血栓塞栓性イベント発症率の地域差―J-RHYTHM Registryより

2016/8/3
JHRS 2016レポート|抗血栓療法トライアルデータベース
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2016年7月14~17日,札幌
血栓塞栓性イベント発症率の地域差―J-RHYTHM Registryより
2016.8.3
日本の心房細動患者において,地域は血栓塞栓性イベントの独立予測因子-7月17日,
第63回日本不整脈心電学会学術大会(JHRS 2016)にて,井上博氏(富山県済生会富山
病院病院長)が発表した。
●背景・目的
ワルファリンによる抗凝固療法の強度や質は国により異なることが知られているが,日本
国内における地域差に関しては明らかになっていない。そこで,J-RHYTHM Registryのデ
ータを用い,日本人の非弁膜症性心房細動(NVAF)患者のワルファリンの使用実態や転
帰の地域差について,検討を行った1)。
井上博氏
●方法
J-RHYTHM Registry で解析対象となったNVAF患者7,406例を,10地域(北海道396例,東
北655例,北関東678例,南関東1,582例,北越304例,中部1,114例,関西948例,中国612例,四国384例,九州733例)に分
け,解析を行った。
主要評価項目は,血栓塞栓性イベント(症候性脳梗塞,一過性脳虚血発作[TIA],全身性塞栓症)および大出血(入院を
要する出血,頭蓋内出血など)である。
●対象患者
ベースライン時,地域により平均年齢(南関東69.1歳~四国71.4歳,p<0.001),男性の割合(中国64.7%~北関東73.9%,
p=0.002),発作性心房細動の割合(北越27.0%~九州45.8%,p<0.001),平均CHADS2スコア(南関東1.5~四国2.1,p<
0.001)など,臨床特性に差異がみられた。同様にワルファリン使用率にも地域差(北海道79.3%~北越94.4%,p<0.001)
が認められた。平均PT-INRにも有意差は認められたものの,その差は小さかった(1.87~1.95,p=0.030)。
四国は他の地域に比べ,平均年齢,平均CHADS2スコア,うっ血性心不全の合併(31.5%),高血圧(73.4%),糖尿病の合
併(25.8%),脳卒中の既往(20.8%)の割合がもっとも高く,75歳以上の割合も中国についで2番目に高かった(41.4%)。一
方,ワルファリン使用率は北海道についで2番目に低かった(81.0%)。
●結果
1. イベント発症率
単変量解析では,血栓塞栓性イベント発症率に地域差が認められ(p<0.001),四国,北関東,北海道で高く,北越,東北,
関西で低かった(2年発症率:北海道2.5%,東北0.8%,北関東2.9%,南関東1.5%,北越0.3%,中部2.2%,関西0.7%,中
国1.8%,四国3.6%,九州1.4%)。Kaplan-Meier法による累積血栓塞栓イベント発現率においても,地域間で有意差が認め
られた(p<0.001)。
大出血発現率には地域差を認めなかった(2年発現率:北海道0.8%,東北1.5%,北関東1.3%,南関東1.7%,北越2.6%,
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中部2.1%,関西2.2%,中国2.6%,四国1.3%,九州2.5%,p=0.352)。
血栓塞栓性イベント発症率と大出血発現率の関係についてみたところ,負の相関の傾向がみられた(p=0.062)。北越や
関西の患者にとっては, 抗凝固レベルが高かったことから血栓塞栓性イベントが少ない一方,大出血が増加したのに対
し,四国,北関東,北海道の患者にとっては,抗凝固レベルが十分には高くなかったことで血栓塞栓性イベントが多く,大
出血は増加しなかったと考えられた。
2. 血栓塞栓性イベントの独立予測因子
多変量解析によると,血栓塞栓性イベントの独立予測因子は地域(東北:HR 0.28,95%CI 0.09-0.75,p=0.010,北越:HR
0.12,0.01-0.61,p=0.007,関西:HR 0.26,0.09-0.64,p=0.003, すべてvs.四国)のほか,年齢(1歳上昇ごと,HR 1.05,
1.03-1.07,p<0.001),永続性心房細動(HR 1.98,1.30-3.10,p=0.001),脳卒中/TIA既往(HR 1.64,1.06-2.48,p=
0.028),ワルファリン使用(HR 0.42,0.27-0.69,p<0.001)であった。
●結論
日本における血栓塞栓性イベントの発現において,地域差が認められ,四国ではもっとも発現リスクが高かった。ベースラ
イン時の患者特性で補正後も,地域は血栓塞栓性イベントの独立予測因子であった。他の交絡因子が影響している可能
性も考えられた。
文献
1. Inoue H, et al. Regional differences in frequency of warfarin therapy and thromboembolism in Japanese patients with
non-valvular atrial fibrillation - analysis of the J-RHYTHM Registry. Circ J 80: 1548-55.
抗血栓療法トライアルデータベース
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