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広告&マーケティング業界における米国でのニュースやトレンドは、大きく世の中
を動かす事でさえ、ひとつひとつのトピックスだけではその本質は見えてこないこ
とが多い。デジタルインテリジェンス・ニューヨークが毎月お届けする「DI. MAD
MAN Monthly Report」は、ビジネス・経営の視点から、グローバル・マーケター
たちの動き、グローバルエージェンシーの戦略、メディアの新たなチャレンジ動向
の「背後の文脈を紐解き」、独自の解説も交えてニューヨークから提供するレポー
トとする。MAD MAN とは、マーケティング、アドバタイジング、デジタル、メデ
ィア、エージェンシー、ネットワーク、それぞれの頭文字から取ったものである。
本レポートによって、デジタルだけにはとどまらない、現代の『マッドメン』たち
の本当の狙いをつかんでいただきたい。希望、可能性、挑戦、いまできること、こ
れらを追い求めるレポートである。
デジタルインテリジェンス・ニューヨーク 榮枝洋文
<2016 年 6 月、Vol.19>
・米国広告主協会が発表した「メディア取引透明性」裏話
・「アドバタイジング・ウィーク」日本開催が、次にもたらす事
・チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)を外部登用したロレアルのデジタル変化
・今月の気になる事象:ネット広告が TV 広告を抜く、2017 年に確定
・メディア再建の教科書、アマゾン・ベゾスによるワシントン・ポストの変革手腕
※『マッドメン』(原題: Mad Men)は、1960 年代のニューヨークの広告業界を描いた、アメリカ合衆国の AMC 製作のテレビドラマシリーズ。(Wikipedia より)
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米国広告主協会が発表した「メディア取引透明性」裏話
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図1 DIGI DAY 日本語版が、6 月 14 日、15 日、16 日と連日「日本語訳」を並べている。
DIGI DAY 日本語版が、またしても「直訳」だけの記事を並べている。米国では実際メディ
ア取引の「透明性」議論は茶番劇に見えている。そもそも何をもってメディア取引の透明性
を立証するのかは、広告主、エージェンシー、そしてメディア(ベンダー)の立場の違いを
同時に理解していないと、どうしても接点が見つけにくい議論になりがちだ。この米国での
騒ぎはどこか恣意的な事を最初に報告しておく。日本語に「翻訳」される表面的な記事だけ
を見て、「透明性」について日本でお馬鹿な騒ぎにならぬよう、3 者(広告主、エージェン
シー、メディア)から中立の立場で事前解説する。
この議論が大きくなったのは、2015 年 3 月。WPP のメディアエージェンシーMediaCom
の元 CEO であったジョン・マンデル氏が全米広告主協会(ANA)のメディア・リーダーシ
ップ・カンファレンスで「リベートがはびこっている」と公言した事から、広告主(協会、
ANA)としては「無視できない事態」に発展した。
「過去 10 年以上に渡り、キックバックが堂々と行われている」とマンデル氏は、前出カン
ファレンスに出席している広告主に向けて具体的な数字まで公表した。例えば「通常のメデ
ィアコミッション相場はおよそ2%だが、ボリューム比例のインセンティブ(キックバック)
は 9%にも上り、合計 11%の利益がメディア買い付け側に入る仕組み」をスライドを使っ
て説明している。
マンデル氏は Gray~MediaCom で 30 年のキャリアを積み、最後の 10 年を MediaCom の
CEO として務めた「どっぷり WPP グループ」の人材(2006 年退社)。マンデル氏の立場
から、あたかも旧職 WPP(を含む広告会社)がキックバックをもらっているかのような発
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言をわざわざ行なう意図を考えた方が良い。マンデル氏個
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人の正義といえばそれまでだが、結果的にこの騒ぎによっ
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て透明性議論が「グレーから正当化へ変色した」という印
象が強い。
■マンデル発言から、広告主協で調査団が結成された
昨年のマンデル氏発言が元で、ANA は「調査団」を結成
し、K2 社が中立調査会社として選定され、今年のカンフ
