Page 1 語り物における文字テクスト (台本)の機能 「平家」語りの近世平

第6章
語 り物 に お け る文 字 テ ク ス ト(台 本)の 機 能
筑 前盲 僧 琵 琶 の琵 琶歌(筑 前琵琶)化 、 お よび
「平家 」 語 りの近 世 平 曲化 をめ ぐって
兵藤
1筑
前 盲 僧琵 琶 と台本
2宝
山院 森 田勝 浄 の 盲僧 琵 琶 台本
3語
りの 習 得 と台 本 の作 成
4フ
シ の種類 と小 段構 成
5台
本 の作 成 とフ シ(曲節)の 細分 化
裕己
6「 平 家 」 語 りか ら近世 平 曲へ
7文
字 テ クス トの成 立 と語 りの変 質
〔
本 稿 の 要 旨〕
近 代 の筑 前 地 方(福 岡 県)で 行 なわ れ た盲 僧 琵 琶 は、語 り物 が文 字 テ クス トと出会 う現 場 を、豊 富 な 資料 と
と もに具 体 的 に見せ て くれ る。筑 前 の 盲僧 琵 琶 は、近 代 に な る と晴 眼者 に よ って 担 われ 、それ に と もな って か
ず 多 くの台 本 が 作 られ た 。 そ して 台本 の作 成作 業 の なか で 、演 唱 法 や フ シ(曲 節)概 念 が根 底 か ら変 質 して い
くの だが 、 その 過程 は、 台本 に付 された フ シ名 や 、声 の大 小 ・高 低 ・速 度 ・強 弱 ・音 調 な どの 注記 に よ って具
体 的 に跡 づ け られ るので あ る。 また、盲 僧 琵 琶 の 文字 テ ク ス ト化 に ともな う演 唱 法 の改 良 は、近代 琵 琶 楽 と し
て の筑 前 琵 琶 の創 出 とな って ゆ く。 そ して 明 治30年 代 に完成 した 筑 前琵 琶 は、 明治 末 年 か ら大正 期 にか けて
全 国規 模 の家 元 制 度 をつ くりだす の だ が、 その よ うな筑 前 盲僧 琵 琶 が 近代 に体 験 した変 化 は、 「平 家」 語 りが
中世末 か ら近 世 にか け て体 験 した変 化 を集 約 的 に見 せ て い るの で あ る。
小稿 で は、筑 前盲 僧 琵 琶 に お け る台 本 の作成 と、そ れ に ともな う語 りの変 質 につ い て考 察 す る。近 代 の 筑 前
盲 僧 琵琶 は 、語 り物 に お け る台本(文 字 テ クス ト)の 機 能 、 あ るい は台本 の成 立 に ともな う語 り物 の変 質 の 問
題 を考 え る うえで 貴 重 な フ ィー ル ドを提 供 して い る。 そ れ は語 り と文字 テ クス トとの関 係 を原 理 的 に考 察 す
る試 み と して 、九 州 の盲 僧(座 頭)琵 琶 の み な らず 、平 曲 にお け る語 り と台 本 の 問題 につ い て考 え る うえで も
重 要 な情 報 を提 供 す るは ずで あ る。
87
第1部
口 頭 性 ・文 字 テ ク ス ト ・楽譜
1筑
前盲僧琵琶 と台本
琵 琶 を弾 い て 地 神 経 を よみ 、 荒 神(か
ま ど神)の
祓 い や ワタ マ シ(新 築 祝 い)な
どの 民 間
宗 教 儀 礼 に携 わ った 近 世 の 九 州 地 方 の盲 僧 は、 筑 前 地 方 で は 一 般 に 「琵 琶 弾 き座 頭 」 「荒 神 坊
主 」 な ど と呼 ば れ た 。 坊 名 や 院 号 を称 して い て も、 寺 を構 え る者 は ほ ん の 一 部 で、 ほ とん ど
の者 は札 所 ふ うの 小 堂 を住 居 とし、 四季 の 土 用 に は檀 家 内 の 台所 回 りを して 、 そ の余 興 に端
唄 や 段 物(長
編 の 語 り物)な
どの くず れ(娯 楽 的 な 出 し物)を
語 っていた。
そ の よ う な筑 前 の 盲 僧 ・座 頭 の あ り方 を大 き く変 化 させ た の は、 明 治 初 年 の 一 連 の神 仏 分
離 令 と、 そ れ に つ づ く明 治4年(1871)11月
の盲 官 廃 止 令 で あ る(1)。福 岡 県 で は、 盲 官 廃 止
の 太 政 官 布 告 を う けて 、 す べ て の 盲 僧 が 院 号 ・坊 号 を廃 し て民 籍 に入 る べ き こ と、 琵 琶 を弾
い て の渡 世 は 自 由 だ が 、 神 仏 の 祈 濤 は禁 じ る 旨 の布 達 が 出 さ れ た 。
同 様 の布 達 は、 九 州 ・中 国地 方 の 各 県 で 出 さ れ た が 、 それ に対 し て、 筑 前 地 方 の盲 僧 は、
福 岡 市 鳥 飼 の 伝 正 院 、 中 村 徳 玄 が 筑 前 国一 派 総 代 とな り、 天 台 宗 務 局 を とお して 盲 僧 の 再 興
を願 い 出 た 。 同 様 の 嘆 願 運 動 は 、肥 前 ・豊 前 ・長 門 な どで も行 な わ れ た が 、 そ の 功 あ っ て 、
同8年7月
、明 治 政 府 は 、盲 僧 行 を天 台 宗 所 轄 と して復 活 させ る 旨 を各 県 に 通 達 し た 。以 後 、
盲僧 は天 台 宗 務 庁 の 管轄 下 に お か れ 、 天 台 宗 支 部 の 玄 清 部 と して独 立 し た法 流 を形 成 す る こ
と に な るが 、 それ は い っ ぽ うで 、 中 央 の有 力 寺 院(寛
永 寺 、 青 蓮 院 等)や
当 道 座 の支 配 を う
けな が ら も、 地 域 ご と に独 自 の座 を形 成 して 活 動 して い た 近 世 まで の 盲 僧(座
頭)の
あ り方
を根 底 か ら変 え る もの だ った(2)。
明 治 初 年 の 盲 僧 廃 止 と、 そ の後 の 再 興 運 動 の 過 程 で 、 盲 僧 寺(盲 僧 株)の
ら、 くず れ の 芸 能 だ け に生 き る者 が あ らわ れ る。 筑 前 の 新 式 琵 琶(い
後継者 のなかか
わ ゆ る 筑 前 琵 琶)を
始 した の も、 くず れ を専 業 化 した 晴 眼 の 盲 僧 だ が 、 と くに妙 福 坊 市 丸 智 定(の
翁)は
創
ちの初代橘 旭
、 従 来 の 盲 僧 琵 琶 の 奏 法 と演 唱 法 を大 幅 に改 良 して 、 近 代 琵 琶 楽 と して の 筑 前 琵 琶 を
確 立 させ た 最 大 の 功 労 者 で あ る。
他 方 、 天 台 宗 所 轄 とな った 多 くの 盲 僧 は、 教 団 内 の僧 侶 とし て待 遇 され た 結 果 、 しだ い に
くず れ の 演 唱 を 自粛 す る よ う に な っ て ゆ く。 ま た 、明 治38年
の 内 務 省 の通 達 で、晴 眼 者 が 法
流 の継 承 者 と して 正 規 に認 め ら れ る にお よ ん で 、 盲 僧 寺 に は晴 眼 者 の あ と と りが 輩 出 す る よ
うに な る。 た と え ば平 井 武 夫 が 筑 前 の 盲 僧 琵 琶(荒 神 琵 琶)を 調 査 し た昭 和10年
当時、福 岡
県 の盲 僧 寺 の住 持 は、 そ の ほ とん どが 晴 眼 者 で あ り、 そ の う ち くず れ を演 唱 した の は、 福 岡
県 鳥 飼 の伝 正 院 、 中 村 徳 音(明
治 六 年 に筑 前 国一 派 総 代 とな った 中村 徳 玄 の子 。 晴 眼 者)く
らい だ った とい う(3)。
晴 眼 者 が 盲 僧 寺 の住 持 とな り、 しだ い に盲 僧 琵 琶 の 継 承 が 行 な わ れ な くな っ た 福 岡 県 に
あ っ て(4)、くず れ の伝 承 が 比 較 的 遅 く まで 残 っ た の は、現 在 の甘 木 市 ・
朝 倉郡一帯 の筑後川 中
流 域 で あ る。 この 地 域 で は 、毎 年4月
88
、 地 域 の盲 僧 が 集 まっ て 五 穀 成 就 祭 と称 す る地 神 祭 を
第6章
語 り物における文字テクスト(台本)の 機能(兵藤)
行 な わ れ 、その とき二 夜 にわ た っ て くず れ の 競 演 会 が行 な わ れ た(5)。
五穀成 就祭 での定期的 な
演 唱 機 会 は、 この 地 域 に くず れ の伝 承 を保 存 さ せ た 最 大 の 要 因 だ っ た ろ う。 か ま ど祓 いや ワ
タ マ シの 余 興 だ けの 需 要 な ら、 ほか の地 域 で は 、 明 治 か ら大 正 頃 に は、 ほ とん ど くず れ の伝
承 を失 な っ て い た の で あ る。
2宝
山院森 田勝浄の盲僧琵琶 台本
甘 木 市 三 奈 木 町 十 文 字 の宝 山 院 森 田勝 浄(1901∼2000)は
、 筑 前 盲 僧 琵 琶 の くず れ を伝 承
した最 後 の盲 僧(晴 眼者)だ った 。1970年 代 に2度 、 国 立 劇 場 の 芸 能 公 演 に 出演 して い るが 、
70年4月
に は 『源 平 両 氏 伝 胄軍 記 』三 段 目(宗 清 館 の段)と
『山崎 三 左 』、75年10月
