報文,技術リポート内容紹介 - 公益社団法人農業農村工学会

農業農村工学会誌第 84 巻第 8 号
小特集
報文・技術リポート内容紹介
省力的で安全な農作業技術の最前線と基盤整備の挑戦
特集の趣旨
圃場の大区画化や大型機械の導入により労働生産性は伸びてきたが,TPP 大筋合意を踏まえると,基盤整備においても
う一歩取り組むべき省力的な技術開発が求められています。また,その一方で,最近は農作業に伴う事故は減少する傾向に
ありません。そのため,省力化を先導する農作業の無人化技術や安全性を図る技術の現状を紹介し,これらの動向を踏まえ
た今後の基盤整備技術の課題を明らかにすることにより,農業工学分野の連携を一層図ることを目的として小特集を企画し
ました。
1. 基盤構造に着目した農作業事故の発生要因に関する考察
田村 孝浩・内川 義行・松井 正実・守山 拓弥
わが国では農作業事故により毎年 350 名を超える人命が失
われている。他産業では労働衛生環境の改善が図られ,その死
亡者数を大幅に減じてきたが,農作業事故死はこの 40 年間,
高位安定のまま推移してきた。事故防止には「人」と「機械」
への対策のみならず,
「作業環境」に対する視点と対策が不可欠
となる。そこで本報では実際の事故事例を「基盤構造」の観点
からひも解き,事故原因と改善方策を考察した。その結果,縦
支線農道を乗用型機械で移動中に発生した事故は,走行路面の
縦横断勾配に問題があったことを指摘した。こうした環境的要
因に属するリスクは,農業土木の知見に基づいた小規模かつ部
分的な整備によって,相当程度減じることが可能であることを
指摘した。
(水土の知 84-8,pp.3〜6,2016)
農作業事故,基盤構造,通作道,中山間地域,土地改良事
3. 農家減少による規模拡大時の安全な農業を
支える基盤整備
北川
巌・村上 則幸・塚本 康貴
農家数の減少による規模拡大に対しては,大型機械による省
力的水稲作,投下労働時間の少ない子実トウモロコシを加えた
新たな田畑輪換,さらには収益性の改善に向け露地野菜を導入
するための水田インフラ整備の必要性について指摘した。 ま
た,安全な農作業を支えるには,①大型コンバインや収穫物を
運送業者がトラック・トレーラにより安全に運搬できる幅広い
作業道,②トラクタの転落・落下事故を防止する排水路の管路
化,③漏水や草刈り面積を抑制して圃場管理を容易にする農区
・圃区外周の畦畔への作業道の配置,④これら作業道の圃場側
への農道ターン設置が必要と指摘した。
(水土の知 84-8,pp.11〜14,2016)
農家減少,規模拡大,基盤整備,作業道,安全性,田畑輪
換,機械作業
業
2. 農業機械事故の要因と基盤構造の関係
積
栄・岡田 俊輔・志藤 博克
農作業死亡事故は農業就業人口比で見ると増加傾向にあり,
他産業と比べても著しく多く,大きな問題となっている。近年
の詳細な事故調査・分析の取組みにより,事故の要因は農業機
械やヒューマンエラーによるものだけではなく,基盤構造を含
む環境面が影響している事例も多いことがわかってきた。本報
では,まず基盤構造が影響した農業機械事故として,農道にお
ける 2 件の転落死亡事故の要因を考察する。次に,基盤構造が
機械作業安全に与える影響について,稲収穫にかかる各種作業
を題材に,その可能性を論じ,今後の農作業事故対策における,
農業機械分野と農業土木分野の連携の重要性を示す。
(水土の知 84-8,pp.7〜10,2016)
農作業事故,農業機械,基盤構造,農道,畦畔法面
4. 農作業の自動化技術の現状と基盤整備への期待
長坂 善禎・玉城 勝彦・齋藤 正博
担い手への農地の集積による農業経営の大規模化が進展しつ
つあり,これまでより効率的な圃場作業が求められている。一
方,熟練オペレータは減少しており,非熟練オペレータであっ
ても,熟練オペレータ並みの作業を実施できるようにすること
が求められている。本報では,筆者らが研究している,衛星測
位システムによって得られる高精度な位置情報を利用した耕う
ん,移植,収穫の自動作業の概要について紹介する。また,作
業中の農業機械の操舵を自動化する製品も市販化されており,
その作業精度や能率の改善効果を農家圃場で検証しているとこ
ろであり,それらについても併せて紹介する。さらに,今後の
基盤整備への期待について述べる。
(水土の知 84-8,pp.15〜18,2016)
農作業,自動化,衛星測位,協調作業,自動操舵,基盤整
備
5. 等高線区画整備による農作業効率および安全性の確保
佐藤 太郎・吉川 夏樹・坂田 寧代
傾斜地において,平坦地と同様に長方形区画による圃場整備
を実施した地域では,農道や進入路の急勾配化や区画間法面の
長大化などにより,整備後の営農および維持管理の作業に大き
な支障が生じている。本報では,新潟県内で災害復旧の一環と
して実施された農地整備を事例として,省力的で安全な農作業
の確保という視点から整備計画の概要について報告する。区画
