横型超高圧処理装置FOOD FRESHERの 商品化と

❖シリーズ解説❖
第11回
食品高圧加工の最新動向
横型超高圧処理装置FOOD FRESHERの
商品化とテスト・受託処理対応
か と う・ ま さ と し
株式会社神戸製鋼所
機械事業部門産業
機械事業部重機械
部 営業室課長
加 藤 雅 敏
均一に適用されるため,均質な製品を作ることが
◆1.はじめに◆
できる。
食品の殺菌・加工方法として,太古から現在に
超高圧処理に関する研究が1980年代に始まる
至るまで最も利用されているのは,加熱を利用し
と,こうしたメリットが注目され,日本の食品業
た方法である。しかし,加熱は栄養分の損失,香
界に一大ブームを巻き起こした。1990年代初頭
気成分の消失や異臭の発生,大量のエネルギー消
には世界初の超高圧製品として日本でジャム製品
費など,様々な課題も抱える。これらの課題を解
が販売され,その後,高い糊化度や栄養価を特長
決する方法として,近年,超高圧を利用した殺
とする米飯製品などの商品化が続いた。しかし,
菌・加工方法が注目されている。
食品衛生法により加熱が実質的に必須な食品が多
こ
か
いことや,超高圧処理単体では芽胞形成菌のよう
◆2.超高圧処理◆
な耐圧性を持った一部の微生物には効果が不十分
超高圧を利用した殺菌・加工方法は,超高圧処
で,常温流通が難しいことがわかると,徐々にブ
理 と 呼 ば れ る。 英 語 圏 で は High Pressure
ームは去っていった。
Processing,略して HPP と呼ぶのが一般的である。
一方,米国では1990年代後半より,加熱で変
超高圧処理は,対象となる食品をセットした圧
質しやすく流通の難しかったアボカドペーストの
力容器中に,実用レベルとしては最大600MPa の
殺菌や,ハム・ソーセージ等の肉製品の加工・包
水圧を発生させることで,食品に対し静水圧をか
装後の二次殺菌目的で超高圧処理が利用され始め,
け,微生物を死滅させたり,タンパク質や澱粉の
食品業界に広く認知されるようになっていった。
変性を起こさせたりすることが可能である。熱処
米国では FDA や USDA により5log の減菌が可能
理が化学変化を引き起こして殺菌や加工を行うの
な非加熱殺菌方法として正式に承認されたことで,
とは異なり,超高圧処理は物理的作用であり,ビ
ジュースやベビーフードにまで応用範囲が広がり
タミン等の栄養素や香気成分にはほとんど影響が
つつある。
ない。また,圧力は加熱に比べ,処理に要する消
こうした状況の中,日本でもここ数年,添加物
費エネルギーが非常に小さい。さらに,静水圧効
類を使用しない自然食品やおいしさを追求したプ
果により,食品の形状や部位にかかわらず圧力が
レミアム食品の人気が高まるにつれ,再び超高圧
でんぷん
食品と容器
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横型超高圧処理装置 FOOD FRESHER の商品化とテスト・受託処理対応
写真1 大型 Cold Isostatic Press
(φ 2000mm×3000mmL×196MPa)
処理に注目
て応用したものである。大型かつ数百 MPa レベ
が集まって
ルの圧力で繰り返しの使用に耐えうる超高圧装置
いる。直接
を製作できるメーカーは,世界的にも限られてお
消費者に向
り,国内では独占的な地位を築いている。
けた製品だ
超高圧処理装置は,第1図に示すように,主に
け で な く,
1)超高圧を内部で保持する円筒型の圧力容器と
店頭販売さ
上下蓋
れるパンや
2)圧力容器内の軸力を支えるプレスフレーム
おにぎりの
3)超高圧を発生させる増圧機と動力源となる油
具 材 な ど,
圧機器
業務用を狙
4)圧媒の封止,開放を行う弁や超高圧配管
等から構成される。尚,小型の装置では,第2
ったものが多くなっているのが最近の傾向といえ
か
き
図のように上蓋部がピストンの役割を果たし,油
る。また,後述する牡蠣等の二枚貝の脱殻用途に
圧装置でピストンを直接圧力容器に押し込むこと
も使用され始めている。今後,超高圧技術を応用
で圧力を発生させるタイプのものもある。
した商品の拡充が期待される。
第1図に示す装置の運転手順としては,以下の
◆3.超高圧処理装置◆
通りである。
当社は1980年代後半より食品用の超高圧処理
①処理品投入
装置の設計・製作を手掛けているが,その技術の
プレスフレームが,レール上を通って手前方向
源流は1960年代に遡る。元来,当社は超硬やセ
にスライドし,圧力容器と上下蓋を覆う位置から
ラミックスの粉末を成形するために用いられる
離れる。次に,上蓋が油圧装置により上昇し,90°
Cold Isostatic Press(CIP)(写真1)や,鋳物の緻
以上旋回することで,圧力容器開口部が露出され
