スクロール圧縮機における微小隙間からのガス漏れ流れに関する基礎研究

スクロール圧縮機における微小隙間からのガス漏れ流れに関する基礎研究
J-07077 中東 寛明
数の係数部と指数部の平均を図 3(c)に示す。データの平均を取
ると、軸方向隙間は=0.0032+1.43Re-0.275、半径方向隙間は
=0.0032+1.51Re-0.283 となった。
同様の実験及び解析を表面粗さ
0.4m、N2 ガスについても行った。
3.0
: 実験値
: 実験値
3.0
: 理論値
2.0
1.5
2.5
 =0.0032+1.4Re
-0.28
 =0.0032+1.45Re
-0.26
 =0.0032+1.5Re
-0.27
 =0.0032+1.43Re
-0.28
 =0.0032+1.4Re
-0.27
 =0.0032+1.4Re
-0.29
圧力 P [MPa]
2.5
: 理論値
1.0
0.5
2.0
1.5
−0.29
 =0.0032+1.52Re
−0.295
 =0.0032+1.52Re
−0.28
 =0.0032+1.52Re
−0.28
 =0.0032+1.5Re
−0.27
 =0.0032+1.5Re
−0.28
 =0.0032+1.5Re
1.0
2.0
z , z , h , h
3.0
圧力 P [MPa]
1.はじめに
近年、低振動・低騒音・高性能なスクロール圧縮機が空調
用圧縮機として注目されている。スクロール圧縮機には焼き
付き防止のため、固定スクロールと旋回スクロールの間に微
小な隙間が設けられている。その隙間からの漏れが体積効率
に直接大きな影響を及ぼしている。そこで、スクロール圧縮
機の体積効率をシミュレーションするために、隙間からの漏
れ流れを正確に知る必要がある。昨年度までの研究では、ガ
スの温度を室温状態(20℃)に設定して、実験と性能解析を行っ
ていた。しかし、実際の圧縮機シリンダ内は非常に高温にな
るため、冷媒物性が異なる可能性がある。
そこで本研究では、実機により近い温度状態で実験を行う
ためにヒータで実験装置を温め、ガスの温度が微小隙間から
の漏れに対しどのような影響を与えるか検討した。また、冷
媒の中でも比較的安価に入手できるN2 ガスをCO2 ガスと同じ
実験条件で行い、冷媒の違いによる管摩擦係数の比較検討を
行った。
1.0
○:z, CO2(W et)
△:h, CO2(W et)
□:z, CO2(W et)
◇:h, CO2 (W et)
z=1.51
h=1.43
z=0.283
h=0.275
0.5
0.0
100
200
時間 t [s]
300
0.0
0.0
100
200
時間 t [s]
300
1.0
2.0
圧 力 P [MPa]
3.0
(a) 軸方向
(b) 半径方向
(c) 係数、指数
図 3 各隙間からの管摩擦係数の評価 (= 0. 2)
4.N2 ガスによる実験
N2 ガスを用いて、表面粗さ 0. 2m、ガスの温度 80℃の場合
の実験を行った。得られた管摩擦係数の値を Moody 線図上
に描き、CO2 と比較した。そのグラフが図 4(a), (b)である。CO2
ガスとほぼ同じ管摩擦係数が得られたことから、表面粗さが
決まれば冷媒に関係なく管摩擦係数の実験式を利用すること
ができることが分かった。
高圧気室
2.実験装置および実験方法
大気解放
図 1(a), (b) に示すようなス
クロール圧縮機の漏れ隙間を
模擬した試験モデルを使用し
メタル
ガスケット
低気圧室
た。漏れ通路部のテストピース
テストピース
とプレートの表面粗さは、
(a) 軸方向 低気圧室
0. 2m、0.4m に設定し、乾燥
CO2、N2 ガスとオイル混合 CO2、 高圧気室
N2 ガスについて実験を行った。
漏れ隙間の設定は特に正確に
メタル
大気解放
ガスケット
テストピース
行う必要があるため、隙間ゲー
ジをテストピースとプレート
(b) 半径方向
の間に直接挟み込んだ。実験装
置外側にニクロム線(ヒータ)を
図 1 試験隙間モデル
巻付け、スライダックによっ
オイルタンク
て温度を任意に調節できる
ようにした。実験装置内の温
度を正確に測定するために
ガ
圧
ス
力
熱電対温度計を入れている。
ボ
タ
実験ではガスの温度を実機
ン
ン
ベ
ク
と同じ 80℃に調節した。使
ベンチュリー管
用するオイル混合装置を、図
2 に示す。ベンチュリー管に
図 2 オイル混合装置
よってミスト状のオイルが
噴出される。圧力タンク内部には、ミストを循環させるため
に小型ファンが入っている。
試験モデルの左側が高圧側、右側が低圧側である。高圧側
には容積 860cm3 の圧力タンクを直接接続し、低圧側には大気
急開放用のバルブを設けている。高圧気室を規定圧力に加圧
した後、バルブを急開放して高圧気室の圧力降下を計測した。
初期圧力は最大 3.1MPa までの範囲内で 6 通りに設定した。
(a) 軸方向
(b) 半径方向
図 4 Moody 線図 (冷媒比較、= 0. 2m)
5.温度の異なる CO2 ガスの比較
表面粗さ 0. 2m、ガス温度 20℃の場合の各隙間のオイル混
合 CO2 ガスの管摩擦係数の実験式は、軸方向隙間では
Re、半径方向隙間ではReであ
る。
CO2 ガス温度が 20℃と 80℃での管摩擦係数の値を Moody
線図上に描き、比較したグラフが図 5(a), (b)である。温度の影
響により、管摩擦係数の値が大きくなっていることが分かる。
3.実験結果及び理論解析
軸方向、
半径方向の各漏れ通路隙間10m、
表面粗さ0. 2m、
オイル混合 CO2 ガス温度 80℃で計測した圧力降下特性をそれ
ぞれ図 3(a), (b)に実線で示している。バルブを急解放した直後
に高圧気室の圧力が急激に降下し、時間の経過とともに大気
圧に漸近している。初期圧力が高いほど漏れによる圧力降下
が著しいことが分かる。
非圧縮性粘性流体の等価管内流れに関する簡単な
Darcy-Weisbach の式でスクロール圧縮機における微小隙間漏
れ流れを評価する。圧力降下特性のシミュレーション結果が
計測結果に一致するように管摩擦係数の実験式(ニクラーゼの
式)=0.0032+Re-の係数と指数を決定した。シミュレーシ
ョンした理論圧力降下特性を図 3(a), (b)に破線で示した。その
結果、理論圧力降下特性は実験値によく一致した。管摩擦係
(a) 軸方向
(b) 半径方向
図 5 Moody 線図 (異なる温度での比較、= 0. 2m)
6.おわりに
ガスが異なっても管摩擦係数の実験式はほぼ同じになる
ことが分かった。また、温度が上がることにより管摩擦係数
の値が大きくなることが分かった。今後は、ガスの温度と漏
れ流れの関係性を更に検討を行う必要がある。
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