形状は作業機械の大型化を考慮し,区画の曲折部は隅切りや円
弧状畦畔とし,農業機械の走行を円滑にすることが重要である
ことを指摘した。また,区画への乗入れ環境の改善など,等高
線区画の導入効果を紹介するとともに,中山間地域の農地整備
について,今後の方向性と課題について論じた。
(水土の知 84-8,pp.19〜22,2016)
等高線区画,隅切り,区画間段差,進入路,効率性,維持
(報文)
農業農村振興施策等が農村地域の人口変動に与える影響
山下
正・川合 規史・徳若 正純・中田 摂子
わが国の総人口は 2010 年から 2030 年の間に 8.9%減少する
と見込まれているが,平地農業地域では 17.3%,中間農業地域
では 25.3%,山間農業地域では 37.5%減少すると推計されて
いる。他方,農村の活性化には,産業の育成や雇用の確保,所
得の増大などが必要であり,地域活性化による定住促進などの
事例研究がさまざまな機関によって行われている。しかしなが
ら,農業農村振興施策が人口変動に与える影響の分析は十分に
行われていない。本報では,農村地域に位置する市町村の統計
データを用い,農業生産力,6 次産業化およびこれらを支える
農業生産基盤整備が農村地域における人口変動に与える影響に
ついて検証を行った結果について報告する。
(水土の知 84-8,pp.31〜34,2016)
農村地域,人口変動,農業生産力,6 次産業化,農業生産
管理性,安全性
基盤整備,重回帰分析
6. 畦畔法面管理のための簡易な作業道造成法
三谷誠次郎・上田 純一
中山間地域の畦畔法面の雑草管理は,清涼な環境での作物生
産および水田の多面的機能の発揮のために欠かせない。しか
し,肩掛式刈払機を用いた草刈り作業は体力的,精神的に負担
の大きな作業であり,担い手の経営や規模拡大の妨げとなって
いる。また,刈払機による負傷事故も依然として多く発生して
いる。本報では,法面管理の軽労,安全化を図るため,狭幅作
業道造成機を用いた法面作業道の造成方法とその効果について
述べる。法面作業道の設置は最も効果的な対策の一つであり,
本方法により簡易に造成することができる。現場でぜひ活用し
ていただきたい。
(水土の知 84-8,pp.23〜26,2016)
水田,畦畔,法面,草刈り,作業道
(報文)
生息環境が共通する水田を用いた水田魚道による再生産効果
森
淳・栗原 貴史・渡部 恵司
水田魚道は圃場整備により分断された水域ネットワークを修
復する手法として普及しているが,定量的な評価は十分ではな
かった。隣り合い,営農が共通する 2 枚の水田のうち 1 枚に水
田魚道を設置し(魚道区)
,設置しない水田(対照区)との間で
中干し前の落水時に降下する魚類の調査を行った。その結果,
面積比を考慮すると魚道区から降下した魚類の個体数は対照区
の約 13 倍となった。魚道区では排水開始直後は体長の大きな
ドジョウが降下し,次第に小さな個体が降下するようになっ
た。炭素安定同位体比分析の結果,これら水田の排水路には水
田で生育したと考えられる炭素安定同位体比を持つドジョウが
生息していることが明らかになった。
(水土の知 84-8,pp.35〜38,2016)
農業農村整備事業,生態系配慮,ドジョウ,水田魚道,炭
素・窒素安定同位体比
(報文)
窒素循環から見た手取川流域の水循環の健全性について
早瀬 吉雄
積雪温暖地に位置する手取川流域を対象に,窒素循環の視点
から流域の水循環の健全性について検討した。手取川流域は,
白山麓の山岳域を源流に,多積雪・多雨の水文循環,緑豊かな
森林生態の好条件下にあるため,扇状地の灌漑用水は,元入れ
で窒素濃度 0.3 mg/ℓと低く,良食味米の生産に最適であり,
扇状地地下水は,NO3-N が 1.5 mg/ℓ以下の軟水で,上水や工
業用水として利用され,湧水域にはトミヨの生息域がある。森
林流域の窒素吸収量が 3.5〜5.1 kg/(ha・year)で,森林は窒素
制限にある。
(水土の知 84-8,pp.27〜30,2016)
窒素循環,手取川流域,手取川扇状地,水循環の健全性,
水田の窒素動態,森林の窒素吸収量
(技術リポート:北海道支部)
旧排水機場基礎杭の撤去工法
相澤 孝汰・林
進・松本 博昭
北海道東部の池田町に位置する川合地区の排水機場および排
水路は,造成後 30 年以上経過し,老朽化が著しく,施設機能が
低下し,施設の維持管理に多大な労力を費やしている。このた
め,国営造成土地改良施設整備事業で,排水機場および排水路
を改修し施設機能を回復させることとしている。排水機場改修
後の旧排水機場撤去は,新排水機場が隣接した限られたスペー
スでの作業となり,また,民家も隣接していることから,騒音,
振動への配慮が必要となるなどの制約がある。そのため,旧排
水機場の撤去工事のうち基礎杭の撤去については,リーダ式
ケーシング回転掘削工法により施工した。本報では,当工法の
選定の考え方,施工状況などについて事例的に紹介する。
