最新版ネガティブリスト(2016 年)に就いて

最新版ネガティブリスト(2016 年)に就いて
(1) ネガティブリストの変遷:
インドネシアに於ける外国投資に就いては、それ以前の外国投資法・内国投資法など
を統合した“新投資法
(2007 年法律第 25 号)”が法的なベースである。
一方、外国投資の具体的な禁止分野については、1998 年に“大統領令第 96・99 号”
にて整理されたものが数回にわたる改訂を経て、
“新投資法”発効のあと 2007 年 7 月
に“大統領令第 76・77 号”にて言わば“新ネガティブリスト”して発行された。その
新ネガティブリストが、同年 12 月の第一次改訂(大統領令 2007 年第 111 号)、2010
年第二次改訂(大統領令 2010 年第 36 号)、2014 年第三次改訂(大統領令 2014 年第
39 号)を経て 2016 年 5 月“大統領令第 44 号”で最新版(第四次改訂)の発行となった。
(2) 最新ネガティブリスト(第四次改訂)の特徴:
今回は 2015 年から実質的にスタートした PTSP(ワンストップサービス)に於ける省
庁間の連携強化などを踏まえ、改訂作業はオープンに展開され外国大使館・商工会議
所・業界団体などとの公聴会を通じ外部の意見にも耳を傾けながら、BKPM が中心と
なり関連する省庁との折衝を重ねた上で決定された。
その特徴としては、従来は条件付きで開放される分野として、内資のみに限定される
分野や実質的に外資進出が不可能な分野まで含め 10 分類で各セクター毎に表示してい
たが(どこまで開放されているのか実態が分かりにくい)、今回は“中小・零細企業の
為に閉鎖される分野と、その中小・零細企業とのパートナーシップ(政令 2013 年第
17 号に基づく様々なパートナーシップ)を条件とする分野(その条件を満たせば進出
可能)
”を限定して外出しにし(合計 145 分野)
、それ以外の原則的に開放されている
分野(合計 350 分野)に就いて、農業・商業・工業など 16 セクター別に外資出資比率
(上限比率)とその他条件(主管省庁の特別許可など)だけで簡潔に纏められた。
事業分野についても集約化が進み(細かな分類を大括り)、第三次改訂版に於ける条件付
き開放の合計 641 分野が今回は原則開放の 350 分野(上記)に絞り込まれ、更に 100%開
放されネガティブリストから削除された 66 分野と合わせると、開放の割合は大きく増
えている。(分野の分類が大括りされたり、セクターを変更したもの等、分野数の比較
だけでは開放割合の増加は見えない。)
従い最新リストの特徴としては、①開放分野の増加
庁との連携強化が挙げられよう。
②開放条件の簡素化
③関係省
(3) ネガティブリストとしての課題:
従来から指摘されてきた問題点は分類数の多さや条件の分かりにくさ以前に、リスト
に規定される事業分野を示す KBLI(事業別標準分類-国家統計局 BPS が5桁の番号
別に編集)の定義が明確でない場合が多いことであった。その為、外資が計画する当
該事業が KBLI のどの番号に該当するのか分かりにくい上に、その KBLI 番号がネガ
ティブリストのどこで如何なる条件が付されているのか見つけにくい傾向があった。
産業構造が発展途上のインドネシアに於いては事業分野の設定があら括りである事は
否めないため、日系企業が指向する顧客本位、機能本位の事業提案をどの分野、どの
番号に紐付けるのかを決めるには事業内容の詳細と KBLI 番号との照合、そしてリス
トに於ける規定の確認まで、投資申請以前に必要となる作業が進出企業の足かせにな
りかねないという実情がある。
更にその過程では、外国投資を増やしたい BKPM と国内産業界からの突き上げを嫌う
主管省庁との間で意見が食い違うケースもあり、関係者間の調整に手間がかかるとい
う側面もある。
即ち、KBLI 定義の更なる明確化と、それをネガティブリストに規定する際の関係省庁
間の調整の必要性がネガティブリストが根本的に抱える課題と言えよう。
(4) 最新ネガティブリストの現状:
それらの課題に対応すべく、今回は BPS による KBLI‐2015 年度最新版に基づき事業
分野のより明確な定義づけと(前述の通り)関係省庁間の連携強化に注力しながら第
四次改訂がなされた。その意味ではかなり改善されて来た事は間違いないが、依然と
して不明瞭な点も残っている。最新ネガティブリストと前リストに於ける業種比較に
就いては下記の通りである。
① 外資出資比率が緩和された主な事業分野・業種:
事業分野・業種
1 Distributor
同
(販売専業)
セクター
商業
(製造業関連会社)
2016 年第 44 号
2014 年第 39 号
(新リスト)
(前リスト)
67%
33%
100
“
(例外として) (医療機器)
保健
49
“
2
倉庫業
商業
67
“
3
冷凍倉庫
同
100
“
4
100
デパート(2000m2 以上)
(400-2000m2)
5
E-Commerce(パートナーシップ)
6
Market Place (1000 億ルピア以上)
0%
67
商業
“
100
“
100
“
(ネットショッピング)
7
Crumb Rubber
工業
100
“
100
95%
(原料の Own Plantation 条件)
8
9
高速道路・飲料水・無害ゴミ 建設
地熱発電(10MW 以下) エネルギー・資源
67
49
10
職業訓練
労働
67
49
11
フレイトフォワーダー
運輸
67
“
12
旅行会社
67
“
13
映画製作・映画館など
100
“
14
レストラン・バーなど
100
51
15
コンテンツ通信サービス
67
49
16
医療関連製品製造(B/C/D 級)
(紙おむつ等 A 級分類
17
観光
通信
100 (*保健省許可条件)
保健
製薬原材料
33)
100
75
30
30
95 (PPP は 100)
95
② 外資出資比率が据え置かれた主な事業分野
1
園芸作物栽培など
2
発電事業(10MW 以上) エネルギー・資源
農業
③ 外資出資比率が減少した主な事業分野
1
漁船利用の捕獲漁業
漁業
0
(内資に留保)
*外資出資比率以外に付されている条件などはネガティブリスト最新版を参照
頂きたい。
(5) 最新ネガティブリストの問題点:
大統領令 2016 年第 44 号として発表されて以来、各方面からの問合せや問題点の指摘
が相次いでおり、BKPM としても整理と調整の上で、補足説明や改訂規定の制定する
など今後の動きが注目されるが、現時点で問題点として把握されている主要なポイン
トは下記の通りである。
① 関係省庁間の調整不足
PTSP(ワンストップサービス)の進展もあり、関係省庁間の調整はかなり丁寧に行わ
れたが BKPM と異なった規定や意見を発表する省庁がまだ残っている。当該大統
領令の中でも省庁間の調整が必要な場合は“国家輸出・投資向上チーム”が担当す
ると明記されているものの、現実的にどこまで機能するのか不安が残る。現在表面
化している例としては、
1)建設事業セクター:
外資系建設会社の工事として、公共事業省(PU)大臣令 2016 年第 3 号では
“高技術・高リスク及び 1000 億ルピア以上の工事金額”という条件があり、
新ネガティブリストに於ける“高技術或いは高リスク或いは 500 億ルピア以上”
と一致していない。
2)運輸セクター:
フレイトフォワーダ-に就いて、運輸省大臣令 2015 年第 74 号では“1000 万
㌦以上の投資”
が外資系企業の許可条件となっているが、BKPM 長官規程 2015
年第 14 号(及び改訂版の 2016 年第 6 号)に規定されている“土地建物を除き
100 億ルピア以上の投資”と一致していない。
3)商業セクター及び保健セクター:
医療機器の製造業が Distributor を設立する場合は、商業セクターとしての
100%が適用されるのか、保健セクターの 49%が適用されるのか現場では異な
った見解が出されている。
② 事業分野・業種の定義が不明確
JICA/Japan Desk 及び JETRO や JJC 等の関連説明会に於いて多数の質問が寄せ
られているのは、
1)商業セクター:
Distributor の分類に於ける“製造・生産系列にある Distributor”に関し、製
造・生産系列の定義、取扱製品の範囲、国内流通における商業省規定との関連
等に就いて更に明確な規定が必要。(例えば、製造 Distributor を新設しても現
地(サブ)ディストリビュターにしか販売出来ないのであれば意味がない等。)
400-2000M2 のデパート(モール内での設置条件)に就いても一般小売業とデパ
ートの違いなど事業内容の明確化が求められている。
2)建設事業セクター:
インフラ関連事業の拡大に伴い、“建機レンタル業”も増えるが、建設事業セ
クターで主管されるのか(今回 100%外資に開放されリストから除外)、或いは
商業セクター(KBLI77306、内資企業のみ)で主管されるのか不明瞭である。