ァレンスで「調査結果」が発表された(図1)。このレポ
ートが発表されたおかげで、「透明性議論」があらためて
記事になり、日本語訳が溢れている。
広告主単体が、自社のパートナーであるエージェンシーの
不正具合を公開したりはしないが、広告主「協会」として
図2 6 月 7 日に発表された ANA
のメディア透明性に関する調査
出典:ANA
は「実態調査」という名目で、今回は匿名の聞き取り調査を中立の第三者企業を使ってレポ
ートを行った。
■“Don’t name named”(誰がやったかは、名指ししない)
このレポートは 150 人の「業界関係者」へのインタビューを含んだ聞き取り調査で、うち
117 人が「メディア購買に直接関わった当事者」にコンタクトしている。その 117 人のう
ち 59 名が「リベート」「自己売買」等の透明性が明らかでない取引の経験がある、とサマ
リーで報告している。「ディスカウント」、「コンサルティング・フィー」、「追加コミッ
ション」、「ブラックプール」、「ボリュームリベート」、「学費(冗談)」等、どんな形
式に変わろうが、買い付けに対する対価とは別の呼称の資金の流れが実際にあったのかどう
かを報告している。シロかクロかと言えばクロ、に見えるレポートだ(図3、4参照)。
Sample
リベート/キックバックがあった、と報告した 41 名のうち 34 名は、クライアント側へのリ
ベート戻しを行わなかった(エージェンシー内部だけでリベートを受け取った)とする。報
告事例では 1.67%から最大 20%のリベート幅であったという具体的な数字も出ている。
■調査の落とし穴
この調査は、メディア売買の取引に関わった当事者への聞き取り調査であるが、肝心な「エ
ージェンシー&広告主の取引契約書」に関しては秘守義務から1例も吟味されていない。つ
まり右に「基本契約書」を置き、左に「実取引を見比べて」、違法性や違約があるかを吟味
している調査では無いのだ。部分を切り出して聞き取りをした、断片的な調査と言える。
この広告主協会の調査に関し、広告会社のホールディング会社の上位4社は一斉に「遺憾の
意」を表明している。取引契約の構造には触れずに「店頭でネクタイを買うのに「布地コス
ト」が不透明」と言うようなものだと、メディアバイイング・エージェンシー関係者は例え
る。
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■広告主は静観
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デジタル、OOH、新聞雑誌、テレビ、全てのメディア取引の領域においてのレポートであ
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るのだが、ことさらデジタルの領域におけるエコシステムに関して「グレー」部分を指摘し
ている感もある。デジタルのインベントリー取引において、各ベンダー(スタック)が重な
りマージンが膨れる様子は、マーケター側も十分承知の分野のはずだ。
「エージェンシーのメディア取引が透明ではない」という話題は、本来は予算主である広告
主にとって喜ばしく無い響きである。しかし、現時点でこのレポートの結果に騒いでいる広
告主は1社も無い。むしろ、P&G やユニリーバを筆頭に「自社とエージェンシーとの取引
は明確であり、互いの信用の関係を続けている」という立場を発表している。
考えればわかるだろう、契約中のエージェンシーをわざわざ陥れるのは空に向かって自分に
唾するようなものだ。仮に広告主が取引形態の「再チェック」を行なうとしても、結果は口
外しない内部監査的なチェックになろう。「再確認中」「問題は無かった」という部分まで
をわざわざ発表する広告主は少ない。
レポートの中で紹介された不透明取引の例
Sample
図3:ボリュームディスカウントやアップフロントでの買い付け予約により、二重価格が存在しているように
見える。出典:K2 Media Transparency Report
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■広告主側の事情
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実は広告主側にも透明性だけで立ち上がれない事情がある。近年の株主(CEO)から CMO
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に突きつけられる最大課題として「Non-working
cost=メディアに投下されないエージェ
ンシーのフィー」の削減がある。P&G, Unilever, Kimberly-Clark, Kellogg, L'Oréal,
