通信 第5号 - 国際日本語コミュニケーション研究所

(特非)国際日本語コミュニケーション研究所
通信
第5号
World Japanese Communications Institute
平成 28 年 7 月 22 日 復刊 5 号
発行所 特定非営利活動法人
国際日本語コミュニケーション研究所
〒151-8521 渋谷区代々木 3-22-1
(学)文化学園大学
文化外国語専門学校 D37
す。週 2 回の開講が出来るようになれば、これ
「渋谷日本語教室」にご支援を !!
らに英語と理科・社会を加えたいと考えています。
(特非)国際日本語コミュニケーション研究所
2.WJCI 子ども日本語教室に追加すべき機能
理事長 渡辺 晋太郎
●週 2 回開講に向けて
専門家によれば、言語習得には①日常会話レベ
WJCI が活動の重点を「子どもの日本語教育」
ルの段階と②学習思考レベルの段階の 2 つがあ
に移すことを決めたのは 2008 年でした。幸い、
り、①については、その言語を使う環境にあれば
翌 2009 年から「渋谷区子ども日本語教室」の運
1 ~ 2 年で到達できるが②については継続的な学
営に携わることができましたが、諸般の事情から
習をしても 7 ~ 8 年はかかるのだそうです。す
渋谷区のこの支援事業は 2016 年 3 月で中止にな
なわち、小学校 5 年生で来日した子どもは小学
りました。保護者からの再開を求める電話やメー
校卒業までに①のレベルには到達できるが、②の
ルが数多く寄せられましたので、事務局では保護
レベルに到達できるのは高校 2 ~ 3 年生の頃と
者に対するアンケートを実施しました。参考まで
いうことになります。しかし、WJCI では、中 3
に回収率は 71%。分ったことのうち、主な4点
の終わりまでにはほぼ②の段階に到達させていま
のみ挙げておきます。
す。だからでしょう、過去 7 年間を通して、ほ
①会場としては渋谷駅周辺(75%)
ぼ全員が志望の普通高校に進学してきました。し
②開催頻度:週 2 回(水、金)(92%)
かし、週 1 回の開催では難しいでしょう。2 回開
③教室への期待:日本語(100%)、授業理解・入
講を目指さなければと思います。
●高校生の受け入れ
試準備(92%)、友達づくり(58%)
④授業料負担限度額:1 回 1000 円(小学生父兄
「渋谷区子ども日本語教室」時代にも高校生は
の 83%)、1 回 1500 円(中学生父兄の 88%)
受け入れていませんでした。高校は義務教育課程
1.4 月 22 日に有料教室として再開
ではないからでしょう。
今、ベトナム、中国、カナダ、ニュージーランド、
社会学者の佐久間孝正先生(東京女子大学名誉
アメリカ、イギリスの子どもたち 18 人が渋谷駅
教授)の調べでは高等学校中退率は入学者数の
東口近くの貸し教室で週 1 回学んでいます。8 月
42% にもなると推計されています。経済的困難、
31 日から始まる 2 学期の教室にはモンゴルの子
友人関係、教科内容の極度の理解困難等に加えて
どもたち 6 人とベトナムの子ども 2 人が加わっ
て 26 名となる予定ですので、渋谷区教室時代の
もくじ・Contents
Max. に近い数になります。とはいえ、損益分岐
渋谷日本語教室にご支援を ………… 1~2面
点の 40 人には遠く及びません。このため、渋谷
平成28年度通常総会報告 …………… 3~5面
区教室時代には週 2 回だった開催頻度を 1 回に
写真に見る子どもたちの表情 ……… 6~7面
しています。
指導陣は、小学校退職教員 3 人、高校教師経験
日本語に取り組む子どもたち …………… 8面
者 1 人と日本語教育資格者 3 人で構成し、小学生
NPO10周年の軌跡と当面の課題 …… 9~10面
と中学生を対象に、日本語初期指導、国語・算数
交差点~読者のページ~ ……………… 11面
/数学の指導を行っています。中 3 生に対して
