釈明書(2)

平成28年(行ケ)第3号
地方自治法第251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事
件
原
告
国土交通大臣
石
井
啓
一
被
告
沖 縄 県 知 事
翁
長
雄
志
釈明書(2)
平 成 28 年 8 月 10 日
福岡高等裁判所那覇支部民事部ⅡB係
御中
被告訴訟代理人
弁護士
竹
下
勇
夫
同
加
藤
同
松
永
和
宏
同
久
保
以
明
同
仲
西
孝
浩
同
秀
浦
由紀子
同
亀
山
聡
裕
被告指定代理人
謝
花
喜一郎
池
田
竹
州
金
城
典
和
城
間
正
彦
玉
寄
秀
人
新
垣
耕
神
元
愛
城
間
恒
司
山
城
智
一
川
満
健太郎
山
城
正
大
城
和華子
島
袋
均
桃
原
聡
奥
平
勝
昭
吉
元
徹
成
宮
城
勇
治
也
永
山
多良間
正
一
弘
中
村
當
銘
勇
矢
野
慎太郎
桑
江
隆
知
念
宏
忠
崎
枝
正
輝
神
谷
大二郎
具志堅
猛
洋
太
介
本 書 面 に お い て は 、 平 成 28 年 8 月 3 日 付 け で 裁 判 所 か ら 示 さ れ た 釈 明
事 項 の う ち 、 1 (5 )に つ い て 回 答 す る も の で あ る 。
1
釈明事項
国地方係争処理委員会の決定に基づき協議を申し入れているのであ
り、不作為の違法はないとの主張は、是正の指示に係る措置を講じる
のに相当な期間が経過していないから不作為の違法はないという趣旨
か
2
回答
そのような趣旨を含む。
3
回答の理由
(1)はじめに
原 告 は 、 地 自 法 251 条 の 7 第 1 項 に 定 め る 「 相 当 の 期 間 」 は 、 行 政
事件訴訟法における不作為の違法確認の訴え(行政事件訴訟法3条5
項)における「相当の期間」と同様の趣旨と解されるとしているが、
このように解する根拠は明らかではない。
すなわち、行政事件訴訟法第3条第5項に基づく不作為の違法確認
訴訟は、国民が自らの法律上の利益が侵害されたことを理由として、
行政庁の不作為においても迅速な救済を可能とする趣旨に出たもので
あ る 。 こ れ に 対 し て 、 地 自 法 251 条 の 7 第 1 項 に 基 づ く 不 作 為 の 違 法
確認訴訟は、是正の要求や是正の指示といった国の行政的関与の実効
性確保のための一手段にすぎないものである。
「不作為の違法確認訴訟」
という名称は同じであっても、その制度趣旨は全く異なる。このよう
に 、制 度 趣 旨 が 異 な る に も か か わ ら ず 、
「 相 当 の 期 間 」は 同 様 の 趣 旨 で
1
ある、という原告の主張の根拠は不明である。
以 下( 2 )な い し( 4 )に お い て は 、仮 に 、原 告 が 主 張 す る よ う に 、
地 自 法 251 条 の 7 第 1 項 に 定 め る 「 相 当 の 期 間 」 が 、 行 政 事 件 訴 訟 法
第3条第5項に定める「相当の期間」と同趣旨であると解したとして
も 、本 件 に お い て は 、
「 相 当 の 期 間 」が 経 過 し て い な い こ と 及 び「 相 当
の期間」を経過したことを正当とするような「特段の事情」も認めら
れることを述べる。
( 5 )に お い て は 、地 自 法 251 条 の 7 第 1 項 に お け る「 相 当 の 期 間 」
と 「 不 作 為 の 違 法 」 の 認 定 の 関 係 に つ い て 述 べ 、 地 自 法 251 条 の 7 第
1項に基づく不作為の違法確認訴訟と行政事件訴訟法第3条第5項に
基 づ く 不 作 為 の 違 法 確 認 訴 訟 と の 間 で「 相 当 の 期 間 」と も 関 連 し て「 不
作 為 の 違 法 」 の 認 定 の 観 点 が 異 な る こ と を 明 ら か に し 、( 6 ) に お い て
は 、被 告 に お い て 、地 自 法 251 条 の 7 第 1 項 に お け る「 不 作 為 の 違 法 」
