2016 年 8 月 第 2 週号 (原則、毎月第 2 週、4 週発行) 2016 年度 vol.9 < フォーカス>腑に落ちない日銀の説明 7 月 28,29 日に開催された金融政策決定会合において、日銀は ETF の買い増しを決定したが、緩和の背 景についての日銀の説明には、いくつか納得しがたい点があった。 まずは、追加緩和の背景である。日銀は公表文の冒頭で、英国の EU 離脱問題と新興国経済の減速に伴 う国際金融市場の不安定化を追加緩和の理由として挙げている。しかし、英国の EU 離脱で、国際金融市 場が真に不安定な値動きとなったのは、結果が判明した直後の数日のみである。米国の利上げペースの 加速懸念が遠のいたこともあって、新興国の金融市場も最近はむしろ落ち着きを取り戻している。何より、ブ レグジットに揺れるおひざ元の ECB(欧州中央銀行)が追加緩和を見送り、FRB(米連邦準備制度理事会)も 7 月の FOMC(米連邦公開市場委員会)声明文で「目先の景気見通しのリスク要因は減った」と述べるなか、 影響がもっとも小さいはずの日本が追加緩和に動かなければならないというのは奇妙な理屈に思える。 二番目に、ポリシーミックスについての説明である。定例会見で黒田総裁は、日銀の金融緩和が財政規 律の弛緩につながっているとの指摘に対し、財政支出による市場金利の上昇による民間投資の抑制(クラ ウディングアウト)を回避するための金融緩和はポリシーミックスと呼ばれ、マクロ経済政策の一般的な考え 方と説明している。今になってこうした入門レベルの話を持ち出すこと自体不自然だが、足元の日本経済が、 クラウディングアウトが懸念されるような資金需給がひっ迫した状況なのであれば、28 兆円もの大型財政が 必要であるはずがない。足元の長期金利が理論値からかい離した債券バブルの状況にあるのは明らかで あり、ここからの金利上昇は許さないというのであれば、やはり財政支援と言われても仕方がない。 三番目に、戦力の逐次投入についての説明である。今回の緩和措置は、誰が見ても黒田総裁がやらない と言っていたはずの戦力の逐次投入そのものにみえるが、黒田総裁は「その時々でもっとも適切な政策を 行なっているのであれば逐次投入とは言わない」と説明している。規模が小さくても逐次投入ではないので あれば、白川総裁時代の金融緩和とどう違うのかがわからない。そもそも、黒田体制でこれまで 4 度の金融 緩和の実施を余儀なくされてきたこと自体、この説明と矛盾しないだろうか。 以上を、日銀の説明力の低下と片付けるのは簡単だが、次なる政策変更へのヒントが隠されていると深 読みできなくもない。一番目の点については、物価の下振れ等、真っ当な理由を根拠にすると、早期の追加 緩和に道を閉ざすことになる。すなわち、早期追加緩和に含みを残したと言える。二番目の点については、 さらなる政府との協調を正当化したとみることもできる。三番目の点については、規模を縮小しても金融緩 和の強化だとの説明を可能にするもので、金融政策の枠組み変更に向けた布石を打ったとみることもでき る。注目されている「総括」を受け、9 月に再び大きな動きがある可能性は低くない。(Kodama wrote) 目 <フォーカス>腑に落ちない日銀の説明・・・・・・・・・・・・・・・‥・・・・・ 1 ・ 経済情勢概況・・・・・・・・・・・・・・・・・・‥・・‥・・・・・・・・・・・・ 2 ・日銀は 9 月に枠組み修正&連続緩和か・・・・・・・・・・・・・・・3 ・ 7 月 26-27 日開催の FOMC について・・・・・・・・・・・・・・・・10 次 ・ 英国景気は減速へ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 ・ 主要経済指標レビュー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 ・ 日米欧マーケットの動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 経済情勢概況 (※取り消し線は、前回から削除した箇所、下線は追加した箇所) 日 本 日本経済は、停滞局面が続いている。今後も、引き続き交易条件の改善が下支えするとみるものの、 内外需ともけん引役不在のなか、景気の回復ペースは緩慢なものにとどまると予想する。 個人消費は、弱めの動きが続いている。原油安に伴う家計の実質購買力の改善が後押しするとみる ものの、名目賃金の伸び悩みが続くとみられるなか、今後の持ち直しペースは緩やかと予想する。 住宅投資は回復している。今後は、相続税対策としての貸家の節税需要が減衰するとみられるほか、 需要先食いの影響も残ることで、停滞気味の推移をたどると予想する。 設備投資は、製造業の能力増強投資の低迷が続くとみるものの、更新・維持投資の需要が下支えと なって、均せば緩やかな回復が続くとみる。公共投資は、2016 年度本予算の執行や、補正予算の編 成が下支えとなり、持ち直しへ向かうとみている。 輸出の回復ペースは鈍い。今後も、世界的な投資の冷え込みなどが下押し要因となって、伸び悩み が続くと予想する。生産は、輸出や消費の戻りが鈍いなか、回復ペースは緩慢とみている。 消費者物価(コア CPI)は、0%を下回って推移している。需要面からの押し上げ圧力が弱いこと で、物価の戻りのペースも鈍いとみており、2016 年度のコア CPI は、前年比▲0.1+0.2%程度にと どまると予想する。日銀が目標とする「2017 年度中に 2%程度」の達成も困難とみている。 米 国 米経済は、緩慢な回復が続いている。新興国景気の減速などが景気の下押し圧力になるとみるが、 雇用環境の改善が続くとみられるほか、ガソリン安によって家計の実質購買力が向上していることな どから、今後は緩やかな景気回復が続くと予想する。 個人消費は、実質所得が改善していることなどから、回復傾向が続くと予想する。 住宅市場は、雇用環境の改善や低金利環境などに支えられ、持ち直し傾向で推移するとみる。 設備投資は、エネルギー関連業種の業況が足かせとなり、当面停滞気味に推移するとみられる。た だ、交易条件の改善が企業収益を下支えすることなどから、年央以降は徐々に回復に向かうと予想す る。 輸出は、新興国景気の減速や、ドル高の影響も残ることで、軟調な推移が続くとみる。 FRB は 2015 年 12 月の FOMC で、FF レートの誘導目標レンジを 0-0.25%から、0.25-0.5%へと引 き上げた。今後も景気回復が続くとみており、年内後半に利上げが実施されると予想する。その後も 2017 年末までは年 2 回程度のペースで利上げが行なわれるとみる。 欧 州 ユーロ圏経済の回復の足どりは鈍い、回復傾向で推移している。ECB による緩和的な金融政策の継 続が見込まれるのに加え、難民対策や景気への配慮もあって、各国の財政スタンスがやや緩和する見 通しであることなどから、内需は今後も改善傾向が続くとみる。ただ、輸出は新興国の景気減速など を背景に、伸び悩む展開が続くとみられるほか、英国の EU 離脱決定の影響も下押し圧力となること で、ユーロ圏景気の回復ペースは緩慢なものにとどまると予想する。 個人消費は、サービス業を中心に雇用者数の増加傾向が続くとみられることなどから、緩やかな回 復傾向が続くとみる。 固定投資は、緩和的な金融環境が下支えとなるものの、企業の生産活動の停滞などが足かせとなっ て、力強い回復には至らないと予想する。 ECB は 3 月の理事会で、主要政策金利を 0.05%から 0%へ、中銀預金金利を▲0.3%から▲0.4%へ と引き下げたほか、毎月の資産買入れ額を 600 億ユーロから 800 億ユーロに増額することや、長期資 金供給オペを実施することなどを決定した。英国の EU 離脱決定を受け、景気や物価の下振れ懸念が 強まっていることなどから、ECB は年末までには資産買入れ策の実施期間の延長を決定し、2017 年 3 月以降も資産買入れを継続すると予想する。 2 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 日銀は 9 月に枠組み修正&連続緩和か ETF の買い増しを実施 日銀は、7 月 28,29 日に開催された金融政策決定会合で、追加金融緩和を決定した。しかし、大 方の市場予想に反し、主たるメニューは ETF の買い増し(保有残高年間 3.3 兆円増→6 兆円増)の みにとどまった(他に米ドル資金供給の拡大を実施)。もちろん、6 兆円という額は決して小さな 額ではないものの、主要ツールであるマイナス金利の深堀りや国債買い増しに踏み込まなかったこ とから、市場は逆に黒田緩和の限界を意識する結果となった。なお、景気判断は、「基調としては 緩やかな回復を続けている」を維持している(図表 1,2)。 (図表 1)金融政策決定会合後の声明文における景気の現状判断の変化 声明文の発表日 14 年 4 月 30 日 5 月 21 日 6 月 13 日 7 月 15 日 8月8日 9月4日 10 月 7 日 10 月 31 日 11 月 20 日 12 月 19 日 15 年 1 月 21 日 2 月 18 日 3 月 17 日 4月8日 4 月 30 日 5 月 22 日 現状判断 基調的には緩やかな回復を続けている 基調的には緩やかな回復を続けている 基調的には緩やかな回復を続けている 基調的には緩やかな回復を続けている 基調的には緩やかな回復を続けている 基調的には緩やかな回復を続けている 基調的には緩やかな回復を続けている 基調的には緩やかな回復を続けている 基調的には緩やかな回復を続けている 基調的には緩やかな回復を続けている 基調的には緩やかな回復を続けている 緩やかな回復基調を続けている 緩やかな回復基調を続けている 緩やかな回復基調を続けている 緩やかな回復基調を続けている 緩やかな回復を続けている 方向性 → → → → → → → → → → → → → → → ↑ 6 月 19 日 7 月 15 日 8月7日 9 月 15 日 10 月 7 日 10 月 30 日 11 月 19 日 12 月 18 日 16 年 1 月 29 日 3 月 15 日 緩やかな回復を続けている 緩やかな回復を続けている 緩やかな回復を続けている 緩やかな回復を続けている 緩やかな回復を続けている 緩やかな回復を続けている 緩やかな回復を続けている 緩やかな回復を続けている 緩やかな回復を続けている 基調としては緩やかな回復を続けてい る 基調としては緩やかな回復を続けてい る 基調としては緩やかな回復を続けてい る 基調としては緩やかな回復を続けてい る → → → → → → → → → → 4 月 28 日 6 月 16 日 7 月 29 日 備 考 小幅上方修正との解釈も可能 明白な上方修正は、一昨年の 9 月以来 小幅下方修正との解釈も可能 → → → (出所)日銀 株高・円安という資産価格ルートが QQE の生命線であることを考えれば、市場の期待が大きく高 まるなかで、今回の追加緩和はある程度避けられなかった流れといえる。もし、黒田総裁の普段の 3 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 発言どおり、緩和手段がいくらでもあるのであれば、躊躇なくバズーカをぶっ放していたことだろ う。しかし、国債の買い増し余地が乏しく、マイナス金利も効果よりむしろ副作用が目立つなか、 今回の措置は日銀自身が手段の限界を明確に意識し始めていることの現れと考える。 無理すれば「ラストバズーカ」も不可能ではなかったとみるが、たとえ一時的に株高・円安が進 んだとしても、市場はすぐに「今度こそ弾切れ」と考え始める可能性が高く、黒田総裁にはねらい どおり市場を誘導する自信がなかったとも考えられる。かといって、市場の追加緩和期待の大きさ を考えれば、ゼロ回答は避ける必要があった。すなわち、黒田総裁は就任後初めて、攻めより守り の姿勢を選んだといえる。しかし、これは黒田総裁がやらないと言っていた「戦力の逐次投入」そ のものである。今回の措置に、黒田緩和「らしさ」は微塵も感じられない。 ちなみに黒田総裁は会合後の定例会見で、「その時々でもっとも適切な政策を行なっているので あれば逐次投入とは言わない」と、緩和規模の追求を捨てたとも受けとれる新解釈を示している。 苦しい説明としかいいようがないが、これ以上、量の拡大を追求するのが正しいスタンスとは考え られず、歓迎すべき方向転換の兆しと捉えることもできる。 (図表 2)個別項目の現状判断の推移(下線部は主たる変更箇所) 項 目 海外経済 開催月(媒体) 4 月(展望レポート) 6 月(公表文) 7 月(展望レポート) 輸出 4 月(展望レポート) 6 月(公表文) 7 月(展望レポート) 設備投資 4 月(展望レポート) 6 月(公表文) 7 月(展望レポート) 個人消費 4 月(展望レポート) 6 月(公表文) 7 月(展望レポート) 住宅投資 4 月(展望レポート) 6 月(公表文) 7 月(展望レポート) 公共投資 4 月(展望レポート) 6 月(公表文) 評 価 緩やかな成長が続いているが、新興国を中心に幾分 減速している 緩やかな成長が続いているが、新興国を中心に幾分 減速している 緩やかな成長が続いているが、新興国を中心に幾分 減速している 足もとでは持ち直しが一服している 持ち直しが一服している 横ばい圏内の動きとなっている 企業収益が高水準で推移するなかで、緩やかな増加 基調にある 企業収益が高水準で推移するなかで、緩やかな増加 基調にある 企業収益が高水準で推移するなかで、緩やかな増加 基調にある 一部に弱めの動きもみられるが、雇用・所得環境の 着実な改善を背景に、底堅く推移している 一部に弱めの動きもみられるが、雇用・所得環境の 着実な改善を背景に、底堅く推移している 一部に弱めの動きもみられるが、雇用・所得環境の 着実な改善を背景に、底堅く推移している このところ持ち直しが一服している 再び持ち直している 再び持ち直している 高水準ながら緩やかな減少傾向にある 減少ペースが鈍化している 4 方向感 → → → → → ↓ → → → ↓ → → → ↑ → → ↑ 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 7 月(展望レポート) 鉱工業生産 4 月(展望レポート) 6 月(公表文) 7 月(展望レポート) 金融環境 (方 向感は 緩和 方向 が ↑) 4 月(展望レポート) 6 月(公表文) 7 月(展望レポート) 予想物価上昇率 4 月(展望レポート) 6 月(公表文) 7 月(展望レポート) 下げ止まっている 横ばい圏内の動きを続けているが、足もとでは、地 震による影響もみられる 地震による影響もあって、横ばい圏内の動きを続け ている 地震による影響もあって、横ばい圏内の動きを続け ている きわめて緩和した状態にある きわめて緩和した状態にある きわめて緩和した状態にある やや長い目でみれば全体として上昇しているとみら れるが、このところ弱含んでいる やや長い目でみれば全体として上昇しているとみら れるが、このところ弱含んでいる やや長い目でみれば全体として上昇しているとみら れるが、このところ弱含んでいる ↑ → → → → → → → → → 9 月会合で枠組み変更&追加緩和か 黒田総裁が 9 月に、QQE の効果を「総括して検証する」と述べたことが市場の注目を集めている。 否定的なトーンが肯定的なトーンを上回ることはないだろうが、おそらくは金融政策の枠組み変更 に道を開く内容になるのではないか。総括だけでは市場の思惑が拡散する一方になってしまうリス クもあるため、同時に金融政策の枠組み変更をアナウンスする可能性が高いとみている。今さら、 2%という物価目標を降ろしたり、レンジを変えたりするのは難しいと考えられるものの、少なく とも「2 年程度」との期限は撤廃し、中長期的な目標に変更することで、金融政策の柔軟性を高め る可能性が高い。このところ政府サイドから、「2 年にこだわる必要なし」との、援護射撃的な情 報発信が増えはじめているのも追い風である。 緩和手段も軌道修正が図られる可能性が高い。マイナス金利にしても、国債買入れにしても、市 場関係者の間でこそ限界が近いのは半ば常識だが、筆者はこれまで、黒田総裁は 2%のためならそ うした市場や識者の意見は無視して規模の拡大を図ると考えていた。しかし、今回の会合では、 「戦 力の逐次投入」との批判を受けるのが明白にもかかわらず、ETF の買い取りのみにとどめた。これ は、黒田総裁自身、QQE の限界や副作用を予想以上に意識している可能性を示している。いずれは 路線変更が必要と考えているのであれば、総括が発表される 9 月は絶好のチャンスである。 マイナス金利と国債買入れでは、どちらかと言えば前者の方がより持続性が高く、後者がより早 く限界に突き当たることを考えると、マイナス金利中心のスキームへの変更が基本線になると考え られる。黒田総裁は会見で、「2%の早期達成に何が必要かを議論する」としていることから、追 加緩和も不可避であり、同時にマイナス金利の深堀りが行なわれる可能性が高い。国債買入れにつ いては、残高目標への変更、あるいは 40 年債の増発に合わせた買入れ年限の長期化等の措置は取 られるかもしれないが、フローベースの買入れ額自体は現状より縮小方向となり、事実上のテーパ リングの世界に入っていくことになる可能性が高い。この政策ミックスであれば、短期金利は低下、 長期金利は上昇の方向に動くことが期待でき、イールドカーブの過度なフラット化の修正が進むこ とで、マイナス金利の副作用が和らぐ効果も期待できる。短中期ゾーンが十分低位に抑えられてい れば、一方的な円高も抑止できる。 5 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 こうした政策では、当然ながら株式市場に大きなサプライズを与えることはできない。もっとも、 余程ヘリマネ色を強めなければ、もはやサプライズは無理だろう。市場では、海外投資家を中心に ヘリマネ期待が根強く残っているが、黒田総裁の財政規律へのこだわりは明白で、露骨なヘリマネ 政策を受け入れることはまずないとみる。政府サイドも日銀にそこまでは要請しないだろう。日銀 自身、サプライズ路線の追及は、半ば断念しつつある可能性が高いとみている。 奇妙な緩和理由も 9 月の布石か 今回の追加緩和の理由について日銀は、公表文の冒頭で、「英国の EU 離脱問題や新興国経済の 減速を背景に、海外経済の不透明感が高まり、国際金融市場では不安定な動きが続いている。こう した不確実性が企業や家計のコンフィデンスの悪化につながることを防止するとともに、わが国企 業および金融機関の外貨資金調達環境の安定に万全を期し、前向きな経済活動をサポートする観点 から、日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、以下の措置を決定した」と説 明している。 しかし、英国の EU 離脱で、国際金融市場が真に不安定な値動きとなったのは、結果が判明した 直後の二日間のみである。「新興国経済の減速を背景とした市場の不安定な動き」も、最近は米国 の利上げペースの加速懸念が遠のいたこともあって、むしろ影を潜めている。何より、ブレグジッ トに揺れる当の ECB(欧州中央銀行)が追加緩和を見送り、FRB(米連邦準備制度理事会)も 7 月の FOMC(米連邦公開市場委員会)声明文で「目先の景気見通しのリスク要因は減った」と述べるなか、 影響がもっとも小さいはずの日本が追加緩和しなければならないというのは、奇妙な理屈に思える。 もちろん、日銀の金融政策に表向きの理由と裏の理由があるのは市場関係者が承知するところでは あるが、「説明力」は、日銀の信認を維持するための重要な要素である。しかし、これも 9 月の布 石と考えるとある程度納得がいく。 筆者は、今回の会合で日銀は、「物価の基調」の下振れを認め、「17 年度中」としている物価目 標の達成期限を先送りするとみていた。実際、日銀自身が発表しているデータを見ても、物価の基 調を示すあらゆる指標が下振れているといっても良い状況である。 http://www.boj.or.jp/research/research_data/cpi/cpirev.pdf しかし今回、物価目標の達成期限については、「2017 年度中になるとみられるが、先行きの海 外経済に関する不透明感などから不確実性が大きい」という、なんとも中途半端な修正にとどまっ た。潔く先送りした方が余程すっきりするところだが、今回は是非とも先送りを免れたいという日 銀の意志を読み取れなくもない。深読みかもしれないが、物価の下振れを今回の緩和理由に持って きた場合、9 月に政策の枠組み変更とセットで、追加緩和を実施するための大義名分を失う点に配 慮したのではないか。次回の会合で達成期限自体を撤廃するつもりなら、今回は無理してでも踏ん 張った方が良い。 (図表3)展望レポート、中間評価における見通し(政策委員の大勢見通しの中央値) そ の理 由付け とし て渡り に船だ った の 前年比(%) が、政府の経済対策ということだったかも し れない 。そも そも正 式発表 前の段 階で、 こ うした政 策効果 を織り込 むこと 自体が 2016年度 実質GDP 大きく見込んでおり、それは展望レポート 1.2 1.0 0.8 0.5 0.1 0.3 0.3 0.1 1.3 0.8 1.8 1.7 1.7 1.4 - 1.0 0.9 1.0 - 1.9 1.9 1.9 2017年度 実質GDP コアCPI 2018年度 実質GDP コアCPI 当社見通し(7 月展望レポー トの予想) 1.5 コアCPI 異例だが、展望レポートにおける新たな見 通しでは、政府の経済対策の効果をかなり 16年1月 16年4月展 16年7月展 展望レポート 望レポート 望レポート 0.9 ※CPIは消費増税の影響を除いたケース (出所)日本銀行より明治安田生命作成 6 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 の文章にも現れている(図表 3,4)。たとえば、コア CPI の見通しを見ると、16 年度に関しては、 実績の発表が進んでいることもあって 0.5%から 0.1%へとさすがに大幅下方修正を余儀なくされ たものの、一方で 17 年度は 1.7%で 4 月から変えていない。目標期限を先送りしないためには、こ れ以上の下方修正は許されないところとはいえ、1.7%は無理筋で、少なくとも 1%台前半への下方 修正が妥当なところであった(当社自身の予想は 0.4%)。成長率見通しについても、駆け込み需 要とその反動の影響がなくなるなか、2016 年度は 1.2%から 1.0%へと小幅の下方修正にとどめ、 一方で 2017 年度は 0.1%から 1.3%へと大幅上方修正した。かなり強気の見通しと言ってよい。 黒田総裁は、日銀の金融緩和が財政規律の弛緩につながっているとの指摘に対し、財政支出によ る市場金利の上昇による民間投資の抑制(クラウディングアウト)を回避するための組み合わせは ポリシーミックスであり、マクロ経済政策の一般的な考え方と説明している。今さらこうした入門 レベルの話を持ち出すこと自体不自然だが、これに関しても、さらなる政府との協調を正当化した と考えればある程度納得がいく。 引き続き日銀にらみで市場は振れやすい 前述のような政策の枠組み変更がなされた場合、それは QQE が短期決戦から持久戦へと明確に舵 を切ることを意味する。しかし、QQE はもともと市場の期待への働きかけが命で、短期決戦・一気 呵成型の枠組みが前提となっていただけに、これでは黒田緩和が黒田緩和でなくなってしまうと言 えなくもない。もちろん、行き着くところまで突っ走って突然バタリと倒れられるより、早めに戦 線縮小に踏み込んでもらうのがありがたいが、多くの市場関係者は、日銀の事実上の降伏宣言と受 け止めるのではないか。マイナス金利の深堀りも、そう何回もできる話ではなく、黒田緩和の事実 上の終焉が近づいているとの見方もできそうである。 しかし、所詮黒田総裁の行動様式はわからない。あるいはこうした見方をされることを潔しとせ ず、なりふり構わず規模の拡大を追求、あるいは何か新機軸を打ち出す可能性がないわけではない。 金融市場は引き続き日銀にらみで振れやすい状況が続きそうである。(担当:小玉) (図表4)展望レポートの概要 (前回1月との比較、下線部は主たる変更箇所) 1.わが国の経済・物価の中心的な見通し (1)経済情勢 現状判断 先行き見通し 前回(2016/4/28) わが国の景気は、新興国経済の減速の影響な どから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、 基調としては緩やかな回復を続けている 先行きのわが国経済を展望すると、当面、輸 出・生産面に鈍さが残るとみられるが、家計・ 企業の両部門において所得から支出への前向 きの循環メカニズムが持続するもとで、国内需 要が増加基調をたどるとともに、輸出も、新興 国経済が減速した状態から脱していくことな どを背景に、緩やかに増加するとみられる。こ のため、わが国経済は、基調として緩やかに拡 大していくと考えられる。 7 今回(2016/7/29) わが国の景気は、新興国経済の減速の影響な どから輸出・生産面に鈍さがみられるものの、 基調としては緩やかな回復を続けている 先行きのわが国経済を展望すると、暫くの 間、輸出・生産面に鈍さが残り、景気回復ペー スの鈍化した状態が続くとみられる。その後 は、家計・企業の両部門において所得から支出 への前向きの循環メカニズムが持続するもと で、国内需要が増加基調をたどるとともに、輸 出も、海外経済が減速した状態から脱していく につれて、緩やかな増加に向かうことから、わ が国経済は、基調として緩やかに拡大していく と考えられる。 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 経済見 通しの 背景に ある前 提 ①金融環境はきわめて緩和した状態が続く ②海外経済が緩やかに成長率を高めていく ③公共投資は徐々に下げ止まり、見通し期間の 中盤以降は横ばい圏の動きになる ④企業や家計の中長期的な成長期待は緩やか に高まっていく 前回の 展望レ ポート との比 較 2017 年度までの成長率の見通しを従来の見 通しと比べると、海外経済の減速に伴う輸出の 下振れなどの影響から、幾分下振れている。 ①金融環境はきわめて緩和した状態が続く ②海外経済が緩やかに成長率を高めていく ③公共投資はこのところ下げ止まっており、先 行きは、2016年度予算の早期執行や経済対策 の効果などから増加に転じる。見通し期間の 中盤以降は、オリンピック関連投資の本格化 もあって、高めの水準を維持する ④企業や家計の中長期的な成長期待は緩やか に高まっていく 財政面での景気刺激策の効果もあって、見通 し期間の前半を中心に上振れている。なお、 2017年4月に予定されていた消費増税の延期 に伴い、駆け込み需要とその反動減は均される (2)物価情勢 先行き見通し 前回の 展望レ ポート との比 較 物価上 昇率を 規定す る主た る要因 前回(2016/4/28) 先行きの物価を展望すると、消費者物価の前 年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 0%程度で推移するとみられるが、物価の基調 は着実に高まり、2%に向けて上昇率を高めて いくと考えられる。この間、原油価格が現状程 度の水準から緩やかに上昇していくとの前提 にたてば、エネルギー価格の寄与度は、現在の -1%強から次第に剥落していくが、2017年度 の初めまではマイナス寄与が残ると試算され る。この前提のもとでは、消費者物価の前年比 が、「物価安定の目標」である2%程度に達す る時期は、2017 年度中になると予想される。 その後は、平均的にみて、2%程度で推移する と見込まれる。 今回(2016/7/29) 先行きの物価を展望すると、消費者物価の前 年比は、エネルギー価格下落の影響から、当面 小幅のマイナスないし0%程度で推移するとみ られるが、物価の基調は着実に高まり、2%に 向けて上昇率を高めていくと考えられる。この 間、原油価格が現状程度の水準から緩やかに上 昇していくとの前提にたてば、エネルギー価格 の寄与度は、現在の-1%強から剥落していく が、2016 年度末まではマイナス寄与が残ると 試算される。この前提のもとでは、消費者物価 の前年比が、「物価安定の目標」である2%程 度に達する時期は、中心的な見通しとしては 2017 年度中になるとみられるが、先行きの海 外経済に関する不透明感などから不確実性が 大きい。その後は、平均的にみて、2%程度で 推移すると見込まれる。 2017 年度までの見通しを従来の見通しと比 今回の物価見通しを従来の見通しと比べる べると、成長率の下振れや賃金上昇率の下振れ と、成長率が上振れる一方、為替円高や中長期 などにより、2016 年度について下振れている。 的な予想物価上昇率の改善が後ずれしている ことなどにより、2016 年度について下振れて いるが、2017 年度、2018 年度については概ね 不変である。 ①マクロ的な需給バランスは全体として横ば ①マクロ的な需給バランスは全体として横ば い圏。16年度後半以降、緩やかにプラス幅を い圏。経済対策の効果もあり、本年度末にか 拡大 けてプラスに転じていく ②中長期的な予想物価上昇率は、やや長い目で ②中長期的な予想物価上昇率は、やや長い目で みれば全体として上昇しているとみられる みれば全体として上昇しているとみられる が、このところ弱含んでいる が、このところ弱含んでいる ③輸入物価は、原油が押し下げ要因。既往の円 ③輸入物価は、原油が押し下げ要因だが、その 安の押し上げ効果は徐々に減衰 影響は減衰していく。為替は最近の円高もあ って、価格上昇圧力を抑制する方向に作用す る 2.上振れ要因・下振れ要因 (1)経済情勢 上振れ要因・下 振れ要因 前回(2016/4/28) ①海外経済の動向に関する不確実性 ②消費税引き上げの影響 ③企業や家計の中長期的な成長期待 ④財政の中長期的な持続可能性 8 今回(2016/7/29) ①海外経済の動向に関する不確実性 ②企業や家計の中長期的な成長期待 ③財政の中長期的な持続可能性 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 (2)物価情勢 上振れ要因・下 振れ要因 前回(2016/4/28) ①企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の 動向 ②マクロ的な需給バランス ③マクロ的な需給バランスに対する物価の感 応度 ④輸入物価の動向 今回(2016/7/29) ①企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の 動向 ②マクロ的な需給バランス ③マクロ的な需給バランスに対する物価の感 応度 ④輸入物価の動向 3.金融政策運営 第一の柱 第二の柱 金融政策運営 前回(2016/4/28) 2017 年度中に2%程度の物価上昇率を実現 し、その後次第に、これを安定的に持続する成 長経路へと移行していく可能性が高いと判断 される。 中心的な経済の見通しについては、海外経済 の動向を中心に下振れリスクが大きい。物価の 中心的な見通しについては、中長期的な予想物 価上昇率の動向などを巡って不確実性は大き く、下振れリスクが大きい。より長期的な視点 から金融面の不均衡について点検すると、現時 点では、資産市場や金融機関行動において過度 な期待の強気化を示す動きは観察されていな いほか、低金利に伴う金融機関収益の下押しに よって金融仲介が停滞方向に向かうリスクに ついても、金融機関が充実した資本基盤を備 え、前向きなリスクテイクを継続していく力を 有していることから、大きくないと判断してい る。もっとも、政府債務残高が累増するなかで、 金融機関の国債保有残高は、全体として減少傾 向が続いているが、なお高水準である点には留 意する必要がある。 今回(2016/7/29) 2017 年度中に2%程度の物価上昇率を実現 し、その後次第に、これを安定的に持続する成 長経路へと移行していく可能性が高いと判断 される。 中心的な経済の見通しについては、海外経済 の動向を中心に下振れリスクが大きい。物価の 中心的な見通しについては、先行きの海外経済 に関する不透明感や、そのもとでの中長期的な 予想物価上昇率の動向などを巡って不確実性 は大きく、下振れリスクが大きい。より長期的 な視点から金融面の不均衡について点検する と、現時点では、資産市場や金融機関行動にお いて過度な期待の強気化を示す動きは観察さ れていないほか、低金利に伴う金融機関収益の 下押しによって金融仲介が停滞方向に向かう リスクについても、金融機関が充実した資本基 盤を備え、前向きなリスクテイクを継続してい く力を有していることから、大きくないと判断 している。もっとも、政府債務残高が累増する なかで、金融機関の国債保有残高は、全体とし て減少傾向が続いているが、なお高水準である 点には留意する必要がある。 金融政策運営については、2%の「物価安定 金融政策運営については、2%の「物価安定 の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続 の目標」の実現を目指し、これを安定的に するために必要な時点まで、「マイナス金利付 持続するために必要な時点まで、「マイナ き量的・質的金融緩和」を継続する。今後とも、 ス金利付き量的・質的金融緩和」を継続す 経済・物価のリスク要因を点検し、「物価安定 る。今後とも、経済・物価のリスク要因を の 目 標」 の実 現 のた めに 必要 な場 合 には 、 点検し、「物価安定の目標」の実現のため 「量」・「質」・「金利」の3つの次元で、追 に必要な場合には、「量」・「質」・「金 加的な金融緩和措置を講じる。 利」の3つの次元で、追加的な金融緩和措 置を講じる。 (出所)日銀 9 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 7 月 26-27 日開催の FOMC について 政策金利はすえ置き 7 月 26-27 日開催の FOMC(米連邦公開市場委員会)では、政策金利である FF レートの誘導目標 レンジが 0.25-0.5%ですえ置かれ、金融政策に変更はなかった。政策金利のすえ置きは 5 会合連 続。声明文では、景気の現状判断が上方修正されたほか、先行きについては「景気見通しに対する 短期的なリスクは弱まった」との一文が付け加えられ、前向きな見方が示された。 景気の現状判断は上方修正 声明文では、現状の景気判断は、前回(6 月 14-15 日開催の FOMC)の「経済活動の成長は上向 いたようにみえるが、労働市場の改善ペースが減速した」から、「労働市場は力強さを増し、経済 活動は緩やかな速度で拡大している」へと、上方修正された。 6 月の堅調な雇用統計を受け(図表 1)、前回の (図表1)非農業部門雇用者の月間増減数内訳 千人 との見方が示された。 需要項目別では、個人消費は「伸びは力強さを 製造業 建設・鉱業 政府 非農業部門 計 16/6 16/5 16/4 16/3 16/2 16/1 15/12 15/11 15/10 15/9 15/8 の一文も付け加えられ、労働市場が改善している 15/7 労働活用がいくらか進んだことを示している」と 15/6 350 「失業率は低下したが、雇用者数の伸びは鈍化し 300 250 た」との一文が削除された一方、「雇用者数の伸 200 150 びは、5 月は弱かったが、6 月には力強さを増し 100 50 た」との一文が付け加えられた。加えて、「総じ 0 て、雇用者数と他の労働市場の指標はここ数ヵ月、 -50 -100 民間サービス業 (出所)米労働省 増した」から、「力強く伸びている」へと上方修正され、個人消費が堅調であるとの見方が示され た。一方、設備投資は「軟調」と、判断がすえ置かれた。 インフレ期待については、「インフレ期待を示す市場の指標は低下した」のうち、「低下した」 の部分が「低いまま」へと変更され、インフレ期待の低下を引き続き警戒する姿勢が示された。一 方、「大半の調査に基づく長期的なインフレ期待の指標はここ数ヵ月、総じてほとんど変わらなか った」との一文は変わらなかった。 景気の先行きに自信 今後の見通しのパラグラフでは、声明文の「金融政策のスタンスを緩やかに調整することによっ て、経済活動は緩やかなペースで拡大し、労働市場の指標は引き続き力強さを増す」との見方に変 更はなかった。 6 月 23 日に行なわれた英国の国民投票で EU 離脱(ブレグジット)が決定したものの、「景気見 通しに対する短期的なリスクは弱まった」との一文が付け加えられ、先行きに対する前向きな見方 が示された。英国国民投票後の米国金融市場が安定していることや、6 月の雇用統計が堅調だった ことなどから、FRB(米連邦準備制度理事会)は景気の先行きに自信を持っているとみている。 一方、「委員会は、インフレ動向、および世界経済と金融情勢を引き続き注視する」との一文は すえ置かれ、景気下振れリスクへの警戒姿勢はすえ置かれた。 年 2 回程度の利上げペースを予想 前回の FOMC 議事録(6 月 14-15 日開催)を見ると、多くの FOMC 参加者が「生産性の低さ、人口 10 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 トレンドなどから、中立金利が歴史的に低い水準 である」とみていることが判明しており、FF レー 5 トが長期的に達する水準自体が低下しているとの 4 見方が示された。ブレグジットが決定し、海外景 3 (図表2)米実質金利の推移 % 2 気に先行き不透明感が残ることもあって、FRB は当 1 面慎重姿勢を継続するとみられる。ただ、足元の 16/6 15/6 14/6 13/6 12/6 11/6 (出所)ファクトセットより明治安田生命作成 10/6 ており、きわめて緩和的な金融環境が続いている 09/6 1%台半ばであり、実質金利はマイナス圏で推移し 08/6 07/6 06/6 05/6 04/6 03/6 02/6 01/6 00/6 -2 98/6 -1 数)は前年比+2.3%であるのに対し、長期金利は 99/6 0 コア CPI(エネルギーと食品を除く消費者物価指 ※米10年国債金利-コアCPI(前年比) (図表 2)。米景気は回復傾向が続くとみており、FRB は 12 月 13-14 日開催予定の FOMC で利上げ を行なうと予想する。