は 2 学期から日本語作文と面接指導を行ないま
1
-1-
編集後記ほか… ………………………………12面
日本語の問題があると指摘しています。日本社会
だむなしい、苦しい時間になるだけだからです。
では高校進学率はほぼ 98% です。高校を卒業で
進学の夢も持てないでしょう。しかるに①と②を
きずに社会に出た場合の不利益は想像に難くない
系統的かつ効率的につなぐ指導法は、個々の指導
でしょう。放置しておけば社会不安に発展する原
員に委ねられているのが現状です。教科ごとに問
因になるかも知れません。社会に出るにしても進
題集をベースにした日本語指導マニュアルを作ら
学するにしても学習思考レベルの日本語能力をつ
なければと考えているところです。
ける機会を与えられるべきだと思います。高校生
●出口に対する責任
WJCI の教室に通ってくる子どもの 8 割は東京
受け入れを早急に実現したいと考える理由です。
3.子どもの日本語指導のむつかしさ
の高校に進学することを望んでいます。これまで
●多様性のブロードバンド
に外国人特別入試枠を持つ都立田柄高校に 5 人、
戦後の日本語教育は「国際交流のための日本語
同じく国際高校に 1 人、私立の関東高校・駒澤
教育の時代」と区分されているように高度経済成
大学付属高校に各 1 人、都立の工業高校に 1 人、
長に引き付けられてやってくる技術研修生や留学
定時制高校に 1 人を送り出してきました。この 1
生を主要なターゲットとして発展してきました。
~ 2 年、その子どもたちの中から早稲田、慶応、
教授法も教材も教師養成システムも成人学習者を
上智、法政、東京経済大学等に入ったという知ら
対象に研究され、作られてきたのでした。そのた
せが入ってきました。今年も何か月か先には同じ
め、現在でも、子どもの日本語教育をコアにした
ような知らせが入ることと期待しています。
教授法、教材、教師指導システムは殆どなく、留
4.教室の運営経費について
今、18 人が学んでいます。2 学期はおそらく
学生や研修生用に開発されたものが援用されてい
26 人でのスタートになるでしょう。1~ 3 学期
るのが実態です。
ところが、子どもの多様性は成人学習者のそれ
間を通して 26 名が毎週 1 回(年 36 回)通って
をはるかに超えて広がっているのです。母語や母
くる前提で試算した収支見込額は、次の通り赤字
文化、来日時期だけでなく、年齢・学年、母親の母
です。
語、家庭での使用言語、通学校が公立校かインター
費 目
ナショナル校か、日本の高校に進学するのかしな
収入合計
いのかによって指導法が変わってきます。なお、
会場費
576,000 円 @ 1.6 万× 36 回
講師料
567,000 円 @ 2.25 千円× 7 × 36
交通費
252,000 円 @ 1 千円× 7 × 36 回
教材費
100,000 円 教科書+配付コピー
小学校低学年ではトイレの習慣も母語も学習習慣
も身についていない場合が多いのです。10 分と
金 額
1,044,000 円 29,000 円× 36 回
20,800 円 @800 × 26 人
自席に座っていられない子も珍しくありません。
保険料
日本語指導に入る前の習慣作りの大変さをご理解
支出合計
1,515,800 円
収支差額
▲ 471,800 円
いただけるでしょうか。また、個人指導ができる
ほどリソースがある訳ではないのでグループ分け
5.ご支援をお待ちします
以上、子どもの学習支援の立ち位置、教室運営の
をせざるを得ないのですが、それが一苦労です。
●学習思考言語としての日本語指導
難しさと実態、台所事情等をご説明しました。一
先に、言語習得には①日常会話レベルと②学習
番費用がかかるのは会場費です。無料または安い
思考レベルの 2 段階があることをご紹介しまし
費用で借りられるところをご存知でしたら教えて
た。成人教育では①だけで学習目的が達せられる
ください。また、例えば企業名を付した冠教室と
