フルモデルチェンジを強いられたデイケア その背景を知り、対応策を考える

デイケアの動向と今するべきこと
フルモデルチェンジを強いられたデイケア
その背景を知り、対応策を考える
今回の介護報酬改定で、デイケアは大きな変化
に対応することが必要となった。デイケアでのリ
株式会社メディックプランニング
代表取締役
三好 貴之
ハビリについては、基本報酬への包括化や新設加
算などが目立っている。まずは、どうしてこのよう
な改定になったのかという背景を知り、現在置か
れている状況とこれからのデイケアについて考えて
いきたい。
病院経営コンサルタント、作業療法士。専門は、人材育成・業務改善か
らの経営戦略で、
「人と業績を同時に伸ばす」をモットーに多数の病院・
介護施設のコンサルティングを実践中。セミナーや講演会を開催し、年
間1,000名を超える医師・看護師・PT・OT・介護士など病院・介護施設
の管理者へのマネジメントやリーダーシップに対する指導とアドバイスも
行っている。ホームページは、http://medicplanning.com
現在のデイケアについて
平成 27 年度介護報酬改定が施行され、数ヶ月が
経過したが、いまだにデイケアの改定対策は続いてい
る。それは、今回の改定はデイケアにとって、
「マイ
2. 高齢者の地域における新たな
リハビリテーションの在り方検討会2)
ナーチェンジ」ではなく、リハビリ施設としての「フル
そして、今改定に大きな影響を及ぼしたのが、
「高
モデルチェンジ」だからだ。個別リハは基本報酬に包
齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り
括され、新たに、
「リハビリテーションマネジメント加
方検討会」である。これは、先ほどの高齢者リハビリ
算」が 2 段階となり、特にリハビリテーションマネジメ
テーション研究報告書を受け、今改定でどのような
ント加算Ⅱは、今回の改定の目玉となった。また、生
改定策が必要かを検討した結果、
「ほとんどの通所・
活行為向上リハビリテーション加算や認知症リハビリ
訪問リハビリテーションでは、
『心身機能』に対する機
テーション加算など個別以外のリハビリ項目が新設・
能回復訓練が継続して提供されている実態がある」と
再編され、最終的には社会参加支援加算としてアウ
いう指摘があり、
「生活期リハビリテーションが果た
トカム評価まで出てきた。では、なぜ、デイケアがこ
すべき役割と『心身機能』
『活動』
『参加』のそれぞれの
のようなフルモデルチェンジを強いられたのかという
要素にバランスよく働きかける『高齢者の地域におけ
背景から説明したい。
るリハビリテーションの新たな在り方』
を再整理するこ
とが求められている」とし、特に心身機能維持向上以
1. 高齢者リハビリテーション研究会報告書1)
平成 16 年 1 月に高齢者リハビリテーション研究会
外の、活動と参加のアプローチがより強調された項目
に再編されることになった。
より、
「今後のリハビリテーションの方向性」が示され
た。これによると、旧来のリハビリテーションの提供
3. 地域医療構想策定に関するガイドライン3)
体制に対し、是正を求めるものが多く入った。例えば、
これは直接的に介護保険の領域ではないが、今
急性期リハが不十分であること、医療と介護の連携
後、デイケアの運営には非常に重要な要素であるた
が不十分なことなどである。これらを踏まえ、今後の
め、少し触れておきたい。この地域医療構想とは、
対策として、
「目標や計画に基づかない単なる機能訓
今まで国策として一律的に進めてきた医療政策を「地
練を漫然と実施することがあってはならない」と厳し
域の実情に合わせて」変えていくもので、入院受療率
い指摘を受ける。
この報告書を基に、
リハビリテーショ
や地域の人口動態をかんがみて、必要ベッド数とそ
ンの提供体制は、医療から介護を含め、
「単位制」
「個
の機能を地域ごとに明確にしていこうというものであ
別化」
「 実施計画書」
「 短期集中的」など再編された経
る。すでに、各報道でも取り上げられている通り、
緯がある。
都市圏を除く多くの地域では「病床過剰」との試算が
50 デイの経営と運営 Vol.26 特集 2
生き残るために! デイが今するべきこと
今回の改定での検討
・目標や計画に基づかない単なる機能訓練を漫然と