には 『
名
島 判 官鬼 神 退 治 』 三 段 目 と 『出 世 景 清 』 二 段 目 を公 演 した 。 また 、 レ コー ド 『
琵琶
音 楽 の 系 譜 』(日 本 コ ロム ビ ア 、1975年)に
その
、 『酒 餅 合 戦 』と端 唄 『
心 だ に』が 収 め られ 、 折 々
の演 唱 録 音 の テ ー プ は各 所 に所 蔵 さ れ て い る。 筑 前 盲 僧 琵 琶 の くず れ の 録 音 が ま と ま っ た か
た ち で 入 手 で き る唯 一 の伝 承 者 だが 、 父 親 の森 田 順 光(6)の跡 を う けて 盲 僧 行 を継 い だ 森 田勝
浄 は、 晴 眼 の盲 僧 と して か ず 多 くの盲 僧 琵 琶 台 本 を作 成 した 。
1983年 に福 岡 県 教 育 委 員 会 が 編 集 した 『筑 前 の荒 神 琵 琶 ・付 録 』 は、 森 田勝 浄 の 台 本 と し
て、4冊7編
の 影 印 を収 録 して い る 。 影 印 され た 原 本 の所 在 は不 明 だ が 、 そ の ゼ ロ ッ ク ス コ
ピー が 福 岡 県立 図 書 館 蔵 『盲 僧 琵 琶 資 料 』 の別 冊(番 外)に
冊7編
収 め られ て い る。 つ ぎ に そ の4
について、 『
盲 僧 琵 琶 資料 』 の コ ピー 資 料 を も とに紹 介 す る。
① 『
小 野 小 町 ・石 童 丸 ・山 崎 参 三 』
本 文 は墨 付 き12枚 。 端 唄 段 物(短
編 の 段 物)3曲
の合冊 。 『
石 童 丸 』 は一 段 、 『小 野 小 町 』
『山 崎 参 三 』 は二 段 か ら な る。 表 紙 に、 「盲 僧 琵 琶(横 書 き)/(以
七 月/小
野 小 町(大 書)/石
童 丸(大 書)/山
崎 参 三(大
書)/森
下 縦 書 き)昭 和 五 十 年
田勝 浄 書 」 とあ る 。
② 『
餅 酒 合 戦 ・旧上 座 郡 村 尽 』
本 文 は 墨 付 き7枚 。 表 紙 に、 「盲 僧 琵 琶(横 書 き)/(以
合 戦/旧
上 座 郡 村 尽/森
下 縦 書 き)昭 和 五 十 年 七 月/餅
酒
田勝 浄 書 」 とあ る。 『
餅 酒 合 戦 』 『旧上 座 郡 村 尽 』 と も に滑 稽 物 で
あ る。
③ 『出 世 影 清 』
本 文 は 墨 付 き37枚 。 全5段
。 表 紙 に、 「大 正 五 丙 辰 四 月/出 世 影 清(大 書)/盲
僧 琵 琶/森
田勝 浄 」 とあ る。 「大 正 五 年 四 月 」は、 こ の本 の も とに な っ た親 本 が 作 られ た 年 次 。 この 本
自体 は 、 昭 和50年
に作 られ た 清 書 本 で あ る。
④ 『源 平 両 氏 傳 胄軍 記 』
本 文 は 墨 付 き41枚 。 全5段
。 表 紙 に、 「大 正 七 年 四 月 下 旬/源
平 両 氏 傳 胃 軍 記(大 書)/中
89
第1部
口頭性 ・文字テクス ト・楽譜
島 田/森
田勝 浄 」 とあ る。 ③ と同様 、 昭 和50年
に作 られ た清 書 本 で あ る。
上 記 の① ∼ ④ は、い ず れ も福 岡 県 教 育 委 員 会 の要 請 に応 じて 、昭 和50年7月
に、森 田 勝 浄
が あ らた に作 成 した 清 書 本 で あ る(清 書 本 の も と に な っ た親 本 が あ っ た はず だ が 、 そ の 所 在
は今 の と ころ不 明)。
原 本 が所 在 不 明 の ① ∼ ④ とはべ つ に、森 田家 に は、4冊
ち3冊 は大 正 年 間 に制 作 され た 台 本 だ が 、3冊
の段 物 台 本 が所 蔵 さ れ て い る。 う
と も、 全 段 にわ た っ て詳 細 な フ シ付 けが 注 記
され た注 目す べ き台 本 で あ る。
⑤
『
廣 島女仇討 』
本 文 は 墨 付 き49枚 。 全5段 。 表 紙 に、 厂大 正 四 年 六 月 上 旬/第
天 台 宗/金
川村 大字 中島田
三 号/廣
島 女 仇 討(大 書)/
森 田勝 浄 」とあ る。 全 段 にわ た っ て 、 フ シ付 けが 注 記 さ れ る。
表 紙 の 「第 三 号 」 は、 台 本 が 作 られ た順 番 を示 して い る。
⑥
『
名 島判 官 』
本 文 は墨 付 き27枚 。 全5段 。 表紙 に、 「四 号/大
田
正 四 年 拾 月 下 旬/名
島 判 官(大 書)/中
森 田 勝 浄 」、 奥 書 に、 「
福 岡 縣 朝 倉 郡 金 川 村 大 字 中 島 田/天 台 玄 清 部/山
門派
島
宝 山坊
森 田勝 浄 用 達 」 と あ る。 全 段 にわ た っ て 、 フ シ付 けが 注 記 され る。 表 紙 の 厂第 四 号 」 は、
こ の台 本 が 作 られ た 順 番 を示 す(7)。
⑦ 『弐 子 隅 田川 』
本 文 は墨 付 き40枚 。 全5段 。 表紙 に、 厂大 正 八 年 五 月 上 旬 寫 之/弐 子 墨 田川(大 書)/第
二 号/中
嶋田
森 田勝 浄 」、 本 文 末 尾 奥 付 に 、 「二 子 隅 田川 五 段/是
奥 書 に 「朝 倉 郡 金 川 村/大
十
ヲ以 テ 終 リ トス 云 々 」、
字 中 島 田/森 田 用 」 と あ る。 全 段 にわ た っ て 、 フ シ付 けが 注 記
され る。 ⑧ の 『
二 子 隅 田川 』(清 書 本)の 親 本 で あ る。 表 紙 の 「第 十 二 号 」 は、 この 台 本 が
作 られ た 順 番 を示 す(8)。
⑧ 『二 子 隅 田 川 』
本 文 は墨 付 き39枚 。 全5段 。 表 紙 に、 「大 正 八 年 五 月 上 旬/二
なお 、 森 田 が89歳
子 隅 田 川(大 書)」 とあ る。
の と き(平 成 元 年)に 清 書 した この 本 の親 本 に あ た る のが 、 大 正8年
に
書 か れ た⑦ の 『
弐 子 隅 田 川 』 で あ る。 全 段 に フ シが 注 記 され るが 、 ⑦ の 注 記 よ り簡 略 で あ
る。
⑤ ⑥ ⑦ に 、 そ れ ぞ れ 「第 三 号 」 厂四 号 」 「第 十 二 号 」 とあ るの は、 これ らの 台 本 が 作 られ た
順 番 を示 す 。 ⑦ の 『弐 子 隅 田 川 』 に 「第 十 二 号 」 と あ り、 大 正 年 間 に森 田 勝 浄 が 作 成 し た 台
本 は、 少 な く と も12冊 以 上 あ っ た こ とが わ か るが 、 ほ か の 台 本 は 、 昭 和31年
に森 田 家 が 現
在 地 に転 居 して く る前 、 そ れ まで 住 ん で い た 甘 木 市 金 川 町 中 島 田 の家 で ね ず み に食 わ れ て し
ま った とい う。
90
第6章
また 、 大 正4年6月
語り物における文字テクス ト(台本)の 機能(兵藤)
に作 成 さ れ た ⑤ 『廣 島 女 仇 討 』 の表 紙 に 「第 三 号 」 とあ る以 上 、 森 田
勝 浄 は、そ れ 以 前 に2つ の 段 物 を父 親 の順 光 か ら習 い 、そ の 台 本 を 作 成 して い た こ とに な る。
した が っ て 森 田が 段 物 を な らい 出 した 時 期 は、 大 正4年(当
時14歳)以
前 に さか の ぼ り、 さ
ら に そ れ以 前 に、 端 唄 や 端 唄 段 物 な どを な らっ て い た こ とが想 像 さ れ る。 本 人 か ら聞 い た と
こ ろで も、 森 田 が 琵 琶 を習 い は じめ た の は小 学 生 の こ ろか らで 、本 格 的 に 習 い だ し た の が14
歳 頃 だ っ た とい う。
3語
りの 習得 と台本 の作 成
小 学 生 の こ ろか ら父親 の 順 光 に つ い て 琵 琶 を習 った 森 田勝 浄 は 、 な か な か 父 親 の 仕 事 をつ
ぐ気 に は な れ なか っ た とい う。 大 正 末 年 に は順 光 は体 も不 自 由 に な り、 息 子 が 早 く跡 を継 い
で くれ る こ と を期 待 して い た が 、 勝 浄 が 父 親 の仕 事 を継 ぐ決 心 を した の は 、2年 間 の兵 役 を
終 えた こ ろで あ っ た 。 そ して 昭 和4年
が 、昭 和6年
に福 岡 市 高 宮 の 成 就 院(玄
清 法 流 の本 寺)で
得 度 した
に 父 順 光 が 死 去 す る と、 そ の 跡 を継 い で盲 僧 の 仕 事 を は じめ 、昭 和31年
には甘
木 市 三 奈 木 町 十 文 字 に移 り住 ん で、 今 日 に い た っ て い る。
森 田 勝 浄 が 本 格 的 に 琵 琶 を習 い だ した の は、 さ きに述 べ た よ う に13、4歳
の こ ろか ら で あ
