オープンキャンパス模擬講義資料

2016/8/5
レーザーで実現する超精密な
物差しと時計
理工学部 数物・電子情報系学科 物理工学EP
洪 鋒雷 教授
概要
1. レーザー
レーザーとは、レーザーの誕生、レーザーの応用、レーザー
の特徴
2. 光の色(分光学)と物理学の発展
LEDの色とレーザーの色、ニュートンの分光実験、分光学と量
子論
3. レーザーによるデモ実験
回折格子による光の回折、オーダーエスティメーション
4. レーザーと物差しと時計
メートルの定義、最先端のレーザーである光コム、光時計と時
間の定義、新しい秒の定義と相対論の実証
大学で何を学べるのか?高校の勉強との違いは?
何に役に立つのか?何が面白いのか?
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レーザーとは
Laser
Light Amplification by Stimulated Emission of
Radiation
(電磁波の誘導放出による光増幅)
共振器
光
レーザー媒質
光
励起エネルギー源
レーザーの誕生
• 1960年8月 メイマン(T.H. Maiman)らはルビーレー
ザーの発振に成功
波長694 nm、パルス発振、周波数も出力も不規則
• 1960年12月 ジャバン(A. Javan)らは、He-Neレー
ザーの連続発振に成功
波長1.15 μm、出力10 mW
• 1962年9~12月 米国の4研究室で半導体レーザー
の発振に成功
GaAsのpn結合、840 nm近赤外
GaAsP、710 nm
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レーザーの応用
• (家電)レーザーポインター、レーザープリンター、
レーザーマウス、CD・DVD、バーコードスキャナー
• (通信)光ファイバー通信
• (工業)レーザーレーダー、レーザー測距、レーザー
切断、レーザー溶接、3Dレーザープリンター
• (医療)レーシック、レーザーメス
• (軍事)レーザー誘導、レーザー銃
• (娯楽)レーザーアート、レーザーライトショー
• (科学)レーザー分光、レーザー冷却、レーザー核
融合
レーザー光の特徴
• コヒーレンス(なめらか、可干渉性)
同じ周波数:干渉縞
異なる周波数:うなり(ビート)
• 単色性
E(t) = Acos(wt)
Dwが小さい(スペクトルが狭い)
レーザー分光に応用可能
• 指向性と集光性
回折理論 Dq = l/d
dはビームの大きさ、lは波長
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水素原子分光の歴史
• 1885年 J.J. Balmer:水素スペクトルの観測
→実験式による予測、そして系列線の発見
• 1890年 H. Kayser, J.R.Rydberg:スペクトル線の数
式による表現
→リュードベリの式(経験式)
• 1913年 N. Bohr:水素原子模型の提唱
→量子論の誕生
★実験方法は回折格子を使った分光器
測定相対不確かさ10-6(100万分の1)
水素原子分光の精度向上
• バルマー線の分裂(微細構造) 20世紀初頭
ディラックの相対論的量子論で説明
電子のスピン、反粒子の存在
精度約10GHz(相対不確かさ10-6)
• ラムシフトの観測 1947年
量子電気力学(QED)による説明
精度約1GHz(相対不確かさ10-7)
• レーザー分光による水素原子の超微細構造の発見
核スピンによる超微細構造
レーザー分光の精度約1MHz(相対不確かさ10-10)
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大学での授業(何を学ぶのか)
• 光科学の授業(3-4年)
原子分子のレーザー分光
光物理工学
光工学
光エレクトロニクス
• 基礎的な授業(1-2年)
力学
電磁気学
熱力学
量子力学
レーザーを使ったデモ実験
• 高校で習う「波」
光の干渉と回折
回折格子
d sinθ = m λ
d:回折格子の間隔、θ:回折の角度、m:回折
の次数、λ:光の波長
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問題
オーダーエスティメーション(Order estimation、概
算)を使って、授業で実演した回折格子の溝の間隔
(何本/mm)を計算せよ。ただし、実演で使った
レーザーポインターの波長は532 nmである。
高校の勉強との違い:オーダーエスティメーション
を使って、原理を検証する。細かい計算は後で電卓
をたたくか、コンピュータプログラムで計算する。
「メートル」の定義の変遷
10-12
86Kr ランプの波長
相対不確かさ
10-11
(1960~1983)
10-10
10-9
メートル原器
光の速さ
(1889~1960)
(1983~)
「秒」の定義と
つながる
10-8
10-7
10-6
1930 1940 1950 1960 1970 1980 1990 2000
年
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国際間の長さ単位の統一を目指して
1791年、フランス科学アカデミーの委員会
①地球の北極から赤道までの子午線の長さの1000
万分の1
②赤道の長さの4000万分の1
③北緯45度の地点で、半周期が1秒になる振り子の
長さ(T = 2π
)
自然科学に根拠をもったものでなければ世界で共
通に使ってもらえない
メートル原器からクリプトンランプへ
メートル原器にはいくつかの欠点があった。
1)金属は温度の変化で伸び縮みするので、厳密な温度管理が必要。
2)また、原器にある刻線がV字形で、測定に曖昧さが生じる。
3)メートル原器という「もの」による定義では、紛失、焼損のおそれがある。
1900年代に入ると、光波干渉技術の進歩とともに干渉光源である同位元
