新・重症度,医療・看護必要度に対応! “厳しい変更”

基準該当患者割合25%!
特集
新・重症度,医療・看護必要度に対応!
“厳しい変更”で要求される病棟管理
2016年度診療報酬改定では,一般病床,特に7対1看護配置(7対1入院基本料)を取得する病棟に
とってはまさに“ドラスティック”な事実を突きつけられました。最大のインパクトは「重症度,医療・看護必
要度」で,完全に急性期の医療を担う病床だけが維持できる要件になっています。国の“7対1あきらめ誘
導”は本気モードです。
本特集では,7対1を維持する,経過措置で様子を見る,10対1の必要度加算を目指すなどそれぞれの方
針の中で,どのように必要度と向き合っていくのかを考えます。要求される重症患者割合25%を維持する
ためのベッドマネジメントや正しく測定するための記録・監査のあり方,新設された「C項目」の評価の仕方
などさまざまな切り口で解説します。
新設評価項目をしっかり取って ∼新設項目評価の
ためのチェック点,
25%超え盤石体制をつくろう! 評価,記録
JCHO四日市羽津医療センター
看護部 看護部長/認定看護管理者
田中敬子
2
1981年大津赤十字看護専門学校卒業,同年大津赤十字病院就職。
1996年社会保険滋賀病院就職。2005年看護師長,2013年副看護部
長に就任。2014年独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)への
移行と同時に,JCHO四日市羽津医療センターに異動し現職。2010年
日本産業カウンセラー資格取得。2010年日本福祉大学福祉経営学部
医療福祉マネジメント学科卒業。2013年認定看護管理者資格取得。
2016年度の診療報酬改定は,2025年,それ
JCHOへの移行を機に,今後のさらなる高
以後のあるべき姿を見据えて,地域包括ケア
齢化に備え,地域ニーズに積極的に応えてい
システムの構築と医療提供体制の構築を目指
くために,2016年度には,7対1入院基本
したものである。すなわち,今後のさらなる
料の4つの病棟の一部から地域包括ケア病棟
高齢社会をどのように乗り切るかがテーマに
とハイケアユニットを開設し,残り3つの病
なっており,次回2018年度の診療報酬・介
棟で7対1入院基本料を継続することにした。
護報酬の同時改定に引き継がれていくことに
現在,病床稼働率82.1%,平均在院日数は
なる。
11.1日,在宅復帰率は96.8%となっている。
医療機関においても,今回の改定だけに焦
このように,医療機能に応じた病棟編成を実
点を合わせて対策を検討するのではなく,
施したことが一つの要因となり,2015年度
2025年,それ以後の外部環境の変化をしっか
の経常収益率は,昨年比2~2.5%の増加を
りと把握した上で対策をしていく必要がある。
実現することができた。
当院は,2014年度に,全国社会保険協会
今回の診療報酬改定では,7対1入院基本
連合会から独立行政法人地域医療機能推進機
料の要求する重症患者割合の基準が25%に引
構(JCHO)に移行した。JCHOの使命は,地
き上げられ,当院の一般病棟において7対1
域医療の牽引役になることである。当院の稼
入院基本料を継続することが可能であるか判
働病床数は195床で,大腸肛門病センターや
断を迫られることになった。当院では,2015
IBDセンターなどに特化した科を持ち,二次
年12月から新基準でシミュレーションを実施
救急体制を運用している急性期病院である。
し,当該病棟に新基準を満たす患者が入院し
ナースマネジャー 看護師長のアクション! Vol.18 No.5
図 ● 当院の入院患者の内訳(2014年DPCデータより)
ているかを慎重に検討した結果,7対1入院
基本料を継続していくことを決断し,院内全
いずれも
該当なし
35%
体で周知を図っているところである。
本稿では,どのようなことを考え決断に
至ったかを振り返ってみたい。
手術あり
54%
救急車
搬送あり
8%
今回の改定では,
一般病棟用の重症度,
医療・看護必要度に注目!
