緑化遮音壁による回折音の抑制効果 - 一般財団法人日本建築総合試験

技術報告
緑化遮音壁による回折音の抑制効果
Suppression of diffracted sounds by green wall as a noise barrier
清水 貴史*1、松田 貫*2、西部 洋晴*3、天保 美咲*4、吉谷 公江*5、安積 陽一*6
1.はじめに
×H 2.0 m)をユニット化して並べて設置したものであ
緑化壁は、景観の保全、空気の浄化、ヒートアイラン
り、壁面は、水分を保つために主成分としてココピート、
ド現象の抑制を目的とし、欧米の都市部をはじめ、近年
パーライトを含む土壌及びそれらを被覆するポリプロピ
は日本国内においても多数用いられ、その用途も広まっ
レンシート、植栽位置に孔を持つプラスチック製パネル
ている。緑化壁面は、上記の特徴の他にも良好な吸音性
(1つの孔に対し1鉢を植栽する)、植栽から構成される。
能を有することが既往の研究により報告されており
、
1,2,3)
緑地帯や遮音壁としての遮音効果の検証が行われるなど
植栽として用いた植物及びその植栽量については、表-1
に示す。
、都市の音環境の改善への寄与も注目されている。ま
4,5)
た、近年、植物の持つ吸音力を明らかにするために、植
物の吸音・振動特性についてインピーダンス管及び走査
レーザー振動計を使用した検討が行われるなど、研究が
進められている6)。
今回、写真-1のような高さ2.3 m、厚さ0.2 mの緑化壁
を長さ40 mに及ぶ遮音壁として用いた場合の遮音性能
を測定する機会を得た。緑化壁面の持つ吸音力が回折音
低減にどの程度寄与し、遮音性能が改善されるのかを明
らかにすることを目的とし、緑化遮音壁の施工前後にお
いて騒音の測定を行った。さらに、回折音の低減効果を
定量的に把握するため、ほとんど吸音力のない鋼板製の
遮音壁を用いた場合の測定も行い、緑化遮音壁の結果と
比較した。以下ではそれらの結果について報告する。
写真-1 緑化遮音壁
2.緑化遮音壁について
測定に用いた緑化遮音壁の概要を図-1に示す。この緑
化遮音壁は、土壌を内装する鋼製のフレーム(W 1.0 m
*1 SHIMIZU Takafumi:大和ハウス工業株式会社 総合技術研究所 博士(工学)
*2 MATSUDA Toru:大和ハウス工業株式会社 総合技術研究所
*3 NISHIBE Yosei:大和ハウス工業株式会社 総合技術研究所
*4 TEMPO Misaki:大和ハウス工業株式会社 総合技術研究所
*5 YOSHITANI Kimie:大和ハウス工業株式会社 総合技術研究所
*6 AZUMI Yoichi:大和リース株式会社 環境緑化事業部
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GBRC Vol.41 No.3 2016.7
定時の緑化壁(厚さ 0.2 m)の土壌の面密度は、101.5
kg/m2(植栽前)、111.9 kg/m2(植栽後)であり、含水
植栽
率は平均23.3 %であった。また参考として、壁厚が0.15
プラスチック製パネル
mの試験体についても吸音率測定を行った。この壁の面
密度は、73.9 kg/m2(植栽前)、84.3 kg/m2(植栽後)
ポリプロピレンシート
であり、吸音率測定時の土壌の含水率は平均27.4 %で
あった。さらにこの緑化壁は、プラスチック製パネルを
用いずに施工することも可能であることから、厚さ0.2
土壌
(主成分:ココピート、
パーライト)
mの試験体については、パネル無の状態でも吸音率測定
を行った。
残響室法吸音率の測定結果を表-2及び図-3に示す。緑
化壁面(厚さ0.2 m)は、125 Hz帯域で0.79、250 Hz及
び500 Hz帯域でそれぞれ0.87及び0.93と中低周波数範
(a)緑化遮音壁の概要
囲において非常に良好な吸音性能を示しているが、表面
0.2 m
に植栽位置を示すためのプラスチック製パネルを取り付
けているため、1k Hz以上の周波数帯域で吸音性能が低
下している。一方、プラスチック製パネルを取り除いた
ドリップチューブ
場合には、高周波数域においても高い吸音力を示した。
ポリプロピレンシート
土壌
植栽
プラスチック製パネル
鋼製フレーム
(b)鉛直断面図
図-1 本研究で用いた緑化遮音壁
表-1 植栽一覧
植物名
1.
