超電導 Web21

2016 年7月 26 日発行
超電導 Web21
(国研)産業技術総合研究所TIA推進センター
〒305-8560 茨城県つくば市梅園 1-1-1 中央第1
Tel: 029-862-6122
掲載内容:
トピックス:新たなる超電導研究の展開
内容:
○超電導センシング技術研究組合の研究開発の展望
○産総研におけるこれからの高温超電導線材研究開発の展望
田辺 圭一
和泉 輝郎
特集:超電導センサ・検出器に関する最近の進展
内容:
○超電導センサと検出器の IEC-IEEE 国際標準化活動報告
―超電導センサと検出器の通則発行まであと8ヶ月!―
大久保 雅隆
○有感面積 40 mm2 を可能にする3次元構造超電導トンネル接合アレイX線検出器
藤井 剛、浮辺 雅宏、大久保 雅隆
○超電導トンネル接合(STJ)X線アレイ検出器の微量軽元素分析への応用
志岐 成友、藤井 剛、浮辺 雅宏、北島 義典、大久保 雅隆
事務局から
○ASCOT ホームページに「超電導 Web21」バックナンバーを載せました
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超電導 Web21
〈発行者〉
国立研究開発法人産業技術総合研究所TIA推進センター 超電導 Web21 編集局
〒305-8560 茨城県つくば市梅園 1-1-1 つくば中央第1
Tel: 029-861-5264
Fax:029-862-6048
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2016 年7月号
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トピックス:新たなる超電導研究の展開
超電導センシング技術研究組合の研究開発の展望
超電導センシング技術研究組合理事長
田辺 圭一
超電導センシング技術研究組合(SUSTERA)は高温超電導 SQUID 磁気センサとこれを用いた各
種センシング装置の実用化、事業化を目的とした研究開発を行う技術研究組合として、富士通(株)
、
中国電力(株)
、三井金属資源開発(株)
、
(公財)国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)の4者
を組合員とし、経済産業省の認可を受け本年 2 月末に設立された(本部は ISTEC 超電導工学研究所
日吉研究所、横浜市港北区箕輪町 2-11-19)
。ISTEC はこの 6 月に解散したが、SUSTERA は ISTEC
の SQUID を中心とする高温超電導デバイスに関する技術、設備、人員をすべて承継している。
ISTEC 超電導工学研究所では、高温超電導単一磁束量子集積回路開発で培った酸化物薄膜積層技術
とランプエッジ型ジョセフソン接合作製技術を活用し、2007 年頃より薄膜積層型高温超電導 SQUID
の開発を開始した。薄膜積層型の高温超電導 SQUID 磁気センサは、高温超電導薄膜 1 層と粒界ジョ
セフソン接合を用いた従来の高温超電導 SQUID に比べ数倍高い磁場感度と桁違いに高い磁場耐性を
もつ 1-3)。その優位性は、2009 年度から 2012 年度にかけて独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物
資源機構(JOGMEC)からの委託で三井金属資源開発と共に行った金属資源電磁探査装置実用機
(SQUITEM3 号機、図 1 に示す)の開発において、スルーレート(磁場の時間変化に対する追随性)
や探査深度の向上として実証された 4)。この金属資源探査装置開発の過程では、高周波の電磁ノイズ
を遮断しかつ必要な周波数の磁気信号のみの計測を可能とする実装技術が開発された。また、その後
の経産省、JOGMEC からの委託で行われた、移動しながら地磁気偏差を計測する磁場偏差計開発で
培われたセンサ技術及び実装技術等も加え、高温超電導 SQUID センサは簡易な液体窒素冷却により
