麻痺が重度で動作ができない方 片麻痺者の身体機能に合わせた、生活

Profile
松本健史
デイサービスで行える生活動作のメニュー
理学療法士/介護支援専門員/
社会福祉学修士
麻痺の状態が把握できたら、デイ利用中に行えるメニューを考えていきましょう。
NPO法人丹後福祉応援団勤務。
2014年に「松本リハビリ研究所」設立。著書に「認知症
介護『その関わり方間違いです!』」(関西看護出版)等
がある。介護従事者向けの「生活リハビリの達人」養成
研修が話題。
● ホームページ『松本リハビリ研究所』
● 研修・原稿の依頼・問い合わせは [email protected] まで 麻痺が重度で動作ができない方
こうしゅく
拘縮の悪化予防
脳血管障害の後遺症で、右の写真のように関節が固まってしまう人がいます。
「この方は関節が固くなってきています。伸ばしてあげたほうがいいのでしょ
今後の連載予定
うか?」これは介護現場でよくある質問です。皆さんはどう考えますか?
9月号 片麻痺のぶん回し歩行・反張膝
1月号 関節リウマチで変形が中等度ある方
10月号 イスに座ると体が傾いてしまう方・仙骨座りになる方
2月号 訓練にやる気がない方・歩けるようになる見込みがないのに歩くための体操ばかりしている方
11月号 変形性の膝関節症で、膝が痛くて立ったり歩いたりしたがらない方 3月号 高齢者で床からの立ち上がりができない方、片麻痺の人で床からの立ち上がりができない方
12月号 パーキンソン病で飲み込みが低下しかけている方
第5 回
勉強会などで聞くと、「伸ばしたほうがいい」と「伸ばさないほうがいい」の
両方の意見が出てきます。
※内容は変更となる場合があります
片麻痺者の身体機能に合わせた、生活動作リハビリメニュー
今回は、脳血管障害で半身に麻痺がある人の生活動作に関するリハビリメニューです。デイサービスで
も生活動作を行う機会はたくさんあります。デイでのケアの中で、その機会を生かして実施できるリハビ
YES派の考え
NO派の考え
どんどん固まっていくのだから
伸ばしたほうがいいと思います
痛みを訴える方もいるので、そっと
しておいたほうがいいと思います
リメニューを考えてみましょう。実施の際には、主治医やセラピストに相談して行ってください。
麻痺の状態を知る ~介護現場での麻痺の評価方法~
脳血管障害の麻痺の場合、まず状態をしっ
状態
評価
かり見ることが必要です。医療分野ではブル
筋肉に力が入らない弛緩(ブラブラ)
した状態
ンストロームステージという分類法があり、
動作ができない
麻痺の程度を上肢・手指・下肢それぞれをⅠ
~Ⅵの6段階で評価します。しかし、生活期
の介護現場では、そこまで細かく分類しなく
てもよいでしょう。目安として、右記の3段
筋肉に力が入り過ぎていて過緊張(カチカ
チ)の状態
共同運動ができる
関節を自分の意志で動かせるが、かなりぎこ
ちなく、実用的な動作はできない状態
分離運動ができる
動きにぎこちなさが減り、実用的な動作が可
能な状態
階で考えてみるとよいと思います。
指の動きの状態は
じゃんけんで分かる!
指の動きの評価方法 麻痺した手でジャンケン
指がうまく使えるかどうかは
「グー」が
できますか?
あか
じゃんけんの指の形ができ
「パー」が
できますか?
できる
るかどうかで、簡易的に麻痺
「チョキ」が
できますか?
できる
できる
の状態を評価することができ
グーパーはできる…共同運動ができる
チョキができる……分離運動ができる
できない
できない
動作ができない
少し手のひらが
開く
ません。悪臭がしたり、爪が手のひらにくい込んで傷つき、化膿する人もいます。こういったことが起こらないよ
うに、清潔を保つためのケアが必要です。
2 関節が曲がった人の更衣動作
ば、ご利用者はもっと大変なはずです。生活動作が行いやすい、あるいは介助がしやすいように関節の変形が進行
できない
共同運動ができる
参照:講談社 新しい介護(一部改編)
126 月刊デイ Vol.200
麻痺して腕や手指が曲がっている方は多くいらっしゃいます。固く握った手のひらには垢がたまり、清潔ではあり
関節が強く曲がり固まっている人の更衣介助は大変です。袖を通すのにも時間を要します。介助者が大変であれ
ます。
まったく動かない…動作ができない
そこで、以下のような生活目線で考えてみましょう。
1 固まった関節は清潔でしょうか?