密化などに用いられる Hot Isostatic Press (HIP)
る。ここに,食品を収めたバスケットがクレーン
(写真2)を手掛けており,合計900台に迫る製
等により投入される。再度,上蓋が圧力容器内に
作実績を有する世界最大級の超高圧機器メーカー
収められ,プレスフレームが元の位置まで移動する。
である。超高圧
②超高圧処理
処理装置は CIP
増圧機により,圧媒水がタンクから超高圧配管
を食品向けとし
を通じて圧力容器内に送られ,圧力容器内の内圧
プレスフレーム
上蓋
圧力容器
圧媒
下蓋
増圧機
圧媒タンク
写真 2 大型 Hot Isostatic Press
(φ 850mm×3000mmL×1400℃
×147MPa)
食品と容器
第1図 超高圧処理装置(写真:越後製菓株式会社ご提供)
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食品高圧加工の最新動向
写真3 FOOD FRESHER FF4010
特長は,
1)圧力容器を横方向に配置しているため,装置
高さが抑えられ(2m 前後),単位面積当たりの
第2図 ピストン直圧加圧方式
耐荷重も軽減される
が高められる。所定の圧力に達すると,圧力容器
2)処理品を入れたバスケットが自動搬送装置に
内の圧力が設定された時間に応じて保持される。
より機械的に装置内に出し入れされることで,人
その後,減圧弁が開放され,減圧される。
手と時間を削減できる
③処理品取り出し
3)バスケットへの商品の積み込み,取り出しが
上記①と同様の手順で,処理品が取り出される。
フロアレベルで行えるため,高所作業がない
(以降,①~③の繰り返し)
第1図の構造は,圧力容器が縦方向に配置され
ることから縦型方式と呼ばれ,従来主流の構造で
あった。しかしながら,
1)処理品の出し入れにクレーンを使用するため,
つ
人手や時間を要したり,吊り上げた処理品から水
①トレーを加圧容器内に投入
が床に落ちたりする
2)運転やメンテナンスにおいて高所作業が発生
する
3)クレーンを含めた設置場所高さが非常に高く
なる(5m を超えることも)
4)狭い面積に荷重が集中するため,既存の工場
②圧力容器がプレスフレーム内に移動し,
超高圧処理 ,
には設置できないケースが多い
といった課題があった。
◆4.横型超高圧処理装置
FOOD FRESHER の商品化◆
縦型方式の諸問題を解決するため,当社では一
昨年,圧力容器を水平方向に配置した構造の装置
③排水,圧力容器移動
(以降,①〜③の繰り返し)
を開発し,FOOD FRESHER の商品名で販売を
開始した(写真3,第3図)
。FOOD FRESHER の
食品と容器
第3図 FOOD FRESHER の稼働手順
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横型超高圧処理装置 FOOD FRESHER の商品化とテスト・受託処理対応
4)処理品の入側と出側
が異なるため,未処理製
品と処理済み製品の混同
のリスクが低くなる
といったことがある。
FOOD FRESHER の第
一号機は石巻市の桃浦か
き生産者合同会社に納入
され,牡蠣の脱殻を目的
写真4 桃浦かき生産者合同会社での
超高圧を利用した牡蠣剥きの様子
写真5 超高圧処理後の牡蠣
による熱を使用しない殺菌工程のため,生のよう
に使用されている(写真4)
。200MPa 程度の超高
なやわらかい食感と素材のおいしさを堪能できる
圧下にて活牡蠣を処理すると,写真5のように貝
のが特長である。マリンフーズ株式会社では今後,
が口を開け,貝柱が殻から離れるため,殻の開口
ロングライフチルド製品や,加熱に不向きで商品
部を下に向けるだけで身がするりと抜け落ち,従
化の難しかったシーフード製品への展開を試みて
来のように殻や身に刃を入れる必要がない。当社
おられる。
装置ラインアップは第1表に示す通りだが,桃浦
かき生産者合同会社の装置は最大圧力400MPa,
剥き身換算で300㎏ / 日を超える処理能力を有し,
◆5.超高圧処理テスト・
受託処理対応◆
牡蠣剥き作業者10人分以上の労働力に相当する。
当社では様々なお客様に超高圧処理のメリット
FF2540,FF2560モデルでは大型化によりさらに
と使い勝手を経験いただき,装置導入に繋げてい
効率が改善され,剥き身で2~3トン / 日の処理
ただけるよう,テストセンター(兵庫県高砂市)
量も期待できる。全国的に牡蠣剥き作業者の高齢
に 最 大 圧 力600MPa, 処 理 室 サ イ ズ50liter の
化・後継者不足が問題となっており,牡蠣の生産
FF6005機(写真7)を設置し,見学およびテス
量維持・拡大の観点で,水産業者から本装置に多
ト対応を行っている。50liter と比較的大容量を持
