子どものレジリエンスを育てる

2016年5月15日
各所属長並びに関係の皆様
吃音講習会実行委員会
顧問 牧野泰美
(国立特別支援教育総合研究所)
「子どものレジリエンスを育てる」
第5回 親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会のご案内
1 趣旨
最近、発達障害者支援法の支援対象に吃音が入っていることが新聞等で取り上げられ、目にするこ
とが多くなりました。親、ことばの教室の教師、通常の学級の教師は、この状況をどう受け止め、ど
もる子どもとどうかかわるか、吃音やどもる子どもにかかわる自分の姿勢を明確にする必要があるよ
うに思います。
私たちは、吃音を発達障害としての支援を必要とする子どもとしてではなく、苦労や困難があって
も、自分で自分の人生を生きる子どもに育つことを支援します。吃音を言語障害、発達障害ととらえ
るのではなく、吃音を紀元前の時代から、人間と共存してきた、人間として向き合うテーマだと考え
ます。そのため、当事者研究、ナラティヴ・アプローチ、レジリエンスをもとにした取り組みが、言
語指導以上に必要だと確信しています。
「吃音の課題は、どもることにあるのではなく、吃音を否定することで起こる影響、つまり、吃音
を隠し、話すことを避ける行動、吃音は劣ったもので、治らないと幸せになれないなどの思考、ども
ることへの不安や恐怖、どもった後の惨めな感情にある。この課題に向き合い、日常生活の中での困
難を自らの力で対処する力が育つために、子どもに同行するのが、教師や臨床家の役割だ」
吃音を生きる子どもに同行する教師・言語聴覚士の会では、このように考えて、吃音講習会を開い
てきました。第1回は「子どもと語る吃音肯定の物語」、第2回は「当事者研究」、第3回は「ナラ
ティヴ・アプローチ」、第4回は「子どものレジリエンスを育てる」をテーマにして、講習会を続け
てきました。第5回目の今回の吃音講習会は、これまでの議論を引き継ぎ、昨年と同様「子どものレ
ジリエンスを育てる」をテーマにします。
『児童心理 2014 年 8 月号』(金子書房)、『教育と医学 2014 年 1 月号』(慶應義塾大学出版会)
で「レジリエンス」の特集が組まれるなど、精神医学・臨床心理学などの領域で注目される「レジリ
エンス」が、教育の世界でも関心がもたれるようになってきました。「逆境を乗り越え、心的外傷と
なる可能性のあった苦難から新たな力で勝ち残る能力、回復力」というレジリエンスの概念は、ども
る子どもの支援にとってもっとも必要なテーマだと言えます。
「吃音と発達障害」の議論は避けて通れません。吃音講習会ではその議論を踏まえ、真に子どもに
役立つ支援について考えます。
今回は、ナラティヴ・アプローチ、レジリエンスをもとに、スクールカウンセラーとして、少年非
行など学校臨床に取り組んで来られた、滋賀県立大学松嶋秀明教授を講師に迎え、レジリエンスの基
本的な考え方を学び、レジリエンスをどもる子どもの指導にどう生かすか、参加者と実践を交流しな
がら、一緒に考えます。
全国のことばの教室の担当者、関係する教師、言語聴覚士、保護者と一緒に、日ごろの取り組みを
見つめ直し、新たな展望を開くために、熱く、楽しく有意義な時間を作りましょう。
実行委員長 奥村 寿英(愛知県岩倉市立岩倉東小学校)
2 主 催
吃音を生きる子どもに同行する教師・言語聴覚士の会
3 後 援
NPO法人全国ことばを育む会
岩倉市教育委員会
愛知県言語・聴覚障害児教育研究会(申請中)
4 日 時
2016年8月11日(祝)10:00∼19:45
12日(金) 9:20∼16:15
5 会 場
愛知県・岩倉市生涯学習センター 研修室1・2
愛知県岩倉市本町神明西20番地 サクランド岩倉(岩倉駅東開発ビル)2階
TEL 0587−38−0100
6 アクセス 名鉄電車・犬山線「岩倉」駅 改札口か
ら徒歩2分(岩倉駅地下東西通路と直結)
◆JR名古屋駅からお越しの場合
①JR名古屋駅桜通り口(東側)から出
て右方向へ行き、名鉄名古屋駅の改札
へ。
②名鉄犬山線(緑色)で犬山方面の電車
に乗車。乗車時間は、約14分。
③岩倉駅で下車し、改札を出て右方向へ。
案内表示に従って直通地下道から、エ
レベーターで2階へ上がる。
【名鉄電車・路線図】
7 内容・プログラム 予定
8月11日(木・祝) 9:30
10:00−11:30
11:30−12:30
