必要があると認められるときは工期若しくは請
負代金額を変更し、又は受注者が工事の続行に備え工事現場
を維持し若しくは労働者、建設機械器具等を保持するための
費用その他の工事の施工の一時中止に伴う増加費用を必要
とし若しくは受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を負担
しなければならない。
 第20条は工事の中止に伴う、請負者の工期延伸と追加
費用請求の権利を明快に規定したもの。
 請求可能な工事中止期間に発生する費用:
労務費+仮設構造物や車両・機械・器具の原価償却費
+維持管理費+現場経費等
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
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第21条(受注者の請求による工期の延長)
1.受注者は、天候の不良、第2条の規定に基づく関連工事の調整
への協力その他受注者の責めに帰すことができない事由により
工期内に工事を完成することができないときは、その理由を明
示した書面により、発注者に工期の延長変更を請求することが
できる。
2.発注者は、前項の規定による請求があった場合において、必要
があると認められるときは、工期を延長しなければならない。
発注者は、その工期の延長が発注者の責めに帰すべき事由
による場合においては、請負代金額について必要と認められる
変更を行い、又は受注者に損害を及ぼしたときは必要な費用を
負担しなければならない。
平成15年版ではこの文書が無く、平成22年版で追加された
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2016/7/26
Shunji Kusayanagi
第22条(発注者の請求による工期の短縮等)
1.発注者は、特別の理由により工期を短縮する必要があるとき
は、工期の短縮変更を受注者に請求することができる。
2.発注者は、この約款の他の条項の規定により工期を延長すべ
き場合において、特別の理由があるときは、延長する工期につ
いて、通常必要とされる工期に満たない工期への変更を請求
することができる。
3.発注者は、前2項の場合において、必要があると認められると
きは請負代金額を変更し、又は受注者に損害を及ぼしたとき
は必要な費用を負担しなければならない。
 第22条3項は工事促進命令に伴う、請負者の工期延伸と
追加費用請求(クレーム) の権利を規定したもの。
 「通常必要とされる工期」とは物理的に短縮可能な工期。
 FIDIC約款では発注者の工事促進命令に関する条項なし。
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
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第23条(工期の変更方法)
1.工期の変更については、発注者と受注者とが協議して定
める。ただし、協議開始の日から〇日以内に協議が整わ
ない場合には、発注者が定め、受注者に通知する。
注〇の部分には、工期及び請負代金額を勘案して十分な協議
が行えるよう留意して数字を記入する。(○:直轄工事は14日)
発注者が定め、受注者に通知するという文言は、発注者に
最終決定権があるという意味ではない。
これは全ての条項に通じる。
発注者と受注者の意見が異なる場合、発注者側の意見に従
い工事を進めると言う意味であり、受注者の工期延伸と追加
費用請求(クレーム) の権利が損なわれることではない。
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
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第23条(工期の変更方法)
2. 2 前項の協議開始の日については、発注者が受注者の
意見を聴いて定め、受注者に通知するものとする。ただし、
発注者が工期の変更事由が生じた日(第21条の場合にあ
っては発注者が工期変更の請求を受けた日、前条の場合
にあっては受注者が工期変更の請求を受けた日)から〇日
以内に協議開始の日を通知しない場合には、受注者は、
協議開始の日を定め、発注者に通知することができる。
注〇の部分には、工期を勘案してできる限り早急に通知を行うよう
留意して数字を記入する。 (○:直轄工事は7日)
留意点:
発注者が〇日(直轄工事: 7日)以内に協議開始の日を通知しな
い場合には、受注者は、協議開始の日を定め、発注者に通知する
ことができる。すなわち、最終行動は受注者側に委ねられている。