が認定できないことを述べる。
さ い ご ( 7 ) に お い て は 、 原 告 に よ る 地 自 法 251 条 の 7 に 基 づ く 不
作為の違法確認訴訟における「不作為の違法」の解釈は明確な誤りで
あることを述べる。
(2)原告の定めた期間に相当性がないこと
行政事件訴訟法第3条第5項における「相当の期間」については、
「当該処分または裁決の種類、性質、内容、それがされた具体的事情
等により異なるので、行政庁が申請に対し当該処分または裁決をする
のに通常必要とする期間を基準として当該事案の具体的事情に応じ個
別的に判断すべきものであるが、行政庁が上記通常必要とする期間を
経過した場合であっても、その期間の経過を正当とする特段の事情が
あるときは、その行政庁の不作為は違法たることを免れると解されて
い る ( 東 京 地 判 昭 39・ 11・ 4 行 集 15 ・ 11・ 2168)
2
そして、法令により、行政庁が処分または裁決をすべき期間が定め
られている場合、法定の期間の定めの存在およびその内容は「相当の
期間」の判断に当たり重要な考慮要素になると解される。もっとも、
そ の 法 定 の 期 間 で さ え も 、そ の 期 間 が そ の ま ま「 相 当 の 期 間 」と な り 、
当該法定の期間の経過が直ちに「相当の期間」の経過となるものでも
な い( 南 博 方 ほ か 編 著「 条 解 行 政 事 件 訴 訟 法
第 4 版 」92 頁・93 頁 )。
本件における「相当の期間」は、原告が一方的に定めた期間であっ
て、法定の期間ではない。そして、原告が定めた1週間という期間に
ついての相当性もない。
原告は、
「 本 件 取 消 処 分 の 取 消 し は 、被 告 が す で に し た 取 消 処 分 を 取
り消す旨の処分をするものにすぎず他に本件において長時間を要する
法律行為又は事実行為をすべき事情は見出し得ないこと」から、是正
の指示到達の日の翌日から起算して1週間という期間が、本件指示に
係る措置を講じるために相当な期間であることは明らかと主張する。
しかしながら、このような原告の主張は、地方公共団体は、国から
の 関 与 に 盲 目 的 に 従 え と 言 う に 等 し く 、到 底 了 解 で き る も の で は な い 。
地方公共団体は、自主的・総合的に地方における行政を行う権限と責
任を担っている。国から、法定受託事務について、是正の指示があっ
た場合、地方公共団体の行政庁は、この権限と責任のもと、当該是正
の 指 示 が 、 地 自 法 245 条 の 7 第 1 項 に 定 め る 是 正 の 指 示 の 要 件 を 充 足
す る か 、是 正 の 指 示 の 理 由 に 照 ら し 、慎 重 に 判 断 し な け れ ば な ら な い 。
そして、地方公共団体の行政庁が、もし、当該是正の指示について、
地 自 法 245 条 の 7 第 1 項 に 定 め る 是 正 の 指 示 の 要 件 を 充 足 し な い と 考
える場合には、当該是正の指示に不服があるとして、国地方係争処理
委 員 会 ( 以 下 「 係 争 委 」 と い う 。) へ の 審 査 申 出 を 検 討 し な け れ ば な ら
な い の で あ る 。こ の よ う な 慎 重 な 判 断 に 要 す る 相 当 な 期 間 が 、
「1週間」
3
というのは、到底考えられない。
ましてや、原告による本件是正の指示については、係争委にて、3
か月にわたる充実した審査を経ても、違法であるか違法でないかの結
論 が 出 な か っ た も の で あ る 。こ の こ と か ら し て も 、
「 1 週 間 」と い う 期
間の不相当性は明らかであると言わざるを得ない。
(3)本件における「相当の期間」
本件における「相当」性は、原告及び被告が、真摯に協議して相互
の了解が得られるのに十分な期間と解する。係争委による決定も、こ
のような趣旨であると考える。そして、いまだ、原告と被告との間に
おいては、真摯に協議して相互の了解が得られるのに十分な期間が経
過していない。