(担当:信本) <別紙>FOMC 声明文(下線部は前回と今回の主な相違点) 前回 2016/6/14-15 Information received since the Federal Open Market Committee met in April indicates that the pace of improvement in the labor market has slowed while growth in economic activity appears to have picked up. Although the unemployment rate has declined, job gains have diminished. Growth in household spending has strengthened. Since the beginning of the year, the housing sector has continued to improve and the drag from net exports appears to have lessened, but business fixed investment has been soft. Inflation has continued to run below the Committee's 2 percent longer-run objective, partly reflecting earlier declines in energy prices and in prices of non-energy imports. Market-based measures of inflation compensation declined; most survey-based measures of longer-term inflation expectations are little changed, on balance, in recent months. 今回 2016/7/26-27 Information received since the Federal Open Market Committee met in June indicates that the labor market strengthened and that economic activity has been expanding at a moderate rate. Job gains were strong in June following weak growth in May. On balance, payrolls and other labor market indicators point to some increase in labor utilization in recent months. Household spending has been growing strongly but business fixed investment has been soft. Inflation has continued to run below the Committee's 2 percent longer-run objective, partly reflecting earlier declines in energy prices and in prices of non-energy imports. Market-based measures of inflation compensation remain low; most survey-based measures of longer-term inflation expectations are little changed, on balance, in recent months. 4 月の FOMC 会合以降に入手した情報は、経済 活動 の成長は上向 いたように みえるが、労 働市 場の 改善ペースが 減速したこ とを示してい る。 失業 率は低下した が、雇用者 数の伸びは鈍 化し た。 個人消費の伸 びは力強さ を増した。年 初以 降、 住宅市場は引 き続き改善 し、輸出によ る足 かせ は和らいだよ うだが、設 備投資は軟調 だっ た。 これまでのエ ネルギー価 格とエネルギ ー以 外の 輸入物価の低 下を一部反 映して、委員 会の 長期的な到達点である 2%を下回り続けた。イン 6 月の FOMC 会合以降に入手した情報は、労働 市場 は力強さを増 し、経済活 動は緩やかな 速度 で拡 大しているこ とを示して いる。雇用者 数の 伸びは、5 月は弱かったが、6 月には力強さを増 した 。総じて、雇 用者数と他 の労働市場の 指標 はこ こ数ヵ月、労 働活用がい くらか進んだ こと を示している。個人消費は力強く伸びているが、 設備 投資は軟調だ った。これ までのエネル ギー 価格 とエネルギー 以外の輸入 物価の低下を 一部 反映して、委員会の長期的な到達点である 2%を 11 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 フレ 期待を示す市 場の指標は 低下した一方 、大 下回 り続けた。イ ンフレ期待 を示す市場の 指標 半の 調査に基づく 長期的なイ ンフレ期待の 指標 は低 いままであり 、大半の調 査に基づく長 期的 はここ数ヵ月、総じてほとんど変わらなかった。 なイ ンフレ期待の 指標はここ 数ヵ月、総じ てほ とんど変わらなかった。 <ポイント> ・現状の景気判断は、前回の「経済活動の成長は上向いたようにみえるが、労働市場の改善ペースが減速した」か ら、「労働市場は力強さを増し、経済活動は緩やかな速度で拡大している」へと、上方修正 ・6 月の雇用統計が堅調だったことを受け、前回の「失業率は低下したが、雇用者数の伸びは鈍化した」との一文 が削除された一方、「雇用者数の伸びは、5 月は弱かったが、6 月には力強さを増した」との一文が付け加えら れた。加えて、「総じて、雇用者数と他の労働市場の指標はここ数ヵ月、労働活用がいくらか進んだことを示し ている」との一文も付け加えられ、労働市場が改善しているとの見方が示された ・需要項目別では、個人消費は「伸びは力強さを増した」から、「力強く伸びている」へと上方修正され、個人消 費が堅調であるとの見方が示された。一方、設備投資は「軟調」と、判断がすえ置かれた ・インフレ期待については、「インフレ期待を示す市場の指標は低下した」のうち、「低下した」から、「低いま ま」へと変更され、インフレ期待の低下を引き続き警戒する姿勢が示された。一方、「大半の調査に基づく長期 的なインフレ期待の指標はここ数ヵ月、総じてほとんど変わらなかった」との一文は変わらず Consistent with its statutory mandate, the Committee seeks to foster maximum employment and price stability. The Committee currently expects that, with gradual adjustments in the stance of monetary policy, economic activity will expand at a moderate pace and labor market indicators will strengthen. Inflation is expected to remain low in the near term, in part because of earlier declines in energy prices, but to rise to 2 percent over the medium term as the transitory effects of past declines in energy and import prices dissipate and the labor market strengthens further. The Committee continues to closely monitor inflation indicators and global economic and financial developments. Consistent with its statutory mandate, the Committee seeks to foster maximum employment and price stability. The Committee currently expects that, with gradual adjustments in the stance of monetary policy, economic activity will expand at a moderate pace and labor market indicators will strengthen. Inflation is expected to remain low in the near term, in part because of earlier declines in energy prices, but to rise to 2 percent over the medium term as the transitory effects of past declines in energy and import prices dissipate and the labor market strengthens further. Near-term risks to the economic outlook have diminished. The Committee continues to closely monitor inflation indicators and global economic and financial developments. 法で 定められ た責務に基 づき、委員 会は雇 用 の最 大化と物価安 定の促進を めざしている 。委 員会 は現在、金融 政策のスタ ンスを緩やか に調 整す ることによっ て、経済活 動は緩やかな ペー スで 拡大し、労働 市場の指標 は力強さを増 すと 予想 している。イ ンフレは、 それまでのエ ネル ギー 価格の低下を 一因に、短 期的には低い まま にと どまるが、中 期的に、過 去のエネルギ ー価 格や 輸入物価の低 下による一 時的な要因が 解消 し、労働市場がさらに力強さを増すにつれ、2% へ上 昇すると予想 される。委 員会は、イン フレ 動向 、および世界 経済と金融 情勢を引き続 き注 視する。 法で 定められ た責務に基 づき、委員 会は雇 用 の最 大化と物価安 定の促進を めざしている 。委 員会 は現在、金融 政策のスタ ンスを緩やか に調 整す ることによっ て、経済活 動は緩やかな ペー スで 拡大し、労働 市場の指標 は力強さを増 すと 予想 している。イ ンフレは、 それまでのエ ネル ギー 価格の低下を 一因に、短 期的には低い まま にと どまるが、中 期的に、過 去のエネルギ ー価 格や 輸入物価の低 下による一 時的な要因が 解消 し、労働市場がさらに力強さを増すにつれ、2% へ上 昇すると予想 される。景 気見通しに対 する 短期 的なリスクは 弱まった。 委員会は、イ ンフ レ動 向、および世 界経済と金 融情勢を引き 続き 注視する。 <ポイント> ・今後の景気見通しは、「金融政策のスタンスを緩やかに調整することによって、経済活動は緩やかなペースで拡 大し、労働市場の指標は引き続き力強さを増す」との見方に変更なし ・英国の国民投票で EU 離脱が決定したが、「景気見通しに対する短期的なリスクは弱まった」との一文が付け加 えられ、前向きな見方が示された。