2.
3.
4.
5.
ヤブコウジ
ヘデラ・カナリエンシス
フイリヤブラン
セイヨウイワナンテン
ヘデラ・ヘリックス
‘ゴールドチャイルド’
(a)測定状況(0.2 m 植栽前)
植栽量(12 ㎡当り)
108 鉢
96 鉢
85 鉢
90 鉢
53 鉢
2.1 緑化壁の吸音特性の測定
まず、緑化壁の吸音性能を把握するために、日本建築
総合試験所の残響室において、JIS A 1409(残響室法
吸音率の測定方法)により吸音率の測定を行った。吸音
率の測定状況を写真-2に、試験体断面図を図-2に示す。
(b)測定状況(厚さ 0.2 m 植栽後)
試験体の大きさはW 4.0 m×L 3.0 m である。吸音率測
写真-2 残響室法吸音率測定状況
12
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1.2
1.0
吸音率
0.8
0.6
厚さ 0.15 m (植栽無)
厚さ 0.15 m (植栽有)
厚さ 0.2 m (植栽無)
0.4
0.2
厚さ 0.2 m (植栽有)
厚さ 0.2 m (植栽有、パネル無)
0.0
(a)断面詳細図(厚さ 0.2 m、植栽無)
125
250
500
1k
2k
4k
中心周波数 [Hz]
図-3 残響室法吸音率測定結果
2.2 緑化壁の音響透過損失の測定
次に、緑化壁の遮音性能を確認するために、日本建築
総合試験所において、JIS A 1416(実験室における建
築部材の空気音遮断性能の測定方法)により音響透過損
失の測定を行った。音響透過損失の測定状況を写真-3に
示す。測定時の緑化壁(厚さ 0.2 m)の土壌の面密度は、
(b)断面詳細図(厚さ 0.2 m、植栽有)
123.3 kg/m2(植栽後)であった。試験体の大きさはW
図-2 試験体断面図
4.15 m×H 2.15 m(遮音面寸法:W 4.0 m×H 2.0 m)
であった。参考として、厚さ0.15 mの壁についても音
表-2 吸音率測定結果
厚さ 0.15 m
響透過損失の測定を行った。この壁の土壌の面密度は、
102.1 kg/m2(植栽後)であった。
厚さ 0.2 m
中心
周波数
[Hz]
植栽無
植栽有
植栽無
植栽有
植栽有
パネル無
100
125
160
200
250
315
400
500
630
800
1000
1250
1600
2000
2500
3150
4000
5000
0.63
0.56
0.60
0.75
0.75
0.76
0.76
0.78
0.82
0.85
0.88
0.82
0.69
0.59
0.53
0.48
0.41
0.32
0.72
0.65
0.69
0.79
0.79
0.85
0.84
0.87
0.89
0.87
0.86
0.83
0.73
0.68
0.58
0.56
0.53
0.50
0.73
0.66
0.73
0.79
0.81
0.79
0.79
0.84
0.90
0.91
0.90
0.83
0.70
0.62
0.54
0.47
0.42
0.34
0.85
0.79
0.79
0.84
0.87
0.89
0.90
0.93
0.97
0.96
0.92
0.83
0.76
0.68
0.65
0.60
0.61
0.60
0.78
0.76
0.77
0.84
0.91
0.92
0.92
0.95
1.02
1.02
1.00
0.99
1.00
0.98
1.02
0.96
1.01
0.96
音響透過損失の測定結果を表-3及び図-4に示す。いず
れの周波数帯域においてもピーク・ディップは確認され
ず、したがって表面を覆うプラスチック製パネルの板振
動によるコインシデンス効果の影響はほとんどないとい
える。また、参考として質量則による鋼製遮音壁の音響
透過損失TL0 [dB](垂直入射)、TL [dB](ランダム入射)
を(1)
式及び(2)式により計算し、その計算結果につい
ても図-4に示した。
ここで f:周波数 [Hz]、m:鋼板の面密度 [kg/m2]で
あり、m = 10.8 kg/ m2として計算を行った。
これらの結果から、緑化遮音壁は面密度としては高い
値を持つものの、音響透過損失TLは鋼製遮音壁と同程
度であると考えられる。
13
GBRC Vol.41 No.3 2016.7
