子どもの点滴漏れに関するお話

子どもの点滴漏れに関するお話
子どもの手術をするにあたり点滴は絶対必要な処置ですが、大人と違い、子どもの
輸液の血管外漏出トラブルは後を絶ちません。医療事故情報収集等事業 第 37 回報
告書(平成26年)をみると、平成17年から平成26年の10年間で、輸液が血管外に漏出し
たために治療を要した小児事例が、53件報告されています。小児では、体躯が小さく
血管が細いこと、患者自身が輸液の漏れに注意を払うことができないことから血管
外漏出を起こしやすく、また異常が生じたとしても、年齢的にそれを言葉で正確に表
現できないことが要因と考えられます。実際に乳児での発生が最も多く、症状として
腫脹だけでなく、潰瘍3例、皮膚壊死5例なども報告されています。輸液の際の血管外
漏出は、患児の全身状態や、薬液の濃度や注入する速度などの影響が大きく、必ずし
も予防可能なものばかりではありません。この報告では、背景としてシーネや包帯に
よる保護のために、医療者が外部から容易に刺入部や近傍部位の観察をすることが
困難となり、薬液の血管外漏出の発見が遅れる場合があることから、小児の点滴固定
方法について、テープの種類や太さ、あるいはテープの貼付方法について医療機関内
で検討することの重要性を述べています。さらに輸液ポンプ等は、輸液の血管外漏出
ではアラームが鳴らないことを周知することの必要性も警鐘しています。
とはいえ、実際に臨床の場では、輸液漏れは日常的にみられることであり、ドクタ
ーは、過去に痛い目にあっていなければ、それほど注意を払っていないかもしれませ
ん。しかし、一旦、このような治療を要するような輸液漏れを起こしてしまうと、本
来の病気の手術や治療以外の所で足をすくわれ、家族との信頼関係も崩れ、病院全体
の問題となる危険性を孕んでいることは承知しておくべきです。
そこで、点滴の固定法について考えてみたいと思います。皆さんの施設では、子ど
もの点滴固定法やテープの種類はどうしていますか? 看護師に任せてませんか?
点滴漏れは非常に身近で重要な問題なのに、看護師に任せていたり、病院のルール(慣
習)に従うだけで、ドクター(小児外科医)が積極的に固定法等に関わっていること
が少ない印象が有ります。私自身は、幸いにして過去に治療を要する輸液漏れには遭
遇していませんが、他科での症例を数人見聞きしており、この教訓から、子どもの輸
液漏れの最も大きな要因は、外套針の固定不良と考え、当科では小児外科医の意見の
元に、統一した点滴固定を行っています。その方法は、刺入部は粘着力の強いテープ
で、刺入部を隠すように十字に外套針を固定し、さらにシーネ固定のテープも伸縮性
のものを必ず用いるというものです。具体的には両方ともエラテックス®テープを使
っています。しかし、最近は、刺入部の観察が容易なことから透明フィルムで固定す
ることを推奨している報告も多数有ります。医療事故情報収集等事業 第 37 回報告
書で述べられているように、点滴固定法に関して、最も重要なことは、現場のドクタ
ーの考え・意見のもとに、テープの種類や太さ、あるいはテープの貼付方法を検討し、
各施設で統一した方法を行うことだと思っています。そこで、何か問題があれば改良
していけば良いと思うし、そこに小児外科医が絡んで欲しいと思います。
もちろん、輸液漏れによるトラブルを防ぐには、輸液漏れを早期に発見できるよう
な厳重な観察が必要であることは言うまでも有りません。しかし、理想的には、輸液
漏れ自体を起こさないことが最も重要と考えます。よって、点滴を漏らさず出来るだ
け長く保たせ、予定抜去に持っていくことを目指し、固定法にこだわり、工夫するこ
とは意味が有ると思います。