大阪梅田キャンパス講座 <世界の難民危機と急激な人口変動に直面するアジアと日本> ○講師プロフィール 井口 泰(いぐち やすし) 一橋大学経済学部卒業、ドイツ・エアランゲン・ニュルンベルク大学留学。1999 年に、関西学院大学から博士 (経済学)取得。経済学部教授。専門は、労働経済学、国際経済学 ドイツ・マックスプランク研究所客員研究員、リール第一大学客員教授を歴任。内閣府・規制改革会議専門委 員(海外人材担当)(2006~10 年)。移民政策学会長(2013~15 年)。現在、国際メトロポリス会議 2016 愛知・ 名古屋組織委員会委員長(2015~) グローバルなリスクと難民問題—欧州の現状とアジアの対応— ○講義概要 2011 年に発生した「アラブの春」といわれる北アフリカ諸国での政変は、これら諸国に西側諸国から 輸出されていた武器が、テロ組織にわたるという深刻な結果をもたらした。また、欧米諸国によるテロ 組織への空爆は、皮肉なことに、北アフリカ諸国の国民の生活を悲惨な状態に陥れ、反欧米の意識を高 めた。もともと、マグレブ諸国では若年失業が深刻であったが、欧米諸国に対する反感を高めた若者も テロ集団に参加した。 仲介する業者の指示で船にのり、地中海上で溺死した人々の数は過去 2 年間に毎年 3500 人前後に達し た。2016 年は、EUとトルコの合意の影響で、トルコからギリシャにはいる難民が激減したが、危険な 地中海をわたって命を落とした者は、半年で 3000 人を超えた。 イタリアやギリシャにたどり着いた難民は、ダブリン条約により、EUの外側の国境において、庇護 希望者を保護し審査を受ける必要があった。しかし、経済危機に陥っていたギリシャやイタリアには財 源も人員も足りず、難民が集中したハンガリーには難民認定そのものが困難な状況に陥っている。 トルコはEUとの合意で、トルコからギリシャにはいる不法入国者の送還を受け入れ、EUはトルコ における 250 万人に達する難民キャンプの運営の支援などを約束した。カリフ制の復興を掲げるIS(過 激派組織イスラム国家)は、2016 年夏までに、占領地域が最大だった時期の半分になった反面、世界的 にテロ行動を強化するとし、世界は、新たなグローバルリスクの拡大に直面している。実際、フランス、 トルコなどではテロで多数の犠牲者をでただけでなく、最近ではバングラデシュで多数の日本人が命を 落とした。 ドイツ国内では、難民申請の拠点が数か所設けられ、審査の迅速化が図られている。連邦域内の市町 村に難民受入れ人数が割り当てられた。幸い、ドイツ連邦政府の国家財政は大きな黒字で、難民受入れ のため市町村への財政支援が可能とみられる。難民の母国での資格を正当に認知し、言語習得を支援し、 職業訓練を追加することで、難民を社会の負担ではなく、人材としてうけいれる懸命な取り組みを中心 に、その仕組みと課題を展望する。 ○参考文献等 ・内藤正典『イスラム戦争ー中東崩壊と欧米の敗北』集英社新書 ・師岡康子『兵とスピーチとは何か』岩波新書 ・井口 泰「外国人労働者問題と社会政策」社会政策学会編『社会政策』2016 年第 8 巻 1 号 ***** アジアの経済統合と人口変動—日本の外国人政策の挑戦— ○講義概要 わが国の外国人政策に関する国の制度的枠組みは 1990 年に成立したが、 出入国管理政策に偏っている。 外国人を受入国・社会に統合する政策の多くは自治体の取り組みに依存する。こうしたなか、1)アジ アでは、急速な少子高齢化と若年人口の移動により、高度人材のみならず、ミドル・スキル職種を中心 に低技能職種に至る多様な労働需給ミスマッチが発生している。日本でも、就労する外国人労働者のう ち、就労目的で入国した者は 3 割に達せず、在留する外国人の言語習得や資格取得の支援の必要性が大 きい。2)アジアの新興国経済が台頭するなか、次第に先進国から新興国への人材移動が高まってきた。 日本でも、今世紀になって外国人人材の流出傾向が強まったが、アジアからの留学生増加が人材流出を 補ってきた。3)アジアでは、若年者の地方から大都市への移動が進んでいる。日本では、若年人口の 減少する地方都市で、外国人人口比率が高まり、永住権を有する在留外国人が半数に達し、外国人二世・ 三世を受入国社会に統合する施策の重要性が高まっている。4)ASEAN 共同体の発足に伴い、アジアでも 外国人の人権確保が重要課題となっているが、日本の外国人差別の禁止に関する法制度整備は、いまだ 十分でない。難民危機の発生発生など国際移動が高まるなか、わが国の現行政策の枠組だけでは、外国 人が自分の能力に適合する安定した就業・生活を享受することが容易でない。在留外国人と子どもたち が社会の底辺層を形成するリスクを高めないためにも、入管政策と統合政策を二本柱とする包括的な外 国人政策への道のりを展望する。 ○参考文献等 井口 泰「東アジア統合したにおける外国人労働者受け入れ政策」『社会政策』2015 年第 7 巻第 2 号など。 国際メトロポリス会議 2016 年愛知・名古屋でも、本コースで議論する問題が多角的にとりあげられます。 http://metropolis2016-nagoya.jimdo.com/
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