60
厚さ 0.15 m (1/3 Oct. Band)
厚さ 0.15 m (1/1 Oct. Band)
50
厚さ 0.2 m (1/3 Oct. Band)
厚さ 0.2 m (1/1 Oct. Band)
質量則
(鋼製遮音壁:10.8 kg/㎡、ランダム入射)
音響透過損失 [dB]
40
30
20
(a)音源側
10
0
125
250
500
1k
2k
4k
中心周波数 [Hz]
図-4 音響透過損失測定結果
3.緑化壁の遮音性能測定
3.1 測定の概要
各測定条件における遮音性能を評価するために、2車
(b)受音側
写真-3 音響透過損失測定状況(厚さ0.2 m)
線道路と歩道に面する駐車場において騒音の測定を行っ
た。道路沿線において、緑化遮音壁の道路側に設置した
基準点及び緑化遮音壁から2 mごとに設置された4つの
表-3 音響透過損失TL[dB]測定結果
中心
周波数
[Hz]
100
125
160
200
250
315
400
500
630
800
1000
1250
1600
2000
2500
3150
4000
5000
厚さ 0.15 m
1/3 Oct.
11.1
12.9
14.0
13.9
14.4
15.5
18.2
20.9
22.6
25.1
27.8
30.5
34.1
38.3
41.5
43.1
43.6
46.2
1/1 Oct.
12
15
20
27
37
44
厚さ 0.2 m
1/3 Oct.
12.5
15.0
16.4
17.0
17.7
19.3
22.1
24.3
26.3
28.8
32.0
35.5
39.6
44.0
46.3
47.2
47.8
51.6
1/1 Oct.
受音点(P1 ~ P4)の間で音圧レベルの同時測定を行っ
た。測定場所の概要及びマイクロフォンの設置位置を図
-5に示す。
14
18
2車線道路
歩道
音源(自動車)
遮音壁
(幅 約40 m)
5.5m
1 m
24
受音点(基準点)
2 m
受音点 P1
2 m
植栽種
受音点 P2
2 m
31
駐車場
受音点 P3
2 m
受音点 P4
42
(a) 測定場所(平面図)
3m
遮音壁
2m
48
基準点
音源
(自動車走行音)
1m
1.5m
受音点
P1
1m
2m
受音点
受音点
受音点
P2
P3
P4
4m
6m
(b) 測定点の設置状況(断面図)
図-5 測定場所の概要
14
8m
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基準となるマイクロフォンを音源側である緑化遮音壁
の道路側に設置し、他の4つのマイクロフォンは遮音側
の領域に緑化遮音壁から2 mの間隔で設置した。今回の
測定では道路交通騒音を対象としたため、測定は1/3 オ
クターブバンド、中心周波数100 ~ 5k Hzの範囲で行い、
さらにA特性音圧レベルを算出した。上記の基準点と遮
音側の受音点との間の相対音圧レベル差を遮音性能の改
善量とした。
3.2 測定対象
緑化遮音壁の遮音性能及び回折音抑制効果を検討する
ために、写真-4に示す4条件について遮音測定を行った。
(a) 遮音壁施工前(金網フェンスのみ)
各条件についての詳細は以下のとおりである。
写真-4(a)遮音壁の施工前
金網のフェンスのみが設置されている状況であるが、
金網の目は非常に粗く、この場合に得られる測定結果は、
遮音壁がない場合と同等の条件であるといえる。
写真-4(b)鋼製遮音壁
この遮音壁は厚さ1.2 mmの鋼板製で、高さ2.0 mであ
る。この鋼板は、吸音性能はほとんど有していないと考
(b) 鋼製遮音壁(高さ 2.0 m、厚さ 1.2 mm)
えられる。
写真-4(c)植栽前の緑化遮音壁
植栽前の緑化遮音壁で、高さは2.3 m、厚さは0.2 m
である。土壌の含水率を把握するために、水分含量は壁
面の複数箇所で測定した。その結果、土壌の含水率は
23 ~ 35 %であった。土壌の密度は2章で示したように
約100 kg /m2である。図-2に示すように、壁の表面は植
栽の位置を決めるためのプラスチック製パネルで覆われ
ている。地表から0.3 mの高さをもつコンクリート基礎
(c) 植栽前の緑化遮音壁(高さ 2.3 m、厚さ 0.2 m)
