分野材料・プロセス № シーズの名称 半金属元素選択的多糖類系高分子吸着剤の開発 シーズの分野 分離分析化学、錯体化学、環境化学 シーズの保有者 独立行政法人 産業技術総合研究所 九州センター 総括研究員 犬養 吉成 TEL 0942-81-3603 3 基礎素材研究部門 (1)技術の内容 ホウ素、セレン、ゲルマニウム等の半金属元素は水中でオキソ酸またはオキソ酸陰イオンの形で溶存し、低 濃度のこれら化学種の分離・濃縮には技術的困難が多い。本シーズは、一つにはホウ素やゲルマニウムのオキソ 酸イオンが多数個の隣接水酸基を有するポリオール化合物と安定な錯体を形成する特性に着目して、グルコー スを構造単位とするセルロース(以下同じ)やアミノ糖を構造単位とするキトサン等の天然多糖類(以下同じ) を骨格にして適切な官能基修飾を行い、ホウ素及びゲルマニウムのオキソ酸又はオキソ酸陰イオンを選択的且 つ効果的に捕集する吸着剤を開発し、他方、セレン酸と優先的にイオン対を形成するポリアミンの特性を利用 してセルロースやキトサン基本骨格をポリアミン型側鎖官能基で修飾した陰イオン交換型セレン選択的捕集材 を開発したものである。 (2)技術の特徴、特性(作用・効果) ホウ素、セレン、ゲルマニウム等の半金属元素はガラス工業や半導体材料で重用される有用元素であると同 時に、ホウ素、セレンはヒトの健康障害を引き起こす有害元素であり、水質汚濁に係る環境基準に基づいて環 境水への排出が規制されている。これら半金属元素の原料の殆ど全量を輸入に依存している現状を考慮すると、 環境中の低濃度半金属元素の捕集と濃縮は有用物質回収と有害物質除害の両面から重要な技術と考える。 シーズに述べた半金属選択的吸着・捕集材はいずれも吸着飽和した後に被捕集物を可逆的に脱離させて官能 基を遊離型に戻すことが可能であり、繰り返し使用できる。さらに生分解性天然高分子を主鎖とする化学構造 であり、吸着剤の廃棄処理には微生物分解を利用できる点、また焼却する場合においても合成高分子材料のよ うにタール成分を生成しない点で環境負荷が小さいことは優れた特徴である。 (3)技術の用途 有害半金属類として排出規制されているホウ素、セレンを使用する工業、すなわち、耐熱ガラス、断熱材、 メッキ液、着色ガラス、半導体材料等の製造工業、銅や亜鉛の精錬所、石炭を燃料とする火力発電所等からの 排水中のホウ素、セレンの除害処理技術、希少な有用元素のゲルマニウムを使用するPETの合成触媒、光フ ァイバー、蛍光灯やブラウン管の蛍光体等の製造工業の排水からのゲルマニウムの回収・再生技術 (4)製品化、事業化に向けての当該技術の進捗レベル キレスト㈱との共同開発により基材ポリオールに天然セルロースを使用してホウ素、セレン、ゲルマニウム 等の半金属元素の選択的捕集材を開発し、市販されている合成高分子系の従来品よりも高い性能が実証されて いる。 現在はホウ素吸着剤のみが市販されているが、今後は上記共同研究で達成されている吸着性能が新規製品開 発の目標設定の基準になるものと考える。 (5)技術の将来性(将来的な市場など産業への波及効果) 環境中への有害物質排出規制の基準は、排出規制本来の理念とは別に分離分析技術の現行水準に依存すると ころが大きく、分析技術の性能が規制目標水準に追随することを待望している規制項目が少なくない。一方、 有用物質の回収技術は「持続可能な経済成長」の基盤技術として性能向上が不断に要求される。 従って、本シーズ技術は基礎研究と実用化技術の両面で終りの無い性能向上の要求に応えて行かねばならな い宿命を負っている。 (6)技術育成上の課題 現段階では上述以外の半金属元素に対する新規の選択的吸着材の分子設計が喫緊の研究課題と考えられる。 (7)特許等知的財産権の取得状況 セルロースを基材とする吸着材について2件の特許を出願(平成13年度に公開特許)し、またキトサンを 基材とする吸着材について2件の特許を取得(平成10,11年度)した。 (平成 13 年度認定)
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