豪ドルを取り巻く環境

齊藤 聡
豪ドルを取り巻く環境
マーケットアナリスト
SMBC信託銀行
投資調査部
豪州準備銀行(RBA)は2日に開催した理事会で、政策金利を1.75%から過去最低となる1.50%に引き下げた
(図表1)。声明文では足元のインフレ率の低迷を指摘したほか、「低金利が住宅市場におけるリスクを増幅させ
る可能性が低下した」と利下げ余地が生じたとの認識を表明。また、5日に公表された四半期金融政策報告では
RBAが政策判断の手掛かりとする基調インフレ率は2016年12月に1.5%とインフレターゲット(2.0-3.0%)を下振
れる状況が続くうえ、その後は1.5-2.5%の間で推移すると予想されている。ただ、前回5月の見通しから下方修
正はなく、豪ドル高や賃金の伸び悩みに伴いインフレ率が一段と低下するリスクを考慮した、フォワードルッキン
グな政策対応だったように思われる。豪州では労働市場の緩やかな回復や株高に伴う家計資産の増加を背景
に消費が堅調さを維持しており、2016年の実質GDP成長率は前年比3.2%と2015年(同2.5%)から伸びの加速
が見込まれる*¹。RBAはインフレ指標を中心に経済情勢を慎重に見極めるものとみられるが、政策金利は当面
据え置かれ、2017年10-12月期には0.25%の利上げが決定されると当行ではみている*²。
外国為替相場で豪ドル米ドルは、相対的に利回りの高い豪州国債に買いが入るとこれにつれて先週末に一時
0.76米ドル台後半まで上昇、7月15日に付けた直近高値(0.7676米ドル)に迫った。目先では7月の米雇用統計
の予想比上振れを受けて利上げ観測が高まり米ドル高地合いとなる可能性がある。ただ、米国については労働
生産性が高まらず潜在成長率の低下まで指摘される状況下で、米連邦準備理事会(FRB)は利上げを慎重に進
めざるを得ず、米ドルの基調的なさらなる上昇は見込みにくい。また、豪州の主要産品である鉄鉱石や石炭の価
格上昇に一服感が広がれば豪州経済へ逆風として意識され得るが、今後は需給の改善を追い風に原油相場が
持ち直す見通しで(WTI原油先物価格:2016年7-9月期:1バレル=51ドル、同10-12月期:50ドルを想定*¹)、市
場心理の改善を通じて豪ドル相場を支えるだろう(図表2) 。豪ドル米ドルは6月24日安値0.7306米ドルや6月16
日安値0.7286米ドル付近で底堅さを維持できれば、RBAによる利下げ打ち止め感が広がるなか年初来高値
0.7835米ドルを目指す展開となるのではないか。他方、豪ドル円は2014年11月以降下落トレンドが継続しており、
少なくとも200日移動平均線(82円73銭)を明確に上抜けるまでは基調が転換したとは判断しにくい。豪州経済
のファンダメンタルズの堅調さや金利の相対的な優位性を背景に、英国民投票後の安値である72円53銭付近で
下げ止まれるかが当面の焦点とみている。
本レポート記載のマクロ経済見通しは、当行がライセンス契約を結んでいるCiti Researchの予測を参照しています。
*1
“Global Economic Outlook and Strategy ”, 2016.7.27 Citi Research 、*2 “Australia / NZ Economics Weekly ”, 2016.8.5 Citi Research
【図表1:基調インフレ率と政策金利 】
(%)
8.0
【図表2:商品相場と豪ドル米ドルの動向】
予測
政策金利
7.0
80
(1豪ドル=米ドル)
1.15
石炭(左軸)
1.10
鉄鉱石(左軸)
1.05
原油(WTI、左軸)
1.00
豪ドル米ドル(右軸)
0.95
120
110
基調インフレ率
100
6.0
90
5.0
4.0
70
0.90
3.0
60
0.85
2.0
50
0.80
1.0
40
0.75
30
0.70
原油、石炭、鉄鉱石は2013年初=100
20
2013/01
2014/01
2015/01
0.0
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
2016
*2
注:基調インフレ率はRBA、政策金利は当行 による予測
0.65
2016/01
出所:SMBC信託銀行
本レポートは、株式会社SMBC信託銀行(以下「SMBC信託銀行」といいます)が経済、市況他、投資環境に関する情報をお伝えすることのみを目的として作成
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ます。