の上にユニットを並べて設置したものであり、そのため
緑化遮音壁の高さは2.3 mとなっている。
写真-4(d)緑化遮音壁
この緑化遮音壁の緑化密度は36 鉢/m2であり、表面の
約95 %が緑で覆われている。水分含量は25 ~ 38 %で
あり、土壌の面密度は2章で示したように約110 kg/m2
である。この条件においても緑化遮音壁の高さは2.3 m
である。
(d) 緑化遮音壁(高さ 2.3 m、厚さ 0.2 m)
写真-4 各測定条件
15
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これらの遮音壁の長さはいずれも40 m以上あり、高
た、植栽有の場合については、250 Hz帯域以外で3 dB
さの約20 倍以上であるため、測定において遮音壁の側
以上の改善がみられ、植栽による騒音の低減効果が確認
面からの騒音の回りこみの影響はほとんどないものとい
できた。地表から1 mの高さ(緑化遮音壁よりも1 m低
える。測定には、小野測器製のDS-3000 FFTアナライ
い位置)においては、受音点P2及びP3において、植栽
ザ及びマイクロフォンセット(MI-1235及びMI-3111)
無の場合に250 Hz帯域で改善が見られなかったが、回
を用いた。
折しやすい125 Hz帯域については、植栽有の場合に遮
音性能に改善がみられた。
3.3 遮音性能の改善量
以上の結果から、緑化遮音壁の基盤となる壁面を構成
図-6に鋼製遮音壁を基準とした場合の、各受音点にお
する土壌が持つ大きな吸音効果により、一般的には遮音
ける各周波数帯域の改善量を示す。図-6上段は高さ3 m、
性能を向上させることの難しい125 Hz帯域の回折を抑
図-6中段は高さ2 m、図-6下段は高さ1 mにおける測定
制することができるといえる。さらに、壁面に植栽を配
結果である。
置することで高さ1 mの測定点においても、125 Hz帯域
で最大3 dBの程度の改善が得られた。
地表から高さ3 m(緑化遮音壁よりも1 m高い位置)
においては、125 Hz帯域で植栽無の場合に3 dB程度、
次に、各条件の100 ~ 5k HzにおけるA特性音圧レベ
植栽有の場合については5 dB程度であり、大きな改善
ル差を図-7に示す。遮音壁面の吸音力は、
「鋼製遮音壁」、
が確認できた。250 Hz帯域、500 Hz帯域の一部で改善
「植栽無の場合の緑化遮音壁」、「緑化遮音壁」の順に高
は確認できなかったが、概ねどの周波数においても遮音
いが、いずれの受音点についても遮音壁面の吸音力が高
性能に改善が見られた。地表から2 mの高さ(緑化遮音
いほど遮音量が大きくなっている。したがって、遮音壁
壁とほぼ同じ高さ)では、受音点P2及びP3において植
面の吸音により回折音が抑制された結果、遮音壁の性能
栽無の場合に250 Hz帯域で改善は見られなかったが、
が向上するといえ、植栽前後の測定結果の比較から植栽
それ以外の周波数帯域では大きな改善が確認できた。ま
により遮音性能が高まったことが確認できた。
受音点 P1
受音点 P2
植栽無
植栽有
3
0
-3
3
0
-3
500
1k
2k
4k
植栽無
2k
4k
0
500
1k
2k
0
4k
250
500
1k
2k
250
500
1k
中心周波数 [Hz]
2k
4k
125
植栽無
0
250
500
1k
2k
250
500
1k
中心周波数 [Hz]
2k
4k
2k
4k
植栽無
3
0
4k
125
250
500
1k
2k
4k
中心周波数 [Hz]
植栽有
植栽無
植栽有
植栽無
6
3
0
-3
125
1k
-3
125
改善量 [dB]
0
500
植栽有
6
3
250
中心周波数 [Hz]
3
0
-3
125
250
500
1k
2k
中心周波数 [Hz]
図-6 鋼製遮音壁と比較した際の緑化遮音壁による改善量
16
4k
6
植栽無
-3
125
0
中心周波数 [Hz]
植栽有
改善量 [dB]
-3
2k
3
4k
6
0
1k
-3
125
植栽無
3
500
植栽有
中心周波数 [Hz]
植栽有
250
植栽無
-3
250
3
中心周波数 [Hz]
3
植栽無
-3
125
改善量 [dB]
改善量 [dB]
改善量 [dB]
