ハイイールド債:長期的見通し(PDF/378KB)

ハイイールド債:長期的見通し
2016年 8月 1日
今年の米国ハイイールド市場の急激な反転は、市場の頃合いを測ろうとする難しさを浮き彫
りにしています。投資家は引き続き同資産クラスに投資し続ける価値を考慮すべきでしょう。
2016 年のスタート時点では投資家には数多くの懸念材料が存在しました。中央銀行政策見通しにつ
いての不透明感、コモディティー(商品)価格の崩壊、弱含みで推移する米国経済成長への懸念、そし
て特に中国を中心とした世界経済の減速です。ハイイールド債のエクスポージャーには、エネルギー
や金属鉱業セクターにおける商品関連の発行体が多く存在することから、同市場はこうした懸念材料
の影響に敏感に反応しました。
代表的なベンチマーク指標である BofA メリルリンチ(BAML)米国ハイイールドインデックスは、2 月
初めに対米国債信用スプレッドが 900 ベーシスポイント(bps)に近づきました。これは 2014 年半ば
につけた安値から 500bps 以上の拡大です。今年初めに我々が指摘した通り、リターンには信用格付
けやセクター間で大きな開きがあり、CCC 格付け銘柄や商品関連セクターは大きな売りを浴びせられ
る恰好となりました。しかしこうした環境こそがアクティブ運用型マネジャーが活用できる好機を生み出
したと言えます。
そして、見通しが最も厳しいと見られた 2 月 11 日に、市場は急転し始めました。それでは現在はどの
ような状況なのでしょうか?2016 年これまでのところ、米国ハイイールド市場は最もパフォーマンスの
良い資産クラスのひとつとなっており、6 月 30 日時点で BAML 米国ハイイールドインデックスは年初
来 12.5%のリターンを生み出していました。ブレグジット(英国の EU 離脱)という驚きの結果をもたら
した英国の国民投票を受けて、6 月末には一時的に落ち込んだものの、米国ハイイールド市場は再
び回復を続け、7 月半ばには信用スプレッドが年初来最低水準に達しました。何がこうした状況をけん
引しているのでしょうか?信用格付け別では(図1で示されているように)、CCC 格債がハイイールド
市場で最も堅調な伸びを見せたセグメントとなっており、年初来では 22.4%の急騰を示しています。
図1: 「CCC」格債が今年の米国ハイイールド市場をけん引
2016 年 6 月 30 日時点の、カテゴリー別の年初来リターン
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米国ハイイールドオーバーオールは BofA メリルリンチ米国ハイイールドマスターII コンストレインドインデックスが示す指標で
す。BB 格ハイイールドは BofA メリルリンチ米国 BB 格ハイイールドマスターII コンストレインドインデックスが示す指標です。B
格ハイイールドは BofA メリルリンチ米国シングル B 格ハイイールドマスターII コンストレインドインデックスが示す指標です。
CCC 格ハイイールドは BofA メリルリンチ米国 CCC 格ハイイールドマスターII コンストレインドインデックスが示す指標です。
出典:モーニングスター
過去のパフォーマンスは将来の成果を保証するものではありません。各指数は非マネージド型であり手数料や費用の控除を反
映しておらず、また直接に投資することはできません。ハイイールド市場が将来同様の環境下においても同様のパフォーマンス
を示さない可能性があることに注意すべきです。図で示された過去のデータは例示を目的としたものに過ぎず、ロードアベット
が運用する特定のポートフォリオあるいは特定の投資を示すものではありません。
全ての人が回避しようとしてきたセクターが、最も良いパフォーマンスを示しています。エネルギ
ーセクターは 23%超、金属鉱業セクターは復活を告げる 31.7%のリターンを記録しています。
図 2: 2016 年これまでのところ、米国ハイイールド市場の中で多くの投資家が回避してきたセク
ターが最も高いパフォーマンスを示している
2016 年 6 月 30 日時点の、セクター別の年初来パフォーマンス
出典:JP モルガン
これらの数値は、こうしたセクターの債務不履行状況を踏まえるとより興味深いものとなります。
今年に入ってからの大きな懸念材料は、商品価格の急落がこうしたセクターでの債務不履行の
増大につながるのではないかというものでした。そしてそれはまさに実際に発生した状況でした。
米国のハイイールド債及びハイイールドローン市場における 2016 年これまでの債務不履行は
総額 440 億ドル近くに達し、2015 年の総額を大きく上回るとともに、JP モルガンによれば、ハイ
