姿勢づくりの練習 座位での重心移動練習 「立ち上がり困難の方」に

① 前かがみになるトレーニング
Profile
松本健史
※回数はすべて10回3セットを目安とし、体調に合わせて調整してください
姿勢づくりの練習
理学療法士/介護支援専門員/
社会福祉学修士
立ち上がる練習をする前に、足を引き、前かがみをとる動作
NPO法人丹後福祉応援団勤務。
2014年に「松本リハビリ研究所」設立。著書に「拘縮対
応ケアハンドブック」(ナツメ社)等がある。介護従事者
向けの「生活リハビリの達人」養成研修が話題。
手すりのある環境を用意し、手すりに手を添えて「腕を前方
● ホームページ『松本リハビリ研究所』
● 研修・原稿の依頼・問い合わせは [email protected] まで 前かがみになる
腕を前に伸ばす
をしっかり練習します。
に伸ばす (手すりをつかむ)」「前かがみ」「足を引く」という立
ち上がりの準備姿勢に慣れる練習を実施します。
注意点
この時点では、まだ立ち上がらなくても大丈夫です。
立ち上がり練習は「姿勢づくり」から
年間テーマ一覧
足を引く
8月号 片麻痺で麻痺側の手足の痙性が強く立ち上がり動作が不安定な方 12月号 パーキンソン病で飲み込みが低下しかけている方
9月号 片麻痺のぶん回し歩行・反張膝
1月号 関節リウマチで変形が中等度ある方
10月号 イスに座ると体が傾いてしまう方・仙骨座りになる方
2月号 訓練にやる気がない方・歩けるようになる見込みがないのに歩くための体操ばかりしている方
11月号 変形性の膝関節症で、膝が痛くて立ったり歩いたりしたがらない方 3月号 高齢者で床からの立ち上がりができない方、片麻痺の人で床からの立ち上がりができない方
※内容は変更となる場合があります
座位での重心移動練習
15~30㎝
自然な座位姿勢で、両手を組
んで伸ばします。
第 4 回 「立ち上がり困難の方」にオススメの機能訓練メニュー
今回は立ち上がりが困難な方におすすめの運動メニューです。立ち上がる練習だけにこだわるのではな
両手を組む
介助者の手を目標にし、組ん
目標
だ手をそこへ向かって伸ばす
ように前かがみの姿勢を誘導
します。
「前に手を伸ばしてください。
く、生活づくりを意識したメニューを紹介していきます。
もーっと前に!」と声かけを
して前かがみを誘導します。
身体機能に合わせて目標を遠
三条件を獲得していくメニュー
ざけます。
開始姿勢
前かがみを誘導(15~30㎝くらい)
立ち上がりを練習しようとしても、まず「前かがみの姿勢」
「足を引く」といった基本的な姿勢がとれな
いという方もいます。その場合、立ち上がる前に、姿勢づくりのメニューを組んでいくと良いでしょう。
立ち上がりの三条件を知る
立ち上がりで大切にしたい三条件があ
ります。機能訓練を行うときも、普段の
介助をするときも、この3つに配慮する
と、動作が見違えるほど良くなる人がい
前かがみになれるレクを実施しよう!!
立ち上がりの三条件
① 適したイスの高さ ちょっとBreak
③ 前かがみ
業界で噂のレクです!
前かがみ姿勢は、競技に真剣に打ち込んでいると自然と獲得されることもあります。
デイサービスのレクリエーションは、そんな場面をたくさんつくることができると思います
(筆者開発の風船を打つレクリエーション「Ban!Ban!バルーン」もおすすめ)
。
② 足を引く
ぷかぷか浮いた風船を手で遠くへ飛ば
③ 前かがみになる
す競技で、ゲームに白熱しているうちに
ます。「立てない」と決めつけてしまう
力強い前かがみ姿勢が現れます。
前に、ぜひ試してみてください。
検索 Ban!Ban!バルーン
YouTubeに動画を紹介しています。
② 足を引く
① 本人に適した
イス(座面)の高さ
110 月刊デイ Vol.199
動画はこちら
https://www.youtube.com
/watch?v=v7vLIkxnYbw
Vol.199 月刊デイ 111
現場スタッフに役立つ
② 足を引く体操
疾患別 リハビリ
三段階立ち上がり練習(高さを変えた台からの立ち上がり)
足を引く体操
さらに立ち上がり動作を安定させるために行います。生活の中では、イスからの立ち上がりだけではな
く、ソファや浴室の低い台などから立ち上がる動作も必要となります。そういった生活上のニーズに合わせ
立ち上がるときに足を引くこと
イチ
を忘れがちな人に行います。
ニー
足を「前方に伸ばす・後方に引
て、低いイスからの立ち上がりをメニューに加えます。
