富栄養化

H4-33
二枚貝シジミ
二枚貝シジミを
シジミを用いた藍藻類由来
いた藍藻類由来の
藍藻類由来の毒性物質ミクロシスチン
毒性物質ミクロシスチンの
ミクロシスチンの解毒効果に
解毒効果に関する研究
する研究
Studies on the detoxification of microcystin by using Corbicula japonica
○野元翔太1, 金井司1, 喜多村延政2, 吉田征史2, 松島眸2
*Shota Nomoto1, Tsukasa kanai1, Nobumasa Kitamura2 Yukihito Yoshida2 Hitomi Matsushima2
Abstract: Hepatotoxin like microcystin from Microcystis is extremely toxic to human and is an important water issue in terms of
water resources. Therefore, the detoxification processing technology of microcystin is needed now. From our previous research, it
was reported that the Corbicula has the ability to incept or to accumulate microcystin to the inside of the body. However, the
behavior of microcystin at the inside of Corbicula’s body is still unclear. The present study examined the detoxification ability and
the amount of the detoxification of the Corbicula. As results of examination, the Corbicula was detoxifying microcystin of 0.23-2.54
μg/g, and it was suggested that Corbicula has the detoxification ability.
1.背景及び目的
富栄養化した湖沼やダム湖における問題点は,藍藻類を主体とするアオコの大量発生による水資源の価値の低下を引
き起こす様々な障害をもたらしていることである.アオコを形成する藍藻類の中でも Microcystis 属は,強力な肝臓毒であ
るミクロシスチンを産生し,日本国内外において家畜や人間の健康に被害を与えている[1].そのため,有毒性アオコの除去
さらには毒性物質ミクロシスチンの合理的な解毒化処理技術,特に自然環境への悪影響の少ない処理技術の確立が望ま
れている.本研究室においてはこれまでの研究から,シジミは水中の懸濁物のみならず溶存しているミクロシスチンも体
内に蓄積することを明らかにし[2],シジミを用いた浄化手法は自然環境に対し低負荷な水質浄化技術となりうる可能性
を示してきた.しかしながら,シジミ体内に蓄積されたミクロシスチンの挙動(蓄積するのか解毒するのか)は未だに解明
されていなかった.本研究はシジミの濾水作用に着目し,シジミが体内に蓄積したミクロシスチンを解毒する可能性につ
いて検討するものである.今回筆者らは,シジミのミクロシスチン解毒能力の有無の確認,また解毒していた場合の解毒
量を把握することを目的とし試験を行った.
2.試験方法
本研究におけるミクロシスチンの測定には高速液体クロ
マトグラフィー(以下HPLC)を用いた.Table1 にHPLCの測定
条件を示す.まず,試験原水として市販のミクロシスチン-LR
を脱イオン水(DI 水)に溶解し濃度 3μg/mL になるように設
定したものを 30mL 作成した.試験原水を試験容器 3 個(試料
Table 1. Condition of HPLC
System
Ultimate3000(DIONEX)
Column
ODS-3 d4.6mm×150mm(GL Science)
Eluent
50mMNaH2PO4(Adjust pH3, H2PO4):MeOH=4:6
Column Temp
40 ℃
Flow rate
1.0 mL/min
Wavelength
240 nm
Injection Volume
20 μL
A~C)に 10mL ずつ分取した後,試験容器の各々に市販のヤ
マトシジミ(以下シジミ)1 個体を投入した.試験に供したシジミは試験開始前に 24 時間以上水槽で馴致させたものを
無作為に選び,投入直前に殻表面に付着した汚れを払拭した.4 時間のミクロシスチン摂取時間経過後,試験容器内の原水
を採水・定量し,試験原水中のミクロシスチン量と設定摂取時間経過後の試験水中のミクロシスチン量の差をシジミ体
内に取り込まれたミクロシスチン量と考え,体内蓄積量とした.なお,ミクロシスチン量は各々の試験水のミクロシスチ
ン濃度と液量の積で算出した.
次に,試験容器から取り出したシジミの軟体部湿潤重量を秤量し,対応する試験容器に軟体部のみを再び投入しそれぞ
れの試験水と共にホモジナイズした.これにより,シジミ体内に蓄積されたミクロシスチンを液相に回帰させた.得られ
た液体を遠心分離(4000rpm, 10 分)にて破砕された軟体部を沈殿させ,上澄み液を採水しミクロシスチン量を定量し,これ
を破砕水中のミクロシスチン量とした.最後に,残留した軟体部沈殿物にもミクロシスチンが付着している可能性が考え
られたため,軟体部沈殿物に 1mL の DI 水を加え 10 分間激しく攪拌した後,再び遠心分離にかけ,その上澄み液のミクロ
シスチン量を定量した.それぞれの軟体部沈殿物にこの作業を 2 回行い,2 回のミクロシスチン量の合計を軟体部付着量
とした.これら 3 つのミクロシスチン量から,シジミのミクロシスチン解毒能力の有無及び解毒量を検討した.
