加熱水混合散布による路面すべり抵抗値 改善効果

平成27年度
加熱水混合散布による路面すべり抵抗値
改善効果について
国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所 寒地交通チーム
○中島
藤本
徳永
知幸
明宏
ロベルト
厳寒時の冬期路面管理では、凍結防止剤散布の効果が低下することから、主に防滑材を散布
している。しかし、散布した防滑材は車両の通過等により飛散する。本研究では、防滑材に加
熱水を混合した散布方式(加熱水混合散布)に着目し、野外試験を実施した。その結果から、
防滑材残留率と通過台数の関係および路面すべり抵抗値と防滑材残留量の関係を明らかにし、
通過車両が防滑材残留量および路面すべり抵抗値に及ぼす影響を定量的に評価する。
キーワード:防滑材、冬期路面管理、加熱水混合散布、効率化
1.はじめに
凍結路面対策の一つである防滑材散布は、防滑材(7
号砕石等)のみを散布する「乾式散布」と防滑材の路面
定着性を向上させるために凍結防止剤水溶液と混合して
散布する「湿式散布」がある。しかしながら、湿式散布
であっても、車両の走行などにより防滑材が飛散し、時
間の経過とともに路面すべり抵抗値が低下する場合があ
る 1)。そこで、当所では防滑材に加熱水を混合して散布
し、その後、加熱水の温度が低下し氷結することを利用
して、防滑材を路面に定着させる散布方式(以下、加熱
水混合散布)を研究してきた 2) 3) 4)。
本論文では、野外試験を行い、通過車両が路面上の防
滑材量(以下、防滑材残留量)に及ぼす影響を評価する
とともに、路面すべり抵抗値と防滑材残留量の関係を定
量的に示すことにより、加熱水混合散布による路面すべ
り抵抗値の改善効果を調べた。
熱画像
40℃
散布円盤
10℃
路面
-15℃
2.野外試験
野外試験は夜間に苫小牧寒地試験道路で行った。当日
は晴れであり、気温は試験開始時(15:03)0.8℃から終
了時(22:32)の-5.3℃に低下した。
試験の手順は次のとおりである。(i)散水車を用いて散
水し、試験区間に氷膜を形成させる。(ii)散布車を用い
て乾式散布および加熱水混合散布を行う。(iii)模擬交通
車両を走行させる。(iv)規定の通過台数 Nv = 0、50、100、
150 および 200 台後に路面すべり抵抗値(HFN)と防滑
材残留量を測定する。
写真-1 に加熱水混合散布の状況とその熱画像を、写
真-2 に加熱水混合散布後の路面状態をそれぞれ示す。
Tomoyuki Nakajima、 Akihiro Fujimoto、 Roberto Tokunaga
写真-1 加熱水混合散布の状況
写真-2 散布後の路面状態
散布車は国土交通省北海道開発局で多く使用されてい
る機種を用いた。写真-3 に示すように、散布車には水
を加熱する加熱ユニットと加熱水を保温・貯留するタン
クが搭載されており、散水時には加熱水と防滑材が別系
統で同時に散布円盤に送られ、散布円盤が回転すること
で防滑材と加熱水を車線の範囲内に散布する。
表-1 に野外試験の条件を示す。散布方式は乾式散布
と加熱水混合散布であり、散布量は乾式散布が 150 g/m2
の 1 ケース、加熱水混合散布が 100、150、200 および
250 g/m2 の 4 ケースとし、以下ではこれらの条件を乾式、
加熱水 100、加熱水 150、加熱水 200 および加熱水 250 と
呼ぶ。加熱水の温度は、タンクから散布円盤を経由し、
路面に到達した時点で 10℃以上となるように、タンク
内で 40℃に設定し、混合比率は 30%とした。
模擬交通車両の走行条件として、車種は小型・普通乗
用車であり、タイヤはスタッドレスタイヤを使用した。
通過速度は 40 km/h である。
野外試験の状況と概要をそれぞれ写真-4 および図-1
に示す。各散布区間の延長は 50m とし、後続区間への
干渉を防ぐため、各区間の間に 50m の無散布区間を設
けた。舗装は密粒度アスファルト舗装である。
HFN の測定には、連続路面すべり抵抗値測定装置 5)を
使用した。HFN は、当該装置の開発者が独自に設定し
た Halliday Friction Number と呼ばれる値で、すべり難い路
面ほど高い値を示し、すべり易い路面ほど低い値を示す。
水溶液タンク
加熱ユニット
散布円盤部
写真-3 加熱水散布装置
表-1 野外試験の条件
散水後の水膜厚
種類
防滑材
散布量
温度
7 号砕石
150 g/m2(乾式散布)
100、150、200、250 g/m2
の 70%(加熱水混合散布)
40℃(タンク内の水温)
加熱水
混合比率
(a)氷膜路面作製
0.8 mm
30%
(b)路面すべり抵抗値測定 (c)乾式及び加熱水混合散布 (d)模擬交通車両走行
写真-4 野外走行試験状況
乾式
加熱水 100
加熱水 150
図-1 野外走行試験の概要図
Tomoyuki Nakajima、 Akihiro Fujimoto、 Roberto Tokunaga
加熱水 200
加熱水 250
3.試験結果
3.1 通過車両が防滑材残留量に及ぼす影響
写真-5は乾式、加熱水150および加熱水250における散
布直後と通過車両台数Nv = 200台後の路面状態を示す。
加熱水100および加熱水200の路面状態については加熱水