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
24
工程変更に伴う使い費用請求のメカニズム
工期開始
1
作業 A
工期完了
2
作業 B
3
作業 C
工期延長
4
工事延伸費用
1
1
作業 Aが延長
作業 A延長
2
2
作業 B
作業 B
促進
3
3
作業 C
作業 C
促進
4
工事促進費用
4
 工期延伸が確定しなければ、追加費用請求はできない
 工期延伸がなければ促進請求はなく、追加費用精算もない
Shunji Kusayanagi
25
第24条(請負代金額の変更方法等)(A)
1.請負代金額の変更については、数量の増減が内訳書記載の数
量の100分の〇を超える場合、施工条件が異なる場合、内訳
書に記載のない項目が生じた場合若しくは内訳書によることが
不適当な場合で特別な理由がないとき又は内訳書が未だ承認
を受けていない場合にあっては変更時の価格を基礎として発注
者と受注者とが協議して定め、その他の場合にあっては内訳書
記載の単価を基礎として定める。
官積算の適用規定はなし
ただし、協議開始の日から〇日以内に協議が整わない場合には
、発注者が定め、受注者に通知する。注(A)は、第3条(A)を使
用する場合に使用する。

「百分の〇」の〇の部分には、たとえば、20と記入する。「〇日」の〇
の部分には、工期及び請負代金額を勘案して十分な協議が行えるよう
留意して数字を記入する。(○:直轄工事は14日)
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
26
第24条(請負代金額の変更方法等)
2. 2 前項の協議開始の日については、発注者が受注者の
意見を聴いて定め、受注者に通知するものとする。ただし
、請負代金額の変更事由が生じた日から〇日以内に協議
開始の日を通知しない場合には、受注者は、協議開始の
日を定め、発注者に通知することができる。
注;〇の部分には、工期を勘案してできる限り早急に通知
を行うよう留意して数字を記入する。(○:直轄工事は7日)
3.この約款の規定により、受注者が増加費用を必要とした場
合又は損害を受けた場合に発注者が負担する必要な費
用の額については、発注者と受注者とが協議して定める。
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
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第24条(請負代金額の変更方法等)の対応
1.請負代金額の変更は内訳書記載の単価を基礎として定める。
2.以下の場合は、変更時の価格を基礎として発注者が受注者と
協議して定める。
①施工数量増減が内訳書の数量の120%を超える場合
②施工条件が異なる場合
③内訳書に記載のない項目が生じた場合
④内訳書によることが不適当な場合で特別な理由がない場合
⑤内訳書が未承認の場合
 協議基盤は内訳書の単価であり、これが不適当な場合は変更
時の価格を基礎として協議するシステム。
 官積算の適用規定はない。官積算の適用がなければ落札率の
適用に関する議論はうまれない。
 請負代金額の変更には内訳書と施工計画書の契約的位置付
けが必須条件となり、この確定がなければ協議は空転する。
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
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追加費用精算と工期延伸請求の実務
直轄工事における受発注者の「協議」スキーム
工期延伸・追加費用の発生
case
1
7日以内に発注
者から協議開始
通知が出される
case
2 7日以内に発注者
から協議通知なし
case
3
14日以内に受発注者
間の協議が整わない
受注者が発議
14日以内に受発注者
間の協議が整わない
発注者から協議開始通知
がなく、協議がなされない。
受
注
者
発
注
発注者が 者
決め受注
間
者に通知
の
合
発注者が 意
決め受注 不
者に通知 成
立
発注者が
決め受注
者に通知
ケース3は契約違反
“発注者が決め受注者に通知”は、単に合意不成立の意味
29
第9条(監督員)
総監督員:工事事務所長 主任監督員:出張所長/建設監督官
発注者と監督員の権限 (約款の解説書の記述から)
 会計法29条「契約」では、各省各庁の長が当該各省各庁所属の
職員に契約に関する事務を委任することができるとしており、委
任された職員が発注者としの権限と責務を担うことになる。
 監督員は発注者の代行権限を有するが、会計法上の問題で、