イールド市場での債務不履行率を過去 6 年間で最も高い 4.68%にまで押し上げました。こうした
状況は商品関連銘柄で圧倒的に多く、債務不履行の 80%以上はエネルギー及び金属鉱業セク
ターで発生しました。これらのセクターを除くと、ハイイールド市場の債務不履行率は わずか
0.53%と過去最低水準に近いレベルを維持しています。
債務不履行が増大する局面において、堅調なパフォーマンスはどのように達せられるのでしょう
か? こうした状況はハイイールド市場では珍しいことではありません。なぜなら痛手の多くは実
際の債務不履行発生のはるか以前から債券価値にすでに織り込まれてしまっているからです。1
月に我々が示唆した通り、こうしたセクターの価格は債務不履行の増大を織り込んで極端に破綻
に近いレベルで取引されていたのです。歴史的に見て、生き残るのは誰か(そして生き残れない
のは誰か)が市場ではっきりしてくる局面では、力強い回復が起こり得るのです。極端な例は
2009 年に発生しています。
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多くの投資家の記憶にある通り、2008 年はハイイールド市場(そして多くの他の市場)にとって史
上最悪の年となり、26%もの急激な下落を記録しました。しかしながら、債務不履行は同年の大
半を通じてわずかに留まりました。債務不履行が二桁の率に達しピークとなったのは翌年になっ
てからでした。債務不履行が急増するなか、この年はハイイールド市場にとって最高の年となり
ました。痛手の多くがすでに価格に織り込まれ、前年の急落によりハイイールドの価値評価が急
反転したことから、BAML 米国ハイイールドインデックスは 2009 年に 58.1%の上昇となったので
す。
しかしながら、ハイイールド市場に対する投資家心理は、ミューチュアルファンドからハイイールド
債カテゴリーへの資金流入で見て取れるように、ある程度両極化しています。例えば、2016 年 1
月までの 3 ヵ月間のリッパーハイイールド債カテゴリーでは、ハイイールド債ミューチュアルファン
ド及び上場投資信託(ETF)から 167 億ドル以上が流出しました。しかし市場が底を打った数週
間後の 2 月末には、資金流入はプラスに転じ、4 月末までの 3 ヵ月間に同カテゴリーは 167 億ド
ル以上の流入を経験することになったのです。5 月、6 月に投資家が再び資金を流出させた後も、
7 月には再びプラスに転じ、7 月 20 日までに同カテゴリーには 70 億ドル近い資金が流入しまし
た。
投資家はハイイールドセクターで戦術的な判断を下そうと躍起になっており、情勢が悪化すると
見ると市場から退散し「危険が去った」シグナルが定着したと感じると再び資金を戻そうとしてい
ます。ハイイールド市場でのリスク・報酬履歴をよく見てみると、これは最善のアプローチではな
いことがわかります。図 3 が示す通り、過去 25 年間に、ハイイールド債は株式市場に匹敵する
リターンをはるかに低いボラティリティで生んでおり、それによってシャープレシオで計測したリス
ク調整後リターンはより魅力的なものとなっています。実際、ハイイールドは S&P500 種株価指
数のリターンの 90%近くを、ボラティリティは約半分ながら生み出しているのです。
図 3: 過去 25 年間に米国ハイイールド債は株式市場のリターンの 90%近くを約半分のボラテ
ィリティで生み出している
出典:クレディスイス。*ハイイールド債はクレディスイスハイイールドインデックスが示す数値です。 **株式は S&P500 種株価
指数が示す数値です。
こうした魅力的なパフォーマンス履歴を考えると、投資家は米国ハイイールドについて資産配分
の恒久的な部分-市場への参入・退散を繰り返す戦術的動きを試みるのではなく-としてとらえ
るべきでしょう。株式市場の頃合いを測ろうとする危険性については数多く書かれていますが、恐
らくハイイールドにおいても同様のアプローチが必要と考えられます。
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しかしハイイールド内での資産配分においては、先に示したとおり、セクター間や信用格付けごと
にパフォーマンスが異なることから、我々の見方では、同資産クラスに対してはアクティブ型のア
プローチが必要であると考えます。厳格なボトムアップ型のクレジットリサーチは信用悪化リスク
が高いセクターや個々の銘柄を回避するのに役立つはずです。一方で、経験豊富なポートフォリ
オマネージャーは、トップダウン型のマクロ的洞察を利用することによって、好ましいセクターの割
合をポートフォリオ内で増やし、全体的なリスク状況を現在の市場環境に最も適した位置に変化