【初級】40㎝台からの立ち上がり(一般的なイスの高さ)
く」という動作を、リズミカル
に繰り返します。
介助者は「イチ・ニー・イチ・
一般的なイスは座面の高さが大抵40㎝の
ニー」と声を掛けます。
ため、日常生活を送る上でとても大切な動
作といえます。
立ち上がりやすい位置に足を引く
両足を前方に伸ばし、地面に着ける
膝伸ばし体操
立ち上がるとき、最も筋力の必要な場所は大腿四頭
【中級】30㎝から立ち上がり(ソファなどの高さ)
筋です。
「立つときは太ももの前側の筋肉が頑張るんですよ」
と声かけし、固くなった大腿四頭筋に触れることで、
大腿四頭筋
膝を伸ばす力を意識してもらいます。
ソファなどの少し低いイスで行っても良い
でしょう。沈み込んだソファなどから立ち
上がることができれば、行動範囲が広がり
ます。
ポイント
足全体は床面に水平になるよう心掛けます。足先は垂直
になるようには背屈します。太ももの前面に触れ、膝を伸
ばすことで、大腿四頭筋が強く収縮していることを実感し
てもらいます。
膝を伸ばす
手すりを使った立ち上がり(膝折れを補助)
前かがみ、足を引くといった姿勢づくりができたら、いよいよ実際の立
ち上がりを練習していきます。
手すりを使った立ち上がりを介助付きで練習していきましょう。
膝を触りながら「膝を伸ばしてくださいね」と声を掛けると、膝を意識
しやすくなります。
【上級】20㎝から立ち上がり(お風呂のイスぐらいの高さ)
20㎝の立ち上がりが可能になれば、入浴
動作にも好影響。
温泉に
行くぞー
「ここから立てたら温泉
に行きましょう!」そん
な目標を持って練習して
いただきましょう!
膝折れのある方は介助者が膝を支えながら、
立ち上がり動作を練習していきます
112 月刊デイ Vol.199
Vol.199 月刊デイ 113
現場スタッフに役立つ
片足を引いて立ち上がる練習
理学療法士の視点 ②
片方の足を伸ばし、片方は引いて立ち上がります。引
疾患別 リハビリ
立ち上がり動作を確認しよう
自己流の動作に慣れてしまって、新しい動作をなかなか習得できない方もいます。運動生理学的に誤った身
いた方の足の力がしっかりしていないと立ち上がれま
はん よう
体運用に慣れてしまうと、「ある場面でしか立てない」といった状況になりやすいです。できるだけ汎用性
せん。
のある動作を獲得できるようにするのも、デイサービスでの機能訓練の大切な役割だと思います。
下肢の筋力に左右差がある方の場合、弱い方の足を引
いて立つ練習をすると良いでしょう。「いかに良い方
L字手すりの引っ張り立ち
(の足) に頼っているかが分かった!」と実感される方
イスを押して立つ
が多いです。片麻痺がある人でも、軽度であればあえ
て麻痺側を引いて軸足として練習すると立てる人がい
ます。
注意点
弱い方の足を引いて立つときはふらつきに注意し、すぐに支
えられるようにしておきましょう。
弱い方の足を引いて立ち上がり練習
理学療法士の視点①
適したイスの高さとは?
「L字手すりの上方を持ち、腕の力で体を引き上げ
ひ こつ とう
イスの高さは、腓骨頭の
位置が目安になります。
腓骨頭を触れますか?図
しつ がい こつ
のように膝蓋骨(膝のお
皿) に親指を当てると中
指・薬指が骨の隆起に触
〈腓骨頭〉
中指と薬指が触れる
骨の出っ張り
れます。そこが腓骨頭。
床から腓骨頭までの距離
が各人の適したイスの高
「イス(座面)を押しながら、腕の力で立ち上がる」。
る」。これは、足は壁につけ、つっぱりながら体を支
この立ち方に慣れてしまっている人も多いです。
えており、すべて上肢と下肢の筋力に頼った立ち方。
重心移動が苦手で腕の筋力を主体に立つ動作。こう
一見、安定した立ち上がりのように見えますが、こ
いった方は、筋力が低下してくるとすぐに立てなく
の場面でしか使えない立ち上がり方法になります。
なってしまいます。
縦手すりを引っ張って立つことに慣れてしまうと、
筋力ではなく、重心移動で立つ動作を覚えてもらい
縦手すりがない所では立てなくなります。
ましょう。
腓骨頭
適したイスの
座面の高さ
さの目安となります。
できていますか?『待つ介護』
腓骨頭を目安に、適したイスの高さを決める
良い施設はいつも利用者の環境を考えています!
すそ
ズボンの裾を持って「イチニのサン!」と言って立ち上がらせ
る場面を、介護現場でよく見かけます。
高さの違うイスを用意して、立ち上がりやすい環境を整えましょう。
ズボンを持つ
もし、自分がこんな介護を受けたら不快だと思いませんか?