し た が っ て 、本 件 に お い て は 、「 相 当 の 期 間 」が 経 過 し て い る と は い
えない。
(4)本件には「特段の事情」も認められること
仮に、
「 相 当 の 期 間 」が 経 過 し た と さ れ る 場 合 に お い て も 、本 件 に お
い て は 、 以 下 の 通 り 、「 特 段 の 事 情 」 も 認 め ら れ る 。
まず、本件においては、被告による取消処分について、処分の相手
方、紛争当事者である沖縄防衛局自身が取消訴訟を提起していない。
このように、紛争の当事者が争う姿勢を示していないにも関わらず、
国土交通大臣が関与できるのか、是正の指示を出し得るのか、極めて
疑問であって、この点について、慎重に確認するための期間が必要で
ある。
次 に 、 以 下 に 述 べ る 理 由 か ら 、 本 件 是 正 の 指 示 が 、 地 自 法 245 条 の
7第1項に定める是正の指示の要件充足性において不明な点が多いこ
とである。
被告は、仲井眞前知事が行った承認処分について、公有水面埋立法
4
( 以 下 「 公 水 法 」 と い う 。) に 基 づ く 法 律 的 瑕 疵 が な い か 、 第 三 者 委 員
会を設置して、検討することとした。第三者委員会は、設置から約6
か月を経て、本件承認出願については、公水法の承認の要件を充たし
ておらず、これを承認したことについては、法律的瑕疵があるとの結
論に至り、その旨記載された「検証結果報告書」を被告に提出した。
被告は、この検証結果報告書を受けてさ
らに検討し、本件埋立承
認出願については、公水法第4条1項第1号及び同項2号の要件を充
足 し な か っ た も の と 判 断 し た 。そ し て 、平 成 27 年 10 月 13 日 に 、被 告
は、国が求めた行政手続法に基づく聴聞手続を経た上で、本件承認取
消処分を行ったものである。このように、被告においては、極めて慎
重な経過を経て、本件埋立承認出願について、公水法における承認の
要件該当性を検討し、承認取消処分まで至った。
一方、原告による是正の指示についての経緯をみると、原告は、本
件是
正 の 指 示 に 先 立 ち 、平 成 28 年 3 月 7 日 付 け「 公 有 水 面 埋 立 法
に 基 づ く 埋 立 承 認 の 取 消 処 分 の 取 消 し に つ い て( 指 示 )」を も っ て 同 月
8 日 (「 是 正 の 指 示 」
の 被 告 へ の 到 達 日 ) に 、 地 自 法 245 条 の 7 第 1 項 に 基 づ き 、 是 正 の
指示を行った。しかしながら、当該是正の指示の理由に係る具体的
な 記 載 内 容 は 、「 貴 職 の 行 っ た 取 消 処 分 は 、 法 第 42 条 第 1 項 及 び 第
3 項 並 び に 法 第 4 条 第 1 項 に 照 ら し 、 地 方 自 治 法 ( 昭 和 22 年 法 律 第
67 号 ) 第 245 条 の 7 第 1 項 に 規 定 す る 都 道 府 県 知 事 の 法 定 受 託 事 務
の処理が法令の規定に違反していると認められるときに当たりま
す 。」 と い う も の で あ っ た 。 適 用 法 条 の 適 示 の み が な さ れ 、 当 該 法 条
の適用の原因となった具体的な事実関係および事実に対する法条の
適 用 関 係 の 適 示 は 一 切 な さ れ て い な い も の で あ っ た 。結 局 、原 告 は 、
平 成 28 年 3 月 16 日 付 け 、 国 水 政 第 101 号 を も っ て 、 当 該 是 正 の 指
5
示を自ら取消したが、このような経緯から、原告においては、極め
て拙速な判断のもと、是正の指示が発出されたことが疑われた。ま
た、本件是正の指示の理由をみても、原告は、仲井眞前知事の承認
処分の判断に裁量の逸脱濫用はないこと、仮に、仲井眞前知事の承
認処分に瑕疵があったとしても、取消制限法理に反するということ
を主張するのみで、被告の承認取消処分について、公水法の要件の