る 。最 初 に まず 、 端 歌 の 文 句 と、 端 歌 を演 奏 す る と きの フ シ で あ るナ ガ シ の琵 琶 の 手 か ら習
じ
う。 琵 琶 を習 う とき は 、 向 か い あ っ て座 り、 押 さ え る柱 の 名 を呼 ん で 教 え られ た(盲 僧 琵 琶
の柱 は五 つ あ り、胴 に近 い方 か ら順 に、 木 、火 、 土 、金 、水 とい う)。 森 田 が最 初 に 習 った 端
唄 は、 『
心 だ に』 と 『袈 裟 は か けず と』 の 二 つ で あ る(9)。
端 唄 の つ ぎ は、短 編 の 段 物 で あ る端 歌 段 物 を習 った 。『石 童 丸 』 『
小 野 小 町 』『山崎 三 左 』(参
三 と も)な
どだ が 、 端 歌 段 物 は、 全 体 が ほ ぼ 端 唄 の フ シ、 す な わ ち ナ ガ シ と コ トバ(カ
タリ
と も)で 語 られ るが 、 部 分 的 に ノ リや ウ レイ が 入 る。 な お 、 端 唄 は文 句 も短 い た め 比 較 的 ら
くに覚 え られ た が 、 端 唄段 物 や 本 段 物 は、 長 い た め に覚 え る のが む ず か し く、 文 句 を書 き写
し て覚 えた 。 す な わ ち 、 師 匠(父 親)の 順 光 に頼 ん で 厂ひ と くち 」(七 五 調 の1句)ず
つ文句
を語 っ て も らい 、 そ れ を メ モ に と りな が ら覚 えた 。 そ の さい 、 意 味 の わ か らな い箇 所 も、 と
りあ えず 語 られ る ま まに 書 き うっ した が 、 そ れ ら をの ち に清 書 して冊 子 に仕 立 て た の が 、 前
節 に紹 介 した 台 本 で あ る。 父 親 の順 光 は盲 人 ゆ え に 口 つ た えで 文 句 を覚 え て お り、 順 光 の代
ま で は 、 文 句 を書 き写 した よ う な もの は一 つ もな か っ た とい う。
端 歌 段 物 に よ っ て段 物 の 基 本 的 な語 り口 を習 得 す る と、 つ ぎ に5段(以
上)か
らな る本 段
物 を習 う。森 田 が 習 っ た本 段 物 に は、『広 島 女 仇 討 』(『広 島巡 礼 』と も)、『源 平 両 氏 伝 冑 軍 記 』、
『双 子 隅 田川 』、 『
鞍 馬 下 り』(『鳥 帽 子 折 』と も)、 『出 世 景 清 』、『
名 島 判 官 』(『筑 前 名 島 判 官 』)、
『子 敦 盛 』、 『
安 達 ヶ原 仇 討 』 な どが あ っ た が 、 森 田 が 父順 光 か ら習 って い な い段 物 は、 ほか
に もた くさ ん あ った 。 父親 が 得 意 と して い た 出 し物 に は、 『
箱 根 霊 験 記 』(『い ざ りの仇 討 』)、
91
第1部
口頭性 ・文字テクス ト・楽譜
『
姫 路 合 戦 』、『筑 前 原 田 』(『原 田 次 郎 種 直 』)、『小 栗 判 官 』、 『
肥 前 隆 信 』(『菊 池 くず れ 』)、『豊
後 崩 れ 』、 『平 戸 観 聞 記 』、 『
大 阪 の陣 』 な どが あ っ た。
これ らの本 段 物 や 端 唄 段 物 は、 正 月 ・5月
・9月 に檀 家 を ま わ っ て 行 な わ れ る荒 神 祭(か
ま ど祓 い)、 あ る い は新 築 祝 い の ワ タ マ シや 地 神 供(地 神 祭)に 呼 ば れ た と き に、 余 興 と し て
語 っ た 。 また 、 甘 木 市 ・朝 倉 郡 一 帯 で は 、 毎 年 四 月 に地 域 の盲 僧 が 集 まっ て 、2夜3日
の五
穀 成 就 祭 が 行 な わ れ た が 、 そ の夜 の余 興 と して 、 盲 僧 た ちが 琵 琶 の 技 量 を き そ った 。 また 、
日待 ち の と き に 呼 ぼれ て くず れ を語 る盲 僧 もい た。 日待 ち の夜 は 、 琵 琶 の ほか に、 浪 花 節 語
りや 義 太 夫 語 りが 雇 わ れ 、 村 人 の 眠 気 ざ ま し に夜 を徹:して 演 芸 が行 なわ れ た が 、 し か し森 田
の 父 順 光 や 森 田本 人 は、 そ の よ う な演 芸 本 位 の場 に 出 る こ とは な か った とい う。
4フ
シの種 類 と小 段構 成
森 田勝 浄 の説 明 に よ れ ぼ 、 森 田が 演 唱 す る段 物 に は、6、7種
類 の フ シが 使 用 さ れ る とい
う。 つ ぎ に、 森 田 本 人 の説 明 と、 演 唱 テ ー プ を 聞 い た 私 の分 析 を ま じ えて 、 森 田 が使 用 す る
6、7種
類 の フシについて説明す る。
○ コ トバ(カ
タ リ)
地 語 り と もい うべ き曲節 で 、 も っ と も一 般 的 に使 用 され る。 コ トバ と も、カ タ リ と もい い 、
呼 称 に ゆ れ が あ る。 朗 誦 的 な コ トバ と、 吟 誦 的 な(講 談 口 調 の)コ
トバ とが あ るが 、 フ シ
付 け本 な ど を見 て い る と、 朗 誦 的旋 律 で 語 られ る コ トバ をカ タ リ とい い、 吟 誦 的 な 箇 所 を
コ トバ と呼 ん で 区別 して い る よ うだ 。 た だ し、 じ っ さ い の 演 唱 で は、 両 者 の境 界 は し ぼ し
ぼ あ い ま い に な り、 朗 誦 と吟 誦 が 自在 に入 れ替 わ る。 だ が 朗 誦 の コ トバ(カ タ リ)、 吟 唱 の
コ トバ と も に、 森 田 の 説 明 に よれ ば 「ふ つ うに ゆ う て ゆ くと こ ろ」で あ る。 ノ リ、 ウ レ イ、
ナ ガ シ な どの 特 徴 的 な旋 律 を 除 い た す べ て の 部 分 が、 多様 な ヴ ァ リエ ー シ ョ ン を含 め て コ
トバ また はカ タ リ と呼 ばれ る。
○ノリ
登 場 人 物 が は げ し く行 動 す る場 面 に使 用 され る。 と くに戦 闘 や 合 戦 場 面 だ が 、 ま た一 段 の
終 結 部 分 も、 しば し ば ノ リで た た み か け る よ う に して 語 られ る。 朗 誦 的 な 曲 節 だ が 、朗 誦
シラビ ック
の コ トバ よ り もテ ン ポが 早 く、 し ば しば 拍 節 的 に語 られ る。 琵 琶 の手 も、 ノ リ独 自 の 特 徴
的 な 奏 法 で あ る。 肥 後 ・筑 後 の 座 頭 琵 琶 の ノ リ とほ ぼ 同 じ もの と考 え て よい(10)。
○ ウ レイ
登 場 人 物 の 愁 嘆 ・哀 願 ・哀 訴 な どを表 現 す る詠 唱 的 な 曲 節 。 肥 後 ・筑 後 の 座 頭 琵 琶 の ウ レ
イ と ほ ぼ 同 じ もの で あ る。
○ ナガ シ
92
第6章
語 り物における文字テクス ト(台本)の 機能(兵藤)
端 唄 の フ シ で あ り、 段 物 で は、 道 行 や 歳 月 の 経 過 な ど、 場 面 転 換 に使 用 され る。 聞 か せ ど
こ ろの フ シ だ が 、 森 田勝 浄 の コ トバ(カ
タ リ)・ ノ リ・ウ レ イ な どが 、 肥 後 や 筑 後 の座 頭 琵
琶 と類 似 す る な か で 、 ナ ガ シ の み は特 徴 的 で あ る 。肥 後 や 筑 後 の伝 承 で は 、 ナ ガ シ の基 本
型 は 〈七 五 →(ナ ガ シ の手)→ 七 五 ・七 五 〉 で あ るが 、 森 田 の ナ ガ シ は 、〈七 五 ・
七 五 →(ナ
ガ シの 手)→ 七 五 ・七 五 ・七 五 〉 とつ づ く。 ま た 、 この 基 本 型 に さ ら に ナ ガ シの 手 を入 れ
て 、七 五 ・七 五 ・七 五 をつ づ け る ば あ い が 多 く、 また 、 は じ め の七 五 ・七 五 だ けで や め て
し ま う ば あ い も あ る。 これ が 、 筑 前 盲 僧 琵 琶 の ナ ガ シの 一 般 的 な様 式 な の か。 それ と も甘
木 市 周 辺 に の み 伝 承 さ れ た ナ ガ シ の様 式 な の か 。 森 田 以 外 の伝 承 者 に よ る筑 前 盲 僧 琵 琶 の
演 唱録 音 と して 、 私 の手 元 に は、 故 木 村 賢定(福
(1955年7月14日
岡 県 筑 紫 郡 二 日市 町)の
『
落:城 く ど き』
録 音)が あ る。 それ で 聞 くか ぎ り、 筑 紫郡(現 在 の 筑 紫 野 市 周 辺)に 伝
承 され た 盲 僧 琵 琶 の ナ ガ シ は、 森 田 の そ れ よ り も、 肥 後 や 筑 後 の伝 承 に類 似 して い る。 ま
た 、 ナ ガ シ の旋 律 は、 筑 前 琵 琶(新 式 琵 琶)で
琵 琶 の ナ ガ シ も、通 常 、七 五 調 の3句
も聞 か せ ど こ ろ と して行 なわ れ るが 、 筑 前