(水土の知 84-8,pp.40〜41,2016)
国営造成土地改良施設整備事業,排水機場,基礎杭,撤去
工事,破砕撤去,ケーシング回転掘削工法
(技術リポート:東北支部)
穴堰の歴史と事業概要
中田 直樹・澤井
充
穴堰は,秋田県秋田市の東部に位置し,江戸後期に旧鬼越峠
を貫通して作られた地下水路である。一級河川旭川を水源と
し,秋田市外旭川に広がる水田 321.3 ha を潤しており,農家
451 戸が恩恵にあずかる。秋田の初代藩主・佐竹義宣は,1602
(慶長 7)年から新田開発を推進,秋田市外旭川地区でも水田化
が進められたが,地元に河川がなく水不足が問題となった。そ
の解決策として,1800 年代に地元の有力農家だった渡辺九右
衛 門 が 藩 へ 穴 堰 の 開 削 を 働 き 掛 け,文 化 ・ 文 政 年 間
(1804〜1829 年)に完成。完成後も穴の崩落が発生するなど,
住民は穴堰の維持に苦しんだが,手入れや改修を続け現在に
至っている。本報では,先人が創り出した水利施設である穴堰
の歴史と事業計画について紹介する。
(水土の知 84-8,pp.42〜43,2016)
農業用水,水路トンネル,郷土史,教材,推進工法
(技術リポート:関東支部)
果樹園地の圃場整備
(技術リポート:中国四国支部)
石神池におけるため池耐震化整備について
石川 正幸・中條 宏和・山本 哲也
東日本大震災では,ため池の決壊による甚大な被害が発生し
たことから,大小 1 万 4 千余りのため池を有する香川県では,
今後,発生が予想される南海トラフを震源とする大規模地震に
備え,これらため池の計画的な整備の推進が喫緊の課題となっ
ている。このため,平成 25 年度に策定した「香川県老朽ため
池整備促進計画(第 10 次 5 か年計画)
」では,これまでの老朽
「大規模ため池の耐震化整備の推進」を新
ため池の整備推進に,
たな取組みとして加え,耐震化補強工事が必要なため池につい
て,整備を推進しているところである。 今回,香川県で初めて
耐震化補強工事に取り組んだ石神池における耐震診断の概要,
採用した耐震化補強工法について紹介する。
(水土の知 84-8,pp.48〜49,2016)
耐震化整備,大規模地震,ため池重要度区分,耐震診断,
変形解析,押え盛土工法
(技術リポート:九州沖縄支部)
ため池管理体制の現状と課題
福田 克也
下田 知直
圃場整備は,農作業の作業効率を高め,コスト縮減を図るこ
とができる有効な整備であるが,永年作物を栽培している果樹
園においては,多くの課題がある。本報は畑地帯総合整備事業
により獣害防止施設も含めた総合的な生産基盤整備を行った
が,永年作物のある地域の状況を鑑みた簡易的な整備手法を取
り入れ,果樹園の圃場整備を実施した事例を報告する。
(水土の知 84-8,pp.44〜45,2016)
ため池は主に地元農家や水利組合が管理する施設であり,古
くから農業用水源として利用されている。しかしながら,その
多くは老朽化と管理者の高齢化により維持管理が不十分であ
る。このため,地元管理者による管理点検の啓発および継続に
向けた行政支援が必要である。また,近年の大規模地震や豪雨
によるため池被災を受け,平成 25 年度に県が事業主体として
実施した一斉点検では,ため池の危険度の把握とデータベース
の作成を行った。今後,このデータベースを適宜更新し,行政
側の情報管理体制を強化する必要がある。本報では,地元管理
者の維持管理と行政の情報管理という二つの側面で,ため池管
理体制強化に向けた考察を述べる。
(水土の知 84-8,pp.50〜51,2016)
果樹園地,圃場整備,区画整理,スモモ,獣害防止施設
ため池,老朽化,管理,点検,データベース
(技術リポート:京都支部)
河川共用区間における農業用水路の設計について
高阪 快児・原
智志
濃尾用水農業水利事業では,1957〜1968(昭和 32〜43)年
に,犬山頭首工の新設と用水路などを整備した。この事業は,
濃尾平野へ安定的に農業用水を供給し,地域の営農および環境
や社会基盤の保全など多面的機能を発揮してきた。しかし,近
年の気象変動,流域の都市化・混住化,施設の経年劣化のため
水利施設の機能が低下してきた。この対策として,水利施設の
補修や改修による機能回復を主な目的とした国営総合農地防災
事業「新濃尾地区」が 1998(平成 10)年から着工された。本事
業の特徴の一つは,新木津用水路の一級河川との共用である。
それは,新木津用水路が複数の河川と合流・分流を繰り返すた
めである。ここでは,河川改修計画と整合を図りながら,河川
共用区間における排水能力を向上させた設計技術について紹介
する。
(水土の知 84-8,pp.46〜47,2016)
濃尾用水,国営総合農地防災事業,新木津用水路,灌漑,
排水能力
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