事例の関連度が説明文の読解過程に与える効果

事例の関連度が説明文の読解過程に与える効果
海 保 博 之*
藤 岡 真 也**
The Effect of Examples on the Reading Processes for
Expository Texts
Hiroyuki KAIHO
Shinya FUJIOKA
問題の所在
文書やプレゼンテーションなど、人に情報や知識を伝える状況では、「たとえば」という枕詞のも
とで、事例を使うことが多い。伝えたいことをより具体的に理解してもらいたいとの思いに加えて、
伝達状況の流れの中にメリハリをつけて注意喚起をしたいとの思いがあるからである。前者は理解支
援効果、後者は動機づけ支援効果(海保、2002)である。本稿では、事例の持つこの2つの支援効果
について検討する。
事例が理解を支援することを確認した心理学的研究の嚆矢は、Evans, Homme & Glaser(1962)
に求めることができる。彼らは、プログラミング指導の現場で、教師が、一般性のあるルール(ル;
ru)と具体的な事例(エグ;eg)との往復による説明を繰り返しているところに注目して、それを
ルレグ・システムと呼んだ。
その後、事例の重要性の認識は共有されてはいたものの、それを実験的に検証しようとする研究は
それほど多くは行なわれてこなかった。まず、理解支援効果に関する2人の研究を取り上げてみる。
麻柄(1991)は、事例内容にまで踏み込んで、その効果を検討する実験を行なっている。そこで
は、事例が日常生活と関連が深い内容の場合と、実験室場面で日常生活とはあまり関係のない内容の
場合との比較がなされ、前者のほうが、理解支援の効果があることを部分的にではあるが、実証して
いる。麻柄は、その後も、授業場面を想定して各種の事例の効果を検討しているが、効果査定のテス
トの妥当性の問題などもあって、必ずしも十分な検証には成功していない(麻柄・進藤、2004)。
*
**
Hiroyuki KAIHO 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sports Psychology)
Shinya FUJIOKA アベイズム㈱(ABEISM CORPORATION)
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また、谷口(1988)は、事例が、本文と類似していること、読み手が熟知した内容であること、本
文の難解な部分の説明であること、という条件を満たしていれば、事例は、本文の要旨の再生に効果
のあることを確認している。
次は、事例の動機づけ支援効果であるが、これについても、麻柄の一連の研究がある(1986、
1991、2004)。彼らの研究では、事例が、本文内容に対して意外、おもしろいという感情喚起を促
し、それが理解へも促進的に働くことを検証しようとしたが、ここでも十分には成功していない。
本研究は、以上の知見を踏まえて、読解事態における事例の理解支援効果と動機づけ支援効果とを
検討するために行なわれた。
ねらいの一つは、事例と本文の内容的な関連度である。谷口(1988)の研究にもあるように、両者
の類似度(関連度)が高ければ、事例は認知的興味を駆動して理解支援の効果はもたらすであろうこ
とは期待できるが、あえて関連度の低い事例を使った時、それはどのような効果をもたらすのであろ
うか。図1に示すように(詳細は実験の目的の項で述べる)、事例内容と本文内容との概念的葛藤が
両者の整合性をとるような読みを発生させ、それが理解になんらかの効果を及ぼすことが想定され
る。
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図1 事例の関連度による読解過程の違い
もう一つのねらいは、麻柄らの効果検証の技法を踏まえて、本研究では、図に示す読解のプロセス
モデルを直接反映するような工夫をすることで、効果査定、さらには、モデル評価をより精緻かつ直
接的なものにする試みを行なってみた。
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事例の関連度が説明文の読解過程に与える効果
調査「事例評定尺度の作成と事例の選択」
目的
高関連事例と低関連事例の特性を明確にするための事例評定尺度を作成し、それに基づいて、本実
験に使う事例の選択をした。
方法
評定者 大学生と大学院生28名。平均年齢は21.3歳(標準偏差は1.29)だった。
材料 本文は3種類(トピック)を用いた。高関連事例と低関連事例は、ひとつの本文につきそれ
