特集1 3 入院早期から通所リハビリの 存在を知ってもらう 退院後のリハビリを引き継ぐ デイケア・デイサービス 病院のリハビリ担当者が望む「退院後の経過報告会」 介護老人保健施設 大宮フロイデハイム 大宮デイケアセンター 「大宮デイケアセンター」は、入所定員80名、通所定員80名の介護老 人保健施設。老健を退所した方々はもちろん、母体である志村大宮病院 (一般病棟・緩和ケア病棟・回復期リハビリ病棟・介護療養型病棟)や近隣の医療 機関を退院した方々を中心に、集中的なリハビリテーションを提供して いる。3ヶ月の短期集中リハビリテーション終了後も、自宅から近いサテ ライト拠点(セラピストを配置したリハビリ機能強化型デイサービスや小規模多機 能サービスなど)にてリハビリテーションが継続できる。多職種協働のもと [事業所の概要] ● 定員…80名/日(通所) ● 平均利用者数…70名 ● 平均要介護度…2.5 ● 6-8の大規模型通所リハビリ ● 職員体制 医師1名、看護職員4名 理学療法士1名、作業療法士3名 言語聴覚士1名、介護職員20名 健康運動実践指導者3名 歯科衛生士1名、管理栄養士1名 社会福祉士1名 「心身機能向上はもとより、精神機能の向上は欠かせない」をテーマに、 生きがいづくりや自立支援に向けたさまざまなアプローチを試みている。 また、利用者の入院早期から通所リハビリの存在を家族に知ってもらう ため、回復期リハビリ病棟で開催される「家族相談会」に参加するなど、 通所リハビリへの移行をスムーズに実施する働きかけを行っている。 通所・ サテライト科長 木戸田 真 リハビリ科係長 「大宮デイケアセンター(以下、当事業 当事業所では、病院のリハビリ担当者から 所)」は、同法人(図1)の回復期リハビリ病 の要望である「退院後の利用者の『経過報告 棟に併設されているため、全体での朝礼・終礼 会』」を行っています。報告会を行うことによ で情報交換を行っています。「脳卒中連携パス り、病院側に「入院中から在宅を考慮したリハ (図2)」や「申し送り書」に加えて必要な情 ビリ」をイメージしてもらいやすくなり、より 報を話し合い、その都度利用者の目標設定、プ 介護保険リハへの移行が円滑になりました。同 ログラム内容の検討を行っています。また、物 時に、生活期でリハビリテーションを実施した 理療法が必要な方の場合はリスクなどの確認を ことがない「経験の浅いセラピスト」の教育に するため、受診の際に主治医に実施可能かどう もつながっています。 かを書面に記載してもらいます。 図1 図2 茨城県央・県北脳卒中地域連携パス 石崎 直之 回復期リハビリ病棟で開催される「家族相談会 」へ通所リハの相談員・セラピストが参加 ※ し、利用者および家族に入院早期から通所リハビリの存在を知ってもらう 回復期リハビリ病棟の退院前に実施される「リハケアカンファ(退院前カンファ)」に相 回復期リハビリ病棟「スイス館」 退院前の病院との連携の流れ 通所・サテライトグループ 通所リハビリ 大宮デイケアセンター 志村大宮病院 訪問リハビリステーション リハビリ機能強化型デイ 水戸けやき台 ● ひたちなか ● 水戸河和田 ● 友部 ● リハビリ機能 強化型デイ 大宮 緒川 ● 山方 御前山 城里 ● 美和 ● ● ● ● 基礎情報・ステップ 急性期 コメント予備(急性期) 回復期 コメント予備(回復期) 老健1ヶ月 コメント予備(老健) 生活期3ヶ月 コメント予備(在宅) 生活期1年又は急性増悪 回復期情報 急性期情報 老健情報 基礎情報・ステップ 認知症デイ 水戸けやき台 志村デイ ● ひたちなか ● 大宮中央 ● ● 談員・セラピストが参加し、本人・家族・ケアマネジャー・医療ソーシャルワーカーに退 急性期病院から回復期病院を経て早期に自宅に帰れるように作 成された診療計画表で、退院後も医療保険から介護保険への申 し送りとして使用される 院前のサービス内容を説明 通所リハビリ利用の可能性がある方(回復期のスタッフの判断)に関しては、病棟のリハビ リスタッフが事前の申し送りだけでなく、本人と一緒に通所リハへ見学に来ることもある 病棟部門への生活期リハビリ勉強会を実施し、通所リハビリの機能を理解してもらう 「脳卒中連携パス」(次ページ参照)で、介護・看護・リハビリの具体的な内容の申し送りを 事前に把握する ※「家族相談会」…2ヶ月に1回開催する。 