場合が多いと思うのですが、殆どの子どもの場合、
してなら支援可能というところがあれば教えてく
どうしても②の段階までやらざるを得ません。通
ださい。そのほか、賛助会員になっていただける
常教室において日本語で教える先生の話が理解で
方をお待ちしております。子どもの利益のために
きて、教科書が理解できなければ、学校生活はた
今後ともよろしくご支援をお願い申し上げます。
-2-
平成 28 年度通常総会報告
事務局長
標記総会は、28 年 5 月 27 日(金)
午後 1 時に文化外国語専門学校 D38a
講義室で開催されました。出席者は委
任状提出者を含めて 20 名(会員総数
26 名)で総会は有効に成立しました。
議長に鈴木功理事を選出して、次の
各号の報告、審議に入り、それぞれの
議案について全会一致で原案は承認
されました。
第 1 号議案:平成 27 年度事業報告
第 2 号議案:平成 27 年度決算報告と
監査報告
第 3 号議案:平成 28 年度事業計画
第 4 号議案:平成 28 年度収支予算
第 5 号議案:役員の選任
○平成 27 年度事業報告
①昨年度同様、文化外国語専門学校を
通じて受託していた渋谷区子ども日
本語教室(日本語指導と教科指導)
②「独立行政法人 青少年教育振興機
構子どもゆめ基金」助成事業の「和太
鼓の響きが誘う小中高生・留学生の国
際交流まつり」
③臨川小学校への日本語教師派遣
この 3 種の事業を実施し要した費用は
総額 4,508,532 円でした。
○平成 27 年度収支決算
収入合計 4,783,496 円、その内年会費
収入は 246,000 円でした。
上記の事業支出に管理費を合わせた
支出合計は、4,959,988 円で、収支差
額 176,492 円の赤字となりました。
○平成 28 年度事業計画
① 渋谷区から受託し実行してきた事
岡
壽
臣
業が 28 年 3 月をもって終了となりま
したが、日本語と教科学習指導事業に
は父兄からの要望があり、有料で継続
実施することとしました。また、これ
まで渋谷区住民の子どもに限ってい
た参加資格を撤廃することとしまし
た。
② 全日本社会貢献団体機構に助成を
申請し、採択されている「和太鼓のビ
ートの誘う青少年と市民の国際交流
まつり」を実施します。
③ 新規企画として構想されている
「中高生の受験作文教室」「旅のベト
ナム語講座」等は、採算が取れること
を条件に実施を進めることが承認さ
れました。
○28 年度収支予算
収入見込みは 4,252,700 円で、内訳は
会費収入 320,000 円、事業収入として
3,932,500 円その他となり、支出は①
事業費 3,545,410 円、管理費 546,200
円で、161,090 円の利益を見込む見通
しとなりました。
○役員の選出
伊藤正子氏、鈴木信之氏の二人の理事
の辞任があり、補充として小林民枝氏
の理事就任が承認されました。任期は
平成 29 年 5 月 31 日までとなります。
○その他
黒川理事長は 28 年 4 月 15 日開催の
理事会において理事長を辞任し、後任
として渡辺晋太郎副理事長が理事長
に就任しました。
又監事の長 和連氏が辞任しました。
-3-
平成27年度収支決算報告
平成27年4月1日から平成28年3月31日まで
(金額単位:円)
科 目
Ⅰ.経常収入の部
1.会費・賛助会費
(1)会費
(2)賛助会費
2.事業収支
(1)渋谷区受託事業
・日本語学習支援
(2)渋谷区立臨川小学校
・日本語指導員派遣
(3)子どもゆめ基金助成事業
・和太鼓まつり
・27年度未収助成金
3.その他収入
・受取利息
・寄付金
・その他
収入合計
Ⅱ.経常支出の部
1.事業支出
(1)渋谷区受託事業
・日本語学習支援
(2)渋谷区立臨川小学校
・日本語指導員派遣
(3)子どもゆめ基金助成事業
・和太鼓まつり
2.管理費
(1) 会議費
(2) 什器備品
(3) 旅費交通費
