2016/08/12「英国:EU離脱とEU競争法実務への影響」

BTMU Global Business Insight
EMEA & Americas
August 12, 2016
Ⅰ.英国の EU 離脱と EU 競争法実務への影響
バンバール・アンド・ベリス法律事務所(Van Bael & Bellis)
亀岡
2
…
4
悦子
Ⅱ.なぜ社長室には金庫があるのか-ロシアの中小企業と現金
スガハラアソシエーツ
…
代表取締役 兼 ロシア法人「Business Eurasia」
代表取締役
菅原 信夫
・本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。
本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の実
行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や、適法性等について保証するものでもありません。
・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。
・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものではあ
りません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、そ
の他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実際の
適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。
・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部
について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。
・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。
1
BTMU Global Business Insight
EMEA & Americas
Ⅰ.英国の EU 離脱と EU 競争法実務への影響
概要
欧州連合(EU)への残留・離脱の是非を問う英国国民投票の結果が 2016 年 6 月 24 日に明らかになり、
離脱支持が過半数となった。
今回は、
英国の EU 離脱と EU 競争法実務への影響について簡単に説明する。
英国は 1957 年に設立された欧州経済共同体(EEC)に 1973 年に加盟しており、英国競争当局は EU 競
争法執行の重要な機関である。欧州委員会と英国競争当局を含む EU 加盟国競争当局は欧州競争ネットワ
ークを設け、その中で競争政策執行一般について討議したり、個々の案件についての情報を交換してい
る。この枠組みの中で、EU 加盟国間の矛盾した決定を回避したり、加盟国競争当局の競争法執行の効率
化を図っている。
現行の EU 競争法では、株式取得や買収などを規制する EU 企業結合規則に基づいて一定の条件の下、
英国を含む複数の加盟国へ届け出なければならない結合案件は、欧州委員会に届け出ることで集中審査
をすることができる。それにより、煩雑な複数加盟国での手続きを回避することが可能となる。カルテ
ルや支配的地位乱用事件など反トラスト案件についての審査は、原則として欧州委員会が審査すると決
定した場合、EU 加盟国による並行審査はできない。そのため、関与企業は欧州委員会の審査への対処に
集中することができる。英国をカバーするサプライヤー・ディーラー間の EU 流通販売契約については、
EU の一括適用免除規則の条件を満たした契約が締結できれば、競業品取引制限条項などが含まれていた
としても違法性がないと推定され、法的安定性が図られる。
英国の EU 離脱は、上記の現状に変化を及ぼすことが予想される。EU 加盟国ではなくなると、その国
の競争当局が欧州競争ネットワークへ参加できるかが疑問となり、新たな取り決めなしには、現在行わ
れているような加盟国間での案件についての執行協力を行うことが難しくなるかもしれない。
グローバルな競争政策への執行協力は、少なくとも経済協力開発機構(OECD)や国際的な競争法ネッ
トワークを通して継続することが可能であろう。しかし個々の EU 企業結合案件については、EU への届
け出と必要であれば英国への届け出という形で、一括して欧州委員会で処理することができなくなるか