を基 本 形 と して い る。森 田 勝 浄 の伝 承 す る ナ ガ シ は、
甘 木 市 周 辺 に伝 承 され た や や 変 則 的 な か た ち が 様 式 と して 固 定 した もの だ ろ うか 。
○ オ ロ シ、 大 オ ロ シ
曲節 末 尾 に つ く付 随 的 な旋 律 で あ る。 曲節 や小 段(段 落)に
終 結 感 を もた せ るた め に、 末
尾 を メ リス マ 的 な旋 律 で声 を落 とす部 分 。 肥 後 ・筑 後 の 摩 頭 琵 琶 で い うオ トシ とお な じ。
大 き く落 とす大 オ ロ シ と、軽 い句 切 れ 程 度 の小 オ ロ シ が あ る。
上 記 の 基 本 的 な5種 類 の フ シ の ほ か に 、用 法 の 限 られ る フ シ とし て、ダ シ とチ ャ リが あ る。
○ ダシ
段 物 の 各 段 の語 りだ しに 用 い られ る。 コ トバ(カ
タ リ と も)の 一 種 で あ り、 語 りだ しの コ
トバ を、 と くに ダ シ と よん で い る。 最 低 音 域(フ
シ付 け本 で は、 「乙 」 ま た は 「一 」 と表 記
さ れ る)で 重 々 し く語 られ る。 オ ロ シ で 終 わ る。
○ チャ リ
滑 稽 な 内容 を語 る朗 誦 的 な旋 律 。 滑 稽 物 の 『
鯛 の 婿 入 り(魚 尽 く し)』 『餅 酒 合 戦 』な どで 、
と く に人 を笑 わ せ る箇 所 に使 用 さ れ る が 、長 編 の段 物 で も滑 稽 な部 分 は チ ャ リで 語 られ る。
た と え ぼ、 『名 島判 官 』 で い え ば 、 四段 目で 藤 内元 秋 が 悪 鬼 を つ か み 上 げ た と き の こ と ば、
厂や や 鬼 神 い ざ此 上 は大 阪 み るか 京 み る か ち んv取
るか 玉 とる か 」 な どは、 チ ャ リで 語
られ る。
以 上 、 森 田勝 浄 の 段 物 演 唱 に使 用 さ れ る7種 類 の フ シ につ い て述 べ た 。 コ トバ の一 種 で あ
る ダ シ、 付 随 的 な 旋 律 の オ ロ シ、 用 法 が 限 られ る特 殊 な チ ャ リを の ぞ けば 、 演 唱 の骨 組 み を
形 成 す る の は 、 コ トバ(カ タ リ)、 ノ リ、 ウ レイ 、 ナ ガ シ とい う4種 類 の フ シ に な る。 これ ら
93
第1部
口頭性 ・文字テクス ト・楽譜
4種 類 の フ シ相 互 の 接 続 の しか た は、 叙 事 的 な コ トバ(カ
タ リ)が 、 中心 曲 節(ノ
リ、 ウ レ
イ 、 ナ ガ シ)に た い し て前 置 き的 ・導 入 部 的 な位 置 に来 る。 す なわ ち、 語 りの 段 落(小
段)
構 成 と して は、
〈 コ トバ → 中 心 曲節 〉
とい うパ タ ー ンが 指 摘 で き る。 また 、 各 段 落 の末 尾 は、 段 落 に終 結 巻 を あ た え る オ ロ シ で語
り終 え、 つ ぎ に コ トバ の手 が つ づ い て あ らた な段 落(小
段)に
入 る とい うか た ちが 基 本 形 で
あ る(こ の よ う に段 落 を構 成 し なが ら語 りす す め るの は、 肥 後 や 筑 後 の座 頭 琵 琶 で も同 じで
あ る)、 こ う した 段 落(小 段)構 成 は、 森 田 本 人 に も意 識 さ れ て お り、 また 森 田 が 作 成 し た 台
本 の フ シ付 け か ら も確 認 で き るの で あ る。
5台
本 の作 成 とフ シ(曲 節)の 細分 化
さ き に述 べ た よ う に、 森 田 勝 浄 が 作 成 した 段 物 台 本 、 ⑤ 『廣 島 女 仇 討 』、 ⑥ 『名 島 判 官 』、
⑦ 『弐 子 隅 田川 』 に は、 全 段 にわ た って 詳 細 な フ シ付 け が注 記 さ れ て い る。 父 親 か ら教 わ っ
た 語 りを 、 さ ま ざ ま な符 号 を駆 使 して 記 し と どめ た もの だ が 、 そ れ ら は、 あ く まで 本 人 の 心
覚 え と して 注 記 され た 。
し た が っ て 、 詞 章 内容 や 前 後 関 係 か ら み て フ シが 自明 で あ る箇 所 に は、 い ち い ち フ シ名 を
記 さ ず 、 た だ声 の 大 小 、 強 弱 、 高 低 、 音 調 な どが 注 記 さ れ る。 と くに コ トバ(カ
タ リ)は 明
示 さ れ な い ば あ い が 多 い が 、 ノ リや ウ レ イ も、詞 章 内容 か ら 自 明 で あ る箇 所 は、 ノ リ、 ウ レ
イ で あ る こ とが 示 さ れ ず に 、 声 の大 小 、 高 低 、速 度 だ け が 注 記 さ れ る。 以 上 の こ とか ら、 森
田 台 本 に み られ る フ シ付 け は、 フ シ(曲 節)名
を明 示 した も の(a)と、 声 の 大 小 ・高 低 ・強 弱
を指 定 す る補 助 的 注 記(b)に二 大 別 され る。 い ま、 そ の2種 類 の フ シ付 け を、 森 田 の フ シ付 け
台 本 か ら抽 出 して 一 覧 す れ ばつ ぎ の よ う に な る。 まず 、 フ シ の種 類 を明 示 した もの と して 、
(a)フ
シの 注 記
○ コ トバ … … コ、 カ
○ ナ ガ シ… … ナ ガ シ、 ナ ガ 、 ナ
○ノリ
・。
・
。
・
・ノ リ、 ノ
○ ウ レイ … … ウ
○ オ ロ シ… … オ ロ シ、 オ ロ、 オ
○ ダ シ … … か ぎだ れ で 表 記 され る。
○ チ ャ リ… … チ ャ リ
この7種 類 の フ シ に 、 声 の大 小 、 高 低 、 速 度 、 強 弱 、 音 調 な ど を指 定 す る補 助 的 な 注 記 が
94
第6章
語 り物 におけ る文字テク ス ト(台 本)の 機 能(兵藤)
組 み 合 わ さ れ る。 補 助 的 注 記 に、 つ ぎの よ う な も の が あ る。
(b)声
の 大 小 、 高 低 、 速 度 、 強 弱 、 音 調 な どの 補 助 的 注 記
○大 小
… …大 コ、 大 、 中 コエ 、 中 コ、 中、 小 コ、 小
○高低
… … 高 、 タ カ 、 タ 、 小 高 、 小 タ カ 、 小 タ 、 中 タ 上 、 乙(最
○速 度
… …早 、 小 早 、 中早
○強 弱
… …力 、 小 力 、 中力 、 大 力
○音調
… … 太 、 中 太 、 ヒ太 、 大 、 中 、 小
低 音)、 オ ト
※ 大 、 中 、 小 は 、 前 述 の 声 の 大 小 を し め す 以 外 に 、 大 ノ リ(大 ウ レ イ)、 中 ノ リ(中 ウ レ
イ)、 小 ノ リ(小
○ そ の 他 … … ヒ キ(声
ウ レ イ)な
ど 、 ノ リや ウ レ イ の 調 子 の 大 小 を 示 す と き に も使 わ れ る 。
を 引 く)、 ヒ 、 ユ リ(声
を 揺 ら す)、 ユ
こ こ に 一 覧 し た 符 号 は 、 ど れ も語 り手 本 人 の 心 お ぼ え と し て 作 ら れ た も の で 、 第 三 者 の 目
を 意 識 し て 整 備 さ れ た も の で は な い 。 た と え ば 、 コ は 、 曲 節 名 の コ トバ を 意 味 す る ば あ い と、
た ん に コ エ を 意 味 す る ば あ い が あ る 。 ま た 、 大 、 中 、 小 は 、 声 の 大 小 を 指 定 す る 場 合 と、 ウ
レ イ や ノ リ の 調 子 の 大 小 を 示 す ぼ あ い が あ る。 個 々 の 符 号 が 意 味 す る も の は 、 詞 章 内 容 や 前
後 関 係 な ど か ら判 読 す る し か な い が 、 フ シ 付 け し た 本 人 に は も ち ろ ん そ の 意 味 は 判 別 で き 、
ま た 私 に も お よ そ の 検 討 は つ くの で あ る 。
フ シ名 の 注 記(a)に 、 声 の 大 小 ・高 低 ・速 度 ・強 弱 な ど を 指 定 す る補 助 的 注 記(b)が 組 み 合 わ
さ れ て 、 フ シ 付 け が 行 な わ れ る 。 た と え ば 、 「小 早 力 」は 、 や や 早 口 で 語 る カ タ リ、 「力 中 コ 」
は 、 力 を い れ て 中 く ら い 大 き さ の 声 で 語 る コ トバ で あ る 。(a)と(b)を 組 み 合 わ せ る こ と で 、 基
本 的 な4(な
い し は5)種
類 の フ シ は 著 し く細 分 化 さ れ 、 そ の 細 分 化 さ れ た も の ま で1種
類
と し て 数 え る な ら 、 曲 節 数 は 飛 躍 的 に 増 大 す る こ と に な る 。 森 田 の フ シ付 け 台 本 か ら 、 そ の