出され、これから「病床削減」されていくことは間違
実施することがあってはならない
いない。しかし、2025 年に向けて、これから患者数
・ほとんどの通所リハビリで「心身機能」に対する機
自体は増加していくため、各医療機関は、平均在院
能回復訓練が継続して提供されている
日数短縮と病床回転率を上げるなかでの経営を求め
・「心身機能」「活動」「参加」のそれぞれの要素に
られる。
バランスよく働きかける「高齢者の地域におけるリ
ハビリテーションの新たな在り方」を再整理するこ
とが求められる
今改定で明確になったデイケアの役割とは
つまり、これらを踏まえ、今改定にてフルモデルチェ
させるための「受け皿機能」である。
ンジしたデイケアの役割は、大きく3つである。1つ
例えば、筆者の経験では、回復期リハ病棟から在
目は「在宅移行への受け皿 ( 在宅導入のための短期集
宅復帰した患者のなかには、
「自立」と判定されたに
、
2つ目は
「中重度対応」
、
3つ目は
「卒業制度」
中リハ )」
もかかわらず、寝たきりになってしまうケースがある。
である。
その要因は、病院のバリアフリーでかつ 24 時間介助
者がいる状況と、在宅復帰後の段差だらけの家屋環
1. 在宅移行への受け皿
(在宅導入のための短期集中リハ)
境と「転倒させてはいけない」という家族の過大介護
もしくは過小介護によるところが大きい。つまり、病
今回のデイケアの改定項目におけるリハビリ加算の
院で自立した状態=在宅でも自立、ではないのであ
多くは、退院 ( 所 ) 後にデイケアを利用開始して、3 ヶ
る。このような事態を避けるためにも、デイケアは短
月以内ないしは 6 ヶ月以内のものが多い ( 図 1)。これ
期集中的なリハビリを提供し、利用者の在宅生活を
は何を意味するのかというと、医療機関や老健から
軌道に乗せ、安定させるところまで持っていく必要が
在宅に復帰し、在宅生活を軌道に乗せ、さらに安定
ある。
図1
入院・入所期
一般:75%
地域:70%
回復期リハ:60∼70%
療養:50%(加算)
病院
強化型:50%
加算型:30%
老健
在宅導入期 3∼6ヶ月
通所リハ
訪問リハ
短期集中3月
短期集中3月
通所リハ+訪問リハ
通所介護
短期集中3月
生活行為3月
生活行為3月
生活行為6月
生活行為6月
在宅安定期 3ヶ月(6ヶ月)∼
通所
リハ
通所
介護
生活行為算定後の継続は
6ヶ月間−15%
通所
リハ
訪問
リハ
通所
介護
通所
リハ
訪問
リハ
通所
介護
通所
介護
生活行為算定後の継続は
6ヶ月間−15%
※通所介護は支援事業も含む
Vol.26 デイの経営と運営 51
2.中重度対応
次に「中重度対応」である。今改定では、
「中重度
3. 卒業制度
また、今回新たに新設された「社会参加支援加算」
者ケア体制加算」が新設され、要件として、要介護度
であるが、これは一体何なのかを再考してみたい。
3 以上の割合が 30%以上である。今後、医療機関の
本加算の要件は 2 つである、第1に、利用中止になっ
病床削減において、一般病床や療養病床の長期入院
た利用者のうち、地域支援事業や通所介護へ移行し
患者や医療度の比較的軽い患者がどんどん在宅もし
た割合が 5%以上である。第2に、平均利用月数が
くは介護施設へと移行が進んでいくことが予測され
25%以内である。この平均利用月数の計算式は、医
る。そうなると、デイケアには医師、看護師が配置さ
療機関の「病床回転率」とほぼ同じである。つまり、
れているため、このような患者の受け入れ先としては
これは「回転率」の評価であり、これからのデイケア
非常に適切である。
は、永遠に同じ利用者を見続けるのはなく、ある一定
の割合で終了者を出しながら、新規利用者を獲得し
ていく必要がある。
今後のデイケア経営の方向性と対策
以上のように、デイケアは、医療機関や老健からの
高齢者の受け皿として、重症者を含め在宅生活を軌道
算 80 単位で読み替えると、それぞれ 13 単位分、8
単位分に相当する。
に乗せ、安定させる役割となった。以下、筆者がこれ
からデイケアで重要だと思うことに関しての対策をご提
案したい。
2. 中重度者ケア体制加算算定
また、この中重度者ケア体制加算の算定も重要で
ある。筆者は、医療機関や老健内にあるデイケアは、
1. リハビリテーションマネジメント加算Ⅱ算定
ある程度重度対応の施設として機能するべきである