ぞれ5種類を用いた。本文のトピックは、3つの説得技法を説明するもの(「フット・イン・ザ・
ドア」「ドア・イン・ザ・フェイス」「ロー・ボール」)とした。本文は中谷内(1997)と今井
(1996)の文章に修正を加えて作成された。
高関連事例には本文との意味的なつながりを強調する一節(ブリッジ)を入れた。低関連事例は、
このブリッジを取り、その部分を冗長な一節で埋めることで作成された。詳細は付録を参照された
い。
手続き 本文1枚とそれに対応した5種類の事例を渡し、本文を読ませた後、各事例を読ませ、26項
目のそれぞれについて5段階評定をさせた。本文と事例の再読は許可した。
結果と考察
1)事例評定尺度の作成
因子分析(重みなし最小二乗法、バリマックス回転)を繰り返し、因子の純粋性、解釈可能性の観
点から、項目の取捨選択を行ない最終的に表1に示す15項目4つの因子を抽出した。全体の説明率は
53.1%であった。
第1因子は、理解しやすさと興味にかかわる項目が高い負荷をしていたことから「認知的興味因
子」と命名した。第2因子は、内容がイメージしやすく、覚えやすく、容易に読めることにかかわる
項目が高い負荷をしていたことから「読みやすさ因子」と命名した。第3因子は、内容の意外性や印
象にかかわる項目が高い負荷をしていたことから「意外性因子」と命名した。第4因子は、馴染みや
すさに関する2つの項目が高い負荷をしていたことから「親和性因子」と命名した。
この4つの因子は、事例の内容的な分類カテゴリーとして今後、活用できる。
2)実験に使用する事例の選定
因子の特徴から、高関連事例と低関連事例に分け、各事例における因子ごとの合成得点を算出し、
実験で用いる事例を選定した。
高関連事例には、認知的興味因子の得点が最も高いものを、また低関連事例には、認知的興味因子
の得点が低く、かつ意外性因子の得点が高いものを、それぞれ3つのトピックに対応して選んだ。
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3.
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4.
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表1 事例評定尺度の因子行列パターン
実験「事例の関連度が説明文の読解過程に与える効果」
目的
本文との関連度が異なる事例を読ませた時の事例の効果を比較、検討する。
図1に示したように、本文と内容的な関連度が高い事例は、その具体性ゆえに、本文の抽象的な内
容を具体に引きつけて理解させるのに寄与する読み(抽象・具体リーディング)を促し、本文の理解
が促進され、それがさらなる認知的興味を駆動し、というサイクルが回り、結果として、本文の理解
にプラスの効果をもたらすことが想定できる。
これに対して、本文との内容的な関連度が低い事例は、どうなるであろうか。内容的な不整合が本
文の読解にネガティブな効果をもたらすことが予想されるが、読みに対する動機づけという点から考
えると、内容的な不整合が概念的な葛藤を発生させ、それが整合性を生成するための読み(整合性生
成リーディング)を促すことも考えられる。さらに、それが、結果として本文の理解にプラスの効果
をもたらすこともありうるのではないか。それが、本研究で改めて確かめてみたい点である。
もう一つの目的は、問題の所在の項で指摘したように、プロセスモデルのより直接的な検証方法を
工夫し、その有効性を確かめることである。
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事例の関連度が説明文の読解過程に与える効果
方法
参加者 大学生と大学院生42名。平均年齢は21.0歳(標準偏差は1.31)だった。
実験計画 一要因被験者間計画で行なった。高関連事例条件、低関連事例条件、事例を付加しない
統制条件の3水準を設定し、各14名が割り付けられた。
直後評定と理解テスト 事例と本文に関する読みの直後に行なった評定の項目は、先の調査から各因
子2項目ずつ、計8項目を選び(一部修正を加えた)、5件法で回答させた。使用した項目は、表1
に丸をつけて示した。
効果査定の理解テストでは、Bloom, Hastings & Madaus(1971)のタキソノミーを想定して2段
階の理解レベルを設定し、理解の深さが査定できるようにした。テストの内容は、文章を提示して、
それが説明するのはどの説得技法かを尋ねるものだった。記憶レベルのテストでは本文の文章を抜粋
して提示し、応用レベルのテストでは新たな事例を提示した。