大な期待が寄せられている。また,本用途におい
つため,一定量のサンプルの処理を請け負うこと
ては,副次的メリットとして微生物殺菌効果も確
も可能であり,テストや試作を終え,市場調査段
処理室サイズ100liter の FF4010モデルである。
認されており,衛生・安全面の改善も実現されて
つな
第1表 FOOD FRESHER ラインアップ
いる。さらには,いくつかの研究機関によりノロ
用途
ウイルス不活化の効果も確認されつつあり,これ
が公的に認められるようになれば,ノロウイルス
うた
フリーの牡蠣が謳えることとなり,業界へのイン
殺菌・加工
パクトは絶大なものとなろう。尚,桃浦かき生産
者合同会社では,牡蠣以外にも多様な水産物に超
高圧処理を利用した非加熱殺菌・加工を行い,商
品化に向けた取り組みを行っている。
二枚貝・甲殻類
の殻むき
その他の納入事例として,ニッポンハムグルー
プのマリンフーズ株式会社では,今年6月8日よ
り,漁師町バル「北海道産ほたてのオイル漬け」
(写真6),他3品を販売している。超高圧処理
食品と容器
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研究開発
型式
FF6005
FF6010
FF6020
FF6040
FF4010
FF4020
FF4040
FF2520
FF2540
FF2560
Dr.CHEF
圧力 (Mpa) 容量 (L)
50
100
600
200
400
100
400
200
400
200
250
400
600
700
0.6
1000
0.3
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❖シリーズ解説❖
食品高圧加工の最新動向
階に入ったお客様に対し,サンプル製品の受託処
高圧処理により製造されたジュースなどがごく普
理も行っている。テストセンターは工場や設計事
通に販売されており,日本はこの分野において先
務所に隣接しているため,機械や処理方法に関す
進国では最も出遅れているといわざるを得ない。
るお問い合わせや相談も対応可能である。是非,
当社単独での取り組みでは限界があり,研究機関
少しでもご興味があれば気軽に活用いただきたい。
や顧客との連携により事態の打開を図っていきた
い。
◆6.今後の取り組み◆
4)に関しては,前述の通り,現状では超高圧
超高圧処理の本格的な普及のためには下記の課
処理は芽胞形成菌の殺菌などに課題を抱える。最
題があるものと考え,解決に向け取り組んでいる。
適な超高圧処理条件を探索し続けるのと同時に,
1)超高圧処理利用の裾野拡大
食品に悪影響を与えない程度の加熱との併用や他
2)生産性のさらなる向上
の非加熱殺菌方法との併用により,完全殺菌を目
3)殺菌方法としての法的認可
指す。これに関しても,研究機関等との連携を通
4)さらなる殺菌効果の実現
じて対応を行っていく。
1)に関しては,初めて超高圧を利用するお客
様でも無理なく製品化に進んでいただけるよう,
◆7.まとめ◆
前述の当社でのサンプル受託処理に続くステップ
食品の非加熱殺菌・加工方法である超高圧処理
として,受託処理業者や OEM 製造業者に装置を
に対する期待が高まっており,横型超高圧処理装
普及させ,超高圧処理利用の裾野を広げていく試
置 FOOD FRESHER を開発,販売開始した。当
みを行っている。
社テストセンターでのテスト・受託処理対応を通
2)に関しては,さらなる大容量化,増圧機の
じて顧客の装置導入までの協力をしていく。また,
能力向上,前後設備の拡充により,生産性の向上
受託処理業者への普及により,超高圧処理利用製
を図っていく。
品の裾野を広げる取り組みを行っていく。超高圧
3)に関しては,食品衛生法では超高圧処理は
処理技術により消費者の皆様の豊かな食生活と健
非加熱殺菌方法として認可されておらず,加熱殺
康に貢献できるよう,装置メーカーとして最大限
菌が必要とされる食品においては加熱の代替方法
の努力を行っていく所存である。
になりえていない。他国の状況としては,欧米の
ビニエンスストアやス
※本記事に関するお問い合わせは下記まで
重機械部営業室 東京 Tel:03-5739-6762 担当 加藤,大舘
大阪 Tel:06-6206-6028 担当 真鍋
ーパーマーケットで超
※カラー写真を HP に掲載しています。
みならず近隣の韓国や
台湾でも,すでにコン
(http//kangiken.net)
写真6 マリンフーズ株式会
社の “ 漁師町バル「北海道産
ほたてのオイル漬け」”
食品と容器
)
写真7 テストセンターの超高圧処理装置(FF6005(左)および Dr.CHEF(右)
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