タンクローリーの安全配送への取組み

タンクローリーの安全配送への取組み
EMG マーケティング合同会社
営業供給企画統括部
配送部
宇多村
武
司
.はじめに、東燃ゼネラル石油と EMG マー
ゼロの達成に加え、 年連続で人身事故ゼロ、
ケティングによる配送について
年連続で漏油事故もゼロとなり、いわゆる安全
1893年に事業を開始、2000年にモービル石
のトリプル・ゼロを達成することができました。
油・エッソ石油・ゼネラル石油、東燃の
社が
統合しエクソンモービル・ジャパングループが
形成されました。2012年、東燃ゼネラル石油の
もと、精製・販売が実質的に一体化した新たな
東燃ゼネラルグループが誕生しました。
現在、製油所
千葉
か所体制(川崎、堺、和歌山、
原油処理能力日量69万
千バレル)のも
と、3,423か所の系列給油所の内、約2,700か所
の配送を約300台(契約運送会社12社)の車両を
使いグループ会社である EMG マーケティング
図
合同会社配送部が配送業務を行っています。
混油事故件数の推移(契約タンクロー
リーが関係したもの)
.混油事故ゼロへの道のり
弊社では1998年よりバーコード方式による荷
卸しシステムを採用していましたが、長年にわ
たり利用するうちに、荷卸しホースを接続する
前後にバーコード読み取るなどの不正操作によ
り混油事故の発生が連続しました。当該方式の
システムでは、タンクローリー乗務員の手順遵
図
川崎工場新ラック(2016年 月竣工)を
出発する30㎘超大型タンクローリー
守に依存する部分が多いため、さらなる混油事
故防止を目指しハイテク方式の荷卸しシステム
への切り替えを決断しました。
.混油事故の発生件数の推移
2009年よりタツノ製ハイテクシステムⅤ型
昨年までの配送部としての混油事故発生件数
の推移が図 です。2009年にハイテク方式の混
(弊社呼称 i-CPS)の導入を開始し、2016年
月
油防止装置を採用して以降、2011年 件、12年
現在、年間契約車両の100%が i-CPS システム
件、13年 件、14年 件、15年 件とハイテク
を搭載しています。この i-CPS 方式への切り
導入を進めた結果と比例し年々混油事故は減少
換えにより混油防止機能の安全性の向上と乗務
しています。また、2015年には念願の混油事故
員の操作性の改善を図ることができました。
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Safety & Tomorrow No.168 (2016.7)
.弊社の i-CPS システムの特徴
タンク別の最新在庫をもとに、荷卸し予定数量
弊社タンクローリーは独立荷卸配管、ボトム
がタンクに受入可能かを照合しています。地下
積込方式などの石油業界でも特殊な構造を持
タンク在庫数量は、SS LAN ネットワークに接続
ち、これに対応したハイテクシステムを開発しま
された通信ユニットの無線 LAN からタンクロー
した。また、ハッチ管理システムを導入していな
リーの i-CPS システムに無線伝送されます。
い出荷地で積込情報を取得する仕組みとして、
また、荷卸し予定数量が受入可能かの i-CPS
防爆仕様の油種キー積込システム(防爆オフラ
による検証には、荷卸しを開始する前にシステ
イン積込システム、防爆型式検定および危険物
ムで照合する事前照合方式を採用しており、荷
保安技術協会認可取得)も開発し使用していま
卸し途中でのオーバーフロー検知による荷卸し
す。これにより、さまざまな車輛仕様と出荷地で
中断により起こる作業リスクを防止し、それに
の積荷管理方式に対応できるシステムとなって
より起こる荷卸ホース内の滞油による作業リス
います。
クを軽減しています。
5.3
底弁開放時に行われるシステムチェック
i-CPS 画面にて乗務員が底弁を操作する際
に、ローリー荷卸しハッチとホース接続先の地
下タンクの油種照合が行われますが、合わせて
次のチェック機能を安全性向上のため組み込ん
でいます。
・灯油タンクへの混油防止のため灯油の荷卸し
図
i-CPS システム
操作タッチパネル
するハッチがあれば、優先し荷卸しするよう
に警告表示(灯油荷卸し優先)
.単独荷卸し(DCD)システムの特徴
・
㎘ハッチと