野外や非磁気シールド空間で自由に使える技術レベルまで到達している。さらに、JOGMEC 石油部
門からの委託により、石油層に CO2 を注入し採取効率を高める石油増進回収(EOR)において CO2
の油層での拡散挙動のモニタリングをねらいとし、高温 SQUID 磁気センサを地下 2000–3000 m の
坑井中という高圧、高温の極限環境で利用する基盤技術の開発が行われた。図 2 に、JOGMEC 柏崎
テストフィールドで行われた野外試験の様子を示すが、耐圧容器内に実装した SQUID 磁気センサが
坑井中水深約 300 m で安定動作することが実証されている 5)。
図 1. 金属資源電磁探査実用機(SQUITEM3)
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図 2. 坑井用 SQUID システムの試験
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SUSTERA では、ISTEC が JOGMEC から受託してきた資源探査・モニタリング装置開発に加え、
国立研究開発法人 科学技術振興機構から日立製作所や九州大学、豊橋技科大らと共に受託してきた
バイオセンシング装置開発、また岡山大学、
(一財)発電設備技術検査協会らと共に受託してきた橋
梁等の社会インフラ用の非破壊検査装置開発など事業を承継し実施している。磁気センサを用いた渦
電流法などの非破壊検査は、インフラ等に用いられる磁性をもつ鋼材に対しては、渦電流の表皮深さ
が短くなるため、内部欠陥の検出は一般的には難しい。しかしながら、SQUID 磁気センサは低周波に
おいても高い感度を有するため、渦電流が鋼材深く侵入できる低周波励磁での検査を行うことで、鋼
材裏面の亀裂等の欠陥検出が期待される。様々な競合技術がある分野ではあるが、社会的ニーズは大
きく、またプラント配管など産業インフラにも展開することで大きな市場も期待できるので、組合で
の今後の開発の大きな柱の一つに位置づけている。また、資源分野については、金属資源や地熱資源
の探査装置は今後も高性能化に向けた開発が継続されると考えられるが、石油分野に導入されれば大
きな市場が期待できるので、SQUID センシング事業化に向けた2つめの柱として重要視している。
さらに、
資源分野で開発されたセンシング技術は、図 3 に示すように、石油貯留、炭素回収貯蔵(CCS)
、
放射性廃棄物地層処分などのモニタリングや建築・土木分野で重要な地下構造物測定に展開すること
が将来的に期待されるため、基礎的な検討を組合で行っていく予定である。
SQUID センシングの実用化の拡大と事業化には、高温超電導 SQUID 磁気センサの安定供給や低コ
スト化が不可欠である。組合では、日吉研究所において SQUID センサの製造歩留まり向上の検討を
継続しているが、素子構造やプロセスの見直しによる低コスト化、量産化に向けた検討も富士通と開
始している。また、応用システムによっては、SQUID センサの一層の高性能化も必要になってくる。
例えば、図 3 にも示した将来的なターゲットである空中からの資源探査や海中での資源探査システム
では、高バランスの磁場偏差センサの開発が必要になると考えられるが、上記の実用化の拡大への見
通しが得られた段階で取り組んで行きたいと考えている。
図 3. 高温 SQUID 磁気センサの応用ターゲット
参考文献:
1) 田辺圭一, 応用物理 85, No. 4, 279 (2016).
2) S. Adachi et al., IEEE Trans. Appl. Supercond. 21, 367 (2011).
3) A. Tsukamoto et al., Supercond. Sci. Technol. 26, 015013 (2013).
4) T. Hato et al., Supercond. Sci. Technol. 26, 115003 (2013).
5) 波頭経裕, 応用物理 85, No. 8 (2016) 掲載予定.