観点から、どのように法令違反があるのか、という点について、具
体的に明らかとはなっていない。このような是正の指示の理由を見
る 限 り で は 、 本 件 是 正 の 指 示 が 、 地 自 法 245 条 の 7 第 1 項 に 定 め る
是正の指示の要件、すなわち、本件についていえば「法令の規定に
違反していると認めるとき」という要件充足性について、不明な点
が多いものである。被告においては、この点について、原告との間
で、事実関係を含めて十分に確認する期間が必要であると考えられ
たものである。
な お 、 岡 田 正 則 「 地 方 自 治 法 251 条 の 7 第 1 項 の 規 定 に 基 づ く 不
作為違法確認請求事件に関する鑑定意見書」
( 乙 H 10 号 証 )に お い て
指摘される通り、原告は、本件訴訟の直前に行われた国地方係争処
理 委 員 会 で の 審 理 に お い て 、 本 件 取 消 処 分 が 地 自 法 245 条 の 7 第 1
項に定める①「法令の規定に違反していると認めるとき」の要件の
場合と並んで②「著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害して
い る 」の 要 件 の 場 合 に も あ た る と 主 張 し て い た 。す な わ ち 、原 告 は 、
本件取消処分が「違法」とまではいえず「不当」にとどまる場合で
あっても、原告は是正の指示を出すことができるし、現にそのよう
な理由に基づいて本件是正指示を出したのだ、と主張していたので
ある。これに対して、本件訴訟において、原告は、「本件指示は、
地 自 法 245 条 の 7 第 1 項 に 基 づ き 、 本 件 取 消 処 分 が 、 『 法 令 の 規 定
6
に違反』したとしてされたもの」という①要件の場合に該当する旨
の主張をするにとどまり、②要件の場合に該当する旨の主張は断念
したようである。
国地方係争処理委員会での審理における②要件に基づく前述の原
告の主張は、本件取消処分が県知事の裁量権の逸脱・濫用を理由と
する違法をいうものか、あるいはまた本件取消処分が不当にとどま
る場合であっても是正の指示を出しうると主張しているのかは判然
としない。しかし、少なくとも、原告は、②要件だけを根拠として
本件取消処分の取消しを求めていた(国地方係争処理委員会宛提出
の国土交通大臣「再々答弁書」はそのための文書である)。すなわ
ち、原告は、法令違反の判定をなしうる本件取消処分について、そ
れ が ① 要 件 に 該 当 し な い 可 能 性 ̶̶つ ま り 本 件 取 消 処 分 が 法 令 違 反 に
あ た ら な い 可 能 性 ̶̶を 認 め て い た の で あ る 。 本 件 取 消 処 分 が 法 令 違
反に該当しないのであれば、法令違反を理由とする本件是正指示に
県知事が従うべき理由はない。このように、原告自身においても、
「法令の規定に違反していると認めるとき」の要件を充足しない可
能性を認めていたことを改めて指摘しておく。
以 上 の 通 り 、 本 件 に 関 し て は 、「 相 当 の 期 間 」 を 経 過 し た こ と を 正
当とするような「特段の事情」も認められるといえる。
(5)
「不作為の違法」
( 地 自 法 251 条 の 7 第 1 項 )の 意 義 と「 相 当 の 期 間 」
の関係
本件において、原告が主張する「相当の期間」については、相当性
が な い こ と 、ま た 、本 件 に つ い て は 、
「 相 当 の 期 間 」の 経 過 を 正 当 と す
るような「特段の事情」が認められることは、前記(1)及び(3)
で述べた通りである。
以 下 に お い て は 、 地 自 法 251 条 の 7 第 1 項 に お け る 「 相 当 の 期 間 」
7
と「不作為の違法」の認定の関係について述べる。
地方公共団体の不作為に関する国の訴えの提起は、各大臣の「是正
の要求」や「是正の指示」が地自法に定める所定の要件を充たし適法
に行われているので、地方公共団体の行政庁が是正の要求に応じた措