12:30−14:00
14:15−15:45
16:00−18:00
18:15−19:45
20:00−
8月12日(金)
9:00
9:20−10:05
10:05−10:50
11:00−12:30
12:30−13:30
13:30−15:00
15:15−16:30
8 講習会参加費
受 付
基調提案① 伊藤伸二・日本吃音臨床研究会
昼 食
講義① 松嶋秀明・滋賀県立大学人間関係学科教授
講義② 松嶋秀明
対 談 松嶋秀明&伊藤伸二
グループ討議
懇親会(希望者のみ)
受 付
基調提案②「吃音と発達障害、障害者手帳」
牧野泰美・国立特別支援教育総合研究所総括研究員
実践発表とふりかえり
黒田明志(千葉県千葉市立花見川小学校ことばの教室)
演 習① 公開面接、グループ討議
・伊藤伸二による公開面接と、それを受けてグループ討議
昼 食
演 習② 午前中の面接事例のまとめ、面接ポイント解説
みんなで語ろう、ティーチイン
5,000円
懇親会のお知らせ
講習会1日目の終了後に、懇親会を企画しています。これまでの講習会でも、「この時間に本当
にいろいろな話ができた」「日頃どもる子どもたちと関わる中で感じていることが、お互いに共感
できた」「ちょっと悩んでいることへの解決の糸口が見つかった」などの感想が寄せられています
。とっても貴重で、素敵な出会いの場です。ぜひ、皆様のご参加をお待ちしております。
なお、会費は講習会参加費とは別に、当日、3,500円を集金させていただきます。
9 参加申し込み
※郵便振替
参加ご希望の方は、参加申込書に必要事項を記入し、郵送、またはメールに添
付し下記の申し込み先までお送りください。同時に郵便局より参加費の振込
をお願いします。入金確認ができましたら、受講票をお送りします。
申し込み締め切りは2016年8月8日(月)です。
なお、参加費は当日キャンセルされてもお返しできません。受講票は他の方
にお譲り下さい。
加入者名:吃音講習会
口座番号:00960−0−282459
10
申し込み先
愛知県岩倉市立岩倉東小学校 ことばの教室
奥村寿英
〒482−0041 愛知県岩倉市東町掛目1番地
Mail:[email protected]
11
問い合わせ先
日本吃音臨床研究会 TEL/FAX 072−820−8244
〒572−0850 大阪府寝屋川市打上高塚町1−2−1526
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宿泊その他
宿泊は、各自直接お申し込み下さい。名古屋駅周辺には、たくさんホテルが
あります。早めに宿泊の予約をされることをおすすめします。
講習会中の食事は、近くのコンビニやスーパー、レストランをご利用くださ
い。研修会場内での飲食が可能です。
13 講師紹介
【特別講師】
◇松嶋 秀明(まつしま ひであき) 滋賀県立大学人間文化学部人間関係学科教授
専門は「臨床心理学」。「臨床心理士」として学生相談や小中学校のスクールカウンセラーと
いった実践活動にたずさわる一方、そこで起こる様々な問題、非行少年の更生プロセスや、学校
臨床領域における支援のあり方を研究。
著書として、『リジリアンスを育てよう―危機にある若者たちとの対話を進める 6 つの戦略』
松嶋秀明 奥野光 小森康永/金剛出版、『ナラティヴ・プラクティスとエキゾチックな人生』
小森康永監訳 他 5 名と共訳/金剛出版、『「非行少年」の質的研究?なぜ彼(女)らが「問題」
なのかと問うてみる』能智正博 川野健治/東京図書、『ナラティブセラピーの冒険』小森康永
監訳、他 7 名と共訳/創元社 など。
【講師】
◇牧野 泰美 国立特別支援教育総合研究所総括研究員
専門は言語障害教育、言語獲得、コミュニケーション障害とその支援など。「全国公立学校難
聴・言語障害教育研究協議会(全難言協)」をはじめ、各地の「きこえとことばの教室」の担当
者や、親の会等と連携しながら、子どものことばやコミュニケーションへの支援の在り方、きこ
えとことばの教室の役割などについて研究活動を進める。
著書に、『言語障害のおともだち』(ミネルヴァ書房)など。
◇伊藤 伸二 日本吃音臨床研究会会長・国際吃音連盟顧問理事
21歳の時、セルフヘルプグループ言友会を創立。大阪教育大学専任講師(言語障害児教育)
などを経て、現在伊藤伸二ことばの相談室主宰。第1回吃音問題研究国際大会を大会会長として