それに介護者は声を掛けながらも、相手の動作を待っていませ
ん。実はこの方法では、介護者のペースで動作が開始されてしま
い、利用者の力が発揮されていないのです。
利用者を介助するときの心構えとして大切にしたいのは、「待つ
介護」です。今回紹介した立ち上がりの三条件を整え、ゆっくり
待ってみてください。
34㎝
36㎝
38㎝
39㎝
41㎝
利用者がもぞもぞと動き、浮いたお尻を支えると安定して立ち
ざ
こつ けっ せつ
上がれます。支える場所は骨盤の一番下、「坐骨結節」あるいは側
だい てん
し
方の「大転子」がいいです。ここは支えやすい骨の出っ張りがあ
違う高さのイスを用意する(重さもいろいろ用意すると良い)
ります。解剖学を知ることで、ズボンを「持つ」のではなく、「待
つ介護」が実現できるでしょう。
114 月刊デイ Vol.199
Vol.199 月刊デイ 115
現場スタッフに役立つ
解剖学を知ろう~支えやすいポイントを知る~「大転子」「坐骨結節」
疾患別 リハビリ
立ち上がりの練習から実践的な移乗につなげる方法
解剖学上の支えやすいポイントを知って
立ち上がりの際には、なるべく前方に体重をかけられるような物を用意しましょう。介助者が前方に「立
おきましょう。
ちはだかる介助」になりがちなので、歩行器・イス・杖などを前方に用意し、できるだけ自力で立ち上がる
環境を用意しましょう。
今回ご紹介した立ち上がりの機能訓練は、実践的な移乗動作につなげていくことができます。要介護状態
だい てん し
大転子
ざ こつ けっせつ
坐骨結節
でも移乗が軽介助で可能になれば、大きく生活が変わります。
移乗の鉄則は、「固定」されたものから「固定」されたものへ移ることです。
しかし現場では「差し替え」といって、人を立たせて、後ろから車イスを近づけて、座らせている光景を
よく見掛けます。介護者は、この方法がやりやすいかもしれませんが、実は利用者の能力を奪う介護になっ
ているのです。前方にテーブルを用意して、隣のイスに移る移乗動作に変えていきましょう。
手の添え方がポイント
フィンガータッチ:指でズボンを握って引っ張り上げる介助(介護者ペースの介護)
車イスからイスへの移乗(テーブルに体重移動し、介助者は坐骨結節に手のひらを添える)
パームタッチ:手のひらで解剖学上のポイントを支える介助(利用者さんペースの介護)
大転子を支える
① 手の甲を上にしてお尻の横に添えます。
② 浮いた瞬間、手のひらを上にし、大転子を支えます。
利用者のお尻が浮くまでゆっくり待ちます。
立ち上がりに足りない力を後押しします。
イチ・ニの
サーンと言いつつ、
5秒くらい待ちます
この移乗ができるといろいろな可能性が広がります。
ベッドから車イスへの移乗、車イスからトイレへの移乗など…。いろいろなところでこの動作が応用できます。モノ
を動かしながら行う移乗は、実用的ではありません。トイレやベッドは動いてくれません。ぜひ、このように「固定」
されたものから「固定」されたものへの移乗を大切にした機能訓練メニューを実施していきましょう。
ご案内 日本ケアレク研修大会2016(横浜会場・大阪会場・名古屋会場)
松本健史先生が生活リハビリの視点を取り入れたレクを大公開!
在宅での過ごし方を知り、在宅環境に合わせたレクを実践!
日時 横浜 2016年7 月 3 日(日) 大阪 2016年8 月 7 日(日)
名古屋 2016年8 月 21 日(日)
※すべて10:00~16:00
会場 横浜 ウィリング横浜
座骨結節を支える
内容
① 手の甲を上にして体に添えます。
② 浮いた瞬間、手のひらを上にし、坐骨結節を支えます。
利用者のお尻が浮くまでゆっくり待ちます。
立ち上がりに足りない力を後押しします。
詳細
大阪 ATCホール
名古屋 ポートメッセなごや
● 脳卒中片麻痺の方の活動・参加を改善するレク・アクティビティ
● 膝痛、大腿骨頸部骨折など運動器疾患がある方の
「活動」
「参加」を改善するレク・アクティビティ
など
会場
ケアレク で 検索
好評です
月刊デイのホームページから松本健史先生の「居宅訪問でご利用者の
生活環境を把握しよう」がご覧いただけます。プログラムを提供すると
きは、ご利用者の生活から導いた目標設定をすると、主体的に取り組ん
でもらえます。個別機能訓練などの参考にぜひご覧ください!
月刊デイ
116 月刊デイ Vol.199
で 検索
アドレス
http://daybook.jp/day.html
Vol.199 月刊デイ 117