(4) 通信運搬費
(5) 印刷製本費
(6) 消耗品費
(7) 賃借料
(8) 振込手数料
(9) 会費
(10) 公租公課
(11) 外注加工費
(12) 事務局員経費
(13) アルバイト採用
(14) 雑費
金 額
246,000
180,000
66,000
4,521,102
3,861,500
123,602
185,000
351,000
16,394
352
12,526
3,516
4,783,496
4,508,532
3,525,068
130,748
852,716
451,456
37,670
48,873
5,074
75,226
66,690
22,644
9,590
1,254
16,888
600
10,000
95,206
46,105
15,636
支出合計
4,959,988
当期収支差額
▲ 176,492
-4-
平成28年度収支予算
平成28年4月1日から平成29年3月31日まで
(金額単位:円)
科 目
Ⅰ.経常収入の部
1.会費・賛助会費
(1)会費
(2)賛助会費
2.事業収入
(1)渋谷子ども日本語教室
(2)中高生受験作文教室
(3)中高生面接トレーニング
(4)日本語作文授業
(5)ヴェトナム語会話教室
(6)AJOSC助成事業
金 額
320,000
170,000
150,000
3,932,500
1,647,500
360,000
135,000
300,000
360,000
1,130,000
3.その他収入
(1)受取利息
(2)寄付金・その他
200
200
0
0
収入合計
Ⅱ経常支出の部
1.事業支出
(1)渋谷子ども日本語教室
(2)中高生受験作文教室
(3)中高生面接トレーニング
(4)日本語作文授業
(5)ヴェトナム語会話教室
(6)AJOSC助成事業
(7)開発費
2.管理費
(1)会議費
(2)什器備品
(3)旅費交通費
(4)通信運搬費
(5)印刷製本費
(6)消耗品費
(7)賃借料
(8)振込手数料
(9)会費
(10)公租公課
(11)外注加工費
(12)事務局員経費
(13)アルバイト
(14)雑費
4,252,700
3,545,410
1,725,810
249800
90,600
126,500
250,700
1,052,000
50,000
546,200
30,000
24,000
3,000
221,500
60,000
60,000
19,000
2,700
17,000
2,000
10,000
32,000
45,000
20,000
支出合計
4,091,610
当期収支差額
161,090
-5-
写真に見る子どもたち
赤い電灯の下で学ぶ子どもたち
-6-
世界の子どもをつなぐ感動の響き和太鼓まつり
川崎太鼓団
明
和太鼓体験教室
東京打撃団
©東京打撃団様より
-7-
日本語に取り組む子どもたち
理事・教室コーディネーター
渡辺
瑠美
古い建物、赤い電燈、黄色くなった壁紙の
もとても熱心に学んでいます。
「静かにしな
小さな一室。でも子どもたちの瞳は輝き、以
さい」
「休み時間は終わりです」と言ってい
前に増して一生懸命勉強するようになりま
た渋谷区教室の頃の教室風景が懐かしく感
した。2015 年度の日本語支援教室が 2016
じられます。渋谷区教室といえば、高校への
年 3 月、突然閉鎖され、新たに有料の教室
進学実績も忘れられません。都立国際高校
が開講されました。4 月 22 日のことでした。
への合格も含め、7年間一度も不合格者を
驚いたことに欠席が極端に少なくなり、真
出しませんでした。高校に進んだ彼らは今、
剣さも変わりました。
慶応、早稲田、上智、法政大学等で学んでい
支援の打ち切りからひと月後、ご協力い
ただいた児童のご父兄から “子どもたちが
ます。東京経済大学に学費免除の優等生で
入学した生徒もいます。
開講を待っています” との知らせを受けた
子どもたちは区立校と私立校に分かれて
時は、思わず眼がしらが熱くなりました。開
