発表概要 - 熊本大学工学部マテリアル工学科

 発表概要
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論文出典
H28 年度熊本大学工学部マテリアル工学科「マテリアル工学演習」
片山雄貴(127-t2709)
Side-illuminatedtip-enhancedRamanstudyofedgephonon
ingrapheneattheelectricalbreakdownlimit
YoshitoOkuno,SanponVantasin,In-SangYang,JangyupSon,JongillHong,
YoshitoYannickTanaka,YasushiNakata,YukihiroOzaki,NobuyukiNaka
AppliedPhysicsLetters108,163110(2016)
【緒言】
グラフェンは優れた電気伝導性を持つことから、回路などのナノ電子デバイス
の材料として有望である。回路へのグラフェンの適用は、高密度電流下での安定
性が必要であるが、グラフェンの高密度電流下での特性はよく理解されていない。
グラフェンのナノ構造解析に有効な tip-enhancedRamanScattering(TERS)測
定は、不透明基板の上でサンプルからスペクトルを得ることができない。そこで、
入射光を横から照射することで不透明基板上での TERS 測定を可能にし、単層グ
ラフェンに高密度電流を加えて生じたマルチ層グラフェンから成るナノスケー
ルな島と周辺の TERS 測定を行い、エッジフォノン分布を明らかにすることで、
どういった変化が起こるのか明らかにすることを目的とする。
【実験手順】
まず、SiO2/Si 基板上に Cu の触媒反応による CVD(化学蒸着)を用いて単層グ
ラフェンシートを作成し、スパッタリングシステムを用いてCr/Pt電極を作成
する。作成したグラフェンに Ar 雰囲気下で、10A/cm(〜3.0×108A/cm2)の高密度
電流を加え、原子力顕微鏡とラマン分光法(AFM ラマン)を利用して空気中のグラ
フェンサンプル上で TERS 測定を行う。また、エッジフォノンの起源を調査する
ために、入射光強度を 100μW から 1mW まで増大させてグラフェンの島、
20nm×1μm 領域において TERS ライン解析を行う。
【実験結果及び考察】
図 1 より、100 倍対物レンズから得たグラフェンと電極の拡大画像と、SiO2/Si
基板の上で分散する島と周辺の単層グラフェンを含んだ領域から測定されたラ
マンスペクトルが見られる。D バンドが広いことから結晶構造の乱れが存在する
ことがわかる。
図 2,3 の測定されたピークを見ると、先行研究[1]より、これらはエッジ構造に
由来し、島が結晶質で欠陥を含んでいると考えられる。島以外では 1530,3341cm-1
でピークが現れ、島と同じ 1530cm-1 に共通してピークが現れていることから、グ
ラフェン表面のいたるところでエッジ構造が広がっていると推測できる。また、
3341cm-1 のピークは、1620cm-1 の D’バンドの 2 倍の共振モードにより得られた
ものと考えられる。G バンドがないにもかかわらずエッジフォノンが現れた理由
は、高密度電流により単層グラフェンに欠陥が誘起されたためである。
エッジフォノンの起源を調査するために、TERS ライン分析を行ったところ、
図 4 に示すようにエッジフォノンと G バンドの両方が観察された。CVD プロセス
の残留したポリマーとの反応により、水素終端したアームチェア構造とジグザグ
構造が生じる。理論計算により、1530cm-1 のピークは、水素終端したアームチェ
ア構造に起因し、同様に 1456cm-1 のピークは、水素終端したジグザグ構造に起因
していると考えられる。アームチェア構造においては、理論的には 1575cm-1 に
ピークが現れるとされているが本研究では 1530 cm-1 に表れている。これらはア
ームチェア構造とジグザグ構造の間で、水素原子と炭素三重結合の反応性が類似
していることを示している。これらの結果より、高密度電流によるジュール加熱
で弾性限界を超えたひずみが生じ、グラフェン表面の炭素結合が引き裂かれたこ
とで、ラインプロフィールの局部的なフォノンとして測定されることがわかる。
また、図 5 に示す島の TERS スペクトル解析で、1133、1210cm-1 と 1346cm-1(Dバ
ンド)でピークが測定された。先行研究[2]から、1133、1210cm-1 のピークは 1456、
1530cm-1 に現れるエッジフォノンに関連している可能性が高いと支持されており、
1456、1530cm-1 のピーク原因が理論計算[2]によって導かれたことで、それぞれに
関連するピークであると結論づけた。エッジ構造を形成する過程において、弾性
限界を超える振動が sp2 対称性を破壊し D バンドを引き起こすことがわかった。
【参考文献】
[1]J.Son,M.Choi,H.Choi,S.J.Kim,S.Kim,K.-R.Lee,S.Vantasin,I.Tanabe,J.Cha,Y.Ozaki,B.H.Hong,I.-S.Yang,andJ.Hong,
Carbon99,466–471(2016).
[2]W.Ren,R.Saito,L.Gao,F.Zheng,Z.Wu,B.Liu,M.Furukawa,J.Zhao,Z.Chen,andH.-M.Chen,Phys.Rev.B81,035412(2010).