置又は指示に係る措置を講じなければならないにもかかわらず、これ
を講じないという不作為が違法となることの確認を求めるものである。
この不作為の違法の判断の要点としては、第1に、各大臣の「是正の
要求」や「是正の指示」が地自法に定める「法令の規定に違反してい
ると認めるとき、又は著しく適正を欠き、かつ、明らかに公益を害し
ていると認めるとき」という要件を満たしているかということ、第2
に、地方公共団体の行政庁が是正の要求に応じた措置又は指示に係る
措置を講じなければならないにもかかわらず、これを講じていないこ
との認定、第3に、期間徒過があることである、とされる。そして、
期 間 徒 過 に 関 し て は 、 審 査 申 出 期 間 徒 過 ( 地 自 法 251 条 の 7 第 2 項 第
1 号 )、 訴 訟 提 起 期 間 徒 過 ( 地 自 法 251 条 の 7 第 2 項 第 2 号 ) 及 び 未
審 査・勧 告 に 係 る 訴 訟 提 起 期 間 徒 過( 地 自 法 251 条 の 7 第 2 項 第 3 号 )
が掲げられているが、期間徒過ということは、本条における不作為の
違法の重要な要素とされていると解されている。この期間徒過につい
ては、徒過し、又は徒過することにやむを得ない事情があるときにつ
いての規定はないが、訴えの提起があったとき、裁判所は期間徒過の
形式的事実の認定だけで済ませてよいのか、期間徒過にやむを得ない
事情があることを理由として不作為の違法の確認をしないことができ
る の か 、 見 解 が 分 か れ る 余 地 が あ ろ う 、 と 説 明 さ れ た う え で 、「 結 局 、
本 条 の 不 作 為 の 違 法 と い う こ と は 、「 是 正 の 要 求 」 又 は 「 是 正 の 指 示 」
をした各大臣とそれを受けた地方公共団体の間に、法令の解釈やこの
制度に関係する諸事実等の見方などを巡って齟齬が生じており、その
8
ような齟齬を解消する手段として、地方公共団体の行政庁には係争処
理制度の活用やその後の訴えの提起の途が開かれているにもかかわら
ず、それぞれ相応の一定の期間を経過してもそうした対応をせず、か
つ、相当の期間内に是正の要求に応じた措置又は指示にかかる措置を
講じていないという一連のことが故意又は看過し難い瑕疵のあるもの
と し て 不 作 為 の 違 法 が あ る と 評 価 さ れ る も の と 解 す る 。」と 説 明 さ れ て
い る( 松 本 英 昭 著「 新 版 逐 条 地 方 自 治 法 第 8 次 改 訂 版 」1222 頁 ∼ 1223
頁 )。
すなわち、各大臣が一方的に設定した「相当の期間」を単純に徒過
することにより「不作為の違法」が認定されるものではなく、期間徒
過にやむを得ない事情があり、地方公共団体の行政庁による係争処理
制度の活用やその後の訴えの提起についての事情を含む一連の経緯に
照らし、行政庁の対応に、故意又は看過し難い瑕疵があることが認定
で き て 初 め て 、「 不 作 為 の 違 法 」 が 認 定 で き る も の で あ る と 解 さ れ る 。
(6)被告において「不作為の違法」が認定できないこと
詳 細 は 、 被 告 第 1 準 備 書 面 第 3 ・ 1 ・( 3 )( 227 頁 ∼ 228 頁 ) に お
いて述べた通りであるが、被告は、係争委に審査申出をした結果、係
争委は、
「 国 と 沖 縄 県 は 、普 天 間 飛 行 場 の 返 還 と い う 共 通 の 目 標 の 実 現
に向けて真摯に協議し、双方がそれぞれ納得できる結果を導き出す努
力をすること」との審査結果を示した。被告は、最終的には、当該審
査 結 果 に 対 し 、「 不 服 が あ る 」( 地 自 法 251 条 の 5 第 1 項 第 1 号 ) と は
判断せず、国の関与に関する訴えの提起をしなかったものである。そ
して、被告は、係争委によって示された審査結果に基づく本件の解決
の途を開くため、直ちに、原告らに対し、協議の申し入れをしたので
ある。