Walmart, Target 等では、自前トレーディング・デスクの設置が騒がれた時期もあったが、
どうしてもエージェンシー側の知見やオペレーションに頼る運営になる傾向もある。
ここで主役に登場するのが、日本ではお馴染みのエージェンシーによるメディア「買い切り
(先買い)枠」。メディアの買い切りビジネスはエージェンシー側が在庫リスクを背負う分
をカバーする利益を乗せるため、ネット価格が広告主には見えない。実は一見不透明に見え
るこの取引方法が、ある意味広告主側から「歓迎される」取引である可能性があるのだ。
レポートの中で紹介された不透明取引の例
Sample
図4:メディア購買のエージェンシーとの取引には透明性が、ホールディング内部での別の会社に利益が
キックバックされる可能性(緑実線)。実際には何もサービスが提供されてないケースも。
出典:K2 Media Transparency Report
エージェンシー側が買い切り(先買い)のリスクを取ることで、エージェンシー側の利ざや
が多くなろうとも「外付け」のフィーは発生しない(エージェンシーは、さすがに二重に利
益は取らない)。これにより、広告主側は表向きの大目標である Non-working Cost(メデ
ィア以外に投下されるフィー)の削減を達成できる。なおかつエージェンシー側は利幅を伸
ばせる。まさに WIN-WIN の取引となっている事が、エージェンシーの利幅が不透明でも
「暗黙の」状態を保っているのだ。
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「アドバタイジング・ウィーク」日本開催が、次にもたらす事
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図1:増上寺の前で開かれた第一回アドバタイジング・ウィーク・アジアの
オープニングセレモニー。
Advertising Week Asia がついに東京で開催実現した。MAD MAN レポート筆者(榮枝)
をご存知の方から「ついに実現しましたね!」と声をかけていただいたのは感無量であった。
今年5月 30 日から 6 月 2 日まで、六本木ミッドタウン会場を中心に「アドバタイジング・
ウィーク(以下 AW)」が実施され、無事終了した。参加された MAD MAN 読者も多いだ
ろう。
ニューヨークで毎年9月後半~に開催される本家 AW は、世界中の広告エージェンシー、
広告主、メディア、アドテクノロジー企業が集まる広告業界の一大イベントだ。開催期間は
1 週間、約 10 万人の動員、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルに
匹敵する規模。毎年広告業協会(JAAA)の米国研修団もこの開催時期に合わせてスケジュ
ールが組まれ、日本からの出張者も 100 人規模で参加する。
今年の東京開催の実現には、組織建てから運営収支に至るまで、電通が「がっぷり」参画を
コミットしてくれたおかげで、各方面に手を伸ばしてくれた。急転直下で決まった「第一回」
の開催だったが、おかげで大盛況の運営だった。オープニング・セレモニーは増上寺の境内
屋外で東京タワーの夜景をバックに幻影的な演出で始まった(図1)。
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■グローバル主催者が開催するコンベンションを、東京で開催する意義
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例えば自動車業界が、国際コンベンションである「東京モーターショー」を開催するのと同
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様に、(広義の)広告・マーケティング業界の国際的なコンベンションが、世界
3 大マー
ケットである東京で開催されるのは十分に自然な流れだ。ところが日本は、アジアでの国際
コンベンション開催地の選定の際となると、毎度シンガポール、香港、北京、上海に奪われ
ている事に慣れてしまった状態。なぜシンガポールなのかと疑問も抱かず、「スパイクアジ
ア」参加のために大勢してツアーでシンガポールに行く広告人も多い。
グローバル・ホールディング会社のトップ5は、WPP(ロンドン)、オムニコム(ニュー
ヨーク)、ピュブリシス(パリ)、IPG(ニューヨーク)、そして電通(東京)と続く。オ
ムニコムと IPG のお膝元であるニューヨークから始まった AW が、「AW ヨーロッパ」と
してロンドンに飛び火した。英国 WPP マーチン・ソレル CEO、仏ピュブリシスのモーリ
ス・レヴィ CEO 自らが登壇するイベントとして成長している。次なる「AW アジア」の会