な看護師数を確保しなければ医療・看護の質
診療報酬改定は,医療保険の財政状況を勘
の維持や安全を担保することは難しいと考え
案しながら進められる。そして,高齢化が進
た。そして,それなりの収益を求めていかな
展する今後の人口構造の中では,急性期医療
ければならない。今回の改定では,10対1入
のニーズは減少していくことを予測し,急性
院基本料にさまざまな加算が追加されたが,
期の基準も厳格化されていくことになる。特
段階的に進めるにしても,従来7対1入院基
に今回の改定では,高度急性期,急性期の機
本料で対応していた看護師にとって,10対
能分化に重点が置かれている。DPC以前の出
1入院基本料の看護配置はかなりのストレス
来高時代にできた多くの病院では,今までは
であり,現実的でないように感じる。それを
「急性期の病院をつくったから,急性期の患
覚悟して10対1入院基本料に変更するなら,
者を受け入れます」で良かった。しかし,さ
看護管理者はかなりのマネジメント能力を発
まざまな外部環境の変化から,その地域の
揮しなければならないことが推測される。
ニーズに合った病院や病棟の役割・機能の見
当院では,一般病棟に重症患者や手のかか
直しを求められるようになった。そして,当
る患者が入院しているため,密度の高い看護
該病棟に適応する患者が入院しているかどう
が必要となることからも,経過措置の半年間
かで報酬が決まるようになった。このように
を利用して,提供する医療の内容に見合った
して,ますます機能分化が推進されているこ
7対1入院基本料を届け出るための盤石な体
とがうかがえる。
制を整える必要があると考えた。
今回の重症度,医療・看護必要度(以下,
次に,重症患者割合25%の中身を掘り下げ
看護必要度)の見直しは,救急や手術を評価
て考えてみる。
した内容が多く,2016年4月に地域包括ケア
看護職員の専門性を評価するA項目
病棟を開設している当院にとって,7対1入
まず,看護職員の専門性を評価するA項目
院基本料の病床比で全身麻酔件数・消化器疾
だが,専門的な治療処置の中に,「無菌治療
患の件数が多いことから追い風となった
室での治療」が加わった。無菌室での治療中
(図)
。とは言え,これだけ急性期の基準が厳
には,頻回の訪室や精神的なサポートが重要
放射線療法あり 0%
化学療法あり 3%
格化されれば,余裕で25%をクリアしてい
なことから,評価されたことは大きい。
るわけではない。しかし,該当する急性期の
当院がある四日市市では,「住み慣れた地
患者が一定数入院する当院においては,必要
域で安心して暮らすためには,地域医療が十
ナースマネジャー 看護師長のアクション! Vol.18 No.5
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4
分に整っていることが不可欠である」と考え
フィードバックを受けている。救急車搬送後
ている。それには,誰もが必要な時に必要な
の入院についても漏れがないように,医事
医療が受けられるように,医療提供体制や関
データと照合することが必要である。
係機関との連携体制の整備,救急医療や災害
ADLを評価するB項目
医療など多岐にわたる総合的な取り組みが必
次に,患者のADLを評価するB項目に関し
要であり,地域医療の中でも,とりわけ高齢
ては,
「寝返り」
「起き上がり」
「座位保持」に
化の進展により在宅医療に対する必要性が高
は,高い相関関係があることが分かった。す
まっている。そこで当市は,希望すれば誰も
なわち,寝返りができない患者は,起き上が
が安心して在宅医療を選ぶことができる体制
りも座位保持もできないということから,
「寝
づくりと共に,自宅での療養中に,病状悪化
返り」に集約された。また,「危険行動」と
などで入院が必要になった時,入院がスムー
「診療・療養上の指示が通じる」が新設された。
ズにできる体制づくりに取り組んでいる。
この2項目は,すでにハイケアユニットで用
このような地域医療の整備に,救急搬送の
いられている評価項目で,認知症やせん妄と
受け入れが欠かせない課題となっているのは
関係が強いことが明らかになっていたため,
当市だけではない。今回の改定で「救急搬送」
一般病棟に導入された。
点数が2点となり,加えて酸素吸入が必要で
高齢化の進展に伴って,急性期病棟にも認
あれば基準超え,また,高齢者でADLが悪け
知症の患者が増加し,医療現場で大きな課題
れば,A項目2点,B項目3点の基準超えと
となっていることを受けたものであり,看護
なる可能性も高い。そのため,これら項目の
業務の負担の現状が評価されたものと考える。
追加は,今後増加する「高齢者の救急搬送」を
さらに,今回の改定で新設された「認知症ケ
受け入れる病院を評価したものと考えられる。
ア加算」とリンクするのではないかと考えら
さらに,
「心電図モニター」
「シリンジポンプ」
れる。認知症ケア加算の対象となる患者は,