もしれない。審査の管轄だけではなく、取引内容の観点から今回の英国による決定の影響を受ける案件
もある。例としては、現在審査中のドイツ証券取引所とロンドン証券取引所の合併に関する案件がある。
カルテルなどの反トラスト案件については、欧州委員会と英国競争当局との並行審査が行われる可能性
が高くなる。
加えて、これまで EU 法の観点から許容されると思われていた契約が、英国法によると問題があると判
断されるリスクが増える。このような傾向は英国、特にロンドンで盛んになりつつある、競争法違反に
基づく損害賠償請求訴訟提起にも影響を与えるかもしれない。今後、英国よりもドイツ、オランダ、フ
ランスなど EU 加盟国における、EU 指令などに基づいた損害賠償制度の整った法域での訴訟が好まれる
ようになるかもしれない。
2
BTMU Global Business Insight
EMEA & Americas
また、英国が EU 加盟国でなくなると、特別な取り決めが準備されない限り、EU 法に拘束されること
はなくなるため、欧州裁判所による判例に拘束される必要がない。EU 競争法とは矛盾する法律や決定を
下すことも可能になる。
記事提供:バンバール・アンド・ベリス法律事務所(Van Bael & Bellis)
亀岡 悦子
(2016 年 6 月 28 日作成)
3
BTMU Global Business Insight
EMEA & Americas
Ⅱ.なぜ社長室には金庫があるのか-ロシアの中小企業と現金
概要
日本企業はロシアで事業を始めると、特に販売の面でロシアの中小企業と付き合うことが多くなる。
そしてロシアの中小企業の有様に驚かされることになる。例えばその社長室には金庫があるが、それに
はロシア特有の理由がある。
現在、ジャパンクラブ(モスクワ日本人商工会)に加入している日本企業数は 190 社ほどで、そのほ
とんどは東証一部上場企業である。これらの日本企業はロシアで事業を始めると、特に販売の面でロシ
アの中小企業と付き合うことが多くなる。そして、ロシアの中小企業の有様に驚かされることになる。
本稿ではロシアの中小企業経営とその経営者について、私の受けた印象をご紹介したいと思う。
まず、ロシアの中小企業とは、どの程度の規模の会社を指すのか。なんでも法律で規定するお国故、
中小企業についても定義が法律で定められている。
【表
ロシアの中小企業の規模】
出所:п.1 ч.1 ст.4 209-ФЗ 《О развитии малого и среднего предпринимательства в Российской Федерации》より
筆者作成(1 ルーブルは 1.5 円(2016 年 6 月)
)
これらの中小企業は、法的には多くが有限責任会社(общество с ограниченной ответственностью-
OOO)の形を取るので、法律面では企業規模にかかわらず、その義務と権利は同じと考えてよい。また、
企業と資本の関係など、法的原理は日本の企業法制とそれほど変わらないので、日本企業には付き合い
やすい相手といえる。
次にロシアには、いわゆる個人事業者に当たる IP(индивидуальныйпредприниматель-ИП)とい
う、個人が商業活動する際のステータスがある。会社組織はつくらないが、個人が継続的な商業活動を
目指す場合、税務署に営業届を出して、納税義務を果たすことを申し出た場合に与えられるステータス
だ。
本来ロシア全土で認められている制度だが、分布を見ると地域による偏りがあり、シベリア・極東方
面に多いようだ(図)
。
4
BTMU Global Business Insight
【図
EMEA & Americas
人口 1 万人当たりの IP(個人企業)数の地域分布(2015 年 1 月 1 日現在)】
注:地図の上部に別掲載されている地域は、左からモスクワ、サンクトペテルブルク、セバストーポリ
(クリミアの都市)
筆者の経験でも、サハリン州、サハ共和国の代理店に IP は多い。名刺などに IP と書かれていなくても、
人名が会社名の代わりに書かれていれば、これが個人企業 IP である。この個人企業というのは、かなり
曲者である場合が多い。なぜなら、経営者の個性が商売に色濃く反映するからである。何を決めるのも
経営者 1 人の判断で、その経営者と会うことができないために代理店契約交渉が宙に浮いた例など、筆
者自身幾度も見てきた。
IP の場合、銀行融資を受けにくいという問題点があり、そのため、別の事業で十分資金を蓄積した経