フ シ 付 け の 注 記 を す べ て 摘 記 す る と、 お よ そ つ ぎ の よ う に な る 。
○ コ トバ の 類
コ、 小 コ、 中 コエ 、 中 コ、 中 、 大 コ、 太 コ、 中 太 コ、 太 中 コ、 カ、 小 力 、 中 力、 中 カ コ、
力 中 コ、 カ コ カ 、 早 、 小 早 、 小 早 力、 早 力、 早 コ、 早 中 コ、 中 早 コ、 中 コ早 、
力 中 コ早 、 太 コ早 、 高 ク、 タ 、 小 タ、 小 タ カ 、 タ カ、 小 高 コ、 タ コ、小 タ コ、 小 コ タ、 タ
小 コ、 中 タ 、 タ 中 、 タ 中 コ 、 カ タ 中 コ 、 高 太 コ 、 ヒ、 中 ヒ 、 ピ コ 、 中 ピ コ 、 中 コ ヒ 、 中 コ
ヒ キ 、 ヒ 太 、 ヒ 太 コ 、 ヒ 中 太 コ 、 ユ リ 中 、 ユ 、 ユ 小 、 ユ 中 コ 、 中 コ ユ 、 乙 、 オ ト、 上 、 上
ゲ、力
○ ナ ガ シ の類
ナ ガ シ、 ナ ガ 、 ナ
○ ノ リの 類
95
第1部
口頭性 ・文字テクスト・楽譜
ノ リ、 ノ 、 大 ノ リ、 大 ノ 、 中 ノ リ、 中 ノ、 タ ノ 、 早 ノ リ、 早 ノ、 ノ リ コ
○ ウレイの類
ウ、 中 ウ、 乙 ウ
○オ ロシの類
オ ロ シ 、 ヲ ロ シ、 オ ロ、 オ 、大 オ ロ シ、 大 オ ロ 、 オ ー オ ロ、 タ カオ 、 中 オ タ 、 オ ヒ、 ヲ ヒ、
ヒ
○ チャ リ
チャ リ
もち ろ ん 上 に列 挙 した もの の 中 に は、 同 じ もの が 別 の仕 方 で 表 記 さ れ た とい う もの が 少 な
くな い。 しか し逆 に、 「大 」 「中」 「小 」 「高 」 「早 」,「
太 」 な どの 補 助 的 注 記 は、 相 互 に組 み合
わ さ れ て(た
と え ば 「小 早 高 」 「高 太 早 」 な ど)、 そ れ ぞれ が コ トバ(カ タ リ)、 ノ リ、 ウ レ イ
に つ く可 能 性 が あ る。 理 屈 の うえ か らい え ぼ、 細 分 化 さ れ る フ シ の種 類 は、 上 に一 覧 し た も
の よ りも、 さ ら に数 が 多 い こ とに な る。
こ う した 細 分 化 さ れ た フ シや 声 の使 い わ け は 、 か な らず し も師 匠(父 親)の 順 光 が 意 識 し
て 行 な っ て い た も の で は な い だ ろ う。 また 弟 子 に教 え る さい に、 こ こ は力 を入 れ て 中 位 の大
き さ の声 で 早 く語 る(「 力 中 コ早 」)な ど とい ち い ち 指 示 して い た と も考 え に くい 。 森 田勝 浄
は 、師 匠 が 口述 す る文 句 を 書 き とめ て 台本 化 し た あ とで 、教 わ った 語 りを忘 れ な い た め に(と
き に は 師 匠 に確 認 した りし なが ら)フ シ名 や発 声 方 法 を書 き込 ん で い った もの だ ろ う。 森 田
台 本 の フ シ付 け は、 記 譜 法 と して は全 く未 整 理 な 段 階 に あ るが 、 しか し そ の分 だ け、 記 譜 法
が 確 立 され て ゆ く以 前 の 、 そ の過 程 を うか が わ せ る資 料 と し て貴 重 で あ る。
語 りは文 字 テ ク ス ト化 され る こ とで 、 そ の 言 語 的 側 面(文
句)を
る こ とが 可 能 に な る 。 また 、 同 じ よ う に し て 、 音 楽 的側 面(フ
、 それ 自体 とし て抽 出 す
シ)も 、 文 句 か ら切 り離 して
対 象化 す る こ とが 可 能 に な る。た とえ ば、熊 本 県 南 関 町 の 座 頭 琵 琶 奏 者 、山鹿 良 之(1901∼96)
か らの 聞 き取 り調 査 で 私 が 最 も苦 労 し た の は 、 そ の フ シ に つ い て の 説 明 で あ る。 フ シ に つ い
て 聞 き取 り調 査 を して も、 フ シ にか んす る説 明 は特 定 の 外 題 に即 して き わ め て 具 体 的 に行 な
わ れ る。 フ シ の種 類 や 特 徴 な ど、 抽 象 度 の 高 い 包 括 的 な 説 明 は容 易 に引 き出 せ な い。 オ ー ラ
ル な 語 り物 の 伝 承 に あ って 、 語 りの こ とぼ は文 句=フ
シ の未 分 化 な 複 合 体 と し て しか存 在 し
な い(11)。
語 りか ら フ シ(あ
るい は文 句)だ
け を抽 出 す る思 考 は、 語 り を文 字 テ ク ス ト化 す る作 業 と
不 可 分 な 観 点 の よ うな の だ 。 す で に述 べ た よ う に、 森 田 勝 浄 が使 用 す る フ シ は、4な
い しは
5種 類 に大 別 さ れ るが 、 コ トバ(カ タ リ)、 ウ レ イ、 ノ リは 、 そ れ ぞ れ が 大 き な幅 を か か え て
い る。 最 も使 用 頻 度 の 高 い コ トバ(カ
タ リ)の ば あ い 、 朗 誦 的 な コ トバ と吟 誦 的 な コ トバ が
あ り、 ウ レイ や ノ リに移 行 す る箇 所 で は、 ウ レ イ カ カ リ、 ノ リカ カ リ と もい うべ き中 間 的 な
コ トバ に な る。 また 、 中 間 的 とい っ て も、 フ シ まわ しが 中 間 的 な も の と、 合 い の手 だ けが ウ
96
第6章
語 り物 に お け る文 字 テ ク ス ト(台 本)の
機 能(兵 藤)
シラビック
レイ や ノ リの 手 に な る場 合 もあ る。 さ ら に、 地 語 りの コ トバ に は、 拍 節 的 な 部 分 とそ う で な
い 部 分 が あ り、 会 話 や 心 中思 惟 で は声 色 を使 うな ど し て、 語 りの 局 面 に 応 じた 微 妙 な語 りわ
けが 行 な わ れ る。 コ トバ は使 用 範 囲 が 広 い ぶ ん だ け、 き わ め て 大 き な幅 とヴ ァ リエ ー シ ョ ン
を許 容 す るの だ が 、 そ の よ うな 幅 を抱 え 込 ん だ す べ て が 、 森 田 が い う と こ ろの 「ふ つ う に ゆ
うて ゆ く」 コ トバ で あ る。
同 じ こ と は、 基 本 的 に ほ か の フ シ に つ い て もい え る。 そ れ ぞ れ の フ シ が 一 定 の旋 律 特 徴 を
もち な が ら も、 じっ さい に現 わ れ る とき は、 局 面 に応 じ た微 妙 な 語 りわ けが 行 なわ れ る。 そ
れ ぞ れ の フ シが 曖 昧 な 幅 を抱 え て い て、 か りに客 観 的 な記 述 と分 析 に も とつ い て 下 位 分 類 を
試 み る な ら、 フ シ の 数 は4(5)種
類 の 数 倍 に は な るの で あ る。 森 田台 本 にみ られ る多 様 な
フ シ付 け、 す な わ ち基 本 的 な フ シ名 の 注 記(a)に、 声 の 大 小 ・高 低 ・強 弱 を指 定 す る補 助 的 注
記(b)を多 様 に組 み合 わ せ る とい う フ シ付 けの 方 法 は、 師 匠 の 自在 な語 り口 を、 文 字 テ ク ス ト
に 定 着 さ せ るた め の最 大 限 の工 夫 だ った ろ う。
しか し どれ ほ ど細 か く類 別 した とし て も、 語 り手 の 気 分 や場 の 雰 囲 気 な ど に応 じた、 一 回
的 な ヴ ァ リア ン トの す べ て を お お う フ シ 付 け は不 可 能 で あ る 。む し ろ語 り手 の側 か らい え ぼ 、
フ シの 規 範 性 が ゆ る く、 それ ぞ れ の フ シ が 曖 昧 な幅 をか か え て い る こ とで 、 逆 に局 面 に 応 じ
た 自在 な演 唱 が 可 能 に な る。 物 語 内 容 に 即 し て微 妙 な ニ ュ ア ンス を表 現 し、 多様 な演 唱 機 会
や 聴 衆 に柔 軟 に対 応 で き る の は 、 そ れ ぞ れ の フ シ が 、 曖 昧 な幅 を抱 え る(規 範 性 の ゆ る い)
い わ ば プ レ旋 律 型 的 な旋 律 型 だ か らで あ る。
そ の よ うな 曖 昧 か つ 柔 軟 な フ シの あ り方 が 、 文 字 テ ク ス トの作 成 と、 そ の フ シ付 け作 業 の
過 程 で 急 速 に失 わ れ て い くので あ る。 語 りを テ ク ス ト化 し て習 得 した 森 田勝 浄 の 語 りは 、 師
匠(盲 人)の
語 り と表 面 的 に は似 て い て も、 実 質 は お よ そ か け離 れ た もの に な って いた こ と
が想 像 さ れ る。
6「
平家 」 語 りか ら近 世 平 曲へ