3
6
改善量 [dB]
1k
6
中心周波数 [Hz]
1 m
500
植栽有
-3
高さ
250
6
125
0
中心周波数 [Hz]
植栽有
2 m
3
-3
125
中心周波数 [Hz]
6
植栽有
6
改善量 [dB]
250
植栽無
改善量 [dB]
125
高さ
植栽有
6
改善量 [dB]
改善量 [dB]
3 m
改善量 [dB]
高さ
植栽無
6
6
受音点 P4
改善量 [dB]
植栽有
受音点 P3
4k
125
250
500
1k
中心周波数 [Hz]
2k
4k
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また、各遮音壁を用いた場合の測定結果を高さごとに
まとめた結果を図-8に示す。図-8(a)に示すように、直
車交通騒音を用いた今回の実測において確認されたとい
える。
接音の影響が支配的であると考えられる地表から3 mの
高さにおいても、250及び500 Hz帯域以外については、
4.おわりに
緑化壁面の吸音力が遮音性能に寄与しているといえる。
本研究では緑化壁を遮音壁として用いた場合の、壁面
さらに、図-8(b)に示すように、遮音壁の高さと同程
緑化による遮音性能への寄与を定量的に把握するため
度の2 mの高さにおいては、壁面が吸音力を持つ遮音壁
に、残響室吸音率測定及び音響透過損失の測定を行った。
ほど遮音性能が高いという結果が得られた。また、植栽
さらに、実際の道路交通騒音を用いて、緑化遮音壁の遮
の有無も遮音性能に影響を及ぼしており、植栽の吸音力
音性能の検証実験を行った。その結果、緑化遮音壁はそ
によって回折音が抑制され、その結果として遮音性能の
の内部に土壌を含むことから、低周波数域においても良
向上につながったことが確認できた。
好な吸音性能を発揮すること、また、低周波数において
一方、図-8(c)に示すように、地表から1 mの高さでは、
回折音を低減することが確認された。また、植栽の配置
壁面の吸音力の遮音性能への寄与はほとんど確認できな
により、壁面の吸音力が高まるため、低周波数域におい
かったことから、この領域に到達する回折音は低周波数
て、さらに回折音の抑制効果が高まることが確認できた。
域に限られ、緑化壁面はこの帯域における周波数に対す
以上のことから、緑化壁が遮音壁として用いられた場
る吸音力を持ってはいるものの、回折音を抑制するには
合、その表面の高い吸音力が回折音を抑制するといえ、
十分ではなかったといえる。このように、緑化遮音壁に
遮音壁として騒音低減に非常に有用であるといえる。
おける植栽の吸音力は、遮音壁の高さと同程度以上の領
域に回折する周波数に対して有効であるといえる。実際
には、鋼製遮音壁と緑化遮音壁には0.3 mの高さの差が
あるが、遮音性能に与える影響はわずかといえ7)、大き
な影響を与えるものではないと考えられる。実際に、同
じ高さの緑化遮音壁の植栽前後の測定結果には、壁面の
吸音力の差が反映されている。
以上の結果より、壁面緑化の吸音効果が遮音性能に及
ぼす寄与は、周波数ごとに効果に差があるものの、自動
3.2
3.1
4.6
5.2
3.1
4.9
6.3
7.3
3m
2m
基準点
音源
(自動車走行音)
3.2
4.9
6.4
8.2
1m
音源
(自動車走行音)
受音点
P1
0m
2m
受音点
P2
受音点
P3
4m
6m
8.2
11.0
緑化遮音壁(植栽無)
1m
8m
3m
9.5
11.7
12.8
13.8
2m
14.5
15.3
16.4
17.3
1m
受音点
P1
受音点
P2
受音点
P3
受音点
P4
12.6
13.2
0m
4m
6m
2m
8m
3m
9.3
11.6
13.0
14.9
3m
14.1
15.3
16.4
17.0
2m
15.4
15.8
16.8
17.3
1m
受音点
P1
受音点
P2
受音点
P3
受音点
P4
4m
6m
緑化遮音壁
12.5
13.8
14.8
15.4
2m
基準点
14.9
15.3
16.0
16.6
1m
1.5m
音源
(自動車走行音)
受音点
P1
1m
12.7
(b)鋼製遮音壁 (高さ 2.0 m、厚さ 1.2 mm)
基準点
音源
11.8
1.5m
受音点
P4