営者が、第 2 の仕事として IP を始めるという例が多い。このようにロシアにおいても、中小企業での資
金確保は大問題なので、いかに銀行の融資を受けられる企業に見せるか、これには経営者がいつも悩ん
でいる。
ここで、中小企業の資金繰りについて少々書いてみたい。ロシアの銀行にとって商売の本質は、高利
貸しである。低金利のユーロやドルを短期資金として借り入れ、これを自行の為替レートでルーブルに
換算し、自行の貸出金利を適用して貸し出す。この貸出金利は、年利 30%を超えることもあった(現在
は 15%から 20%程度まで下がっている)
。
5
BTMU Global Business Insight
EMEA & Americas
しかし、2014 年経済制裁が始まり、ユーロあるいはドルの調達に支障が出始めると、特に小型銀行は
貸出資金が枯渇するようになる。ロシア中央銀行は経営がおかしくなった小型銀行が倒産する前に、銀
行ライセンスの停止という方法で、銀行の営業中止、あるいは大型銀行による救済という方法で、金融
界が混乱するのを防いだ。
こういう小型銀行から資金を導入している中小企業には、2014 年以降、新規資金はほとんど入ってき
ていない。そのため、ロシア最大の準国営銀行である Sberbank(ロシア連邦貯蓄銀行)に融資を求める
が、この銀行の貸出審査にすんなり通る中小企業は非常に少ない。
そのような理由もあって、ロシアにも多くの「消費者金融」が誕生することになる。正式な銀行が 30%
もの金利を取る世界では、消費者金融が 50%をとっても、即時に現金を用立てしてくれるならその方が
よい、という中小企業経営者はいるものである。100 万ルーブル(150 万円)とか、300 万ルーブル(450
万円)という、ある意味では少額の資金を借り入れては、社長室の金庫に保管することになる。
さて、その現金はどのように使用されるのか。われわれが海外に出張すると、クレジットカードの出
番が非常に多くなる。ホテルにチェックインするところから始まり、レストランやバー、美術館の入場
料からデパートでの買い物まで、全てクレジットカードが活躍する。
東南アジアからヨーロッパ、そして米国まで、多くの国々が同じ状況の中、例外となる大国がある。
それがロシアである。ロシアを旅行すると感じると思うのだが、とにかく財布の中の現金がすごい勢い
で消えてゆく。そしてその結果として、頻繁に銀行の ATM から現金を引き出すことになる。
ロシアでは、都市部を除きカードに対する信任は低く、また仮に VISA、MasterCard といった西欧ブ
ランドのクレジットカードを扱うはずの店でも、経済制裁以降、使えなくなるケースは増えている。モ
スクワの大型スーパーで、筆者の前に並ぶ外国人がクレジットカードで支払いをしようとするも、キャ
ッシャーの端末は受付を拒否、現金を持たないその客は結局買い物を諦めて去って行く、という場面を
何度見たことか。
ロシアにおいては、現金が無ければ企業は回らない。近代化した中小企業においても、現金の利用は
経営の潤滑油となっている。筆者の会社と取引のある企業の社長が日本に出張することになった。当社
が保証人となり査証を申請するのだが、驚いたことにその出張費用は全て社長の社長室の金庫から、そ
れもドルで支払われた(*ロシア国内においては、ルーブルと同時に、ドル、ユーロも準通貨として流
通しており、外国人相手の使用は合法である。そのため、街の ATM で現金を引き出す際、引出し通貨が
ルーブルなのか、あるいはドル、ユーロなのか、指定しなければならない)
。
例えば、社長の滞在経費。航空券、ホテル代などは出張経費としてクレジットカード払いが一般的だ
が、そうすると経理的処理が増える。仮に、社長個人のクレジットカードを使用して航空券を購入した
としよう。カード会社からの請求が上がってきたところで、同額を立て替え経費として社長は会社に請
求を上げる。そして会社は、社長の口座に航空券代として立て替えされた金額を振り込むわけだが、ロ
シアにおいてはこの振り込まれた金額は社長の所得と見なされ、所得税の対象となる。もちろん、いっ
6
BTMU Global Business Insight
EMEA & Americas
たん支払った所得税を取り戻す手段はあるが、これまた面倒なのでとにかく個人名義のクレジットカー
ドで会社経費の立て替えはしないこと、というのが原則となる。
そこで一般的なのが、現金での処理である。航空券を予約すると同時に、航空会社あるいは代理店は
その金額を口頭あるいは「Proforma Invoice」というもので知らせてくる。この金額を銀行から現金で引