グループで指導を受けています。入会時点
講日当日、12,3 人の子どもたちとその保護
では日本語が全く話せない子どもが殆どで
者の方たちで狭い部屋はほぼ一杯になりま
すが、区立校の子どもでは通常 12,3 か月
した。中には初めて参加する子どももいま
で教室の日本語がかなり理解できるように
した。
なります。小学生の場合、
1 回 90 分のうち、
7年間、不自由なく支援活動が続けてこ
最初の 50 分は日本語の集中指導を行い、そ
られたのは渋谷区の金銭的援助、勉強する
のあと国語と算数の教科書を使った教科を
教室があったからでした。しかし、今は違い
理解するための日本語教育を行っています。
ます。子どもの保護者は授業料を払わなけ
中学生は入会直後の 3~6 か月は集中的に
ればなりません。渋谷駅近くのレンタルス
日本語初期指導を行いますが、その後は教
ペースはとても高くて 1 週間 1 度の勉強で
科を理解するための日本語指導を行ってい
も大きな負担がかかることがわかりました。
ます。
子どもたちは、日本語が話せるといって
指導員さんへのわずかな謝礼と交通費など、
できるだけ保護者のご負担が少なくなるよ
もそれはあくまで生活言語で、学習言語で
うに受講料を決めました。
はありません。指導員が目指すのは区立校
現在 18 人の児童が 1 つの部屋を幾つか
の子どもたちが通常教室で日本人の子ども
のグループでシェアして勉強しています。
と同じように勉強して行けるようにするこ
区立校の小学生が 2 グループ、インタナシ
となのです。他方、インタナショナル校の子
ョナル校児童が 2 グループ、中学生が 2 グ
どもたちの日本語学習目標は日本でのコミ
ループ、全部で 6 グループになっています。
ュニケーションができるようになることな
このほか 7~8 人の子どもたちが 2 学期の
のです。何年も子どもたちに接して子ども
始まる 8 月 31 日を待っています。
が日本語を習得してゆくプロセスを目の当
今、7 人で指導に当たっていますが、どの
たりにしていますが、子どもは外国語習得
指導員も経験豊かで、責任感が強く、指導法
の達人です。言語環境に適応する能力が高
の改善にも熱心な方たちです。子どもたち
いのでしょう。
-8-
了
NPO 10 年の軌跡と
当面の課題
渡辺
晋太郎
今年は、国際コミュニケーション研究
所が特定非営利活動法人として発足して
11 年目、子どもの日本語教育を始めてか
ら 8 年目、会報である WJCI 通信を復刊
させてから 5 年目に当たる。
そこで、来し方を振り返るとともに、
WJCI の活動のエネルギーであるボラン
ティアについて考え、更にそのボランテ
ィアに支えられて活動している NPO の
あり方を考え、当面取り組むべき課題を
挙げてみたい。
1.WJCI の軌跡
WJCI は、(財)NHK 放送研修センター
が 1991 年から 2004 年まで実施していた
「日本語教師養成セミナー」という日本
語教育資格者を育てる 1 年間の通学制コ
ースの修了生と事務局の有志によって設
立した。
2006 年 1 月 11 日に東京都の認証を取
り、1 月 24 日に法人登記を済ませて特定
非営利活動法人(NPO)国際日本語コミ
ュニケーション研究所が発足した。最初
の活動は、設立記念フォーラムの実施で、
2005 年 3 月 4 日に東京国際大学早稲田サ
テライトの講堂で行われた。
2007 年に理事長が高見沢孟氏から黒川
次郎氏に代わり、(学)文化学園のご厚意で
事務局を文化外国語専門学校内に置かせ
ていただくこととなった。その後 2008 年
3 月の理事会、5 月の総会を経て、WJCI
の活動の軸足を「子どもの日本語教育」に
移すことが決まり、2009 年 5 月から文化
外国語専門学校の再委託により「渋谷区
子ども日本語教室」の運営にかかわるこ
とになった。その後 2016 年 3 月に教室が
閉鎖されるまで、150 人以上の小中学生た