開催し、国際吃音連盟の礎を作る。論理療法、アサーティブ・トレーニング、竹内敏晴レッスン、
認知行動療法などを活用し、吃音と上手につきあうことを探る。著書に、『両親指導の手引き書
41 吃音とともに豊かに生きる』(NPO・法人全国ことばを育む会)、『吃音の当事者研究−ども
る人がべてるの家と出会った』(金子書房)など。
『リジリアンスを育てよう―危機にある若者たちとの対話を進める6つの戦略』訳者あとがき
岐阜県立大学人間文化学部教授 松嶋秀明[第5回吃音講習会特別講師]
本書の主題となる「リジリアンス」とは、ウンガーによれば「重大な逆境の下、自らの幸福を
維持するための心理的、社会的、文化的、そして身体的資源に自らを導く個人的能力、およびそ
れらの資源が文化的に意味のある仕方で提供されるよう個人的にも、集団的にも意味の交渉を実
現する能力」です。
本書の原題「ストレングス」と類似していますが、逆境におかれた際に発揮されるのがリジリ
アンス、平時から存在するのがストレングスと使い分けられます。当初は、個人の特質として議
論されたリジリアンスですが、近年では、環境との相互作用に注目したエコロジカルなモデルが
注目されています。
第1章はウンガー自身の少年時代のいじめられ体験が開示され、いじめっ子であったジェフリ
ーと自分との境遇が実は似たものであったのにもかかわらず、どうして行動には違いがでたのか
を考えるところからはじまっています。本書で主題となる「危険(dangerous)」「非行(delinque
nt)」「逸脱(deviant)」「障害(disorder)」の4D行動をとる若者たちは、私たちからみれば「
問題」ですが、他方では、リスクを抱えた若者のサバイバル戦略とも考えられます。
第2章では、こうしたサバイバル戦略を、どこにいても誰といようと自分のアイデンティティ
にしがみつく「パンダ」、日和見でどこにでも融け込もうとする「カメレオン」、そして自分が
相手をコントロールできるように自分に注目させる「ヒョウ」の3つに分類しています。
第3∼5章はリジリアンスを育てるための戦略の紹介です。若者たちの4D行動に対してウン
ガーが提案する戦略は「やめさせるのではなく代わりを探す」です。戦略1の「若者の真実を聞
く」をはじめ、「若者が自らの行動を批判的に見るよう援助する」「若者が必要だというものに
フィットする機会を創造する」「若者が耳を貸し、敬意を払うような仕方で話す」「最も大切な
差異を見つける」という5つの戦略です。
第6章は、いじめの臨床実践。パンダ、カメレオン、ヒョウのアイデンティティがそれぞれど
のようなイジメっ子の姿となってあらわれるのかが示されます。近年、わが国においても知られ
るようになったイジメ予防をうたう心理教育プログラムについても若干批判的なスタンスを披露
しながら、イジメっ子にイジメでない代案を提案するための会話を展開しています。そして最後
に第7章と8章では、リジリアントな若者のストレングスを評価するインベントリーを紹介し、
その利用法が紹介されています。
わが国では、本書でとりあげられるような若者に対して、社会は年々寛容さを失っているよう
です。少年法の厳罰化をはじめ、学校教育をめぐるトピックには「ゼロ・トレランス」「毅然と
した対応」といった言葉が踊ります。本書の訳出がはじまった2012年の夏、ある痛ましい事
件をきっかけにして沸き起こった「いじめ」撲滅についての言説の多くも、イジメ=犯罪という
図式をもちだし、警察官を学校に派遣するといった解決が語られます。こうした方策に共通する
のは、当の若者たちが何を考えているのかを聴き、どうすればいいのか私たちが思い悩むかわり
に、若者をより大きなパワーで従えようということでしょう。もしかしたら、私たちはウンガー
が結論で述べたように「若者についてのある種の考え方にはまって抜け出せないでいる」のかも
しれません。彼(女)らに変わることを求める前に、私たちも変わることが必要でしょう。
吃音講習会のホームページを知っていますか?
これまでの講習会の報告、大会要項に載せた資料など
ご覧になれます。 講師の先生方からの貴重な提案や、こ
とばの教室の実践報告、どもる当事者の方の声など、参
考になる資料が満載です。ぜひご覧ください。
どもる子どものレジリエンスを育てる
−親、教師、言語聴覚士のための吃音講習会−
アドレス:http://www.kituonkosyukai.com/