SUSTERA ホームページ http://www.sustera.or.jp/
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トピックス:新たなる超電導研究の展開
産総研におけるこれからの高温超電導線材研究開発の展望
(国研)産業技術総合研究所 省エネルギー研究部門 和泉輝郎
この度、(公財)国際超電導産業技術研究センターの解散に伴い、RE 系超電導線材の開発に携わ
っていた研究員、装置とともに産総研省エネルギー研究部門に移り、4月より新たな体制で研究開発
を行っております。(図 1、図 2 参照)
これまで、本グループでは、METI 殿、NEDO 殿からの委託による国家プロジェクトを中心に企業、
大学、研究機関の皆様方と協力し、RE 系超電導線材の開発を行い、常に世界の最先端の研究開発を
行ってまいりました。ここでは、配向中間層付き金属基板作製技術における CeO2 層自己配向現象の
発見 1)、PLD 線材における YBCO から GdBCO への転換 2)、MOD 線材の基礎反応機構の解明 3)など、
鍵となる基盤技術を開発してまいりました。これらの成果を長尺線材作製に反映させ、最近では、1
km 長で 500 A/cm 幅(@77 K, 自己磁場)の臨界電流(Ic)を有する線材が可能となり、複数メーカー
より販売されるまでに至りました。これを受けて、機器開発も始められ、多くの機関により、それら
の機能を検証するところまで来ております。一方で、機器開発の進展に伴い、線材に対しては、磁場
中特性や機械的特性、交流損失低減や遮蔽電流制御など、各機器に対する特殊仕様の高度化の要請が
謳われるようになりました。これらの要望に対しても、PLD 線材で有効な人工ピン止め点材料
(BaHfO3)4)を見出すとともに、これに EuBCO 超電導材料を組み合わせることで磁場中高 Ic(例:
500 A/cm 幅@65 K, 3 T)を実現することに成功しました 5)。一方、MOD 線材に関しては、中間熱処
理法の開発 6-8)などにより BaZrO3 ナノ粒子の微細分散に成功し、最近では気相法に匹敵する高い磁場
中 Jc を得ています。何れも世界最高レベルの特性であります。また、低交流損失低減及び遮蔽電流制
御を目的とした、スクライブ線材開発では、世界で唯一 100 m 級の長尺分割線の加工に成功し、線材
のみならずコイル形状においてもその効果を実証しています 9-13)。
上述の通り、線材開発は順調に推移し、機器開発が進められている一方で、中々、本格的な実用化、
社会実装に至る成功例を世に出すことができていない現実が目の前にあります。
新たに始動した産総研での線材開発部隊としては、目前の課題克服を目指した低コスト化に資す
る技術開発とともに継続した高性能化を推し進める予定です。また、高性能線材を長尺で作製可能な
能力を有している強みを活かし、より競争力があり魅力的な高温超電導機器の開発をユーザーや電機
メーカーと協力して仕掛けていければと志しているところです。
いずれにしても、我々の使命は、これまでの技術を継承、発展させ、産総研が掲げる目的基礎及び
橋渡し研究を推進し、高温超電導技術を未来につなげる事だと考えております。
参考文献:
1) T. Muroga, H. Iwai, Y. Yamada, T. Izumi, Y. Shiohara, Y. Iijima, T. Saitoh, T. Kato, Y. Sugawara, T.
Hirayama, Physica C 392–296 (2003) 796–800
2) Y. Yamada, K. Takahashi, H. Kobayashi, M. Konishi, T. Watanabe, A. Ibi, T. Muroga, S. Miyata, T.
Kato, T. Hirayama and Y. Shiohara, Appl. Phys. Lett. 87 (2005) 132502
3) T. Honjo, Y. Nakamura, R. Teranishi, J. Shibata, T. Izumi, Y. Shiohara, IEEE Trans. Appl.
Supercond. 13 (2003) 2526–2519
4) H. Tobita, K. Notoh, K. Higashikawa, M. Inoue, T. Kiss, T. Kato, T. Hirayama, M. Yoshizumi, T.
Izumi and Y. Shiohara: Supercond. Sci. Technol. 25 (2012) 062002(4pp).
5) A. Ibi, T. Yoshida, T. Taneda, M. Yoshizumi, T. Izumi and Y. Shiohara: Phys. Procedia 65 (2015)
121–124
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6) M. Miura, T. Kato, M. Yoshizumi, Y. Yamada, T. Izumi, T. Hirayama and Y. Shiohara: IEEE Trans.
Appl. Supercond. 19 (2009) 3275–3278.
