第1グループ 財務的視点から見た報酬制度 1.企業財務の役割と目的 (1)企業財務の役割 従来は「企業の資金の調達と運用管理」が企業財務の主な役割であった。 すなわち、 ①企業の保有する金銭の正確な管理 ②入出金と受取手形や支払手形の管理 ③企業の保有する有価証券等の管理 ④必要な資金の調達と運用 なかでも、必要なキャッシュが不足した場合、企業は倒産することになるため「企業を必要な資金 が調達できる状態に保つこと」が大きな役割であった。とはいっても、いざという時はメインバン クが助けてくれた。このため、企業は市場原理とは関係なく、少々の利益が犠牲になってもメイン バンクやグループ企業と優先的に取引を行っていた。 しかし、現在は(米国型の)市場原理による自由競争を基本理念とするグローバルスタンダードが 取り入れられ、少々の無駄が許されない時代になってきている。言い換えれば、いかに企業の財務 内容を良好に保ちつつ収益力をつけていくかが重要な問題となってきた。こういった流れの中で、 企業財務には従来の役割に加えて、企業の目的に沿ってより多くのキャッシュフローを創出するよ うに、幅広く企業の財務全般を担当することが期待されるようになってきている。 (2)企業財務の目的 企業の目的:利益をあげること、つまり、投入されたキャッシュよりも大きなキャッシュを創出す ること、株主へのキャッシュを最大化すること(株価の上昇) 企業財務の目的:企業の目的を達成するために財務面から貢献すること ①投入するキャッシュよりも大きなキャッシュフローを生み出す資産を取得すること ②借入金や社債等の負債をできる限り低いコストで調達すること。また、資産が生み出すキャッシ ュフローよりも小さな金額のキャッシュフローの流出に止めることにより、株主へのキャッシュ を最大化すること 以下、報酬制度(給与・賞与、退職金および長期インセンティブ(ストックオプション))が財務 にどのような影響を与えるのか、また財務の目的にあった報酬制度はどういったものになるのかを 検討したい。 2.財務から見た報酬制度 (1)給与・賞与 支払条件が労働契約、就業規則、労働協約などで明確にされていたら賃金とされる。 賃金支払の5原則 ①通貨払いの原則 ②直接払いの原則 ③全額払いの原則 ④毎月1回以上払いの原則 ⑤一定期日払いの原則 ○給与について 1.機能 ①生活保障 ②労働または労働力の対価 2.役割 ①年齢給 ②職能給 ③職務・役割給 3.財務的な特徴 ①下方硬直性は強い ②職能資格給与から職務・役割給与への移行し、役割に応じて給与が変動 ○賞与について 1.機能 ①生活保障 ②企業業績反映(インセンティブ、成果配分) ③個別年収調整 2.役割 ①生計費補てん(給与の後払い) ②功労報償 ③成果配分(企業業績配分) ④景気業績変動調整 3.財務的な特徴 ①下方硬直性は強くない ②業績型連動賞与への移行により財務諸表に好影響 給与は下方硬直性が強いので、賞与について業績連動型賞与を導入した場合の財務面での影響を今 後検討 (2)退職給付(退職金制度) 1.目的 退職給付制度を設けることによる財務諸表への影響を調査・分析 2.退職給付(退職金制度)の種類,特徴 ①確定給付企業年金(適格退職年金・厚生年金基金) ②確定拠出企業年金(DC年金) ③早期退職優遇制度 ④退職引当金制度(社内積立) ⑤退職金前払い制度 3.財務諸表に与える影響 退職給付債務会計 税務 キャッシュフロー 4.まとめ 債務の圧縮方法 後発負担の軽減方法 (3)長期インセンティブ(ストックオプション) 長期インセンティブとしては、(昨年度の報告にもあったように)ストックオプションやESOP 等があげられるが、代表的なものとして、ストックオプションを発行した企業の財務面での影響に ついて考える。 (1)ストックオプションの特性 ・現金支出を伴わない報酬 ・株価とリンクした報酬 ・あくまで選択権である (2)ストックオプションの形態 ①自己株式方式:事前に自社株を購入しておく方式 ②新株引受権方式:権利行使時に新株を発行する方式 (3)ストックオプションを発行した場合としていない場合の比較 以下、新株引受方式について比較すると次のような財務構造になっていることがわかる。 ①負債利子率、倒産確率を下げられること ②ストックオプションの権利行使により、株主から権利行使者への富の移転が起こらないこと ③経営者、従業員(ストックオプション保有者)に業績拡大のインセンティブを与えられること 参考文献:労政時報第3477号、経営財務戦略の解明(日本経営財務研究学会編/中央経済社)
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