今改定の目玉となったのはリハビリテーションマネ
と思っている。デイケアの中には、訪問看護と連携し、
ジメント加算Ⅱ ( 以下、リハマネ加算Ⅱ ) である。6 ヶ
経管栄養や胃瘻の利用者を受け入れているところもあ
月以内は 1,020 単位、それ以降は 700 単位と非常に
る。本加算が規定するように今後デイケアは医療機
高い単位数が設定された。その分、居宅訪問、リハ
関や老健と連携しながら要介護 3 以上の割合を 30%
ビリ会議など手間は非常にかかる。しかし、今まで
以上に引き上げる必要がある。また、本加算は「体
解説してきた通り、退院直後や重症者の在宅生活を
制加算」であるため、要介護度 3 以上の利用者だけで
軌道に乗せるには、デイケア単体ではなく、多くの専
なく、要介護者全員に算定できるため、収益性から
門職による
「アセスメント機能」
と
「多職種 ( 多事業所 )
も非常にインパクトが大きい。
の協働」が必要だ。
では、現在、どれくらいの割合でこのリハマネ加算
3. 短時間デイケアの導入
Ⅱが算定できているのだろうか。筆者の関係先では、
診療報酬上、医療保険における外来リハの脳血管、
「ほとんど算定できない」もしくは「1 割くらいの利用
運動器リハは、この年度末までとなっている。筆者は
者」というようにあまり算定できていないところが多
現在、3 件の病院で外来リハの短時間デイケアへの移
い。その原因としては、
「医師の同意と説明の時間が
行をコンサルティングしている。また、それに合わせ、
ない」
「リハビリセラピストの居宅訪問ができない」
「他
既存の要支援の利用者も長時間から短時間デイケア
事業所との連携が不十分」などである。このリハマネ
へ移行している。まず、外来リハから短時間デイケア
加算Ⅱ算定のためには、多くの連携体制が必要であ
への移行をすれば収益はアップする ( 図 2)。また、今
り、これを今後、構築していくことが重要である。ま
回、単価が大きく下がった要支援者に対しても短時
た、本加算は、6 ヶ月以内 1,020 単位と 7 ヶ月以降
間化し、午前・午後の 2 単位制で収益減をリカバリー
700 単位で非常に大きい。これを従来の個別リハ加
している。
52 デイの経営と運営 Vol.26 特集 2
生き残るために! デイが今するべきこと
図2
A病院の短時間デイケアの移行シミュレーション
・外来リハ患者(運動器)26%が廃止対象(76人)
・平均月8回利用を想定
・要支援1、2で50%ずつと試算
単価
算定件数
単位数
要支援1
1,647
38
62,586
要支援2
3,377
38
128,326
運動器機能向上加算
225
76
17,100
合計
208,012
外来リハの平均収益
129,394
78,618
収支差
れ、2025 年に向けて、デイケア・デイサービスが「時
4. デイサービスの併設
間区分」による報酬体系から「機能区分」による報酬体
社会参加支援加算の対象施設に、デイサービスも
系への再編が考えられる。そのためにも、デイケア単
含まれている。よって、今後はある一定の割合で利用
体経営から、デイサービスとの連携経営に切り替え、
者を卒業させていく必要がある。卒業後の受け皿を
ある程度、多様な対象者を受け入れるような準備は
自ら作るためにデイサービスを設置することも必要で
必要であろう。
ある。デイケアは、医療法人や社会福祉法人の敷地
内に設置が必要だが、デイサービスはいわゆる「サ
参考文献
テライト」として敷地外に設置が可能だ。図 3 のよう
1)厚生労働省、
『高齢者リハビリテーション研究会報告書』、
平成16年1月.
に、今改定でデイケアとデイサービスの加算要件が
連動した。もしかすると、これがデイケア、デイサー
2)厚生労働省、
『高齢者の地域における新たなリハビリテー
ションの在り方検討会』、平成27年3月.
ビスの統一化に向けた第一歩かも知れないと予測さ
3)厚生労働省、
『地域医療構想ガイドライン』、平成27年3月.
図3
通所リハと通所介護の連携
通所リハ
通所介護
単価の高い利用者(短長期・中重度)
短期時間(1−2)、長時間(6−8)
短期集中個別リハ
社会参加支援加算
幅広い利用者(中長期・軽中重度)
中時間(3−5)
個別機能訓練加算Ⅰ、Ⅱ
認知症短期集中リハ
認知症加算
中重度者ケア体制加算
中重度者ケア体制加算
Vol.26 デイの経営と運営 53