7) K. Kato, M. Miura, M. Yoshizumi, Y. Yamada, T. Izumi, T. Hirayama and Y. Shiohara: J. Electron
Microscopy 59 (2010) S101–S105.
8) K. Kimura, R. Hironaga, Y. Takahashi, T. Nakanishi, T. Koizumi, T. Hasegawa, K. Higashikawa, M.
Inoue, T. Kiss, T. Kato, T. Nakamura, M. Yoshizumi, T. Izumi and Y. Shiohara: IEEE Trans. Appl.
Supercond. 23 (2013) 6601704.
9) T. Machi, K. Nakao, T. Kato, T. Hirayama, K. Tanabe, Supercond. Sci. Technol. 26 (2013) 105016.
10) T. Izumi: Physics Procedia 58(2014) 6–9.
11) H. Okamoto, H. Hayashi, A. Tomioka, M. Konno, M. Owa, A. Kawagoe, F. Sumiyoshi, M.
Iwakuma, K. Suzuki, T. Izumi, Y. Yamada and Y. Shiohara: Physica C 463 (2008) 1731–1733.
12) K. Kumano, D. Moriwaki, M. Iwakuma, K. Funaki, H. Hayashi, H. Okamoto, Y. Gosho, T.
Ohkuma, A. Tagomori, T. Izumi and Y. Shiohara: Physics Procedia 36 (2012) 1109–1114.
13) 町 敬人,中尾公一,吉積正晃,和泉輝郎,田辺圭一,第88回低温工学・超電導学会 3Ba06(2013).
図 1 産総研に移設した PLD 装置群
図 2 産総研に移設した RTR-MOD 焼成装置
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特集:超電導センサ・検出器に関する最近の進展
超電導センサと検出器の IEC-IEEE 国際標準化活動報告
―超電導センサと検出器の通則発行まであと8ヶ月!―
(国研)産業技術総合研究所 エレクトロニクス・製造領域 上席イノベーションコーディネータ
大久保 雅隆
超電導エレクトロニクスデバイスの国際標準化について検討をはじめたのは、2006 年であった。
それから 10 年経過した。国際標準は時間が掛かる。超電導のアナログ応用とデジタル応用の標準化
について検討をスタートしたが、なかなか標準化のネタはなかった。標準化の気運が盛り上がったの
は、その当時注目されつつあった超電導ナノストリップ線を通信波長帯の単一光子検出に用いる検出
器のネーミングに混乱があったことである。超電導単一光子検出器(Superconducting Single Photon
Detector: SSPD)という発明者の命名は、半導体単一光子検出器からの類推として理解できるが、ほと
んどの超電導検出器が単一光子を検出できるので、特定のタイプの超電導検出器の名称としては適切
でなかった。そのタイプの検出器は、X線、電子、イオンにも応用されていた。現在、そのタイプの
検出器は、Superconducting Strip (SS)型と呼ぶ案となっており、単一光子検出の場合には、
Superconducting Strip Photon Detector: SSPD となる。SS 型以外にも数多くのタイプの超電導セン
サと検出器があり、Metallic Magnetic Calorimetric (MMC), Microwave Kinetic Inductance (MKI),
Superconducting Hot Electron Bolometric (SHEB), Superconducting Quantum Interference Device
(SQUID), Superconducting Tunnel Junction (STJ), Transition Edge Sensor (TES)に分類されている。
現在標準発行の2段階前の Committee Draft for Vote (CDV)について各国の意見を聴取している段階
である。
IEC の標準化手順として、まず準備段階では、2010 年のシアトル IEC 会議にて、超電導センサと
検出器の標準化について検討する臨時グループ(ad hoc group 4)の設置を日本から提案して承認され
た。翌年から 3 年間活動して、IEC 本部に提出するオフィシャルな書類として、New Working Item
Proposal (NP)を 2014 年に提出した。反対意見を述べる国はあったものの最終的には承認され、IEC
TC90 WG14 が設置された。僭越ながら私がコンビナとして就任した。WG14 のエキスパートメンバ
ーは現在、6カ国から 12 名が参加している 1)。当初は、IEC-IEEE の協力協定に基づいたダブルロゴ