ちが学び、11 人の子どもたちが都内の高
校に進学していった。また、彼らの中には
一昨年当たりから大学進学の時期を迎え
た子どもたちもいて、現在までに早稲田
大学、慶応大学、上智大学、東京経済大学、
法政大学等に進学したという報告が入っ
ている。今年もそのうちどこかの大学に
入学したとの声が聞こえてくるだろう。
子どもの日本語教育以外では、文化庁
助成による日本語教育指導者の育成やブ
ラッシュアップ研修(2008 年、2010 年、
2011 年)及び国立青少年教育振興機構子
ども夢基金の助成活動による「“読み聞か
せ”を通して学ぶ子どもたちの国際交流」
(2011 年~2014 年、毎年 1 回)を実施
してきた。また、2013 年には全日本社会
貢献団体機構の助成を得て、
「外国人の子
どもたちの学習支援を考える市民フォー
ラム」を文化学園大学講堂で実施した。
2016 年 3 月には前記「子ども夢基金」
の助成事業「世界の子どもをつなぐ感動
の響き和太鼓まつり」を文化外国語専門
学校との共催で実施した。
2016 年 4 月、渋谷区の支援中止で閉鎖
なった「渋谷区子ども日本語教室」に代わ
って、子どもの保護者たちが受講料を払
う有料制の「渋谷子ども日本語教室」
(「区」
の字が外れていることに注目)を再開さ
せた。現在 6 か国 18 名が学んでいる。8
月 31 日から始まる 2 学期の授業にはモ
ンゴルを含む 8 人の子どもたちが新たに
参加してくる予定なので、数としてはほ
ぼ渋谷区時代の全盛期に匹敵する見込み
だ。
2.ボランテイアについての考え方
阪神・淡路大震災でボランティアの若
者たちが全国から駆け付けて片づけを手
伝い、途方に暮れる被災者たちを励ます
姿がテレビ映し出されて以来、ボランテ
ィアは社会貢献の担い手としてのイメー
ジを獲得したようだ。だが、東日本大震災
の頃から評価が微妙に変わってきた。単
に善意や自発性のある人というだけでは
受け入れてもらえない、責任ある活動に
参加できないことが分って来た。また、受
け入れ側にもボランティアたちに仕事を
振り分けるコーディネーターがいないと
成果が上がらないことも明らかになって
きた。ボランティアにもコーディネータ
ーにも善意や誠実さのほかに専門性が求
-9-
められることが認識され出したのだ。
日本語ボランティアについても同様の
ことが言える。日本人なら誰でも日本語
くらい教えられると考えて NPO の門を
叩く人たちがあったが、やってみて、翌日
には「ほかの仕事ができたので」と言い訳
を残して去っていった人たちがなんと多
かったことか。
殆どの日本人にとって、日本語は無意
識のうちに覚えた言葉なので、他人に説
明を求められると途方に暮れてしまうの
だろう。例えば、聴き慣れた「桃太郎」の
話を例にとろう。
「むかし、むかし、おじ
いさんとおばあさんが住んでいました。
ある日、おじいさんは山に柴刈りに、おば
あさんは川に洗たくに行きました。
」
太字で書いた助詞に注目されたい。第 1
文では「が」となっている助詞が、第 2 文
では「は」に代わっている。どうしてかと
問われると答えに窮するだろう。
この問題に対して多くの日本語教師は
話題の人物が聞き手にとって新情報か旧
情報かの違いによると答えるだろう。第 1
文でおじいさんもおばあさんも読者に紹
介済みなので、第 2 文では旧情報になっ
ている。従って、
「が」ではなく「は」を
使うのだと。英文法で習った冠詞“a”と
“the”の使い分けに似ているといえる。
脱線しました。ボランティアは、素人で
はダメなのか?そんなことはない。ただ
し、
「自分にとっては暇なときにやること
なので、いつ辞めてもいいのだ」という気
持ちではダメだ。参加しようとしている
組織を通して貢献したいという責任感は
絶対に必要だと思う。教えるという行為
は、教えられる人の人生の一端に責任を
持つことだという自覚は必要だ。
て作られる法人である。この法律が定め