請負代金の変更協議を行う権限を与えれていない。
 工期変更についても発注者の権限事項であり、特別な委任が
無い限り監督員には協議権限が与えれていない。
 工事完成時の検査、部分引渡し時の検査及び部分払いの検査
に付いても、会計法(予算決算及び会計法例第101条7項)が監
督職員と検査職員の兼職を禁止いるので、監督員に権限なし。
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
30
3.追加費用と工期延伸請求と
図書作成の技術
国際プロジェクトでのルールに基づく
追加費用と工期延伸請求
追加費用と工期延伸問題の発生事例
 山間部の道路橋建設工事の契約が2006年5月1日に成立。
 受注者は5月8日から工事着工し、現場事務所、宿舎、骨材製造プ
ラントやコンクリートプラン等の仮設工事を6月30日に完了。
 受注者が架設工事を遂行している間、発注者は森林組合や河川
漁業組合等の利権者と協議が進めていたが、交渉が難航し,予定
した7月1日からの本工事開始が出来ない状態となった。
 発注者は受注者に工事中止指示を出した。
 発注者と利権者達との協議は約3カ月間を要し、指定施工方法を
大幅に変更することで利権者達と合意に至った。
 発注者は工事中止指示の解除と共に、受注者に工法変更指示を
出し、工事を開始するように求めた。発注者は同時に予想される工
期遅延を可能な限り短縮するよう求めた。
 受注者は工事中止や工法変更による工期延伸請求と、建設機械と
設備調達費用、生産性低下に伴う追加費用を請求した。
Shunji Kusayanagi
32
追加費用や工期延伸請求図書の作成
記述項目
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
請求事象に関する概要
請求事象の発生過程と影響
請求の根拠となる契約条項
請求に関する通知プロセス
追加費用の算定
工期延長の算定
全ての状況証拠と往復文書の添付
「1.請求事象に関
する概要」の記述
内容が、追加費用
と工期延伸請求の
成否を決定付ける。
 請求図書は1請求項目ごとに完結したものであること。
 内容は上述の7項目によって構成されていること。
33
1.請求事象に関する概要記述例
全て第3人称で記述
 2006年5月1日の工事契約成立後、受注者は発注者に着工通知を
行い、5月8日から工事着工し、現場事務所棟の架設建物や各種プ
ランと工事を契約工程通り6月30日に完了した。
 しかし、発注者と森林組合や河川漁業組合等の利権者との協議未
完了のため7月1日からの本工事開始が不可能となった。
 事態は契約条項第16条に該当し、発注者は第20条に従い受注者
に工事中止指示を出した。工事中止指示は10月31日に解除された
たが、指定仮設方法(桟橋)を大幅に変更する指示が出された。
 指定施工方法の変更は第18条第1項④と⑤に該当し、設計図書変
更は第19条に従ったものとなる。
 受注者は第21条に従い90日間の工期延伸を請求し、発注者は第
22条に基づき30日間の工期短縮を指示した。
 受注者は工事中止と指定工法変更に伴い発生する追加費用
254,000,000円(含む工期短縮非)を第24条に従い請求する。
請求内容の定量記述
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発生事象は契約条項と結び付け記述
SHUNJI KUSAYANAGI
34
工期延伸請求の実務 (事例分析)
検討が必要
な契約条項
第16条 工事用地の確保等
工事用地が約定工程表に示された本工事
着工までに確保されなかった。
第18条 条件変更等
施工条件の変更が
発生した
第19条 設計図書の変更
発注者による指定仮設の
桟橋の仕様と図面の変更
第20条 工事の中止
発注者から工事中止
指示が出された
第22条
発注者の請求による
工期短縮等
第23条
工期の変更方法
第21条
受注者の請求による
工期の延長
第24条
請負代金額の変更方法等
受注者による工期延
伸および追加費用請
求図書作成
請求基盤契約条項構造の分析
Shunji Kusayanagi
35
スケジュール管理手法
1.バーチャート(Bar Chart)
第一次世界大戦中にヘンリー・ガントによって開発されたもの。
ガント・チャートともういう
2.ネットワークプランニング(Network planning)
クリティカルパスメソド (C.P.M.;Critical Path Method)
1950年代後期に米国デュポン社が中心となって開発
 日本がこの手法を導入したのは1965年。大手建設企業がスタン
フォード大学等に人材派遣し、技術を習得。