き出し、航空券を購入する。このとき、販売者は「AKT」と称する取引確認書を出す。これが日本でい
うところの領収証である。このような煩雑さを避けるためには、社長室の金庫の中から現金を取り出し、
支払ってしまうのが一番早い。それで多くの中小企業はそのようにしているのである。
ロシアという社会において、法律に基づいたルールを縦糸、現実の世界を横糸と考えると、その間を
行ったり来たりしているシャトルに当たるもの、これが現金であろう。日本においては幸いにして、銀
行経由の支払いも現金払いも、払う側受ける側共に特に大きな違いはないので、最近は小銭さえ持たず
にデビットカードで生活を維持している人が増えている。ところがロシアでは、処理の面から現金ほど
楽なものはない、
ということで 21 世紀の今日でも、
現金の優位性は社会のあらゆるところで感じられる。
もちろん、現金での受け払いが頻繁なビジネスにおいては、キャッシュレジスターの設置が義務化さ
れていて、税務当局への申告にはこの記録を提示することになっている。ところが、キャッシュレジス
ターには税務署への登録が必要で、また、四半期ごとにその登録を更新せねばならない。これはインチ
キを防ぐため、登録業者が登録を行うことになっていて、毎回相当な手数料を支払うことになる。もし、
6 カ月以上キャッシュレジスターを利用していない場合は、税務当局への再登録から始めねばならず、打
ち込み時のミスも全て残しておくという面倒な代物である。
要するに、現金といえども、正式な扱いをするキャッシュだけでは日々の生活が成り立たず、社長室
の金庫に眠る私的現金こそがロシアでの小規模ビジネスを支える救世主、ということになる。この救世
主があまりに栄えると、2016 年 2 月 9 日に起こったような地下鉄駅広場にある無許可キオスクの取り潰
し、という当局の大作戦に至るのである*。
ロシアは、19 世紀型の古典的な商売と 21 世紀の情報テクノロジーが並立する、世界にも例を見ない国
になりつつある。
*********************************************************************
*
2016 年 2 月 9 日の夜、モスクワの地下鉄駅 90 カ所において、契約違反のキオスクがモスクワ市当局の雇い入れた
土木業者によって見るも無残に破壊されるという事件があった。
記事提供:スガハラアソシエーツ 代表取締役 兼 ロシア法人「Business Eurasia」 代表取締役
菅原 信夫
(2016 年 7 月 4 日作成)
7
BTMU Global Business Insight
EMEA & Americas
(編集・発行) 三菱東京 UFJ 銀行 国際業務部
(照会先)高垣 恭 北村 広明
(e-mail): [email protected]
・本資料は情報提供を唯一の目的としたものであり、金融商品の売買や投資などの勧誘を目的としたものではありません。
本資料の中に銀行取引や同取引に関連する記載がある場合、弊行がそれらの取引を応諾したこと、またそれらの取引の実
行を推奨することを意味するものではなく、それらの取引の妥当性や、適法性等について保証するものでもありません。
・本資料の記述は弊行内で作成したものを含め弊行の統一された考えを表明したものではありません。
・本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成されていますが、その正確性、信頼性、完全性を保証するものではあ
りません。最終判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。本資料に基づく投資決定、経営上の判断、そ
の他全ての行為によって如何なる損害を受けた場合にも、弊行ならびに原資料提供者は一切の責任を負いません。実際の
適用につきましては、別途、公認会計士、税理士、弁護士にご確認いただきますようお願いいたします。
・本資料の知的財産権は全て原資料提供者または株式会社三菱東京 UFJ 銀行に帰属します。本資料の本文の一部または全部
について、第三者への開示および、複製、販売、その他如何なる方法においても、第三者への提供を禁じます。
・本資料の内容は予告なく変更される場合があります。
~本レポートに関するアンケートも実施中~
(回答時間:10 秒。回答期限:2016 年 8 月 25 日)
https://s.bk.mufg.jp/cgi-bin/5/5.pl?uri=ia7tWh
8