DOAC投与下でのアブレーション施行患者における無症候性脳梗塞

2016/8/8
JHRS 2016レポート|抗血栓療法トライアルデータベース
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2016年7月14~17日,札幌
DOAC投与下でのアブレーション施行患者における無症候性脳梗塞
2016.8.8
アブレーション施行時にダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバンを用いた場合,3剤
間で有効性,安全性に有意差なし-7月16日,第63回日本不整脈心電学会学術大会
(JHRS 2016)にて,中村俊博氏(国立病院機構九州医療センター循環器内科科長)が発
表した。
●背景・目的
心房細動に対するカテーテルアブレーション(以下,アブレーションと略す)施行例では,合
併症として0.5~1%に有症候性脳梗塞が,10~30%に無症候性脳梗塞が発症するとされ
ている。われわれは以前,アブレーション周術期にワルファリンを継続投与することによ
り,無症候性脳梗塞の発症を10%以下に低減できることを報告した1)。
一方,直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)の登場により,アブレーション施行時の抗凝固
中村俊博氏
療法としてDOACが用いられる機会が増えている。今回われわれは,DOAC 3剤をアブレーション施行時に用いた場合に,
薬剤間で有効性,安全性に差が生じるかについて検討を行った。
●方法
アブレーションを初めて行う心房細動患者連続例109例を対象とした。薬剤の内訳はダビガトラン群49例,リバーロキサバ
ン群28例,アピキサバン群32例であった。すべての薬剤について,術前日までは通常通り投与し,術当日の朝は投与せ
ず,術後は出血がないことを確認後,夜に1回投与,翌日から通常通りの投与を再開した。ヘパリンは,術中はACT値が
300~400秒に維持されるよう投与し,術後24時間に10,000単位を投与した。なお,術前日に経食道エコーにより,全例で左
心房内に血栓がないことを確認した。
アブレーションは全例で,3Dマッピングシステム下にirrigated tipカテーテルを用いた方法にて行い,症例に応じて
cavotricuspid isthmus(CTI)ブロックライン,左房への線状焼灼,複雑電位(CFAE)アブレーションを追加した。
アブレーションに伴う合併症として脳梗塞,重大な出血,重大でない出血について評価した。なお,脳梗塞は,術後24時間
以内に全例に頭部magnetic resonance imaging(MRI)検査を行い,症候性および無症候性の脳梗塞病変の有無を確認し
た。重大な出血の定義は心タンポナーデ,2g/dLを超えるヘモグロビン量の低下または輸血を要する出血,症候性または
処置を要する血腫とし,それ以外を重大でない出血とした。
●結果
1. 患者背景およびヘパリン使用量
3群間で,患者背景にほとんど差異を認めなかった。左房径はダビガトラン群に対しリバーロキサバン群で有意に小さかっ
たが,左房容積には有意差を認めなかった。手術に関する因子として,透視時間がダビガトラン群に対しアピキサバン群で
有意に短かったが,手術時間,通電時間,手術中の電気的除細動施行率に差はなかった。
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ヘパリンの総投与量は,ダビガトラン群でリバーロキサバンおよびアピキサバン群に比べ有意に少なく(それぞれ17,239単
位,20,010単位,20,219単位,p<0.008),体重および手術時間による補正後も有意差を認めた(リバーロキサバン群に対
しp<0.01,アピキサバン群に対しp<0.005) 。ダビガトラン群では他の2群に比べ最大ACT値が有意に低かったが,平均
ACT値は3群間で有意差はなかった(332秒,329秒,349秒)。
2. 合併症発現率
全例において,有症候性脳梗塞症の発症はみられなかった。無症候性脳梗塞はダビガトラン群13例(26.5%),リバーロキ
サバン群3例(10.7%),アピキサバン群6例(18.8%)に認めたが,群間差はなかった(p=0.244,図1)。
図1 無症候性脳梗塞発症率
SCE:無症候性脳梗塞
重大な出血はダビガトラン群1例 (2.0%,ヘモグロビン量の低下かつ輸血を要する出血)。アピキサバン群1例(3.1%,心タ
ンポナーデ)に発現し,群間差は認めなかった(p=0.831,表1)。重大でない出血はダビガトラン群2例(4.1%),リバーロキ
サバン群4例(14.3%),アピキサバン群5例(15.6%)で,3群間で有意差はなかった(p=0.168)。
表1 出血発現率
無症候性脳梗塞発症例と非発症例について単変量解析を行ったが,患者背景,心エコー所見,手術に関係する因子のい
ずれも差はみられなかった。
●まとめ
アブレーション施行時にダビガトラン,リバーロキサバン,アピキサバンを用いた場合に,無症候性脳梗塞および出血の発
症頻度に3群間で有意差を認めなかった。したがって,アブレーション施行時の抗凝固薬としてのDOACの有効性,安全性
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は,3剤間で同等と考えられる。
アブレーションに合併する無症候性脳梗塞に関与する因子として,周術期の抗凝固療法が重要である。今回の検討では,
統計的に有意な差ではなかったもののダビガトラン群で無症候性脳梗塞の発症頻度が高い傾向が認められた。今後は多
数例での検討や,術当日に休薬せずにDOACを使用した場合の検討も必要と考えられる。
文献
1. Nakamura T, et al. Periprocedural continuation of warfarin with therapeutic international normalized ratio reduces
silent cerebral thromboembolism in catheter ablation of atrial fibrillation. Europace 2013; 15: ii168.
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