㎘ハッチの両方に同一油種を
単独荷卸し(DCD)を大都市圏の約650給油
積み込んでいる場合、
所にて実施しており、夜間配送による効率化を
表示(持ち戻り防止)
図 っ て い ま す。ま た、弊 社 で 採 用 し て い る
㎘ハッチ優先を警告
・一石・二石類の同時荷卸しが発生した時に禁
DCD システムの特徴は次のようなものです。
止メッセージを表示し底弁開放できない(禁
5.1
止作業)
パスワードによる DCD 荷卸しの解除
DCD 対応のタンクローリーは、DCD 荷卸し
モードで配送を行い、立会い荷卸しに切り替え
・荷卸し時は、底弁は同時に一つずつしか開放
させない作業制限(作業リスク回避)
る場合には、i-CPS 画面に表示される仮パス
ワードを車庫に電話連絡し、正パスワードをも
.平成26年11月に発生した i-CPS での混油
らい入力し切り替えます。これにより、立会い
事故の概要とシステム強化の取組み
荷卸し実施を運行管理者との間で相互確認が行
弊社での初めて起きた i-CPS を使った荷卸
われます。
しでの混油事故について紹介します。
5.2
6.1
無線 LAN を使った地下タンク液面計在
庫通信と事前照合方式による受入可能数量の
混油事故の経緯
給油所到着後、乗務員は i-CPS の電源をオン
チェック
にし、DCD 荷卸を実施しようとしたが、i-CPS
DCD 荷卸しでは、給油所のデジタル液面計の
画面上に表示された積込油種が前のトリップで
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配送した積荷情報の画面であった。そのことに
ドを入力すると DCD 通信が開始されてコン
気付かなかった乗務員は、最初に灯油の荷卸を
トロールユニットは荷卸し画面になり、ハッ
行おうとして、実際は軽油の積み込まれていた
チごとに油種表示が表示された。その表示内
番ハッチ(i-CPS コントロールユニットの表
容を安全荷卸確認書で確認しないまま、すぐ
示は前荷の灯油)から灯油注油口に荷卸しを開
に荷卸し作業を開始した。(表示されたハッ
始、荷卸を開始してすぐにサイトグラスに流れ
チ画面の積込数量は“−”表示され荷卸し終
ているはずの灯油に色がついていることに気付
了の状態であった)
㎘の軽油が荷
⑶ IC カードを読み込ませていないため、表示
卸しされた後であった。乗務員は直ちに給油所
された積荷情報は前のトリップ時の積み込み
担当者および運送会社事務所に混油発生を通報
情報で、灯油と表示された
した。事務所管理者は給油所へ混油発生を伝
の積荷は軽油であった。
き先端弁を閉止したが、既に約
⑷先端弁を開放する前に
え、灯油販売停止をお願いしたため、幸いなこと
番ハッチの実際
点確認(安全荷卸確
に一般顧客への販売は防ぐことができました。
認書、吐出口サイトグラス内の色、荷卸しす
6.2
る注油口の油種)を行っていなかった。
事故の原因分析
6.3
⑴給油所到着後、荷卸作業に入る時に、i-CPS
システムの改良ポイント
のコントロールユニットの電源を入れ①の画
前段にあるように、事故の主な原因は乗務員
面の時に、IC カードを差し込まず、取り消し
の手順違反に係るものであるが、それを誘発し
ボタンを押してしまった。(誤操作)
た i-CPS 側にもシステム上の問題があること
⑵上記により立会荷卸モードへの変更画面②に
から、危険物保安技術協会のご指導のもと、よ
移ってしまったため、DCD 荷卸しをするため
りコンタミ防止の機能を強化し、さらに、乗務
にここで取り消しボタンを押した。(通常は電
員が勘違により誤操作を誘発させないユーザー
源オフにし再度 IC カードを挿入させる)
フレンドリーな画面操作インタフェースに改善
しました。表
は、起こりうるリスクを定義し
実施する改善策を分析したものです。
単 独 荷 卸しモード
ICカードを読ませてください
また、新システムの理解を深化させるため、
中 断する場合は
[取消]を押してください
乗務員向けのセルフトレーニング用 PC ツール
取消
を開発し、合わせて、荷卸し作業の異常発生時
の対応方法についてケース別に解説するなどの
工夫をした操作変更トレーニングコースにて、
乗務員および運行管理者への教育訓練を行いシ
立会荷卸しモードに変更しますか?