分離運動ができる
生活動作に大きく影響します。
どちらの意見も一理ありますが、スタッフが生活目線を持つと、さらに視野が広がります。
しないためのかかわりが必要です。
固くなっていく関節は暮らしにさまざまな弊害をもたらします。このように生活目線で考えると、伸ば
した方がよいと考えられます。痛みに配慮しながらストレッチをしていくことが大切です。
Vol.200 月刊デイ 127
現場スタッフに役立つ
デイでできる、固まった関節へのアプローチ(上肢編)
疾患別 リハビリ
デイでできる、固まった関節へのアプローチ(下肢編)
せん そく
固まった関節に対して、関節可動域訓練をみっちり行うことがよいとは限りません。関節を動かす場
合、痛みや精神的な不安を与えるとさらに筋肉が緊張し、固まってしまうことがあります。デイサービス
の日課の中で、介助時を利用して、自然に関節が伸びていくようなストレッチを行うのが理想的です。
誤った手指の伸ばし方
おすすめの手指の伸ばし方
曲がっている手指を伸ばすとき、手首、肘の関節ま
手指を伸ばす場合は肘や手首は曲げて行います。そ
で一緒に伸ばそうとすると前腕の屈筋群がすべて伸
うすることで前腕の屈筋群が緩みます。指の筋肉に
ばされてしまい、大きな負荷がかかって強い痛みを
余裕ができている状態なので、指をしっかり伸ばす
伴うことがあります。
ことができます。
くっ きん
足の尖足は要注意
脳血管障害の後遺症では下肢の関節拘縮も発生します。膝や股関節の拘縮も注意したいですが、足首が
下に向く「尖足」は、日々のデイサービスでストレッチを実施していく必要があります。ひとたび尖足に
なると、「立てない」「座れない」という生活障害が発生します。
尖足改善のストレッチ
① ご利用者はあお向けに寝ます
② 介助者はご利用者のかかとを持ち、その腕に
②
③
つま先を当てます
③ 反対の手でくるぶしを固定して上半身をご利
用者のほうに傾けながら、ゆっくりとつま先
を持ち上げるようにストレッチします
足底を床に着けた移乗
尖足が生じてしまうと、「立てない」と判断され
てしまい、移乗時にしっかり足を地面に着けるよ
うな動作は行わないことが多いです。しかし、足
自分でできる上肢のストレッチメニュー
をしっかり着ける移乗ができる場合は、体を抱え
上げたり、前から持ち上げたりせずに、床に足底
自分で伸ばすことができる場合は、指を組んだり、組んだ手を前方・上方などに伸ばすストレッチを練習する
を着けた立位を大切にした介助を行うべきです。
とよいでしょう。自分で行うと痛みの出ない範囲でストレッチができるため、筋緊張を招かずに実施できま
す。毎日行うことが、関節拘縮の予防にも効果的です。
指を組む
組んだ手を伸ばす↔ 胸に戻す(10回)
斜位
下方に伸ばす(正面位・斜位…各10 回)
同様に上方にも挙上(正面位・斜位…各10回)
長らく入院していた人がデイサービスを利用されることになったときに、注意が必要なことがあ
ります。
じょく そう
それは、治療で安静にしていたために、褥瘡や関節拘縮が発生している可能性があることです。
かんちょう
てき べん
褥瘡、ウロバッグ、胃ろう、摘便、浣腸、上肢・下肢の関節拘縮…、これらはもちろん治療時に生
命を優先した結果、生じた症状や処置です。しかし、治療期間が終わったら、生活の中で治癒して
いけるものもたくさんあります。
こうした病院からの「お持ち帰り」を、生活期には「返品」していけるように、デイサービスで
は考えていくといいと思います。
入院中に尖足になったⅠ氏 退院後、足関節に拘縮が発生していましたが、デ
イサービスで前述のリハビリを実施し、「車イスでは
なく、きちんとイスに座って食事をする」ようにし
た結果、7ヶ月後に尖足が治りました。
ストレッチを行うことで指が開くようになれば、入浴での洗身時に手の
ひら・指の間を丁寧に洗うことができます。開きにくい場合は「おすすめ
の手指の伸ばし方」で紹介したように、肘・手首を曲げた状態で指を開く
と開きやすくなります。
※この方は脳血管障害はありませんが、デイサービスの生活動作
の中で関節拘縮が改善した例として紹介
このような毎日の機能訓練により、QOLを向上していくことができる
128 月刊デイ Vol.200
病院からの「お持ち帰り」にご用心
事例
入浴時の洗身で清潔を保つ
でしょう。
大転子を支えて介助する
ちょっとBreak
正面位
自分では難しい場合は介助
します
足底を床に着ける
手のひらを開いて清潔を保つ
Vol.200 月刊デイ 129