1:日大理工・院・土木 2:日大理工・教員・土木
618
本試験に用いたシジミの軟体部湿潤重量は,試料 A及び
試料 B が 0.42g/個体,試料 C は 0.63g/個体であった.また,
シジミの殻へのミクロシスチンの付着によるミクロシス
チンの損失は生じないことを別途確認した(データ省略).
各シジミのミクロシスチン体内蓄積量を求めると 1.85μ
g/g~4.47μg/g であった.(Figure1) また試験原水中のミク
ロシスチン量に対する体内蓄積率は 5.89%~11.95%とな
Amount of microcystin (μg/g)
5.00
3.試験結果及び考察
されたが,いずれの系からも体内への蓄積は確認された.
各試験原水中のミクロシスチン量は 30.59μg,30.94μ
g,31.44μg であった.これらの結果から試料 A~C におけ
る解毒量を算出した.解毒量は「解毒量=試験原水中のミ
クロシスチン量-(破砕水中のミクロシスチン量+軟体
部付着量)」として算出し,試料 A~C の順に 2.54μg/g,0.98
ン量及び各体内蓄積量に対する解毒率を Figure3 に示す.
内蓄積量,軟体部付着量および破砕水中のミクロシスチン
量は「測定したミクロシスチン濃度×試験水液量(さらに
体内蓄積量,破砕水中のミクロシスチン量は各々のシジミ
0.00
Sample B
Sample C
Accumulation
Detoxification
4.00
3.00
2.00
2.54
1.00
0.98
0.23
Sample B
Sample C
0.00
100
Detoxificarion ratio (%)
g/g~2.54μg/g であった.しかし,この試験方法における体
1.85
Sample A
毒量を Figure2 に示す.また,各試験原水中のミクロシスチ
能力を有することが示唆され,その時の解毒量は 0.23μ
1.00
Figure 2. Amount of microcystin-LR accumulation
and detoxification by Corbicula japonica
μg/g,0.23μg/g であった.体内蓄積量及びそれに対する解
今回の試験の結果より,シジミはミクロシスチンの解毒
3.65
5.00
Amount of microcystin (μg/g)
0.73μg/g,2.52μg/g,1.43μg/g であった.また,試料 A~C の
4.47
2.00
Figure 1. Amount of microcystin-LR accumulation by
Crobicula japonica
れは試験時間内におけるシジミの活性による影響と推察
29.22μg,29.46μg,30.41μg となり,軟体部付着量は順に
3.00
Sample A
り,体内蓄積量及び体内蓄積率にばらつきが見られた.こ
次に,破砕水中のミクロシスチン量は試料 A~C の順に
4.00
80
Detoxification/Initial
Detoxification/Accumulation
60
40
20
69.5
8.3
3.2 22.0
0.7 12.6
Sample B
Sample C
重量で除す)」で算出しているため,試験の操作過程で何ら
0
かの形で試験水液量に損失があった場合必ずしも正確な
Figure 3. Detoxification ratio to initial amount and
accumulation amount
ミクロシスチン量が算出されているとは言い難い.今回の
Sample A
試験でも試験水を別の容器に移し替える際や,ホモジナイザーへの試験水の付着,または試験容器からシジミを取り出し
た際に微量だが試験水の損失が考えられた.それにより,今回算出した解毒量は実際の解毒量より大きく見積もっており,
本来の解毒量はこれより少なくなることが考えられる.このため,今後正確な解毒量を把握するためには,操作過程での
試験水の損失を極力少なくすること,あるいはより大きなスケールでの解毒試験が必要である.
4.まとめ
藍藻類由来の毒性物質ミクロシスチンの合理的な解毒化処理技術を目指し,シジミのミクロシスチン解毒能力の有無
と解毒量の把握を目的とし試験を行った.試験の結果,シジミには 0.23μg/g~2.54μg/g 程度の解毒能力を有することが
示唆された.しかしながら,解毒量の正確性は試験操作に影響される可能性があったため,シジミの解毒能力の有無及び
解毒量の把握にはさらなる検討が必要である.
5.参考文献
[1] 御園恭輔 「手賀沼固有種二枚貝マシジミの濾水作用による藍藻類由来の毒性物質 microcystin の解毒効果に関する
研究」[2] 横山淳史 「ヒメダカ Oryxias latipes を用いた藍藻毒素 microcystin のバイオアッセイの検討」
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