させることができるはずです。パッシブ運用戦略はそうした柔軟性がもたらす恩恵を享受できない
でしょう。
投資家はハイイールドセクターでの潜在的リスクに目を向けることが多い一方で、ハイイールド債
投資による潜在的な恩恵を見落としています。確かに、米国ハイイールド債への投資は、投資適
格債投資に比べて債務不履行の可能性を高めます。しかし長期的に見れば、この資産クラスは
非常に魅力的なリスク・報酬履歴を有しています。現在のマイナス金利と減速経済という世界市
場環境において、ハイイールドは投資家に対して、株式よりはるかに低いリスクで魅力的なインカ
ム及び潜在的なトータルリターン源をもたらしてくれると言っていいでしょう。
リスクについての注記:債券の投資価値は金利変動によってまた市場動向に応じて変化します。一般
に、金利上昇時には債券価格は下落し、逆に金利低下時には債券価格は上昇します。ジャンク債と
時に称される高利回り債ではより高い価格変動リスク、流動性の低さ、適時の元利払い不履行リスク
を伴います。債券はまた期限前償還リスク、信用リスク、流動性リスク、金利リスク、そして全般的な市
場リスクといった他のリスクも伴う可能性があります。通常では、より期間の長い債券は金利変動に対
してより敏感に反応します。つまり償還日までの期間が長いほど、金利変動が債券価格にもたらす影
響度は高くなります。低格付け債は高格付け債に比べて高いリスクにさらされる可能性があります。
いかなる投資戦略もすべての市場変動を克服することはできず、また将来の投資成果を保証すること
はできません。低格付け債券は高格付け社債より高いリスクを伴います。海外投資は一般に国内投
資より高いリスクを伴い、それらには価格変動や高い取引コストが含まれます。全ての市場変動を乗
り越え、将来の成果を保証する投資戦略は存在しません。
高利回り債では価格変動、流動性の低さ、適時の元利払いにおける損失発生の可能性によるリスク
が高まります。
1 ベーシスポイントは 1 パーセントの 100 分の 1 です。
ハイイールド債券スプレッドはハイイールド 債(ジャンク債とも呼ばれます)の様々なクラスの現在の
利回りを投資適格社債、米国債、あるいはその他の指標債券基準と比較した場合のパーセント格差
です。スプレッドはパーセントあるいはベーシスポイント(1%の 100 分の1)の差で表されます。
利回りとは債券から得られる年利であり、通常は市場債券価格に対するパーセントで表されます。
信用スプレッドとは、米国債と、年限が米国債と同じで信用力の劣る債券との間の利回り格差を言い
ます。
標準偏差は、一連のデータが平均値からどの程度分散しているかを測る指標であり、平均値からの
ばらつきが大きいほど高い偏差となります。標準偏差は分散値の平方根として算出されます。金融分
野においては、標準偏差は投資対象のボラティリティを計測するため投資対象の年率リターンに適用
されます。
シャープレシオはリスク調整後パフォーマンスの指標です。シャープレシオは 10 年物米国債のような
リスクフリーレートをポートフォリオのリターンから差し引き、その値をポートフォリオリターンの標準偏
差で割ったものです。ポートフォリオのシャープレシオが大きいほど、リスク調整後パフォーマンスは良
いとされます。
BofA メリルリンチ米国ハイイールドインデックスは米国内市場で発行された投資適格に満たない米ド
ル建て公募社債のパフォーマンスを示す指数です。対象となる証券は投資適格に満たない(ムーディ
ーズ、スタンダード&プアーズ、フィッチの平均格付けによる)格付けを有し、発行時の満期が 18 カ月
以上、リバランス(投資配分比率の調整)時の残存期間が 1 年以上、確定した利払い日があり 1 億ド
ル以上の発行残高を有する債券です。加えて、対象証券は FX-G10 加盟国、西欧諸国及び米国と西
欧の領土へのリスクエクスポージャーがなければなりません。FX-G10 諸国には全てのユーロ加盟国、
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米国、日本、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スイス、ノルウェー、スウェーデンが含ま
れます。当初からのゼロクーポン債、144A 私募債(記名権の有無を問わず)、ペイインカインド証券
(トグル債を含む)は同指数に含まれます。期限前償還権付永久債は、最初のコール日までの期間が
1 年以上ある場合には同指数に含まれます。固定変動利付債は、固定利付期間内に期限前償還権
があり、固定から変動利付債に変わる日の直前のコール日までの期間が 1 年以上ある場合には同