「退院後の生活にイメージがわかない、不安がいっぱい」という家族に専門スタッフによる 在宅サービスのご案内やアドバイス、個別相談を行う。 44 月刊デイ Vol.196 より具体的な目標を立案し、利用者の満足度とモチベーションを高める 当事業所では、退院後は基本的に、リハビリ がリハビリテーション」という意識を全スタッ テーションマネジメント加算Ⅱ・短期集中個別 フが共有・認識し、協働しています。 リハビリテーション加算を算定しています。そ 初回評価時や定期的な評価時に「興味関心 のため、毎月の自宅訪問を実施し、自宅での問 チェックリスト」を実施し、本人の「興味があ 題点を抽出して通所リハでリハビリアプローチ ること」「やりたいこと」を引き出し、目標を を行っていく流れとなっています。また、カン より具体的に立案します。そうすることで、利用 ファレンス・申し送りを行い、施設全体でリハ 者の満足度やモチベーションが高まり、リハビリ ビリテーションの提供ができるように、「通 のスムーズなアプローチへとつながっています。 所リハビリに来所された瞬間から生活すべて Vol.196 月刊デイ 45 特集1 ケース 退院後のプログラム 1 〈整地〉 60歳代男性 脳梗塞後遺症 2 対象者 状態:自営業(リサイクル業)で、妻と息子夫婦との4人暮らし。主介護者は妻 病気になったことによりメンタル面の低下が見られ、自宅では何もせずにテレビを見ている 家族のニーズ:自宅内の移動を自立して行え、活動的な生活ができるようになってほしい 引き継ぎ内容 入院中は、自宅内での生活を自立して行うためのリハビリを中心に実施していたので、退院後は、本 人の余暇活動を含めたリハビリアプローチをしてほしい <プログラム実施前> <身体機能面> Brs※:上肢Ⅱ、手指Ⅱ、下肢Ⅲ 感覚:麻痺側上下肢軽度鈍麻 筋緊張:麻痺側下肢内転筋群亢進 疼痛:麻痺側下肢の筋緊張亢進による痛みあり <ADL> 入浴以外自立(入浴は一部介助) 歩行はT字杖にて見守りにて移動可能だが、デイケアで は下肢の疼痛があり移動距離も長いため、主に車イスを 使用 <IADL> 自宅内では「足が痛いから」とほとんど何もせずに寝て いる状態 高次脳機能障害、注意障害、記銘力低下が見られる <問題点> ● メンタル面の低下 ● 自宅内での活動性の低下 ● 歩行機会の減少 退院後のリハビリを引き継ぐ デイケア・デイサービス <目標> <プログラム> ①家族で旅行に行 きたい T字杖歩行訓練 ②一人で歩けるよ うになりたい ③活動性を上げる 屋外歩行訓練 ストレッチ 指導 家族指導 ※Brs (Brunnstrom stage) 脳卒中の運動麻痺の回復過程を順序により判断す るために考案され、順序尺度として用いられる。 麻痺の程度はⅠ~Ⅵの6段階で表す 〈坂道〉 屋外歩行訓練 家族旅行という目標達成に向け「外を歩 く」という現実的な練習内容にすること で、身体面だけでなくメンタル面へのアプ ローチも実施。 平地の歩行訓練から開始し、徐々に段差や 不整地(砂利道)、坂道の歩行訓練を行 い、外出先のどのような環境でも歩行がで きるようにした。 整地(写真左)と坂道(写真右)での屋外歩行練習 3 か たいさんとうきん ハムストリングス(太ももの裏)や下腿三頭筋(ふくらはぎ)の筋肉のストレッチ方法の指導 疼痛の原因を軽減できるよう、自宅で一人 で行えるストレッチ方法を指導した。 ①イスに座ったまま片脚の膝を伸ばす ②踵を着いた状態で、つま先に手を伸ば すように体を前に倒していく 痛みがない範囲で息を吐きながらゆっ くりと行う 痛みは足の筋肉に力が入ることが原因だっ たため、柔軟性を高めることで疼痛が減少 した。 4 息を吐きながらゆっくりとストレッチを行う 家族指導 家族の協力を得るため、連絡帳に「家族に実施していただきたいこと」を定期的に記入。 記入例:デイケア内では歩行できているので、ご自宅でも定期的に一緒に散歩する機会を設けてください 実施内容 1 プログラム実施後 介入1ヶ月目:当事業所の中で歩行機会を増やしていくことで、自分から進んで歩く機会が増加 T字杖歩行訓練 介入2ヶ月目:家族と一緒に散歩に出掛けるなど、自宅内でも活動的な姿が見られるようになる 当事業所来所時、トイレへの移動はT字杖を使用して歩行するな ど、セラピストと多職種で協働して歩行機会の増加を図った。 