構成要素の比較からみる日本のアール・ブリュット ―芸術とは何か―

構成要素の比較からみる日本のアール・ブリュット
―芸術とは何か―
18120129
主担当教員
1. はじめに
倉田 奈穂子
田口哲也教授 副担当教員 矢野環教授
当性が示された。
アール・ブリュットとは、美術教育や既存文化
との関係を持たない独学者が独自の表現方法によ
り自発的に創作した作品の数々を指す。本論文で
は、西欧と日本の比較から日本のアール・ブリュ
ットを明らかにする。また、アール・ブリュット
全体の定義の把握を試み、芸術との関係性からそ
の存在意義を見出すことを目的とする。
2. 先行研究
田中(2013)によると、デュビュッフェは 4 つ
の着眼点を重視しアール・ブリュットであるかを
判断していたようである。宮地(2014)はアール・
ブリュットが提唱された経緯から日本における展
開をまとめ、定義の変容を指摘している。ここか
ら、元来の定義と日本のアール・ブリュットに相
違がある可能性が指摘された。
3. 分析
3.1. 変数と対象データ
文献調査からアール・ブリュット、アウトサイ
ダー・アートに関する記述を抽出した。結果、11
個の変数と 6 個の予備項目を得た。対象について、
西欧は 1993 年の「パラレル・ヴィジョン」展を、
日本は 2010 年の「アール・ブリュット・ジャポネ
展」を中心に抽出した。変数に対し各々の対象が
該当するかを、ダミー変数を用いてデータ化した。
3.2. 主成分分析と因子分析
西欧と日本の対象の特徴を把握するために、主
成分分析を行った。また、主成分の解釈をしやす
くするため、変数を個人変数 P、社会変数 S、作品
変数 N と分類した。独自分類の妥当性を確認する
ために因子分析を行った。
3.3. 分析結果
主成分分析の結果、第 1 主成分は〈西欧(デュ
ビュッフェ)的特徴〉成分、第 2 主成分は〈日本
的特徴〉成分と認められた。西欧と日本の対象は
各々2 つの群に分けられ、計 4 つの群にまとめら
れた。西欧①と日本②は〈西欧(デュビュッフェ)
的特徴〉がみられ、日本①は〈日本的特徴〉がみ
られた。西欧②はどちらの特徴も有していなかっ
た。
因子分析では、第 1 因子は個人変数群 P、第 2
因子は社会変数群 S、第 3 因子は作品変数群 N に
相当する結果が得られた。よって、独自分類の妥
図. 主成分スコア(対象)の散布図
4. 考察
結果から西欧と日本には相違があることがわか
り、具体的な相違も明らかになった。西欧におい
て精神疾患を有することは一要素であるが必要条
件とは言い難い。一方で日本において知的な障碍
を有することは主な要素であり、必要条件だと考
えてよい。相違要因は、それまで芸術とされなか
った創作部に新たな芸術性を見出した、西欧と日
本の動機の違いに求められた。西欧との相違が考
慮されず、
「独自の創造性」という共通性から同一
の名が付けられたことにより、日本のアウトサイ
ドのアートの解釈は複雑化したと考えられる。
また、アール・ブリュットには内部でそれ自体
の領域を拡大する動きがあり、外部では芸術の領
域を拡大する働きがあることが考察された。
5. おわりに
現代の日本のアール・ブリュットには、それを
「障碍者のアート」と認識する前に、芸術性を評
価し議論することを求めることが期待される。そ
して、アール・ブリュットの存在意義は、それと
比較される「正規の芸術」を通して「芸術とは何
か」を問う可能性にあることが示唆された。
参考文献
宮地麻梨子「日本におけるアール・ブリュットの展開‐
‐脱境界の芸術と福祉の実態」「愛知県立大学生涯発
達研究所特集第 6 号」17-25、2014 年
田中美佳「ジャン・デュビュッフェによる審美的基準に
みるアール・ブリュット-反文化的思想に基づく mad
art の影響関係を視点として」
「神戸大学大学院人間発
達環境学研究科研究紀要第 7 号 1 巻」77-86、2013 年