場はどこの都市が良いか、と 3 年前に主催者(Stillwell Partners)の CEO が探していた。
「そりゃ、(シンガポールではなく)東京だ」と主催者に日本人として筆者は言い切った。
イベントの開催にあたり「採算性があるか」とか、「盛り上がるのか」等、必須確認事項を
横において、広告&マーケティング業界として、電通グループが旗振り役となり、日本(&
アジア)マーケットの人材活性化のために「意地でも」「政治的に」開催して欲しかった。
電通や JAAA を始め、耳を傾けてくださった方には感謝と敬意でいっぱいだ。
■アドバタイジング・ウィーク(AW)で考えさせられた事
日産、資生堂、楽天、LINE、リクルート等のマーケター側の社長、役員のキーノート・ス
ピーチから、現場の施策やツールの紹介まで、非常に幅広い分野が網羅された。テクノロジ
Sample
ーを切り口とした「アドテック」や、クリエイティブを切り口とした「カンヌ」等のシング
ル・テーマではなく「包括イベント」が AW の特徴だ。アドテクも含み、クリエイティブ、
メディア、広告業、媒体社、コンテンツホルダー、を含み、職種で考えても、クリエイティ
ブからマーケ担当、メディア担当、営業から経営に至るまで「会する事ができた」イベント
となった。
図2:アジアからの来場者を想定し、日本
語、中国語、英語の同時通訳が準備され、
同通イヤホンは無料貸出になっている。
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チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)を外部登用した
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ロレアルのデジタル変化
図1:ロレアルの 2016 年 6 月の業績報告プレゼンテーションは、財務状況の報告を含む 39
枚のスライドのうち、6 枚が「デジタル」に関するレポートだ。出典:loreal-finance.com
世界最大のコスメティック企業のロレアルが今年の CES ショーで IoT パッチ(My UV パッ
チ)を発表したのは記憶に新しい(図 2)。昨年登場させた、顔認証技術を使った「メイク
アップ・ジーニアス」アプリ(カメラを鏡のように自撮りで映すだけで、 瞬時に自分の顔
のバーチャルなメイクを試せる)も 1,400 万ダウンロードの有名アプリになった。
図2:ロレアルが開発した IoT 商品「My UV パッチ」。スマホのアプリで体が浴びた UV 量を計測できる。
techcrunch.com
ロレアルの「デジタル変革」が始まったのは、2014 年 3 月にパリのデジタル・コンサル企
業 Valtech 社の創業者で、マイクロソフト時代にスタートアップ企業とのイノベーショ
ン・エコシステムを構築していたルボミラ・ロシェ氏(招聘当時 37 歳、図 3)を外部から
チーフ・デジタル・オフィサー(CDO)として招いたところから始まっている。ロレアル
はジャン・ポール・アゴン CEO 自らが「デジタル変革&イノベーションこそが、企業の成
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長ドライバーの中心」と位置づけて、トップダウンで人材登用を行った(ロシェ CDO はア
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ゴン CEO に直接レポートを行なう)。冒頭の図 1 は IR 資料だがページの多くをデジタル
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戦略の説明に使うほどの主要な柱となっている。
ちなみにロレアルは CMO 職をエグゼクティブ・コミッテ
ィー(15 名)の中に置いていない。偶然にも、ロシェ
CDO を招いた同年 5 月に、それまでロレアルの CMO で
あった(マーケティング業界では有名な)マーク・スパ
イシャート氏が、グーグルにグローバル・クライアント
&エージェンシー・ソリューションのトップとして引き
抜かれ、業界は大きな話題になった。その後、ロレアル
は CMO 後任を設けず、ロシェ CDO がエグゼクティブコ
図3:ルボミラ・ロシェ CDO
出典 Adage
ミッティーのメンバーとして統括をすることになる(各
国マーケット別の CMO は存在する)。
ロレアルは、ビューティー&コスメ分野の購買行動が、「EC を含めて」デジタル世界での
情報中心に左右される事を予測しての「先手」投資を進める。パーソナライズドされたアプ
リやテクノロジーで、自社商品を「シミュレート」させる上記のアプリ開発などは「デジタ
ルのほんの入口」。そこから派生されるオンライン上でのコミュニティー形成やビログ・ブ