スタンダードで進める予定であったが、IEEE 側の NP である Project Authorization Request (PAR)の
提出まで至らず、IEC のみのロゴが入った国際標準になると思われる。IEC 国際標準になった後に
IEEE 標準にするプロセスが必要になる。しながら、今まで、公開の IEC 会議や超電導関連国際会議
において、IEC と IEEE のメンバーは密に情報交換をしてきた。IEEE 側のリーダーは、オーストラリ
ア CSIRO の Dr. Cathy Foley である。現在、我々は CDV の段階であり、2017 年4月に超電導エレク
トロニクスデバイスの最初の国際標準となる予定である。今までの経緯については、参考文献 2 と 3
を参考されたい。
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表1.超電導電子デバイス 超電導センサと検出器国際標準化推移
SUPERCONDUCTIVITY – Part 22-1: Superconducting electronic devices – Generic specification for
sensors and detectors
1. New Work Item Proposal (NP):2014 年1月 7 日
2. Working Draft (WD)
3. Committee Draft (CD),:2015 年 6 月 19 日
4. Committee Draft for Vote (CDV),:2016 年 6 月 19 日
5. Final Draft International Standard (FDIS):2017 年1月
6. International Standard (IS):2017 年 4 月
7. Maintenance
CDV には、グラフィックシンボルとして超電導線と常伝導線の境界、ジョセフソン接合が含まれ
ている。その妥当性が、IEC TC3 にて協議されている。SQUID などで古くから使われており、ノー
ベル賞にも値した超電導素子の国際標準記号が今までなかったのは、不思議である。超電導と常伝導
の境界とそれから発展した弱接合としてのジョセフソン接合のシンボルは、説明が合理的である。
現在、次の NP 提案を目指した活動を平行して進めている。まず、最も広く普及している SQUID
を取り上げて、その測定法に関する国際標準化に必要となる項目や要件、国際合意の醸成を目的に、
高温超電導 SQUID の国際ラウンドロビンテストを計画中である。ASC2016 の翌週に開催される IEC
TC90 国際会議の WG14 会合(2016 年 9 月 14 日)にて議論する予定である。また、IEC-IEEE 国際
標準をトピックスの1つとする IWSSD2016 が産業技術総合研究所筑波センターにて 2016 年 11 月
14–17 日に開催される 4)。
参考文献:
1) http://www.iec.ch/dyn/www/f?p=103:14:0::::FSP_ORG_ID,FSP_LANG_ID:10904,25
2) M. Ohkubo, “Introduction to IEC standardization for superconducting sensors and detectors,”
Prog. Supercond. 14, 106 (2012);
http://ocean.kisti.re.kr/is/mv/showPDF_ocean.jsp?method=download&pYear=2012&koi=KIST
I1.1003%2FJNL.JAKO201209857785508&sp=106&CN1=JAKO201209857785508&poid=ks
s1&kojic=CJDHBL&sVnc=v14n2&sFree=.
3) M. Ohkubo, “International Standards for Superconducting Electronic Devices
―Superconducting Sensors and Detectors―,” IEEE/CSC & ESAS EUROPEAN
SUPERCONDUCTIVITY NEWS FORUM, No. 32, April 2015:
http://snf.ieeecsc.org/sites/ieeecsc.org/files/documents/snf/abstracts/ST434%20MOhkubo_IE
C-IEEE_standards_final_032515.pdf
4) 3rd International Workshop on Superconducting Sensors and Detectors (IWSSD2016):
https://unit.aist.go.jp/neri/IWSSD2016/index.html.
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(a) Normal and superconducting line
(b) Superconducting-normal-superconducting line
(c) Josephson junction
図1.提案中の超電導エレクトロニクスのグラフィックシンボル.