介入3ヶ月目:家族と一緒に散歩をしたことで本人のメンタルが回復し、翌月に家族旅行を計画と 同時に、以前行っていた自営での仕事も自分から再開 現 在:家族と定期的に散歩に行くようになった。また、自営の仕事(リサイクル業)を自ら進んで 行うようになった 改善へのポイント 「興味関心チェックリスト」を実施し、具体的な目標設定を行った。その結果、目標であった家族 旅行だけではなく、復職まで結びつけることができた。 T字杖での歩行訓練 46 月刊デイ Vol.196 Vol.196 月刊デイ 47 特集1 退院後のリハビリを引き継ぐ デイケア・デイサービス ケース 退院後のプログラム 2 90歳代女性 脳梗塞後遺症、左大腿骨頸部骨折 2 対象者 状態:長女夫婦、夫との4人暮らしで、主介護者は長女 寝室からトイレの廊下、トイレ内に手すりが設置してあるが、手すりはほぼ使用せず長女が手 引き歩行で移動している 歩行訓練 自宅内での歩行を見守りで行えるようにするため、歩行訓練を実施。 立ち上がり は自立 家族のニーズ:労力をかけ過ぎずにトイレまで歩けるようになってほしい 歩行は介助の もと練習 引き継ぎ内容 入院中は、手引き歩行での移動訓練を実施していたので、退院後は、家族の介護負担を軽減するため にも、見守りでトイレまで移動するための訓練を実施してほしい <プログラム実施前> <身体機能面> MMT※:両上肢4 体幹3 両下肢3 麻痺:ほとんどなし 疼痛:左膝関節にOA(変形性関節症)の疑いがあり、立ち上がり 時に痛みの訴えが強い えき ひ ろうせい 疲労:易疲労性(通常よりも疲れやすい)で、1時間以上離床す ると疲労の訴えが強く見られる <ADL> 排泄は下衣操作全介助で清拭は自立。便座への着座や立ち上がり は、手すり使用で一部介助が必要 手引きで5m程度の歩行は可能だが、痛みが強い。更衣は下衣の 着脱時に一部介助が必要 <IADL> 自宅内ではトイレ以外、ベッド上でテレビを見て過ごしている <問題点> ● 自宅内の移動は長女による手引き歩行で、家族の介護負担が大きい ● 自宅内では臥床傾向にあり、活動性が少ない <目標> <プログラム> ①手すりを 使用した 自宅内歩 行が見守 りで行え るように なる 筋力強化運動 ②排泄動作 の自立 歩行訓練 〈排泄〉 ● トイレまで の移動訓練 平行棒の高さを、自宅の廊下に設置してある手すりと同じ高さに調整。立ち上がり練習や歩行練習を実施 ● 排泄動作訓練 ※ MMT:Manual Muscle Test 人体の主要な筋肉の筋力を6段階の強 度で評価する方法。主に医師、理学療 法士、作業療法士によって実施され る。道具を使用せずに評価でき、大ま かな筋力の把握に有効 3 トイレまでの移動訓練 「寝室からトイレへの移動」と「排泄動作」までの 一連の流れを見守りで行えるようにするため、自宅 の環境を想定した訓練を実施。自宅と同じ一本の手 すりでトイレまでの移動訓練を実施した結果、当事 業所内での移動が可能になった。排泄動作訓練も並 行して実施。 自宅と同じ環境を想定した訓練 実施内容 1 筋力強化運動 プログラム実施後 当事業所だけでなく自宅での活動性を向上させるため、自宅でも行える簡単な筋力強化練習を実施。継続して取 り組んでもらえるよう指導した。 介入1ヶ月目:体力面での改善が見られ、当事業所で1日臥床せずに過ごすことが可能になる 自宅内でも食後はイスに座り、テレビを1時間程度見て過ごせるようになる 介入2ヶ月目:家族の介助なく、手すりの使用のみで自宅でのトイレ移動が可能になる 介入3ヶ月目:自宅でのトイレ動作が、見守りのみで可能になる 改善へのポイント 太ももの前の筋肉の運動 股関節の外側の筋肉の運動 股関節の内側の筋肉の運動 セラバンドを両足首に巻くように結び、 片方の膝を伸ばすように動かす セラバンドを両膝の上で結び、両膝を 外側に開くように動かす 両膝の間に挟んだボールをつぶすよう に動かす 48 月刊デイ Vol.196 本ケースは自宅訪問を行い、家屋環境を把握した上でリハビリ介入を行った。そのため、デイ ケアで実施していた動作を自宅でもすぐに発揮できたといえる。自宅訪問の重要性をあらためて 確認できた。 Vol.196 月刊デイ 49
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