ログを含むレビューがロレアルの情報資産として積み上がる。デジタル上での情報資産の積
み上げは、顧客の LTV(ライフタイム・バリュー)やブランド価値を増やすためであった
が、今や単発的なテレビ(CM)販促以上の瞬発力すら持つようになってきた。
Sample
図4:ロレアルが位置づけるコミュニケ
ーションのチャンネル、タッチポイント。
消費者のどのプロセスにおいても、「メ
ッセンジャーアプリ」と「アマゾン」の幅
が広がっている事がわかるだろう。薄
字になっているのは、かつて君臨した
メディアでフェードアウトしている意味
だ。出典:loreal-finance.com
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■ロシェ CDO が登場させた、3 本の大きいデジタル改革
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1)デジタル・スタートアップへの投資予算の確保、デジタルパイオニア群との関係づくり
ロレアルは前出の UV パッチやアプリ等の「仕掛け」を大量発掘する体制として、2016 年
5 月にコーポレートアクセラレーターの「ファウンダーズ・ファクトリー」に資本協力を発
表した。世界中でビューティー周りのアーリーステージでのテクノロジー・スタートアップ
との関係づくりやビジネスづくりを行う目的だ。1,500 を超えるスタートアップのアント
レプレナーの中から、年 5 社のスタートアップの選考と資本注入を行い、また年 2 件のペ
ースでゼロから立ち上げるプロジェクトの支援を行なう。
MAD MAN レポートで紹介したユニリーバの「Foundry ファウンドリー」は、2014 年ス
タート。コカ・コーラ、ペプシ、ユニリーバ、アメックス、P&G や VISA らと同様、こう
したスタートアップ企業への投資を先行している企業は多い。ロレアルもようやくグローバ
ル・ブランドに追いついた形だ。
ロレアルは USA 法人単体でも上記「ファウンダーズ・ファクトリー」とは別予算で、
NEXT Generation Award(ネクスト・ジェネレーション賞)を 2011 年に設置している。
女性リーダー創業(CEO)によるスタートアップの支援だ。毎年選考過程の後、1 万~10
万ドルの賞をスタートアップ企業に授与する。さらに 2015 年 3 月、ロレアル USA はニュ
ーヨークの Grand Central Tech アクセラレーターと出資協業も初めている。これらは全て
ロシェ CDO の元で動き出した関係づくり(投資種まき)だ。社内のデジタル・スキルアッ
Sample
プとして「General Assembly」という必須トレーニング・プログラムも開始した。
図5:(左)ロレアルと共同開発する Organovo 社の皮膚 3D プリンター。www.oreganovo.com
(右)ロレアルのパテント皮膚 Episkin 調査・実験用に小さい皮膚片をすでに販売している。
www.episkin.com
2)プログラマティックを含む、メディアバイイング体制のレビュー
昨年の広告メディア業界全体でもロレアルの北米メディア・レビューはトップランクの出来
事だった。1650 億円(15 億ドル)の北米予算を、これまで同郷の仏ピュブリシス(とマ
ッキャン)に長らく依頼していたが、WPP のメディアエージェンシーMEC へ移行させた。
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今月の気になる事象:
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ネット広告が TV 広告を抜く、2017 年に確定
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これまで度々「ネット広告が TV を上回る」というフレーズで、米国でのデータが公表され
てきた。米国で「テレビ」と言えば、ブロードキャスト・テレビの数字なのか、ケーブル・
テレビの事なのか(果てはシンジケート・テレビを指すのか)区分をよく見て判断する必要
があった。ところが来年ネット広告市場がとうとう「全てを合算した、あの TV 広告」の市
場を確実に上回る事が明らかになった。
市場予測の「E マーケター」と、コンサルの「pwc」が揃って近い予測値を発表している。
アメリカのテレビ広告市場は「8 兆円」と覚えておくと良いだろう。ネット広告市場も同等
「8 兆円」になった、という事だ。
2017 年テレビ広告市場
2017 年ネット/デジタル広告市場
PWC 発表
約 8.2 兆円(747 億ドル) 約 8.3 兆円(753 億ドル)
E マーケター発表
約 7.9 兆円(720 億ドル) 約 8.5 兆円(774 億ドル)