 米国ではコンピューターによる管理がされていたが、日本ではコン
ピューターが高額であったため、手計算で対応した。
 米国では工事資源管理機能を活用し契約管理を実施。契約管理
の概念が希薄の日本では時間管理機能のみの活用となった。
2016/7/26
Shunji Kusayanagi
36
作業構造の明確化
Develop Work Breakdown Structure (WBS)
1000 Housing Construction
住宅建設
1100
Site Work
準備工
1200
Structure
構造
1201
1202
SubSuperPreparation structure structure
敷地整備 基礎工事 躯体工事
1101
Site
1203
Roofing
屋根
コード付けで
体系化を図る
1300
Systems Work
設備工事
1301
Mec-hanical
機械
1302
Elec-trical
電気
1400
Finishing
仕上工事
1401
Internal
Works
内装
1402
External
Works
外装
工事を段階的に細分化することによって、工事完成に必要な作
業の全容を体系的に捉えることができる。
2016/7/26
37
1.バーチャート
造園工事
工事項目
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
1 計画
2 設計
3 旧塀撤去
4 塀残材片付
5 植栽決定・調達
6 池の掘削
7 テラス基礎
8 庭石据付
9 植栽工事
10 テラス工事
11 池底コンクリート工事
12 片付
備考
2016/7/26
各作業の開始と完了
とプローは把握出来
るが、各作業の相関
関係が把握できない
Shunji Kusayanagi
38
CPMスケジュール管理
造園工事
工事項目
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
1 塀残材片付
2 旧塀撤去
3 植栽工事
4 植栽決定・調達
5 テラス工事
6 テラス基礎
7 計画
8 設計
9 池の掘削
10 庭石据付
11 池底コンクリート工事
12 片付
備考
2016/7/26
完成
期日
Shunji Kusayanagi
39
Microsoft Project 2000 Demonstration
15. クリティカルパスをバーチャート上に表示 #1
プロジェクトマネジメントソフトウェアー
MSプロジェクトは各アクティビティーに100以上の
作業資源(Resources)を組み込むことが可能
P-40
スケジュール管理のルール (1)
造園工事
工事項目
1 塀残材片付
2 旧塀撤去
3 植栽工事
4 植栽決定・調達
5 テラス工事
6 テラス基礎
7 計画
8 設計
9 池の掘削
10 庭石据付
11 池底コンクリート工事
12 片付
備考
2016/7/26
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
1週間のフロートあり
変
更
な
し
受注者の責による工程遅延
発注者の責による工程遅延
Shunji Kusayanagi
完成
期日
41
スケジュール管理のルール(2)
造園工事
工事項目
1 塀残材片付
2 旧塀撤去
3 植栽工事
4 植栽決定・調達
5 テラス工事
6 テラス基礎
7 計画
8 設計
9 池の掘削
10 庭石据付
11 池底コンクリート工事
12 片付
備考
2016/7/26
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
植栽物の計画変更で3週間遅延
受注者の責による工程遅延
発注者の責による工程遅延
Shunji Kusayanagi
完成
期日
42
スケジュール管理のルール(2)
造園工事
工事項目
1 塀残材片付
2 旧塀撤去
3 植栽工事
4 植栽決定・調達
5 テラス工事
6 テラス基礎
7 計画
8 設計
9 池の掘削
10 庭石据付
11 池底コンクリート工事
12 片付
備考
2016/7/26
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
植栽物の計画変更
工期
延伸
請求
対象
受注者の責による工程遅延
発注者の責による工程遅延
Shunji Kusayanagi
完成
期日
工期
延伸
43
スケジュール管理のルール(3)
造園工事
工事項目
1 塀残材片付
2 旧塀撤去
3 植栽工事
4 植栽決定・調達
5 テラス工事
6 テラス基礎
7 計画
8 設計
9 池の掘削
10 庭石据付
11 池底コンクリート工事
12 片付