る活動を見ると、1.保険、医療又は福祉の
増進を図る活動 2.社会教育の推進を図
る活動など 17 に渡る活動が挙げられて
おり、そのほとんどは、市場経済に委ねた
のではうまくいかない活動なのだ。市場
という「神の見えざる手」に委ねておけば、
各個人の利己的な行動の結果として積み
あがった社会全体の富が最も望ましい形
で分配される」というアダム・スミスの楽
観思想は実現しなかった。欠陥を補うた
めの一つとして NPO 法ができたのだと
考えたい。だが、法人としての行動や活動
を選択・決定する際に最も声高に主張さ
れたのは利益・損失という市場経済の物
差しなのだ。
(2) 行政や自治体が NPO を見る目
最近、
『NPO と行政の協働』
(上田 優/
香川大学経済学部)の中の一節「NPO の下請
け化問題」を読んだ。筆者が抱いてきた違
和感に重なる部分が大きいことに気付い
た。
上田氏によれば、
「下請け化」とは「仕事
は委託先に依頼するが、権限は行政側に
維持されているため、受託者は受託条件
に不都合を感じても受託することを優先
するため何も発言できない」状態に置か
れていることを指すようだ。
なぜこんなことが起きるのかと言えば、
行政が NPO を資金面、業務遂行面、文書
による報告書の作成能力、金の使い方
等々の面で信じられないからだろうと上
田氏は指摘する。昨今の NPO による不祥
事もこれに拍車をかけているのだろう。
この問題は内閣府も提案している「中間
支援組織」への参加・アクセスを通じてフ
ォローしていく必要を感じさせる。
3.NPO に対する考え方への違和感
筆者は 10 年間 WJCI の理事として仲
間の言動や業務を委託してくれる団体を
見てきたが、双方に対する筆者の違和感
は殆ど変わっていない。
(1) NPO の活動を決める基準
NPO 法人は、1998 年(平成 10)に制
定された「特定非営利活動促進法」に則っ
結び:当面の課題
WJCI の主たる活動は今後とも子ども
の日本語教育分野だ。現在週 1 の「渋谷
日本語教室」の週 2 回実施、現在欠けて
いる高校生の受験支援教室、就職希望者
のためのマナーを含む接客日本語コース
の開発などに取り組んでいきたいと思う。
了
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交差点:
支援教室と子どもたち
きです。ここでは日本語を学んでたのしみ
指導員
安藤良子
支援教室で子どもたちと学習していると、
ます。グループはべつべつに分かれていま
す。わたしはがっこうのそとでゆっくりと
子どもたちの目の輝く瞬間があります。そ
れんしゅうすることができ、じょうずにな
れは生まれた国のことを話す時です。国の
りました。これからもさまざまなこくせき
言葉、おいしい食べ物、民族衣装、そして、
のひとたちといっしょにまなびたいとおも
美しい自然のことを話す表情は嬉しそうで
っています。わたしは日本語がだいすきに
生き生きしています。皆の知らないことを
なりました。
いろいろな言葉を駆使して身振り手振りを
交えて教えてくれます。そんなときの誇ら
たくさん友達ができました
代々木中学校 3 年
しげでリラックスした表情が私は好きです。
王
晶
子どもたちは外国で生まれ、それぞれの
私は渋谷子ども日本語教室で 3 年間近く
家庭の事情で日本に来て、今こうして机を
学んできました。小学校 6 年生からこの教
並べて勉強しています。日本語学習の目的
室に通って、今、中学校 3 年生です。最初
も一人一人違い、それぞれに個性があって
は全然日本語がわかりませんでした。学ん
十人いれば十通りです。支援教室では共通
でいくとだんだん話ができて、教科書もわ
の目的を目指しながらできる限り子どもた
かるようになりました。日本語ができるよ
ちの個性に応じてきめ細やかな支援を行っ
うになると、学校で習う科目も学ぶことが
ています。国の違い、個人の違いがおおいに