素ランプの研究が進んだ。また1933年には、端度器ブロックゲージの干渉計
が開発された。
これらの研究成果を受けて、1960年の国際度量衡総会において、「メート
ルは、クリプトン86の原子準位2p10と5d5との間の遷移に対応する放射の真
空中における波長の1 650 763.73倍に等しい長さである」という新しい定義
が採択された。
原子標準(量子標準)誕生の瞬間であった。
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レーザー ー 電磁波 ー 波
時間標準
周期T = 1/f
周波数
周波数標準
正弦波
長さ標準
波長l
l=
c
f
光の速さ(基礎物理定数)
メートルの定義
メートルは、1/299 792 458
秒間に光が真空中を
伝わる行程の長さ
299 792 458 m/sは光の速さ
1983年の第17回国際度量衡総会において決定され
た。
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レーザーによる物差し
周波数
Cs原子時計
波長
周波数安定化レーザー
実物の長さ
不確かさ
ゲージブロック、標準尺、距離計など
1×10-15
光周波数の測定
10-11~10-14
干渉測定
5×10-8
各種比較手段
被測定対象
長さの
トレーサビリティ
最先端のレーザー:光コム(1999年)
群速度≠位相速度
超短パルスレーザー
T = 1/fr
光パルス列
分光器
(回折格子)
時間軸
フーリエ変換
fr = 1/T
f0 = (Df/2p)fr
周波数軸
レーザーの周波数を測る道具
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光コムの広い応用
レーザーによる物差し
周波数
Cs原子時計
波長
周波数安定化レーザー
実物の長さ
レーザーによる時計
ゲージブロック、標準尺、距離計など
不確かさ
1×10-15
光周波数の測定
干渉測定
10-11~10-14
-18
光時計10
5×10-8
各種比較手段
被測定対象
長さの
トレーサビリティ
10
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時計の歴史
• 人類最初の時計-暦
古代エジプトのナイル川の定期的な氾濫を予測
• 天体現象(太陽や月の周期的な運動)-暦
日時計(夜や悪天候では使えない)
• 水時計
中国で作られた機械じかけ(脱進機)の高精度な
水時計、長らく世界で君臨、天体観測に威力(寒い
ところで水は凍るので使えない)
• 砂時計(11世紀以降)
• 機械式時計(教会など)
時計の歴史
• 振り子時計 1 Hz
1583年、ガリレオ「振り子の等時性」振幅や重りの
重さによらず一定、ホイヘンスが製作
• 経度測定のための海上時計-マリンクロノメータ
*大航海時代、船舶が位置を見失い、遭難
*イギリス議会が1714年に「経度法」、経度の測定
方法に2万ポンドの懸賞金(現代で数億円)
*時計技師ジョン・ハリソンが1759年に、H4を完成
*クロノメータと呼ばれ、経度決定に使われ、懸賞金
を手に入れた
• テンプ-機械方式
懐中時計
• クォーツ(水晶)時計
5 Hz
32768 Hz(215 Hz)
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時間(秒)の定義の変遷
光時計
?
15
地球の公転から定義
不確かさ(10-X)
14
新たな標準
1年=31556925.9747秒
13
12
(1956~1967)
地球の自転か
ら定義
1日=86400秒
11
Cs133原子に共鳴するマイ
クロ波の周期から定義
(~1956)
10
1秒=9192631770周期
(1967~)
9
8
原子時計50年
7
1930
1940
1950
1960
1970
1980
1990
2000
2010
2020
年
光格子時計-18桁の精度
• 原子の光振動を利用した光時計の開発競争が激化。Hgイオ
ン及びAlイオン(NIST),Ybイオン(PTB), Srイオン(NPL) などの単
一イオン光時計が先行。
• 2001年,東大の香取秀俊教授が光格子中の中性原子を用い
る「光格子時計」手法を提案。単一イオン光時計の性能を超
える可能性を持つ。
光格子時計
H. Katori, FSM, St Andrews (2001).
◦ 衝突シフトがない
◦ ドップラーシフトがない
◦ 原子個数が多い->S/Nの向上
◦ マジック波長->光シフトキャンセル
秒の再定義
を目指して
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光時計の目指す世界
現在の技術で到達可能と考えられる不確かさ ~10-18
特殊相対論効果
t
t¢ =
n
歩く速さ(v=1m/s)による時計の遅れ
1 - (v / c )
一般相対論効果
Dn
運動する物体の時間の遅れ
=
5×10-18
2
重力ポテンシャルによる赤方偏移
DF gl
» 2
c2
c
地球上で1cmの高さの違いによる
周波数シフト
1×10-18
究極の計測技術
ジオイド面の精密測定‥‥
測地学への貢献
•
基礎物理定数の恒常性(a)の検証 基礎物理学への貢献
光時計の広い応用
• 時間(秒)の新しい定義
• 物理定数の恒常性の検証
• 一般相対性理論や特殊相対性理論の検証
• 資源探査
• 地殻変動や火山のマグマの動きの検出
• GPSの高度化
• 大容量高速通信ネットワーク
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大学の勉強
• 多くの授業は自分で選択できる
• 覚えるより考える
• 社会で解決が求められている問題へ直結
• 理系は4年の卒業研究が面白い
...
ご静聴、ありがとうございました!
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