理解テスト終了後に、事例の効果について「事例が本文の理解に役立ったか(理解)」「事例に
よって本文を読みたいと思ったか(動機づけ)」「事例によって本文を読むときに混乱したか(混
乱)」の3点について、5件法で評定させた。
手続き 最初に本文の内容についての既有知識を問うテストを課し、いずれの参加者も知識のない
ことを確認した後に実験に入った。事例と本文をそれぞれ四つのセクションに分割し(ひとつのセク
ションは2行から6行)、参加者のセルフペースでセクションごとに提示した。①事例の読み、②事
例の評定、③本文の読み、④本文の評定の順に行なわせた。この一連の作業を3つのトピックについ
て行なわせた(統制条件では事例を読ませなかった)。なお、3つのトピックの提示の順番はカウン
ターバランスをとった。5分間のディストラクター課題後、テストを1問ずつ提示して解答させた。
記憶レベル、応用レベルの順番に解答させた。テスト終了後に前述した3項目についての最終評定を
行なわせた。実験群での実験時間は、約30分であった。
結果
理解テスト成績 まず、より弁別力のある効果査定テスト項目を用いてテスト成績を比較するた
め、記憶テストと応用テストに分けて項目分析(GP分析)を行ない、テスト得点との相関係数が0.5
以下の項目を除外した(0.382と0.397)。結果として記憶テストで用いた項目の相関係数の最小値は
0.599、応用テストで用いた項目の相関係数の最小値は0.565だった。
テスト成績は図2に表示した通りである。1要因分散分析の結果、記憶テストでは差が見られず、
応用テストでは有意な差が見られた(F(39, 2)=4.99, p<.05, MSE=1.51)。LSD法による多重比較の結
果、高関連条件と統制条件が低関連条件よりも有意に成績が高かった。
事例、本文読み直後の評定結果 事例を読んだ後、および本文を読んだ後の主観的評定の4つの因
子(各2項目)の平均値について、1要因分散分析の結果、本文と事例ともに、全ての因子におい
て、事例の関連度間に有意な差が見られなかった(表2)。
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図2 理解テストの成績(*は5%水準で有意)
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2.17
0.79
3.26
0.72
4.17
0.64
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3.02
0.66
3.58
0.65
఩㛭㏻ 3.74
0.99
2.46
0.87
2.86
0.72
3.21
0.96
表2 事例・本文読み直後の評定
読解プロセスの分析 事例の関連度による読解プロセスの違いを明確にするために、高関連条件と低
関連条件に分けて、読解プロセスを追う形の重回帰分析を行なった。結果は図3に示す通りである。
高関連条件では正のパスが、①事例の「認知的興味」から応用テスト成績に、②事例の読み時間か
ら本文の読み時間、③本文の読み時間から最終評定の「理解」に出ていた。
低関連条件では、事例の「認知的興味」から本文の読み時間への正のパスが有意、本文の読み時間
から記憶テストの成績への負のパスが有意であった。また、「読みやすさ」から応用テストの成績も
有意であった。
また、正の有意なパスが事例の読み時間から本文の「認知的興味」と「意外性」との間に、本文の
「認知的興味」から最終評定の「混乱」との間にみられた。
考察
1)理解テストの成績に関して
本文との関連度の高い事例は、記憶テストでも応用テストでも、最も高い得点を示していた。これ
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事例の関連度が説明文の読解過程に与える効果
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**:<.01, ***:<.001 㸤 ᣋᘴහࡡᩐᏊࡢㄢᩒῥࡲ R2
図3 読解プロセス分析のパス図
は、図1の左側のモデルの妥当性を裏づける結果と言える。
一方、本文との関連度の低い事例は、いずれのテストにおいても、高関連条件、統制条件よりも成
績が悪かった。内容の不整合が動機づけになって整合性リーディングが促され、それが最終的に理解
にプラスの結果をもたらすのではないかとの予想は、最終的な効果査定のテストでは確認できなかっ
た。とりわけ、統制条件よりも成績が悪かったのは、概念的な葛藤状態のままに理解テストに臨まざ
るを得なかったことをうかがわせる。このあたりをさらに、読解プロセスでの主観評定の結果から検
