文 化 財 展 示 コ ― ナ ― <曽根遺跡の墨書土器

文 化 財 展 示 コ ― ナ ―
平成 25 年 2・3 月の展示会場 五十公野コミュニティーセンター 1階ホール
平成 25 年 4・5 月の展示会場 市 民 文 化 会 館
1 階 事 務 室 前
平成 25 年 6・7 月の展示 会場 猿橋コミュニティーセンター 1階エレベーター前
〒957-0021
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解説 №175
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<曽根遺跡の墨書土器>
■はじめに
曽根遺跡は、天王に所在する奈良・平安時代を中心とした遺跡です。この遺跡からは、木製の荷札のほ
か、檜扇・櫛といった一般の集落からはあまり出土しない木製品が出土しています。加えて、「郡」という文字
の書かれた土器も見つかっていることから、「郡」の役所である郡衙に関連する施設が置かれていたと推定さ
れています。
■墨書土器とは
土器に墨で文字や記号が書かれたものを墨書土器といいます。古代の日本では、まだ識字率が低く、文
字の読み書きができたのは、貴族や役人、僧侶ぐらいと考えられます。ですから、墨書土器が出土した古代
の遺跡は、このような人々との関係の下に営まれていたと推定することができます。
まじな
土器に書かれた文字からは、使用した人や場所、呪いや祭祀のあり方がうかがわれます。しかし一方で、
書かれた文字の役割を判別できないものも多く存在しています。これは、書かれている文字が 1∼3 文字と少
なく、いろいろな解釈ができるためです。
■共同飲食の場で使われた墨書土器
墨書土器の中には、姓や名前の一部が書かれたものがあります。これは、祭事での宴など、共同で飲食
を行う時に使われたと考えられます。食器に文字を書いておくことで、同じ姓のグループや個人ごとに器を割り
振っていたようです。また、古代の貴族社会では、宴会の席で「かわらけ」(=酒坏)に和歌を書く習慣のあっ
たことが知られていますので、当時の人々は文字の書かれた器で飲食をすることに、さほど抵抗を感じていな
かったといえるでしょう。
■墨書土器が呪術に用いられた例
古代の人々は、文字には不思議な力があるとも考えていました。それを裏付けるような墨書土器も見つかっ
ています。墨書土器の中には、「万」・「満」といった縁起の良い文字を一文字だけ記したものがあります。これ
は豊作を祈る祭りで使用されたと考えられます。一方、文字を呪いの道具として利用したことも文献史料から
わかっています。
鎌倉時代(13 世紀前半)に成立した『宇治拾遺物語』には、呪術に墨書土器を用いた話が出てきます。そ
の部分を現代語で意訳しますと以下のようになります。
『宇治拾遺物語』一八四 御堂関白御犬晴明等奇特の事(筆者意訳)
関白藤原道長が愛犬をつれて日々、法成寺へお参りに出かけていた頃のことです。ある日、い
つものようにお寺の門を開けようとしたところ、この犬が道長の一行の前に立ちふさがりました。
不審に思った道長は、側近である陰陽師の安倍晴明を呼び寄せました。すると晴明は「道長様を
呪うための道具が道に埋めてあります。犬には神通力があるため、それがわかるのです。
」と言
って、その場所を道長に示しました。道長が配下に命じてその場所を掘らせたところ、底に赤い
字で「斗」と書かれた土器が出てきました。
晴明は「この呪いの法は自分と道摩法師しか知らないものだ。
」といい、懐から紙を取り出し
て鳥の形に折り、空へ向かって投げました。すると紙は、白鷺となって南へ飛んで行きました。
道長が追わせたところ、白鷺が落ちた家には道摩法師が住んでいました。法師をとらえて尋問し
たところ、左大臣源俊房の陰謀であることが明らかになりました。道長は「本来なら流罪にする
ところであるが、左大臣に命じられて仕方なかったのだろう。
」といって、道摩法師を出身地の
播磨国へ追放することにした。
この物語は事実そのものではありませんが、少なくとも13世紀前半に、墨書土器が呪術の道具としても認識
されていたことがわかります。
■曽根遺跡の墨書土器
曽根遺跡からは合計で 327 点もの墨書土器が出土しており、今回の展示は、ごく一部にすぎません。以下
の表は、曽根遺跡から出土した墨書土器の文字を分類したものです。職名や人名など、多様な種類の文
字が書かれています。このうち、「十」と書かれた墨書土器には文字の記入箇所に様々なパターンがみられ、
注目されます。また、「朝」という文字の筆跡を比較したところ、類似した特徴がみられ、同一人物によって書
かれたものではないかと推定されています。
(解説:一箭 義貴)
種別
墨書
郡に関係するもの
施設名
郡
上殿
職または施設名
海立、毛作
職名または人名
長人、大長
人名
門継、人成、吉成、真大末万呂
その他(単字)
その他(2 文字)
主、取、納、万、丈、耳、中、足、七、済、五、示、大、鳥、小、
八、互、林、公、由、満、力、十、未、岡、山、生、用、井、前、
方、朝、工、継、文、三、博、正、禾、廾、王
大□、日□、入□
※:「□」は、判読不明
参考文献: 豊浦町教育委員会『曽根遺跡Ⅰ∼Ⅲ』 1981 年、1982 年、1997 年
東北文字資料研究会『第 1 回 東北文字資料研究会資料』 2003 年
小林昌二・相沢央 編 『新潟県内出土古代文字資料集成』 2004 年
<担当> 新発田市教育委員会 生涯学習課
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