できるようになりました。渋谷教室では楽
発揮される場所だと感じています。
しい時間を過ごして、たくさんの友達がで
きました。そして、いっぱい知識を学びまし
折り紙を使って楽しい日本語教室
ブリティッシュ
た。いろいろなことを教えてくれて、ありが
スクール 5 年
アリアナ
ヒル
とうございました。これからも頑張りたい
です。
日本語のクラスはとてもたのしいです。
わたしはいままで日本語をたくさんべんき
ぼくの夢は通訳になって・・・
代々木中学 2 年
ょうしてきました。そしてたくさんのたん
ごをおぼえました。わたしはおりがみやお
リュエン
シュアン
ヒエウ
もちゃなどを日本語のべんきょうのときに
ぼくが初めて渋谷子ども日本語教室に来
つかってたのしみました。ありがとうござ
たとき、日本語はよく話せませんでした。そ
いました。
の時、ぼくは 5 年生でした。漢字も一つも
わかりませんでした。渋谷教室のおかげで
世界中の友達と学ぶ日本語クラス
ブリティッシュ
漢字をたくさん覚えることができました。
スクール 6 年
ジェイムズ
ヒル
まずはじめにわたしはこのグループがす
これからももっと勉強して、将来通訳にな
って日本とベトナムのために仕事ができた
らと思っています。
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事務局便り
ご入金有難うございました
6 月 29 日現在で、28 年度の年会費として 12 万円、法人会費 5 万円、賛助会
費として 14 万 4 千円が入金されました。納入された方のご芳名を掲載し、感謝
の気持ちに代えさせていただきます。有難うございました。
○平成 28 年度個人年会費をご入金いただいた皆様(五十音順、敬称略)
安藤良子、飯田 環、池田尚弘、石澤弘子、井上 茂、大西水美、岡 壽臣、
小野寺裕子、金沢美智子、楠田真木子、黒川次郎、小林孝雄、小林民枝、
後藤正一郎、丹澤順之介、長 和連、手柴スエ子、中橋和江、西原鈴子、
村田明穂、茂木和枝、渡辺一由、渡辺晋太郎、渡辺瑠美
お振込みのありました方には会員証をお送りしております。
○平成 28 年度法人会費をご入金いただいた法人様
文化外国語専門学校
○平成 28 年度個人賛助会費をご入金いただいた皆様(五十音順、敬称略、数字
は口数)
飯田 環(3)、池田尚弘(1)、大西水美(2)、岡 壽臣(3)、小野康子(1)
金沢美智子(3)、川村 純(1)、楠田真木子(5)、小林孝雄(1)、田村 貢(1)、
丹澤順之介(1)、村田明穂(1)、渡辺一由(5)、渡辺晋太郎(10)、渡辺瑠美(10)
賛助会費は WJCI の将来を考え、寄付金控除(寄付金額から国税、地方税
合わせて最大 50%の税額控除)のできる「認定 NPO」を目指すためのもので
もあります。引き続き、お一人でも多くの方に賛助会員になっていただけます
ようよろしくお願い申し上げます。
<編集後記>
「WJCI 通信第 5 号」の編集計画案を作ったのは、ゴールデン・ウイークの頃だった。
この最新号は、行政サービスとしての「渋谷区子ども日本語教室」が中止になって、その
あと有料制の民間サービスへとシステム変換をした際に影で協力していただいた父兄の
皆さんの号にしようと考え、寄稿をお願いしていたのですが、締切日を過ぎても原稿が出
てきませんでした。みなさん、職種は違っても国を背負い、寝る時間を削ってまで働く厳
しさは同じで、それ以上の無理はお願いできませんでした。ごめんなさい。
平成 27 年度に引き続き、今年も 12 月 24 日(土)に文化学園大学大講堂で「和太鼓の
ビートが誘う青少年と市民の国際交流まつり」を開催します。
「和太鼓体験教室」と「和太
鼓国際交流まつり」の 2 部構成です。体験教室では東京打撃団と川崎太鼓団「明」のメン
バーが基本演奏を指導します。お楽しみに。(S生)
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