一方、「委員会は、インフレ動向、および世界経済と金融情勢を引き続き注 12 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 視する」との一文はすえ置かれた Against this backdrop, the Committee decided to maintain the target range for the federal funds rate at 1/4 to 1/2 percent. The stance of monetary policy remains accommodative, thereby supporting further improvement in labor market conditions and a return to 2 percent inflation. Against this backdrop, the Committee decided to maintain the target range for the federal funds rate at 1/4 to 1/2 percent. The stance of monetary policy remains accommodative, thereby supporting further improvement in labor market conditions and a return to 2 percent inflation. In determining the timing and size of future adjustments to the target range for the federal funds rate, the Committee will assess realized and expected economic conditions relative to its objectives of maximum employment and 2 percent inflation. This assessment will take into account a wide range of information, including measures of labor market conditions, indicators of inflation pressures and inflation expectations, and readings on financial and international developments. In light of the current shortfall of inflation from 2 percent, the Committee will carefully monitor actual and expected progress toward its inflation goal. The Committee expects that economic conditions will evolve in a manner that will warrant only gradual increases in the federal funds rate; the federal funds rate is likely to remain, for some time, below levels that are expected to prevail in the longer run. However, the actual path of the federal funds rate will depend on the economic outlook as informed by incoming data. In determining the timing and size of future adjustments to the target range for the federal funds rate, the Committee will assess realized and expected economic conditions relative to its objectives of maximum employment and 2 percent inflation. This assessment will take into account a wide range of information, including measures of labor market conditions, indicators of inflation pressures and inflation expectations, and readings on financial and international developments. In light of the current shortfall of inflation from 2 percent, the Committee will carefully monitor actual and expected progress toward its inflation goal. The Committee expects that economic conditions will evolve in a manner that will warrant only gradual increases in the federal funds rate; the federal funds rate is likely to remain, for some time, below levels that are expected to prevail in the longer run. However, the actual path of the federal funds rate will depend on the economic outlook as informed by incoming data. こうした情勢のもと、委員会は FF レートの誘 導 目標レン ジを 0.25-0.5%です え置くこ とを 決定 した。金融政 策のスタン スは引き続き 緩和 的であり、労働市場のさらなる改善と、2%のイ ンフレへの回帰を支える。 こうした情勢のもと、委員会は FF レートの誘 導 目標レン ジを 0.25-0.5%です え置くこ とを 決定 した。金融政 策のスタン スは引き続き 緩和 的であり、労働市場のさらなる改善と、2%のイ ンフレへの回帰を支える。 誘導 目標レン ジの今後の 調整時期と 幅を決 定 するにあたっては、雇用最大化と 2%のインフレ とい う到達点に照 らして、経 済状況の実績 と見 通し を評価する。 この評価に は、労働市場 の状 況に 関するさらな る尺度、イ ンフレ圧力お よび イン フレ期待を示 す指標、金 融と国際動向 の見 通し を含む幅広い 情報を考慮 する。インフ レが 現時点で 2%に届いていないことを踏まえ、委員 会は インフレ目標 に向けた実 際の実績と見 通し を注視する。委員会は、経済状況が FF レートの 緩や かな引き上げ しか正当化 しない形で進 むと 予測しており、FF レートは当面、長期に達成す 誘導 目標レン ジの今後の 調整時期と 幅を決 定 するにあたっては、雇用最大化と 2%のインフレ とい う到達点に照 らして、経 済状況の実績 と見 通し を評価する。 この評価に は、労働市場 の状 況に 関するさらな る尺度、イ ンフレ圧力お よび イン フレ期待を示 す指標、金 融と国際動向 の見 通し を含む幅広い 情報を考慮 する。インフ レが 現時点で 2%に届いていないことを踏まえ、委員 会は インフレ目標 に向けた実 際の実績と見 通し を注視する。委員会は、経済状況が FF レートの 緩や かな引き上げ しか正当化 しない形で進 むと 予測しており、FF レートは当面、長期に達成す 13 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 ると 見込まれる水 準を下回っ て推移する可 能性 が高い。しかしながら、FF レートの実際の道筋 は、 今後入手する データによ る経済見通し 次第 である。 ると 見込まれる水 準を下回っ て推移する可 能性 が高い。しかしながら、FF レートの実際の道筋 は、 今後入手する データによ る経済見通し 次第 である。 <ポイント> ・FF レートの誘導目標レンジは 0.25-0.5%ですえ置き ・「金融政策のスタンスは引き続き緩和的」、「経済状況が FF レートの緩やかな引き上げしか正当化しない形で 進む」、「FF レートは当面、長期に達成すると見込まれる水準を下回って推移する可能性が高い」がいずれも 維持され、利上げペースはゆっくりとしたものになるとの見方は変わらず ・一方、次回の利上げについては、「経済状況の実績と見通しを評価する」、「今後入手するデータによる経済見 通し次第」との一節がすえ置かれ、利上げは今後の経済指標次第との姿勢に変更なし The Committee is maintaining its existing policy of reinvesting principal payments from its holdings of agency debt and agency mortgage-backed securities in agency mortgage-backed securities and of rolling over maturing Treasury securities at auction, and it anticipates doing so until normalization of the level of the federal funds rate is well under way. This policy, by keeping the Committee's holdings of longer-term securities at sizable levels, should help maintain accommodative financial conditions. The Committee is maintaining its existing policy of reinvesting principal payments from its holdings of agency debt and agency mortgage-backed securities in agency mortgage-backed securities and of rolling over maturing Treasury securities at auction, and it anticipates doing so until normalization of the level of the federal funds rate is well under way. This policy, by keeping the Committee's holdings of longer-term securities at sizable levels, should help maintain accommodative financial conditions. 委員 会は保有 する政府機 関債や住宅 ローン 担 保証 券からの償還 資金を住宅 ローン担保証 券に 再投 資し、償還を 迎える国債 を入札でロー ルオ ーバーする現在の政策を維持し、FF レートの水 準が 十分正常化す るまで、継 続すると予測 して いる 。大規模な長 期債保有を 維持する委員 会の 政策 は、緩和的な 金融環境を 維持していく こと につながるだろう。 委員 会は保有 する政府機 関債や住宅 ローン 担 保証 券からの償還 資金を住宅 ローン担保証 券に 再投 資し、償還を 迎える国債 を入札でロー ルオ ーバーする現在の政策を維持し、FF レートの水 準が 十分正常化す るまで、継 続すると予測 して いる 。大規模な長 期債保有を 維持する委員 会の 政策 は、緩和的な 金融環境を 維持していく こと につながるだろう。 <ポイント> ・保有債券の償還資金の再投資は継続 ・再投資については、「FF レートの水準が十分正常化されるまで、継続すると予測している」がすえ置かれ、FRB のバランスシートを今後も維持するとの方針に変更なし Voting for the FOMC monetary policy action were: Janet L. Yellen, Chair; William C. Dudley, Vice Chairman; Lael Brainard; James Bullard; Stanley Fischer; Esther L. George; Loretta J. Mester; Jerome H. Powell; Eric Rosengren; and Daniel K. Tarullo. Voting for the FOMC monetary policy action were: Janet L. Yellen, Chair; William C. Dudley, Vice Chairman; Lael Brainard; James Bullard; Stanley Fischer; Loretta J. Mester; Jerome H. Powell; Eric Rosengren; and Daniel K. Tarullo. Voting against the action was Esther L. George, who preferred at this meeting to raise the target range for the federal funds rate to 1/2 to 3/4 percent. この FOMC の金融政策に賛成票を投じたのは、 イエ レン議長、ダ ドリー副議 長、ブレイナ ード 理事 、ブラード総 裁、フィッ シャー副議長 、ジ ョー ジ総裁、メス ター総裁、 パウエル理事 、ロ ーゼングレン総裁、タルーロ理事。 この FOMC の金融政策に賛成票を投じたのは、 イエ レン議長、ダ ドリー副議 長、ブレイナ ード 理事 、ブラード総 裁、フィッ シャー副議長 、メ スタ ー総裁、パウ エル理事、 ローゼングレ ン総 裁、タルーロ理事。 