上記の E マーケターの数字で、デジタルとテレビのそれぞれの市場シェアは 35-38%であ
るが、イギリスではすでに 2015 年の時点でデジタルが過半数を超えている。これも覚えて
おくと参考になるだろう。
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図1:単位は 10 億ドル
出典 Emarketer
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メディア再建の教科書、アマゾン・ベゾスによるワシントン・
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ポストの変革手腕
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図1:月間のユニークビジター数の伸び。赤:ワシントン・ポスト、黄:ニューヨーク・タイムズ、青:バズフィー
ド。2013 年ころは 3050 万 UV が 2016 年 2 月には倍以上の 7340 万 UV に。 出典:WSJ
ホリエモンがフジテレビの赤字転落に関して、2005 年のフジテレビ買収騒動を振り返り、
「10 年前から経営陣の経営戦略が間違っており、その経営陣を退任させられない株主にも
責任がある」と痛烈に批判している。http://weblog.horiemon.com/100blog/33942/
一方で、海外では旧媒体社の立ち直りの兆しが見られるようになってきた。創刊 140 年の
歴史を持つワシントン・ポストは 2013 年にアマゾンのジェフ・ベソス氏によって当時約
250 億円(2.5 億ドル、2013 年レート US$=100 円で計算)で買収された。その後の
「立ち直り」に関しては、各種報道の通り。月間ユニークビジター数ではニューヨーク・タ
イムズを抜き、デジタルメディアの王者バズフィードに迫る勢いだ(図 1)。
■旧態メディア企業の立ち直りパターン
先月号の MAD MAN レポートでも指摘したが、表面上は不振にあえぐ旧メディアでも、立
ち直り方法のパターンとして、
・資本力とデジタルノウハウのある企業に支援を得る(買収してもらう)、
・デジタル上の良質コンテンツを、広く配信するビジネスモデルに変化させる、
が挙げられる。ワシントン・ポストは、まさにこのパターンだ。
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新聞社の例で言えば、紙媒体のニッチ購読者収入は引き続き活かすが、一方でデジタル上で
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のコンテンツの新しい配信システムを構築し、紙媒体に頼らない「広い」収益柱を引く事。
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テレビチャンネル局で言えば、電波によるニッチ・ビジネスは引き続き活かすが、一方でデ
ジタル上でのコンテンツの収益を「広く」引く事(不動産事業に手を出すのではなくて)。
これらを内部の力ではなく、外部テクノロジー部隊を使えるかどうかがポイントとなろう。
■余談:日本のテレビ局による、電波執着
余談だが、特に日本のテレビチャンネル局の「電波」利権への執着は、新聞で例える所の
「紙の印刷と配達」への執着のようなものだ。電波は実は日本国向けただけの「ニッチ」メ
ディアである事に早く気付いた方が良い。米国ではすでに電波に頼ったビジネスが成り立っ
ているチャンネル局(コンテンツ局)というのもは存在しない、と言ってよいだろう。米国
のチャンネル局はコンテンツをケーブル回線、衛星回線、ネット回線、等のパイプ企業や視
聴者に向けて講読を売るビジネスモデルにシフトしている。
今年から世界中でテストが開始されるモバイル回線の5G が到来すれば、4K コンテンツや
8K コンテンツ・レベルが軽く送れるようになり、2K 方式 で止まっている現行の「電波」
は一気に「使えない」、「使い勝手の悪い」方式となる。講読コストがかかる 5G 回線が経
済的に許容できない世帯向けに、政府が配慮して残す回線が無料の 2K 電波となる。「電波」
はまるで家庭に電話が引けない世帯への、公衆電話の役割のような位置づけになるかもしれ
ない(公衆電話すら、ほとんど消滅した)。
Sample
図2:ワシントン・ポストは、オーナーの持ちかけにより、ジェフ・ベソス氏個人の資産によ
って買収された。写真出典:Business Insider(ベソス氏がオーナー)
話をワシントン・ポスト(以下、WP)に戻す。
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