の2項目は,看護必要度の該当率維持のため
「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」の
に過大評価されているのではと問題視されて
ランクⅢ以上であるが,この対象患者が「危
いたが,そのまま継続されることになった。
険行動」と「診察・療養上の指示が通じる」
しかし,今後DPCの「Hファイル」として
の項目の対象者であると考えると,これも医
データ提出が義務化されることから,データ
事課と協働して判断基準の統一や加算の算定
上これらでA項目2点を満たしている割合が
漏れの対策を検討すると効果的である。
極端に多い病院は,適正な評価の下にデータ
医学的な重症度を評価するC項目
精度の向上が課題になると考える。
今まで,7対1入院基本料の根拠として,
今後,医事データと看護必要度のデータと
看護職員の手間がどれだけ掛かるかを看護必
の整合性は,病院運営に大きな影響を及ぼす
要度から評価していた。しかし,今回の改定
ことも予測される。「過小・過剰」特に過剰
で,医学的な重症度を評価するC項目が新た
評価について,乖離が大きい病院は,指摘を
に加わることで,病棟の機能分化の指標とす
受ける可能性もあるかもしれない。当院で
ることが可能となったと考えられる。
は,医事課でデータを照合し,その結果の
当院では,病床比で見ると消化器系の手術
ナースマネジャー 看護師長のアクション! Vol.18 No.5
表 ● シミュレーション結果による基準超えの内訳(延べ人数)
が多く,腹腔鏡で手術を受けた患者が,A項
目2点かつB項目3点以上を満たすのは,手
術日~1日程度であった。ADLを早期に改善
することが患者のメリットになるのだが,そ
のせいで基準を満たす患者にはならないとい
う矛盾が生じていた。そこで,今回の改定で,
7対1
病棟
A2点
B3点以上
A3点以上
C1点
計
A病棟
279
15
28
322
B病棟
167
103
121
391
C病棟
281
66
1
348
計
727
184
150
1,061
%
20.0%
5.1%
4.1%
29.2%
麻酔や術式・部位ごとに手術日から数日間が
加点され,C項目1点で基準超えの対象とさ
ものと考える。今後は,救急車での入院,手
れることになった。これは,術後数日間は,
術日からのカウントなど週単位の照合が必要
医師の指示の見直しや看護師の訪室も多いと
と考え,4月の新項目によるスタートから,
いう現場の状況を反映し,評価されたものと
1週間ごとの照合を医事課に依頼した。
うれしく思う。そして,正式な通知から「手
漏れがない評価をするには,「A項目での
術日数と内科的処置」の内容が明らかにな
医療行為に対する意識とそれぞれの勤務帯で
り,特に内科処置の循環器や内視鏡治療での
の変化への対応」「B項目では判断基準の統
加点は多くの病院で救いの手になったと思
一,記録」が重要になる。そして,手術記録
う。当院も,これらC項目により4.1%が上
から判断してDPC請求をしているのが医事課
乗せされ,25%を超えるシミュレーション結
であることから,C項目は医事データと照合
果が得られた(表)
。
できる項目である。医事課との連携で漏れが
しっかり漏れがないように
評価する!
ないようにしていきたいと考えている。
当院の看護必要度は,改定以前は,旧基準
維持するための
体制としての工夫
で15%を維持することができれば良いと考
病院全体としては,7対1病棟における重
えていたので,さほど危機感もなく漏れが
症患者割合が25%を達成することが鍵であ
あって過小評価でもやり過ごしてきた感があ
り,当院では,地域包括ケア病棟やハイケア
る。しかし,2015年12月より,新たな基準
ユニットを有効に活用することを検討した。
でシミュレーションを実施すると,やはり看
まず,重症患者割合の分母を下げるための対
護職員全体で看護必要度に対する意識が低い
策として,地域包括ケア病棟へのスムーズな
ことが明らかになり,医事課が作成した資料
移行が必要となる。これは,厚生労働省が7
を基に,看護必要度の重要性を説明するとこ
対1病床を削減するための対策の一つとして
ろから始めた(資料1,2)。筆者は従来から
前回の改定で設けた「地域包括ケア病棟」で
15%をクリアするために,医事課にデータ
あり,厚生労働省のねらいに合ったものであ
照合を依頼し,医事データと看護必要度の
る。DPC点数より高めの点数設定になってい
データの整合性を確認して,現場にフィード
るため,本来は在宅療養を支援するための病
バックをしてもらっていたが,月1回の照合
棟であるが,差額の収益が目的の院内転棟が
であったため日々の意識が薄くなっていった
多い病院が問題視されてきている。当院は,
ナースマネジャー 看護師長のアクション! Vol.18 No.5
5
資料1 ● 看護必要度の重要性を説明するための資料①
7対1を維持するために必要度を上げる
1に統一しなければならない!