蓄 そ ら く中 世 の 「平 家 」 も、 語 りの習 得 や 記 憶 の便 宜 の た め の 文 字 テ ク ス トが 介 在 した こ
とで 、 は じ め て 曲節(フ
シ)は そ れ 自体 とし て(文 句 か ら独 立 させ て)観 察 す る こ とが 可 能
に な った ろ う。 さ らに 近 世 の節 付 け本 の 作 成 は、 そ れ まで 個 々 の 語 り手 の裁 量 に まか さ れ て
い た 曲 節 の 曖 昧 な幅 を、 記 述 ・分 析 の対 象 とす る よ う に な る。 す な わ ち 、 「音 曲 はた ぐ其 身 の
堪 否 に よ るべ し」(『当 道 要 抄 」)と い わ れ 、 「或 は大 音 に し て あ ら り と語 る も有 り、 或 は小 音
に して 優 美 にか た る も あ り、 是 皆 人 の思 ひv心
々 に侍 べ し」(同)と
い わ れ て い た 語 りが 、
細 部 にわ た っ て様 式 化 ・固 定 化 され て ゆ くの で あ る。
た とえ ば、 近 世 初 頭 に成 立 した 『当道 要 抄 』 に は、
平 家 の 音 曲 と云 は、 中 音 、 初 重 、 折 声 、 胸 声(峯
声 と も云 り)、 指 言(指 声 と も云 り)、
97
第1部
口頭性 ・文字テクス ト・楽譜
拾 、 し ら声 、 これ 也 。 但 、 折 声 も胸 声 も同 じ事 也
とあ る。 「平 家 」の 曲 節 に は7種 類 が あ る とい うの だ が 、 た だ し 「折 声 も胸 声 も同 じ事 也 」 と
あ るか ら、 実 質 は6種 類 に減 っ て し ま う。上 記 の6(7)種
類 の 曲 節 の 中 に は、 「平 家 」語 り
で最 も多 用 され る 口 説 が 数 え られ て お らず 、そ れ はふ つ う に語 る地 語 り的 な旋 律 とし て 、「平
家 の 音 曲 」 とし て取 り立 て て上 げ る よ うな もの で は な か った ら しい 。 そ の こ とは、 盲 僧 琵 琶
の コ トバ(カ
タ リ)が 、 地 語 り的 な 「ふ つ う に ゆ うて ゆ く と ころ 」 とし て 曲 節 名 に ゆ れ が あ
り、 フ シ付 け本 で も し ば し ば フ シ名 が 記 さ れ な い こ と と も関 連 して 興 味 深 い の で あ る 。
しか し近 世 中 期 に成 立 し た 当道 の 伝 書 、 『当道 拾 要 録 』(一 般 に 『当 道 要 集 』 の書 名 で 流 布
す る(12))によれ ば 、 平 家 琵 琶 の 元 祖 、 生 仏 が は じめ た 「平 家 」の 曲節 は 、 「く どき、 拾 い 、 三
重 、 初 重 、 中 音 、 中 ゆ り、 さ し声 、 折 声 、 甲 の声 、 む ね の声 、 一 の 声 、 二 の 声 、 歌 、 祝 詞 、
読 物 」 の15種
だ った とい う。 もち ろん それ は 近 世 中 期 の伝 承 に過 ぎ ず 、 「平 家 」 語 りが 当初
か ら15種 類 もの細 分 化 され た 曲節 を も っ て い た とは考 え が た い。 だ が そ の15種
類 とい う の
も、 『当道 拾 要録 』が 編 まれ た江 戸 中 期 の平 曲 か らす れ ば、 か な り少 な め に見 積 もっ た 曲 節 数
であった。
た と え ば 、 安 永5年(1776)に
名 目」で25種
完 成 し た平 曲 譜 本 『平 家 正 節 』(荻 野 知 一 編)は 、 冒頭 の 「節
類 の 曲 節 名 を列 記 して い る 。 また 、 明 治 の 平 曲研 究 者 で あ り、 じ しん 平 曲 家 で
もあ った 館 山 漸 之 進 に よれ ば、 『
平 家 正 節 』 の 本 文 か ら は33種 類 の 曲節 が 数 え られ る と い う
(付 属 的 な 曲 節 を加 えれ ば40種 近 くに の ぼ る)。 近 世 中 期 に は、 平 曲 は その 曲節 数 を飛 躍 的
に増 大 させ つ つ あ っ た の だ が 、 こ の よ うな 曲 節 数 の増 加 に つ い て 、 館 山漸 之 進 は つ ぎの よ う
に 述 べ て い る(13)。
平家 の曲名、 岡村玄川訂正 『
平 家 吟 譜 』(元 文2年<1737>成
立 一兵 藤 注)の 曲 名 は、 二
十 七 種 に し て 、 荻 野 検 校 更 正 『平 家 正 節 』の 曲名 は 、 三 十 三 種 た り。 『当 道 要 集 』(『当 道
拾 要 録 』を さす)に 、 生 仏 の 時 、 平 家 の音 曲 は、 口説 、 初 重 、 中 音 、 三 重 、 折 声 、 胸 声 、
指 声 、 拾 、 素 声 等 十 五 の音 調 な り と云 ふ 。 思 ふ に創 業 の 時 は、 未 だ 完 備 せ ず 。 明 石 覚 一
検 校 之 れ を補 足 し、 漸 々増 加 し、 先 二 十 七 種 に至 り、 而 して 荻 野 検 校 は更 に 之 れ を増 加
せ る の観 あ る な り。
平 曲 が 芸 能 と して 完 備 す る に した が っ て 、曲節 数 も15種 か ら27種 、そ して33種
増 加 した と い うの で あ る。 た しか に 、 曲 節(フ
へ と漸 次
シ)の 種 類 は、 室 町 時 代 を つ う じて 、 「平 家 」
語 りが 様 式 的 に 固定 化 す る の に と もな っ て 漸 次 か ず をふ や した だ ろ う。 だ が 曲 節 数 を飛 躍 的
に増 大 させ た 最 大 の き っ か け は、 近 世 に お け る平 曲 譜 本 の作 成 作 業 で あ っ た 。
た とえ ば 、金 田 一 春 彦 は、30種 あ ま り とい わ れ る平 曲 の 曲 節 を整 理 す る と、 口説 の 類 、 初
重 の 類 、 折 声 の類 、指 声 の 類 、 拾 の類 、 素 声(白 声)、 の6種 類 に わ け られ る とい う(14)。また
薦 田 治 子 は 、 「平 家 」の 曲節 は、 も とは 原 口説 、 原初 重 、 原 中 音 、 原 三 重 とい う4種 類 の 原 曲
節 か ら な り、 そ れ らが 中世 以 降 、 し だ い に30数 種 類 に ま で分 化 して き た 過 程 を想 定 し て い
る(15)。
両 説 と もに 、 か つ て の 「平 家 」語 りが5種 類 前 後 の 基 本 曲節 に よ っ て 演 じ られ て い た
98
第6章
語り物における文字テクスト(台本)の 機能(兵藤)
こ とを想 定 した もの で 、 基 本 的 に妥 当 な 見 解 とい え よ う。
す で に く り返 し述 べ た よ うに 、 室 町 時 代 の後 期 、 厂
平 家 」語 りは正 本(文 字 テ ク ス ト)を 意
識 した こ とで 、 しだ い に語 り口 を 固 定 化 さ せ ざ る を え な か っ た ろ う(『 平 家 物 語 の 歴 史 と芸
能 』 第 一 部 、吉 川 弘 文 館 、2000年 、 ほ か)。 そ し て近 世 に節 付 け本 が作 ら れ る に お よ んで 、 そ
れ ま で個 々 の 曲節 が か か え て い た 曖 昧 な 幅 が 、客 観 的 な記 述 ・分 析 の対 象 に な る。そ して い っ
た ん類 別 され 、パ タ ー ン化 され た フ シ(旋 律 型)は 、 こん ど は規 範 と して個 々 の演 唱 を拘 束 す
る よ うに な る。 あ る一 つ の フ シ は、 どの 章 段(句)に 使 用 され て も、 す べ て 一 律 の メ ロ デ ィ・
タ イ プ(旋 律 型)と
して 現 わ れ る。 曲節 数 の増 加 が 、 じつ は語 りの様 式 的 な 固 定 化 と表 裏 の
関 係 に あ った わ け で 、 そ こに、 節 付 け どお りに 詞 章 を 口演 す る近 世 声 楽 曲 とし て の 「平 曲」
が 成 立 す る。
語 り手 と物 語 世 界 との あ い だ に強 固 な 規 範 的 な テ ク ス トが 介 在 す る よ う に な る の で あ る。
テ ク ス ト化 され た語 りを 口演 す る 「平 曲 」 に お い て は、 聴 き手 はか な らず し も存 在 す る必 要
は な い だ ろ う。 聴 き手 に物 語 を語 り聞 か せ る の で は な く、文 字 テ ク ス トを一 字 一 句 、 ゴ マ 点
一 つ に も落 ち度 な く口演 す る 「伝 統 芸 能 」 と して の平 曲 が成 立 す る の だ が 、 そ の よ うな 文 字
テ ク ス トの 口演 に お い て 、 演 者 は し ば し ば物 語 内 容 を理 解 しな くて も演 唱 は成 り立 っ て し ま