150と類似した結果となったため、ここでは割愛する。
まず乾式散布に注目すると、Nv = 200台後には路面上に
防滑材を殆ど確認できない。一方、加熱水混合散布では
200台通過後でも、路面上に防滑材が残留しており、加
熱水と混合して防滑材を散布することにより、防滑材が
路面に定着し、車両が通過しても飛散し難くなっている
ことが分かる。加熱水150と加熱水250を比較すると、路
面の防滑材は加熱水250の方が多く残留している。
200 台通過
(a) 乾式散布、散布量 150g/m2(乾式)
200 台通過
(b) 加熱水混合散布、散布量 150g/m2(加熱水 150)
200 台通過
(c) 加熱水混合散布、散布量 250g/m2(加熱水 250)
写真-5 散布直後と200台車両通過後の路面状態
Tomoyuki Nakajima、 Akihiro Fujimoto、 Roberto Tokunaga
図-2は散布量に対する防滑材残留量の比(防滑材残留
率Rs)とNvの関係である。乾式散布に注目すると、50台
通過後のRsは0.07となり、50台通過後には散布量の大半
が路面から失われた。他方、加熱水混合散布のRsは、加
熱水250を除いて類似の分布形となり、Nvの増加につれ
て指数関数的に減少した。Rsは、Nv = 200台でも0.3以上
であり、ここでも加熱水混合散布による防滑材の路面
定着性が高いことが確認できる。加熱水250はその他の
加熱水と比べてRsが高い。この原因は、写真-5(c)の右写
真から分かるように防滑材残留量の計測箇所とタイヤ
の走行箇所にずれがあり、加熱水250の防滑材残留量が
多く評価されたためと考える。
乾式
加熱水200
加熱水250
防滑材残留率Rs
0.6
0.4
0.2
0.0
0
50
100
150
200
250
通過台数Nv(台)
図-2 防滑材残留率と通過台数の関係
路面すべり抵抗値 HFN
80
(1)
3.3 HFN の改善効果について
図-4は各散布方式別のHFNの変化と気温および路温を
示している。縦軸はHFN、気温および路温、横軸は通過
台数を示す。散布前の路面では、各散布方式と無散布
の区間でHFNに大きな差は無く、およそ105であった。
散布後のHFNを比較すると、乾式散布と無散布に大差は
なく、両者のHFNは通過台数に関係なく30~40の範囲に
外気温
加熱水100
加熱水150
0.8
3.2 路面すべり抵抗値と防滑材残留量の関係
図-3は防滑材残留量MsとHFNの関係である。Ms = 0の
HFNは約40であり、に換算すると0.2程度である。HFN
はMsが増えるにつれてべき関数的に増大した。Msと
HFNの関係は式(1)で近似できる。
HFN  1.70M s 0.55  39.0
加熱水100
1.0
70
60
50
40
HFN = 1.70Ms0.55+39.0
30
20
10
0
0
50
100
150
200
250
防滑材残留量Ms(g/m2)
図-3 路面すべり抵抗値と防滑材残留量の関係
路温
加熱水150
無散布
加熱水200
乾式
加熱水250
120
4
110
2
100
0
-2
80
70
-4
60
-6
50
-8
40
-10
30
-12
20
散布前
散布前
散布後
(凍結路面)
10 (湿潤路面)
-14
0
-16
0(通過前)
50
100
通過台数Nv(台)
図-4 散布方式別の HFN の変化について
Tomoyuki Nakajima、 Akihiro Fujimoto、 Roberto Tokunaga
150
200
温度(℃)
路面すべり抵抗値HFN
90
あった。他方、加熱水混合散布では、散布後にHFNが大
幅に改善し、その後200台車両が通過してもHFNの改善
効果は持続した。
参考文献
1) 宮本修司、森本英俊、倉内圭、阿部英樹、舟橋誠、高橋尚
人、浅野基樹:防滑材の再利用に関する研究、寒地土木研
究所月報、No.615、pp.44-49、2004.
2) 佐藤圭洋、秋元清寿、宮本修司、徳永ロベルト:防滑材の
4.おわりに
飛散対策に関する基礎的研究、寒地土木研究所月報、
No.675、pp.35-41、2009.
3) 切石亮、大日向昭彦、徳永ロベルト、高橋尚人、中村隆
本研究では、防滑材の路面定着性の向上を目的とした
一:冬期路面管理における防滑材の定着性向上に関する研
加熱水混合散布の効果を調べるために、野外試験を実施
究、北海道の雪氷、No.30、pp.51-54、2011.
した。その結果、乾式散布と比較して、加熱水混合散布
4) 切石亮、川端優一、徳永ロベルト、高橋尚人、中村隆一:
は防滑材残留量が高く、HFN の改善効果も高いことが
効率的な防滑材散布手法に関する研究、北海道の雪氷、
示された。また、防滑材残留率と通過台数の関係および
No.32、pp. 88-91、2013.
路面すべり抵抗値と防滑材残留量の関係が明らかになり、
5) 徳永ロベルト、舟橋誠、高橋尚人:すべり抵抗値活用によ
通過車両が防滑材残留量および路面すべり抵抗値に及ぼ
る冬期路面管理技術の高度化に関する研究、第52回北海道
す影響を定量的に評価できた。今冬、実道で加熱水混合
開発技術研究発表会、2009.
散布の効果を検証したい。
Tomoyuki Nakajima、 Akihiro Fujimoto、 Roberto Tokunaga