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特集:超電導センサ・検出器に関する最近の進展
有感面積 40 mm 2 を可能にする3次元構造超電導トンネル接合アレイX線検出器
(国研)産業技術総合研究所 藤井剛、浮辺雅宏、大久保正隆
超電導トンネル接合(STJ)X 線検出器は、軟 X 線領域の検出器として幅広く用いられているシ
リコンドリフト検出器(SDD)の最高で 10 倍以上高いエネルギー分解能(約 5 eV)を実現してお
り、軟 X 線エネルギー計測が必要な軽元素分析のための X 線検出器として期待されている。一方
で、高エネルギー分解能を維持するために、有感面積となる STJ の大きさは 100 m 角程度に制限
されているため、STJ のアレイ化による有感面積の拡大が行われてきた。我々はこれまでに、世界
最大規模の 100 素子 Nb/Al STJ アレイ X 線検出器を開発し、有感面積約 1 mm2 を実現しているが
1)、これは SDD の有感面積(80 mm2)の約 1/100 であり、分析装置への実用化において大きな問題
となっていた。アレイ数の限界が 100 素子程度であるのは、STJ と出力信号の読み出しに必要な配
線を同じ平面上に作製しているため、アレイ数の増大に伴いフィリングファクタ(STJ アレイ素子
の有感面積を検出器の実面積で割った値)が大幅に低下し、冷凍機に実装可能なチップサイズ(10
mm 角)に STJ アレイが作製出来なくなるためである。そこで我々は、この限界を突破し SDD に
迫る有感面積を実現させるため、配線層を STJ 素子の下層に配置する多層構造を採用し、アレイ数
が増大してもフィリングファクタが小さくならない 3 次元構造 STJ(3D-STJ)アレイ検出器を開発し
た。
3D-STJ アレイの作製は、産業技術総合研究所超伝導アナログデジタルデバイス開発施設
(CRAVITY: Clean Room Analog-Digital Superconductivity) 2) にて全て行った。図 1 に作製した 100 素
子 3D-STJ アレイ素子の顕微鏡画像を示す。各 STJ の配線が STJ 下部に配置されているため、100
m 角の STJ を高密度で 10×10 個配置出来ている。さらに、チップ全体で配線層を非常に高い平坦
性で作製できているため、チップ表面には埋め込まれた配線による段差などは全く見られない。図 2
に 3D-STJ で測定した蛍光 X 線のエネルギースペクトルの一例を示す。蛍光 X 線は、カーボンナノ構
造電子銃とアルミターゲットから成る X 線管を用いて、加速電圧 1.2 kV で発生させた。加速電圧が
アルミの K線の励起エネルギー以下であるため、アルミ表面のコンタミネーションに由来する炭素
の K線(277 eV)及び酸素の K線(525 eV)、アルミ中の不純物である鉄の L線(705 eV)のみが観
測された。また、制動 X 線が 1 keV 付近に連続的に発生している。100 素子中 91 素子が同様のスペ
クトル測定に成功しており、歩留まり(X 線検出器として動作可能な素子の割合)は 91 %、炭素 K
線に対する平均エネルギー分解能は 12 eV であった 3)。これら特性は、同一平面上に作製した従来型
STJ アレイ検出器と同程度である。また、400 eV の単色光に対するエネルギー分解能を評価した結
果、最高で 5 eV、平均で 7 eV であった。
今後、この構造を用いることにより 10 mm 角チップ上に 4000 素子程度のアレイが作製可能 4) で
あるため、SDD に匹敵する有感面積 40 mm2 の 3D-STJ アレイ検出器を開発する。更に、本検出器
の分析装置への実用化を積極的に進める予定である。
参考文献:
[1] M. Ukibe, S. Shiki, Y. Kitajima, and M. Ohkubo, “Soft X-ray Detection Performance of
Superconducting Tunnel Junction Arrays with Asymmetric Tunnel Junction Layer Structure,” Jpn. J.
Appl. Phys., vol.51, no.1R, pp. 010115-1–010115-5, December 2011.