う。近 世 の平 曲 指 導 書 が 、平 曲演 奏 の 心 が ま え と して 、「まず平 家 を知 る べ し」(『
西 海 余 滴 集 』)、
「まず 文 意 を心 に解 して 」(『追 増 平 語 偶 談 』)など と く りか え し強 調 し て い るの も、 そ の よ う
な こ とが 強 調 さ れ ざ る を え な か った こ と 自体 、文 字 テ ク ス トに規 制 さ れ た 平 曲 が 、 当 時 ど の
よ うな もの に変 質 しつ つ あ っ た か を う か が わ せ る。 語 りの文 字 テ ク ス ト化=台
本化 に ともな
う語 る行 為 の変 質 は 、 中世 の 厂平 家 」 語 り と近 世 平 曲 との 質 的 な差 異 を考 え る う えで 、 ど れ
ほ ど強 調 し て も強調 しす ぎ る こ と は な い の で あ る。
7文
字 テ クス トの 成立 と語 りの 変質
台 本 の 成 立 に と も な う語 る行 為 の変 質 は、 中 世 の 「平 家 」 語 り と近 世 平 曲 との距 離 を測 定
す る う えで 、 第 一 に注 意 す べ き問 題 で あ る。 そ れ は お そ ら く、 芸 能 伝 承 にお け る 中世 と近 世
の 問 題 を考 え る う えで 、 あ る普 遍 的 な観 点 を提 供 す る の だ が 、 そ の よ うな 語 り と文 字 テ ク ス
ト との 関 係 を具 体 的 に考 察 す る試 み と し て 、小 稿 で は 、近 代 にお け る筑 前 盲 僧 琵 琶 の 台 本 化
の 過 程 につ い て 考 えた の で あ る。
明 治 初 年 まで の 筑 前 盲 僧 琵 琶 は、 コ トバ(カ タ リ)、 ノ リ、 ウ レ イ 、 ナ ガ シ とい った 基 本 的
な4種 類 の フ シ に よ っ て語 られ て い た 。 しか し近 代 に は い って 盲 僧 琵 琶 の 伝 承 が もっ ぱ ら晴
眼 者 に よ っ て担 わ れ 、 習 得 の 便 宜 の た め の文 字 テ ク ス トが 作 成 さ れ る にお よ ん で 、 そ れ ま で
語 り手 の 裁 量 に まか さ れ て い た(フ
シ ご との)微 妙 な語 りわ けが 、 客 観 的 な記 述 ・分 析 の対
象 とな る。
99
第1部
口頭性 ・文字テクス ト・楽譜
語 り は文 字 テ ク ス ト化 され る こ とで 、 そ の 音 楽 的 側 面 を それ 自体 と し て(文 句 か ら切 り離
して)把 握 す る こ とが 可 能 に な る。 そ して記 述 ・分 析 の対 象 とな っ た フ シ は、 そ の 曖 昧 な 幅
を類 別 ・細 分 化 した か た ち で 台 本 に表 記 さ れ て ゆ く。 声 の 大 小 ・高低 ・速 度 ・強 弱 ・音 調 な
どが 指 定 さ れ た 結 果 、 フ シ の種 類 は、 フ シ付 け本 の作 成 作 業 と と も に飛 躍 的 にそ の 数 を増 大
させ て ゆ く。 そ の 間 の 経 緯 は、 森 田勝 浄 が作 成 した フ シ付 け台 本 が 具 体 的 に伝 えて い る の で
あ る。
と こ ろ で 、 明 治20年
1848∼1919)は
代 に盲 僧 琵 琶 の 改 良 に 尽 力 し た 市 丸 智 定(の
ちの 初 代 橘 旭 翁 、
、 父 親 の 妙 福 坊 の あ とを継 い だ 晴 眼 盲 僧 で あ っ た 。近 代 の筑 前 琵 琶 を創 出 し
た 第 一 の 功 労 者 で あ る智 定 が 父 親 の稼 業 を つ い だ 当 時 の 盲僧 琵 琶 も、4(な
程 度 の フ シ で 語 られ る柔 軟 な"語
い し は5)種
類
り"だ っ た はず で あ る。 個 々 の フ シ は曖 昧 な 幅 をか か え る
プ レ旋 律 型 で あ り、 また そ の よ うな規 範 性 の ゆ る い フ シ に よ っ て 、 多 様 な聴 衆 や 演 唱 機 会 に
柔 軟 に対 応 した 段 物 演 唱 の パ フ ォー マ ン ス も行 なわ れ た だ ろ う。 そ の よ うな筑 前 盲 僧 琵 琶 の
くず れ の 演 唱 が 、 台 本 の 作 成 と と も に急 速 に様 式 化 ・固 定 化 し て い くので あ る。
市 丸 智 定 の 初 期 の 台 本(も
ち ろん 現 存 して い な いが)も
、 当初 は本 人 だ けの 心 お ぼ え と し
て作 られ た もの だ ろ う。 自明 な箇 所 に は フ シ は明 記 さ れ ず 、 た だ音 の 大 小 ・高低 ・速 度 ・強
弱 ・音 調 を指 示 す る とい う、 森 田 台 本 と似 た よ う な フ シ付 け本 だ っ た と想 像 され る。 しか し
薩 摩 琵 琶 に対 抗 して筑 前 琵 琶 の改 良 と普 及 をめ ざ した 智 定 は、 素 人 の 愛 好 家 にむ け て、 誰 に
で も判 読 可 能 な記 譜 法 を整 備 して ゆ くの で あ る。
か れ が 作 成 した フ シ付 け本 で は、 音 高 は 、 低 い 方 か ら順 に 「乙 、 一 、 二 、 三 、 四 、五 、 六 、
七 、 甲 」 の9段
階 に 区 分 され 、 そ れ らは台 本 の 各 行 の頭 に注 記 さ れ る。 盲 僧 琵 琶 の聞 か せ ど
ころ で あ る ナ ガ シ は 、 筑 前 琵 琶 で は春 節 、 夏 節 、 秋 節 、 冬 節 な ど に区 分 さ れ る。 す な わ ち 、
「華 美 に唄 ふ 」 ナ ガ シ を春 節 と名 づ け、 「強 く活 発 に唄 ふ 」 ナ ガ シ は 夏 節 と称 し、 「軽 く涼 し
く唄 ふ 」ナ ガ シ を秋 節 と呼 び 、 「凛 と して冷 か に唄 ふ 」ナ ガ シ を冬 節 と名 づ け、 それ ぞ れ に大
春 ・小 春 な ど の下 位 区 分 を も う けて い る(16)。
また 、 ナ ガ シ の一 変 種 で あ る地 節(競
い 節 と も)は 、 地 節 、 競 い 節 の ほ か 、 山越 節 、 大 和
節 、 筑 前 節 、 玉 節 、 露 節 、 波 節 、 雲 節 、 月 節 、 旭 節 、 夕 日節 な ど に分 け られ る。 さ らに 琵 琶
の弾 き手(弾
法)は
、 一 般 の手 、 悲 哀 の手 合 、 勇 壮 な手 に大 別 した う え で 、 それ ぞ れ の 弾 き
手 ご と に花 の 名 や 鳥 の 名 を冠 した名 称 が つ け られ る。 名 づ け られ た 弾 き手 の 数 は100種
類以
上 に及 ん で い るが 、 そ れ ぞ れ の弾 き手 は 、 そ れ に対 応 す る一 定 の フ シ まわ し を と もな って い
る。 弾 き手 に対 応 す るか た ち で 、地 語 り的 な コ トバ が詳 細 に下 位 区 分 さ れ た のだ が 、 そ れ は
要 す る に、語 りを文 字 テ クス ト化 した こ とに と も な う、演 唱 法 と琵 琶 の 奏 法 の両 面 にわ た る、
琵 琶 語 りか ら筑 前 琵 琶 歌 へ の質 的 な 大 転 換 で あ っ た(17)。
精 緻 な 節 付 け台 本 が 作 られ た こ とで 、 プ ロの 芸 人 仲 間 だ け に通 用 す る よ う な(た とえ ぼ 「体
で 覚 え る」 とい っ た よ う な)非 合 理 的 な わ ざの 伝 授 か ら、 一 般 に も開 か れ た 教 授 シ ス テ ム が
確 立 さ れ て ゆ く。 そ して 筑 前 新 式 琵 琶 の創 始 者 とな り、 自 ら宗 家 を称 した 市 丸 智 定 、 改 名 し
100
第6章
て 初 代 橘 旭 翁 は、 自分 で 作 詞 ・作 曲 した100曲
語 り物 における文字テクスト(台本)の 機能(兵藤)
あ ま りの 琵 琶 歌 を 「初 段 」 「中 段 」 「奥 段 」 「皆
伝」「
秘 曲」 に わ け、 そ の免 状 に も、 「初 伝 」 に は じ ま り 「中伝 」 「雅 号 」 「奥 伝 」 「
称 号 」 「皆
伝」「
総 伝 」 「院 号 」 「教 授 」 「教 師 」 「師 範 」 「大 師 範 」 「宗 範 」に い た る体 系 的 な 伝 授 シス テ ム
を確 立 さ せ るの で あ る。 そ して 明 治30年
代 以 降 、 筑 前 琵 琶 が 全 国 的 に 流 行 して い くな か で 、
教 本 と して の 琵 琶 歌 集 もつ ぎ つ ぎ に刊 行 され て ゆ く。 フ シ付 け本 の 作 成 と刊 行 に は、 近 世 の
謡 本 の刊 行 や 平 曲譜 本 の 作 成 が そ うで あ った よ う に、 家 元 制 度 的 な 教 授 シ ス テ ム の整 備 ・拡