反対 票を投じ たのはジョ ージ総裁で 、今回 の 14 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 会 合 で FF レ ー ト の 誘 導 目 標 レ ン ジ を 0.5 - 0.75%へ引き上げるべきとした。 <ポイント> ・ジョージ総裁が 2 会合ぶりに反対票を投じる 15 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 英国景気は減速へ 英国経済は減速する可能性が高い (図表1)英国実質GDP成長率と寄与度(前期比) % 英 国景 気は 緩や かな 回復傾 向が 続い てい る。4-6 月期の実質 GDP 成長率(速報値)は前期比+0.6%と、 14 四半期連続のプラス成長となり、プラス幅も前期 1.2 0.9 0.6 0.3 0.0 の同+0.4%から拡大した(図表 1)。産業別に見る -0.3 と、GDP の約 7 割を占めるサービス業は同+0.5%と、 -0.6 サービス業 鉱業 0.6%から伸び幅がやや鈍化したほか、建設業が同▲ 0.4%と、前期の同▲0.3%からマイナス幅が拡大した。 建設業 その他 16/6 16/3 15/12 15/9 15/6 15/3 14/12 14/9 14/6 14/3 13/12 13/9 13/3 13/6 -0.9 14 四半期連続のプラスとなったものの、前期の同+ 製造業 実質GDP (出所)英国国家統計局(ONS) 一方、鉱業は同+2.1%と、3 四半期ぶりのプラスと % (図表2)英国小売売上高と住宅価格指数(前年比) 11 なり、これが全体を押し上げた。 9 もっとも、6 月 23 日の国民投票で、英国の EU 離脱 7 (ブレグジット)が決定したことから、ブレグジット 5 を巡る先行き不透明感を背景に、今後の英国経済は減 3 1 速する可能性が高い。 -1 小売売上高 -3 % 14/7 (図表3)雇用者数、失業率の推移 十万人 320 9 315 8 310 7 は、雇用環境の回復がある。サービス業を中心に企業 305 雇用者数(右軸) 収 益が 堅調 に推 移し てきた こと など から 、失 業率 は 300 失業率 2011 年をピークに低下傾向で推移し、この 5 月には 13/7 12/7 (出所)英国国家統計局(ONS)、ロイズバンキンググループ を見ると、2013 年から回復傾向で推移、2014 年以降 り、消費の底堅さが示されている(図表 2)。背景に 11/7 供給側の統計である小売売上高(季調済、数量ベース) も均せば前年比+5%程度の高めの伸びを維持してお ハリファクス住宅価格指数 -5 10/7 英国経済のけん引役である個人消費の動向に関し、 15/7 雇用環境の先行きは不透明 6 5 295 4 15/7 (出所)英国国家統計局(ONS) 労働市場が引き続き良好なことを示す結果と なっ た。 もっとも、5 月の統計は国民投票前に集計されてい 14/7 0 は同▲25 万人の減少となるなど中身も良く、英国の 13/7 1 275 12/7 用者数が前月差+1.8 万人と増加する一方、失業者数 11/7 2 280 10/7 3 285 09/7 290 4.9%と、11 年ぶりに 5%を下回った(図表 3)。雇 (図表4)英国の賃金の伸び率(前年比、3ヶ月移動平均) % 4 ることから、EU 離脱決定の影響は反映されていない。 3 今後については、EU 離脱決定に伴う先行き不透明感 0 ボーナスを含む賃金 対象企業の半数以上が英国の EU 離脱は事業にとって 採用の凍結を計画すると回答しているほか、5%が雇 16 (出所)英国国家統計局(ONS) 15/7 14/7 10/7 悪影響と回答している。雇用についても、24%が新規 ボーナスを含まない賃金 -1 13/7 営者協会が国民投票後に調査した結果によれば、調査 1 12/7 れ、個人消費には下押し圧力がかかるとみる。英国経 2 11/7 を受け、雇用環境の回復ペースは鈍化に向かうとみら 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 用削減を実施すると回答しており、EU 離脱決定後、 (図表5)英国EU離脱決定のCPI(前年比)への影響の試算 % 6 離脱決定前時点の予測 5 予測 3 傾向で推移し、イングランド銀行(BOE)の目標であ -1 る前年比+2%を大きく下回って推移している。物価 17/7 0 16/7 低迷などを背景に、2011 年秋ごろから伸び幅が縮小 10/7 1 15/7 2 の消費者物価指数(CPI)は、原油価格や食品価格の 14/7 が、消費者の購買意欲を低下させるとみている。英国 12/7 加えて、EU 離脱を受けたポンド安に伴う物価上昇 ポンド安を踏まえた離脱決定後の予測 4 11/7 ポンド安で物価は上昇 13/7 企業の採用意欲が後退している様子がうかがえる。 (出所)OEGM、英国国家統計局(ONS)より明治安田生命作成 上昇ペースの鈍さは、英国の賃金が伸び悩むなか(図 表 4)、実質賃金の改善を通じて、消費を下支えして いた。ただ、足元では原油価格の持ち直しなどを受け ポンド て、CPI は上昇傾向にある。5 月の CPI は前年比+0.5% 650 と、前月の同+0.3%から伸び幅が拡大した。今後も、 600 ポンド安で輸入物価が押し上げられるとみられ、物価 550 上昇圧力は強まるとみている。当社経済モデルによる (図表6)英国REIT指数(FTSE EPRAS/NAREIRT指数)の推移 700 500 試算では、英国離脱を受けてポンド安が続いた場合、 って推移すると見込まれる(図表 5)。雇用環境の停 16/7 16/6 16/5 16/4 16/3 16/2 16/1 15/12 15/11 15/10 15/9 15/8 15/7 450 CPI は今後も上昇が続き、2017 年には同+2%を上回 (出所)ファクトセット 滞が懸念されるなか、物価の上昇が続くことで、実質 (図表7)鉱工業生産の推移(前年比) % 8 賃金は抑制された状態が続くと予想する。 6 個人消費は減速傾向で推移すると予想 4 住 宅価格 の上昇に よる資 産効果 もこれ までの 個人 消費を下支えしてきたが、今後の住宅価格は下落に向 2 0 -2 低下しつつある。英国 REIT(不動産投資信託)指数 は、6 月の国民投票日に▲14.5%と大幅に低下するな ど 、不動産 市況の悪 化を織 り込む動 きをみ せてい る (図表 6)。今後も、消費者心理の悪化が見込まれる ほか、投資家も様子見姿勢をとるとみられ、英国離脱 製造業生産 15/7 14/7 13/7 -8 12/7 てきたものの、EU 離脱決定を受けて足元ではすでに 鉱工業生産 -6 11/7 ていることなどから、2013 年以降、上昇傾向が続い -4 10/7 かうとみている。英国の不動産価格は、供給が絞られ (出所)英国国家統計局(ONS) (図表8)国民投票の結果は、 あなたの企業の投資計画にどのような影響があるか 投資を大幅に減 らす 21% 投資を大幅に増 やす 3% 投資を少し増や す 7% 決 定が住宅 市場に与 える悪 影響は長 期化す る可能 性 が 高い。英 財務省に よる投 票前の試 算では 、今後 2 年間で住宅価格は▲10%下落するとしている。雇用環 投資を少し減ら す 19% 変わらない 50% 境の停滞に加え、実質賃金の低迷や、住宅価格下落に 伴う逆資産効果が見込まれることなどから、今後の個 人消費は減速傾向で推移すると予想する。 17 (出所)英経営者協会(IoD) (調査期間6月24~26日) 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 固定投資はさらに冷え込む 固定投資の回復の足取りも鈍い。外需の不振などから、生産が伸び悩んでいることが背景にある。 鉱工業生産を見ると、鉱業・製造業のいずれも伸び悩んでいる(図表 7)。鉱業では北海油田も原 油安を受けて減産姿勢を続けるとみられるほか、製造業も新興国景気への懸念が残ることで、生産 の回復は今後も見込みづらく、企業による設備投資拡大につながる状況には至らないとみる。加え て、EU 離脱懸念も重しとなって、企業の投資マインドは冷え込むことが予想される。企業の景況感 を示す英国 PMI を見ると、英国 EU 離脱決定を受け、7 月は製造業が 48.2、サービス業が 47.4 と、 いずれも好不況の境目である 50 を割り込んだほか、サービス業の低下幅は過去最大となった。英 国経営者協会の調査でも、調査対象企業の約 4 割が、EU 離脱決定を受けて投資を減らすと回答して いる(図表 8)。EU 離脱決定を受けて、オズボーン元財務大臣が法人税を 20%から 15%に引き下 げると述べるなど、今後は政府の景気支援策や、低金利環境などが下支え要因になるとみるものの、 生産が伸び悩むなか、EU 離脱決定が重しとなって、固定投資は軟調に推移するとみる。 停滞が続く輸出 60 (図表9)英国輸出金額(季調済)の推移 10億ポンド 10億ポンド 30 輸出は停滞が続いている。輸出金額(季調済) 52 26 占めるサービス輸出は堅調に推移しているものの、 44 22 残りの財輸出は 2013 年半ば以降、均せば減少傾向 36 18 の推移を財・サービス別に見ると、全体の 4 割を にある(図表 9)。財輸出の相手先別では、主要相 輸出 財輸出(右軸) サービス輸出(右軸) 28 手先である EU 向けが昨年中ごろから持ち直しつつ 14 15/7 14/7 13/7 している。ただ、最大の貿易相手国である米国向 12/7 10/7 10 11/7 20 あるほか、中国向けも昨冬以降、回復傾向で推移 (出所)ONS(英国国家統計局) けが昨年半ば以降、減少傾向で推移しているのに (図表10)EUとの通商関係の主なモデル 概要 モデル 加え、スイスなどの欧州向けも停滞気味の推移が ・EEA(欧州経済領域)に参加 ノルウェー・モデル ・ヒト・モノ・サービス・資本の移動の自由を認める ・EUへの拠出金負担あり 続いている。 今後の輸出は一進一退の推移を予想 スイス・モデル ・EFTA(欧州自由貿易連合)に参加 ・EUと複数の二国間協定を締結 ・サービス市場へのアクセスは限定的 トルコ・モデル ・EUと関税同盟を締結 英国の EU 離脱決定の影響については、英国が主 張する移民制限を求める場合、EU の単一市場への アクセスも制限されるとみられ、輸出にかかるコ WTOモデル ストも増加するとみられる。最終的には英国と EU ・WTOの枠組みを適用(EUと協定は締結せず) (出所)英財務相資料などから明治安田生命作成 の交渉次第となるが(図表 10)、EU 側は、EU 懐疑 派の拡大を抑制するために安易な妥協は行なわな 外各国との通商関係についても、新たに交渉する 必要があるが、EU と同等の条件で、貿易協定を締 結するのは容易ではないとみられる。加えて、こ ポ 90 ン ド 高 85 ポ ン 80 ド 安 → れ ま で 堅 調 に推 移 し てき た サ ービ ス 輸 出 も、 EEA 2005年=100 (図表11)ポンドの実質実効為替レートの推移 ← いとみられ、交渉は難航する可能性が高い。EU 域 95 75 (欧州経済領域)内で金融機関が自由に事業を行 18 (出所)BOE 16/7 15/7 14/7 13/7 12/7 11/7 国に適応されなくなることで、英国に進出してい 70 10/7 なえるという「シングル・パスポート」制度が英 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 る金融機関の規模縮小も見込まれることから、停滞気味の推移を余儀なくされよう。 もっとも、これまで輸出の足かせとなってきたポンド高には、すでに歯止めがかかっている。ポ ンドの実質実効為替レートを見ると、国民投票前からポンド安傾向で推移し、英国の EU 離脱派の 勝利が判明したことで急落した(図表 11)。足元では 2013 年 2 月以来のポンド安水準となってい るおり、当面の輸出を下支えするとみている。 加えて、7 月に就任したメイ新首相は、「EU 理事会に対する EU 脱退の通告」を 2016 年中は行な わないとしており、離脱宣言の交渉期間が基本的には 2 年であることを踏まえれば、向こう 2,3 年 間は、EU 離脱に伴う輸出の直接的なコスト増は避けられるとみている。ユーロ圏景気の回復鈍化で 輸出には下押し圧力がかかるものの、ポンド安による価格競争力の改善が下支えとなり、今後は一 進一退での推移が続くと予想する。 BOE は年内に追加利下げ 8 月の金融政策委員会(MPC)では、政策金利が 0.5%から 0.25%へと引き下げられたほか、資産 購入枠も 3,750 億ポンドから 4,350 億ポンドへと拡大され、向こう 6 ヵ月にわたって拡大分の購入 が実施されることとなった。加えて、最大 100 億ポンド規模の社債買入れを向こう 18 ヵ月にわた っ て 実 施 す る こ と や 、 最 大 1,000 億 ポ ン ド 規 模 の 新 た な 資 金 供 給 ス キ ー ム ( Term Funding Scheme,TFS)を導入することも決定した。