そうすると、まず、被告が訴訟提起期間を徒過して訴訟を提起しな
9
か っ た の は 、 地 自 法 251 条 の 5 第 1 項 第 1 号 に 規 定 す る と こ ろ の 係 争
委 の 審 査 結 果 に「 不 服 が あ る 」と は 言 え な か っ た の で あ り 、地 自 法 251
条の7第2項第2号に定める訴訟提起期間徒過についてやむを得ない
事情があるといえる。そして、被告が本件解決に向けて係争委へ速や
かな申出を行ったことや係争委の審査結果が出た後に速やかな協議申
入れを行ったという、一連の経緯に鑑みれば、被告の対応に、故意又
は看過し難い瑕疵があると言えないことは明らかである。
( 7 )原 告 に よ る 地 自 法 251 条 の 7 に 基 づ く 不 作 為 の 違 法 確 認 訴 訟 に お け
る「不作為の違法」の解釈は明確な誤りであること
原 告 は 、「「 相 当 な 期 間 」 が 経 過 す る と 同 時 に 不 作 為 は 違 法 と な る と
解される」と主張する。
しかしながら、各大臣が設定した「相当の期間」が経過すると同時
に 、 地 自 法 251 条 の 7 に 基 づ く 不 作 為 の 違 法 確 認 訴 訟 に お け る 「 不 作
為の違法」が認定されるという主張は明確な誤りである。
すなわち、前述の通り、不作為の違法の判断の要点として、期間徒
過 が あ げ ら れ る 。そ し て 、期 間 徒 過 に 関 し て は 、審 査 申 出 期 間 徒 過( 地
自 法 251 条 の 7 第 2 項 第 1 号 )、訴 訟 提 起 期 間 徒 過( 地 自 法 251 条 の 7
第 2 項 第 2 号 )及 び 未 審 査・勧 告 に 係 る 訴 訟 提 起 期 間 徒 過( 地 自 法 251
条の7第2項第3号)が掲げられているが、これらの期間徒過は、本
条における不作為の違法の重要な要素と解されているものである。こ
のように、条文上、法定された期間徒過が認められなければ、地自法
251 条 の 7 に 基 づ く 不 作 為 の 違 法 確 認 訴 訟 に お け る 「 不 作 為 の 違 法 」
は認定しえないのであるから、各大臣が設定した「相当の期間」が経
過すると同時に、不作為は違法となるという、原告の主張は、明確な
誤りといえるのである。
ま た 、 原 告 は 、「「 相 当 の 期 間 」 の 経 過 を 正 当 と す る よ う な 特 段 の 事
10
情がある場合には、当該不作為が違法とならない場合もあり得ると解
さ れ る 。」、「 し か し な が ら 、「 相 当 な 期 間 」 が 経 過 す る と 同 時 に 不 作 為
は 違 法 と な る と 解 さ れ る か ら 、上 記 特 段 の 事 情 は 、
「 相 当 の 期 間 」の 経
過 前 に 生 じ て い な け れ ば な ら な い と い う べ き で あ る 。」 と も 主 張 す る 。
し か し な が ら 、 そ も そ も 、 地 自 法 251 条 の 7 に 基 づ く 不 作 為 の 違 法
確 認 訴 訟 に お け る 「 不 作 為 の 違 法 」 は 、 地 自 法 251 条 の 7 第 2 項 各 号
に定める期間徒過を経過しなければ認定されえないものであるから、
国の行政庁が一方的に設定した「相当の期間」の経過前に特段の事情
が生じていなければならない、という原告の主張には、何ら根拠はな
い。
むしろ、不作為の違法確認訴訟の制度趣旨に照らせば、松本英昭著
「 新 版 逐 条 地 方 自 治 法 第 8 次 改 訂 版 」1223 頁 が 説 明 す る よ う に 、地 自
法 251 条 の 7 第 2 項 各 号 規 定 の 期 間 徒 過 に や む を 得 な い 事 情 が あ る か 、
地方公共団体の行政庁による一連の対応が故意又は看過し難い瑕疵の
あるものとして不作為の違法があると評価されるか否か、といった観
点から「不作為の違法」の認定がなされるべきである。
以上
11