*対策1
【まず「分子」
:加点を漏れなく行う】
〈A項目〉
①行為(点滴・モニター・免疫抑制剤など):医事デー
タとの照合
②今回加点の「救急車搬送」をチェック(カルテ記載など)
〈B項目〉
今回加点の「危険行動」「診療の指示」のチェック
〈C項目〉
対象手術のチェックと術日からのカウントを確実に
*対策2
【分母を減らす】
仮に10対1となった場合
*予想年間収益減=1億5千万となる!
1日平均患者数160人×365日×入院基本料差額
(1,591点−1,332点)
×10円=151,256,000円
その対策として,看護師数減or1日入院患者数増加策
がある
看護師数減で1日入院患者数増加策となると,
「看護
師が減った状態で受け持ち患者は増える」
1日入院患者増=平均在院日数が延び単価が下がるた
看護必要度の低い患者を地域包括ケア病棟へ転棟を促進
め,単純に1日入院数を増やせば収益が上がる構造で
→地域包括ケア病棟の運営は「転棟」および「レス
はない
パイト・転院」であるが,今後は「転棟」の割合
(1日150人・単価53,000円=29億円)
をより上げていくことが必要
(1日170人・単価48,000円=29億円)
対策を講じた上での選択
選択①=25%以上を見込んでそのまま7対1+HCU
基準を満たす患者は地域包括ケア病棟へ転棟させない
転院やレスパイトで基準を満たす患者は一般病棟へ入院
選択②: HCUの加算を辞めることで重症患者割合を上
げる
選択①・②で25%が不可能と判断した場合
6
7対1へは,戻せない!
→必要看護師数は1日入院数で決まる
結果,病院として 取らなければならない方向性は!
現状は,シミュレーションで25 ∼ 26%である
あと2∼3%上げる対策が喫緊の課題
【分母の対策】
地域包括ケア病棟の運用
【分子の対策】
*病棟群単位の検討が必要となる
短期的:①A項目を上げる ②救急車→入院患者
2年(10対1へ移行する猶予期間)後に7対1か10対
中期的:手術患者の増加
約6割を地域からの直接入院が占めており,
になってしまう。これは,ハイケアユニット
在宅医療を支援する病棟としての機能を発揮
のスタッフのモチベーションにも大きく影響
していると思う。今後はその機能を維持しつ
すると考える。たとえ,ハイケアユニットの
つ,院内転棟をうまく進めていきたいと考え
加算を算定しないとしても,4対1の看護体
ている。
制は維持していきたいと思っている。
また,分子を上げる対策として,ハイケア
ユニットの患者を,一般病棟の患者としてカ
ヒントと課題
ウントすることも検討した。当院では4床だ
2014年 度 の 改 定 時 に は, 看 護 必 要 度 の
が,入室する患者はすべて重症患者に該当
データを活用し,地域包括ケア病棟の対象患
し,データ上1~1.5%の影響があることが
者数を割り出し,病床数を決め,各病棟の診
分かった。現在,ハイケアユニットの稼働状
療科を割り振りして病棟編成を行った。この
況は50%にも満たないが,医療・看護の質
ように,看護必要度のデータは,病院経営の
の維持や安全を確保する目的で開設したハイ
戦略的データとして有効に活用できるもので
ケアユニットの機能は維持しないと本末転倒
ある。地域包括ケア病棟の開設は,7対1入
ナースマネジャー 看護師長のアクション! Vol.18 No.5
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