インフレーション・レポートを見ると、実質 GDP 予想は、 2016 年が前年比+2.0%と、前回 5 月時点の見通しがすえ置かれたものの、2017 年は同+2.3%→ 0.8%、2018 年は同+2.3%→1.8%と、いずれも大幅に下方修正された。議事録では、向こう数ヵ 月間の経済指標が最新の経済予測を裏付ける内容となった場合、大半の MPC メンバーが、年内に政 策金利を 0%付近まで引き下げることを支持するとの見通しが示された。今後発表される経済指標 は、EU 離脱決定を受け、冴えない結果となる可能性が高く、景気への悪影響を和らげるため、イン グランド銀行(BOE)は年内に追加利下げを行なうと予想する。(村上、尾家) 19 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 主要経済指標レビュー(7/25~8/5) 本≫ 20 15 10 5 0 -5 -10 輸出金額指数 輸出数量指数 16/6 16/3 15/9 15/12 15/6 15/3 14/9 14/12 14/6 14/3 13/9 13/6 13/3 12/9 12/12 12/6 13/12 金額指数=数量指数×価格指数 -15 輸出価格指数 (出所)財務省「貿易統計」 鉱工業生産・出荷・在庫指数の推移 2010年=100 112 2010年=100 120 生産指数 出荷指数 在庫指数(右軸) 108 115 16/6 16/3 15/12 15/9 15/6 13/12 15/3 90 14/12 88 14/9 95 14/6 92 14/3 100 13/9 96 13/6 105 13/3 100 12/9 110 12/12 104 (出所)経済産業省「鉱工業指数」 有効求人倍率と完全失業率の推移 倍 % 7.0 1.4 有効求人倍率 完全失業率〈右軸〉 1.2 6.0 (出所)厚生労働省「一般職業紹介状況」、総務省「労働力調査」 16/6 16/3 15/12 15/9 15/6 15/3 14/12 2.0 14/9 0.4 14/6 3.0 14/3 0.6 13/12 4.0 13/9 0.8 13/6 5.0 13/3 1.0 12/12 ○ 6月有効求人倍率・完全失業率(7月29日) 6 月の完全失業率(季調値)は 3.1%と、前月から 0.01 ポイント低下した。内訳を見ると、失業者数が減少する 一方、就業者数が増加しており、好ましい形での失業率 の改善となった。有効求人倍率(季調値)は 1.37 倍と、 前月から 0.01 ポイント上昇し、1991 年 8 月以来の高水 準。ただ、求人は雇用形態や職種の偏りが続いており、 就業者の増加も高齢者や女性が中心で、就職した場合で も雇用形態は非正規のケースが多いとみられる。企業側 の採用ニーズも、労働集約的な職種が多く、もともと賃 金水準などの待遇面でも見劣りしていることなどから、 労働需給の引き締まりを受けた賃金上昇も、全職種平均 では、緩やかなペースにとどまると予想する。 20 12/6 ○ 6月鉱工業生産(7月29日) 6 月の鉱工業生産指数(季調済)は前月比+1.9%と、 2 ヵ月ぶりのプラスとなった。四半期ベースで見ると、4 -6 月は前月比±0.0%と、前月から横ばい。経済産業省 による基調判断は、 「総じてみれば、生産は一進一退で推 移しているが、一部に持ち直しがみられる」とし、前月 の「総じてみれば、生産は一進一退で推移している」か ら上方修正された。生産予測調査では、7 月は同+2.4%、 8 月も同+2.3%と、足元のペースを上回る増産が続く見 通しを示している。ただ、世界景気の基調は弱く、日本 の輸出の回復が遅れているほか、名目賃金が伸び悩むな かで国内の個人消費も停滞感を強めており、生産の回復 ペースは緩慢なものにとどまると予想する。 輸出金額の推移(前年比) % 25 12/9 ○ 6月貿易統計(7月25日) 6 月の貿易統計によると、輸出金額は前年比▲7.4%と、 9 ヵ月連続のマイナスとなったが、マイナス幅は 4 ヵ月 ぶりに縮小した。輸出金額の伸び率を価格と数量に分解 すると、輸出価格は同▲10.1%と、8 ヵ月連続のマイナ スとなり、マイナス幅も前月から拡大した。一方、輸出 の実績を示す輸出数量は同+2.9%と、4 ヵ月ぶりのプラ スと、持ち直しの動きをみせている。ただ、過去 12 ヵ月 で 10 回マイナスとなっており、輸出の基調的な弱さは、 依然として残っているとみている。今後も、新興国景気 の減速が下押し圧力になるほか、米国向けは、製造業の 投資需要の回復の遅れなどを受け、伸び悩むとみられる。 欧州向けも、英国の EU 離脱決定の影響が懸念されるとみ られることから、輸出は一進一退の推移が続くと予想す る。 12/6 ≪日 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 ○ 6月新設住宅着工戸数(7月29日) 6 月の新設住宅着工件数(季調済)は前月比▲1.3%と、 6 ヵ月ぶりのマイナスとなった。利用関係別に見ると、 持ち家が同+2.9%と、前月の同+1.1%からプラス幅が 拡大したものの、貸家が▲2.3%と、3 ヵ月ぶりのマイナ スとなったほか、分譲も▲6.2%と、2 ヵ月ぶりのマイナ スとなったことで、全体を押し下げた。今後についても、 日銀のマイナス金利政策導入による住宅ローン金利の低 下がプラス材料になるとみるものの、2014 年 4 月の消費 増税などによる需要先食いの影響が残っているとみられ るほか、所得環境の回復ペースが鈍さを受け、消費者は 慎重に物件購入を進めると予想する。相続税対策を受け た貸家の節税需要も減衰するとみており、住宅着工は鈍 化傾向で推移するとみている。 05年=100 実質消費支出 実質コア消費支出 消費総合指数(右軸) 全国コアCPIの推移(前年同月比寄与度) % 電気・ガス・灯油 ガソリン 生鮮食品を除く食料 その他 コアCPI 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 16/6 16/3 15/9 15/12 15/6 15/3 14/9 14/12 14/6 14/3 13/9 13/12 13/6 13/3 12/12 12/9 -1.5 (出所)総務省「消費者物価指数」 万戸 利用関係別新設住宅着工戸数の推移 (季調済年率換算戸数) 万戸 60 120 50 100 40 80 30 60 20 10 持家 分譲 貸家 総戸数(右軸) (出所)国土交通省「住宅着工統計」 21 116 114 112 110 108 106 104 102 100 98 96 94 12/6 12/9 12/12 13/3 13/6 13/9 13/12 14/3 14/6 14/9 14/12 15/3 15/6 15/9 15/12 16/3 16/6 3.5 12/6 ○ 6月全国消費者物価指数(7月29日) 6 月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数、 以下コア CPI)は前年比▲0.5%と、4 ヵ月連続のマイナ スとなり、マイナス幅も前月の同▲0.4%から拡大した。 コアコア CPI(食料〈酒類除く〉 ・エネルギーを除く消費 者物価指数)も同+0.4%と、前月の同+0.6%からプラ ス幅が縮小。家庭用耐久財や教養娯楽用耐久財など、為 替の影響を受けやすい品目の伸びの鈍化が、押し下げ方 向に寄与している。今後は、エネルギー価格のマイナス 幅が縮小傾向で推移するとみられることから、年度後半 にかけて、コア CPI もプラスに浮上するとみる。ただ、 円高による押し下げ圧力に加え、期待インフレが低下傾 向にあることや、需要面からの物価の押し上げ圧力も弱 いことなどから、その後の物価上昇ペースは緩慢なもの にとどまると予想する。 実質消費関連指数(季調値)の推移 10年=100 112 110 108 106 104 102 100 98 96 94 92 90 12/6 12/9 12/12 13/3 13/6 13/9 13/12 14/3 14/6 14/9 14/12 15/3 15/6 15/9 15/12 16/3 16/6 ○ 6月家計調査(7月29日) 6 月の家計調査によると、2 人以上世帯の消費支出は実 質ベースで前年比▲2.2%と、4 ヵ月連続のマイナスとな り、5 月の同▲1.1%からマイナス幅が拡大した。季調済 前月比でも▲1.1%と、2 ヵ月連続のマイナス。販売サイ ドの統計である小売業販売額を見ても、前年比▲1.9%と、 4 ヵ月連続のマイナスとなり、個人消費は停滞感を強め ている。今後については、交易条件の改善に伴う家計の 実質購買力の回復が下支えとなるほか、政府による経済 対策などが消費者マインドの冷え込みを和らげるとみる。 ただ、名目賃金の伸び悩みが続くとみられるなか、個人 消費は緩やかな回復にとどまると予想する。 40 20 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 22 一致CIの推移 2010年=100 125 120 115 110 105 100 95 90 7ヵ月後方移動平均 85 3ヵ月後方移動平均 80 一致CI (出所)内閣府「景気動向指数」 16/6 15/6 14/6 13/6 12/6 11/6 10/6 09/6 08/6 07/6 75 06/6 ○ 6 月景気動向指数(8 月 5 日) 6 月の景気動向指数では、一致 CI が 110.5(前月差 +1.3 ポイント)と、2 ヵ月ぶりに上昇した。先行 CI は 98.4(同±0.0 ポイント)と、前月から横ばい。内 閣府の基調判断は、「足踏みを示している」が 13 ヵ月 連続ですえ置かれた。一致 CI の個別系列では、生 産・ 出荷関連統計のプラス寄与が大きい。生産予測調査で は、7 月が同+2.4%、8 月は同+2.3%と、増産が続く 見通しを示している。生産の実績は予測調査から下振 れる傾向にあるとはいえ、持ち直しの動きは続く可能 性が高く、一致 CI も回復が続くとみている。今後の景 気は、輸出の回復ペースは鈍いほか、名目賃金が伸び 悩むなかで個人消費も停滞感を強めており、緩やかな 回復にとどまると予想する。 経済ウォッチ 国≫ 千件 7,000 新築・中古住宅販売件数と住宅着工件数の推移 800 4,000 600 3,000 400 2,000 200 1,000 住宅着工件数 新築住宅販売件数 16/6 14/6 13/6 15/6 5,000 12/6 1,000 11/6 6,000 10/6 1,200 中古住宅販売件数(右軸) (出所)米商務省、米不動産業協会(NAR) ISM製造業景況指数の推移 ポイント 65 60 55 50 45 16/7 16/1 15/7 15/1 14/7 14/1 13/7 13/1 12/7 12/1 11/7 11/1 40 10/7 ○ 7月ISM製造業景況指数(8月1日) 7 月の ISM 製造業景況指数は 52.6 と、3 ヵ月ぶりに 低下し、市場予想(53.0)を下回った。もっとも、6 月 23 日の英国国民投票で EU 離脱が決定し、先行き不 透明感が高まるなか、低下幅は▲0.6 にとどまった。 構成項目別に見ると、生産が 3 ヵ月ぶりに上昇した一 方、新規受注はほぼ横ばい。雇用は 4 ヵ月ぶりに低下 し、好不況の境目となる 50 を 2 ヵ月ぶりに下回った。 海外景気の先行き不透明感を背景に、企業景況感には 当面、低下圧力がかかるとみられる。ただ、個人消費 を中心に内需の改善が続くとみており、冬場以降は持 低下圧力が和らぐと予想する。 千件 1,400 10/1 ○ 6月住宅販売・着工件数(7月19,21,26日) 6 月の米新築住宅販売は年率換算で 59.2 万戸、前月 比+3.5%と、2 ヵ月ぶりに増加し、2008 年 2 月以来 の高水準となった。市場予想(年率換算 56.0 万戸) を大きく上回り、過去 3 ヵ月分も計+2.2 万戸上方修 正されている。中古住宅販売は年率換算で 557 万戸、 同+1.1%と、4 ヵ月連続で増加。住宅着工件数は年率 換算で 118.9 万戸、同+4.8%と、2 ヵ月ぶりに増加し たほか、住宅着工許可件数も年率換算で 115.3 万戸、 前月比+1.5%と、3 ヵ月連続で増加した。低金利環境 が続いていることや、雇用者数の増加が続いているこ となどから、住宅市場は今後も回復基調で推移すると みている。 09/7 ≪米 2016 年 8 月第 2 週号 (出所)米サプライマネジメント協会(ISM) 23 600 製造業新規受注の推移 10億ドル 10億ドル 360 受注額 (出所)米商務省 耐久財(右軸) 16/6 15/12 15/6 14/12 120 14/6 150 200 13/12 180 250 13/6 300 12/6 210 12/12 240 350 11/6 270 400 11/12 300 450 10/6 500 10/12 330 09/12 550 09/6 ○ 6月製造業新規受注(8月4日) 6 月の製造業新規受注は前月比▲1.5%と、2 ヵ月連 続で減少した。