[2] https://unit.aist.go.jp/riif/openi/cravity/ja/index.html
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[3] G. Fujii, M. Ukibe, S. Shiki, and M. Ohkubo, “Development of Superconducting-Tunnel-Junction
Array Detectors with Three-Dimensional Structure Beyond 1000-Pixels,” J. Low Temp. Phys.,
vol.184, no.1, pp.194–199, July 2016.
[4] G. Fujii, M. Ukibe, S. Shiki, and M. Ohkubo, “Development of array detectors with three-dimensional
structure toward 1000 pixels of superconducting tunnel junctions,” IEICE Trans. Electron., vol.E98C, no.3, pp.192–195, March 2015.
図 1.100 素子 3D-STJ アレイ素子の顕微鏡画像
図 2.蛍光 X 線のエネルギースペクトルの一例
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2016 年7月 26 日発行
超電導 Web21
(国研)産業技術総合研究所TIA推進センター
〒305-8560 茨城県つくば市梅園 1-1-1 中央第1
Tel: 029-862-6122
特集:超電導センサ・検出器に関する最近の進展
超伝導トンネル接合(STJ)X線アレイ検出器の微量軽元素分析への応用
(国研)産業技術総合研究所 a、高エネルギー加速器研究機構 b
志岐 成友 a([email protected])、藤井 剛 a、浮辺 雅宏 a、北島 義典 b、大久保 雅隆 a
X線吸収分光法は、各元素の吸収端近傍の吸収率を詳細に測定することにより、結合状態・配位数・
結合距離などを測定する手法である。特に 3 keV 以下の軟X線領域にはあらゆる元素の K, L, M 吸収
端があり、軟X線領域でのX線吸収分光法の研究開発が盛んにおこなわれている。軟X線は透過力が
弱く透過率の測定が困難であるために、透過法の代替として電子収量法や蛍光収量法が用いられる。
バルク材料は蛍光収量法により測定されるが、蛍光X線は測定対象元素以外からも放射されるため、
検出器には高いエネルギー分解能が必要である。たとえば軽元素のK線の分離には 20 eV 以下、遷移
金属元素 L 線の分離には 10 eV 以下の分解能が求められる。また軟X線領域では蛍光収率が極端に低
いので、分光器は高感度でなければならない。従来型の半導体検出器や波長分散型分光器はこのよう
な要求を満たすことができないため、高感度かつ高分解能の分光器として 100 素子超伝導トンネル接
合検出器アレイを搭載した超伝導蛍光収量 X 線吸収微細構造分析装置(S-XAFS 装置)を開発している
(図 1)1)。SC-XAFS 装置は無冷媒式のヘリウム 3 クライオスタット、試料用真空槽、試料交換用ロ
ードロックチャンバー、100 素子超伝導検出器アレイなどからなる。現在使用中の 100 素子超伝導検
出器アレイは有感面積が 1 mm2, エネルギー分解能はアレイ全体の平均として 12 eV である 2, 3)。最
新のデータとしては、最高 4.3 eV のエネルギー分解能が達成されている 4)。これにより半導体検出
器に迫る感度と、結晶分光器と同等のエネルギー分解能が実現される。この高効率を活かして、SCXAFS 装置は、放射光ビームラインにてX線吸収分光に使用されている。現在、利用できるビームラ
インは高エネルギー加速器研究機構放射光施設(KEK-PF)の BL-11A, 11B, 13A, 16A である。これら
のビームラインを用いることで、数十 eV から 5000 eV の軟X線領域全域でX線吸収スペクトルが
測定できる。本稿では SC-XAFS 装置を用いて GaN に含まれる微量 Mg のX線吸収分光を行った例
を紹介する 5, 6)。
GaN はワイドギャップ半導体で、発光ダイオードや、省エネルギーデバイスとして注目されてい
る。GaN を p 型とする場合にはドーパントとして Mg が用いられる。エネルギー消費を抑制するに
は低抵抗化が必要であるが、活性化率が低く抵抗値が十分に下がらないことが課題となっており、ド