備考
2016/7/26
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
植栽物の調達遅延(3週間)
工期
遅延
罰金
対象
受注者の責による工程遅延
発注者の責による工程遅延
Shunji Kusayanagi
完成
期日
工期
遅延
44
スケジュール管理のルール(4)
造園工事
工事項目
1 塀残材片付
2 旧塀撤去
3 植栽工事
4 植栽決定・調達
5 テラス工事
6 テラス基礎
7 計画
8 設計
9 池の掘削
10 庭石据付
11 池底コンクリート工事
12 片付
備考
2016/7/26
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
植栽物の計画変更(3週間)
植栽物の調達遅延(1週間)
工期
延伸
請求
対象
か
工期
遅延
罰金
対象
受注者の責による工程遅延
発注者の責による工程遅延
Shunji Kusayanagi
完成
期日
工期
遅延
45
スケジュール管理のルール(5)
造園工事
工事項目
1 塀残材片付
2 旧塀撤去
3 植栽工事
4 植栽決定・調達
5 テラス工事
6 テラス基礎
7 計画
8 設計
9 池の掘削
10 庭石据付
11 池底コンクリート工事
12 片付
備考
2016/7/26
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
植栽物の計画変更(1週間)
植栽物の調達遅延(2週間)
工期
延伸
請求
対象
か
工期
遅延
罰金
対象
受注者の責による工程遅延
発注者の責による工程遅延
Shunji Kusayanagi
完成
期日
工期
遅延
46
スケジュール管理のルール(6)
造園工事
工事項目
1 塀残材片付
2 旧塀撤去
3 植栽工事
4 植栽決定・調達
5 テラス工事
6 テラス基礎
7 計画
8 設計
9 池の掘削
10 庭石据付
11 池底コンクリート工事
12 片付
備考
2016/7/26
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
植栽物の調達遅延(3週間)
工期
延伸
請求
対象
か
工期
遅延
罰金
対象
植栽物の計画変更(3週間)
受注者の責による工程遅延
発注者の責による工程遅延
Shunji Kusayanagi
完成
期日
工期
遅延
47
契約管理の基盤は施工計画
契約成立
プロジェクト遂行管理標準
時間管理
施工計画書
コスト管理
(生産性管理基盤)
安全管理
契約管理標準
スケジュール表
工事費内訳書
(時間管理基盤)
(コスト管理基盤)
品質管理
施工計画書、工事内訳書、約定工程表の3点セットの充実と
連携は契約管理だけでなく、質品・安全・生産性の確保の基盤
2016/7/26
48
まとめ
追加費用や工期延伸請求能力の向上策



追加費用や工期延伸請求は受注者が請求図書作成能力を
向上しなければ解決しない。
発注者側の責務は、提出された請求図書を公正に査定し、
請求額の予算管理をすること。
受注者の請求図書作成能力向上の基盤は、
 精度の高い施工計画を作成すること
 ソフトウエアーを使った工程管理
 発注者との文書によるコミュニケーション
 積算能力(官積算に合わす積算ではだめ)
契約管理能力の向上はプロジェクト遂行能力を向上させる
2016/7/26
KUSAYANAGI SHUNJI
49
参考文献
1)落札率の適用
 交渉の出発点としては有り得るが、契約的根拠もないし、その
強要は発注者自身の責に帰すべき要因に目を向けない論理.
参考資料 草柳俊二「追加費用精算への落札率適用に関する考察」
土木学会論文集F4(建設マネジメント), Vol. 70, No. 4, I_127-I_136, 2014
2)総価契約単価合意方式の導入による対応
 単価数量精算契約の変形であり、この方式の導入でだけでは
公正な追加費用と工期延伸請求処理はできない。
参考資料 草柳俊二「追加費用精算への落札率適用に関する考察」
土木学会論文集F4(建設マネジメント), Vol. 70, No. 4, I_127-I_136, 2014
3)WTO案件の追加費用150%限界論理の適用
 契約的根拠なし。WTO条項の解釈ミスで国際的にも適用不可
参考資料 草柳俊二「WTO政府調達協定対象プロジェクトにおける
追加費用精算方法に関する考察」土木学会論文集F4(建設マネジメント),
Vol. 70, No. 4, I_137-I_144, 2014
Shunji Kusayanagi
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