ただ、除く輸送機器ベースでは、同+ 0.4%と、4 ヵ月連続の増加となった。耐久財は同▲ 3.9%と、輸送機器が落ち込んだ結果、2 ヵ月連続で減 少。一方、非耐久財は同+1.0%と、石油などが堅調 に推移したことで、4 ヵ月連続で増加した。設備投資 の先行指標とされる非防衛資本財受注(除く航空機) は同+0.4%と、3 ヵ月ぶりの増加となった。今後は、 自動車販売の回復などによって、輸送機器が新規受注 を下支えするとみるが、海外景気の減速などが下押し 要因となることから、停滞気味の推移が続くと予想す る。 非耐久財(右軸) 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 千人 非農業部門雇用者月間増減数と失業率 600 11 10 200 9 非農業部門雇用者月間増減数 失業率(右軸) 16/7 3 15/7 4 14/7 -800 -1000 13/7 5 12/7 6 -600 11/7 7 -400 10/7 8 09/7 0 -200 (出所)米労働省 24 % 400 08/7 ○ 7月雇用統計(8月5日) 7 月の非農業部門雇用者数は前月比+25.5 万人と、 増加幅が 2 ヵ月連続で 20 万人の大台を超え、市場予 想(同+18.0 万人)を上回った。過去 2 ヵ月分も計+ 1.8 万人上方修正されている(5 月分は+1.1 万人→+ 2.4 万人、6 月分は+28.7 万人→+29.2 万人)。家計 調査から集計される失業率は 6 月の 4.9%から変わら なかったが、労働力人口が増加するなか、失業者が減 少したのはポジティブな結果。時間当たり賃金も前月 比+0.3%と、6 月の同+0.1%から伸び幅が拡大した。 き わめて 緩和的 な金融 環境 が米景 気を下 支えし てお り、労働市場は今後も改善傾向が続くと予想する。 経済ウォッチ 州≫ 25 期待指数 16/7 15/7 14/7 13/7 12/7 11/7 10/7 09/7 08/7 6 IFO景況指数 M3と民間部門貸出額の推移(前年比) % 5 4 3 2 1 0 -1 -2 15/12 16/6 16/7 15/6 15/7 M3 14/12 14/6 13/12 13/6 12/12 -3 民間部門貸出額 (出所)ECB 125 ユーロ圏景況感指数 ポイント 115 105 95 85 75 ドイツ スペイン (出所)欧州委員会 フランス ユーロ圏 14/7 13/7 12/7 11/7 65 10/7 ○ 7月ユーロ圏景況感指数(7月28日) 7 月のユーロ圏景況感指数は 104.6 と、2 ヵ月ぶり に改善した。構成項目別に見ると、消費者信頼感が▲ 7.2→▲7.9 と、2 ヵ月連続で悪化したものの、鉱工業 景況感は▲2.8→▲ 2.4、サービス業景況感は 10.9→ 11.1、建設業景況感は▲18.2→▲16.3、小売業景況感 は 0.8→1.8 と、いずれも改善した。主要国別では、 フランスが 101.0→100.6、スペインが 106.5→106.0 と、ともに悪化したが、ドイツは 106.4→106.6、イタ リアは 104.8→105.2 と、いずれも改善した。英国の EU 離脱手続きを巡る不透明感や、新興国経済の先行き 懸念などが下押し圧力となることで、今後のユーロ圏 景況感指数は停滞気味に推移するとみる。 現況指数 (出所)Ifo経済研究所 09/7 ○ 6月ユーロ圏マネーサプライ(7月27日) 6 月の ユーロ 圏マネ ーサ プライ (M3) は前 年比+ 5.0%と、前月の同+4.9%から伸び幅が拡大した。一 方、民間向け貸出額は同+1.1%と、伸び幅は前月か ら変わらず。民間向け貸出額の内訳を見ると、家計向 けは同+2.1%→+1.9%と、2 ヵ月連続でプラス幅が 縮小したが、非金融企業向けは同+1.2%と、前月と 同じ伸び幅となった。ECB(欧州中央銀行)による量 的緩和策などを背景に、銀行の貸出態度が緩和してい るほか、貸出金利も低下傾向にあることなどから、今 後 のユー ロ圏の 民間向 け貸出 は緩や かな回復 傾向で 推移するとみている。 独Ifo景況感指数 ポイント 125 120 115 110 105 100 95 90 85 80 75 12/6 ○ 7月ドイツIfo景況感指数(7月25日) 7 月のドイツ Ifo 景況感指数は 108.3 と、前月の 108.7 から 0.4 ポイント悪化した。同指数の悪化は 3 ヵ月ぶり。内訳を見ると、現況指数は 114.6→ 114.7 と、3 ヵ月連続で改善したが、 期待指数は 103.1→102.2 と、5 ヵ月ぶりに悪化。産業別では、建設業が 4.8→ 5.4、小売業が 8.0→10.2 と、ともに改善したものの、 製造業は 10.9→9.8、卸売業は 15.1→11.8 と、いずれ も悪化した。ECB(欧州中央銀行)による緩和的な金 融政策が引き続き景気を下支えするとみているが、英 国の EU 離脱を巡る先行き不透明感や、新興国景気の 減速などが重しとなることで、ドイツの景気回復ペー スは緩慢ものにとどまると予想する。 08/7 ≪欧 2016 年 8 月第 2 週号 イタリア 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 日米欧マーケットの動向 (2016年8月8日現在) ▽各国の株価動向 (円) (ドル) 日経平均株価 17000 16000 日経平均株価 15000 14000 13000 (出所)ファ クトセット 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 15/3 14/9 14/12 14/7 14/4 14/1 英国の株価指数(FT100) 7200 15/02 14/11 14/08 14/05 14/03 13/12 13/09 13/06 13/04 13/01 13/8 (ポイント) ドイツの株価指数(DAX) 6900 6600 10000 6300 9000 6000 5700 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 15/3 14/12 14/9 14/7 (出所)ファ クトセット 14/4 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 15/3 14/12 14/9 14/7 14/4 14/1 13/10 13/8 5400 14/1 (出所)ファ クトセット 13/8 7000 13/10 8000 6000 (出所)ファ クトセット 13/10 12000 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 15/3 14/9 14/12 14/7 14/4 14/1 (出所)ファ クトセット 12/10 11000 18000 12/07 13/8 12/04 12/02 12000 ダウ工業株30種平均 19000 13/10 23000 21000 19000 17000 15000 (円) 13000 19000 18000 11000 17000 9000 16000 15000 7000 14000 13000 12000 11000 10000 9000 (ポイント) 8000 13000 7000 ▽外為市場の動向 26 16/8 16/5 16/2 15/8 15/11 15/6 15/3 14/12 14/9 14/7 14/4 14/1 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 15/3 (出所)ファ クトセット 14/9 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 15/3 14/12 14/9 14/7 14/4 14/1 13/10 13/8 (出所)ファ クトセット 14/12 110 14/7 120 14/4 130 14/1 140 円/ポンド相場 13/10 200 190 180 170 160 150 140 130 120 110 150 90 13/10 (円) 円/ユーロ相場 160 100 ドル/ユーロ相場 (出所)ファ クトセット 13/8 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 15/3 14/12 14/9 14/7 14/4 14/1 13/10 (円) 1.45 1.40 1.35 1.30 1.25 1.20 1.15 1.10 1.05 1.00 (出所)ファ クトセット (出所)ファ クトセッ 13/8 135 130 125 120 115 110 105 100 95 90 85 80 75 70 (ドル) 円/ドル相場 13/8 (円) 95 1500 80 1400 65 1300 50 1200 35 1100 20 1000 27 16/8 16/5 16/2 1600 ▽商品市況の動向 金先物(COMEX) (出所)ファ クトセット 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 15/3 2.2 15/11 (出所)ファ クトセット 14/9 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 15/3 14/12 (出所)ファ クトセット 15/8 (ドル) 15/6 原油先物(WTI、中心月) 14/12 0.50 15/3 (出所)ファ クトセット 14/9 0.75 14/9 (%) 14/12 政策金利(ユーロ圏、定例オペ最低入札金利) 14/7 1.0 14/7 0.1 14/4 (%) 3.5 14/4 2.0 14/1 0.2 14/1 2.5 13/8 0.3 13/10 3.0 13/10 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 0.4 13/8 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 政策金利(米国、FFレート) 14/7 -0.3 15/6 15/3 14/12 14/9 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 15/3 14/12 14/9 14/7 14/4 14/1 13/10 13/8 16/8 16/5 16/2 15/11 15/8 15/6 15/3 14/12 (出所)ファ クトセット 14/4 -0.25 15/3 14/12 14/9 14/7 0.0 14/1 0.2 14/9 14/7 0.1 (%) 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0.0 -0.1 -0.2 -0.3 13/10 0.00 14/7 14/4 14/1 日本の無担保コール(O/N) 13/8 16/8 16/5 16/2 15/11 110 15/8 15/6 15/3 14/12 14/9 14/7 (ドル) 14/4 (%) 0.5 14/4 14/1 13/10 13/8 13/10 (%) 0.2 14/4 0.7 14/1 13/10 (%) 1.00 14/1 13/8 -0.1 13/10 0.25 13/8 0.0 13/8 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 ▽各国の金利動向 長期金利(日本、10年国債) (出所)ファ クトセット 長期金利(米国、10年国債) 1.5 (出所)ファ クトセット 長期金利(ドイツ、10年国債) (出所)ファ クトセット 1.7 1.2 経済ウォッチ 2016 年 8 月第 2 週号 本レポートは、明治安田生命保険 運用企画部 運用調査 G が情報提供資料として作成したものです。本 レポートは、情報提供のみを目的として作成したものであり、保険の販売その他の取引の勧誘を目的と したものではありません。また、記載されている意見や予測は、当社の資産運用方針と直接の関係はあ りません。当社では、本レポート中の掲載内容について細心の注意を払っていますが、これによりその 情報に関する信頼性、正確性、完全性などについて保証するものではありません。掲載された情報を用 いた結果生じた直接的、間接的トラブルや損失、損害については、当社は一切の責任を負いません。ま たこれらの情報は、予告なく掲載を変更、中断、中止することがあります。 ●照会先● 明治安田生命保険相互会社 運用企画部 運用調査グループ 東京都千代田区丸の内2-1-1 TEL03-3283-1216 執筆者 :小玉祐一、謝名憲一郎、信本将巳、平野真依子、山口範大、 尾家小春、開發彰徳、村上梨子、磯部雅人、陳家斉 28
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