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討してみる。
2)読解のプロセスに関して
本研究では、図1に示すような読解のプロセスモデルをより直接的に検証するための方策を導入し
てみた。
読解の研究では、しばしば、プロトコル分析によって読解プロセスを直接反映したデータを収集す
ることが行われ、興味深いデータが収集されてきた(たとえば、安西・内田、1981)。しかし、その
分析に費やす多大なコスト、さらには、実験参加者に不慣れな作業を強いることによる読解プロセス
そのものへの影響などがあって、簡単には使えないという短所があった。そこで、本研究では、事例
と本文の読解の直後に内的過程に関する限定された評定項目を提供し判断してもらうことで、プロト
コル分析に近いデータの収集を試み た。これによって、図1に仮定した読解のプロセスモデルをよ
り直接的な形で検証できることが期待された。
表2に示した結果からは、低関連条件の評定結果が、高関連条件のそれに近い形を示し、両者の間
に明確な差を見いだすことができなかった。事前の調査データの結果に基づいて、低関連事例は、認
知的興味が低く、意外性の高いものを選択したにもかかわらず、両者の間に差がなかったのは、調査
では、本文と事例とを詳細に比較検討できる状況での評定だったのに対して、読解実験では、事例か
ら本文へと一連の流れとして提示されたので、両者の比較ができない状況だったからであろう。
さらに読解プロセスで採取された、①事例の読み時間、②事例の評定、③本文の読み時間、④本文
の評定、⑤理解テスト、⑥最終評定のデータについての関係をパス解析することで、高関連条件と低
関連条件の読解のプロセス分析の比較を行なった(図3)。
高関連条件における特徴的な結果は、事例によって惹起された認知的な興味が、最終的に応用レベ
ルの理解テストにプラスの効果を持っていたことと、事例、本文の読み時間の長さが、最終的なわか
りやすさの評定につながっていたことである。ここでも、高関連事例が読解に与える深い影響とその
プロセスが確認できた。
低関連条件の分析結果は、やや複雑である。まず、想定した概念的な葛藤の代わりに高関連条件と
同じ認知的興味が、本文の読み時間を延長させ、結果として記憶レベルの成績を低下させるというや
や心理学的な常識とは一致しないパスが見いだされた。じっくり読むことがかえって認知的混乱を引
き起こし、それが解消されないまま記憶テストに臨んだための妨害的な影響が推測される。いずれに
しても、これは、高関連条件において、認知的興味が応用レベルの成績と直結しているのと比較する
と、際立って特異な結果である。
さらに高関連条件と比較して特徴的なのは、事例の読み時間がもたらすパスである。高関連条件で
は、事例の読み時間の延長が本文の読み時間の延長につながり、結果として全体の理解度評定を高め
ている。これに対して、低関連条件では、読み時間の延長が本文の認知的興味と意外性を高めて、前
者は、最終的に全体の読みに混乱した印象を与えている。前述した本文の読み時間の延長が記憶テス
トに負の効果をもたらしたことと整合しており、事例の内容的な関連度の低さが、実験のねらいとし
て期待したポジティブな効果をもたらしていないことを強く示唆している。
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事例の関連度が説明文の読解過程に与える効果
まとめと今後の問題
事例、とりわけ本文との内容的な関連が深い事例が読解にプラスの影響をもたらすことは、経験的
にも、またいくつかの心理学的な実験からも知られている。本実験からも、この点に関しては、ほぼ
確認できた。さらに、その効果がもたらされる内的プロセスについても、一つのモデルを提案でき
た。
しかし、事例はいつも内容的に適切なものを提供できるわけではない。本文との内容的な関連度
は、その時々でさまざまになる。しかし、それでも、事例にはそれなりの効果があるはずとの思いか
ら、それを動機づけ支援という観点から、本実験では検討した。結果としては、最終的な理解テスト
と直後評定では、高関連事例条件との明確な差が見られなかった。しかし、読解プロセスにまで立ち
入ってみると、低関連事例条件には、高関連事例条件とは違ったプロセスを見いだすことができた。
この点について、さらに事例の本文との関連度の操作方法(事例の選定の項を参照)を工夫して検討
を重ねてみる価値があると思われる。
引用文献
安西祐一郎・内田伸子 (1981) 子どもはいかに作文を書くか? 教育心理学研究 , 29, 323-332.
