巻 頭 言 CIMに期待する 日本大学 危機管理学部 教授 木下誠也 KINOSHITA Seiya 自動車のような機械産業から医療、金融、農業、そ して建設産業も含めて、あらゆる産業分野で情報化が 2016年 度 にCIM導 入 ガ イ ド ラ イ ン を 策 定 す る 段 階 に 至った。 進んでいる。最近の建設分野では、建築におけるBIM BIM/CIMでは、設計が3次元で可視化されるので、ミ (Building Information Modeling) か ら 土 木 を 含 め た スが起きにくく、建設事業の品質確保、工期短縮、そし CIMへと大きな流れが起きている。 20年前に建設省が発表した「建設CALS整備基本構想」 てコスト縮減に有効である。また、意思決定が容易にな り、地元説明における合意形成などにも有効である。 では、目標年次の2010年に、建設事業において一切の IT技術の導入は、担い手不足が深刻で一人当たりの生 書類を電子化し、データはインターネットを介して分 産性向上が求められる建設産業界にとっては救世主と 散型共有データベースを構築するとした。設計から施 なり得る。人の手間に替わるロボット技術や業務プロセ 工、維持管理に至る各フェーズを統合して情報共有す スの改善につながるBIM/CIMの活用は欠かせない。 ることを目指した。 その結果、電子入札や電子納品、あるいは情報化施 BIMからCIMへ発展すると、構造物だけでなく地形 や地盤の三次元データも一層重要となる。CIMをGIS 工など一つ一つの作業の電子化は進んだ。しかし、業 (Geographic Information System)と連携させることで、 務プロセス全体に一貫して共有情報を受け渡すには至 さまざまな施設の空間情報と地図が重ね合わされるこ らなかった。この原因としては、契約の前提が依然と とになり、電子データによるインフラ維持管理が容易 して紙ベースであるため二重の手間がかかるといった になる。さらに関係機関が情報を共有することにより、 制度面の問題に加え、関係者間で設計データなどを情 いわば 電子国土管理 が実現する。 報共有するための共通の土俵づくり、つまり「標準化」 が不十分であったことが考えられる。 このCIMを推進するために忘れてはならないカギが、 関係者間共通のルールづくり、すなわち標準化である。 一方欧米等の主要先進国では、2000年代に入って、 BIMに関しては、欧米では、構造物の三次元設計の観 建築分野を中心にBIMが急速に普及し始めた。これは、 点から、図の描き方や設計の詳細度(LOD: Level of 「コンピューター上に作成した3次元の建物のデジタル Detail)の標準化の動きが活発である。この国際標準制 モデルに、材料などの仕様情報やコストなどの属性デー 定の流れに、わが国は遅れを取らないよう積極的に参 タを加えた建築物のデータベースを、設計、施工から 画することが不可欠である。 維持管理までのあらゆる工程で共有して活用する」と さらに、BIMからCIMに発展すると、対象となるイン いうものだ。建築と共通する部分から順次土木構造物 フラの種類が橋梁、トンネル、堤防、ダムなど多岐にわ へも拡張が進められている。欧米ではコストや工程の たる。地形・地質の電子データを河川・道路などの構造 管理を含む完成度の高いBIMの導入が進んでおり、こ 物データと関連付けることも必要になる。河川・道路など れからは事業のライフサイクルの維持管理を含む三次 の公物管理で高度な技術力を有するわが国が、各インフ 元化が進められる段階である。 ラ分野におけるCIMの導入で世界をリードしていきたい。 わが国でもBIMを土木へ拡張し、維持管理に至る各 CIMの導入とともに、標準化作業を推進し、それを フェーズに導入することができれば、建設事業全体の 国際標準へと反映させることが、わが国の建設コンサ 業務プロセスに一貫した共有情報を受け渡すことがで ルタント、建設会社等の建設技術の海外展開において きる。国土交通省は、BuildingをConstructionに置き換 大きな強みとなる。産官学一丸となったCIMの取り組 えてCIMと称して、2012年度からモデル事業を開始し、 みに期待する。 ● 114号 1
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