大 とい う要 因 が 働 い て い た の で あ る。
筑 前 盲 僧 琵 琶 か ら筑 前 琵 琶 が 生 み 出 さ れ た 過 程 は、 台 本 が介 在 す る こ とで語 り物 が 変 質 す
る し くみ を典 型 的 な か た ちで みせ て い る。 語 り物 と して の筑 前 盲 僧 琵 琶 が 明 治 期 に体 験 した
急 激 な変 化 は、 「平 家 」語 りが 中世 末 か ら近 世 にか けて体 験 した変 化 を集 約 的 な か た ち で み せ
て い る の で あ る。
室 町 時 代 の 後 期 、 当 道 の 座 組 織 が組 織 的 な 求 心 性 を う し な うに つ れ て、 座 を維 持 す る た め
の権 威 的 な拠 り ど ころ とし て の正 本 が 、座 の外 部 に流 出 した こ とは べ つ に述 べ た(18)。そ して
晴 眼 者 に よ って 転 写 さ れ 、 そ の数 をふ や した 文 字 テ クス トは、 しだ い に演 唱 の規 範 と して 意
識 され る よ う に な る。 文 字(書 物)と
い う媒 体 の規 範 性 ・権 威 性 が そ う させ た の だ が 、 さ ら
に江 戸 期 に な っ て徳 川 将 軍 家 の式 楽 に列 せ られ た 「平 家 」 は、 一 部 の 晴 眼 者 の あ い だ に愛 好
者 を獲 得 して ゆ く。 そ して 江 戸 や 名 古 屋 の 前 田流 平 曲 家 の あ い だ で 家 元 制 度 的 な 教 授 シ ス テ
ム が 整 備 さ れ 、そ の 過 程 で制 作 さ れ た の が 、 『平 家 吟 譜 』(1737年 、岡村 玄 川 編)、 『
平家 正節』
(1776年 、 荻 野 知 一 編)な
どに代 表 さ れ る近 世 の 節 付 け台 本 で あ る。
今 日、 名 古 屋 と仙 台 の 平 曲家 が 伝 えて い る の は、 い ず れ も 『
平 家 正 節 』 系 統 の 「平 曲」 で
あ る。 平 曲譜 本 の決 定 版 と もい え る 『
正:節』 の 制 定 に よ っ て、 伝 承 は文 字 どお り 「正 」 に帰
一 した の だ が 、 そ れ は しか し、 平 曲伝 承 と して の 『
平 家 正 節 』 の正 統 性 よ り も、 節 付 け本 の
作 成 と流 布 に よ っ て 引 きお こさ れ た 、 あ る転 倒 し た事 態 の本 質 を うか が わ せ る。 譜 本 編 者 ら
の研 鑽 に もか か わ らず 、 「平 家 」の 真 正 な る語 り方 、 す な わ ち 「正 節 」 な どは じめ か ら存 在 し
な か った の で あ る。 平 曲 伝 承 の 『
平 家 正 節 』 へ の一 元 化 は、 お そ ら く近 世 平 曲 が 確 立 ・完 成
す る そ の最 終 段 階 と して 意 義 が あ る。 そ れ は要 す る に、 出 版 と家 元 制 度 とい う近 世 的 メ デ ィ
ア に よ っ て つ く りだ さ れ た 、 中世 伝 統 芸 能 と して の 「平 曲」 だ っ た 。
〔
注〕
(1)加
藤康昭 『日本盲人社会史研究』(未来社、1974年)、 永井彰子 『
福岡県史
文化史料編 盲僧 ・座頭』
(1993年)
(2)永
井彰子、注(1①
の書。
(3)平
井武夫 「荒神琵琶 と筑前琵琶」(『
福岡県郷土芸術 ・「
音芸」の巻』1936年3月)
(4)は
じめに くずれの伝承が絶え、 しだいに荒神祓い等の読経のさいにも琵琶が使用 されな くなっていっ
た。
兵藤「座頭(盲僧)琵琶の語 り物伝承 についての研究(⇒一一文字テクス トの成立 と語 りの変質」(『成
101
第1部
口頭性 ・文 字テ クス ト・楽譜
城 国文 学 論 集 』 第26輯
(5)五
、1999年3月)
穀 成 就祭 の行 な わ れた 日付 と場 所 、 お よ び参加 した盲 僧 名 とそ の役 割 分 担 を記 した 記 録(天 保2年
∼ 昭和19年)が
、 釜堀 養 元 氏 所 蔵 『
五 穀 成就 張 』 で あ る(『 日本 庶 民 生 活史 料 集 成 』第17巻
く三 一 書 房、
1972年 〉 に翻 刻 され る)。そ れ に よれ ば、大 正 か ら昭和 初 期 に は、 この 地 方 だ けで20数 名 の盲 僧(晴 眼 盲僧
も含 む)が い た こ とが確 認 で き る。
(6)宝
山坊 森 田順 光 は、慶 応2年(1866)に
上 座 郡 日奈 代 村(現 在 の甘 木市 福 光 町)に 農 家 の長 男 として生
まれ た 。17歳 で トラホ ー ム をわ ず らっ て視 力 を失 い 、金 川 村 中 島 田(現 在 の甘 木 市 金川 町)の 盲 僧 、 石橋 順
学 に弟子 入 りしたが 、 お とう と弟 子 に は、 国武 礼 浄(盲 人 。 国 武諦 浄 の 父)の ほか 、現 在 の 筑紫 野 市 石 崎 か
ら来 た藤 木 本覚(盲 人)が い た。 石橋 順 学 が 明 治25年(1892)に52歳
三 男)が
で死 去 した とき、順 学 の子 供(一 女
まだ小 さ く、 「
弟 子 親 方 」 の順光 に面 倒 をみ て くれ とい うこ とで 、順 光 は長女 シカ ヲ と結 婚 し、義
理 の弟3人 の面 倒 をみ た。 や が て 長男 の勝 浄 が生 まれ 、順 光 一家 は、 明 治37年
に金川 村 中 島 田 で新 居 をか
まえた 。順 光 は、住 み込 みの 弟 子 数名 をか か え、 また琵 琶 の 名手 で もあ った た め、何人 か の 通 い の弟 子 の面
倒 もみ て いた 。 明治 末 年 に は朝 倉 郡玄 清 部 の 「
取 締 」をつ とめ(前 掲 『
五穀 成 就 帳 』)、大 正 初年 に は宝 山坊
を あ らた めて宝 山院 と称 し、 昭 和6年(1931)に65歳
で 他 界 した。
森 田順 光 の も とに住 み込 みで 弟 子入
りした 者 に、佐 賀 県 出 身 で の ち に甘木 市 佐 田 町 に住 ん だ手 島 正行(晴 眼 者 、1885∼?)、
小 石 原村 鼓 か ら来
た小 林 信 行(晴 眼 者)、 盲 人 の郷 原 明 順 と田 中光 栄 が いた 。 ほか に琵 琶 を習 い に きた通 いの 弟子 に、 さ きに
述 べ た 光 正 坊 高瀬 正 順 、礼 楽 坊 国 武諦 浄 な どが いた 。 また 、 師 匠 の正 光 坊石 橋 順 学 の息 子(順 光 に とって義
理 の弟)が 三人 い たが 、三 男 が 智 伝(1886∼?)と
名 の っ て正光 坊 を つ ぎ、 琵琶 は順光 か ら習 った。
(7)兵
藤 、 注(4)の論 文 に、⑥ 『
名 島判 官 』 の三 段 目の み を翻 刻 した。
(8)兵
藤 、 注(4)の論 文 に、⑦ 『
弐 子 隅 田川 』 の全 段 を翻 刻 した 。
(9)こ
れ らの端 唄 の文 句 は、 釜 堀 養元 氏 所 蔵 の盲 僧 琵 琶台 本 『
端 唄』(コ ピー が、 福 岡 県立 図 書 館蔵 『
盲僧
琵 琶 資 料 』 日 に収 め られ 、 『日本 庶民 生 活 史 料集 成 』 第17巻(三
(10)肥
一書 房 、1972年)に
翻 刻 され て い る。
後・
筑 後 の座 頭 琵 琶 の伝 承 につ い て は、兵 藤 「
座 頭 琵 琶 の語 り物 伝 承 に つ いて の研 究 ←う
」(『埼 玉 大 学
紀 要 ・教:養学部 』第26巻
、1991年3月)、
参 照。
(11)兵
藤 、 注⑩ の論 文 。
(12)『
当 道 要 集 』の書名 で流 布 す る 『当道 拾 要録 』が 、 じつ は近世 中期 に作 られた 当道 伝 書 で あ り、 中世 以
来 の伝 承 な どで な い ことは、 拙 稿 「当道 祖 神伝 承 考 一中世 的 諸職 と芸 能 」(兵 藤 『
平家 物 語 の 歴 史 と芸 能 』
第 二 部 第 一 章 、 吉川 弘 文館 、2000年)に
述 べ た。
(13)館
山漸之進 『
平 家 音 楽史 』(1910年)813頁
(14)金
田一春彦 「
前 田流 平 曲 の メ ロデ ィにつ い て」(『日本 文 学 研 究 』1952年3∼4月)
。
(15)薦
田治子 「
平 曲の音 楽 史 的 研 究 に 向 けて 」(『軍 記 文学 研 究 叢 書 第七 巻 、 平 家物 語 一批評 と文 化 史 』汲 古
書院 、1998年)
(16)大
坪草二郎 『
筑 前 琵 琶物 語 』(葦 真 文 社 、1983年)
(17)な
お 、 筑 前 琵琶 の 曲節 や弾 き手 等 に つ いて は、 筑 前 琵琶 奏 者 、 片 山旭 星 氏 の ご教 示 を えた。
(18)兵
藤 『
平 家物 語 の歴 史 と芸 能 』 第一 部 第 三章(吉 川 弘文 館 、2000年)
102