BLOOM, B, S., HASTINGS, J. T. & MADAUS, G. F. (1971). Handbook on formative and summative
evaluation of student learning. New York: McGraw-Hill, Inc.(渋谷憲一・藤田恵璽・梶田叡一訳 1974『学
習評価ハンドブック』第一法規)
EVANS, J. L., HOMME, L. E. & GLASER, R. (1962). The ruleg system for the construction of programmed
verbal learning sequence. Journal of Educational Research. 55, 513-518.
今井芳昭 (1996)『影響力を解剖する 依頼と説得の心理学』福村出版 pp.144-156
海保博之 (2002)『くたばれ、マニュアル! 書き手の錯覚、読み手の癇癪』新曜社 .
麻柄啓一 (1986) 例外のあるルールが学習者の興味に及ぼす影響 . 教育心理学研究 , 34, 139-147.
麻柄啓一 (1991) 日常生活場面の事例がルールの学習に及ぼす効果 . 教育心理学研究 , 39, 261-269.
麻柄啓一・進藤聡彦 (2004)「象徴事例」概念の提案と歴史学習に及ぼす象徴事例の効果の検討 . 教育心理学研
究 , 52, 231-240.
中谷内一也 (1997) 消費者の態度形成と変容 杉本徹雄編著『消費者理解のための心理学』福村出版 pp.157160
谷口篤 (1988) 文章の保持における具体的アナロジ挿入の効果 . 教育心理学研究 , 36, 282-286.
謝辞
英文要約の校閲はテリー・ジョイス氏(東京工業大学)に行なっていただきました。この場を借りて厚く
御礼を申し上げます。
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東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 17 号(2010)
付録「フット・イン・ザ・ドア技法を説明した事例と本文」
高関連事例(下線部分が本文とのブリッジ部分)
新聞購読の勧誘員は、一ヶ月だけでいいからとってもらえないかと言い、それに応じると一ヶ月後には半
年の契約を求めてくる。そして半年経つと、今度は一年間の契約を求める。最初にいきなり一年間の契約を
求めると、契約そのものが拒否されやすいが、一ヶ月から求めていくと、最終的に一年間の契約が成立する
可能性は高くなる。この時、一度勧誘員の依頼に応じているので、半年の契約、次に一年の契約を求められ
たら、再び応じた方がいいと思うようになるのだ。
低関連事例(下線部分が高関連事例のブリッジ部分と入れ替わった)
実家の母から聞いた話だ。男のセールスマンがやってきて、最初は化粧水の無料サンプルを見せて、使っ
てもらうだけでいいからと頼み、母が受け取ると帰った。次の日、彼はサンプルの話をした後、その化粧水
を買ってほしいと言ってきた。母は、サンプルを使ってみたから買った方がいいと思って購入した。実家に帰っ
た時、同じ化粧水がいくつもあったので、試してみたが香りがきつくて使い物にならなかった。母は気にせ
ず使い続けており、あまり近づきたくない。
本文
本命の大きな依頼をする前に、相手に小さな依頼(多くの努力や時間、金銭を要求しない依頼)をする技
法である。すると、小さな依頼をしなかった場合よりも本命の依頼を承諾させやすくなる。この時、相手は
最初の依頼に応じているため、二回目の依頼にも応じた方がいいという気持ちになる。この技法に効果があ
るのは、最初の小さな依頼に応じることで「私はそのような依頼を受け入れる人間なのだ」という気持ちが
生まれ、それに対応した態度の変化が導かれるため、と考えられている。
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