ーパントである Mg の結合状態が注目されている。微量元素の結合状態を明らかにするにはX線吸収
分光法が適しているが、Mg の K 線と Ga の L 線が近接しているために、シリコンドリフト検出器な
ど半導体検出器ではエネルギー分解能が不十分であり、高分解能の測定システムが求められていた。
GaN のドーパントである Mg の局所構造解析を実現できるかどうかの試験として、
KEK-PF BL-11A
ビームラインにおいて、S-XAFS 装置による Mg 蛍光 XAFS 測定を行った。BL-11A は、ベンディン
グマグネットを光源とし、回折格子分光器を用いて 70–1900 eV の単色光が得られるビームラインで
ある。図2に GaN:Mg(1020 cm-3)の蛍光 X 線スペクトルを示す。Ga の多数の L 線と、Mg の K 線が
同定された。Mg の K 線だけの蛍光収量を計測できることがわかる。図3に部分蛍光収量による吸収
スペクトル測定例を示す。光量が不足しているため EXAFS の解析は実現できていないが、今後、ア
ンジュレータを光源とする高強度のビームラインを用い、検出器面積を増やすことにより、微量不純
物 Mg の局所構造解析が可能になると考えられる。
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図 1. 超伝導検出器を搭載した軽元素用蛍光収量 XAFS 分光装置
Ga Lα
1,2
Ga Lβ 3,4
Intensity (a.u.)
Intensity (arb.log.)
Ga Lβ 1
Ga LI
Mg Kα 1,2
800
900
1000
1100
1200
1300
1400
1500 1250
1300
1350
1400
1450
1500
Energy (eV)
Energy (eV)
図2.GaN:Mg の蛍光X線スペクトル
図3.GaN:Mg の部分蛍光収量法によるX線吸収
スペクトル
参考文献:
1) S. Shiki, N. Zen, M. Ukibe, M. Ohkubo, AIP Conf. Proc. 1185 (2009) 409.
2) M. Ukibe, S. Shiki, Y. Kitajima, M. Ohkubo, X-Ray Spectrometry 40-4 (2011) 297
3) S. Shiki, M. Ukibe, N. Matsubayashi, N. Zen, M. Koike, N. Kitajima, M. Ohkubo, J. Low Temp. Phys.
176 (2014) 604–609
4) 藤井剛、浮辺雅宏、大久保正隆、超電導 Web21, 本号, pp 9–10 (2016)
5) 川村朋晃, ナノテクノロジープラットフォーム成果報告書(2014 年度)
6) 川村朋晃, ナノテクノロジープラットフォーム成果報告書(2015 年度)
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事務局から
ASCOT ホームページに「超電導 Web21」バックナンバーを載せました
公益財団法人 国際超電導産業技術研究センター(International Superconductivity Technology
Center (ISTEC))は、1988 年の発足以来、我が国における産学官共同の超電導研究所として、数多く
の研究開発に取り組んで来ました。その広報誌として、当初、冊子体の「ISTEC ジャーナル」を刊行
し、2001 年4月からは、ウェブジャーナル「超電導 Web21」に衣替えして毎月発行しておりましたが、
今年6月の ISTEC 解散に伴い、2016 年 2・3 合併号をもって ISTEC による刊行は終了しました。
今年5月のつくば応用超電導コンステレーションズ(Applied Superconductivity Constellations
of Tsukuba (ASCOT))の発足に伴って、ASCOT が「超電導 Web21」を引き継ぎ、5月号、7月号の発
行に至っております。それとともに、過去 15 年にわたって ISTEC が発行した「超電導 Web21」の遺
産を継承するため、このたび、過去のバックナンバーを ASCOT ホームページに載せました
(https://www.tia-nano.jp/ascot/tyoudendou/index.html)
。超電導に関する興味深い記事が数多く
掲載されておりますので、幅広く利用していただくことを期待しております。
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