パスワードN o .: 1898
ステム更新の準備を進めました。2015年10月に
変 更
全契約車両への新システムへの切り替えを大き
なトラブルなく完了しました。
取 消
システムが刷新されたことで乗務員の意識も
図
一新され改善が図れたと考えますが、
合わせて、
乗務員が誤操作を起こした操作画面
『混油撲滅のための
原則シール(図 )』を作
ここで、届け先チェックの機能により届け先
成し i-CPS 操作パネルの蓋カバーに貼り付け、
コードの入力要求があったため、届け先コー
荷卸し作業開始時の意識啓蒙を図りました。
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表
システム改善の分析結果
想定される問題・課題点
必要となる対策
画面の操作ボタン・メッセージのわかりにくい表現 画面デザインの見直しを行い、乗務員の混乱のない
により、乗務員が i-CPS 操作の混乱を引き起こし、 ような表現、ボタンなどにデザイン変更を行う。特
誤操作を誘発する。
に、今回のコンタミ事故原因となった取り消し操作
による前荷データの復活する例外処理ができない
ように見直す。
前荷データが荷卸し後、再度表示されることで、間 終了処理を実施後、前荷データを強制消去する。
違った荷卸油種表示を使った混油が発生しうる。
積荷確認の画面で IC カードの積荷データがメモ 積場で行う IC カード内容確認画面の表示で確認後
リー本体に書き込まれたものと乗務員が誤解をす に IC カードの積荷情報をメモリー本体に書き込む
る。
ように変更。
乗務員が確認手順を無視して、十分に油種を確認し 荷卸しの開始直前に”ホース接続と油種確認を十分
ないまま荷卸しを開始してしまう。
に行ってください”の注意喚起のメッセージを追加。
基地にて持ち戻りハッチに油種設定を行ってし 本体メモリーの積荷データを優先するようにし、未
まった結果、誤って油種情報で荷卸しが行われ混油 荷卸しハッチの油種情報を本体メモリーに残す。
が発生しうる。
前荷情報が記録されたままの IC カードを再度読み IC カード読み取り時に、積込日付・トリップ番号・
込ませ、それを使った間違った荷卸しを行い、混油 積荷内容による重複チェックを実施し、重複時は上
が発生しうる。
書きを禁止する。
ケーブル断線によりエラー動作を起こし、予期せぬ
底弁の異常開閉が発生する。
各コントロールボックス類とのケーブル断線時は、
IOエラーの画面が操作パネルに表示され、荷卸し
操作を継続できない。また、センサ―部の断線に関
しては、その操作が必要な場合にエラーが通報され
る。(荷卸し中であればエラーで底弁閉止)
・ハザード(危険源)を体系的・計画的に認識
し、評価し、制御する
・従業員、協力会社員、お客さま、地域住民の
方々、および環境がこれらハザードのリスク
に曝されないよう管理する
・安全、セキュリティ、健康、環境の関連法規
を遵守する
この操業管理システム(OIMS)を維持継続
図
混油撲滅のための
原則シール
し、今後も安全に対しての仕組み・人・組織へ
の改善の取組みを検討し実行し続けることが事
.更なる安全強化を追求する
当グループは、
「安全」
「セキュリティ」
「健康」
故撲滅への重要な姿勢と考えています。
人に関するものでは、乗務員への指導・指示
つの領域に対して、操業管理システ
に関するスキルのブラッシュアップを目的に
ム(OIMS)を適用することで、これらを管理し
し、危険物保安技術協会より情報共有された
ています。操業管理システム(OIMS)は、現在
DCD 事故事例を使った運送会社運行管理者対
では東燃ゼネラルグループの操業部門で効果的
象のワークショップを今秋に開催します。
「環境」の
に 活 用 さ れ て い ま す。操 業 管 理 シ ス テ ム
また、仕組みの面では、一昨年、㈱タツノに対
(OIMS)の目的は、下に示す事項を達成するた
して通信会社の提供する GPS 通信モジュールを
めに系統立てた手法を提供することです。
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i-CPS と組み合わせ、乗務員のリアルタイムの作
図
ネットワークを活用した次世代 i-CPS(案)
業ログをサーバーに記録し、異常ログの早期検知
する次世代のシステムの私案を提案させてもら
い、これを受け㈱タツノは試作機を開発しました。
これを利用することで、現在タンクローリー
がどこの給油所でどんな作業を実施しているか
を車庫や配車部門でリアルタイムに照会が可能
になります。また、集めた i-CPS 操作ログデー
タを分析することで、乗務員の作業の検証を行
い、乗務員教育や指導に活用することも可能に
なります。さらには、タンクローリーの運行
図
荷卸し模擬訓練
データをデータベース化することで、本社部門
での日常ローリーの稼動実績の管理業務などへ
の応用にも活用が期待できます。
.おわりに
最後に、これまでの㈱タツノの協力に感謝申
し上げるとともに、さらなる安全かつ利便性を
追求したローリーシステムの開発に期待をいた
します。
また、弊社の安全実績は、契約運送会社の皆
図
様の地道な乗務員の指導や啓蒙活動によるもの
運行管理者と弊社安全担当による荷卸し
作業の指導
で、日頃のご尽力の積み重ねの結果抜きにはあ
りえません。(図
、
訓練風景)関係各位皆
様方に深く感謝申し上げます。
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