(a) 遮音壁無し (金網フェンスのみ)
(自動車走行音)
9.9
基準点
1.5m
1m
6.8
鋼製遮音壁
遮音壁無(金網フェンス)
0m
2m
受音点
P2
受音点
P3
4m
6m
1.5m
受音点
P4
8m
(c)植栽前の緑化遮音壁(高さ 2.3 m、厚さ 0.2 m)
1m
0m
2m
8m
(d)緑化遮音壁(高さ 2.3 m、厚さ 0.2 m)
図-7 基準点と各受音点のA特性音圧レベル差 [dB]
17
GBRC Vol.41 No.3 2016.7
緑化壁
緑化壁(植栽無)
鋼製遮音壁
遮音壁無(金網フェンス)
20
レベル差 [dB]
15
1)Z. Azkorra, G. Pérez, J. Coma, L. F. Cabeza, S. Bures, J. E.
Álvaro, A. Erkoreka, and M. Urrestarazu: Evaluation of
green walls as a passive acoustic insulation system for
buildings, Appl. Acoust., 89, 46-56, 2015.
2)木村和則,山本貢平:壁面・屋上緑化用植栽基盤の吸音性
能,日本騒音制御工学会研究発表会講演論文集,p p.141144,2008.
10
3)N. H. Wong, A. Y. K. Tan, P. Y. Tan, K. Chiang, and N. C.
Wong: Acoustics evaluation of vertical greenery systems
for building walls, Build. Environ., 45, 411-20, 2010.
5
0
受音点
P1
受音点
P2
受音点
P3
受音点
P4
(a)高さ 3 m における測定結果
緑化壁
緑化壁(植栽無)
鋼製遮音壁
遮音壁無(金網フェンス)
20
15
レベル差 [dB]
【参考文献】
4)T. van Renterghem, D. Botteldooren, and K. Verheyen:
Road traffic noise shielding by vegetation belts of limited
depth, J. Sound Vib., Vol.331, pp.2404-2025, 2012.
5)Takafumi Shimizu, Toru Matsuda, Yosei Nishibe, Misaki
Tempo, Kimie Yoshitani and Yoichi Azumi: Suppression of
diffracted sounds by green walls, Noise Control Engr. J.
Vol.64 (2), 2016.
6)E. Attal, N. Cote, G. Haw, C. Granger and B. Dubus:
Combined acoustic and vibration characterization of
acoustic foam samples and green wall elements using an
impedance tube and a scanning laser vibrometer, INTERNOISE 2015, San Francisco, USA.
7)前川 純一: 障壁(塀)の遮音設計に関する実験的研究, 日本
音響学会誌, Vol.18, pp.187–196, 1962.
10
5
【執筆者】
0
受音点
P1
受音点
P2
受音点
P3
受音点
P4
(b)高さ 2 m における測定結果
*1 清水 貴史
緑化壁
緑化壁(植栽無)
鋼製遮音壁
遮音壁無(金網フェンス)
(SHIMIZU Takafumi)
*2 松田 貫
(MATSUDA Toru)
*3 西部 洋晴
(NISHIBE Yosei)
20
レベル差 [dB]
15
*4 天保 美咲
10
(TEMPO Misaki)
5
0
受音点
P1
受音点
P2
受音点
P3
受音点
P4
(c)高さ 1 m における測定結果
図-8 各受音点におけるA 特性音圧レベル差 [dB]
18
*5 吉谷 公江
(YOSHITANI Kimie)
*6 安積 陽一
(AZUMI Yoichi)