指数に含まれます。偶発転換社債(「CoCo 債」)は同指数には含まれませんが、規制当局によって転
換が命じられる可能性があるものの特定のトリガー条項のない資本証券は同指数に含まれます。優
先株への転換の可能性のあるような債券や、利率繰り延べ(利率累積の有無を問わず)債や、代替ク
ーポン払いメカニズム条項が付与されている債券のようなハイブリッド資本証券も同指数に含まれま
す。主に個人投資家向けに発行、販売された債券、株式リンク債、法的に債務不履行状態にある証
券、ハイブリッド社債、ユーロドル債(米国外で発行される米ドル建て債券)、課税・非課税米国地方債、
DRD 対象証券は同指数には含まれません。
BofA メリルリンチ CCC 格以下米国ハイイールドマスターII コンストレインドインデックス、BofA メリ
ルリンチ BB 格米国ハイイールドマスターII コンストレインドインデックス、BofA メリルリンチシングル
B 格米国ハイイールドマスターII コンストレインドインデックスは全て BofA メリルリンチ米国ハイイー
ルドマスターII コンストレインドインデックスの副次指数です。 BofA メリルリンチ米国ハイイールドマス
ターII コンストレインドインデックスは、全ての米国内市場で発行された投資適格に満たない米ドル建
て公募社債で構成された時価総額加重指数です。対象となる証券は投資適格に満たない(ムーディ
ーズ、S&P、フィッチの平均に基づく)格付けを有し、発行時の満期が 18 カ月以上、またリバランス
(投資配分比率の調整)時の残存期間が 1 年以上、確定した利払い日があり 1 億ドル以上の発行残
高を有する債券です。同指数では全体に占める 1 社の割合を 2%以内に制限しています。同指数の
構成は、1 社の発行体の投資配分比率が 2%を超えないという条件のもとで、現在の発行残高を基
準にした時価総額比重型指数です。この制限を超えた発行体についてはその比率が 2%に引き下げ
られ、それらの債券の個々の額面は案分計算により調整されます。2%上限を下回る他の全ての発行
体の額面価値は案分計算により引き上げられます。同指数を構成する発行体の数が 50 を下回った
場合には、それぞれの発行体が同じ比率で加重され、個々の債券の額面価値は案分計算により増額
または減額されます。
クレディ・スイス・ハイイールド・インデックスは高利回り債市場の特性を反映するために組成された非
運用型、トレーダー値付け型インデックスです。同指数は額面価格が 7,500 万ドル以上で S&P ある
いはムーディーズにより BB 格以下に格付けされた債券を含みます。
S&P 500 種株価指数は米国株式市場の大型株パフォーマンスを示す基準として広く認識されており、
主要業界における主要企業の代表的な株価を含んでいます。
ポートフォリオ上の債券信用力は、スタンダード&プアーズ、ムーディーズ、フィッチといった全米で認
知された統計的格付け機関(NRSRO)によって発行体の信用力を示すものとして付与されます。格付
けの範囲は AAA 格(最高格付け)から D 格(最低格付け)までにわたります。BBB 格以上の債券は
投資適格債と位置付けられます。BB 格以下の債券は低格付け債(ジャンク債)です。高利回りの非
投資適格債(ジャンク債)は投資適格債より高いリスクを伴います。悪条件下では発行体による債券
の元利払い能力に影響を与える可能性があります。
指数は非運用型であり手数料や費用控除を反映しておらず、また直接投資することはできません。
当資料の見解は発表日時点のものであり、その後の進展に応じて変化する可能性があり、全般的な
企業の見方を反映していない可能性があります。同資料は見通し、調査、投資助言として信頼される
ことを意図しておらず、いかなる証券の購入、売却または投資戦略の採用を推奨または提供するもの
ではなく、また投資パフォーマンスを予測、示唆することを意図するものではありません。読者はここで
示された企業、証券、セクター、市場への投資が利益を生んだ、あるいは将来生むと仮定するべきで
はありません。投資には元本損失を含むリスクが伴います。本資料はロードアベットが信頼に足ると
考える情報を基にしていますが、ロードアベットはその正確性や完全性を保証するものではありませ
ん。投資家は投資決定を行う前にフィナンシャルアドバイザーに助言を求めるべきです。
本資料は、情報提供を目的とした参考資料であり、有価証券の取得の申込み・取得の申込みの
勧誘・売付けの申込み・買付けの申込みの勧誘、有価証券に関する投資助言をするものではな
く、以上のいずれの行為に関しても一切用いることができません。また、本資料は金融商品取引
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